読切小説
[TOP]
昼下がりに淫火は燃え盛る
ふと気がつくと。
狭い下宿先の一室から、ささやかな酒類が、一滴残らず消滅していました。
同居人の嗜好品や、料理に使われるものはもちろん、
僕がアカデミーの実験や儀式などで使用する薬酒まで、ことごとく。

「しゃーねえだろ、酒が無くなるのは自然の摂理だぜ?」
「蒸発しちゃったみたいな言い方をしないでよ、
 お芝居に出てくる、ヤクザのおじさんじゃあるまいし。
 姉ちゃんが全部飲んじゃったんじゃないか」
「まーな」

僕の呆れた視線もどこ吹く風と、ベッドの上で大あぐらを掻いて、
小さな酒瓶片手に「ちっ、もーカラかよ」とぼやく、二十歳過ぎくらいの女の人。
吊り上がった狂暴な目つきに、唇の隙間から覗く、長めの鋭い糸切り歯が強面の印象を与え、
これまた長く尖った耳が、それに拍車を掛けている。
十分に美人ではあるけれど、どうにも剣呑な容姿だ。

「しかし、おっかない首から上のパーツとは裏腹に、
 女性らしさを感じさせるおっきいおっぱいは、
 僕の◯ちん◯んをむっちり包み込んで、あっと言う間にイかせてしまいそう……」
「地の文に割り込んでこないでよ……」

……えーと。
出るべきところは出て、くびれるべきところはしっかりとくびれた、
メリハリのある長身。
やや体温の高い、滑らかな朱色の肌。
光の当たり具合で金色がかって見える、癖の強いセミロングの赤毛。
白いシャツの袖口や、洗い晒した青い作業用ズボンの裾から溢れる、鮮やかな魔力の火。

先日、見習い魔法使いの僕と契約を結んでくれた、イグニスと呼ばれる炎の精霊だった。

「どっちかっつーと性霊だよな……自分で言うのも何だけどさ」
「ノーコメントで…って、だから、地の文に割り込むのはやめてってば。
 で? どうしたのさ。 晩酌の分まで飲んじゃって」
「朝っぱらからあんたがずーっと机に向かってるからヒマなんだよ、ガッコー休みなんだろ?」
「課題が出てたんだからしょうがないじゃない、本でも読んでれば?」
「料理の本もエロ本も暗記しちまったっつーの」

他のジャンルの本は読む気が無いそうです。
……でもまあ、前者の内容を元に、おいしいご飯を作ってくれるだけマシなのだろうか。
どうにも面倒臭くて、自分では料理なんてした事なかったしなぁ……。
と、酒瓶をテーブルの上に置いて、歩み寄ってきた姉ちゃんが、
僕の回想を遮るかのように口を開いた。

「それよりアレやろうぜ、アレ。
 契約の儀式とか、魔力供給とか、ベッドの上でのコミュニケーションとかさ」
「全部一緒じゃん、セ……セッ…………」
「セックスな…………ったく、あたしが痛い思いしてまでオトナにしてやってからこっち、
 毎朝毎晩溺れそうなくれー膣内(ナカ)に射精(だ)してるっつーのに、
 童貞のまんまみてーな真っ赤な表情(ツラ)しやがって……そそるじゃねえか、犯すぞ?」

言葉を重ねるごとに、好色なニヤニヤ笑いを深めていく姉ちゃんに、
僕は赤面のままジト目を向けた。
別に姉ちゃんの八重歯がセクシーだとか、
えっちな笑顔を見ていたいとかじゃないんだ、建前は。

ちなみに、僕が何故このイグニスを『姉ちゃん』と呼んでいるかと言えば、
僕の外見や物言いが、余りに幼くて頼りないので、
侠気と構いったがりなところを刺激されてしまった彼女が、

「ずーっと一緒にいてやんよ、ホントの姉ちゃんだと思ってくれていいからな」

と宣言した結果である。
『契約』の時に、始終彼女にリードされっぱなしだったのが致命傷だったんだよな……っと、
閑話休題。

「独り立ちもしてないのに、インキュバスになるつもりは無いんだけど……。
『ガキの分際でどれだけHしてるんだ』って言われそうで恥ずかしいし」
「あたしが許す! てか、手伝ってやるからなっちまえ♪」

