読切小説
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笑顔で涙

地平線の彼方まで広がる大きな海を見渡せる、ちょっと小高い丘がありました。
そこには何人もの人が集まって、お墓を作っていました。

まだ顔から幼さが抜けきっていない少年の目の前で
男の人と女の人が盛った土の上に十字型の石を立て、
最後に、控えていた神父さんが鎮魂の言葉を唱えます。

「神よ…慈悲深き愛の女神ラヴァーズ様……、今一人…良き隣人が
貴女の御許へと旅立ちます。どうか、その手で彼女を導き、
天の扉を開かせ給え。……天への旅人よ、どうか安らかに。」


何人もの大人が見守り、時には涙を浮かべる中で
少年は決して涙を見せずに黙々と祈りをささげていました。
しかし心の中では…

(僕はまた、一人きりになるんだね…。)

失くしたものの大きさに、暗く沈んでいました。
 
 
 
 

 
 
 
 
帝国領クールラギン地方にあるコーバリス郡は、北極圏に近い物凄く北の方にある地方です。
短い夏に長い冬、寒さがとても厳しいのですが雪があまり降らないので、
昔から漁…特にクジラ漁が盛んで、拠点になる漁港がいくつも点在しています。

そして、この地方を通る海岸沿い街道の途中にある
小さくてちょっと年季が入った宿屋が舞台になります。


「お葬式、無事に終わりましたね。お婆ちゃんも安心して眠れますよ。」
「はい、おばさん。そしておじさんも。何から何までありがとうございます。」
「わしらの方こそ、エストお婆さんにはいろいろお世話になったからねぇ。」
「先月まではあんなに元気だったのに、本当に残念だよ。」

宿屋の一階にある大きなテーブルに、先ほど丘の上で集まっていた大人たちと
それに混ざって小さな黒髪の男の子が夕食を食べていました。

男の子の名前はトリン。
物心つかない頃に両親を流行病で亡くしてしまい、紆余曲折の末に
生まれ故郷から遠く北の地方に住んでいたおばあちゃんの家に住むことになりました。
トリンのお婆ちゃん…エストさんは旅人の宿屋を経営していたので、
彼もまた一生懸命エストさんお手伝いをしていたのです。
小さな宿屋ですのでお客さんはそれほど多くは来ませんが、
エストさんが作る料理はどれも絶品で、一度食べたら二度と忘れられないと評判でした。
しかし、そんなエストさんもすでに年は95歳。
つい最近までは元気だったのですが、寄る年波には勝てず
村の人達に見守られながら静かに息を引き取ったのでした。


「ところでトリン君。あなたはこれからどうするのですか?
その歳で宿屋を継ぐのも大変でしょう。」

告別の儀を行ってくれた神父さんが、今後のことを尋ねます。

「…この宿屋は、もう閉めることにしました。僕はまだまだ子供ですし、
お客さんももうあまり来ませんから。これからはエルテンドに住んでる
親戚のおばさんを頼ろうかと思っています。」
「エルテンド?どこだいそれは?」
「ここからずっとずっと南の方にある大きい街ですね。」
「神父様は物知りだなぁ。わしらはコーバリスの外なんざ知らんしなぁ。
そうかそうか…そんなに遠いとこへ行っちまうんだなぁ。」
「行くのに何か月もかかるんだろう、子供一人で大丈夫かい?」
「大丈夫です、シールズポートから鉄道に乗ればそんなにかからないみたいですよ。」
「やれやれ……あの鉄道は客だけじゃなくてトリンまで持っていくのか。」

昔まではこの地方に来るのには街道を通る必要がありました。
なので、コーバリス最北端の町シールズポートへ向かう旅人や行商人たちが
このあたりの宿屋をよく利用していたのですが、数年前に鉄道が出来てから
鉄道を利用するお客さんが増えたのでした。
宿屋があまり利用されなくなったのはこういった事情があるからなのです。

