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第十七話「翡翠」




ミカドの都国にある王城、そこにはこの国を統治する三人の賢者がいる。


ミカド元老院、三賢者の決定は何人にも覆せず、それが神の言葉として民に伝わる。


本来は四人いた元老院だが、現在では様々な騒乱の果てに三人に落ち着いていた。






「・・・修羅人らしき人物が確認されましたわ」


紫の賢者ラフェールの言葉に、青の賢者ウリアは目を見開いた、


「本当か?、千年間奴の存在は確認出来ていない、奴はすでにあの大崩壊で死んだのではないか?」



ICBMによる世界の大破壊からすでに千年以上の月日が過ぎている。



あの攻撃で京都は消滅し、その後にミカドの都国が建国されたのだ。



「否、奴の化け物ぶりは私が一番よく理解しているわ」



赤の賢者ミカ、千年前に賢者の中で唯一修羅人と戦った人物でもある。



「この千年間何をやっていたのかはさっぱりわからないけど、生きていたならば今になって現れたと言われても、うなずけるわ」




ミカはかつて仮初めの肉体とは言え、修羅人の『死亡遊戯』で一太刀で斬り伏せられたことがある。



彼の実力とその潜在能力には、敏感にならざるを得ない。




「ミカ、いつだったか貴女修羅人についてルシファーの関与を疑っていなかったかしら?」


「それはあり得る話しだ、ルシファーは主神さまと敵対する魔王側の堕天使、修羅人を利用し、この機会にミカドの都国を破壊しようとしているのかもしれない」


ラフェール、ウリア、二人の言葉に、ミカは静かに首を振る。



「いえ、今回のやり口はルシファーらしくない、あの姉ならば複数の人間と魔物を煽動するくらいはやりそうね」



「それで、修羅人に対してはどうしますの?」


ラフェールの言葉に、ミカはしばらく沈思黙考をした。



「もし本当に修羅人が現れたのならば、ミカドの都国の秩序の崩壊に繋がりかねないし、万一『奈落』の秘密に気づかれたりしたらことよ」



「・・・良かろう」



ウリアは背中から巨大な翼を広げ、黄金の甲冑を身につけた。




「ならばこの四大天使の一人ウリエルが、修羅人を調伏して見せよう」










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ミカドの都国、城下町の空き家、遮那と真由は一旦そこに身をひそめた。





「ガヴリエルを救い出す、とは言ったが王城の地下牢に、中々侵入できるものではないな」




遮那の言葉に、真由は首を振る。




「確かに正攻法で行けば無理ですが、裏口から入ることが出来る、としたら?」





真由はメモ紙を取り出すと、まるで見てきたかのように詳細な王城と地下牢の地図を書き始めた。




「すごい、いつの間にスパイをしてきたのだ?」


感心する遮那だが、真由はにっこりと笑った。



「ふふふ、アンデットになると、様々な残留思念が読み取れるのですよ?」


真由は地図の端に、鉛筆で印をつけた。



「王城の古い通気口、ここから地下に侵入できます、侵入先は地下倉庫になります」




すっ、と通路に鉛筆で線引き、真由は地下牢の端に丸を描いて見せた。





「おそらく大天使ガヴリエルはここにいるはずです、出来る限り見つからないように行かなければなりませんね」



地図を懐にしまうと、遮那は首を振った。



「どのみちこれしか手はない、やる他ない、な」






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静かな夜、遮那と真由は王城の高い塀を見上げ、目を細めた。



