連載小説
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後編
俺は石壁の扉に体を預けるように座っていた。
時折、パラパラと頭に砂が降り注いでは、パタパタと手で帽子を払う。それ以外の動作は殆どせず、ぼうっとしていた。

あの後、タナンはひどく機嫌を悪くした。まさか自分の求愛を断られるとは思わなかったのだろう。
ファラオの力を使えばどんな者でも言う事を聞くし、何より自分の美しさに自信があったから。
しかし、俺は申し出を断った。これは自分でも意外だった。
ニュアンスの問題だったのだろうか。永遠という時間を、美しい伴侶がいるとはいえ、この薄暗い遺跡で過ごす自分をイメージした俺はそれを嫌悪した。もう少し違った言い方だったら断れなかったかも、そう考えると少し寒気がする。
何はともあれ、俺は部屋から追い出された俺は、砂埃舞う廊下で次の手を模索していたのだった。

正直、あの時に嘘でも求愛を受けていればよかったと少し後悔している。ファラオの夫となれば宝も楽に手に入るだろうし、どうにか手を打てば逃げることも出来たはずだ。
しかし、やってしまったものはしょうがない。そんな失敗今まで何度もしてきた。それに、人を騙して金品を奪って逃げるなんてのは詐欺師や盗賊のやること。俺は誇り高きトレジャーハンター、正々堂々とお宝を頂くのが筋というものだ。
だがしかし、どうやって頂くか。結構簡単にファラオの部屋、古代遺跡の中心部に来れたのはいいが、そのせいでこの遺跡の構造をまるで掴めていないのだ。何日かかけてじっくりと調べあげてから入る予定だったのだが、はてさて何処に宝物庫があるのやら……。
いっその事、テトスに案内してもらうのもありかもしれない。そう思った時、彼女たちの姿が見えないことに気付いた。彼女たちも俺と同じく、部屋を追い出された筈だが。

すると、何者かが物凄い勢いでこちらに向かってくる。
「大変にゃ大変にゃー!!」
テトスだった。髪を振り乱し息を切らせながら女豹のように四足で駆けてくる。
「ヨコーネル!ファラオはどうしたにゃ!?」
「あいつなら部屋だよ。まあ、色々あってな……」
素直にタナンを怒らせたとは言いづらかった。しかし、テトスはそんなことを気にも止めない様子でタナンの部屋の扉を叩いた。
「ファラオ!すぐに部屋から、出てくるにゃ!ここは危ないにゃ!!」
「おい、そりゃどういうことだ?」
だが、聞かなくともテトスの焦慮に駆られた様子からただごとではないことは伺えた。
「もうここはダメにゃ!早く脱出しないと皆生き埋めになるにゃー!」
俺は扉をこじ開け、中で寝ていたタナンを引っ張りだすと、そのままテトスと一緒に走りだした。

薄暗い廊下を三人で全力疾走で駆け抜ける。正確には、テトスが走る後ろをタナンの手を引く俺が追走していた。
魔物娘だけあってその速さは凄まじく、俺は必死に後を追おうと必死で足を動かした。乾いた空気をガンガン吸い込んでは吐き出しているので喉は渇ききっているが、悠長に水筒を開けて飲んでいる暇などない。もうじきこの遺跡は砂漠に沈むのだ。何者かが起動させたトラップによって。
そう、俺とテトスたちがタナンを相手している隙に誰かが侵入し、遺跡を荒らしまわったのだ。その時におそらく起動させてしまったのだろう。
「なんで自爆するような罠しかけるんだよ!」
「余の宝具には強力な武具や兵器になりうるものがある。誰かに悪用されるくらいならここで永遠に封印したほうがよい」
そう言うタナンは先程の高慢で気品あふれる雰囲気から一変して、気怠そうというか、感情に乏しい。それでも魔物娘というだけあり息切れ一つ起こしていない。
「……なんでさっきから元気がないんですかねぇ?」
いった途端、タナンは足を止める、手をつないでいた俺は当然のごとく後ろに引っ張られ、慣性でバランスを崩し尻餅をついた。
「……大砂漠の主たる余を散々こけにした挙句、よくもまあぬけぬけとそんな口が利けたものだな」
表情と声色から読み取る限りでも、彼女の怒りが極致にまで達していることがよくわかった。
「はぁ?俺が、お前に何かしたって?身に覚えがないな」
しかし、あえて気付かないふりをする。もし謝ったりしたら、そこにつけ込まて何をされるかなんて分かりきった事だ。
「ぐぬぬぬぬ……」
結果的にタナンを煽る形になり、彼女の炎は更に強く燃え、煮えたぎる熱湯の様に体を小刻みに震わせる。
お互い立ち止まってなどいられない状況なのだが、そんなことはまるで気にせず睨み合う。
「大体なぁ……」
タナンが口を開く。

