連載小説
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お願い、キ・ス・し・て♪
淡い月明かりに照らし出されたそれはまるで宝石の一粒のように輝いては赤く輝くウロコの上で弾ける。
ぽたぽたと、何度もそれは降り注ぐもとどまる気配を見せない。
まるで雨が降っているかのようだけど、今は月が見えてるし雨雲なんて欠片もない。
これは雨粒じゃない。

涙だ。

あたしが流してる、止められない涙。
「うっ…ふ、くぅ…っ」
嗚咽を交えながらいくつもの涙がこぼれ落ち、弾ける。
何度も拭っているのにとめどなく溢れ出してはぽたぽた落ちる。
泣きたくない。
泣きたくない、のに…。
それでも涙は止まってくれない。
「ふ…ん………ぅっ」
小さい呻き声が唇の間から漏れ出し、誰もいない砂浜で波の音にかき消された。
そう、ここは砂浜。



初めてユウタと出会い、ユウタに口づけをした場所。



本当なら来たいとは思わなかったはずなのに。
それでも今はここくらいしか思い浮かばなかった。
あの二人から一番遠く、誰もいない場所。
ただ一人で存分に泣けるような場所はここだけ。
だから誰もここには来ない。
物珍しそうに見る人も、慰めに来る人も、誰もいない。
ユウタも、来ない。
「…」
当然だ、来るはずがない。
ユウタはあたしの恋人とはいえるわけじゃない、親しい間柄であるだけの人間。
普通の一般人。
どこにでもいる、独り身の青年。
あたしにとってはただ仲がいいだけの猥談友達。
ただ、それだけ。
だというのにあたしの胸は掻き毟られる。
先ほどの光景が脳裏に思い出される。
ユウタが優しそうに笑みを浮かべ、眠ってしまったセリーヌを撫でてていた光景が。
片方の意識はなかったとしても二人寄り添った姿はあたしが夢見ていたもの。


一人の人魚と一人の男のカップル。


だけど違うのはユウタの隣にいるのがあたしじゃないということ。
ずっと欲しかった場所にいるのはあたしじゃ敵わないほど綺麗で女の子らしいシー・ビショップ。
逆立ちしようと勝てない理想の女性。


彼の隣にふさわしい人魚。


「……っ」
再び溢れ流れ出す数多の雫。
拭う気もさらさら失せた。
このまま泣き続けるとずっと泣くことしかできなくなりそう…そんな恐怖と、せめて少しは気を紛らわせたいと思ったあたしは砂浜から離れることにする。


涙を流そうと座っていた砂浜から海へ飛び込もうと腰をあげたその時だった。


「やっと…見つけた」


聞き覚えのある低くも通る声。
遮るものが何もない、波の音しかしない闇夜の砂浜にはその声だけがよく響いた。
「…っ!」
「まったく。一体どうしたんだよ、エレーヌ」
その声にあたしの体はすぐさま反応する。
ユウタから逃げ出すため砂浜から弾け出すように海へと飛び出した。
「あっ!おい待てって!!」
しかし、それ以上に早くユウタが反応してしまう。
あたしが飛び込むよりも先にあたしの腕を掴み取った。
「っ!」
「ほ、ら、よっ!」
男女の力の差は大きい。
それ以上に陸でのメロウ、丘での人間ではあまりにも差が出すぎる。
結果されるがままあたしの体はユウタに引き寄せられた。
「とっとっと、ぉわっ!」
しかし力余ってか力をいれるとすぐに崩れる砂の上だからか、バランスを崩して倒れ込んだ。
ユウタは砂の上に、あたしは、ユウタの上に。
縮まった距離。埋められた隙間。
以前のあたしなら嬉々として近づいていたはずなのに今は近づきたくなかった。
それでも陸にいるから自由に動けない以上仕方ない。
「たたた…まったく、何逃げようとしてんだよ」
「…離してよ」
「離せるかよ。エレーヌ、海に潜ったら追いつけないんだからよ」
「だから、離してよ」
「嫌だ」
「離しなさいよ」
「断る」
そう言いながらもユウタはあたしの背へ腕を回して逃がすまいと強く抱きしめる。
肌から伝わる硬い生地の感触、それを越して感じる硬い筋肉のついた体。
それをどれほど求めていたことか。
どれほど欲してやまなかったことか。
それなのに。
今はその暖かさが恨めしかった。
その優しさが、嫌だった。
「…どうやって…来たのよ…」
回された腕は固く、あたしの体が離れるのを許さない。
仕方なく今はこの状況から逃げ出すために口を開いた。
ユウタはあたしの言葉に得意げに笑みを浮かべる。
「あのテラス、この町を一望できるからここの水路全部見えるんだよ」
それは知ってる。
この港町を知ってもらいたかったからわざわざあの部屋を取ったんだから。
朝は水路が輝き、町全てがきらめく姿は思わずため息を漏らしてしまうほど美しい。
逆に夜は優しい月明かりを反射して輝く建物は幻想的で見蕩れてしまうほど素敵。



