連載小説
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21品目 『悩める青年』
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
「うん、傷薬が切れちゃったから、ちょっと雑貨店まで」
「傷薬? どこか怪我でも…あ、もしかして……あたしのせい?」

リンは気まずそうに問いかけてくる。

「あぁいや、僕じゃないよ。大会のときの傷は大したことなかったし」
「そ、そう。良かった」
「ただ……なぜか、母さんが怪我をしてるんだよね」
「え? お母さんが?」
「腕にいくつか擦り傷があって、あと体中に痣ができてるんだ」
「? 転んだのかしら?」
「それが、何度聞いても理由を教えてくれないんだよ。『仕事部屋から一歩も出てない』の一点張りで……」
「不自然にも程があるわね」
「だよね」

兄妹は互いに顔を見合わせる。

「まぁ、あんまり追及しないであげようよ。母さんには母さんの都合があるんだし」
「う〜ん…それもそうね」

会話が一段落したところで、

「あ、そうだ早く買ってこないと! 母さんうつ伏せで待機させたままだった! 裸で!」
「は、裸!?」
「背中まで手が回らないからーって、僕の目の前で急に脱ぎ始めて……」
「どうして娘のあたしに頼まないのかしら……」
「うん、僕もそう思ったけど……とにかく行ってくるね!」
「あ、うん、行ってらっしゃい。イチカさんによろしく言っておいてよー?」
「伝えておくー」

大会翌日。
相も変わらず平和な日々が続いている。












雑貨店にて。

「あれ? 商品が随分と虫食い状態ですね?」
「昨日はかなり儲けたっすからねー。これでもー頑張って補充したんすよー?」
「なるほど、そうだったんですか。今日は時間がありますから、母さんの治療をした後にでも手伝いに……」
「あー心配いらないっすよー。品出しできる分は全部終わらせたっすからー。残りは発注待ちっすねー」
「あ、相変わらず仕事が早い」
「っすー。だからゆっくりとーお母様の面倒を見てあげるっすよー」
「はい! ありがとうござい……」

バンッ!!

「「!?」」

突然、お店の扉が勢い良く開かれる。

「い、一大事ですわ!」
「ロザリーさん? そんなに慌てて、一体どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもありませんわ!」

ロザリーさんは息を切らしながら、手の中でしわくちゃになった羊皮紙を広げてみせる。

「これをご覧になって」
「これは……」

書かれていた内容は、僕にとって非常に馴染みのあるものだった。

「なんすかなんすかー?」
「ぱっと見た限りでは、現在定められている法律が数項目羅列されているみたいですけど……」
「ファルシロン? あなた、本当に法学を学んでいますの?」
「え?」

ロザリーさんはしっかり見ろと言わんばかりに、羊皮紙の最下に位置する項目を指差す。

「えっと……『配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができる』」


別におかしな箇所はどこにも……ん?

「重ねて婚姻をすることが…………『できる』!?」
「はぁ、やっと気がつきましたわね」
「ぇえ!? ちょ、これって……」

俗に言う、法律の改定。
俗に言わなくても、法律の改定。

「こんな非現実的な芸当ができるのは、もうあの方以外に考えられませんわ」
「あの方、と言うと……」
「あー、お婆様っすねー」

店長の言うお婆様とは、僕とリンの母の母、要するに祖母のことだ。
しかし、祖母は只者ではなく……

「バフォメットって、僕が想像している以上に何でもできるんですね……」
「『覇王』と呼ばれる由縁っすねー」
「恐らくは、あのミセスXとかいうふざけた格闘家が、面白半分に提案したのですわね」
「それが本当なら、確かに愉快犯ということになりますけど……」

ただ優勝した賞品が『何でも願いを叶える権利』とあるならば、その後の結末はその人に依存するわけであり、僕達にどうこうできる問題ではない。
それが法律の改定ならばなおさらだ。

「だからといって、お婆様を責め立てる訳にもいきませんし……」
「あまり気にすることないんじゃないですか?」
「そっすよー。直接うちらにはー関係のない話っすよー」
「まぁ…そうですわね。わたくしも夫を共有するつもりはありませんし」

………。

「ほらほらー、商売の邪魔っすよー? お嬢様は出てった出てったー」
「ま、また邪魔者扱いしましたわね!?」
「………」

僕は、考えていた。
いや……人生で初めて、本気で悩んでいた―――――





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12/11/03 12:31更新 / HERO
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■作者メッセージ
っすノ
次回で遂に最終話……になるかもしれません

逆にならないかもしれませんっ

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