「余はお前なんぞ抱きたくなかったわぁ!!」

……うっわぁ……。
抱きたくなかったなんて初めて言われたけど、これは、かなり、傷ついた。
内心では致命傷とも言えるほどの大打撃を負ったが、表情は努めてポーカフェイスを維持。
「じゃあなんであんなことしたんだ?」
若干顔が引きつってしまったが、タナンには気付かれていないようだ。
「それは、余は余を目覚めさせたものを伴侶にする決まりになっているし……、ファラオたるもの男は弄ぶくらいでなければならぬからだ!余だって、本当はもっとロマンチックな恋がしたいわ!白馬の王子様との出会いのが良かったわ!」
悪かったな薄汚れた冒険家で。と聞こえないよう愚痴る。
「すればいいじゃないか、何を躊躇う理由がある」
「馬鹿者め!王の器たる余がまるで恋する少女のような、そのような考え、許されるわけがあるかぁ!」
タナンの瞳から、すうっと一筋の涙がつたった。
「王は民衆の手本でなければならぬのだぞ!余はこの力で、人々を導いていかねばならぬのだぞ!余は、余は……」
涙は次々へとこぼれ落ち、乾いた砂にこぼれていった。
「ファラオなんて、いやだ……」
ずっと引きこもっていたファラオ。王になる運命しかなかった彼女にとって、それが唯一の抵抗だったのかもしれない。
そんな彼女に対して、おれは何を言ってやればいいんだろう。
「……それなら」
いや、俺にはこれしか言えない。経験者として、彼女の気持ちがわかるものとして。
「やめちまえよ。ファラオなんて、さ」
「………………」
タナンは目を見開いて声も出さずに驚き、そしてすぐにその表情を怒りへと変えた。
「……馬鹿にするな!貴様に何が分かる!王は絶対に必要だ!やめるなんて無責任なこと出来るか!」
「よく言うぜ、ずっと部屋に篭って寝てたくせによ」
分かる。タナンの気持ちはよく分かっているつもりだ。俺自身、同じような苦しみを持ったことがあるから。

由緒ある貴族の家柄に、次男として俺は生まれた。本来家を次ぐのは長男なのだが、兄はそういうものに向いていなかった為か、親は俺を次期当主として育てた。
毎日勉強と稽古の日々で苦しかった。たまに外で遊ぶ事と、兄が呼んでくれる冒険活劇の本だけが心の支えだった。
そんな兄もいつしか家を出て、いよいよ家督を継ぐ事を余儀なくされた。しかし、そんな状況でも俺は葛藤していた。
俺の人生は、これでいいのだろうか。お金よりも大事な物があるはず、なんて、金持ち特有の贅沢な考えだろうか。
悩みに悩んでいた所に、俺宛に一通の手紙と包みが届いた。兄からだった。
兄は作家として大成し、道すがら出会った人魚を伴侶にして教団から逃げながら本を書いているというなんとも波瀾万丈な人生を送っていた。一緒に送られてきた包みには、昔読んだような冒険小説。それを最後まで読んだ後、俺は家を飛び出した。


冒険者になってからまだ一年も経っていないが、今頃両親はどうしているだろうか。やっぱり怒っているんだろうか。
「王様が必要だって言うなら、お前がいなくなりゃ代わりの王が出てくるんじゃねえか?もしくは王様なんていらなかったりして」
俺のことなんか忘れて楽しく暮らしてたりして、なんていうのは希望的観測かな。
「案外、なんとかなるもんだぜ?」
そんな自分の過去とタナンの現在をつい重ねて、背中を押したくなってしまった。といっても彼女には挑発にしか聞こえてないかも知れないけど。
「……ふん」
タナンは黙って俺の話を聞いた後、大きく鼻を鳴らした。
「お前の発言は何ら気苦労を感じさせぬな。呆れて怒る気も失せたわ」
タナンは文句をいいながら、口元を緩めた。彼女の顔が優しい笑顔に変わる。
「呆れ過ぎて、深く考えてた自分が馬鹿らしくなったわ。」
そして、腰につけていたきれいな飾りを器用に外すと。
「ほれ」
俺に放り投げる。慌てて両手でキャッチすると、結構重い。
「それは褒美だ、くれてやる」
「なんだこれ?」
「見て分からんか。鍵だ。」
「え!うそぉ!?」
よく見ると、飾りの中心部に何やら細長く先端に細かい凹凸がある金の棒があった。これが宝物庫の鍵なのか、しかし。
「え、その……いいの?」
「ああ、ここは沈むだろうが、それだけでも価値があるし、後で取りに行くことも出来なくはないだろう。文句はあるまい?」
貰っておいてなんだが、あっさりと手に入りすぎて拍子抜けだ。いや、結構苦労したのかもしれない。エッチしたりなんだりと……。
「気にいらんのなら返せ」
「絶対返さん」
タナンはからかうように笑うと、遺跡の出口へよ軽快に走りだした。そういえばまだ脱出の途中だった。
俺は鍵を胸ポケットに急いでしまいこみ、タナンの後を追った。


