連載小説
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耽溺と陶酔


思考は胡乱として、身体は奇妙な浮遊感に包まれている。

確かに自分の身体なのに、どこか遠くから眺めているような曖昧な感覚。

ここが何処で、私が何故ここに居るのかも分からない。

そんな事は、どうでもいいか、と勝手に思考が結論付ける。

私は、ウィルに押し倒されている。

獣欲に支配されたギラギラとした眼が私を射ぬく。

荒い吐息が私の頬を撫でる。

何故か私もウィルも一糸纏わぬ姿で、見つめあう。

あぁ、早く、早く、私を、ウィルだけのメスにしてくれ。

浅ましい欲望が溢れ出して止まらない。

勝手に脚が開いて、いつでもウィルの劣情を受け入れる体勢を作る。

なんていやらしい。

遠くから、一匹のメスに堕ちる私を見ている。

いやらしいメス。はしたないメス。

なんだその顔は。男に媚びきって、快楽と支配をねだる蕩けきった表情はなんだ。

あぁ、羨ましい。何故あそこにいるのが私ではないんだ。

遂に、ウィルも耐えきれなくなったのか、メスの腰を掴んで、陰茎の先端を入り口にあてがう。

早く、早く、早く早く早くぅっ!

メスの顔が期待で歪む。

そして、ようやく、ウィルの肉棒が、私を、メスを、貫いて。

気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいいっ!!!



世界が焼き切れた。



************************************



「うわぁっ!!!」

間抜けな声を上げてシーツを跳ね除ける。
見慣れた私室の光景に、ホッと息を吐いた。

「私は…なんという夢を…」

小声で呟いて、頭を抱える。
悪夢というよりは、そう、淫夢である。
よりにもよって、弟子のウィルとあんな事になる夢を見るとは。
ふと、下半身に違和感を覚え、見てみると、酷い有様である。
ドロドロに液体にまみれ、下着は既にその用を成していない。
暗澹たる気持ちで立ち上がり、シャワーを浴びる事にした。


肌に張り付く下着を脱ぎ去り、シャワーの栓を回す。
暖かい湯に晒され、徐々に冷静な思考を取り戻してくる。

淫夢で気を取られていたが、私が昨日どうやってこの部屋に帰ってきたのかよく思い出せない。
私は昨日、いつも通りの訓練と執務を終えて、日課である周辺の巡回に出たはずだ。
そう、巡回に出たのだ。いつも通りの巡回で、農園の方向に向かった。
そして、洞穴を…洞穴?


…クチュクチュ…クチュクチュ…

「っ〜〜〜〜♥」


突然脳裏に飛来した粘ついた水音。シャワーの音ではない。蠱惑的で、淫靡な音。
それが、下腹の奥を甘く揺さぶった。
正体不明の快感に、くの字に体を曲げて耐える。

(そう、そうだ。洞穴を発見したんだ。まだ、報告も受けていない、未発見の洞穴。)

…クチュクチュ…クチュクチュ…

水音は止まらず、それがもたらす快感も止まらない。
だけど、違和感は無い。
この水音は気持ちいいのだ。だったら気にする必要もない。

(その洞穴の奥に入って、私は…)

…クチュクチュ…クチュクチュ…

「んっ…♥ふぅ…♥」

あぁ、気持ちいい。
水音が、私の頭の中を甘く蕩けさせる。
声が漏れるが、気にならない。

(そう、そうだ。洞穴の中には誰も居なかった。)

…クチュクチュ…クチュクチュ…

(あの洞穴は、安全だ。)

…クチュクチュ…クチュクチュ…

(安全だから、また、気持ちよくなりに行けばいい…♥)

…クチュクチュ…クチュクチュ…

(そして、また、はしたないメスに…もっと、もっと、いやらしいメスにぃ…♥)


思考にきりがつくと、またしても下半身が粘度の高い液体でドロドロになっているのに気付いた。
全く、やはり今日の私はどうかしている。
今日も、ウィルとの稽古がある。
師として、時間に遅れる訳にはいかない。そこそこに切り上げて、私はシャワールームを出た。

