連載小説
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夜明け前のデザート

……シュリー。オレ、いつかようへいになるよ……

……ようへい、ってなあに?……

……おかねをもらってたたかう、へいたいのことだよ……

……へいたい? せんそうにいくの?……

……つよくなりたいんだ。よわいひとたちをたすけたいんだ……








……ヅギ! 人を食べるなんてだめ!……

……食べなきゃ死ぬんだ! オレは生きたい!……

……だめ! だめだよ!……

……はなせよ! オレは死にたくないんだ!……










……敵の首領の首……お前が殺ったのか!?……

……大した奴だ、少年兵なのに……

……おい、何食って……人の腕じゃないか!……

……飢饉でやむを得ず人肉を食べて、それが止められなくなることがあるって聞いたが……

……おっかねぇ……





……敵襲、敵襲ーッ!……

……馬鹿な、この辺りに大軍はいないはず!……

……ハメられたか! 教団の連中、俺たちを囮の捨て駒にしやがったんだ!……

……迎え撃つしかねえ! ヅギ、先鋒はお前だ!……

……生き残った奴は司祭を殺せ! いいな!……









……ひぃ! 許してくれ! か、金ならいくらでも!……

……司祭さん、あんた傭兵なめてるだろ?……

……ぎゃあああああ!……

……ちっ、脂身ばっかりだな。けど脳みそなら食えるか……

……や、止めてくれぇ!! 命だけはーッ!!……






……あーあ、腹減った……















「あ、起きた!」

 眼を開けた瞬間、ぼんやりした視界には幼馴染の顔があった。

「ヅギ、大丈夫?」
「……シュリー?」
「ここで待ってて。どこにも行っちゃ駄目だよ!」

 そう言って、シュリーはズルズルと部屋から出て行った。オレはベッドに寝かされており、部屋は内装からして教会の一室であることが分かった。
 脳内から記憶を引き出す。昨晩の戦闘で、シュリーが駆けつけてきたことに気を取られ、セシリアの鉄拳を喰らってしまった。その先の記憶は無く、おそらく気絶して捕らえられたのだろう。けれどそれなら何故、牢獄ではなく教会なんかに……?
 シュリーが助けてくれたのか、とも思ったが、一人のローパーがあの状況からオレを救いだせるはずもない。
 ひとまず体を起こそうとすると、腹に痛みを覚えた。セシリアの奴、少しは加減してくれたみたいだが、それでも相当重い一撃だった。

 と、部屋のドアが開いた。
 最初に入ってきたのは、黒マントを羽織った女。赤い髪の毛に灰色の瞳をしており、身のこなしの随所に気品が感じられる。そして、全く隙を見せない。サキュバスに似ているが、それを上回る戦闘能力を持っていることは確かだ。おそらく、こいつが……

「あ、椅子をどうぞ」
「ありがとう」

 後から入ってきたシュリーが椅子を勧め、女はそれに座った。

「私はリライア=クロン=ルージュ。このルージュ・シティの領主だ」

 微かに笑みを浮かべ、彼女は名乗った。オレの暗殺対象たる、ヴァンパイア。しかし彼女の目からは、一切敵意が感じられなかった。シュリーはベッドの傍らで、緊張した面持ちでオレと領主を見守っている。

「あのまま戦い続けていたら、私の部下は何人か死んだかもしれないな。彼女が割って入ったことに感謝している」
「おかげ様で、鉄拳喰らって腹いっぱいさ。……負け犬に何の用だい、領主様?」

 目を合わせず、オレは尋ねる。

「単刀直入に言おう。この町を守るため、私に力を貸してほしい」
「……依頼?」
「いや、この町の正規兵となってもらいたい。然るべき待遇を約束する」

 オレを召し抱えたいだと?

 美味い話にホイホイ乗る奴は、傭兵としてやっていけない。当然、自分を殺しに来た奴を雇おうなんていう奴を、信用できるわけがない。ましてや正規兵だと?