地上へ近づいてきたのか、あちこちから陽の光が差し込んでいる。それは同時に、遺跡の寿命も表していた。
「こりゃあ早く出ないと本当にヤバイぞ」
「分かっている。もう少しだ」
先導していたテトスは見当たらない。ずいぶんと離されてしまったようだ。
ひょっとしてこのままここに取り残されるのでは、と一抹の不安を抱いていると。
「!!あれは……」
見覚えのある姿を遠くの方に捉えた。
特徴的な耳、特徴的な格好。まさしくテトスだった。隣にはチズスもいる。
彼女達の姿を見てアンドのため息を漏らした俺は、大きく手を振って彼女たちに呼びかける。
「おぉーい!待ってくれー!」
その声に気づいたのか、テトスはこちらに振り向くと、驚くほどの声量で叫んだ。
「ヨコーネル、早く逃げるニャア!」


何が起きたのか分からなかった。テトスが叫んだ直後、俺とタナンに闇が、闇色の何かが覆いかぶさった。
漆黒の鱗を纏い、赤い宝石を淡く輝かせたその姿は、伝承に伝わる『アポピス』そのものであった。
アポピスは黒い瞳で俺を捉えると、標的めがけ飛びかかった。
かわせ――。頭では分かっているのに、体が動かない。こういう時のために鍛えていたはずの肉体は、恐怖のあまり硬直していて、頭とからだの神経が切り離されているようだった。
終わり、という文字が頭によぎった。
「ヨコーネル!」
アポピスの突撃より一瞬早く、タナンが体当たりで俺を側方へと突き飛ばした。
砂山に盛大に突っ込んだ俺が目にしたものは、アポピスの巨木のような胴体に
雁字搦めにされたタナンだった。

「タナン!」
俺がそう言うよりも早く、チズスとテトスはアポピスに狙いを定めて疾走していた。
チズスの杖が唸りを上げ、テトスのツメが風を切り裂く。しかし、二人の攻撃はアポピスにかすりもせず、二人の攻撃は虚空を舞うばかりであった。
アポピスは瞬く間に離脱し、俺達の真後ろ――俺とタナンがきた道の方へ陣取る様に構えていた。
移動したことを全く気付かせなかった。もはや強い弱いで片付けられないほど、俺たちとアポピスの間の力量位は大きく差があるようだった、
と、アポピスの後ろに何かがいることに気づく。どこかで見覚えのある影が、クククと喉をならしながらゆらりと飛び出す。
「お前は……!」
現れたのは東洋人風の男。頭にはターバンを巻き、浅黒い肌と無精髭のせいでチラリと見せる歯は不気味なほど白く見える。間違える筈はない。こいつは俺の知っているやつだ。それはよく覚えている。
なぜなら、こいつは俺のキャラバンで一番初めに消えた男だったからだ。

「久しぶりだなぁ、ヨコーネル」
「どうしてお前が……。死んだはずじゃ」
「残念だったなぁ、トリックだよ」
ターバンが右手を上げると、アポピスは恋人のように寄り添い、その体を這わせる。
「ああ……。そういうことか。最初っから罠だったんだな」
ターバンははじめからこの遺跡を独占するつもりでいた。しかしその道程はあまりに危険すぎる。そこで俺や他の冒険者を利用した。
自分は最初に死んだふりをして、俺達の様子を見ながら後方を付いて来た。俺達が大冒険を繰り広げている頃、こいつは安全地帯から悠々と旅行してきたと言うわけだ。
「まあ、そういうことだ」
絶えず笑みを浮かべるターバン。自分の思った通りに事が運んだ事が大層嬉しいようだ。
「ふふふ、素敵でしょ?彼。とってもスマートなの」
アポピスはターバンの頬をなめらかな手で撫でると熱い接吻を交わす。
「ああ全くだ。冒険者の風上にも置けないがな」
アポピス、考えてみれば最高のパートナーだ。魔物としての能力はさることながら、ファラオの遺跡を制覇する動機がありつつも、その財宝には全く執着がなく、嫁にすれば裏切る心配もない。
魔物娘を利用して遺跡を攻略するなど、常人ではとても思いつかない。そういう悪知恵に関して、あいつは賞賛に値する。
「唯一の誤算は、お前が簡単に遺跡の奥まで入っちまったことだ。もっと遺跡を荒らしてくれりゃあ、こんな事にならずに済んだのによぉ。ま、ここでお前を始末すりゃ帳尻が合う」
俺はベルトに隠していたナイフを引き抜き、臨戦態勢に入る。
「おっとぉ、そいつは賢くねえなあヨコーネル」
ターバン男が指を鳴らすと、アポピスがタナンに巻きつけた身体を引き締め、タナンを圧迫した。
「ぐ、ううぅ……!!」
タナンがうめき声をあげる。彼女のか細い身体は今にも折れてしまいそうだ。
「ファラオ!!」
テトスが悲鳴をあげる。チズスは、タナンを助けたくとも手が出せない歯がゆさに身体を震わせている。
「やめろぉ!!」
俺が叫ぶと、ターバンは手でアポピスを制し、タナンの拘束は少し緩まった。
「分かってる。俺は残虐な男じゃない。ただのけちなコソ泥さ。お宝がもらえりゃそれで満足なんだ。だから、お前もどうすればいいか、分かるな?」
男は終始微笑んだまま、目は微塵も笑わないまま、そう言った。