「明日にはもうこの宿屋は閉めてしまうのでしたっけ?」
「ううん、あと三日後に予約してるお客さんが一人くる予定ですので、
そのお客さんをおもてなししてから閉めることにします。」
「ほう…そんな物好きな客がまだいたのかぃ。物わかりのいい奴だな。
エストさんがいなくて大変だろうけどよ、最後の最後だ、がんばれや。」
「はい!僕にできる精いっぱいのおもてなしをしますから!」
「あらあら、いつもながらいい笑顔だこと。
きっとそのお客さんも喜んでくれるだろうさ。」
「しかし…エストさんが亡くなったばかりだというのに、
よくそんな明るい笑顔を保てるなぁ。おじさん感心しちゃうよ。」
「お婆ちゃんが言っていました。お客さんを迎える時は、
どんなことがあっても笑顔を忘れるな……ってね。」

たとえ小さくても心はすでにプロのホテルマン。
トリン君は人前で涙は見せないのです。
 
 
 
 
 

 
 
 
それから三日後のことです。


カランカラ〜ン♪

「ちょっと〜。トリン〜、エストおばあさ〜ん、いるかしら。」
「あっ!ティエルお姉ちゃん!いらっしゃい!」
「トリン、今日も泊りに来てあげたわよ。感謝しなさい。」
「うん!お姉ちゃんが泊りに来てくれて、僕とってもうれしいよ!」
「……ふん。」

玄関のドアについている鈴が鳴ると、お客さんが入ってきました。
ところがそのお客さんは人間ではなく、セルキーと呼ばれている
アザラシの形をした毛皮をかぶっている魔物でした。
分かっているとは思いますが、セルキーは人間に害をなさない魔物です。
むしろこの地方ではセルキーに出会えた人には幸福が訪れるとも云われる位です。
(あながち間違いでもないでしょう?)
彼女の名はティエル。いつもつんけんとしている典型的なセルキーの性格の持ち主です。
普段は海で暮らしているのですが、月に一回くらい
この宿屋を訪れてはお金も払わず宿泊していくのですが、
エストおばあさんは嫌がるどころかむしろ喜んで彼女を迎えて
おいしい食事と温かい寝床を用意してくれるのでした。
ティエルがこの宿に訪れるのは単純に寝泊りするだけじゃなくて、
暖かい部屋の中で毛皮の手入れをしたいからなんだそうです。
そんな彼女をトリン君はお姉ちゃんの様に慕っていて、
毎月ティエルが泊りに来るのを楽しみにしているのです。


「あら?エストおばあさんはお買い物かしら?」
「ううん……お婆ちゃんはね、ちょっと前に天国に行っちゃったんだ。」
「え!?……な、なんですって!?エストおばあさんが…!?
うそでしょ、前会ったときはあんなに元気だったのに!」
「ごめんなさいティエルお姉ちゃん。」
「べ、別にトリンが悪いわけじゃないんだから!トリンが謝る必要なんかないわよ!
……でも、あたしはやっぱり信じられないわ。もうエストおばあさんには会えないのね。」
「でもやっぱ寂しいよね。」
「う、うるさいわね…!あ、あたしはセルキーだから、人が一人いなくなっても
寂しくなんか…ないんだから!勘違いしないでよね!」
「姉さん…」

エストおばあさんが亡くなったと聞いて、ティエルは大きなショックを受けました。
トリンがこの宿屋に来て一年もしないうちにティエルもまた、
この宿屋に通うようになったのですから、ティエルもトリンと同じくらい
エストおばあさんのことが大好きです。つい強がって心にもないことを
言ってしまいますが、トリンはちゃんとわかっています。

「あはは、ごめんごめん。僕まで悲しい気分になっちゃだめだよね。
お客さんをお迎えするときはいつも笑顔でっ!ねっ!」
「はぁ…トリンったら相変わらず能天気ね。
あたしは笑う気分になんかなれないわよ、もう。」
「でもいつまでも泣いてるとおばあちゃんまで悲しんじゃうから。
それに…この宿もティエルお姉ちゃんで最後のお客さんだから、
せめて最後のお客さんには笑顔でいてほしいなって。」
「ちょっ…!あたしが最後のお客さんって、この宿屋閉める気なの!?」