―それを好きな男性と一緒に眺めるのがあたしの夢の一つだったんだから…。



「真夜中の水路なんて泳いでるやつ全然いなかっただろ?目立ってたぞ、エレーヌの泳ぐ姿。まぁ、真っ赤なウロコが輝いて綺麗だったし」
「…っ」
時折会話に混ぜられる賛辞。
裏なんてものはない純粋な褒め言葉。
それに今まで何度期待を抱いたことだろうか。
それなのに今は、その言葉も嬉しくはない。

むしろ、苦しい…っ。

「水路を辿った先はよくわからなかったけど、ここかなって思って来てみたんだ」

―ここはオレとエレーヌと、セリーヌさんが出会った場所だから。

そのあとの言葉に当然といわんばかりに付けられたあたしの名前と、彼女の名前。
きっと、好きな女性の名前。
「…ユウタは」
「うん?」
「ユウタは、何で…こんなところに来てるのよ…っ!」
「…………は?」
「何で、来てるのよっ!」
あたしは怒鳴っていた。
ユウタの上にいるというのに下に敷いた体を叩き、感情をただぶつける。
気づけば泣き止んだと思っていた涙が再びこぼれ落ちていた。
したしたと、雨のようにユウタの上に滴り落ちる。
「エレーヌ…」
「何で…何でぇ…ユウタは、セリーヌの事が好きなんでしょ…?彼女の事が…大好きなんでしょ…っ!?」
「…」
「ユウタは、ぁ…っ」
泣いて、泣きながらユウタを叩いてあたしは喚いていた。
もう、やだ…。
あたしはこんなことをしたかったわけじゃないのに。
ユウタと一緒に話をして、できることならそのまま旦那様にしたかったのに。
あたしの、王子様だと思ってたのに。
ぼろぼろ流れ落ちる涙はユウタの顔に降り注ぎ、頬を伝い濡らして砂浜に染み込んでいく。
泣き喚くあたしを前にユウタはただただあたしを見つめるだけだった。
こんな姿見せたいわけじゃなかった。
こんなことを言いたいわけじゃなかった。
もっと別に言いたいことがあったのに。
もっと別にしたいことがあったのに…。



伝いたい気持ちが、あったのに………。



泣き腫らしたあたしの姿は他人に見せられるようなものではなかった。
なのにあたしはすぐ下に倒れているユウタに晒している。
もうどうでもよくなってしまったから。
あたしがどうやっても叶わないと、知ってしまったから。
「…」
しかしユウタはきょとんとした顔であたしを見つめ、逸らして大きくため息をついた。
「…あのなぁ、オレがいつセリーヌさんを好きなんて言った?」
「…ふぇ?」
「そりゃ淑女らしくて優しいし、シー・ビショップなんていうのは初めて見たからすごい気になったけどでも言ってみりゃそれぐらいだろ」
「それ、ぐらい…?」
「そ。それに気になるって言うんなら別のやつがいるしな」
その言葉に一瞬胸が高鳴る。
ユウタの気になる、別の人?
あたしの抱いた疑問の答えを焦らすようにユウタはゆっくりと口にした。
ただし、半目になって。