こいつを宝物庫まで案内しなければ、タナンは殺される。
案内すれば、宝は全てあいつのものだ。
ポケットに手を突っ込み、鍵の所在を確認する。これさえあれば宝物庫は開かない。ここで上手く奴らから逃げ切り、後で取りに来れば俺の冒険はつつがなく完了する。
女か、宝か。
「ヨコーネル……」
テトス達が涙目で俺をみつめる。
「分かってる……」
人生の岐路があるというなら、俺はここがそうなのかもしれない。
元きた道を振り返る。俺は家を飛び出してから様々な場所へ旅に出た。冒険、そしてそこで待つ財宝こそが俺の全て。そのために今まで冒険してきた。
ファラオがいくら美人とはいえ、世界は広い。いずれもっと美人で、気立ても良い、素敵な女性と出会えることだってある。
テトスたちには申し訳ないが、この世界には他にも多くの遺跡が存在する。そこで新しい主にでも仕えてくれ。
だから、決めるんだ。一時の感情に流されずに、いつものように。
俺は握りしめた鍵をポケットから抜き出し、高らかに叫んだ。
「宝物庫の鍵はここにある!ファラオと交換しろクソターバン野郎っ!!」
俺はどうかしてしまったようだ。俺のやりたいことをする。そう考えたら、彼女を助けるほかなくなってしまった。


俺が鍵を持っていたことにターバンも少し驚いたようで、一瞬動揺したように見えたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「それが本物だという証拠でもあるのか?なんでお前が鍵を持っている?」
「俺はこの鍵をタナンからもらった!どうしてくれたのかはよく分からんがな!」
「だから、それが本当に宝物庫の鍵である証拠はあんのかッて聞いてんだ!」
「え……」
そういえば、俺もこれが本物の鍵かどうかは分からない。ひょっとしたらタナンは俺を騙していたのかも……?
「それは本物よ」
俺が当惑している最中、意外なことにアポピスがしゃべりだした。
「なんで分かる?」
「だってそれ、タナンちゃんがいつも身につけていたもの」
タナンちゃん?
「知り合いなのあいつ?」
「ファラオとの幼なじみにゃ。いつも喧嘩していたけどにゃ」
幼なじみに殺されかけているのか、あいつは。
「本当なら本人に直接確かめたいところだが」
ターバンはタナンを見やる。タナンは先程のいざこざで気絶しているようで、一向に起きる気配を見せない。
男は少し考え、やがてまた飄々としたしゃべり方になって言った。
「まあ、お前がそういうのなら信じるか。さて、それじゃあ交換といこうか。ほれ、こっちへ来い」
「……ああ」
勿論、ここでおとなしく渡すほど俺も馬鹿じゃない。鍵が手から離れた瞬間、俺めがけて何が飛んでくることやら。弾丸か、ナイフか、あるいは蛇女の毒牙か。
「どうした、早くよこせ」
ターバンの声に若干の苛立ちが篭っている。もはや猶予はないようだ。
さて、そろそろ見せてやろうか。勇敢なる冒険家ヨコーネルの本気というものを。