ニヤニヤ笑いから一転、人懐こそうなやわらかい表情にシフトして、
シャツの襟元をくつろげる姉ちゃん。
小柄な僕の着替えだったそれは、やはりキツかったのか、
襟刳りから覗く、押し込められて強調された胸の谷間に、つい視線が吸い寄せられ。

「スキありっと」

次の瞬間には、僕の顔は、視界一面に広がった、双子の赤いメロンに挟み込まれていた。
途端に襲いかかってくる、張りのある弾力と熱いくらいのぬくもり。
そして、年頃の女性特有の、ほの甘い体臭。
つむじの辺りにくすぐったさを感じるのは、姉ちゃんが顎の先端を、
甘えた唸り混じりにグリグリと押しつけてきているからだろう。

――まあいいか、課題も終わった事だし。

流されたくなるのを我慢して、僕は姉ちゃんのくびれたウエストを抱きしめ返す。
そして、視界を塞ぐ双子の夕日に頬擦りして、
荒っぽい口調に似合わない、可愛らしい悲鳴を持ち主にあげさせてみる。
すると、形ばかりの悪態をついた姉ちゃんが、
一層強い力を込めながらも優しく抱き返してきてくれた。

ああ、軽く酔っ払った時のような快さ。
きっと、姉ちゃんのおっぱいは、幸せと安らぎと癒しと魅了の魔力で膨らんでるんだと思う。
……などと、しょうもない事を考えて、鎌首を擡げたモノを誤魔化そうと腰を退くと、
僕のつむじから顎をのけた姉ちゃんが、どこか興ざめしたように唇を尖らせた。

「なんだよ、あたしとくっついてるのはイヤか?」
「……恥ずかしいし」
「水臭ェな、じゃあ」

「ゴロンだ」と嘯いて、左腕を僕の肩から腰に回した姉ちゃんは、
数歩後退りすると身体を捻った。
そして僕は、一瞬宙に浮いたかと思うと、ベッドの上に仰向けで着地。
背中に受けた軽い衝撃とともに、自分の身体の上に腹這いになって、
舌なめずりをする姉ちゃんと対面した。

「これで逃げらんねえだろ」

互いの衣服越しに、姉ちゃんのぷりぷりした下腹部の筋肉が、
僕のいきり立つ分身を圧迫してくる。
せめてもの照れ隠しに顔を背けようとしても、両頬を挟み込む大きめの手のひらと長い指、
細身だけど筋肉質な二の腕が、頭部をがっちりホールドしていて動かしようがない。
よって、僕はいつも通りに、嘆息とは名ばかりの歓喜の声を上げて。

「ああ、おなじみの、捕食者と獲物の位置かあ……」
「誰が捕食者だよばーか、薄情なマスターに正当な報酬を要求してるだけじゃねーか」

「宿題くれーさっさと終わらせろっつーの」と、子供みたいにのたまう姉ちゃんの唇を、
自分のそれで塞ぎに掛かるしかなかった。




姉ちゃんの甘く瑞々しい唇が、触れてきた同類を受け止め、食んで吸い。
熱く潤う舌が、共食いをせんばかりに僕のそれに絡みついて絞り上げ。
酒精まじりの芳香が、口腔を、鼻腔を、肺を、果ては脳髄までを侵す。
それらの刺激はすべて、目の前の炎精に対する、いとおしさと劣情に変換されて。
小振りながらも精一杯反り返る、肉の矛先を煽り立て。
堪え切れなくなった半人前の精霊使いは、思わず、二、三度腰を突き上げてしまう事になった。

「っ……たはは…犬っころみたいに腰振んのは、もーちょい我慢しな。 くすぐったいだろが」

唇の甘さと吐息の芳しさを凝縮した唾液を置き土産に、
苦笑う姉ちゃんが、ベッドの上で四つん這いのまま後ずさった。
僕の膨らみの辺りに顔がくる位置に陣取ると、ズボンの上から頬擦り。

