読切小説
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くものいと
積み上げられた本の山、山、山。
本の山が嫌になるほど並ぶ中に、少年は確かにいた。

「……」
顔の上に開いたままの本を乗せ、グッスリと眠っている少年。
彼にはここでの確かな仕事があった。
それは、『ここにある本の内容を完璧に覚える事』
普通の人間なら発狂しかねない程の量の本の内容、その全てを覚える事である。

「………んん…?」
永い沈黙を続け、これからも静寂を守り続ける筈だった部屋に、不気味な物音が一つ。
それだけでも、少年が目を覚ますには十分だった。
眠りから覚めたばかりの虚ろな瞳で辺りを探る。
だが、人影一つ見つかりはしない。

「……?」
暫くキョロキョロとしていた少年だったが、直ぐに眠気が襲ってきて目を閉じる。
かれこれ5日は眠っていないのだから当たり前だろう。
しかし、その眠りを遮るかのようにまた物音が聞こえる。
それも今度は部屋の中などと言った曖昧な物では無い。
自分の耳のすぐ傍から聞こえてきたのだ。

「…っ?!」
それに驚いて目をバッと開く。
すると、目の前にはニッコリとした笑顔をこちらへ向ける少女が顔を覗きこんでいた。

「……君は…?」
最近は人と会話する事すら希薄だった少年だったが、会話そのものを忘れてしまう様な事は無かった。
眠気を隠そうともしない様子の少年を余所に、少女は少年の服の文字に興味を示していた。

「……これ、なんてよむの?」
少女からすれば分かる筈も無いような難しい漢字。
その連なりが、少年の服には綴られていた。
『覇宝 将門(はほう まさかど)』と書かれたその文字は、少年の名前を現わしている。

「……まさかど、だよ…」

「まさかど……まさかど〜♪」
将門の名前を理解すると、少女は将門へ抱きつこうとしてきた。
しかし、それを余裕を持ってかわしてみせる。
だがまぁそれで少女が諦める訳ではないのだが、やっとこさ起き上って少女の全体像が見えた。
全体的に幼い容姿で、名前を呼んだ時も呂律が回り切っていなかった事も考慮すると本当に年端も行かない少女なのだろう。
大事なのはそこでは無い。
彼女の下半身部分にあるべき足は、まるごと蜘蛛の胴体にすり替わっているかのような容姿をしていたのだ。
そのまま人を刺す事も出来てしまいそうなほど鋭い脚。
いくらでも糸を精製出来るであろう蜘蛛の腹。
それらは、彼女が人間では無く魔物の類である事を証明付けていた。

「……なんだ、魔物か…」
魔物に対しては排他的では無い方な将門であるが、だからと言って魔物が好きと言う訳でも無い。
言うなれば、興味が無いと言ったところか。
眠気もピークに達しているし、こんな少女が過ちを犯そうと言う考えを持ち合せているとは到底思えない。
そう考えた将門は、寝転がって再び瞼を閉じて眠りの世界へ落ちて行く。

「まさかど…?まさかど〜…」
グッスリと眠ってしまいそうな将門を起こそうと、少女は将門の肩を掴んで揺する。
前に後ろに揺らす度に将門の頭がグラグラと揺れるが、それも気にせず少女は将門の肩を揺すり続けた。

「将門さ〜ん!今日もお話きかせ……」

「…ふにゅ?」
突然、カビが生えそうな程に閉め切っていた襖が開け放たれる。
その先には、元気旺盛そうな少女の姿が見えた。
今日もいつものように何かの話を聞きにきたに違いない。
だが、今日はいつもとは少し状況が違っていた。

「ま…ま…まもの〜?!」

「ひぅっ!」
元々、魔物が人間と分かり合うには相当な時間を要する。
今回の場合は、お互いにその時間が足りないのだ。
だから、互いに驚いたような反応を見せる。

「……んぁ…美也ちゃんか…」

「ま、将門さんっ!どうして魔物なんか…」

「いや、さっき勝手に湧いた…」
眠っていた将門だったが、遂には周りの五月蠅さに眠気も逃げてしまう。
身体を起こして適当な場所に座るスペースを作って座る。
すると、それを待っていたかのように蜘蛛の少女は将門の膝の上に飛び乗った。
どうやら自分の足が刺さると痛がると言うのを分かっているらしく、座る際に足を畳んでくれている。
気遣いへの礼を込めて頭を撫でてやると、彼女は明るい笑顔を向けて来た。

「勝手に湧いた……って、将門さんっ?!」

「ん〜?何だい?」

「何だい?じゃないですよ!魔物ですよ?ま・も・の!」

「まさかど〜…」
驚きと恐怖で動揺しているのか、少女は何度も将門へ怒鳴る。
それら全てを笑って聞き流す将門。
暫くしない内に、蜘蛛の少女が将門の服にしがみ付いてくる。
原因の推理は簡単だ。
単に、怒鳴り続ける美也を怖がっているだけなのである。
なので、少女の頭を撫でてやると少しは落ち着いたようで、涙目で「だいじょうぶ?」と問いかけてくる。
日本語とは実に難しい物で、少女の聞いてきた事の意味でも「あの人は大丈夫?」や「もう大丈夫?」等、色々な解釈が出来てしまう。
まぁ、今は関係ないが。