____________________________________


いつもの広場に着くと、そこには素振りに勤しむウィルの姿があった。

「あっ、先生!おはようございますっ!」

いつも通りの快活な笑顔で、挨拶をしてくるウィル。
ふと、今日の淫夢でギラギラとした眼をしていたウィルを思い出してしまう。

「あ、あぁ、おはよう。」

不覚にも少し口ごもるが、努めて冷静を装う。
ウィルに悟られるわけにはいかない。
いつも、ウィルには平常心で剣を振るえと教えているのだ。
その私が、淫夢を思い出して剣を鈍らせるなど、笑い話にもならない。

「さあ、早く稽古を始めよう。準備はいいか?」

「はい、お願いします!」

礼儀正しく深々と頭を下げると、ウィルは木刀を構えた。
正面に切っ先を向け、背すじをピンと伸ばした美しい構え。
私が教えたとおりの構えである。
普段となんら変わらぬウィルの姿に、思わず安堵した。
大丈夫。ウィルはいつも通りだ。
あとは、私が、冷静に振舞えばいいだけの話だ。
頭を切り替えて、私も木刀を構える。

「よし、どこからでも打ってきなさい。」

私の声を合図に、木刀のぶつかる乾いた音が広場に響く。
ウィルの内面を写し出したような、素直で真っ直ぐな剣戟の数々を最低限の動きで受け止め、いなしていく。
彼の剣は、とても美しい。
熟練した技巧も、卓越した速さもない。
しかし、その剣に込められた純粋な向上心と気迫は、一人の武人として尊敬に値すると私は思うのだ。
師として、武人として、彼の剣の成長を見守れるのはとても光栄なことである。
以前は渋々付き合っていた彼との剣の稽古は、私にとっても重要な時間になっていた。


数度の打ち合いの後、ウィルが不意を突くように少し振りかぶって、袈裟に木刀を振るった。
なかなかの速さだが、目線の動きで狙いが筒抜けだ。
上半身を少しひねって袈裟斬りを躱すと、ウィルの身体が無防備にさらけ出された。
木刀の柄の部分で、脇腹を小突く。
痛みはない程度の強さだが、袈裟切りで前のめりになっていたウィルは地面に倒れ込んでしまった。

「良い速さだったが、まだ粗い。不意を突くつもりなら必ず当てるように。」

「ぐうぅ…はい。あー今回はいけたと思ったんだけどなぁ…」

倒れたまま悔しそうに頭を掻くウィル。
汗を滝の様に流し、肩で息をしているが疲労感は顔には出さない。彼の意地というやつだろう。

「十年早い。せめて私に汗をかかせるくらいになってから言いなさい。」

厳しく言いつつも、倒れるウィルに手を差し出す。
十年早いなどと言ったものの、自警団の平隊員の中で、私とこれだけ打ち合える者はごく少数だ。
わずか半年でここまで来たウィルの才覚と努力は本物である。

押忍と短く返事をして、ウィルが私の手を軽く握った。

「ぁ……♥」

彼の手に触れた瞬間、甘い痺れが体を走る。
固く、ごつごつとした大きな手。
少し冷たくて、軽く握られただけなのに、男らしい力強さを感じた。
この感触は、淫夢に出てきた彼の手とあまりにも似通っていて。
この手が、私の敏感な場所を乱暴に撫でるのを想像してしまう。
まだウィルは少年と呼んで差支えない年齢なのに、腕は太く筋肉が浮いて見える。
もし彼が本気になってあの腕で私を押さえつけたら。
私は完全になすがままにされて、彼の欲望を受け止める道具にされるのだろう。
そして、それは、きっととても幸せで、気持ちよくて……

「せ、先生…?」

怪訝な顔でこちらを見るウィルに気付き、一気に妄想の世界から抜け出す。
手を握ったまま、腕を凝視している私は、彼の眼にはさぞ滑稽に映っただろう。

「あ、ああ、すまない…」

取ってつけたように謝罪して、ウィルの手を引っ張る。
顔が熱い。興奮によるものか、羞恥によるものかは私にも判断がつかない。

「先生?体調でも、悪いんですか…?」

ウィルは立ち上がると、心配そうに顔を覗き込む。
あぁ、顔が近いぞ、馬鹿者。
そんな距離で見つめられては、余計に興奮するじゃないか。

「いや…、少し、仕事の疲れが残っているようだ。
 すまないが、今日の稽古はここまででいいか…?」

未だに甘い痺れが体を走り、頭は妙に熱っぽくて冷静に思考が働かない。
このままの状態で、まともな稽古が出来るはずがない。
残念そうなウィルを見ると心が痛むが、今日は早めに切り上げてしまいたい。
ウィルも、私の様子を見て察してくれたのか、すぐに笑顔を作り直してくれた。