「お、ちっとニオイがすんぞ。 漏らしたか?」
「いくら僕が早漏でもそりゃないよ……」
「べそ掻くなっつーの、冗談だ」

おどけた笑みを交わす合間に、姉ちゃんは、
僕のベルトのバックルと、ズボンのボタンを外してしまった。
あとは尻を浮かせて、下半身を剥き身にされるばかり。
ぺちん!と、勢いよく飛び出してきた仮性包茎が、僕の下腹を叩いてから跳ね、
ヘソに先端を向けてピンとそそり立った。
その様を見た姉ちゃんは、嬉しそうに僕のち◯こに語りかける……う、吐息がこそばゆい。

「ひひひ、元気一杯で可愛いな♪」
「どうせ小さい・早い・かむってるの三重苦だよぅ……よよよ……」
「イキがいい・連射が利く・イジれるの三拍子だろ?
 あんまりデカ過ぎると、おま◯この気持ちいいとこに当たり難くなるって言うじゃねえか。
 サボらずに腰振ってくれりゃ、一緒に気持ちよくなれんだから気にすんなよ」

言いつつ、姉ちゃんの薄赤い指が、僕の陰嚢に触れてきた。
睾丸の輪郭をなぞるように、円を描いて指の腹を這わせたり、
下から軽く引っ掻くように撫で上げたり、
親指と人差し指で優しく摘んでぷにぷにと揉んだり、
強弱をつけながら、袋の縫い目を指圧して、皮の奥に息づくペニスの根元を刺激したり……。
軽く痛みを伴う快感は、聳り立つモノの硬度を高め、鈴口から透き通った粘液を溢れさせた。
と、僕の急所を弄んでいた姉ちゃんが、にんまりすると。

身に着けていた衣類を残して、掻き消すように姿を消してしまった。
瞬きひとつの間を置いて、軽い音を立ててベッド上にわだかまる、シャツやズボンの上には。

「さ〜て、皮っ被りを気にしてるマスターの為に、一肌脱いでやっとすっかねぇ」

四肢と胸に揺らめく炎以外、一糸纏わぬ姿のイグニスが、
獲物に飛び掛かる獣の姿勢をとっていた。




脱いだ衣服をベッドから払い落とすと、姉ちゃんの右手が、
僕の睾丸を再びやわらかく握り込んだ。
そのまま手首全体を炎が覆い、穏やかな感触に熱が加わる。
男性の象徴を火炙りにされているというのに、
湧き上がってくるのは不安や悲しみなどではなく、情欲だった。
万物に影響を与えず、ただ性欲のみを掻き立てるイグニスの炎の力と、
再開された陰嚢へのマッサージが、まだるっこい快感を与え続けているからだろう。

「ったく、きゃんたまをちっとばかり転がしたくれーで、我慢汁垂れ流しにしやがって……」
「姉ちゃんに触られてるからなんだけどね、勃つのもこうなるのも」

僕のあそこを弄りながら、誇らしげな笑顔を見せる姉ちゃん。
細くアーチを描く吊り目と、白く輝く牙が眩しい。

「ひひひ、そーかよ……んじゃ、ご挨拶と味見かね」

れろぉ……。

姉ちゃんの薄い唇を割って、紅い舌が姿を現した。
再びの舌なめずりの後、すぼめられた唇が、僕の亀頭目掛けて、緩慢に接近してくる。
そのもどかしさに、紙一重で触れるか否のところを待ち切れず、つい僕の腰が動いてしまった。

『んっ……』

思わず重なった声に続く、粘膜の触れ合う音。
軽く短いそれを皮切りに、僕の尿道口から溢れるものを啜る水音が、
情欲を掻き立て、先走りの量を増やす。
目許で弧を描いた姉ちゃんが、舌先を包皮と亀頭の間に捩じり込んで、
溜まったそれを拭い去り、肉の切っ先を清めてくれた。
ただし、舌先の動きに連動して、断続的な快感の火花が、そこと頭の奥を灼いたけれど。

「うーい、うーい、めぉ、めぉお……むぃみ、もっまひまぁ。
(ぐーり、ぐーり、れろ、れろぉ……ひひ、しょっぱいなァ)
 むぅ、むぅうう……」
「あぅ……っ、く……」