「あっ、そうだ!美也ちゃんって確か小説書いてたよね?」

「はぁ?まぁ、文学書いたりしてますけど…」

「それじゃぁさ、この子の名前考えてくれない?」

「はぁぁ?!」
こうして、唐突に蜘蛛の少女の名前決めが始まった。
「雲芽」「浅奈」「八華」等々、沢山の名前が提案される。
中には「亘」「颯」「稜治」等々男性名も多数提案された。
だが、そんな名前を少女は拒み続けた。

「――それじゃ、君の名前は何なんだい?」

「………んっ」

「栞……それが君の名前かい?」
そこらへんに転がっていた手作りの栞。
それを、彼女は拾い上げて将門の前へ突き出す。
彼女の顔には勝ち誇ったような笑顔が垣間見える。

「まさかどすご〜い♪」

「栞ちゃんかぁ〜……なんか可愛いかも♪」

「可愛いのには同意だね…」

「……まさかどまさかど〜」
不意に、栞が将門の服を引っ張る。
その手には将門お手製の、シロツメグサの葉を織り込んで作った少し小さめの栞が握られていた。

「……あげるよ?」

「っ〜〜♪やったぁ〜♪」
将門の栞が欲しかったのか、栞は満面の笑みを浮かべると飛び跳ねながら喜ぶ。
この様子では、年相応にしか見えない。
魔物の中には大変長寿な種類も居るらしいが、少なくとも彼女は見た目不相応な年齢と言うのは無いだろう。

「あ〜っ、栞ちゃんばっかりずる〜い!将門さん…」

「いいよ?好きなのあげるよ♪」
そう言うや否や、美也は机の中や本の中をひっくり返して、気にいる栞を探しだした。
相当な本がある事もあってか、探すのには多少の時間がかかりそうだ。
そんな時に、沈黙を破る音が一つ。

「………まさかど…」

「あはは、そうだね。何か食べる物でも作ろうか」
沈黙を破った一つの音。
それは他でも無い、栞の腹の音だった。
グウゥゥ…と音を立てて空腹を訴えるその音は、一種の心地よさすら感じる。

「栞ちゃんは何がいい?」

「えっと……むしさん!」
その言葉に、当然将門は言葉を失う。
この少女が虫をバリバリ食べている所を連想しようとしても、全くできない。
小汚い食事をしている様には見えない事もあるが、こんな少女が虫を食べているイメージなどシュールすぎるではないか。

「……ごめんね、僕は虫さん食べないんだ……僕と一緒のを食べるかい?」

「うんっ♪」
目をキラキラさせて御飯が出来るのを物凄い機体の眼差しで見つめてくる。
これはもう、いつかのように一日ニボシ一匹ではいけない。
と言う事もあり、将門は久しぶりに台所に立つ決意をした。

――――――――――――――――――――――

「おいし〜♪」

「ホント美味しいです!将門さんって料理もいけるんですねっ♪」

「あっはは…あり合わせで作っただけだよ…」
本の山を端へ押しやって出来たスペースに楕円の長いちゃぶ台を置いて御飯を食べている三人。
そのちゃぶ台の上には、具だくさんのあっさりとしたお吸いものや大きな焼き魚などが置かれていた。
どう考えてもこの時代の人間がパッと御馳走出来るような品では無い。

「そうだ、将門さん!またお話聞かせて?」

「んっ?いいよ?どんなお話がいい?」
将門は、良く子供達に昔話や童話を聞かせている。
自分が作ったファンタジー溢れるお話から、大人の涙を誘う切ないお話までありとあらゆる話を聞かせている。
まぁ、それと言うのもこの仕事の副産物な訳だが。

「そうだな〜……この子の、女郎蜘蛛のお話なんてありますか?」

「そうだなぁ…あるよ?」

『ききた〜い♪』
美也と栞が同時にバンザイをする。
それだけワクワクさせるのだ、彼の話は。

「そうだね……昔の古文書みたいなのに書かれてたお話なんだけど…」

――――――――――

遠い遠い昔、平安って呼ばれてた時代のお話なんだけどね?