「はい!先生、ありがとうございました!
 あの、お体、大事にしてください。あまり、無理はしてほしくありません…」
 
稽古が中途半端で終わり、思う所もあるだろうに、私の身体を気遣うウィルの厚意が嬉しい。

「ふふ、ありがとう。ウィルは優しいな。」

「っ…!い、いや、そんな、とんでもないです…!」

まず、他人には見せない表情で微笑みかけると、ウィルの顔がかぁっと赤くなった。

(あぁ、可愛い…♥)

嗜虐心を煽る彼の表情にゾクゾクとした感覚が背筋を撫ぜる。
私の知らない私が、顔を出す。
彼の、この顔を私だけのものにしたいという、甘い想像と浅ましい劣情。
自然とウィルの頬へ手が伸びる。
形を確かめるように、指先で優しく撫で上げるとビクリと彼の身体が揺れた。

「せ、先生…?」

「また明日、な?」

蕩けるような熱をこめて彼の耳元に顔を寄せ、小声で囁くと、コクコクとウィルが頷いた。
名残惜しいが指を離し、踵を返す。
後ろの方でウィルが茫然と立ち尽くしているのが分かって、私の口元がニヤリと歪む。


____________________________________


(あぁ、ああっ…!私は、なんて、はしたない真似をっ…!)

自警団本部、執務室の中で、頭を抱えて羞恥に悶える。
今日の朝、ウィルと別れる際の自分の行動は、全く持って理解の範疇を越えていた。
まるで、ウィルを情事に誘うかのように、彼の頬に触れて。
愛を囁くように耳元で言葉を発して。
自警団の訓練も、執務も、身が入らない。
ウィルの赤い顔を思い出して、こうして机に突っ伏すのは今日何度目の事か。
もう数えるのも億劫だ。


やはり、今日の私はおかしい。
あんなはしたない姿をウィルに見られて、明日どんな顔で彼に会えばいいのか。

私はおかしくなってしまった。
この期に及んで、彼の手や頬の温度と、そこから感じた男らしさを思うとドロドロとした高揚が胸中を満たすのだ。

いつからおかしくなったのだろう。
そんな事は分かりきっている。あの洞穴で彼女と出会っ

…グチュグチュ…グチュグチュ…

「いっ!?うぁっ…♥く、ぅ…♥」

途端に襲い掛かる強烈な快感。
必死で漏れる声を抑えるが、腰がカクカクと痙攣し、椅子が音を立てて揺れる。

(彼女?何のことだ…?)

自分の脳裏に唐突に浮かんだ「彼女」という存在。
当然、私は彼女のことなど知らない。
彼女が私に忘れるように言ったのだ。私が彼女を忘れているのは当たり前の事だ。
そうすれば、私は気持ちよくなれる。幸せになれる。

「ハァっ、ハァっ……♥」

荒くなっていた呼吸が、ようやく平静を取り戻していく。
後に残ったのは、下腹のあたりの甘い疼き。
剣を握る時、武人としての思考に切り替えるように、
この疼きが、私を、メスに変えていく。
意図せず、顔に笑みが浮かぶ。
浅ましく、男に媚びる、いやらしいメスの顔。

「あはぁ、ふふふっ、くくくくっ…♥」

笑いが止まらない。
ようやく、本来の私に戻れたような、恍惚感。

(あぁ、私、行かなくちゃ…)

何も思い出せないけど、思い出した。
私は、あの洞穴に行かなくてはいけない。
誰かも分からない、彼女の元へ。

あの洞穴に行けば、今日の私がおかしい原因がわかる。
あの洞穴に行けば、私を苛むこの狂おしい疼きは解消される。

自警団の部隊長として、あの洞穴に潜む脅威を排除しなければならない。
一人の女として、メスとして、もっともっと快楽を享受しなければならない。

ウィルの師として恥じない、強く誇り高い武人として、あの洞穴に向かうのだ。
ウィルのメスとして、もっと魅力的に、もっといやらしくなるために、あの洞穴に向かうのだ。

軽鎧を身につける余裕もない。
火照る身体と、のぼせたような思考が、勝手に脚を動かす。
長剣だけを乱暴に手に取り、ふらふらと外へ出た。


____________________________________


一度しか行ったことのない場所だというのに、進む脚には迷いがない。
おぼつかない足取りだが、洞窟が近づくにつれ、足が早まるのが自分でも分かった。
まるで、何かに引き寄せられるように、草木をかき分けて進む。

