読切小説
[TOP]
What is your weight?
「いや〜、今日も疲れた〜!」
そう言って帰り道を急ぐ男の名はグラゥ。
この町の自警団のメンバーだ。
やがて彼は教会に到着した。
「ただいま、セリアさん。
ご飯まだですか?」
「おかえり、グラゥ。
もう準備はできているから食べましょう。」
セリアと呼ばれたシスターはそう言って手招きをした。
いや、正確には体から生える触手で手招きのようなことをした。
彼女は人間ではなくローパーで、色々あってこの教会でグラゥと一緒に暮らしていた。
料理が上手く、彼女の料理はグラゥの好物だった。
「は〜い!」
笑顔で食卓につくグラゥ。
しかしテーブルの上の物を見て怪訝そうな顔をした。
「あれ?セリアさんそれだけで大丈夫なんですか?」
セリアの前には一切れのパンと水だけ。
夕食としてはあまりに少ない量である。
「そうよ、早く食べなさい。」
セリアは素早くパンを食べ、早々に
「ご馳走様。」
と食事を終わらせた。
グラゥも仕方なく、
「いただきます・・・」
(セリアさん、どうしちゃったんだろう?)
と疑問を感じながらも食事を取り始めた。



一週間後・・・
「ふぅ・・・」
グラゥは自警団の詰め所でため息を付いて考え事をしていた。
原因はセリアの事。
セリアはあの日からほとんど食事を取らず、日に日に衰弱していた。
(セリアさん・・・どうしちゃったんだろう・・・)
「ちょっといいかの?」
(あの日からほとんどなにも食べてないな・・・)
「おーい。」
(でも、僕が何聞いても『大丈夫よ。』の一点張りだし、どうすれば・・・)
「無視するな!!」
「うわあっ!!」
突然怒鳴られて、我に返るグラゥ。
彼の目の前には一人のバフォメットが立っていた。
「あっ、レグルさん。
何か御用ですか?」
バフォメットのレグルは薄い胸をそらして返事をした。
「うむ、近々町の大通りでわしのサバトへの大規模な入信者勧誘イベントを開こうと思っての。
自警団の許可を取りに来たのじゃ。」
「分かりました。
僕の方で上に話しておきます。」
グラゥにそう言われたレグルはそのまま彼の顔を覗き込んだ。
「ふむ、お主、さっきボーッとしておったのぅ。
何を考えていたんじゃ?」
「いえ、大したことでは・・・」
しかしレグルは引き下がらない。
「怪しいの〜、話してくれんか?」
ますます顔を近づけてくるレグル。
「わ、分かりました。
話します・・・」


「なるほどな。
飯を食わんパートナーのセリアとやらが心配と。」
「はい・・・」
グラゥが肩を落とすのを見てレグルは笑い声を漏らした。
「ふっふっふっ・・・安心せい。
お主の悩みわしが解決してやろう!!」
「本当ですか!?」
「うむ、明日仕事が終わったらサバトに来るのじゃ。」
レグルはそう言い残して帰っていった。



次の日、仕事が終わったグラゥがサバトを尋ねると魔女にレグルの私室に通された。
「レグルさん、失礼します。」
「おっ、来よったな。
では、さっそく・・・」
そう言ってレグルは何処からとも無く水晶玉を取り出した。
「これで今日一日観察したセリアの様子を見せてやるかの。」
「ちょっと、それは盗撮では・・・!」
「ありゃ、お主セリアの様子を何とかしてやりたいんじゃないのか?」
「うっ・・・!」
「なら、黙って見とれ。」
そう言ってレグルは水晶玉に魔力を込めるとたちまち映像が浮かび上がった。