「なぁ、人が目覚ましてすぐに気絶に追いやった、どっかの誰かさん?」




「っ!!!」
その言葉とともに思い出されるユウタと初めてあったときのこと。
あたしの勝手で意識が戻りかけてたユウタを落としてしまったこと。



あたしがファーストキスをしたときのことだ。



でもあれは…意識が朦朧としていたときのことじゃなかった?
それなら記憶にも残らないんじゃないの?
それなのにどうしてユウタは覚えて…!?
「しっかり覚えてるぞ…伊達に今まで気絶、失神経験してたわけじゃないんだよ、オレは。あんなのもう慣れきってるんだよ」
それはそれで一体どんな生活を過ごしてきたのかとても気になるのだけど今はそれじゃない。
「まったく、衝撃的にも程があるだろ…目覚めの口づけがファーストキスで、その相手が人魚だなんて」
「え…へ…?」
「オレは眠れるお姫様じゃねーんだっていうんだよ…まったく」
ユウタは照れたように頭を掻いてあたしの体をそっと砂浜の上におろした。
柔らかな砂地の上であたしはただユウタを見つめているだけ。
それ以上に何をすべきかわからない。
だってユウタの言葉が信じられなくて。
あの時のことを覚えていたこともそうだけど、あの時のキスが―



―ユウタにとってもファーストキスだったなんて…。



それは正直に言えばとても嬉しい。
だけどそれは一緒に一度しかない大切なものを意識が朦朧としていた最中に奪われたということ。
彼にとってあまりにも屈辱的なことであるに違いない。
「さすがのオレも…思うところがなかったわけじゃないからな?」
「え……?」
「助けられて、キスされて、それでなんやかんやでこの町で世話してもらってるようなもんなんだし…」
あたしは何も言えなかった。
それはユウタの紡ぐ言葉があたしを嫌いと言わないか恐れていたから。
嫌われる、それが怖くて聞きたくない、それなのに口が動いてくれない。
しかしユウタの言葉は徐々に方向性を変えていく。
嫌ってるというよりも、感謝している。
悪い方向よりも、いい方向へと伝わってくる言葉。
自身の顔が熱くなり、赤くなっていくのがわかる。
あたしは期待してるんだ、その先の言葉があたしの望んだ言葉であることを。
待ってるんだ、その言葉が表すものが、あたしの願ったものであることを。
「まったく…オレの気持ちも知らないでなんだよ。セリーヌさんが好き?オレはそんなこと言ってないだろ」
再びまたっくと口癖のように繰り返して彼は恥ずかしそうにあたしあら視線を逸らした。
それでもどこか赤くなっているように見えてしまうのは…あたしの気のせいかしら…?
まるで告白する直前の異性の仕草に見えるのは…見間違いかしら…?
あたしの目に映っているのは…現実かしら?


―ユウタが口にしようとしている言葉が…あたしへ向けた告白と思ってしまうのは…ただの勘違いかしら?


黒髪の彼は何かを言い出そうとしているのだけど踏ん切りがつかずに視線を忙しなく移す
海に、町に、空に、星に、地平線に―


―あたしに…。


「あー…えっと……その………」
喉まで出かかっている言葉を押さえ込んでいるのか、あたしに伝えることを躊躇っているのか言おうとはしない。
迷ってる。
戸惑ってる。
それでも意を決したようにあたしを見つめてユウタは口を開いた。



「オレが好きなのはエレーヌなんだよ…っ」



あたしの一番欲しかった言葉。
あたしが一番求めていた気持ち。

ユウタの口から聞きたかったもの。

でも…。
「…嘘よ、そんなの…………」
「…ここまで頑張って言ったのに嘘呼ばわりかよ…」
でも、あたしはその言葉を素直に信じることができない。
ユウタはぁっと大きくため息をついた。
気が抜けたというように肩から力を抜いて、脱力したように。
その反応は当然のものだろう、ここまで悩み、躊躇ってようやく口にした言葉を嘘と言われでもしたら。
でもあたしはそれを信じるにはあまりにもユウタを知りすぎている。
だって、ユウタは優しいもの。
あたしを傷つけたくないから、あたしを慰めたいからそんな嘘をついてるのかもしれない。
先ほどの様子は嘘をついているようなものではなかったけど…それでも。