そして、本日のティエルサプライズ二回目。

「うん…僕だけじゃこの宿屋を続けていける自信が無からね。
料理もまだまだだし、掃除やお洗濯もきれいにはできない。
それにお金の計算とかいろいろやらなきゃいけないでしょ。」
「…確かにトリンだけじゃ不安ね。じゃ、じゃあトリンはこの先どうするのよ!」
「多くに住んでる親戚のおばさんが僕を引き取ってくれるんだって。
だから心配はいらないよ!…お姉ちゃんに簡単に会えなくなるのが残念だけどね。」
「はあ…トリンってば勝手すぎるわよ…。ふんっだ、いいわよ別に、
こんな寂れたところよりも、もっと人がいるところにでも勝手に行けばいいじゃない…!
私はトリンに会いにここに来てるわけじゃないんだから…か、勘違いしないでよね!」
「ごめんなさいティエルお姉ちゃん。お姉ちゃんと離ればなれになるのは、
お婆ちゃんと離ればなれになるのと同じくらいつらいけど、
きっとお姉ちゃんはさみしくなんか思ってないよね。」
「……………っ」

自分の正直な気持ちをどうしても素直に言えないティエルは、
心無い言葉を言うたびに自分の心が痛みました。
でも、自分の気持ちに正直になってしまったら自分が自分じゃなくなってしまう、
そう思うとティエルはまた自分の心にうそをついてしまいます。
トリンの笑顔が、今のティエルには逆につらいのです。


「はいっ、じゃあこの話はもうおしまい。
お姉ちゃんのお部屋はいつも通り、暖炉の火を全開にして
とってもあったかくしてあるからね。」
「え、あ…ありがとう。じゃあ部屋借りるわね…。」
「うん、もう他のお客さんはいないから好きに寛いでいいよ。
あ、そうそう!おやつにお婆ちゃんの得意だったブルーベリータルト焼いてみたの!
お婆ちゃんみたいには上手く出来なかったけど、よかったら食べて!」
「…ふぅん、トリンにしては気が利くじゃない。貰っておくわね。
で、でも…ちゃんとした味じゃなかったら承知しないわよ!」
「はいはい、分かってるって。あとこれ、お婆ちゃんが亡くなる前に
ティエルお姉ちゃんが来たら渡してほしいって頼まれたお手紙。」
「手紙ねぇ。なんて書いてあるのかしら?」
「さあ?僕は読んでないからわかんないや。」
「あっそ。」

トリンからブルーベリーの包みと手紙が入った封筒を受け取ると、
ティエルはさっさと用意された部屋に入って行ってしまいました。

「お姉ちゃん、喜んでくれるといいな。」

そう呟きながらトリンも二階にある自分の部屋に戻っていきました。
 
 
 

 
 
 
「…よし。特に穴も開いてないみたいだし、毛並みもばっちりね。
あとは暖炉で乾かしてっと。そのあとはブラッシング…」

暖炉の火で暖まった部屋の中で、ティエルはせっせと毛皮の手入れに励みます。
毛皮を手入れしている最中は素っ裸ですので、内側から鍵をかけて
カーテンも閉め切って絶対に誰にも見せないようにしています。
トリンやエストおばあさんにも毛皮の手入れの様子は見せたことがありません。

一息ついて、しばらく暖炉で毛皮を乾かしている間、
彼女は特に何もすることがないので、それなりに寝心地がいい
備え付けのベッドの上で横になります。

「う〜ん…なんか今日はお昼寝しようと思っても眠くならないわね。
あ〜も〜………、この宿屋閉めちゃうのって本当かしら?」

まだ気持ちの整理がつかないティエルは、
所在なさげにベッドの上をアザラシのように左右に転がります。

「ふんっ…きっと嘘に違いないわ。エストおばあさんはちょっと遠くに
買い物に行っていて、お客さんがいないのはまだ寒い時期だから
たまたま誰もいなかっただけよね…。それにあの甘えん坊のトリンが、
あ…あたしのいないところに行くなんて、考えられないわ!」

そう云って現実逃避してみますが、やっぱり落ち着きません。

「そうだ、エストおばあさんの手紙、何が書いてあるのかしら?」

封筒から一枚の紙を取り出して、目を通すティエル。
そこには小さくまとまった字でこう書かれていました。


『トリンのことを、よろしくお願いするわね  エスト』


たったこれだけです。
ですがティエルにとってはたったこれだけで十分でした。
もう、エストおばあさんはこの世にいないのです。

「う…エストおばあさ……、なんでよ…、なんでなのよ!
なんであたしとトリンだけおいて勝手にどっかに行っちゃうのよ!
ふんだ…これだから人間は、もっと寿命伸ばす努力をしないのよ!
あーっ…も〜……なんかむしゃくしゃしてきたわ…!」