分身に吸いついてきた唇が、頑固な包皮を押し下げると、
亀頭を挟み込んで腺液を搾り出した。
燃える淫蛭にくるまれた肉李が、脳を蕩かすような快楽を伝えてくる。
ちろちろと上下する舌先が鈴口をほじり、ぴくぴくとペニスと腰が跳ねると、
目許の笑みを深めた姉ちゃんが、僕の分身を根元まで咥え込んでしまった。
溢れる唾液が潤滑油となって、腺液にまみれた舌が、咥え込んだモノを奥へと導く。
やがて、喉奥の粘膜に、亀頭が接触して、

「…………!」

一瞬眉根に皺を寄せた姉ちゃんが、そこを使って亀頭を搾り上げた。
同時に、ペニスの根元への甘噛みと、幹への舐め回しが重なる。
女の子のような高い悲鳴が僕の鼓膜を貫いたが、
それが自分の漏らしたものだと理解するには、数拍の間が必要な程の快感だった。
そして、無意識の内に数回抽送しただけで、急激にせり上がってくる射精感に耐え切れず。
僕は情けない断末魔を上げながら、姉ちゃんの口中にたっぷりと、
溜まっていた欲望を暴発させてしまった。

「…………っ!? ぐっ…………う゛ぇ……む゛、ん……」

射精が治まるにつれ、姉ちゃんが手指でキツい輪を作って、
根元からエラの辺りまでしごき上げ、欲望の残滓を搾り出す。
亀頭への強い吸引もあり、微かな痛みと解放感を道連れに、
それは姉ちゃんの口腔内で、同胞や先住者達と混ざりあった。
のろのろと上体を起こした僕の視界に映り込む、
精液と唾液の混合物をまぶした姉ちゃんの舌。
気怠げにそれが引っ込められ、持ち主が喉を蠢かせたと思うと、
再度外界に曝け出された細目の舌は、果実のような紅色を取り戻していた。

こしこしと目尻を指の節で拭いながら姉ちゃんが呟く。
さすがに苦しかったのだろう、目が薄赤い。

「ディープスロートっつーんだっけ?こーゆーの」
「分かんない……」
「オイオイ、腑抜けたツラしてんなよ? まだ一発ヌいてやっただけじゃねえか」

滲んだ涙が失せると、いつもの不敵で淫糜なニヤニヤ笑いを浮かべた姉ちゃんが、
また僕の股間に顔をうずめ、半ば芯の抜けた分身に、軽く口づけてから唇を這わせてきた。

「んー……やっふぁふぁ」
(んー……やっぱさ)
「んっ! ……なぁに?」
「ふっくーひ、ふひほ、ふぇふぉほ、ふぇめふむほーふぁひーひゃま。
(ふっつーに、口と、ベロと、手でする方がいいやな)
 ほめほも、もももむはっまほーまみーま?
(それとも、喉も使った方がいいか)」
「どっちも、気持ちいい、から、分かんないや……あっ!」
「もーふぁい。
(そーかい)
 ま、ふぃふぇほひふぁっふぁふぁら、みふへふぉふぃーまひょ?
(ま、してほしかったらいつでも言いなよ)
 れろれろ、みゅうぅ……」
「うん……んっ!」
「ふぃふぃふぃ……」

最初は優しく、さするように。
分身が息を吹き返すと、カリ首と根元を縊る動きをつけ加え。
唇でも、飴玉をしゃぶるように吸いつきながらの上下動。
懲りずに滲み出してきた先走りをこそぎ取るような、舌先蠕動のおまけつきだった。
おまけといえば、幹をしごく右手から、ちろちろと零れる淫欲の炎。
それは肉幹の肌から芯までを焼き焦がし、
一度は爆ぜた白い欲望を、再度煮え滾らせる熱源となった。

いつしか、唾液と腺液の共演に、もう一つの水音が混ざり始める。
亀頭への舐め回しや陰茎への手遊びの快感を堪えつつ、爪先の方に焦点を合わせてみると、
何やら上下する姉ちゃんの赤くまあるいお尻。
陰嚢からシフトさせた左手で、自分で自分のものを慰めているらしい。
……どうしよう、彼女の腰の動きを見ていたら、また込み上げてきてしまった。
ちらっと視線を下げてみると、雄弁な姉ちゃんの微苦笑と、勢いを増す吸引に手コキ。
舌先は促すような裏筋への愛撫に切り替わっているし。
とりあえず、感謝と謝罪の意を込めて、僕は姉ちゃんの癖っ毛を優しく撫でながら、
少しでも二回目の口内射精を先伸ばしにしようと、不浄の穴にぎゅっと力を込めた。