ある殿さまのお屋敷に、一人の女郎蜘蛛が攻め込んだんだ。

その女郎蜘蛛はね、以前に自分の娘をその屋敷の人に殺されたんだと思い込んで攻めて来たんだ。

当然、そんなのが襲ってきた時の為に警備兵なんかは一杯居た。

だけど、それを全部女郎蜘蛛は薙ぎ払っちゃったらしい。

暫く暴れ続けたんだけど、お付きの陰陽師が封印しちゃったんだって。

そこからが不思議なお話。

その女郎蜘蛛を封印した後の場所には、彼女の羽織っていた着物があったらしいんだけど、それを退けると一人の女の子が居たらしい。

そこで陰陽師は、その少女を皆に内緒で保護して自分で育てる事にしたらしい。
【ロリコンだ!その人絶っ体ロリコンだ!】
【ろりこん…?】

こらこら、栞に変な事教えないのっ!
【はぁい…】
【まさかど〜…ろりこんって?】

栞みたいな子が大好きな人って事だよ
【へ〜……えへへ…】

話がそれちゃったね、それで暫くは何事も無く成長していった少女だったんだけど…
【…だけど?】

ある日、自分の隣の、少女の部屋から異臭がするのに気付いた陰陽師は、つい出来心で覗いてしまったんだ。
【やっぱりロリコンだ!】

ロリコンやめい!それで、見てしまったんだ……部屋で、陰陽師の付き人数人を蜘蛛の糸に巻き付けて血肉を啜る蜘蛛の少女の姿を…

――――――――――――――――――

「…とまぁ、こんな感じの話だよ」

「……あれ?続きは無いんですか?」

「これなんだけど、続きは書いて無いんだ…」
そう言って、将門は自分の手元に落ちていた巻物を見せた。
相当古コケているが、どうやら大分昔の巻物らしい。

「まぁ、当時の人たちが面白半分に書いただけだろうけどね。」

「で、ですよね……そんなに昔じゃぁ、魔物は皆、化物の姿ですもんね…」

「……?」

「…うん?栞、どうしたんだい?」
話で盛り上がっている中、栞だけは下を向いて元気が無かった。
どうやら考え事をしているようで、将門の呼びかけにも答えようとしなかった。

「……そう言えば、その陰陽師が実在していたっていう所までは本当らしいよ?文献が出てたんだって。」

「文献?」

「なんでも、ここから少し山に入った所に古い屋敷があるらしいんだけど、その御屋敷が大昔はその陰陽師の住んでた屋敷だって話」

「へぇ〜………そうだ!今度、そこにいってみませんか?!」
唐突にそう叫んで弾かれるように立ち上がる美也。
その勢いたるや、隣で黙々と御飯を食べていた栞が驚いて茶碗を取り落とす程。
だが、そのハプニングが原因で栞の表情から心なしか、暗い表情が消えたように将門には見えた。

「なんで突然…」

「やっぱり、いわくつきの所とかって行きたくなっちゃうんですよね♪」

「……真っ先に死にに行きそうな人の言いそうな事だね…」
そう茶かすや否や、美也は心外とばかりに自分の無い胸を張って、威張るように将門の方へ向き直る。

「絶対死にませんって!私が今までに同じような事を言って死んだ事があると御思いですか?」
心の中で「死んでたらここに居ないよね?」等と思ってしまった自分を戒めながら、将門は美也の話を聞き流して行く。
暫くの間、あーだこーだと美也の自慢話は続いたが、時間を追うごとにそれはなりを潜めて行く。
所謂ネタ切れなのだろう。
その頃にもなると、ちまちまと食事していた栞も全てを食べきってごちそうさまをした後だった。

「まさかど〜、だっこ〜…」
どうやら、抱っこをせがまれているようだ。
両手を広げて持ちあげて欲しそうに見つめてくる。
暫く放置したものなら、大泣きしながら懇願してくるだろう。
だが、そこまで人が悪い将門でもなく、ヒョイっと栞を持ちあげてやる。
それだけで大層喜んでいるらしく、せわしなくキャッキャと笑っている。

「まさかど〜♪まさかど〜♪」

「ん?何だい…」
呼ばれて、栞と視線が重なるように顔の位置を変える将門。
その先には、栞の唇が迫っていた。

「んちゅ〜♪」

「っ?!」
まるで子供が大人のしているそれを真似ようとしてするような簡単な接吻。
接吻どころか女性と、と言うか人間とあまり多く関わり合いを持っていない将門が接吻の経験などあるはずもなく。
そして、栞に接吻の経験があるようには思えない。
つまりは、これがお互いにとっての初めての接吻となるのだろう。

「……えへへ〜…」
初めてキスを交わし、嬉しいのだろう。
栞が満面の笑みを将門へ向ける。
だが、彼女は魔物娘である。
その性質上、男へ魔力を流してしまうのは必然であり、同時にそれは、男が魔物娘をもっと欲するきっかけともなる。
半分陶酔状態のように陥るのは、将門も例外では無かった。

「……」
元より性に興味が無かった所為か、将門には陶酔の心地よさが不思議に感じられた。
今まで感じた事も無いような感覚。
本でなら読んだ事はあったが、一度も味わった事のない気持ち良さ。
それらは、将門のおっとりした心を動かすには十分足りている。

「はぁ……はぁ…」

「…まさかど…?」
次第に胸が熱くなる感覚を覚え、目の前の少女に対して邪な欲望が芽生え始める。
あの小さな体を、心が壊れるくらいに抱きしめて犯したい。
小さな子供を犯すと言う、どうしようもない背徳感。
それらに駆られ、将門の心は右往左往していた。

「まさかど?まさかど?」

「はぁ……はぁ…」
興奮を抑えられない所為で、将門は勢いのままに栞に覆い被さっていた。
子供を優しく抱擁するソレとは全く違う。
子供を自分のモノにしてしまおうと言う欲求がこうさせているのだ。
だが、それを将門自身が自覚している訳ではない。
腕を抑えられ、無理な体勢で固定させられた栞は、その半狂乱とした将門の顔を見て泣きそうになっていた。

