読切小説
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熱盛

「ついにこの日が...」

指折り数えて待ちわびたX-dayに俺は静かに心震わせた。

今日から俺は無人島に引っ越す。

決して大罪を犯して島流しに遭うわけではない。
新しい生活を開拓するべく事前から応募していた刑部狸開発の『無人島移住パッケージ』に参加することとなったのだ。

数ヶ月前都会生活に疲れた俺は、自宅の郵便受けに入っていた勧誘チラシを分別している時に一枚のチラシが目に留まった。
「無人島開拓で新生活してみませんか?」
無人島という都会人には縁遠い単語に興味を惹かれた俺はいつも通りのコンビニ飯を食べながら内容に目を通していた。
要約すると以下の様らしい。
・希望者数名で移住
・スタッフ同行でサポート付き
・費用は当社負担※べっと費用あり
これから事業を始めるに当たっての先行段階であるらしく島での収益の数%はいただけるらしい。これは非常に魅力的だ。俺は早速サイトに飛び申し込みをした。

集合場所である空港に到着し期待に胸を膨らませながらゲートを通る。

「無人島移住パッケージご利用のお客様はこちらでーす!」でーす!」

カウンターで2人の刑部狸が手を振り周りに呼びかける。俺です。と手を挙げ、カウンターに寄る。近づく俺に気づいた2人は笑顔で迎えてくれた。

「今回は当パッケージをご利用いただきありがとうございまーす!」まーす!」
「私たちはサポートスタッフのまめこと...」
「つぶこでーす!」
「これからよろしくお願いしまーす!」まーす!」
「よ、よろしくお願いします...」

双子だろうか、ものすごくクセが強い。

「それでは早速本人確認のため、お名前と誕生日を教えてもらってもいいですか?」
「あ、はい。こばやし ゆうです。2月5日生まれです。」
「こばやしさんですね?ありがとうございます。えっと...こばやしさん、こばやしさん...あ!はい、確認できました。」

備え付けのパソコンで忙しなく作業するまめこさんと奥の棚で書類を探すつぶこさん。やがて互いに目的を達成し満足顔でこちらに戻ってきた。

「お待たせしました。こばやしさん、出発する前にいくつか手続きをさせていただきますねー。」ますねー。」
「まず島民カードを発行する上で顔写真が必要になるので、そちらで写真を撮ってもいいですか?」ですか?」
「わかりました。奥ですか?」

出発前に写真を撮るっていうのもなんか手際が悪い様に感じたが、指定された場所に行ってみて納得した。

「すげー衣装がたくさんある...」
「こちらの衣装からお好きなものをお選びください。撮影後は衣装は差し上げまーす!」まーす!」
「本当ですか!これもタダ何ですか?」
「もちろんでーす!」でーす!」

至れり尽くせりだなとワクワクしながら服装を選ぶ。あんまりオシャレすぎても行き先は無人島だから動き易いカジュアルな服装にすることにした。

「じゃあ、これでお願いします。」
「分かりましたー。早速お撮りしますねー。」ますねー。」

何枚か写真を撮ってもらい出来のいい一枚を使ってもらうことにした。

「いい写真が撮れましたねー。バッチリです。これなら社長も喜んでくれますよ!」ますよー。」
「...社長さんも無人島行くんです
か?」
「当たり前じゃないですかー。折角こばやしさんのために用意した愛のs、ンー!ンー!」
「まめ、それ以上は言わない約束だなも...」
「???」

急に2人が取っ組み合いを始めたがその意図はさっぱりだった。

「し、失礼しましたー。」ましたー。」
「それでは続いてアンケートなんですが、無人島にひとつだけ持っていくとしたら次の内どれがいいですか?」

・寝袋
・灯り
・食糧
・暇つぶし

どれか持っていけるのか?現地調達が難しいもので考えると灯りかなー?

「それじゃあ、灯りで。」
「なるほど、なるほどー...!すみません、今のは無人島と言ったら定番かなーと思って興味本位できいてみただけです。」でーす。」
「なんじゃそりゃ...」

そんな他愛もない会話も挟みながら、
俺は手続きを済まして行った。

『アテンションプリーズ、お客様にご案内です。無人島移住パッケージご利用のお客様のチャーター便の搭乗準備が完了しました。お客様はゲートまで速やかにお越しくださいませ。』

「ちょうどいいタイミングですね。」
「はい、それではこばやしさん。ご一緒出発しましょう!」ましょー!」

〜〜〜〜〜

「皆さま、長旅お疲れ様です。着いたばかりのところで申し訳ありませんが、今から皆さまには無人島生活のオリエンテーションを受けてもらいます。」
「近くの広場にうちの社長が待機していますのでまずはそこまで移動をお願いします!」