「オレが【悪食】って呼ばれてる理由、知ってるだろ?」
「ああ。加えて金次第で魔物にも教団にもつく、ということもな。だが……そなたは傭兵でありながら、民間人に一切危害を加えない、と聞く」
「……」

 傭兵は命のやりとりでボロ儲けする仕事と思っている奴も多いが、それは運のいい奴の話だ。大抵は誰にも看取られずに死んでいき、死体は野晒しが普通、葬式が行われるのはほんの一部だ。傭兵は公式の戦死者としてカウントされないことが多く、それ故に雇い主の捨て駒にされる可能性も高い。実際、昔の仲間達はそうして死んでいった。
 その代わり傭兵は軍規に縛られにくく、正規兵と比べ民間人に対する略奪や強姦がしやすい。多くの傭兵達はリスクの埋め合わせとしてこのような行為に及ぶわけだ。
 そんな中、戦場で人肉や魔物の肉を食い、情け容赦なく敵兵を殺しながらも、民間人に手出しをしないオレは確かに異質だろう。特に理由はない。ただ、無関係な人間とは無関係でいるべきだと思っただけだ。

「そなたは本来、優しい男のはずだ」
「……さあね」

 何かムカついたので、適当な返事で済ませる。

「私は剣を持っていても鞘から抜かないのが、領主として正しい姿勢だと思う。しかし教団がどうしてもこの町の存在を許さぬなら、そのときは町を、民を守らなければならない。そなたのような優れた戦士が必要だ」
「オレはあくまで傭兵だ。あんたの手駒になる気はない」
「何故そこまで、戦争の犬であることに拘る?」

 何故、か。軍規に縛られるのが嫌だとか、人肉が食いづらくなるとか、理由はいろいろある。しかし、最たる理由は……

「一人でいれば何人殺しても、引き替えるのは自分の命一つで済むからさ」
「……やはりそなたは、優しい人間なのだな。優しくて、馬鹿だ」

 領主はやや軽蔑した口調で言った。だが彼女は魔物として高位の種族にも関わらず、人間を見下した様子がない。人間との共存のため町まで作ってしまうくらいだから、当然と言えば当然か。

「ヅギ……」

 シュリーがオレの顔を覗き込む。昔と変わらない、真っすぐな目だ。

「お願い、私の傍にいて……! ヅギは一人じゃないよ!」
「………」

 なんで彼女は、オレのことでこんなに必死になるんだ? 人殺しで人食いのオレを。
 オレは金で命のやり取りをしてきた。その中で戦友という奴らは何人かできたし、セシリアもその一人と言っていい。だがそれはあくまでも同業者としての友情だ。普段は軽口をたたき合い、戦場では「困ったときはお互い様」と助け合い、ある日唐突に別れがやってくる。それが傭兵の友情。

 シュリーみたいな綺麗な奴が、なんでそんなオレを……


「そろそろ夜明けか……私は領主邸に戻るとしよう。しばらく疲れを癒すがよい、また来る」

 領主が立ち上がった。シュリーは見送ろうとしたが、領主は結構だと言って止める。

「これだけは言っておこう、ヅギ=アスター。収まる鞘のない剣は、いずれ折れる」

 領主はヒールの高い靴を小気味良く鳴らしながら、部屋から出て行った。寝室にはオレとシュリーの二人だけという状態だ。
 彼女はほっと息を吐いて、オレを見やる。

「ヅギ、体は平気?」

 平気かと聞かれればそうでもない。まだ腹は痛む。しかし普通にしている分には問題ない程度だ、オレも常人とは鍛え方が違う。
 心配してくれるシュリーの視線が、痛いほどに染みる。こいつのことだから、自分のせいだと思っているかもしれない。

「お前、なんで来たんだ?」
「夜中にトイレで目が覚めて、その後、その……」

 頬を赤らめ、彼女はもじもじと話を続ける。

「昼間のことを思い出しちゃって……無性に、ヅギに会いたくなって……」

 昼間のこと、というのが何のことかは聞くまでもない。あの奇怪で淫猥なティータイムだろう。

「で、夜這いしようとしたらオレがいなくなってた?」
「夜這い……まあそうだけど。それで外にサバトの人たちがいたり、兵隊さんらしい人もいたり、何かあったんだと思って」

 それで騒ぎの中心へ向かって行った結果、戦闘中のオレを見つけたわけか。怖くなかったのか、こいつは。いや、何事も真っすぐな奴だから、例え怖くても飛びださずにはいられなかったんだろう。そういう所がセシリアにも気に入られたのかもしれない。とにかく、彼女に害が及ばなくて良かった。オレが転がり込んだだけで、すでに迷惑はかけてるけど。

「ねえヅギ、何か欲しい物とか、ある? お水とか」
「……傍にいてくれ」

 オレの馬鹿。何でこんなに甘えたい気分になってるんだよ。
 だが、それがオレの本心だった。少なくとも、日が昇るまでは一緒にいてほしかった。
 すると彼女は頷いて、何故かオレの毛布をまくり、中にズルズルと潜り込んでくる。悪戯っぽい笑みを浮かべて。こういうところはやっぱり、魔物の思考になっているんだな。