「ひぐっ…やだよぉ…」

「こんの、ロリコン変態紳士ぃ!」
泣きだしそうになっていた栞を見かねて、つい先程まで二人の事を引きながら眺めていた美也が割って入る。
そして、人の頭がもげそうな程強力な蹴りを将門の側頭部にブチ当てる。
メコッという嫌な音を奏でながら、将門の身体は隣の部屋まで飛ばされて行く。
そして、壁に当たってやっと止まる。
そこからはピクリと跳ねてから動かなくなった。

「栞ちゃん、将門さんにチューなんかしちゃダメじゃない!」

「ひぐっ…」

「あの人、恋愛経験なんて無いんだから。それに、魔物娘ががそれしちゃうと、メロメロになっちゃうのよ?」
恋愛経験の乏しい美也に言われてしまっては世も末だろう。

「めろめろ…?」

「大好きになっちゃうって事!だから、絶対しちゃダメ…」

「まさかどにもっとちゅ〜する〜♪」
美也の注意も程々に、先程まで彼に襲われそうになっていたのを忘れているかのように将門の元へ走り寄る。
既に気絶しているが、将門の頬に再びキスをする。
目覚めたりする訳ではないが、それだけで栞はまた嬉しそうな顔をしているのだった。

――――――――――――――――――――――

「う……うぅん…」

「…zzz」
将門が目を覚ますと、隣では布団に入った栞が静かに寝息を立てていた。
御飯を食べてからの記憶がすっぽり抜けている将門だったが、側頭部と首に激しい痛みを覚えて身体を動かすのを止めた。
暫くじっとしていると、隣から美也が布を持ってやってきた。

「将門さん…ごめんなさい……あんなに強く蹴っちゃって…」

「あぁ、美也ちゃんがやったのか…」

「ひゅいっ?!ま、将門さんっ?!」

「シッ……栞が起きる…」
そう言って、人差し指で美也を黙らせる。
幸い、そこまで大きな声を出していなかったからなのか、栞は相変わらず寝息を立てている。

「……なんだか、年の離れた妹が出来たみたいですね…」
そう呟きながら、栞の頭を優しく撫でてやると、嬉しいのか表情が綻ぶ。
それに釣られて美也も表情が緩んでいた。
少し前まで魔物に対してすごく怯えていたとは到底思えない反応だ。

「それにしても、ここまで耐性がないなんて…」

「耐性…?」

「あぁいや、なんでもないです……ほ、ほら、早く寝ちゃって下さいよっ!」
そう言って、睡眠を強く奨める美也。
だが、彼女の笑みの裏には焦りがあった。
不覚にも、寝起きの将門にドキリとしてしまったのだ。
心の高鳴りが将門に聞こえないようにするので精一杯な美也は、慌てて部屋を飛び出して行く。
そうすると、自分の胸に手をあててみると鼓動が触れるだけで分かるほどに強かったのだ。
あのまま部屋に残っていたら、いつこの鼓動が将門に届いていたか分かった物では無い。

「……あっ」
そこで、美也はふと思い出す。
もう夜更けも過ぎている時間だと言うのに自分はここにいる。
親に行き先は告げている物の、やはりこんな夜遅くまで出ていては叱られてしまう。
そうなれば、もう取れる手段はごく限られる。
ここに泊まって行く。

「その……将門さん……わ、私、泊まっていっても…」

「……んぅ……いいよ…」
寝ぼけているのだろうが、それでも将門から許しが出た。
それだけで心が高鳴る美也。
だが、なるべく邪魔はしないようにしよう。
そう美也は心に刻もうとしていた。

―――――――――――――――――

それから数時間、朝が迫る頃になって栞が目を覚ました。
周りを見れば、当然の様に将門が隣で寝息を立てている。
その隣では美也も寝ているがまるで眼中にない。
将門の寝顔を見る度、栞は嬉しそうに小さくクスクスと笑っていた。

「まさかど〜……フフッ」

「むにゃ…」
栞が将門の顔に触れては小さく笑い、それに将門が反応して寝がえりをうつ。
そんな事が数十分ほど続いた。
もう太陽が山を越えた高さになり始めた頃になって、やっと将門も美也も起き始める。

「ふぁぁ……おはよう、二人とも…」

「ふぁぁぁぁ……‥おはよーございまーす…」

「まさかど〜♪おはよう〜♪」
それぞれがそれぞれの挨拶をした。
その中で一番元気が良かったのは栞だと言う事は言うまでも無い。

「うん……栞、おはよう」

「うん♪おはよー♪」
どうやらすさまじく元気なようで、将門の周りを嬉しそうにグルグルと回っている。
本人がいるから言えないが、埃が舞ってしまうので遠慮願いたい。

「まさかど〜♪ごはん〜♪」

「そういえば朝食はまだだね……って言ってもさっき起きたトコだけど……美也ちゃんも食べる?」

「あぅ……はぃ…‥zzz」
どうやら美也はまだまだ眠たいらしく、起きてすぐにまた布団に倒れて眠ってしまう。
だが、それを栞は許さなかった。
まるで疾風のように美也の元に駆け寄り、これでもかと言うほど強く美也の頬を引っ張った。
まぁ、これでもかと言うほどといっても、所詮は小さな子供の腕力だ。
だが魔物なのも考慮すると、その弱弱しい筈の腕力に補正がグンと掛かる。
なので栞の腕力は美也と同等と言った具合だろう。
要するに、無防備な美也がそれほどの力で頬を引っ張られると。