ティエルは今毛皮を着ていませんので、感情を抑えることが
出来なくなってきています。彼女の顔は今にも泣きそうなほど、
切なさと悲しさと苦しさでごちゃ混ぜになってしまっていて。
その心は大切なものを失ってしまったことで
極寒の北極海の氷以上に冷たく凍てついていきました。

ふと彼女が視線を横に逸らしたら、
トリンにもらった包みが目に入りました。


「し、仕方ないから味見だけしてやっても…。」

包みを手に取って素早く開くと、そこにはお皿ほどの大きさで
だいたいチーズくらいの厚さのブルーベリータルトが姿を現しました。
海から少し離れた森でとれるブルーベリーをこれでもかと言うほど
ぎっしり詰め込んで、窯で丁寧に焼き上げられたそのタルトは
まだ作ってから時間があまりたっていないせいで、
ほんの少し暖かさが残っていました。また、パイは食べやすいように
あらかじめ1ピースに切り取られてあるので、その隙間から
若干ブルーベリーのシロップがはみ出しているのが
また手作り感を一層引き立てています。


ティエルは包みから切り分けられた一切れを手に取って、
ぎっしり詰まったブルーベリーが零れないように口に運びます。

エストおばあさんは、ティエルが来るとよくブルーベリータルトを
焼いてくれました。でも、いつもは一人だけじゃなくて
トリンとエストおばあさんも一緒になってお茶にしていました。
彼女は自覚していませんでしたが、いつも吊目のティエルも
ブルーベリータルトを口にすると思わず頬が緩み、笑顔になってしまいました。
そのくらいエストおばあさんの作ってくれたパイはとてもおいしく、
そこらのお菓子屋さんで作ってくれるものにも決して引けを取らなかったのです。

それに比べてトリンの作ってくれたブルーベリータルトは、
甘さが強すぎるし、形も不恰好。お婆ちゃん特製のおやつには
とても足元にも及びません。ですが、それを差し引いても……
 
 
 
 
「おい、しい……」


ポツン ポツン

トリンが作ってくれたタルトを口に運ぶたびに、
ティエルの目尻から大粒の涙がにじみ出て、赤く染まった頬を伝い
顎から水滴となって、彼女の腕や太ももに次々と垂れていきました。

口の中でかむたびに溢れてくるくらい、トリンの一生懸命さと優しさが伝わってきます。


「やだ……やだよ………、いなくなっちゃ…やだ……」

何度も何度も時間をかけて咀嚼して、ようやく一口目を呑み込みましたが
どうしても二口目に口をつけられません。
視界が涙でかすんでしまって、何も見えなくなってしまったから…

「ばか…!あたしの、ばか!あたしはトリンとずっと一緒にいなきゃダメなのっ!
もう離れ離れになるなんて…そんなの許せないっ!」


ボロボロと涙をこぼしながら手に持っている分のタルトを
無理やり口の中に詰め込んで、喉が詰まるのも気にせず一気に呑み込んでしまいます。
そして意を決すると、何も着ないまま部屋を飛び出していきました。
 
 
 

 
 
 
一方のトリンは、自分の部屋の机の上に今までエストおばあさんが付けてきた
宿場日誌を広げて、それを神妙な顔で眺めていました。
今までどんな人たちがこの宿を利用したのか細かく書いてあるそれは、
見ていてとても感慨深いものがありました。

「よし、最後にティエルお姉ちゃんのことを書いておしまいだね。」

時折思わずこぼれそうになる涙を必死にこらえながら…
トリンは最後まで自分の役目を果たそうと頑張っています。
それがたとえ、誰も見ていない時だったとしても、
トリンの心のプライドが、弱みを見せることを嫌うのです。

と、その時、下の階からパタパタと階段を上ってくる音が聞こえます。


「あれ?ティエルお姉ちゃん…かな?どうしたんだろう?」

今下の階にいるのはティエルしかいないはずですので、
誰が来たか考える必要はありませんでしたが、
手入れの真っ最中にどうしたんだろうと扉を開けようとした瞬間…

バターン!!