「えへへ♪」
「まったく……。なあシュリー、昔のオレって、どんな奴だった?」

 そう尋ねると、彼女はくすりと笑った。

「一言でいえば、不良だったね。教会の食べ物をつまみ食いしたり、ケンカしたり、役人のお財布を盗んだり」
「そういうお前は、いつも神父の言うとおり清く正しく、品行方正だったな」

 オレたちは子供の頃から正反対だった。オレが悪さをすると、いつもシュリーがそれを咎めて、ときには神父に告げ口した。オレは懲りずに、また悪さをした。神父から字の読み書きを教わっていたが、あのころは畑仕事と喧嘩以外に何もできなかったからな。今の傭兵稼業もスケールが大きくなっただけで、あまり変わらないか。
 けれど、一番一緒にいた友達もシュリーだった。オレの悪事がきっかけで大ゲンカしても、次の日には畑仕事を手伝ってくれた。硬い黒パンを半分に千切って、一緒に食べて仲直りしようと言ってくれた。オレも仕事の合間に遊びに行くとき、必ずシュリーを誘っていた気がする。
 彼女の親代わりだった神父も、悪さをしたとき以外はオレを可愛がってくれていたように思う。

「シュリー、なんでお前はオレなんかに構うんだ? お前とまったく逆なのに」
「……逆だから、かも」

 シュリーはオレに頬を寄せた。

「私、本当はヅギが羨ましかったのかもしれない。嫌なことを真っ向から嫌だって言えて、それに負けないところが」
「………」



 そう、か……。

 だからオレも、こいつのことが……。




「ね、ヅギは私のこと、嫌い?」
「嫌いな物は真っ向から嫌いって言うさ、オレは」

 シュリーの体を抱き寄せる。すると彼女の方からも、触手をオレに絡めてきた。

「ね、ねえ……私、その……」
「我慢できなくなったんだろ」

 夜中にオレを探したのも、元はと言えば性欲が原因だ。オレが危なくなり一時はそれが消し飛んでも、またこうして間接的に肌を合わせていては、すぐたまってくるだろう。
 オレとシュリーはどちらからともなくキスをする。舌を絡め、体は互いの暖かみを感じ合う。そうしている間に、シュリーは毛布の中でオレのズボンを脱がせはじめた。オレのペニスを大事そうに手で握り、さするようにしごいてくる。さらに触手を使って粘液を擦りつけ、手のスベスベ感がヌルヌル感に変わる。

「ぷはっ……」

 息をするのを思い出したように、シュリーが唇を放す。少し呼吸を整える。
 そうしている間に、オレの息子はすっかり怒張し、絡みつくシュリーの粘液がにちゃにちゃと卑猥な音を立てていた。彼女の手つきはとても丁寧で、カリから竿、睾丸まで撫でさすり、粘液を塗りたくっていた。
 オレもお返しに、シュリーの胸を揉んでやる。控えめの乳房が、柔らかくて気持ちいい。

「んっ……ヅギぃ……」
「シュリー、そろそろ……」

 オレがそう言うと、シュリーの手がペニスから離れる。間をおいて、温かく柔らかい感触がペニスを包んだ。

「あああん♪ 入ってくぅ♪」
「うっ、締まる……ッ」

 腰を動かさなくても、魔物の膣は搾るようにウネウネと蠢き、くわえ込んでいる肉棒に快感を与える。最高だ。いや、相手がシュリーだからこそ、ここまで気持ちいいのかもしれない。
 そうしている間に、オレは絶頂に近づいてきた。
 すかさず彼女の触手を一本掴み……その先端を食いちぎる。

「きゃうううううぅぅん♪」
「うおっ、キツ……出るぞっ!」

 触手の快感に反応して、シュリーの膣がきゅっと強く締め付けてくる。それに搾り取られるかのように、オレは彼女の体内に精を放った。シュリーは腕と触手をオレの体にきつく絡ませ、それを受け止めてくれる。

「あはぁ……お腹の中、ヅギのでいっぱぁい……♪」

 シュリーはまた、オレに唇を重ねてくる。
 オレは触手を嚥下して、再び舌を絡ませた。


 オレたちの夜はまだ、終わりそうになかった。
11/01/25 22:00更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
エロ濃度をもうちょい濃くしたいんですが、なかなか……。

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