昨日、エヴィセルアリャートさんに『この世界で人間の生活を脅かす魔物を倒す為に力を貸して欲しい』、と言われた。
なにゆえ私なのかと言うと、勇者となる為の相性がどうたらこうたらで、なんたらかんたらがなんやかんやで私が適任だったらしい。
専門用語と思わしき単語を並べられて正直訳わかんなかった。
取り敢えずわかっている事は、ここが私の暮らしていた世界じゃない世界で、
人に害する魔物が居て、
そしてエヴィセルアリャートさんが住むこの街は騎士団を結成しいて、
魔物に対抗する為に私がエヴィセルアリャートさんに召喚されて、

「ovnmjp、bxmfvuideq！」
「jfgi。ghscvb、sdfh」
「sdf…dh」
「haheder！ kvoisd！？」
「…………」

エヴィセルアリャートさん以外何言ってるかさっぱりわからないと言う事だけだった…。

勇者（私）が召喚されたと言う事で騎士団の一部の人達限定でお披露目会的な事が行われたのだけど…。
「みんな貴女の事を歓迎しています」
歓迎しています、って言われても…。全体的に歓迎ムードでは無い気がする。凄い睨んでくるし…。
「ええぇぇ…。絶対違うと思うんだけど…」
「では彼らを紹介しますね」
また無視されちゃった。
「右からシュハ・メンゼラト、ミルアレス・クロン、センメロ・アキラコ、グレオ・マーセナー。リィン・ルル、です」
「え！？ちょ、もうちょっとゆっくりちゃんと紹介して」
そんな早く言われてもわかんないよ！
「しかたありませんね。ではもう一度右から…シュハ・メンゼラト。ぱっと見細身の優男ですが槍術には目を見張るものも稀にある蜂蜜男です」
蜂蜜男ってなに？金の短髪のシュハさんは私がぺこりとお辞儀をすると、にこにこと手を振ってくれた。なんだか良い人そう…。
「次、ミルアレス・クロン。彼女は剣と魔法の両方を使いこなす器用な人です。ですがどちらも結局中途半端です」
黒い髪をした女の人は私を見た後、エヴィセルアリャートさんと二言三言会話し出した。
エヴィセルアリャートさんの声は私に向けたものじゃないと私はわからないみたいだ。
そう言えばテレパシーとか言ってたっけ？本当の声じゃないのかなぁ…。
「その隣、センメロ・アキラコ。彼は広域魔法の使い手です。強力ですが、効果範囲はその時の気分で、その範囲内は敵味方関係無しと言う非常に困った爺です」
長い白髪のおじいちゃんは下を向いてなにかしている。……知恵の輪？
「そこの肉達磨はグレオ・マーセナー。見た目通り、力で相手をねじ伏せるしか脳の無い人です」
「adcrgdpoik！！」
はｇ…こほん、スキンヘッド？のグレオさんが何か私に向かって言っている。
なんか怒鳴っているみたいだけど、何言っているか全然わかんない…。
「dkkjb！！！」ガンッ！！
「ひっ！」
机叩いて凄い怒鳴られた…。な、何なんのあのはげ！
「dfngijb」
「soth！！」ガタッ
「dpolzwf。dgqlocx、vrgshset」
なんかミルアレスさんと言い争いを始めた…。
「oxbewunn」
「pk、fbbntmxz」バンバン
「lxand、sfng。olrtvdfp！」
「え、ええっ？」
あああ、シュハさんとセンメロさんも参戦しだしちゃったよ。どうすんのこれ？
と思ってエヴィセルアリャートさんを見ると、特に困った様子も無い。
「彼らなら勝手にやらせといて大丈夫です。…最後に、さっきこの部屋から出て行ったのがリィン・ルルです。基本喋らない、意思疎通の難しい人です」
「えぇ！？で、出てったって」
さっきまで一人居た筈の所には誰も居なかった。い、いつの間に。
「それもいつもの事です」
大丈夫なの…？
「その他の団員にはまた違った機会を設けますので少々お待ちください」
エヴィセルアリャートさんは終始にこにこしていた。

……

「では、また明日」
「はい」
私に用意された広くて豪勢な部屋でエヴィさん（エヴィセルアリャートさん、は長すぎるから好きに呼んでもらって構わないと言われた。正直凄い助かる）と食事とかお話をして今日が終わった。
あれ？そう言えばなに話してたっけ？まあいいか。５人に挨拶した位しかしてないけどなんだか疲れたし、早く寝よう。
私は天蓋がついたただっ広いベッドに潜り込む。ふかふかだぁ…。これならすぐに眠れそう。
部屋の照明（電気は無いけど魔法って便利なんだね）を消して、目を閉じた。
「おやすみなさーい」


……


トイレ行っとけばよかった。
仕方なく今し方消したばかりの照明を付けて、ごてごてと装飾されたドアを開けて部屋を出る。
えーっと、こっちかな？
確かこっちにトイレがあったと思うんだけど…。


……

……

……

「……ここ、どこ？」
建物の中で迷子になるなんて初めてだよ…。
しかも廊下の照明がつかないから暗くてよく見えないし。
どうしよう。我慢も限界近い。

――ずりっカツン、ずりっカツン

「！」
あ、足音がする！良かった、トイレの場所が聞ける。

――ずりっカツン、ずりっカツン、ずりっカツン、ずりっカツ…

「エヴィさぁー……ん…じゃなかった…」
暗闇の中から現れたのは、引きずるくらい長い焦げ茶のコートみたいなもの（これをローブって言うのかな？）を着て、フードを目深にかぶった子供（多分。小学生位の背丈だし）だった。
口元も布で隠しているから顔が全然わからない。
ローブが大き過ぎるし、はたから見たらテルテル坊主みたい。
「……」
確か、紹介された時にいつの間にか居なくなってた人だ…リィンさん、だったかな？
「あ、あの…迷っちゃって…ﾄ、トイレ何処ですか？」
「……」
リィンさんは黙って直立不動を保っている。
そう言えば私がこの世界の言葉わからないんだったら、こっちの人も私の言ってる事わからないんじゃ…。
「……」
どうしよう、かなり危険な状態になって来たんだけど…。
身振り手振りで伝えようにもトイレってどうやって伝えればいいの？
「あ、う…、えっと…」もじもじ
「……」リィンさんはダムが決壊しそうな私の横を通って行った。
お、置き去り…。
「……」
と思ったら、少し行って立ち止まると私の方を向いた。
「……」
「…連れてってくれるの？」
もしや、もじもじしてたのでわかったのかな？って、聞いても言葉わかんないだろうけど。
でも、顔も見えないけどついてこいって言ってる気がする。
「……」
「あ、まってぇ」

……

結局、トイレは私の部屋のかどっこの方に備え付けてありました。


















―――

あんな小娘が勇者とはな。

騎士団の士気向上くらいしか使い道がなさそうだが、あの様子だとそれも危うい。

奴はあんな凡人に何を求めている？

その身に纏わり付く主神の力が重要なのか、はたまた、内に秘めたるモノがあるのか…。

真意はわからないが、どちらにしろ奴の操り人形になるのは目に見えている。

■作者メッセージ
シュハさんは常にマイ蜂蜜を持ち歩いているので蜂蜜男と呼ばれています。
ミルアレスさんは器用貧乏ってやつですね。
センメロ爺さんのイメージはフー○ーヤーだったりします。
グレオさんこと肉達磨は…肉達磨としか言いようがないです。
そしてリィンさんだけ別に登場シーンがあるという…。

あと、彼らのセリフの内容は決めてありますが、アルファベットは意味ありません。読めません。