―あたしは不安なんだ。


ユウタの気持ちが本当だってわかってても。


―あたしは嬉しいんだ。


まっすぐ見てユウタが好きって言ってくれて。


―あたしは、欲しいんだ。


疑いようもないくらいに真っ直ぐであたしだけを見てるって言葉が。
理想の形で、理想の言葉で。
もっとロマンチックに。
あたしの思い描いたもので。
「そ、そんな言葉じゃ…信じられないわ…」
「…」
「もっと…かっこよく言ってくれないと…もっと―



―王子様みたいに言ってもらわないと…」



それがあたしの夢。
猥談が好き、恋の話が好き、それ以上にあたしは王子様が好き。
本当の王子様が好きなんじゃない、王族でお金持ちの男性じゃない。
あたしだけの王子様が好き
好きでいて、あたしは王子様の隣にいるお姫様になりたかった。
それがあたしの憧れで、あたしの夢だから。
「…仕方ないな」
疲れたように、困ったように、いつものように小さく微笑みながらユウタはそう言った。
言って、あたしの前に膝をたたんで跪く。
次いでそっとあたしの手をとってきた。
下からすくい上げるように、砂中に紛れる宝石を掬いだすように。
優しく、ゆっくりと。
闇夜でもなお際立つ黒い瞳をあたしに真っ直ぐに向けて、その中にあたしを映し出して。
口を開いて、言葉を紡いだ。



「ここに、貴方に恋焦がれていることを証明しましょう、エレーヌ姫」



その言葉とともにあたしの手はガラスを扱うかのようにユウタに優しく包まれる。
壊さないように、柔らかく。
添えるように、暖かく。
そしてユウタは包んだあたしの手の甲にそっと口づけを落とした。


それはきっと名誉を受ける戦士の姿勢。


それはさながら忠誠を誓う騎士の姿。



それはまるで全てを捧げる王子様の口づけ。



海岸に座り込んだメロウの手の甲に口づけを落とした一人の男性。
互いに王族なんて地位もないけれど、たった二人だけのその舞台では確かにあたしはお姫様で、ユウタは王子様だった。
真っ赤な帽子に貝殻のビキニ、月の光を反射するウロコを生やした人魚姫。
異国の顔立ち、見たことない高価に思える上下揃った黒い服、宿した光は強く、優しい漆黒の瞳の王子様。
「それではお姫様、なんなりと」
今のあたしはきっと泣き出しそうな顔をしてる。
顔が熱くって、火が出そうなほど熱を感じる。
恥ずかしいからじゃない。
ずっと憧れていたシチュエーションが、ずっと求めていた男性が。
夢にまで見た行為をしているのだから。
「えっと…それじゃあ…その…」
普段のあたしならこの先言うことは恥じらいの欠片も持たずに口に出せた言葉。
それでもどうしてか、今は言葉に出すことが恥ずかしい。
恥ずかしいというよりも、照れてしまう。
それでもあたしからも意を決して、そしてあたしのしてほしいことを口に出した。



