読切小説
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神聖雌豚帝国の野望
 整然と並んだ軍勢は、進撃の時を待っていた。兵の持つ槍は、銀光を放ちながら林立している。騎士を乗せた馬は、寒気の中で湯気を立てながら身震いしている。黄色い地に双頭の黒豚の旗は、風の中で無数翻っている。五万の軍勢は、その力を蒼天の下で誇示しているのだ。
 軍を指揮する皇帝は、高台の上から軍を見下ろしていた。金色の鎧には、数多くの青玉が埋め込まれ、日の光の中で輝いている。金糸で刺繍された赤いマントを、鎧の上から羽織っている。皇帝は、軍勢の前で傲然と胸をそらしていた。
 皇帝は兜を脱いでおり、その顔が見えていた。柔らかそうな顔は女のものであり、肉付きが良く整っている。栗色の髪からは人間よりもはるかに大きな耳が出ている。その耳は、豚の耳にそっくりだ。鎧を脱げば、彼女の尻には細く丸まった尻尾が有ることが分かるだろう。豚そっくりの尻尾だ。
 彼女は、豚の魔物娘であるオークだ。彼女の指揮する兵たちも皆が魔物娘オークだ。彼女たちは、人間たちと戦争をしようというのだ。
「待っておれ教皇よ、必ずやそなたを犯しまくってくれるわ」
 そう皇帝は言い放つと、全軍に進軍を命じた。「神聖オーク帝国」の軍勢は、主神教団領への侵略を開始したのだ。

 かつて古代において「オーク帝国」という国があった。豚の魔物であるオークの築いた国だ。
 オークは、集団行動の得意な魔物であり、悪知恵が働く魔物でもある。単体ではそれほど強くはないが、集団になると大きな力を発揮する。その特性から、オークは巨大な国を造り上げた。それがオーク帝国である。
 その帝国は「パクス・ブターナ」と呼ばれる繁栄を誇ったが、様々な原因が重なって滅びた。そしてオークという魔物も、魔王の代替わりにより変貌を遂げた。他の魔物同様に女へと変貌したのだ。
 だがオークたちは、オーク帝国の栄光を忘れてはいなかった。かつてのオーク帝国の領土の一部を支配して、「神聖オーク帝国」を築き上げた。そしてオーク帝国の栄光を復活させようと企んでいた。
 もっとも、名前負けしている帝国である。オーク帝国の名をかたっても、オーク帝国に比肩することは出来ない国だ。前述したように、かつてのオーク帝国の領土の一部を支配しているだけだ。
 さらに「神聖」などと称しているが、無意味な呼称である。「何が神聖なのか、さっぱり分からん」と、後世の思想家ブヒテールは言っている。
 他国からはバカにされているが、神聖オーク帝国の者たちは大帝国を復活させようとしている。そのために神聖オーク帝国は、くり返し主神教団と戦争を行った。その結果、神聖オーク帝国皇帝の派閥である「皇帝党」と主神教団教皇の派閥である「教皇党」は、大陸中に拠点を造り、抗争を繰り返していた。大陸の人々にシャレにならないほど迷惑をかけているのだ。