俺は鍵を天高く上げたまま、上半身をゆっくりと時計回りにねじっていく。
「……あ?何している?」
膝を少し曲げ、左足を地面から離し、膝を胸辺りまで持ってくる。
「お、おい。馬鹿な真似はするな。落ち着け、殺したりしないから……」
視線はいけ好かないターバンのずっと向こう。
「やめろおおおおおおっ!!!」
「うおおおおりゃああっ!!!」
俺は、大きく振りかぶって、鍵を放り投げた。
ずっしりと思い鍵は勢い良く飛び、ターバンの頭上は遥か高くすり抜けた。
「くっそ!!」
ターバンは鍵めがけて全力疾走する。伊達にこの砂漠を渡ってきたわけではないようで鍵に追いつく勢いのスピードを出している。
鳥のように飛んでいた鍵も徐々に高度を下げていく。ターバンは落下地点を予測し、勢い良く飛び込んだ。
激しい摩擦音と砂煙が舞う。ターバンの手には金色に輝く、装飾品のような鍵が握られていた。
「やった!」
ターバンが喜んだのもつかの間。ターバンが腹ばいに寝ている石畳が、地下深くへと崩れ始めた。
「え……?」
反応する間もなく、瓦礫たちと一緒に落ちていくターバン。
「うわあああああああああああああああああああああ…………」
彼の悲痛な叫びは遺跡中に反響したが、やがて遺跡の崩れる音かき消された。


「あらあら、落ちちゃったわね。私のダーリン」
後ろで、タナンを抱きかかえたアポピスが呑気そうに言った。
俺は身構えた。が、アポピスは
「はいこれ」
といって、タナンをこちらに差し出した。意外なアクションに面食らってしまった。
「もう、早く持ってよ。タナンちゃん結構重いんだから」
そう促されて俺はやっとタナンを受け取る。タナンの意識がないからか、抱くのはかなり苦労がいる。
「……怒ってないのか?」
「全然、私達も非道いことしちゃったからね。それよりも」
アポピスは細い指で俺の鼻を軽くつついた。
「財宝よりもこの娘を選ぶなんて、あなたとっても格好よかったわよ。あの人もそれくらい私を愛してくれたらねー」
先程まで俺達を襲っていた魔物にそんなことを言われると、なんだか複雑な気分である。
「あ、そろそろ私もあの人助けに行かないと。あなた達、外に船が停まっているからそれに乗って逃げなさい」
タナンちゃんとお幸せにね。そういうと、アポピスは深い深淵へと消えていった。
これは、助かった。ということでいいのだろうか。はぁ、という溜息とともに全身が緊張から解放される。
その直後、俺の真後ろに巨大な岩がかすめて落ちてきた。もう時間がない。
俺達は、アポピスと、ついでにターバンの幸せを願ってから、遺跡を後にした。


「船!船はドコだ!」
あの後、障害だらけの道を切り抜け、どうにかこうにか遺跡の外にでることは出来た。
だが、アポピスから聞いた船らしきものはドコにも見当たらなかった。
「あの蛇女に嘘をつかれたのではないか?」
確かにその可能性はあるが……。
「できれば考えない方向で……」
遺跡から抜けだしたとはいえ、あんな巨大な物体が崩壊すればこの辺り一帯の砂地も巻き込んで地中へ沈んでいくだろう。
もし船がなければ、俺達は遺跡もろとも飲み込まれてしまう。意地でも見つけなければ。
「そもそも、なんで砂漠に船があるのにゃ!船が砂漠を泳ぐわけ無いにゃ!」
それは分かっている。おそらくアポピスの言った船は、海を渡る船ではないのだろう。それが船のようだったから、比喩表現としてそういったのでは……。
「船、船、船……」
病的に呟いて血眼で辺りを見回すが一向に見つからず、焦りだけが募っていく。
その時、妙なものを見つける。
それは、影。影なんてそこら中にあるのにそれがおかしいと思ったのは、その形状のせいだ。
その影は楕円形で、大きくて、周りの建築物やサボテンなんかじゃ作り出せない形をしている。
「船……!」
俺は辺り一帯全て見渡していたつもりだったが、見落としていた場所があった。
顔をあげる、雲ひとつない空に、悠然と浮かぶ巨大な船。
「飛行船だ!」
金持ちの道楽で僅かに作られているとは聞いていたが、まさかあいつが持っているとは……。
飛行船からは紐はしごが地面に垂らされており、そこから登れるようになっていた。
「早く乗るニャア!」
俺達はどこかで見た小説の主人公のように、紐はしごにしがみついた。
最後にタナンを抱えながらのテトスが登り切った頃、砂上の巨大遺跡は砂漠に飲み込まれ、影も形もなくなっていた。

飛行船の中には幾人かのクルー、もとい、マミーがいた。
最悪先頭になる覚悟はしていたが、タナン達がいた成果彼女らの対応は大人しいものだった。
船頭らしきマミーに、船を動かすよう伝えると、マミーはアンニュイというか、虚ろな表情のまま首を小さく立てにフリ、舵を取り出した。
俺達はターバンが用意したであろう小奇麗な部屋を拝借し、港へ到着するまでゆっくりと寛ぐことにした。
はずなのだが……。