「キス、して…♪」



「了解」



その言葉とともに唇に柔らかな感触が押し付けられた。
荒々しいものではなく、あくまで優しい口づけ。
先ほど手の甲にしたものと同じように暖かいキス。
舌と舌を絡める深いキスではない、触れるだけの行為。
それでも今まで以上に胸が高鳴り、心が満たされていくのがわかる。
あたしの欲しかったものが埋まっていく。
こうして欲しかった。
こうなりたかった。
その想いが満たされていくのだけど、逆にまだだと欲望が湧き上がる。
もっと欲しい。
もっとしたいと。
「ユウ、タ…ぁ…♪」
ねだるような声で彼の名前を呼ぶとそれだけで理解したように頷き、もう一度唇を交わした。
しかし、先ほどよりもずっと深く。
さっきよりもずっと甘く。
あたしの唇の隙間をなぞる様に湿った柔らかなものが蠢き、あたしはそれを拒むことなく口の中へと招き入れた。
ぎこちなくてたどたどしくても一生懸命あたしを感じさせてくれる彼にとても暖かな気持ちになる。
何よりも、嬉しい。
こんなあたしのためにここまでしてくれて。
こんなあたしを好きだと言ってくれて。
そうして今、唇を重ねているのだから。
舌から感じる不思議な味。
それは言葉にしつくせないものだったけどとても甘いものに感じた。
どんなワインよりも口当たりがよくて、どんな果実水よりも甘くて。
上質なお酒よりもまろやかなで、上等なお菓子よりもクセになる。
あぁ…♪すっごい美味しい♪ずっと味わっていたいなぁ♪
夢中で貪って、あたしたちは唇を強く押し付け合う。
もっと激しく、さらに淫らに。
お姫様がするような上品なものからはかけ離れたエッチなものにやめられない。
王子様に憧れてるあたしだけどやっぱりメロウってところは抑えきれないわね。
自嘲気味に心の中で笑ったはずだったけど、そんな余裕もなくあたしはただ口づけを堪能し続けた。
しかし今までになかった未知の行為を味わい続けるほどにその先が欲しくなる。
キスよりもずっと深いその先が。
口づけよりもずっと密なその向こうが。
知ってしまったからさらなる行為を望んでしまう。
そのための準備として一度自分の背中に手を回した。
あたしはユウタとのエッチで深いキスを味わいつつも彼の手を取り、あたしの胸にそっと押し付ける。
一瞬、いきなり手に胸の感触が伝わってきたことに驚き目を見開くがわかったように目を細めて指に力を込めてきた。
キスをしている最中に脱ぎ捨てた貝殻の硬い感触じゃない、暖かくちょっと硬い男性の手。
その手つきは柔らかく、それでもいやらしい。
興奮で硬さをましてきた先端を指で撫でながらも全体の感触を楽しむように揉みしだく。
「んん♪ふむんんっ♪」
なんていやらしい手つきなのかしら♪
手が動くたびにあたしの胸は形を変えてじんわりする気持ちよさを味わった。
揉まれるたびに流れる快楽はあたし一人で慰めていた時とは全く違う、凄まじいもの。
そして満たしてくれるもの。
一人では絶対に得ることのできない感覚。
それは下腹部で疼くこの感覚にもまた言える事だった。
揉みしだくたびに子宮が疼いてなにかを欲しがるようにねっとりした欲望を沸き上がらせる。
それがなんだかはあたしは知ってるし、それが今目の前にある。
ずっと欲しかったものであって、ずっとしたかった行為がここにある。
ユウタが傍に来てからこんな感情は何度も抱いてたけど今抱いてるものはそれらの比じゃないほどに強く、深い。
女性である大切な部分を覆い隠したウロコから我慢できないと言わんばかりに蜜が滴り出した。
メスであるあたしの欲望がオスであるユウタと繋がりたいと叫ぶ欲望の証が滲みだして鱗をいやらしく煌めかせる。
「んん…ぅ♪」
するりとユウタの足に尾びれを巻きつけ、体を引き寄せてその部分を擦りつける。
見た目がとても高価に見える黒いズボンにエッチな液体が染み込んだ。
黒一色であるから目立ちはしないけど、それでもユウタはその感覚に体を一瞬びくりと震わせる。
その反応がどこか愛しくて、可愛らしくて、あたしはさらに体を押し付ける。
唇を、胸を、アソコを。
もっと触れ合いたくて、もっと重なりたい。
あたしはユウタの服のボタンに手をかけてゆっくりと、それでも正確に外していく。
上着を外してまた同じように今度は白い絹のように綺麗な服のボタンを外す。
その下から顕になったのは鍛え抜かれたしなやかな筋肉に包まれた男性らしい体だった。
キスしながら目に映るその体はユウタに初めてあった時にも見たけど、こうしてみると思った以上に逞しい。
細身な体に備わった筋肉はこの町で目にする海の男のように太くて硬いわけではない。
なめらかな線を描くその体は男性らしさを損なうことなくどこか優美なさまを見せつける。
逞しくってとっても素敵♪
思わず見ているだけでうっとりしてしまうものだった。
そっと撫でるだけで手のひらに伝わる硬い肉体の感触。
「んむ♪」
「っ!」
あたしの体を押し付けると一瞬びくりと震えるけど、それでも拒もうとはせずにもう片手をあたしの体に回してくる。
うん…嬉しい…っ♪
ゆっくりその感覚を味わうように、あたしの体の感触を味あわせるように動いた。
乳首がくにくにと胸板を擦るたびにユウタの口から漏れ出す息が荒くなる。
興奮してくれてるんだ…♪
それがわかっただけですごく嬉しいし、今までにない充足感が胸を埋め尽くす。
エッチなことをして感じる快楽とは違う、ユウタが抱かせてくれる安心感とは違う、満たされるような心地よさ。
満たされていく、だけどもっと欲しくなる。
次へと進みたいためにあたしたちは一度離れることにした。
名残惜しげに離れる二つの唇から銀色のアーチがかかり、ぷつんと切れるのがまたいやらしい。
「ねぇ、ユウタ…」
「うん…?」
彼の手をとってあたしはそこへと導いた。
人間しか知らなかった彼にとっては理解が及ばないだろうそこへ。