「いだだだだだだだっ!ひ、ひおひひゃん…いはいおぉ…」
当然痛い。

「おきろ〜♪あははははっ♪」

「すっごく元気だねぇ……さって、僕は食事を作って来るね」

「あぅぅ……あっ、わはひもへふらいまふ!」
折角手伝ってくれると言っているのに、栞がこうやっていては手伝えるものも手伝えないだろう。
というか、いつまでああしているつもりなのだろう。
そろそろ美也の目尻に涙が溜まってきている頃合いなのだが。

「んもぉ……やーめーてー!」

「きゃははははははっ♪みや、おこったー♪」

「……なんか、少し成長した?」
よく見れば昨日より幾分か大きくなった気がする。
まるでスライムが水を吸って大きくなったように、そのままの形を保ちながら少しだけ大きくなったような感じ。
他にも、昨日までは殆んど「まさかど」以外言う事が無かったのに、今となっては感情表現も豊かになったし、何より楽しげに遊んでいる。
多少の言葉なら喋るようにもなっているし、なんだか娘の成長が楽しくてたまらない父親の様な気分だ。

「ううん……何を作ろうか…」
食材を考えつつ、日持ちする物の中でそろそろ食べなければ危ないと思った物を取り出して行く。
大根のおひたし、胡瓜の塩揉み浸け、わかめの佃煮、豚肉の昆布巻き、その他諸々。
ハッキリ言って一品ばかりで主菜がない。
米ならば炊けばいくらでもあるのだが、今からでは少し時間に余裕が無い。
自分の傍ではお腹を空かせた少女が二人、食事の用意や手伝いに動いてくれている。
ましてやその片割れは、まがいなりにも魔物である。
いつ空腹に耐えきれず襲い掛かって性的な事をしでかすか分かった物では無い。
まぁ、あんな小さな子供がそんな手段を覚えている筈も無いのだが。

「………そうだ!」

―――――――――――――

「いやぁ、ありがとうございます」

「全然いいのよ〜♪」
将門は、ご近所付き合いの一つも無いと言う訳では無かった。
これもその結果の一つと言えるだろう。
今、将門の前には一人の女性が立っている。
この人は、近所に住んでいてここらで一番大きな大道具屋を営んでいる形部狸の御厨さんという。
最近になって、娘が生まれたらしく上機嫌にその子供を背負っている。
名前はもう決めてあるらしい。
『御縁ちゃん』だそうだ。
母親に似た、人に対してとても優しい娘に育ってほしいと、将門は心の中で祈っていた。

「にしても、いつの間にこんな子供が出来てたの?」

「いえ、気が付けば転がり込んで来ていたんですよ」
それ以外にどう説明しろというのか。
「目が覚めたら目の前でニヤニヤしてたので、飼ってます」とはとても言えない。
と言うか、そんな言い方をする人間はクズだと私は思っている。

「まさかど〜♪まさかど〜♪」

「フフフッ♪随分とベッタリなのね♪」

「いやぁははは……あ痛っ!」
仲睦まじくお喋りしていると、背後から尻に針の様な脚を刺してくる奴がいた。
誰であろう栞だ。
その顔はムーッと膨らんでいて、何を考えているのか想像するのは容易い。

「あら?妬いてるの?」

「っ!?ムーーーッ…」
どうやら図星のようだ。
ニヤニヤしながら栞を覗きこもうとした御厨から逃げるように、栞が距離を取って行く。
あっという間に、栞は将門を柱としてバリアを完成させていた。
柱の向こうからガルルと唸り声を上げてはいない物の、警戒心MAXでガンを飛ばしてきている。

「あらら……機嫌悪くしちゃったかしら?」

「そ、そうですかね…」
どうみても子供が狸に牙を向けているようにしか見えないし、それ以上にもそれ以下にも発展はないだろう。

「それじゃ、これから御飯?一緒に食べない?」

「えっ?いいんですか?」

「えぇ、もちろん。今、友人も来てるんで一緒にどうです?後ろの女の子も」
御厨の言っている先は、どうも栞ではなかった。
どうやらその更に後ろを見ているらしい。
すると、茂みの陰から飛び出てくる人影が一つ。
その人影とは、紛れも無い美也その人だった。

「あっらら……ばれちゃった…」

「まるで忍者ね…」
イメージ的に武器やら薬やらを積んでいそうな形部狸に忍者と言われる人間と言うのもどういうものだろうか。
すると、暫く驚き云々で硬直していた栞が将門の服を強く引っ張りはじめた。
何事かと振り向こうとしたその時。

グゥゥゥゥゥゥゥ…

「……まさかど、おなかすいたー…」
どうやら栞の腹の音らしい。
後ろで美也も腹を触っているのを見ると、美也も空腹なようだ。
これはもう、御馳走になるほかないだろう。