「ん……、ちゅ……」
タナンが俺と唇を重ねて決して離そうとしない。ベッドに寝かせて起こした途端こうだ。しかし、この熱情的な行為は彼女が魔物娘だから行うわけではない。時間を巻き戻すこと数十分前。
「大変にゃ!ファラオがアポピスに噛まれてるにゃ!」
こいつは事あるごとに大変っていってるな、などと温度差のあることを考えながら質問をする。
「噛まれていると何が大変なんだ?」
「アポピスの牙には催淫の毒牙ある」
理性的ではないテトスの代わりにチズスが丁寧に説明する。
「幸い毒は微量のようだが、早く抜かなければファラオはアポピスの下僕と化し、彼女の本能の赴くままに行動するようになる」
「具体的にいうと、どういうこと?」
「一生お前の肉棒のことしか考えなくなる」
「……えぇ〜……」
それはかなり嫌だ。

ということで、俺は今タナンと行為に及んでいる次第である。毒を手っ取り早く取り除くために。
タナンとのキスの最中、彼女の身体に俺の両腕を蛇のようにはわせる。
ビクン、と彼女は敏感気味に反応する。アポピスの毒が回っているせいかもしれない。
指先が様々な触感を捉える。うなじ、乳首、太もも、アナル、クリトリス。それぞれを丹念にいじってタナンの弱点を探っていく。
「んっ、あっ……!そこ、だめぇ」
アナルとクリトリスを重点的にいじっている時に、タナンの反応は格段と良くなる。このまま、軽くイってもらわなければ。

「アポピスの毒は侵された魔物の魔力に浸透する。つまり、魔力を毒ごと発散させてしまえば、ファラオからっ毒を取り除くことが出来る」
「そして魔物が魔力を受動的に消費するのは、性交をしている時なのにゃ」
「あれ、魔物は男の精液から魔力を得ていると聞いていたが、違うのか?」
「精を魔力にするのにエネルギーが要るのにゃ。人間だって食べ物を消化するのにカロリー使ってるのにゃ。知らなかったにゃ?」
知らなかった。
「そして、身体を動かすエネルギーとしても魔力は使われている。どうすればいいかは、もう分かるな?」
「ああ、よ〜〜〜く分かったよ」
つまり、俺はタナンをイかせまくって、たっぷり膣内出しすればよいということなのだ。

「お、おまえ、やめ、イッちゃ……!ンン」
タナンの口をキスで塞ぎ、親指をヴァギナの割れ目に滑りこませる。グジュグジュに濡れそぼったヴァギナは俺の指を容易く受け入れた。
「ンムッ!ンゥ〜〜ッ……!!」
一瞬大きく仰け反り、身体を震えさせた。膣圧で指がキュウキュウと締められる。どうやら軽く達したようだ。だが、俺の攻撃はまだ終わらない。唇を離し、タナンの顔と秘部を交互に見る。
今度は親指を柔軟に動かして膣内をかき回す。のたくるミミズのように蠢いたり、あるいは耳かきの様に壁を掻いてみたりした。
「んああっ!や、イッ……た!…ばかりっ……なの…にぃっ!」
タナンの言葉には耳も傾けず、膣の中を指でかき分けていく。
「あ、ダメ……感じ、ちゃうッ!!!感じ、すぎ……て…っ…ダメ、エエエエエェェ……!!!」
そうしてタナンは二度目の絶頂を迎える。口元をだらしなく開き、宝石のようだった目はゼリーのようにトロンと蕩けそうだ。