「教皇め許さん!今度こそ妾の前にひざまずかせてくれる!」
 神聖オーク帝国皇帝ブヒードリヒ2世は、床に金製のゴブレットを叩きつけながら喚いた。彼女の目は血走り、口からは唾が泡になって飛び散る。
 彼女が怒り狂った理由は、主神教団教皇の演説だ。教皇は、宗教会議の席上で彼女を侮辱する演説を行ったのだ。「教皇は太陽、皇帝は月どころか単なる雌豚」そう嘲り笑ったのだ。
 怒り狂ったブヒードリヒ2世は、直ちに戦争の準備を始めた。
「教皇め、妾の洗っていないマンコで顔ズリをしてくれる!貴様の皮かぶりチンポを、妾のマンコでしごいてくれるわ!」
 そう喚き散らしながら、戦争の準備を始める。
 この罵詈雑言は、密偵により教皇に伝えられた。「私は包茎ではない!この変態雌豚め!」そう、教皇は叫んだそうである。
 ブヒードリヒ2世は、今度こそ主神教団領をすべて占領し、主神教団を滅ぼすつもりだ。大規模な侵略を行うために、大勢の兵士と膨大な物資を用意し始める。
 この大掛かりな戦争に反対する者もいたが、ブヒードリヒ2世はねじ伏せた。帝国で彼女に逆らうことは難しい。帝国内には、力のある諸侯は複数いる。中でも選帝侯は、皇帝を選出するだけの力を持つ。それでもブヒードリヒ2世に逆らうことは難しいのだ。
 ブヒードリヒ2世は、皇帝になると敵を次々と潰していった。中でも、彼女が皇帝になる事を執拗に反対したブヒーア選帝侯は、皇帝によって浣腸責めにされた。こうして、帝国内でブヒードリヒ2世に表だって逆らう者はいなくなったのだ。
 この戦争を可能とする理由は、他にもある。皇帝には強力な味方がおり、その者は皇帝に莫大な金を貸しているのだ。
「陛下、ご依頼通り戦費を調達いたしました。どうぞお納めください」
 金糸で刺繍をしている赤絹の服を着たオークは、皇帝の前にひざまずきながら言った。顔立ちは整っているが、丸っこい顔と派手な服のおかげで道化じみて見える。彼女は、鉱山都市ブヒブスブルグを中心として鉱山業、金融業を営む豪商ブッター家の当主だ。
 ブヒードリヒ2世は、ブッター家当主から証文を受け取る。そこには、戦争を行うために十分な金額が書き記されている。
「でかした!これで主神教団を踏みにじることが出来るぞ!」
 ブヒードリヒ2世は、歓喜を露わにして叫ぶ。
 ブッター家は、皇帝に莫大な戦費を貸すのだ。戦争になれば大量の物資を購入することになるが、その物資を売るのもブッター家だ。戦争で略奪を行えば、ブッター家はその物資を買い取り、あるいは金に両替して手数料を稼ぐだろう。ブッター家は、戦争で大儲けが出来るのだ。
 ブヒードリヒ2世は、ブッター家とは強く結びついている。彼女が皇帝になるための選挙資金は、ブッター家が出した。その礼として彼女は、銀の先買い権をブッター家に与えた。帝国の物資を購入する商人もブッター家となった。
「おぬしは、妾を皇帝にして散々儲けた。戦争が始まれば、さらに儲けることが出来るわけだ。おぬしも悪よのう」
「いえいえ、陛下ほどではございませぬ」
 二人は顔を寄せて、ブヒヒヒヒと笑い合う。
「陛下、こちらに陛下のお好きな山吹色のお菓子を用意しております」
 ブッター家当主は、大人が両手で持つ必要がある大きさの箱を五箱、手で指し示す。そして彼女は、箱を開けて見せる。中には金貨がぎっしりと詰まっていた。これは、戦費とは別にブヒードリヒ2世個人の懐に入ることになるのだ。
「分かっておるではないか!おぬしとは長い付き合いになるのう!」
 神聖オーク帝国の皇帝は、金貨の輝きを見つめながら呵々大笑した。

 ブヒードリヒ2世は、さっそく金貨風呂に入った。金貨風呂は、彼女の最高の娯楽である。浴槽いっぱいに入った黄金色の物に浸かりながら、皇帝は陶然とした表情を浮かべる。
 ブヒードリヒ2世は、教皇領を占領した時のことを妄想する。大陸全土は震え上がるだろう。主神教団を滅ぼすことは、魔王にさえ出来ていないことだ。この快挙により、彼女は大陸最大の君主となるだろう。これを手始めとして大陸を制覇し、他の大陸にも支配を拡大する。そして、オーク帝国を復活させる。そうすれば金剛石の風呂に入ることさえ出来るだろう。
 神聖オーク帝国皇帝は、金色の輝きの中で涎を垂らしながら夢の世界に浸る。雌豚は、黄金の中で夢を見るのだ。
 金貨風呂から上がると、ブヒードリヒ2世は「皇帝の間」へと入った。そこには、金箔で覆われた巨大な彫像が三体鎮座している。いずれも古代オーク帝国の皇帝の彫像だ。帝国初代皇帝である「尊厳者」ブヒタウィアヌス、帝国最大の領土を手に入れた皇帝ブタアヌス、主神教徒の大迫害を行った軍人皇帝ブヒクレティアヌス。これらの皇帝の彫像の前に、ブヒードリヒ2世は立つ。
「神君たちよ、かならずや主神教団領を占領し、教皇に妾のケツの穴を舐めさせて御覧に入れます」
 皇帝は、大君主たちの彫像の前で厳かに誓う。
 こうして、神聖オーク帝国による主神教団領への侵略が始まった。