――――――――――――

「ふはぁ…よく食べたぁ…」

「お腹いっぱぁい…」

「……zzz」
御飯を御馳走になり、お礼を言って御厨宅を後にした三人は、そのまま帰り道に来ていた。
良く食べた後に、よく遊んだ栞は、既に疲れ果てたらしく将門の背中で眠っている。
アラクネ種を背負ってみて分かった事だが、蜘蛛の腹が以外とバランスを崩す原因になっている。
パッと見ただけだと狸の尻尾のようにも見える。
もしかすると栞を背負う役目を美也に任せれば、誰かが形部狸と間違えて飛びついてくるのではないだろうか。

「しっかし、よ〜く寝てますねー♪」

「うん、本当に…」
グッスリと眠って起きそうにない栞の寝顔は、なんとも心を和ませる物があった。
それが魔物故の魔性なのか、子供に良くある「何か分からない癒し」なのかは分からない。
ただ、一つだけ言えるのは二人とも栞の事を「可愛い」と感じている事だ。

「……アレ?道こっちでしたっけ?」

「えっ?あってるはずだけど…」
二人の言う違和感は、唐突に起こった。
来る時にも来た筈の道。
しかし、目の前の道は通って来た筈なのに全く見覚えが無かった。
そう、まるで迷路に足を踏み入れたような、そんな感覚が二人を襲う。

「こ、これって…」

「……蜘蛛の巣?」
暫く道を行く二人だったが、唐突に目の前に大きな蜘蛛の巣が現れた。
まるで通せんぼするかのように張り巡らされた蜘蛛の巣には、多数の虫がかかっている。
しかし、巣の主である蜘蛛の姿はどこにも見えない。

「……」
不安になってきた美也だが、唐突に何かを感じ取る。
それはまるで、茂みの中から瞳をのぞかせる野生のトラのようにも思えた。

「ま、将門さん……将門さんっ!?」
傍に居る筈の将門の傍に居ようとする美也だったが、その手は空を掴むばかりで一向に将門に辿りつかない。
その代わりに、足元では眠ったままの栞が倒れている。

「栞ちゃんっ!?」
慌てて栞を抱き上げた美也。
周りには全くと言っていいほど人の、いや生き物の気配が無い。
あるのは蜘蛛の糸ばかりで、虫すら居なくなっている。

「将門さん……どこ行っちゃったの…?」
―――――――――――――――

「……」
将門は今、少し変わった状況下にあった。

「…な、何よ…」
目の前には見た事が無い、だがどこかで見覚えのある顔があった。
と言うか、額と額がくっつきそうな程の距離だった。

「いや、なんで僕がこんな状態なのかな、と思って」
それを今一番気にするべきだと思う。
将門は今、両手両足を縛られてまるで棺に眠る死者の様な格好をさせられていた。
その上に目の前の彼女がのしかかる格好になっている。

「やっと見つけた夫なんだもの……逃げられたら困るじゃない?」
と言う事は、彼女は男狩りに躍起になっていたと言う事だろう。
それだけで彼女が人間ならざる者だと言う事はだいたい想像出来た。
そして何より、彼女の下半身にあるべき感触が無かったのだ。

「……」

「あら?女郎蜘蛛が初めてなんて言わないわよね?ずっと一緒にいたんだもの」
勿論、ずっと一緒にいた覚えなど将門には一欠けらも無い。
気が付けば彼女の顔が少し赤らんでいるような気がするが、将門が気付くには微々たるもの過ぎる。

「えっと…」

「何よ?今更解いてとか言うんじゃ…」

「どちら様ですか?」
その言葉を聞くと、彼女は驚いたような顔をしてグッと再び顔を近づけてくる。
どうやら顔を近づけるのが好きらしい。

「何言ってるのっ?!私よ!香!貴方、清明の妻である香!」

「えっと…僕の名前、将門って言うんですけど…」

「えっ…」
将門の名を聞いた香はその場に凍りついたように動かなくなってしまう。
その隙に抜け出そうにも、将門に縄抜けのスキルなど無く、ただただ香が解凍されるのを待っているしか無い。
暫くしても一向に動かなかった香だったのだが、唐突に動いたかと思うと頭を下げる。

「ごごごごごご、ごめんなさいぃ!」
そう言って彼女は、将門の縄を解いて行く。
と言っても、香が蜘蛛の足をスッと通しただけで簡単に切れてしまった訳だが。

「え、えっと…」

「本当にごめんなさい!夫にしか見えなかったから後を付けてて……それで、今まで封印してくれてた腹いせに犯し上げてやろうと思って…」
どうやら旦那が清明と言うのは本当らしい。
だとすると幾つもの矛盾が生まれる。

一つ、どうして彼女はこの時代に居るのか。清明が活躍していたとされる時代は600年以上も前の話の筈だ。
二つ、その清明になぜ将門が瓜二つなのか。これは家系図を洗い出せば見つかるだろう。
三つ、彼女はどうして封印から出てこれたのだろうか。HP形式で、削れば破けた?それとも時間経過で解ける物だった?
四つ、そもそも何故将門のすぐ近くに香が居たにも関わらず事がここに来るまで起きなかったのだろうか。