あたしたちの大切な、女の部分へ。


包み隠したウロコからねっとりとした蜜が漏れ出し、ユウタの指が蜜に濡れる。
「っ!」
「もう、我慢できないわ…」
キスして、体を重ね合わせて、互いの体温を直に感じて、そしてあたしはその先が欲しくなっている。



―もっと深い、もっと甘い、もっと気持ちがいいことを、しましょ♪



砂浜の上に投げ出された闇のように深く、厳粛で高価に見える黒い服。
その上にそっと寝転されたあたしの上にユウタは覆いかぶさるようにいた。
呼吸はあたしと同じで荒くなって、緊張しているからなのか少し震えてる。
それもまた、あたしと同じ。
あたしもユウタの腕を掴みながらこれからの行為への期待と、興奮と、未知への恐怖を隠せずにいた。
それでもなぜだか安心する。
目の前でユウタが一生懸命優しくしようとしてくれてるからかしら。
「入れる、ぞ…?」
その言葉にあたしは行為を促すために小さく頷いた。
肯定のサインを受け取ったユウタは同じように小さく頷き、真っ赤に晴れ上がった先端をあたしに押し付けた。
初めて見て、初めて感じる男性の象徴。
反り返ってビクビクと震え血管が浮き出た燃えるように熱い肉の棒。
これが今から、あたしの中に…♪
「あっ♪」
燃えるような熱を持った先っぽがにちゃりといやらしい音を立てて重なり合った。
大切な部分と大切な部分が触れ合うだけの感覚は心地良くはあるんだけど、それでも焦らされているようにも感じられた。
目の前に、すぐそこに、到達地点があるというのだから我慢ができない。
胸の鼓動は苦しいほどに高鳴っていて息はこれ以上ないほど荒くなっていた。
早く、早く…この先へ…っ!
その気持ちが届いたのか、ユウタの腰が前に進んだ。

途端に感じる、あたしの中へと入ってくる感覚。

「んん〜〜っ♪」

あたしの中をかき分けて、ゴリゴリと肉癖とこすり合って、燃える鉄のように熱くて硬いものが入ってくる。
入って、そして―



―ぶつんっと体の中で音がした。



「っ!!!」
途端に体全身に走るのは身を引き裂くような激痛。
それはあたしの純潔の証。
誰にも体を許したことのない乙女の証拠。
それはあまりにも耐え難い痛み。
歯を食いしばって、ユウタの背中に爪を立ててしまうほどに壮絶な痛み。
でも…。
「…っ…は、いった…」
それでも、その痛みの代わりとしてユウタの全てがあたしの中に収まっていた。
「あぁ…はぁっ……ぁあ…♪」
まるで燃えるように熱く硬いものがあたしの中にある。
どくんどくんと力強く脈打って、今まで何も入ることのなかったあたしの大切な部分にいる。