「ンっ……く……あぁ。 二回目だけど濃いな、ごっつぉさん」

再度受け止めたものを飲み下して、姉ちゃんが三度目の舌なめずり。
満足げに細められた吊り目が、どことなくネコを彷彿とさせた。
愛らしさと安らぎを醸す笑顔を前に、僕は深呼吸をひとつ。

「お粗末さまでした。 僕もしようか?」
「いんや、いいよォ……何の為にあたしが自分でしてたと思ってんのさ。 ってなわけで……」

四つん這いのまま、お互いの鼻がつきあいそうな位置まで近づくと、
姉ちゃんは膝立ちになった。
そのまま両腕を僕の肩と腰に回してきたので、同じく抱き返す――
立ち上がると、頭半分と少しの身長差があるせいで、
僕が腕を回せるのは姉ちゃんの胴の辺りになってしまうのが悔しい――。
続いて、唇を触れあわせるだけの短いキスを交わし、
胸元を軽く押してくる姉ちゃんの手のひらに応えて、僕は再び上半身を倒した。
すると、自然に、僕の腿の辺りに跨がる格好で、スッと直立する、
姉ちゃんの肢体が視界に入り込んでくる。
見下ろしてくる黒い瞳が、縦裂きの細いスリットにすぼまり、
ニヤついていた口許が、真一文字に結ばれた。
実に威圧的な、捕食者……いや、絶対者の無表情。
『契約』を結ぶ際、魔法陣の中から僕を見つめてきた時も、
彼女はこんな顔をしていた記憶がある。
ただし、その無表情は、口を開いた途端に消え失せたのだけれど……。

「挿れるぞ」

ああ、やっぱりあの時と同じだ。
綻んだ口許と、酔ったような半眼と、普段以上に赤い頬。
その蕩けた表情に見とれている間に、先程から力を取り戻していた僕の性器が、
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、姉ちゃんの中に沈み込んでいく。

肉幹が半ばまで、煮え滾る牝堝に咥え込まれたところで、僕に跨る炎精は、
切なげな吐息を漏らしながら、しばし腰を制止させた。

ただし、それは外見上だけの事。
締まり具合がバラバラな無数の肉襞が一斉に蠢き、
膨張した亀頭の先端を、濡れそぼった内壁の一箇所に擦りつける。
かつてそこにあったのは、姉ちゃんの純潔の証。
僕の童貞を奪ってくれて、捧げられてくれた乙女。

頬に血の気が昇るのを自覚しつつ、姉ちゃんの顔を見上げると、
面映ゆげな微苦笑が浮かんでいた。

「好きだろ? 挿れる時にここで一回タメんの」
「……大好きです」
「ひひひ、正直で宜しい。 けどさ……痛かったんだぜ、おい」
「ゴメン」
「だから、責任とって、気持ちよーくしてくれよ? いつも、みたく、なッ……!!」

ぐちゅちゅちゅ……っ!

淫猥な水音が鼓膜を貫くのに合わせて、僕の分身が、姉ちゃんの秘肉を掻き分けていく。
きゅうきゅうと締めつけてくる粘膜越しの筋肉が、入り込んできた異物に反発しながらも、
奥へ奥へと引き摺り込んでいく快感によって、僕の股間と頭蓋の中で火花が散る。
やがて、コリコリとしたものが、微かに先端に触れたのを感じた。

「ああ……ッ」

思わずといった風情で洩れる、メスの甘い悲鳴。
それが火種となって、今まで半ば夢うつつのままに快楽に身を委ねていたオスが、
完全に覚醒し、牙を剥いた。

『…………!!』

ぐりっ、ぐりっと、間を置きながら、焼けつくような肉枷の中を、僕の得物が抉る。
姉ちゃんは怯んだように目を閉ざして、抉られるたびに哭いていたが、
五度目の侵攻を受ける寸前、いつもの微笑を取り戻した。
そう、狂暴で淫らで不敵な、牙を剥き出しにする口角の吊り上がりだ。
そして、皓いモノが切っ先を覗かせるのに比例して、下の口でも淫鎖が急に収縮。
今度は僕が悲鳴を上げて、背筋を震わせる破目になった。