他にも色々あっただろうが、今の所はこれくらいだろう。

「つまり、旦那と勘違いして犯そうとしてた、と…」

「本当にごめんなさい…」
お互いに、これ以上の事は今は言えなかった。
と言うより聞ける雰囲気では無い。
と、ここで将門に妙案が生まれた。

「突然ですけど、教えておく事があります」

「…えっ?」

「ここは、貴方のいた時間じゃない」
暫くの間、沈黙が続いた。
二人の視線だけが交わされる時が進んでいく。
しかし、その沈黙も長くは続かない。

「……えっ?」
不意に、香がそう声を漏らす。
どうやら事態を把握できていないらしい。

「今は江戸時代と呼ばれる時代で、貴女が居たのは本が正しければ平安時代。時代が違うんです」

「……?」
まるで分からない、と言うよりも認めたくないと言う様な表情のまま、香は唖然としたまま動かなくなってしまう。
だが、不意に香の唖然とした表情を崩す者が現れる。

「……さーん!」

「……かど〜!」
遠くの方から、将門の聞き覚えのある声が聞こえてくる。
別に霧が掛かっていたりした訳ではないのだが、それでもこの辺りの雰囲気はおかしかった。
先程までは気にも留めていなかったのだが、ここは城下町のはずれにある、下層区と呼ばれる貧困者が寄り集まる所だ。
しかし、その割には人気が無さ過ぎる。
周りからの話し声も聞こえないし、夕方にふさわしい料理の匂いが漂っている訳でも無い。
まるで幽霊街のようだった。

「……人払い?」
ふと物思いに耽った将門は一瞬にしてこの異変の原因を突き止める。

「その通りよ」
証拠にと言って、香は一枚の札を袖から引っ張り出す。
その札には奇怪な文字が連なっているが、将門にはその印に見覚えがあった。
なにせ、魔術師にとっては初歩の初歩であり、そこらの書店でも売っていそうな入門書の最初の方に描いてあるからだ。

『羅生避けの印』
魔術師や陰陽師が比較的初期に覚える人避けの魔術である。
複雑な術式を崩されないよう周りに生き物を寄せ付けない空間を作り出す。
その内部に入ろうとする者は何らかの要因によってその場を離れ、入りこもうとする動物は天敵に追われる運命を孕む。
そして何より、元より内部に居た者は一瞬でも動きを止めれば、そこで時が静止したように動かなくなる。

「良く知っていたわね。ごく最近開発された印なのに」

「僕らの時代では比較的に言えば周知されてる方ですから」

「なるほどね」
などと二人で話している間に、美也と栞が見える位置まで来ているのに気付いた。

「将門さんっ!」

「まさかど〜!」
将門の姿を見つけた二人の表情は、これまでになく明るい表情をしていた。
そして将門の元へ駆け寄る二人は、そのまま押し倒すように将門を突き飛ばす。

「うわっ!?」

「ま……まさかどさぁん…」

「ましゃかどぉぉぉ…」
将門に抱きついて倒れた二人は、まるで子供の様に泣きじゃくっていた。
美也にもなると、顔中が涙でグシャグシャになっている。

「あっ…」
自分の娘の姿を見た香だったが、その手は栞へ伸びる事は無かった。
だが、暫くして二人が泣き止むと、栞は改めて香の方を向く。

「かかさま…」

「……」
香の表情は、申し訳なさと罪悪感で見るに堪えない程暗くなっている。

「かかさまも、しおりも、まさかどのおよめさんっ♪」

「……えっ?」

「えっ?」

「え?」
栞の言葉に、そこにいる全員が疑問符を浮かべ、次の瞬間には漫才のようにあった掛け声で驚いていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
香と出会い、かれこれ数ヶ月が過ぎた。
あの後将門は、香と結ばれ栞も義理の娘となった。
それから、美也は世話係として今もなお将門の傍に居る。

「あなた?お風呂の準備が出来ましたよ?」
廊下を歩いてくるその声は、紛れも無く香の物だった。
香は、元の時代に帰る術もないと陰陽師に聞かされると、特に困った様子も無く将門を愛すると言ってくれたのだ。
鞍替えの早い女とは思うまい。
聞いた所によると、元の夫である清明ともあまり良い仲ではなかったらしい。
だが、そんな清明との間に成した栞は、香にとっては宝物であるとの事。
もっとも、その愛する娘は今となっては自分の夫を取り合う仲だが。
しかし、その中心にいる将門にとって『香と栞が蜘蛛の糸を絡めて僕を自分の物にしようとしている』光景は微笑ましい限りだった。

「あぁ、すぐに――」

「まさかど〜♪」
本を読み終え、積み上げられた書籍の一片とした所で声をかけられた将門にとっては、一休みするのに最適だった。
本ばかり読む仕事上、肩や首の凝りが酷いのである。
時折、針医を呼んで針治療をして貰うのだが、あまり効果が無いのでその内針医を変えようと思っている。
そんな事を考えている将門を、栞はその蜘蛛の体躯を活かしての体当たりをしてきた。
まだ小さいのでそこまでのダメージではないが、大人が吹っ飛んできたくらいの衝撃に、不意を突かれた将門が耐えられる筈も無く。