(早く、早く、早く、早くっ)

早く彼女の元に行かねばならない。
早く、この疼きを治めるのだ。
進めば進むほど、疼きは強く深くなる。

どの位歩いてきただろう。
背の高い草を踏み倒すと、一気に視界が開けた。
深い闇を湛えた洞穴が大口を開けて目前に広がる。

(あぁ…、着いたぁ…♥)

不気味に風音が響く洞穴に、警戒して然るべきだというのに、私の胸に去来するのは安堵と期待。
洞穴の奥から流れ出る冷たい風が肌に触れると、下腹の辺りがズンと重くなった。
生唾を飲み込み、洞穴に踏み込むと、深い闇が、私の身体を抱くように包んでいく。
名も、姿も覚えていない彼女に抱き包まれた時を想起して、多幸感に溺れそうになる。

「はぁっ…、はぁっ…♥」

緊張からか、期待からか、息が荒く熱っぽくなる。
最低限残った武人としての矜持からか、浅く剣を握るが力はほとんど込められていない。


ズチュリ…ズチュリ…

「っ!」


聞こえた。待ち望んだ、重く、不吉で、この上なく淫靡な水音。
胸が高鳴る。
剣を握る手が震える。


ズチュリ…ズチュリ…


水音が近づく。
脚は動かず、声を上げる事も出来ない。
この水音の正体を、私は知っている。
彼女が纏う冷えるような空気が、近づいてくる。


ズチュリ…ズチュリ…

「ふふ、おかえりなさい。エスティアちゃん…♥」

「あぁ…あああぁぁあっ…」


響く美しい声を、私は知っている。
何度も何度も、頭の奥に響いて、私を作り替えた声。
私に女の幸せを覚え込ませて、いやらしいメスに調教した声。
足の力が抜けて、もう立って居るのが精いっぱいだ。
あの声を聴くだけで、下半身が快感で蕩けて、濡れていくのが分かる。

「うん、いい子ね。ちゃんと、約束、守れたね?」

薄く紫がかった美しい手が、私の方へ伸びる。
今すぐ、逃げるべきなのに、足は動かない。動かす訳がない。
彼女に会うために、彼女に幸せにしてもらうために、私はここに来たのだから。

「ふふ、どう?女の幸せを知って生活してみた気分は。
 素敵だったでしょう?今まであなたが目を背けてきた肉欲と劣情と愛慕に溢れた日常は。」
 
そのまま彼女の手は私の顔を艶めかしく撫でる。
ひんやりとした手が私の頬を滑り、髪をかき上げる。
それだけなのに、電撃に撃たれたように体が痙攣して、秘所から蜜が溢れる。

「ひっ!うあぁぁっ…♥くぅ…ん…♥」

「あらあら、随分敏感になったのねぇ。顔を撫でただけなのに、そんなに嬉しそうに震えちゃって…♥」

ついに、握っていた剣が手から滑り落ちる。
形だけは保っていた抵抗の姿勢も一緒に滑り落ちて、もう私は彼女に翻弄されるだけだ。
彼女の触手が一斉に動き、優しく身体を這いまわる。

「ふぁ…、あぁぁ…」

「ふふ、エスティアちゃん嬉しそうね。そんなに、私が恋しかったのかしら?
 もう、可愛いんだから…♥」

深い輝きを持った瞳が、私を見つめる。
その瞳に映る私の顔は、自分でも見たことがないくらいに蕩けきっていた。
いやらしい、メスの顔。

「ねぇ、エスティアちゃん。どうしてここに来たのか、私に教えて?
 あなたの口から、直接、聞きたいなぁ…。」
 
冷静な口調だが、その奥には底なしの色香と熱情が込められていて。
私の口は、勝手に開いて音を紡ぐ。

「あぁ…、あ、あなたに、気持ちよく、してほしくてぇ…幸せに、なりたくてぇ…」

「それだけ?隠し事されるのは、悲しいわ。私と、エスティアちゃんの仲じゃない。」

優しく体を撫でまわす触手に、体重を完全に預ける。
彼女の冷たい体表の奥に、ほのかな熱を感じて、心も体も甘く溶けていくようだ。
母のように、頭を撫でる彼女の手はあまりにも優しい。
私のなかに残っていた僅かな自制心が、ゆっくりと崩れていく。