 神聖オーク帝国の軍は、教団領に向かって進撃した。五万の大軍は、足音を響かせながら行進していく。鎧や槍、剣が硬い音を響かせ、馬蹄が地面を叩く音が交差する。
 犯すぞ!犯すぞ!犯すぞ!犯すぞ!犯すぞ!
 オーク兵たちは、声を合わせながら行軍していく。
 主神教団は、反魔物各国に援軍を要請した。だが、反魔物国の動きは鈍い。彼らは、主神教団と神聖オーク帝国の共倒れを狙っているのだ。主神教団の教皇による各国への介入は鬱陶しい。そして神聖オーク帝国は、存在そのものが目障りだ。反魔物国にとっては、派手にぶつかって双方潰れてくれればありがたいのだ。
 教皇は、神聖オーク帝国の軍を迎え撃つことは無理だと分かり、教団本部のある聖都に引きこもって防衛を固める。これにより、教団領はがら空き状態となった。神聖オーク帝国の軍勢は、抵抗されることなく教団領ブノッサへ侵略する。
 ブノッサへと入ると、神聖オーク帝国軍は略奪、強姦を開始した。独身男を見ると手当たり次第に犯しまくったのだ。
「ヒャッハー!男だ!男がいるぜえ!」
「よりどりみどりだ!犯しまくってやる!」
「オラオラ!さっさとチンポを出せよ!」
 オーク兵たちは、男の服を引きはがし、自分のヴァギナをさらけ出す。そしてブノッサの町という町、村という村で凌辱が荒れ狂った。ブノッサ中に雌オークの怒号と嬌声が響き、人間男の悲鳴がこだまする。
「犯せ!犯せ!犯しつくせ!主神教徒の男どもを蹂躙するのだ!」
 神聖オーク帝国皇帝ブヒードリヒ2世は、笑いながら命令する。彼女は、自分の目論見が上手く行き過ぎて笑いを抑えられなかった。自分を侮辱した人間たちを犯しつくすことが出来たのだ。性臭が立ち込める中で、ブヒードリヒ2世は笑い続ける。
 オーク兵たちは凌辱を散々楽しむと、犯した男を自分のものとした。五万のオーク兵は、五万の人間男を略奪したのだ。ブヒードリヒ2世は、その姿を満足そうに眺める。
「よし!次は教団の本部へ進撃するぞ!教団を滅ぼし、教皇を地に這わせるのだ!」
 そう、ブヒードリヒ2世は命令する。
 だが、オーク兵たちはくるりと背を向けて、祖国のある方へ足を進める。
「お、お前たち、どこへ行くつもりだ!そちらには教団本部は無いぞ!」
 慌てる皇帝に、振り返ったオーク兵たちは答える。
「私たちは男を手に入れたので、もう戦争に参加する必要は無くなりました。全て、陛下のおかげです」
「私たちは、男を連れて故郷に帰りますね。陛下、お疲れさまでした」
 お疲れさまでした!と叫ぶと、オーク兵たちは祖国へと向き直る。そして手にした男を抱えて、それ以上振り返りもせずに帰っていった。
 後には、ブヒードリヒ2世独りだけが残された。

 こうしてブヒードリヒ2世は、雪の降りしきるブノッサを独りさ迷った。軍に捨てられたために、もはや主神教団領を侵略するどころではない。
 魔王軍は、この戦争を傍観していた。戦争の有様について報告を受けた魔王は、「知らんがな」と言ったそうである。親魔物国も戦争を傍観していた。
 この有様を知った教皇は、「無様だな、雌豚!」と笑ったそうである。教皇に笑いものにされた皇帝は、野垂れ死にしそうになりながらさ迷い歩く。歴史書は、この事件を「ブノッサの屈辱」と記している。
 この事件をきっかけに、神聖オーク帝国は三十年間にわたり皇帝が存在しない事態に陥った。この三十年間は、「大空位時代」と後世において呼ばれることになる。

 ブヒードリヒ2世は、雪の中に倒れ込んだ。もはや限界だった。彼女の体は冷え切り、疲労は限界に達している。ここで妾の命運は尽きるのか。そう、雪の中でつぶやく。
 力の尽きた彼女の体を、抱き起す者がいた。彼は、ブヒードリヒ2世を揺さぶりながら声をかける。
「陛下、眠ってはなりません!どうぞ、これをお飲みください」
 ブヒードリヒ2世の口に、革袋の口が付けられる。暖かい飲み物が、彼女の口中に少しずつ注ぎ込まれる。それは、蜂蜜入りの葡萄酒を温めたものだ。力尽きようとしていたオークの体に力が戻ってくる。
「おお、五臓六腑に染みる。生き返るぞ!礼を言う」
 彼女は、自分を救った者を見た。外套の下に黒い神父の服を着ている。皇帝は身を固くする。
「そなたは何者だ?」
「私は、この地で神父をしておりますジュリアーニと申します。陛下の苦境を見過ごすことが出来ずにお助けしました。休息と食事をお取りになってから、どうぞ、お国へお帰り下さい」
 ジュリアーニ神父は、穏やかに言う。
 ブヒードリヒ2世は、神父をまじまじと見つめる。そして、いきなり抱き付いた。慌てる神父に頬ずりをする。
「そなたのような者がいるとは思わなかったぞ!妾を見捨てた薄情者どもとは違う!よし、そなたをブヒーア大司教に任命しよう。ブヒーアの選帝侯にもしてやる。その後で、妾の婿となるのだ!」
 皇帝の言葉を聞き、ジュリアーニ神父は震え上がる。
「お、お待ちください!大司教の任命権は、教皇聖下だけが持っています。それに、ブヒーアの選帝侯はおられるではありませんか。第一、神父である私は結婚できません!」
 ブヒードリヒ2世は、抱きしめながら神父の背を叩く。
「かまわん、かまわん!教皇が何だというのだ。神聖オーク帝国の聖職者は、妾が決める!ブヒーア選帝侯は、どうせケツアクメでイキ狂っている。使い物にならん!そして、これからの神聖オーク帝国では、神父もシスターも結婚出来ることに法改正する。妾が、そう決めたのだ!」
 そう叫ぶと、ブヒードリヒ2世はジュリアーニ神父を抱え、祖国へ向かって力強い足取りで進んで行った。

 こうして神聖オーク帝国皇帝は、主神教団領を手に入れることは失敗した。だが、婿を手に入れることは出来たのである。
17/02/04 23:40更新 / 鬼畜軍曹

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