「焦んな、もっとじっくりヤろうぜ?」

涙目の僕に向けられる、荒っぽくも親しみ易いアルトの呼びかけ。
続けられたのは、先走ってしまう僕を大人しくさせる、最強の呪文。

「気持ちよくなんのもイくのも一緒だかんな」

……それを唱えられると、どうにもこの女性(ひと)の言う事を聞かざるをえない。
どちらがマスターだか分からなくなる理由の一つである。

何はともあれ、トンビ座りの姉ちゃんが腰をゆっくり上下させるのに合わせて、
僕もまた挿送を再開させる。
彼女の急所である内壁の上部を刺激できるように、
少しでもペニスが反り返るように、そこに力と意識を集中させながら。

だが、蠕動する肉粒と、収縮と弛緩を繰り返す複数の肉輪が、小賢しい思考と動作を嘲笑う。

それらは僕の亀頭と理性を擂り潰し、陰茎と辛抱とを縊り。
女陰を突き上げる腰の動きを、深く、速く、激しいものへと煽り立てていった。

一方、上になって腰を使う姉ちゃんの方も、
最初は、苦笑しながら擦りつけるような動きをしていたのだが……。

「あッ……ン……は、ひゃはは……ひゃははははははっ! あァ、熱い、熱い……!!
 ち◯ぽ、◯んぽで……ッ! まん◯、融かされ、ちまうよぉ……!!
 ま◯こも、あたまも、ぜんぶ……ぜんぶ融かして、融かしてぇ……!!!!」

いつの間にか蹲踞の状態で、尻の肉を僕の腿に叩きつけ、
高らかに狂笑しながらグラインドを加速させていた。
それに伴い、淫肉の蠕動とイグニスの炎が、熱と勢いを増し、
繋がる僕の欲望を沸騰させ、爆ぜさせんと包んでねぶる。
うわごとのように繰り返される「融かされる」という言葉を裏づけるように溢れた、
灼熱の牝蜜が、ひくつく陰唇と互いの下腹を灼き、海綿体を膨張させた。
膨張といえば、姉ちゃんの胸元に燈る淫火越しに透ける、濃い朱色の乳首ふたつ。
触られてもいないのに硬く尖りつつあるそれに、僕は手を伸ばし、軽く摘んでみた。

「きゃう!」

悲鳴とも嬌声ともつかない高音が、姉ちゃんの喉を突き破った。
あわせて僕の肉矛も、姉ちゃんの最奥を突き破らんと身を反らす。
自己主張を強める乳首を指先で弄るごとに、姉ちゃんの膣口と産道が、
咥えこんだモノを喰い千切らんばかりに痙攣するのが、いとおしくて仕方がなかった。

さて、そろそろ三回目の射精の気配が忍び寄ってきていた。
さっきから亀頭に触れてくる、こりこりとした感触のせいだろう。
その感触は、段々と、僕の鈴口付近から、亀頭全体を包むように広がっていっていた。
姉ちゃんの嬌声、燃え盛る淫火、腰と肉襞の蠢動を従えて、
僕のペニスと脳髄を焼き焦がす、子宮口でのキス。
……いや、もうキスとは呼べないだろう、甘噛み、いや、咀嚼だ。
魔精霊の至上の糧である、契約者の精を貪り喰らわんとする飢えた顎(あぎと)。
それを認識した為か、快楽に焼けついた頭蓋の片隅で、焦燥がじわりと存在を増していく。

――このまま先にイっちゃったら、怒られるかな。

ひとまず、暴れる姉ちゃんと目を合わせてみた。 切なげで可愛らしい涙目だった。
嗜虐心が僅かに鎌首を擡げるも、尿道を競り上がってくる白濁の気配に打ち消される。
きっと今の自分は拗ねたような情けないジト目になっているだろう。
……だって姉ちゃんの目が意地悪そうな三日月になってるし。
と、腰の辺りに置かれていた姉ちゃんの手が、乳房を弄んでいた僕のそれに重なった。
いつの間にか、三日月から揶揄する色が消え、気さくな微笑が浮かんでいる。