絶頂の余韻に浸らせる間もなく、次の快楽を与える。俺は手空きだった中指をタナンのアナルにグイグイ押しこむ。
「ひああっ!?」
タナンは驚いて菊の門をキュッと締めて侵入を拒むが、ヴァギナから溢れでた愛液が潤滑油代わりになり、徐々に中指はタナンの肛門へと入っていく。
「おひ、り!やっら……!ふあ、ああ、あぁ……!」
ついに、指先がタナンの腸へと侵入した。ワインにボトルキャップをねじ込む様に、小刻みに回転させながら強引に中指を挿入していく。
「んあ…うあっ、ああぁ……!あああああんっ!?」
指は根元まですっぽり入り、俺の手はタナンの股間に完全に固定された状態になった。中指を動かして中の様子を確認する。
「あんっ!うご、か……しちゃ、だめぇ〜〜……」
タナンの肛の肉壁はとても面白い。入口の部分は血が止まりそうなほど締めてくるのに、肛内の方はふわふわととてもやわらかい。思う存分に動かして中の感触を楽しむ。
「あうぅ!おひり、で…あ…ばれて、りゅううぅ……ッ!!」
タナンの意識がアナルに向けられてるであろう頃、休ませていた親指をすかさず動かす。
「んあうううっ!?」
タナンは面食らったように身体をのけぞらせる。キツキツの膣肉とふわふわの肛肉、2つの違う穴を指でしっかりと堪能する。
「だ、ダメ……もう……!…くる、すごいのきちゃう……!」
そろそろだな。俺は親指と中指、それぞれの指をくっつけるようにして間の肉を挟み込み、ゴシゴシと猛スピードで擦り合わせ、三度目の絶頂を促した。
「ひあ、すご、きたっ、きたきた…きた!あ、あああ、あああああああんっ……!!!」
タナンは大量の潮を吹きながらイッた。ベッドと俺の腕ををビシャビシャに濡らすと、力尽きたようにベッドに身を委ねた。
本当に力が出ないようで、呼吸によって胸をゆっくりと揺れる以外は全く動作が見られない。
いつの間にか、部屋には汗と愛液の混じったような匂いで充満していた。この状況を頃合いと見た俺は先程までタナンを弄んだ手をペニスへと当てた。タナンの扇情的な姿と色気に当てられた俺のペニスは、鋼のように硬く、太陽の様に熱くなっていた。それをタナンの膣にあてがうと、一気に奥へと打ち込んだ。
「ふやああああああっ!!!」
長時間に渡る準備運動の甲斐あってか、俺の肉棒は根元までズッポリと入り、亀頭がタナンの子宮口を小突いていた。
その間にタナンはまたイッてしまったようだが、気にせずに動かす事にした。
ペニスをゆっくりと引き抜き、一気に入れる。パチャン、パチャンと水気を帯びた大きな音が聞こえてくる。
「ああ!んん!んあ!ああ!!」
突くたび、ペニスが子宮をノックするたびに、タナンは身体を激しく震えさせる。彼女の身体は先程から、スイッチがはいったように、狂ったようにイきまくっていた。

ピストンも段々とヒートアップしていき、それに合わせて射精感も徐々に高まっていく。子宮を叩くたび頭が痺れるような感覚を襲う。
「くっ、魔物娘を舐めるなよぉ……」
うっとりした表情だったタナンが調子を取り戻したように凛々しくなった。膣洞がペニスを圧迫してくる。
「うぉお……」
不意を突かれて変な声が出てしまう。しかし、ここで吐き出すわけにはいかない。
別に理由はないが、先にタナンをイかせる、もしくは同時にイカないとなんか負けた気分になる。
そう考えていても俺は今にも暴発してしまいそうになっている。ここは少々乱暴だが、奥の手を使うしかない。
突如、タナンの圧迫が緩まる。かと思えば思い切り締め付けてくる。
「くおおおっ!」
緩急のついた膣内運動は俺の射精欲求をますます高めさせる。一度目とはまた違った蠢きに思わず苦しい顔になってしまう。
「ククク、我慢するな。お前のタマタマから一滴の精子も残さす余の膣内で注ぐのだ……」
そんな俺の顔をみて、タナンはようやくいつもの余裕綽々顔をみせた。この娘、勝ち誇っていやがる。
だがそれは油断しているということ。タナンは俺の右手が自身のアナルへと忍び寄っている事に気がついていない。そっとそっと近づいて、素早くねじ込む!
「さあ、はやく……ひゃうう!?」
目を白黒させたタナンが可愛い悲鳴を上げた。
「う、そ……ひいあああああああああん!!」
タナンの激しく痙攣させる。その膣の震えは俺のダムも崩壊させる。
「うお、で、射精る……、あああ……!!!」
例えるなら、先を摘んだホースから出る水のように、勢い良く精子は飛び出す。
「あはあああぁ……、いっぱい、もっといっぱい出してぇ……」
イッた後のタナンの膣内が巧みに動き、より多くの射精を促す。射精の勢いは収まらず、ビュービュー肉壁に勢い良くぶつかっては彼女の子宮内を白濁した液体で満たした。
射精はしばらく続き、ようやく静まった頃、ペニスをゆっくりと引き抜く。
ドロォ……、と。タナンの割れ目から真っ白いスライムのようなそれが溢れ出す。人生で一番射精した気がする。
そんなことを思いながら、俺はタナンの横に転がり、ふぅと一息つく。これで大丈夫だろう。安心した俺のまぶたがだんだん重くなっていき、ゆっくりと夢の世界へとトリップしていく。

と思ったら、いつの間にかタナンが寝そべる俺の上に乗っかっているではありませんか。
「まさか一回イッた位で終わりはないよな、ヨコーネル?」
「た、たくさんイッただろ?」
「お前はまだ一回だ。言っただろう、一滴残らず注がせると、な……」
フニャフニャになったペニスを、タナンの柔らかい唇が覆い隠す。タナンはそれを口の中で弄ぶ。
激しくすったり、舌で転がしたり、ほっぺに擦りつけてみたり。
タナンの口から開放された頃には、唾液にまみれたペニスはギンギンに反り返っていた。
「ほれほれ、ゲーム二回戦、始めるぞ……」
こうしてこの後三回ほど俺は射精され、気絶するその間際までタナンとともに快楽地獄に溺れたのであった。


