読切小説
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表舞台に出てこなきゃどうしようもないってだけの話
 その部屋は、昼間だというのに分厚いカーテンが閉め切られ、真夜中のように暗くなっていた。
 
 部屋の片隅にはシングルベッドが置かれており、その上で男が座り込んでいる。

 男の髪は適当にハサミで切ったのか酷く不揃いだった。

 身体は骨と皮だけになっており、痩せぎすという段階を越えており、例えて言うならナナフシのように痩せ細っていた。

 誰かが彼の腕を握り、軽く握ったら容易く折れてしまいそうな程細かった。

 目は開かれているが、どこを見ているわけではない。

 ただ、閉じられていないというだけで、『目』としての役割は既に果たしていなかった。

 この状態を誰かが見たなら、『生きる屍』と評しても何らおかしくはないだろう。

 もちろん、口は開かれず言葉が紡がれることもない。

「クスリ、置いておくわね」

 若干年老いた印象の女の声がドアの外から聞こえる、声の主は彼の母親だった。

 クスリ、というのは彼の食事である液体状の各種栄養剤だ。

 日の当たらない所で眠るだけの生活を続けた結果、彼の胃は固形物を受け付けないほどに弱り切っていた。

 転げ落ちるようにベッドの上から降り、這いずりながらドアに向かう。

 彼の足腰は立つ事で精一杯なほど貧弱なものになっていた。

 それでも何とか部屋の入口にたどり着き、わずかにドアをあげて部屋の前に置かれていた栄養剤に手を伸ばす。

 そして、そのまま全ての栄養剤を飲み干してドアと閉じ、息を切らしながらも床の上を這いずりベッドの上に戻った。

 このような生活を長く続けた場合、普通なら死んでしまうだろう。

 実際、彼は既に死に体のようなものだった。

 別に、死にたいという訳ではなかった。ただ、生きるのが辛くなっただけだった。

 彼がなぜそう思ったのかは、既に彼自身が分からなくなっていた。

 故に確かめる術もなく、確かめる意味もない。

 ……話は変わるが、この世界は既に魔物娘で溢れかえっている。

 魔王の娘である、とあるリリムを筆頭とし日本のあらゆる所に潜み、日常へと溶け込んでいった。

 現在、この日本という国は魔物娘の巣窟であり、日本にいれば魔物娘を見ない日は無いというぐらいである。

 そして、彼は当然の如く童貞であった。

 魔物娘が溢れる国に置いて、童貞が長い間放置されるのか? と聞かれれば、本来はNOと言い切れる。

 しかし、何故童貞である彼が今まで魔物娘に襲われなかったか。

 その理由は彼の精が極端にまで薄いことにあった。

 極端な例え話になるが、お湯が並々と注がれた風呂釜に牛乳を一滴垂らして良くかきまぜた所で、そのお湯は牛乳の味、牛乳の臭いがするのか? ということである。

 精は生命エネルギーである。

 すでに「動く死体」と変わらぬほどに心身ともに弱り切った彼の精は、魔物娘ですら感知できないほど、極端に薄まっていたのだ。

「……」

 すでに声の出し方すら忘れてしまった彼の所に、魔物娘はまだ来ない。

(……クスッ♪)
 
 ……きっと、今のところは、まだ来ない。
19/09/03 22:48更新 /

■作者メッセージ
最後に出てきた笑い声は魔物娘の声です。

どのような魔物娘かは想像にお任せします。(考えてないだけ)

そして、こんなもの書いてしかも発表してるから私は屑だというのだ。

名は体を表すというが、全くその通りだと自分で思う。

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