―ユウタが、ここにいる。

「ユウ、タぁ…♪」
「痛くないか…?」
不安げに、それでも何か耐えるように顔を歪めているのはきっと感じているからなんだ。
あたしの中を。
それがとても嬉しくて、処女膜を破った痛みなんてどうでも良くなってしまう。
「うん、平気、だから…だから…」
「だから…?」



「動いて…♪」



その言葉にユウタは小さく頷き、ゆっくりと腰を動かし始めた。
あたしのことを気遣って極力痛みを与えないようにと動くことによって感じる快感は多少の痛みがあるけどそれでも気持ちいい。
でも、どこかもどかしい。
もっと激しくしてもらいたい。
もっと深くまでえぐって欲しい。
もっと強く、もっとユウタを感じたいから…♪


―あたしを、徹底的なまでに貴方のものにしてもらいたいから…♪


「ふぅ、あああっ♪なかぁゴリゴリって、擦ってるぅ…っ♪」
腰をゆっくりと動かしたことにより膣壁がごりごりと刺激される。
まるで中身を掻き出そうとするカリ首が前後に媚肉を引っ掻いて愛液が滴る。
その刺激に慣れてきたのか先ほどよりも痛みは無かった。
あるのは痛みではなくて、電撃のような気持ちよさ。
先ほど体を重ね、肌を重ねていたのとは全く違う感覚だった。
胸の奥から満たされていく優しい心地よさじゃない、頭の中を真っ白に染められる感覚。
お腹の奥まで迫ってくる圧迫感にあたしは体を剃り返してしまうけどそれでもユウタの体を離すまいと抱きついたままだった。
硬くてキツイ初めてのオマンコはオチンポを拒むように膣肉を押し付けて、それなのに魔物らしく貪欲に離すまいと締め付ける。
その感覚にユウタは眉間にシワを寄せ唇を噛んで耐えていた。
その顔が、その姿が、あたしの中で何かの感情を募らせていく。
女として男を感じさせている充足感と、愛しい男性と交わっている幸福感。
それから、魔物としてその顔がもっとみたいという欲望が。
あたしはそれに従うままに砂浜に伸びていた尾びれをユウタの腰に巻きつけ、腰を自分から動かした。
「うぁっ!」
「あぁ、ああっ♪やぁあ、ふぁあ♪」
途端にさらに歪むユウタの顔、快楽に震えるあたしの体。
震えるたびに体の奥から何か大きなものが押し寄せてくる。
理性なんて一瞬で消えてしまう、それほど膨大で強烈な快楽の予感。
あまりにも強烈過ぎで恐怖さえも感じちゃう。
それでも。
「んんんんっ♪」


握った手と手がそれを和らげる。


大きくて固くて、それでも優しく柔らかく握ってくれる手があたしの心を落ち着ける。
「ユウタ、ユウタぁ♪」
ぐちゃぐちゃといやらしい音が夜の砂浜に響き、あたしの中から滴るエッチな蜜が染み込んでいく。
ユウタはあたしの中をかき回して、あたしは強く腰を打ち付ける。
何度も何度も、打ち付ける感覚に互いが互いを絶頂へと押し上げていった。
お腹の中、体の奥、膣から、子宮から膨大な快楽を流し込まれあたしの目の前の光景がぼやけてくる。
それでも重ねた手は離さずに、絡めた尾は解かずに抱きしめたままの状態で。
「エレーヌ…オレ、もう…っ!」
ひときわ大きくユウタのオチンポが震えた。
それは限界が近づいている合図。
「うん♪うんっ♪いい、わよっ♪全部、あたしの中に…ぃっ♪あたしの中に、ユウタの精液…いっぱい頂戴♪」
あたしはユウタに応えるためにずんっと腰を目一杯打ち付ける。
汗が雫となって弾け、肉と肉のぶつかり合う音が響いた瞬間、そこから何かが流れ出してきた。