「んぅ…、私、わたしぃ…あなたに、メスに、してほしくてぇ…♥
 もっと、もっとぉ…いやらしい、はしたない、メスにぃ…♥」

彼女の声で、私の心が、暴かれて、あぁ、気持ちいい。
もう、なにもかも、彼女に晒してしまいたい。きっと、私はそれで幸せになれる。

「あぁ、本当に可愛い…♥
 ふふふ、エスティアちゃんみたいな娘が欲しいわぁ。ね?あなた…♥」
 
愛おしげに、幸せそうに腰の触手を彼女が撫でる。
あぁ、羨ましい。私も、あんなふうに、愛する人と、笑いあえたら…。

「そういえば、エスティアちゃん。私の名前、ラヴフラウっていうの。
 もう、『あなた』なんて他人行儀な呼び方はおしまいにしましょう。
 ね?『フラウ』って呼んでみて?」

今までのものとは違う、優しげな口調。
まるで、娘に向けるような、暖かな声音が、何故か嬉しくて仕方がない。

「は、はいぃ…フラウ、さまぁ…、ラヴフラウ様ぁ…♥」

彼女の名前を呼んだ瞬間、私の心が、完全に屈服した。
もう、私は、フラウ様に、逆らえない。逆らう必要もない。
フラウ様に従って、ひたすらに幸せと快楽に浸りたい。
忠誠の証を示す様に、顔の側にある触手に頬ずりをする。

「うーん、『フラウ様』か…。
 私としては、お姉さまとか、ママとかの方が嬉しいんだけど…。
 まぁ、エスティアちゃんが呼びたいように呼ぶのが一番ね。」
 
少し残念そうにフラウ様は呟きながらも、頬ずりをする私の顔を撫でてくれる。
あぁ、嬉しい。もっと、撫でてほしい。
こんな風に、他人に甘えるのはいつ以来だろう。
自警団として、部隊長として、必死で他者に頼る事を断ち切ってきた。
なんて馬鹿らしい意地だろうか。

「ふふ、それじゃあ、そろそろはじめよっか。
 ほら、この音、覚えてるでしょう?」

…クチュクチュ…クチュクチュ…

耳元の触手が、粘ついた水音を発する。
私を幸せにしてくれる音。
私をメスにしてくれる音。

「あぁああっ!はいっ!はいっ!してぇっ!それ、してください!頭の中、クチュクチュってぇ…♥」

その音を聞いて、心が、身体が、狂喜する。
水音と、それがもたらす快楽への期待に全てを支配される。
恥じらう事も忘れ大声で懇願し、身体全てを使ってフラウ様へ媚びる。
触手を撫で、手に頬ずりし、脚が勝手に開く。
口元に触手があれば、迷わず口に含んで舐めしゃぶっていただろう。

「よしよし、いい子いい子。
 いい子には、ご褒美をあげないとね。
 たぁっぷり、気持ちよくしてあげるわ。」
 
身体を入れ替え、背後から包むように抱きしめられる。

「あぁ…、ありがとうございます!ありがとうございま…あ゛っ♥」

…クチュグチュ…クチュクチュ…

水音が、頭の中に、入ってくる。
耳元で鳴っているのではない。
もっと近く、もっと奥の方から、水音がいやらしく響く。
決して侵されてはならない領域に、フラウ様が入り込んでくる。