「――――――――っ!!」
「うわあぁっ!?ティエルお姉ちゃん…ど、どうしたの!?」

まるでラグビー選手のような勢いで扉から入って来たティエルが、
トリンを巻き込んで、そのまま真後ろにあるベッドの上にダイブしました。
もちろん全裸ですので、いろいろなふくらみがトリンの体にのしかかります。

「ぅわぁぁぁぁぁん…! やだやだ!トリンどこにもいっちゃやだぁっ!
うひゅっ…えっぇっ……もう、はなれ…えぐっ、はなれたくな…う…うぅ…!」
「お…お姉ちゃん…」

トリンより身長が高いティエルが、まるで子供の様にトリンの胸に
涙でくしゃくしゃになった顔をうずめて、感情を爆発させました。
もうティエルを悲しみから守れるのはトリンしかありません。
大粒の涙がたちまちトリンの胸元を濡らします。

「あたしには…えっえぐっ、もう…トリンだけいれば他…なにもいら…ない!
ご飯だってっ……頑張って作ってあげる…!うっ…ぐひゅっ……
お…お洗濯だって!できる…から、あたしを置いて…いかないでよ!」
「もう…お姉ちゃんったら!せっかくずっと我慢してたのに……
そんなに泣いたら…ぐすっ、ぼくまで…なきたくなっちゃうっ!」
「えぐっ、えぐっ、な…なによ!泣きたいのは…あ、あたしの…ほう…!」
「僕だって!お姉ちゃんと離れたくない!ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいんだもん!
えっ……えふっえふっ…、お姉ちゃん!おねえ…ちゃん!」
「トリン…、す…き!大好き!トリンはもう…あたしの物にするのっ!」

ティエルはトリンの上にすっぽりと覆いかぶさると、
その腕で体をぎゅっと抱きしめながら、強く…唇を重ねました。





「トリン……んっ、可愛い」

ぽたぽたと涙を滴らせながらティエルがトリンの上に覆いかぶさります。
零れてくる涙は、どこか暖かみがありました。

「お姉ちゃん…そんな可愛いだなんて、男に言う言葉じゃなような…」
「い、いいじゃない!トリンはトリンだもん…あたしは可愛いトリンが好きなの!
ちゅっ…ちゅむっ!は…ぁん…」
「んちゅっ…もう、お姉ちゃんったら……泣くか笑うか、どっちかにしようよ。」
「な、なによ!な…泣いたまま笑うのがあたしの得意技なのよ…。
もう……!なんであたしばっかりこんな恥ずかしい…、ほらトリン!
お姉ちゃんが脱がしてあげるから…じっとしてなさい!」
「ちょ…ちょっと!?」

トリンを欲しい気持ちを我慢できないティエルは、
あっという間に上の服を脱がしてしまい、ズボンもちょっと乱暴に
パンツごと降ろしてしまいます。するとトリンの体を包むものがなくなって、
まるで女の子のように体をこわばらせながら縮こまってしまいます。
しかし…男の子の部分は、これから行われる行為への期待で
すでに臨戦状態にあるようです。
一糸まとわぬ姿のトリンを見て、ティエルは思わず喉を鳴らしてしまいます。


「ご、ごめん…トリン、もうあたし…止まらないよ……」
「い…いいよ、ティエルお姉ちゃんの、好きにしていいから…」
「うん…。トリンの初めて、あたしが奪ってあげる…だから、任せて。」

そして有無を言わさず、次の瞬間…

「んっ!んああぁぁっ!」
「は…あぅっ!?」

ろくに前戯もしないままトリンを自分の中に入れたティエルは、
お腹の中が張り裂けそうな痛みに思わず顔をしかめてしまいます。
ですが、それと同時に今まで感じたことのなかった満たされた気持ちが、
背筋を一気に駆け上ってティエルの全身にくまなくいきわたるのを感じました。

「お…、おねえ…ちゃん!」
「ふ、ああんっ、んっ!うぁっ、ああっ!あ、熱い…熱いぃっ!……んんっ!
こ…これで、あたしとトリンは…一つになれたのね!んはぁっ…!
トリンがあたしの中で、繋がっちゃって…!うれ…しいよ…、トリン……」