「あぁあああああああああああぁぁあああああっ♪」



まるで沸騰したミルクのようなとても熱いものがあたしの子宮へと流れ込む。
それによって生じる快楽はキスよりも、この行為よりも、ずっと気持ちがよくって満たされていく。
どくんどくんと何度も脈打っては何度もあたしの中へと流し込まれるユウタの精液。
その感覚にあたしは何度も体を大きく跳ね上げ、痙攣させた。
がくがくと腰が自然と動き、膣は一滴も逃さないように精液を欲しがってうねり搾り取っていく。
「ぁあ…はぁ…んん…♪」
やがて緊張が解けて体から力が抜ける。
そのままユウタにもたれかかるようにあたしの体は倒れ込んだ。
「おっと」
それを自然に優しく抱きとめてくれる彼。
硬い胸板に逞しい腕、汗が滲んでいる顔は暖かな笑みを浮かべていた。
その笑みを見てふと言いたくなった。
先ほどユウタが言ってくれた言葉のお返しを。
「ユウタ…」
「ん?」

「―大好きよ…♪」

ちゅっと触れ合わせるだけのキスをしてあたしもユウタのように笑みを浮かべた。














「…今までどこ行ってたんですか?」
部屋に戻ってそうそうセリーヌがあたしたちを睨んできた。
どうやら酔ってそのまま眠ってしまった間にあたしたちが二人っきりで出かけていたことが気に食わなかったのだろう。
茶色の綺麗なジト目であたしとユウタを睨んでくる。
お姫様抱っこするユウタを、ユウタの腕に抱きかかえられているあたしを。
「あはは…すいません」
「ごめんなさいね」
乾いた笑いとともにユウタは彼女に頭を下げた。
あたしも一応下げておく。
そんなあたしたちの行動を不審に思ったのか、それともあたしが素直に頭を下げたことに疑問を抱いたのかセリーヌは眉をひそめた。
ずいっと、座っていたベッドから身を乗り出して顔を近づける。
ユウタと、あたしを見るために。
「…何だかエレーヌさん、肌ツヤ良くなってません?」
「え…え?」
「…昨夜とは様子が違うように見えますよ」
「そ、そうかしら…」
いけない、昨夜したことがちゃんと体に出ていたみたい。
そりゃしてから体が軽いというか、いつもよりもずっといい調子だとは思ったけど。
エッチして綺麗になっちゃったかしら♪
「それに…何だか二人とも雰囲気が違うというか…」
「そ、そうですか?」
「そ、そんなわけないわよ?」
「…むー?」
疑わしい眼差しを向けて唸るセリーヌを前にあたしたちは互いに顔を見合わせてそう言った。
それでも
「むー…何だか納得がいきません…」
「まぁ、ほらセリーヌさん」
「そうそう、ね」
身を乗り出してきた彼女をベッドに座らせてあたしたちも同じように座る。
当然と言わんばかりにあたしとセリーヌの真ん中に、ユウタが来るように。
「…今度は真ん中かよ」
「まぁまぁ」
「ですよ」
「…まったく」
乾いた声で小さく笑ってユウタは手をベッドについた。
そこであたしはセリーヌに気づかれないようにユウタの手に自分の手を重ねる。
ほんのりと暖かい、それで男らしい硬い手の上に。
そして、ユウタも答えるように手のひらを返してあたしを握り返してきた。
「…んふふ♪」
「…はは」
互いに気づかれないように小さく笑ってあたしも力を込めた。


あたしの、あたしだけの王子様の手を離すことのないように。


― HAPPY END ―
12/06/24 20:31更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
ということでエレーヌ、メロウ編これにて完結です
下ネタ大好きだけどそれでも王子様に憧れる純情なメロウという感じになりました
それでも下ネタは大好きなエレーヌですw

そして次回は師匠編、後半戦といきます!
なんだかんだでひと月近く空いてしまったのですが、頑張らせていただきます!

それから、もしかしたらオーガ編(現代)の読み切りを書くかも…

それでは次回もよろしくお願いします!!

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