い っ し ょ だ っ つ っ た ろ。

唇がそう蠢いて、ひときわ高く甘い声が上がるのと同時に、
子宮口に吸い出されるかのように、姉ちゃんの胎内へ、僕の精が吐き出された。




「あ〜……やっぱ、膣内(ナカ)に射精(だ)されんのが一番だわ……」

ふにゃ〜……という擬音が似合いそうな、姉ちゃんのネコめいた微笑。
おまけに優しくもしっかりと僕の肩を戒める抱擁と、甘えてくるような頬擦り。
今、僕達は、姉ちゃんが上体を前方に倒す形で、繋がったまま抱きしめあう体位をとっていた。
ジパングの方では、この体位を“ホンチャウス”というらしい。
トリビアはさておき、唇への啄ばみが途切れるのを見計らって、
僕は姉ちゃんの首へ両腕を回した。
そして、目を瞑って抱きしめながらのキス。
心地よさそうな唸り声が、絡み合う舌と唇の水音に重なる。
やがて、糸を引きながら唇を離すと、僕達はどちらからともなく笑いあった。

「さーて、第二ラウンドイくか? このまんまで」
「うん……これ終わったら、体位変えたいかな? 後背位とか」

「やだよ、抱っこできねーし、キスもし難いじゃんか」とぼやきながら、
姉ちゃんは腕に力を込め、唇を尖らせてきた。
僕は返答を残念に思いながらも、それらを受け入れて、腰をぐいっと突き上げ。
すると、一瞬姉ちゃんの目が大きく見開かれたと思うと、
いたずらを企む子供のような半眼になった。

その後。
疲労で気を失うまで、姉ちゃんに唇を貪られつつ、
件の体位のまま、僕が精を搾られ続けたのは、余談である。




Fin








蛇足




「…………あれ?」
「お、起きたか」

目が覚めたら下半身裸なのはいい、気を失うまで姉ちゃんとHしてたんだし。
いつの間にか部屋のカーテンが閉まってるのも納得できる、
カーテンの隙間から挿す光が、夕焼けの橙色に染まってるし。
姉ちゃんが下着の上からパジャマのブラウス部分だけを羽織ってるのは……いつもの事か。
目の毒だけど。

「というわけで姉ちゃん、ズボンも履いてよ」
「何が『というわけ』だかわかんねえから却下だ。
……いいじゃねえか、ぱんつも中身も見飽きただろ? 見る以上の事もしてるわけだしさ」

パジャマの裾を軽く持ち上げるニヤニヤ笑いの姉ちゃん、顔を背ける僕。
ちらりと見えた可愛らしい青色に、視線だけは引き剥がせなかったのが気恥ずかしい。

と言いますか。

第三ボタンまで外された襟元!
曝け出される夕焼け色の谷間!!
チラチラする黒いレースの縁取り!!
裾を割るおいしそうな太もも!!
すべすべしたクロッチ越しに窺える、ぷにぷにとした大陰唇!!!!

――あきらかに誘ってるとしか思えない、もうやだこの性霊さん……。

などと世迷言を垂れ流していると、正直に反応してしまった愚息に目をつけたか、

「よっしゃ、お互いに『犯りたい』って欲求が一致したな♪ んじゃあ早速……」

満面の笑顔で両手の指をわきわきと動かす姉ちゃん。
今にも、毎度おなじみベッドの上での捕食活動が始まるかと思いきや、
僕の腹部から、小動物めいた悲鳴が漏れ出した。

「……ひとっ風呂浴びてきな、晩メシ作っとくからさ」

唇を尖らせながらのお達しに、僕はありがたく、

「もちろん、イグニス(あたし)の炎でな」

従おうとして、盛大にすっ転んだ。








夕飯はおいしかったけれど、暴走した愚息を抑えきれず、
インキュバス化するまで姉ちゃんを後背位で犯し続ける事になってしまった、
と追記しておきたい。
11/02/12 21:53更新 / ふたばや

■作者メッセージ
出張先よりこんにちわ。
スマートフォンでの投稿は、しんどいです……orz

追伸:誤字などを少々修正しました。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33