ティエルの特技らしい泣き笑い顔が、トリンにはさっきよりも美しく見えました。
しかし、ティエルの顔に見とれている余裕は全くありません。
まだ痛みが残っているはずなのに、ティエルの身体が上下に動き出したからです。

「んっ、くぅん…んっ!トリン…トリンっ!」
「あっ!くっ……う…」

腰の動きに合わせて、たわわに実った二つのふくらみがトリンの顔の前で揺れ、
つながった場所からはズルズルとすれるような音が聞こえてきます。
ひたすら喘ぎと愛しい弟分にして恋人の名前を叫び続けるティエルに対して、
トリンは快感を堪えるのに精一杯で、声を返すこともできません。

痛みごと、快感を貪るように、大きく息を吐きながら
ティエルの身体が激しくうねります。ずっと止まらない大粒の涙を滴らせて
腰を上下に揺らし続け、動くのをやめません。
ですが、トリンもこのままされるがままだとティエルに悪いと思ったのでしょうか、
トリンの手が伸びて目の前で揺れるふくらみをつかみました。

「あ、だ…ダメぇ!そこ、今、そんなことされた、ら……んあぁっ!」
「どう…かな?気持ちいい?ティエル…お姉ちゃん」
「ひゃうんっ!あぅぅっ!」

どうもティエルは胸が弱点だったようです。
探るように乳首をゆっくり指の中で転がすと、
まるで悲鳴のようなかわいい声を出して、秘孔がギュッと締まります。

「はぁ……む、胸…だめ…はぁぁ……」

そして、気が付けばつながった場所はまるで洪水でも起きたかのように
ティエルとトリンの愛のミックスジュースでしとどに濡れていて、
ぐちゃぐちゃと卑猥な音を奏で始めていました。
それに比例してティエルの中で快感が強くなってきているのか、
その表情に悲しみや寂しさが全く見えなくなって、
気持ちよさに蕩けてきています。

「ふあっ!あっ、あくぅっ……ん!と、トリン!すきぃっ!
トリン…トリンっ!トリン……っ!あ、あぁぁっ!」
「お、お姉ちゃん…!なにか…きちゃうっ!
気持ち良すぎて……もう我慢できないよ!」
「あ、あた、し、も…!あたし、もっ、もぉ…!あっ、ふあぁっ!」

二人のエクスタシーは許容量を超える一歩手前まできていて、
あと一突きでもしてしまえば、二人は限界を超えてしまうでしょう。

ズプンッ!

「あ、ああ、ああぁっ…!」

トリンの先端がティエルの体の奥深くまで刺さった瞬間、
ティエルは身体を大きく弓なりに反らして、
潰れるんじゃないかと思われるほど、強い締め付けが
身体の中でトリンを容赦なく握ります。

「おねえちゃああぁぁぁん!あっ…あぁぁぁっ!」
「ふああぁあああぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」

二人の甲高い悲鳴が部屋の中に響き渡りました。
ドクドクと元気な音を立てながら、トリンのものはその口から
精液を大量に吐き出し、ティエルの中を真っ白に染め上げていきました。
吐き出された精液はまるでマグマのように熱く、
トリンがティエルを思う気持ちが彼女の子宮の中で暴走します。
未知の快感にティエルは一瞬気を失いながらも、
嬉しさのあまり何度も何度も絶頂に達してしまいました。

「トリン……大好き…ずっと一緒……。あたし、トリンには
素直になるから……たくさん甘えても、いいよね…。」
「そう、だね。もうティエルお姉ちゃんはお客さんじゃなくて…
新しい家族……だから、僕も…甘えて……うっ、ぐひゅっ…」
「いいよ、好きなだけ泣いても。全部…あたしが受け止めてあげる。
さ……もう一回、しよ…。こ、今度はあたしが下になるから…
トリンの気持ち…好きなだけあたしにぶつけてね。」


その日の夜二人は、夕ご飯を食べることも忘れて
ずっとずっと抱き合っていたそうです。

きっと天国にいるエストおばあちゃんも、二人の仲を見て喜んでいることでしょう。
 
 
 
 

 
 