「うわっ!?」

「えへへ〜♪まさかど〜♪」
突き飛ばされる衝撃に踏ん張る事も出来ず、将門はその場で倒れる。
その上に、栞が馬乗りになると着物の中に将門の上半身が隠れてなんだかヤっているようにも見える。

「あっ!こら栞っ!」

「まさかど〜♪ちゅ〜しよ〜♪」
怒鳴る香を余所に、栞は将門に顔を近づけていく。
そのまま将門に口づけをしようとした矢先で、香にそれを止められた。

「むぅ〜、かかさまもしてる〜!」

「わ、私はいいのよっ!」

「かかさまだけなんてずる〜い!しおりもしたい〜!」

「ダメっ!」

「ひっ!」
口論を続ける親子だったが、二人は気付いていない。
香が怒って床を蹴った際、将門の顔の横数pの所に突き刺さり、将門が恐怖のあまりに気絶した事を。

「まさかど〜。まさかどもしおりがすきだよね〜?」

「っ!!私の方が好きよねっ!ねぇったら!」
二人が呼びかけるが、将門が返事をする事は無い。
まぁ、気絶しているから当然な訳だが。

「……っ?!まさかど〜!?」

「えっ?あなた?ねぇ、将門……?まさかど〜〜〜!」
まるで死んだように動かない将門にやっと気付いた二人は、その場で泣き崩れる。
しかし、魔物の本能とは恐ろしきかな。

「あっ♪ぴくってなった♪」

「ほ、ほんと?!よかったぁぁ!」
ほんの少しの動きも、密着している二人が見逃すわけが無かった。
気絶して動けないだけと分かるや否や、二人に邪な思いが湧き出る。

「(さきにかかさまをおふろにいれて、そのあいだに…)…かかさま、おふろいってて」

「(先に栞を風呂に入れさせておいてその間に…)…栞、お風呂に行ってなさい?」
二人の言葉は、全く同時に紡がれていた。
全く、親子故に似た事を考える物である。

「もういっその事、全員でシちゃいます…?」
いつからそこに居たのか、廊下の入り口には美也が立っていた。
美也がそこに立っている事自体は不思議な点でも何でもない。
彼女の格好が問題なのだ。
割烹着を出来るだけ小さくした前掛けを羽織り、『それ以外は何も着ていない』

「み、美也ちゃんっ?!なんて格好を…」

「ま、将門さんが、この格好が好きだって…」

「っ?!」
顔を赤くしてモジモジしている美也。
その目の前で、栞と香はお互いの顔を見合わせ、同時に頷くと唐突に立ちあがる。

「せいっ!」

「やぁっ!」
二人が、唐突に蜘蛛の糸を飛ばし合う。
傍から見れば、まくら投げか雪合戦をしているような構図だ。
しかし、二人の飛ばす蜘蛛の糸は空中で何かの形を作っていく。
それは まぎれもなく アレさ

「……え、エプロン…?」
そう、二人が作っていた物とは、大きさの異なる二つのエプロンであった。

――――――――――――――――――

「ん……うぅん…」
頭に重い違和感を覚えつつも、将門は目を覚ます。
目を覚ますと、そこは自分の寝室だった。

「あら、やっと起きた?」

「あぁ、香………っ?!」
寝ぼけていたので最初は分からなかったが、視界に『裸に前掛けしか着ていない香』を見るや否や飛び起きた。

「か、か、かお、かおり……それはいったい…」

「あなたが、こう言うのが好きだって…」

「まさかど〜♪」

「将門さ〜ん♪」
動揺しっぱなしの将門を中心に、栞に香に美也の三人が取り囲む。

「将門さん。んっ♪」

「っ?!」
将門のちょうど正面にいた美也が、唐突に将門の唇を奪う。
舌を絡め取り、ぎこちない動きの舌を懸命に絡め取る。

「……」

「みやばっかりずる〜い!」

「そーだそーだ!」
親子で文句を言い散らすが、お構いなしに美也は将門を口で激しく犯す。
その度に、互いの唇から発せられる水の弾けるような音が全員の欲情を促して行く。

「…ぷぁ♪はぁ…はぁ…将門さん…私、ほんのちょっとだけど魔力が…」
しかし、それ以上美也の言葉が続く事は無い。
なぜなら、唐突に将門が美也の唇を奪ったからだ。

「んんっ?!」

「……プハッ…お前達……」
美也との熱い口づけを交わした将門の声音は、いつもの物と違っていた。

「…全員孕むまで、寝れると思うなよ〜!!!」

『キャァ〜〜〜♪』
こうして、覇宝将門の日常は続く。

続くったら続く。

12/07/10 20:29更新 / 兎と兎

■作者メッセージ
正直言って、間を開け過ぎていました。
おかげで内容が支離滅裂になりかけているようです。

これからは、前の様な、執筆にに対して前向きな自分を追いかけたいと思っています。

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