「あっ、あっ、いひっ♥うぁっ、あぁっ♥」

強烈な違和感すらも、快感に押し流される。
口からは壊れたような嬌声が漏れる。
あるいは、とっくに壊れてしまっているのかもしれないが。

「ふふっ、覚えてるよね?
 私にクチュクチュされるの、気持ちいいね?幸せだね?」

直接頭に叩き込まれるように、フラウ様の声が聞こえる。
真っ当な思考が掻き消えて、この声に従うだけの人形になる。
まさに天啓とでも呼ぶべき、鮮烈な言葉の羅列。

「あはぁ…♥はいぃ、きもち、良い…♥しあわせぇ…♥」

フラウ様が気持ちいいと言うのだ。当然、私は気持ちいい。
フラウ様が幸せだと言うのだ。当然、私は幸せだ。
そこに疑う余地はない。

「うん、ちゃんと自分で言えて、偉いね。
 あぁ、エスティアちゃん、もうトロトロになっちゃったね。
 もう、なぁんにも分からないね。私の声しか、聞こえない。
 気持ちいい。幸せ。もっと、トロトロに、溶けていくの。」

まず思考が、心が溶けて、
心に引きずられるように、身体が溶けていく。
深い、深い、水の底に、堕ちていく。
自分の身体がどんな形で、今私は何を考えているのか、分からない。
分かるのは、身体を這いずる触手の快感と、多幸感のみ。

「んぅ…、ふぁ…♥えへ、くふふふ…♥」

「良い顔よ、エスティアちゃん。
 快楽に溺れて、オスに媚びるいやらしいメスの顔。
 あぁ、もう、エスティアちゃんのあそこ、びしょびしょよ…?
 ほら、自分で、触ってみなさい…♥」

操り人形のように、私の腕が上がり、秘所へと向かう。
そっと、ショーツの上から手を添えただけなのに、刺激で体が跳ねる。
手は愛液にまみれて、ヌラヌラと光り、それを見て更に奥から蜜が漏れだした。

「ほぉら、もっと気持ちよくなりたいんでしょう?
 手伝ってあげるから、自分で弄りなさい。」
 
触手が腕に巻き付いて、上下に動かす。
添えられた手が擦りつけられて、強烈な快感が暴れ回る。

「いぃっ!?うあああぁっ、ひ、い、あ゛ぁっ♥」

「もっと、自分で擦りつけなさい。自分の気持ちいい所を撫でるの。
 ねえ、これ、なんて言うか知ってる?
 オナニーって言うの。自分で、自分を慰めるいやらしいメスの証。
 ほら、言ってごらん?エスティアちゃんは今何をしてるの?」

「ぁっ、くひぃ、お、おな、にぃ…♥オナニー、してますぅ…あんっ♥」

気付けば、触手の補助が要らないほどに自分で腕を動かしている。
更に刺激が伝わるように指を曲げて、秘所を掻くように撫でる。
擦れる度に、激しく水音が立ち、触手の音と混じって私の耳が犯されていく。

「あっ、ク、クリぃ、クリトリス、当たるの、キモチイイのぉ…♥」

「ふふ、上手上手。
 オナニー、気持ちいいねぇ。
 見られながらするオナニー、最高だよね?
 はしたない姿見られて、いやらしい音聞かれるの、幸せだよねぇ?」

「はいっ!しあ、わせぇっ♥
 もっと、もっと、見て♥エスティアの、やらしいオナニー、見てぇっ♥」
 
もう、ショーツの上からの刺激では満足出来ず、手がショーツの内に滑り込む。
異様に熱を持った秘所はぐちょぐちょで、強まった刺激に歓喜するように痙攣している。
言われてもないというのに、もう片方の手で胸を鷲掴みにして、見せつけるかのように脚を大きく開く。
自分の痴態を俯瞰で見ているような錯覚。
なんていやらしい。

「あ゛あぁぁあっ♥すごい、おなにぃ、すごいぃっ♥」

「あぁ、本当に気持ちよさそうね…♥
 とっても素敵よ、エスティアちゃん。
 嬉しいね?もう、この快感、忘れられないね?」
 
「あはぁ♥はひ、はいぃっ♥
 私ぃ、おなにぃ、ハマっちゃいましたぁ♥オナニー、好きぃっ♥」
 
一心不乱に指と腰を動かす。
分かるのは、快感だけ。
身体のあらゆる感覚が指先と性器に集中している。
高まる快感は際限を知らず、甘美な絶頂の予感に身を焦がす。

「い゛ぃいぃっ♥う゛あぁああっ!もう、イクぅ、イク、イクイクイクっ♥」

「いいわよ。ほら、イっちゃいなさい。
 はしたなく、涎を垂らして、イきなさい。
 いやらしい、メスの絶頂、見せて?」

「あっ、お゛ぁっ♥ひ、い、イき、ますぅ♥あぁぁああっ♥」

フラウ様からの許可を得て、一直線に絶頂を目指す。
指で突起したクリトリスを弾いて、空いた手は胸を乱暴に揉む。
痛みを感じるほどの刺激だが、それすらも快感に変換されてしまう。