 
それから半年くらい経ちました。
鉄道の増発で旅行者が増えたシールズポートにある噂が流れます。

「ねぇ聞いた?南の町で変わった料理を見せてくれるレストランがあるんだって?」
「ああ、セルキーちゃんがかわいい男の子と『二人羽織』で料理するとこね!」
「そこで出されるブルーベリータルトが絶品らしいのよ。」
「明日にでも行ってみましょう!」


あの後ティエルとトリンは、小さなレストランを小さな宿屋にしました。
二人で一生懸命練習したおかげで、村人たちからの評判は上々。
そのコンビネーションは、まるで手一人の身体から手が四本
生えているんじゃないかと思うくらい、見事な物でした。

そしてその評判は噂好きな魔物たちの口から口へと伝わっていき、
シールズポートの人々の耳に入るのにはそう時間はかかりませんでした。


「さあさあ御立合い!お昼のツープラトン料理、はっじまっるよー!」
「今日もあたしたちの華麗な連携に感動するといいわ!」
『いよっ!待ってました!』

毎日お昼前になりますと、お店の中でパフォーマンスが行われます。
それを見るべく大勢の人が集まってきますので、
この時間帯のレストランはいつも満員なのです。
作る料理はお客さんからのリクエストによって決まりますが、
一番人気なのがやっぱりブルーベリータルト。
店のメニューの中で一番おいしいというのもあるのですが
実はちょっとしたサービスがついているのも人気の理由です。

「はーい、今日もブルーベリータルトを作りまーす!」
「あたしトリンが愛情込めて皆さんに最高の一品をお届けするわ!
あ、でも勘違いしないでよね!あなたたちへの愛情は
トリンへの愛情なんかには遠く及ばないんだから!」

一見失礼なこのセリフも、お客さんたちにはなくてはならないのだとか。
まさにお客もプロとはこの事なのでしょう。


大勢の人や魔物たちが見守る中、二人は同じ毛皮の中で寄り添うように
無駄なく的確に下ごしらえをしていきます。
まず一つ目の見どころは、二つのボウルで生地を泡立てるところです。
すごいところは、あえて一人ずつの手じゃなくて、トリンの手が泡だて器、
ティエルの手がボウルを担当して、難易度をあげて魅せるので、
お客さんたちも思わず感心してしまいます。
そして二つ目の見どころは、生クリームの作成と
ブルーベリーを煮詰めてジャム状にする作業を同時並行する荒業です。
これはさすがに二人の手は別々に作業しますが、時折お互いの目を
見つめ合っては、お客さんがいる前でキスして見せるのですから、
盛り上がらないわけがありません。

「んっ、好きよトリン…」
「お姉ちゃん、大好き!」

『ヒューヒュー!あつあつぅ〜!』

最後のパフォーマンスは、オーブンでタルトを焼き上げるところ。
この後窯でたっぷり20分間焼かなくてはいけませんので、
その間二人はやることがあまりありません。そこで考えたのが……


「そ、それでは……焼き上げてる間に、あたしとトリンのラブラブお料理を…」
『キターーーーーーーーッ!!!!』

焼き上げる20分の間に、ティエルとトリンはテーブルの上に乗ったまま、
毛皮の中でエッチし始めるのです。二人羽織で料理をしていると、
身体の敏感な個所がすれてしまい、性的興奮に二人が耐えられないようです。
大半のお客さんはこれ目当てでお店に来たといっても過言ではありません。

「あんっあんっ!トリン、好き!大好きっ!あっ…あはぁっ!」
「気持ちいよお姉ちゃん…!気持ちいっ、きもちいぃっ!」

二人の痴態を見たお客さんたちは、あるものはその場で一人耽ってしまい、
またある夫婦は自分たちも負けてられないとその場で交わり始めます。
こうして喘ぎ声と卑猥な音が奏でる桃色の20分間を経て、ようやくタルトは完成します。
快感に踊った後の甘いものはまさに絶品です。


「い…いかがでしたか?あたしたちの愛情たっぷりこもったタルト…」
「今日も笑顔で皆様のハートにお届けします!」

そして…輝くような二人の笑顔に心を完全に打ち抜かれてしまったお客様たちは、
明日もまた来ようと心に決めるのでした。



『レストラン・エスト』は今日も大繁盛です。
13/03/19 11:54更新 / バーソロミュ

■作者メッセージ
実はこれ、某戦記物マンガがモデルだってことを何人の人がわかるでしょうか。

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