飛行機から指示を受ける。しかしここはいいところじゃないか、小さい島ながらも海は綺麗だし山もある。おまけに川も数本。俺は大自然の景色に圧倒されながらも整地のされていない荒々しい道を進んで行った。

「いやー、移動ばっかり疲れちゃうねー。チェキ。」
「そうですねーブーケさん。人間の体には持ちませんよー。」
「そうなの?だったらオネーサンがお姫様抱っこで運んであげよっか?アハッ。」
「冗談でも勘弁してくださいよーモニカさん...」
「そーだよ、モニカ!抜け駆けは良くないよ!」
「ははっ...そういう意味じゃ...」

この2人はワーキャットのブーケさんとワーウルフのモニカさん、2人とも俺と同じくこのパッケージを希望したらしい。飛行機の中で話しかけられてからすっかり気に入られたらしく、今少し股間が危うい。だけど同じ無人島移住を希望したもの同士ということもあって、とても気が合う人たちではある。そんな2人に揉みくちゃにされながらも俺は無事広場に到着することができた。

「みなさんちゃんと揃ってますか?念のため点呼取りまーす。」

一人ひとりの名前が呼ばれ各々が返事をする。

「社長!今回の希望者3名全員揃いました。」ましたー。」
「はいはい、お疲れ様です。えーとそれでは...どーもどーも!皆さん!ようこそだなも!」
「ウチはこの無人島移住パッケージを企画した刑部狸開発の社長、たぬこと申しますだなも!」
「今日から皆さんはここで無人島生活を始めるだなも!」
「...とはいえこれはあくまでもパッケージプラン!」
「皆さんが楽しく安全に生活できるよう、ウチらスタッフがサポートするだなも。」
「...ということで!まず皆さんには寝床の確保をお願いするだなも!」
「ウチは不動産業もやっているから家を建てることもできなくもないけど...」
「折角の無人島暮らしを存分に楽しんで貰えるよう!今回はテントを用意させてもらっただも!」
「ここにいるまめこか、つぶこからテントをもらって、好きな場所に張ってきてちょうだい!」

たぬこさんの話が終わりテントを受け取る。たぬこさんすげーな不動産とかもやってんだー。いつか家でも建てて貰おうかなって、無人島移住するからお金は一銭も持ってきてなかった。まぁいつか機会があればってことで...テントどこに張ろうかな?

「ねぇ?こばやしくん、何処にする?アハッ。」
「私はこばやしくんの近くがいいかなぁ?チェキ。」

Oh...どうしたものか。別に近くに住むのには抵抗はないが陽が沈んでからが怖い。

「そんな怪訝そうな顔しないの!チェキ。」
「そうそう!私たちはただピュアに助け合いたいだけなんだから!アハッ。」

だめだこれは折れてくれそうにない。そもそもここは小さな無人島なんだ、どこにいようがヤられるときはヤられる。

「分かりましたよ...俺はここら辺にしようと思ってるんですけど、それでもいいのなら...」
「もちろんよ!素敵な場所じゃない!アハッ。」
「そうね!少し想像してみましょう。チェキ。」

そう言って2人は目を瞑り空想の世界へ旅立った。
プッシュ!!
そうして2人とも鼻血を出して帰ってきた。ティッシュもないのでそこら辺の綺麗な葉っぱをほぐして詰めた。

何やかんやあったがテントの設置も無事終わり広場戻る。その頃にはとっぷり日も暮れていた。

「やぁやぁ!気に入った場所は見つかったかな?」
「しばらく寝泊まりしてみて何かあったらウチに相談すればいいだなも。」
「それじゃあ今から親睦会も兼ねてキャンプファイアーをするだなも!」

たぬこさんの発言に周りの人々が盛り上がる。もちろん俺もだ。キャンプファイアーか子供の頃以来だな...そんな過去を懐かしみながら割り振られた作業をこなす。

「3、2、1!点火だなも!」

たぬこさんの掛け声と共に灯された火はあっというまに燃え移り大きな炎となった。

「「「おぉ!!」」」

星の光しかないこの無人島に放たれたこの大きな光源は、体だけでなく心までも温める...そんな光だった。
キャンプファイヤーを囲んだ俺たちにたぬこさんは現地調達したオレンジでジュースを振る舞ってくれた。都会で生活していた時には感じられない充実感でいっぱいだった。
それからしばらくした後、「そういえば」とたぬこさんが話を切り出した。

「いつまでもこの島を無人島と呼ぶわけにはいかないと思っただなも。もう有人島だなも。そこでここにいるみんなに島の名前を考えてほしいだなも。」

島の名前かーどうしようかな?