「あ、あぁっ♥イク、いく、イっちゃ、あぁあ゛あぁぁああああっ♥♥♥」

チカチカと視界が明滅する。
焦点が定まらず、私が今どこを見ているのか、私にも分からない。
快感の瀑布が正常な思考を押し流し、私はひたすらに快感を叫ぶ獣に堕ちた。
体中を震わせて、爆発する快感を逃がそうとするが、次から次に押し寄せる快感には間に合わない。
秘所から、愛液とは違うサラサラとした液体が噴き出して、手と地面を派手に濡らす。

「うぁあぁあっ、なん、でっ♥イクの、止まらな、あ゛っ、う゛あぁっ♥」

絶頂から降りてこられない。
治まりかけた絶頂は、更なる絶頂で塗りつぶされていく。

「あーあ、エスティアちゃん、イキっぱなしになっちゃったね。
 ふふふ、素敵。もう、壊れちゃったのね。」

「ひっ、い゛ぃっ♥壊れ、ホントに、壊れちゃ、イぎっ♥」

「なぁに?壊れちゃうの、気持ちいいよね?幸せだよね?
 だって、壊れた方が、もっともっと、気持ちよくなれるじゃない。」
 
…クチュクチュ…クチュクチュ…
 
恐怖感を覚えるほどの快感が、フラウ様の言葉で強烈な多幸感に変化する。
あぁ、壊れてしまっても、いいのか。
だって、こんなに気持ちいいじゃないか。

「ほらぁ、指止まってるわよ?
 オナニー、好きなんでしょう?」

…クチュクチュ…クチュクチュ…

「え…?うぁっ!なん、で、指、勝手にぃ♥」

もう指一本動かす気力も残っていないというのに、手が勝手に激しく秘所を擦る。
止めようと思っても一切止まる気配はない。
助けを求めるようにフラウ様の顔を見るが穏やかな笑顔を浮かべたまま動かない。

「ふふふ、エスティアちゃん、あんなに激しくイったのにまだ足りないのね?
 あぁ、いやらしい…♥」

「ち、が…♥うぁぁああ゛っ、指、勝手に、うごいてぇっ♥」

「あらぁ、違うわ。エスティアちゃん。
 その、勝手に動いてる手が、あなたの本性よ。
 イっても、イっても、次の快楽を求める。それが、あなたの本性でしょう?
 あなたは、いやらしいメスでしょう?」

…クチュクチュ…クチュクチュ…

「あ゛っ♥お゛ぁっ♥ほん、しょう?」

「そう、本性。
 あなたはいやらしいメスなんだから、ずぅっとオナニーしてて当然でしょう?
 くだらない自制心や羞恥心なんて忘れちゃいなさい。
 気持ちよければ、それでいいの。
 ほら、身体はもっとイきたいって言ってるのよ?」
 