「これは・・・教会の僕らの寝室ですね。」
「え〜、セリアは・・・」
レグルが水晶玉を回すと映像が回転し、セリアの姿が映し出された。
下着姿で。
「ブッ!!」
「なんじゃい、そんなに驚いて。」
「いえ、セリアさんのし、下着姿・・・」
「下着姿ぐらいで大げさな。
どうせ夜になったらあいつの裸を堪能してるんじゃろ?」
「・・・・・」
「まあいいわい、多分これが原因じゃな。」
真っ赤になったグラゥに構わずレグルは水晶に魔力を込める。
すると鏡を見ながら膨らんだお腹をさするセリアの様子が映し出された。
その様子を見てグラゥは首を傾げた。
「これが何なんです?」
「分からんか?」
「う〜ん・・・さっぱりですね。」
するとレグルはため息を付いた。
「はぁ・・・お主鈍いの〜」
「な、何を言ってるんですか!?」
「腹をさすっとると言うことは、セリアは体重を気にしとるんじゃよ。
だから飯を食わんのじゃ。」
「え〜っ!!」
思わず叫び声を挙げるグラゥ。
「で、でもセリアさんが太ってるとは思いませんが・・・」
「そ〜いうのは本人の思い込みじゃからのう。
お主が何か言ったところで解決せんと思うぞ。」
「そんなぁ・・・どうしよう・・・」
するとレグルは急に含み笑いを漏らした。
「ふふふ・・・
そんなお主に良い物があるぞ。」
そう言って部屋の隅の薬棚へ歩いて行き、
「スグヤセ〜ル!!」
と一本の瓶を取り出した。
「これは最近サバトで開発された新薬、一本飲ませればそいつの体重をたちまち減らす魔法のクスリじゃ。
無味無臭で質感も水と同じじゃからまず気づかれんぞ!」
「へぇ〜・・・」
怪しさ全開にも関わらず素直に頷くグラゥ。
「本来はとてつもなく値が張るものじゃが今回は特別!!
ただで譲ってやろう。」
「えっ、いいんですか!!」
「うむ、早くセリアに飲ませて奴の悩みを解消してやれ。」
「ありがとうございまーす!!」
小瓶を受け取りスキップしながら部屋を出て行くグラゥ。
このとき彼がこの言葉を知っていたらこんなには喜べなかっただろう。
『ただより高いものは無い』



「ただいま〜」
グラゥがいつもの様に帰宅すると、
「おかえり、グラゥ。
ごめん、夕食の支度まだ出来てないの・・・
もう少し待っててね。」
台所からセリアの声がした。
(チャンスだ!!)
そう思ったグラゥは、
「じゃあ、僕は飲み物を用意しますよ。」
と言って棚からコップを二つ取り出し、セリアに気づかれないようにレグルから貰った小瓶の中身をコップに注ぎ彼女の席の前に置いた。


「はい、おまたせ。」
「ま、待ちくたびれましたよ!!」
心なしか声が上ずるグラゥ。
「そうね、いただきま・・・?」
言いながらコップを口に持って行ったセリアは少し顔をしかめた。
「気のせいかな・・・?
グラゥ、何か隠してない?」
「ギクッ・・・!
き、気のせいですって!!
さぁ、食べましょう、食べましょう!!」
「?まぁ、いいんだけど・・・」
そう言ってセリアはコップの中身を飲んで、食事を始めた。


「グラゥ、先にお風呂入らせてもらうね。」
夕食の後、そう言って浴室に向かうセリアの後をグラゥはこっそり追いかけた。
そしてセリアが浴室に入るとこっそりドアの隙間から彼女の様子を窺った。
(すごい!!
あの薬もう聞いたんだ!)
浴室の中で服を溶かして裸になったセリアのお腹はレグルの水晶で見たものと比べて明らかに引っ込んでいる。
(これでセリアさんも体重を気にせず食事を取ってくれるはず・・・)
そう考え、グラゥはまたこっそりとリビングに戻った。


「・・・おかしいなぁ?」
リビングに戻ってきたグラゥは首を捻っていた。
「セリアさん、まだかな・・・」
セリアが浴室に入ってからそろそろ一時間になる。
普段の彼女ならとっくに上がってくる時刻だ。
体重が減ったことに喜んだ彼女が駆け込んでくることを想像していたグラゥは少し心配になってきた。
と、
「ホギャァ!ホギャァ!」
急に赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。
「なんだ?急に!!」
びっくりしたグラゥが耳を澄ますとその声は・・・
「・・・浴室から!?」


慌てたグラゥが浴室に駆けつけるとそこにはバスタオルに包まった赤ん坊がいた。
赤ん坊には小さい触手が生えている。
「バスタオル・・・触手・・・まさか・・・セリアさん?!
な、何でこんな姿に!?」
しばらくセリアを抱え右往左往していたグラゥ。
やがて何かに気づいた様子でセリアを抱えて走り出した。



一方その頃、
「ムニャ、ムニャ・・・
ついに見つけたぞ、おぬしこそわしの兄上にふさわしい・・・」
サバト本部の自室で夢の中にいるレグル。
トントン
突然、部屋に部下の魔女が入ってくる。
「失礼します、レグル様。」
「ん〜・・・何じゃ・・・?」
「自警団のグラゥ様がレグル様に合いたいと。」
「はぁ?
今何時だと思っておる。
明日また来いと伝えておけ。」
「しかし、大変慌てた様子でしたが・・・」
「くどい!
わしは眠いんじゃ!」
いい夢の最中で起こされたレグルは少し不機嫌そうに魔女を追い出した。