「かなりの高さだ、侵入はかなり難しそうだな・・・」


「ご安心ください遮那さま、この程度の壁、ワイトの魔術を用いれば軽いものです」


真由が軽く手を振ると、遮那の身体はふわりと宙を舞い、そのまま反対側に侵入出来てしまった。



「ううむ、凄いな・・・」



唸る遮那の隣に、真由もまた不時着する。



「いかがでしょうか遮那さま?」


にこりと微笑む真由に対して、遮那は苦笑いした。


「たしかに凄いが、もうなんでもありだな」



アンデット、たしかワイトだったか?、魔物娘とは、本当にマジカルな存在かもしれない。



そこまで考えて、遮那は苦笑していた。


本来ならば魔物は空想にしかいない存在、存在そのものがマジカルであることを忘れていたのだ。



「よし、とにかく道は開かれた、先へ進むぞ」



闇夜に紛れて二人は道を進むと、王城の地面近くにある通気口を見つけた。




「これがそうみたいですね」



事前に用意していた道具で遮那は素早く通気口の蓋を取り外してしまうと、中を覗きこんだ。



どうやら本当に倉庫のようで、いくつか木の箱が並んでいる以外には何もない。



一つ頷くと、遮那と真由は通気口から地下に侵入した。










地下倉庫の扉に鍵はかかっていなかった。


廊下の様子を伺いながら、遮那は真由とともに外へと足を踏み出す。



「・・・見張りがいますね」



地下牢には何人か警邏の見張りがいるようで、廊下を行ったり来たりしている。



警邏はみな、中世ヨーロッパのような鎧甲冑を身につけており、腰には剣を下げていた。



「見つかれば一戦は避けられない、なんとかならないだろうか?」



「それならば良い方法がありますよ」



後ろの倉庫の一つの木の箱の中には、ミカドの都国の衛士の服が入っていた。



「なるほど、木を隠すならば森の中、都国の衛士に化けるわけか」



「はい、どうやらこの国の衛士は『サムライ』と呼ばれ、その統括機関が『サムライ衆』と言うらしいですね」



真由の言葉を借りるならばサムライに化けてガヴリエルを救い出す、というわけか。



「それでは時間も押しています、すぐに着替えましょう」



ばさっ、と真由は遮那が見ている前で服を脱ぎ始めた。



「なっ!、こら待て真由っ!」



「・・・はい?」



一旦手を止め、真由は不思議そうに遮那を見つめた。



「とりあえず、互いに別々の方向を向いて着替えないか?」



「はい?、はあ、遮那さまがそう仰るならば・・・」



何やら怪訝そうな真由だったが、遮那としてはあまり嫁入り前の少女の裸は見たくない。



素早く遮那は青い陣羽織のようなジャケットと、白いズボンを身につける。



「・・・よし、これで良いな」


腰には三津島一佐から渡された虎徹を下げ、見た目だけならば完全なサムライだ。



「はい、私もこれで良いはずです」



真由のほうはズボンではなくスカートだった。


陣羽織のようなジャケットが、真由にはよく似合っている。



「よし、行ってみるか」



サムライの変装をして廊下を歩く遮那と真由、意外なことに正体はバレなかった。



それどころか、真由の人間離れした不思議な色香に惑わされ、協力的なサムライすらいた。



ガヴリエルのいる牢屋は地下牢の中でも最深部、遮那と真由は急いで向かった。








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「・・・誰だい?」


ガヴリエルのいる牢屋は、かなり厳重に守られていた。


何重も重なる鉄の檻に、全面強化された金属で固めらた室内。



そんな中に翠の髪に、複数の純白の翼を持つ大天使ガヴリエルが封じられていた。



その両腕には鉄枷がはめられており、どうやらこの枷がガヴリエルの能力を封じ込めているようだ。




「君はっ!」



ガヴリエルは遮那と真由を見て、目を見開いた。


「そっか、サナトとマユ、またボクを助けに来てくれたんだね?」



また?、どこかでガヴリエルと会っただろうか?



「っと、今はそんな場合じゃないよね?」



ガヴリエルは遮那の右となりにある機械に目を向けた。


「その機械に登録された指紋を認識させれば、牢屋は開くはずだよ」



認識された指紋、どうすれば良い?



「破壊してしまったほうが早いな、真由、ガヴリエル、退いていろ」



修羅人としての力を解放しようと顔の前で両腕をクロスさせた瞬間、凄まじい衝撃に、遮那と真由は吹き飛ばされた。



「・・・とうとう見つけたぞ?」


廊下には大使館の警備員だった褐色の肌の女性、ウリアがいた。



「・・・たしか、ウリア?」



「いや、違う、彼女の真名は四大天使ウリエル、『神の炎』ウリエルだよ」


ガヴリエルの言葉とともに、ウリアはかつてミカがやったように、大天使の本性を現す。


しかし今回は鎧も翼もはっきりと視認できる、ミカエルのときとは違い、どうやら本体のようだ。



「・・・修羅人、貴様はこの私、神の炎ウリエルが天に帰してやろう」




遮那は顔の前で両腕をクロスさせると、修羅人としての力を解放した。



彼の両眼が金色に染まり、その身体に紺色の禍々しい刺青が出現する。



「なんと禍々しい姿、まさに修羅人の名前に違わぬ姿だ」


ウリエルは聖剣を引き抜くと、遮那に向けた。


「行くぞ、神の炎、身を持って知るが良いっ!」


16/08/23 15:24更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんにちは〜、水無月であります。

いよいよ今回は神の炎ウリエルとの戦いが始まり、ガヴリエル救出のために動き出すお話でございました。

ワイトの真由も本格的に絡みだし、物語は佳境へと歩みはじめてまいります。

では今回はこの辺りで。

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