「はいはーい!私に1つ候補がありまーす!チェキ。」
「ブーケさんどんなのだなも?」
「それは...き島(とう)!!」
「はい!それ言うと思ったー!」
「なぁに?私たち同じこと考えてたのー?相性バッチリじゃない!チェキ。」
「何でそうなるんだ...」
「それじゃ、私も!アハッ。」
「モニカさん頼みますよ!」
「私の考えた島の名前!それは...に○て○島(とう)!!」
「はぁい!!アウトォー!!」
「どうして?最後(どう)じゃなくて(とう)だからいいじゃない。アハッ。」
「公式がその名前使っちゃってるからダメだよー」
「じゃあ何が何がいいのさ!チェキ。」
「そうだそうだ!否定ばっかりして!アハッ。」

うぅむそう言われると困るなー何かないか?この島にふさわしい名前が!この夢の様な生活を表す名前が!ん!?夢のような...夢の...夢...はっ!?

「決まった!この島の名前!」
「いいのが出そうだなも!」
「なになにー?アハッ。」
「気になるー!チェキ。」
「それは!

「ゆめをみる島!!」

「「「「「結局ニ○テ○ドーじゃん!!!!」」」」じゃん!」

き島になりました。

さらに時は過ぎ親睦会はお開きとなった。移動の疲れもありみんながみんな限界だった。

「最後にこれを渡しておくだなも。」
「これは葉っぱですか?」
「まぁ今は葉っぱだけどテントの中で床に置いてみてほしいだなも。」
「は、はぁ?」
「以上で今日は解散!!明日からの無人島生活楽しんでほしいだなも!」

それ以上この葉っぱについては何も触れず皆自分のテントへと帰っていった。
俺もテントに戻り早速葉っぱを置く。

ボフン!!

「うわっ!何だ!」

何と白い煙が晴れるとそこには大きなベットがあった。

「ベットか!いいなこれは!結構デカいけど。」

狭いテントの中にキングサイズのベット御丁寧に天井付き。他に家具は置けそうにないなー。まぁ睡眠は大事ってことだな。
このベットはとても寝心地が良く、俺は慣れない無人島だということも忘れてぐっすりと眠ってしまった。

〜〜〜〜〜

「...さん...ばやしさん...こばやしさん!」
「んーぁあ?はっ!はい!」
「おはよう!もう朝だなも。」
「おはようございます。たぬこさん。」
「その様子だとぐっすり眠れたみたいだなも。」
「あ、はい。お陰さまで?」
「今日から本格的に無人島生活が始まる上で渡したいものがあるだなも!」

そうか今日から無人島生活の始まりだ!何にもないから、何でもできる夢の日々の始まり!楽しみだー!

「まずこれ、スマホだなも。島の中ならどこでもつながるだなも。充電は太陽光があれば大丈夫だなも。あといくつかアプリも入れてあるからよかったら使って欲しいだなも。」
「おぉ!ありがとうございます!これはいいですね!」
「ありがとう。私が開発しただなも。それよりもこっちが重要。」

そう言って一枚の紙切れを渡すたぬこさん。

「何ですかこれは...!」
「請求書だなも。」
「えっでも俺オプションとか全部外してタダじゃないんですか?」
「オプション外してもタダにはならないだなも。」
「へっ?」
「ほらここをみるだなも。」

たぬこさんが指さすパンフレットを見る。

※べっと費用あり

「これ...別途ですよね...?」
「これはベットだなも。使い心地のいい素晴らしいベットだったなも?」

これはズルイって、どうすんのこれ?

「あっ...そういう...ちなみにおいくらですか...」
「ワーシープ毛皮製のキングサイズだから...250万だなも。」
「...すみません...一銭も持って無いんです...」
「!?まさかこばやしさん、無人島生活だからお金使わないとおもってただなもか?」
「...はい」
「困っただなも...」
「申し訳ないです!貝殻拾ってお金稼ぎますから、少し待ってください!お願いします!」
「そんな悠長に待ってられないだなも。」
「そこを何とか!」
「無理なものは無理だなも!お金で払えないだったら...

「一生掛けて体で払ってもらうだなも...」

その時のたぬこさんの表情は親睦会の時よりもずっと笑顔だった。




「やっと手に入れただなも...」
「これから毎日夢を見させてほしいだなも...」
「ねぇ旦那様?」
20/04/25 20:04更新 / 甘党大工さん

■作者メッセージ
「ちなみにですが...たぬこさん?」

「どうしたんだなも?」

「他の2人はどうなったんですか?」

「モニカちゃんとブーケちゃん?」

「はい...」

「それは...秘密だなも。」

後日首輪に繋がれた2人がまめことつぶこに連れられていた。




ここまで書いてあつ森どころかSwitchすら持ってない...
こんなご時世だからこそ家にこもってゲーム三昧。
皆さんも体には気をつけて、それでは。

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