…クチュクチュ…クチュクチュ…

「あ゛ー♥あはは、そっかぁ…♥本性…これが、本当の、わたしぃ…♥」

頭の中の、大事な線が、音を立てて切れた。
両手をショーツの中に突っ込んで、滅茶苦茶に撫でまわす。

「いいよぉ…、オナニー、気持ちいいっ♥あぁ…また、イっちゃうぅ♥」

「そっかぁ、もう、戻れないねぇ?
 エスティアちゃんは、もうオナニー狂いの変態さんね?
 もう、真面目なエスティアちゃんは居なくなっちゃうよ?」

「いいっ!いいのぉ!こんな気持ちいい事、やめられないからぁっ♥」

「ふふ、あははははっ!あぁ、本当に素敵っ…♥
 ほら、早くイきなさい。
 変態さんのアクメ、早く見せて?」

「いヒっ♥はい、イきますっ!あ゛ぁっ、終わる、私、終わっちゃうっ♥」

致命的で、破滅的な快感に身を任せる。
水音に混じって、ブチブチとなにかが千切れる音が聞こえる。

「イく、いく、イッ、いくいくいくいく、イっくうぅぅぅうううううっ♥♥♥」

身体がバラバラになる。
思考がどこかへ飛んでいく。
だというのに、まだ指は止まらない。
水音が響き続けて、ああ、またイく。
イって、イって、イき続ける。

「うぐぅっ、あはぁっ♥あ、イクっ♥ひぃっ!また、イってるぅっ♥」

気持ちいい。幸せ。気持ちいい。幸せ。気持ちいい。幸せ。

「ふふふ、そう、幸せね。何回でもイけばいいわ。
 イけばイクほど、あなたは女として、メスとしてますます素敵になれるわ。
 素敵になったエスティアちゃんを、あなたの大好きな人に見せてあげるの。
 きっと、とても、幸せよね?」
 
私の大好きな人。
曖昧な思考で思い浮かべるのは、私の最愛の弟子の顔。

あぁ、ウィルは、こんな変態になってしまった私を受け入れてくれるだろうか。

「へぇ、お弟子さんかぁ…。
 私の夫程じゃないけれど、とっても素敵な子じゃない。
 きっと、どんなエスティアちゃんも受け入れてくれるわ。」

なぜフラウ様がウィルの事を知っているのかは分からないが、今までの容赦のない声音とは違う優しい口調は、妙な説得力があった。
「う…あ゛ぁっ、イ、くぅ…♥いぃ…あ♥んぅ…♥」

意識が遠のいていく。なのに、また絶頂に晒される。
起きているのか、意識を失っているかも分からない。

「あらあら、そろそろ限界みたいね。
 寂しいけど、また会えるのを楽しみにしてるわ。」
 
やけに遠くでフラウ様の声が聞こえる。
あぁ、そんな、まだまだ気持ちよくなりたいのに。
すがるように触手を握る。

「ふふ、そんな悲しそうな顔しないで?
 あなたがもっと素敵になりたいと思ったら、またすぐに会えるもの。」

「イ、くぅ…♥あぁ…、ふらう、さまぁ…」

頭を優しく撫でられる。
快感に呑み込まれるように、世界が暗転した。


15/07/28 20:04更新 / 小屋
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■作者メッセージ



「ふふふ、ねぇあなた、聞いた?『フラウ様』ですって。
 もう、ホントに可愛いんだから。絶対にあの子には同属になってもらわないとね。」

「…うん、そうだね。」

深い洞穴の奥には、二つの人影。
仲睦まじく寄り添う魔物の夫婦だ。
フラウの夫の口調はやや暗い。

「あら?どうしたの?なんだか、元気ないわね?」

「い、いや、なんでもないよ!」

腕を振って誤魔化すが、何かを隠しているのはバレバレだ。

「もうっ!夫婦で隠し事は禁止でしょう?」

拗ねたように言いながら、フラウは触手を夫の頭に絡ませる。

「あっ、ちょっ、駄目だって、ホントになんでもないから!」

必死で夫は話すが、フラウは意に介す様子はない。
彼女に隠し事は通用しない。
いくらでも他人の思考や精神状態を覗けるのだ。
必死の抵抗もむなしく、夫の思考はフラウに筒抜けになった。

「ぷっ、ふふふっ、そっかぁ、エスティアちゃんに嫉妬しちゃったのね。
 私が、エスティアちゃんに盗られちゃうって思った?」

ズバリ言い当てられ、夫の顔がみるみる赤くなる。

「あぁ、もうっ、あなたってば、なんでこんなに可愛いのかしらっ♥
 ふふ、大丈夫。私にとっての一番はずぅっとあなたよ。」

触手と腕でギュッと抱きしめられ、頬ずりをされる。

「う、うん、ありがとう…」

おどおどと、夫が抱きしめ返した。

「あぁ、もうあなたが心配にならなくていいように、私の思いをしっかり伝えてあげる…♥
 頭の中に直接、ね?」

…クチュクチュ…クチュクチュ…

「あっ、うぁっ、フラウっ…!」

今日も、洞穴の奥では夫婦の嬌声が響く。



〜後書き〜

お待たせしました。二話目です。
なんというか、好き勝手にアへらせる作業と言うのは、なかなか楽しいものですね。

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