「結局、宝はひとつも持ち帰れなかったなぁ」
俺達、タナンとテトスとチズスは小さなテーブルを囲み、遅い朝食を撮っていた。原因は俺とタナンが寝過ごしたせいだ。
「私達の所持品を売れば幾らかにはなるだろうが、遺跡においてきた財宝には到底及ばない額だな」
「あ!そうだターバン!あいつもし生きてて、ヤバい財宝とかに手ぇ出したらどうするんだ!?」
いや、おそらく生きているのだろう。あのアポピスを伴侶にした男だ。そう簡単には死なないはず。
「ああ、それなら心配はいらぬ。宝物庫の鍵はここにある」
タナンが何処からか、いかにも鍵というような形をした物を取り出した。
「はあ!?何言ってんだ!?鍵は俺が投げ捨てただろうが!!」
「お前こそ何を言っている。あれは私の部屋の鍵だ」
「ええ!?お、おま、騙したなぁ!?!?」
「余は一度も宝物庫の鍵とは言ってないが?」
「嘘つけぇ!ちゃんと言って、言って……」
あれ、言ってなかったけ……?
「いつでも余の部屋に来ても良いという意味で、くれてやったのだ。それをお前が面白可笑しく勘違いしただけのこと」
「う……」
ぐうの音も出なかった。冷静に考えれば、タナンが感謝の気持か何かで人に金や宝を与える人間ではないというのが分かっただろうに。
「で、どうするのだ?また取りにいくか?」
「……いや、やめとくよ。砂っぽい空気はしばらくゴメンだ」
できればターバンとは二度と顔を合わせたくない。それに。
「それに、お宝よりも素敵なものが手に入ったし、な」
「おやおや、ずいぶんロマンチックな事を言うじゃないかヨコーネル」
そう言ってタナンはコロコロと笑う。俺もつられてゲラゲラ笑う。ついでにテトスたちも笑う。
「でもこれからどうすんのにゃ?私達はどうやって生きていけばいいのにゃ?」
「そんなの簡単だ。まずはこの船を売っぱらう。そんで適当な建物を買って、店を開く。酒場にするのさ。」
「人手はどうするにゃあ!?それに私達商売なんてしたことないにゃあ!」
俺は部屋に視線をやる。部屋の中のマミー達はそんじょそこらの町娘に負けないくらい可愛く、肌もツヤツヤである。
「商売つっても適当な酒と簡単なツマミを出してりゃいいんだよ。人手はこいつらを従業員にしてやればいい。可愛いマミーがたくさんいる酒場、きっと流行るぞぉ!」
いつの間にか話に巻き込まれているマミー達が俺を見つめていた。
「酒場で働いてりゃあ金稼げるし、男との出会いも山ほどあるぞ」
マミー達は無愛想な顔をわずかに緩める。契約成立。
「で、経営はテトスとチズスに任せる。やりながら覚えろ」
「お前は何をするんだ」
「勿論、何もしない。また冒険の日々だ」
「好きだにゃあ」
「いいんだよ、俺はそういう男なの。今度はどこに行こうかなぁ、水の都アトランティスとかいいかもなぁ、涼しそうだし」
「お前がどこへ行こうとお前の勝手だが。その冒険には、ヨコーネル」
向い合って座っていたタナンが紅茶を静かにすすった後、ニコリと笑ってこう言った。
「余を一緒に連れて行くのだ」
「………………」
一同、唖然。
「わ、悪い冗談ですにゃファラオ……」
「余は本気だ」
「外には危険が満ち溢れているのですよ?」
「百も承知だ」
いつも通りの余裕顔で淡々と答えるタナン。
「……本当にいいんだな、タナン」
タナンは俺の瞳をみつめる。その真っ直ぐな眼差しから、彼女の強い決意が伺えた。
「命令するぞ、ヨコーネル」
彼女の瞳が魔物の妖しさをはらんだ。思わず身体が強張ってしまう。
「どこへ行ってもお前と余は離れてはならぬ。どこへ行っても、ずっと一緒だ。良いな?」
「………………」
ずるい女だ。こんな時に限って能力を使わないとは。
そんなに俺の本心が聞きたいのなら、聞かせてやるほかあるまいて。
「その命令には、逆らえないな」


飛行船は風を切り、海を泳ぐ白鯨の様に優雅に進む。
港町まで、もう少しだ。

14/12/07 18:34更新 / 牛みかん
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■作者メッセージ
前編の投稿からだいぶ間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。これからもスローペースで投稿させていただきますのでよろしかったら是非ご覧になって下さい。

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