「まったく・・・早くあの夢の続きを見んと・・・」
レグルが愚痴りながらベッドに潜り込んで再び夢を見ようとしたときだった。
トントン
「何じゃ、わしは眠いんじゃ!!
何度も言わすな!!」
「それどころじゃないんです!!」
叫び声とバターンと言う音と共にグラゥが部屋に飛び込んできた。
「うおっ!!」
「すいません。
無礼と思いましたが強引に入らせてもらいました。
緊急事態なんです!
セリアさんが!」
「セリアがどうかしたのか?
ん、なんでお主赤ん坊など抱いとるんじゃ?」
グラゥに抱えられたセリアに気づくレグル。
「まさか・・・」
「はい・・・この子がセリアさんです・・・
あの薬を飲ませたらこんな姿に・・・」
「何!!
おかしいのう・・・スグヤセ〜ルにそんな効果はなかったはず・・・」
レグルはしばらく考えていたが、
「もしかすると・・・!?」
突然呟き薬棚に走って行き薬を調べだしたがやがて気まずそうに振り返った。
「あははっ・・・すまん・・・
昼間お主に渡す薬を間違えたようじゃ・・・」
「えーーっ!!」
「あの薬な、スグヤセ〜ルではなく幼女化の薬、スグチヂ〜ムじゃった・・・」
「そ、そんな・・・元に戻す方法はあるんですか?」
「この薬、何時、どれだけセリアに飲ませた?」
「夕食のときコップ一杯分です。」
「なら、セリアをわしのベッドに寝かせい。
スグチヂ〜ムの効果は一時的なものじゃからそれ位の量ならもうすぐ元に戻るじゃろ。
・・・たぶん・・・」
「たぶんじゃ困りますよ!!」
そう言いつつグラゥが言われた通りにすると、セリアの体が光りだす。
「うわっ!!」
「ほれ来た。」
光が収まると元通りの体に戻ったセリアの姿がベッドに横たわっていた。
ただ・・・
「裸じゃのう・・・」
「入浴中でしたからね・・・
意識が戻れば服を元に戻すと思います。」
その時グラゥはあることに気づいた。
(あれ?
じゃあ間違えた薬を飲んだのにどうしてセリアさんのお腹は引っ込んだんだろう?)
そう思った矢先、
「・・・うっ!!」
セリアが突如苦しみだした。
「あ・・・あ・・・あ・・・!」
下半身から一本の太い触手が生えてくる。
「ど、どうしたんです?」
「わ、わしにも分からん!」
慌てるグラゥとレグルの前で触手の根元が膨らんでいく。
「くっ・・・ううっ・・・!」
膨らんだ部分が触手の根元から先端に移動し、
「あっ・・・あはあああっっっ・・・・!!!」
叫びと共にセリアの体が痙攣し触手からピンクの球体が飛び出した!
それが終わると彼女は脱力して動かなくなった。


「大丈夫ですか、しっかりしてください!!」
セリアに駆け寄るグラゥ。
「ああ・・・一体どうしちゃったんです?」
「おそらく、これが原因じゃな。」
グラゥが振り向くとレグルがセリアから出てきたピンクの球体を差し出した。
「これは・・・」
「ローパーの卵じゃよ。
もしかするとわしもお主も思い違いをしておったのかも知れんな。」
それを聞いたグラゥに先ほど自分が抱いた疑問の答えが浮かんだ。
「もしかして・・・セリアさんのお腹が膨れていたのは・・・」
「卵が詰まっておったからという可能性が高いの。」
「な〜んだ、太りすぎを気にしてた訳ではないんですね。
良かった〜、あっはっはっ!!」
「何が『良かった〜、あっはっはっ!!』よ・・・!」
何時しかセリアが目を覚ましたらしい。
「ギクッ・・・!!」
その声から只ならぬ気配を感じ硬直するグラゥ。
「よくも変な薬を飲ませてくれたわね・・・!」
「いえ・・・あれはレグルさんが間違えたから・・・」
「私は前から大丈夫って言ってたのに変なことして・・・!」
「そう言われてもやっぱり心配で・・・」
「グラゥ。」
セリアは二コリとグラゥに微笑み掛けた。
「セリアさん・・・」
つられて微笑んだグラゥに彼女は、
「帰って、お仕置きね♪」
笑顔でそう宣告した。
「ヒイイイッ!!」
怯えるグラゥを触手で縛り挙げると、
「では、レグルさんご迷惑を掛けました。」
といってグラゥを引きずって出て行った。
「・・・大部分の責任はわしにある気がするが・・・グラゥ・・・すまんの・・・」
残されたレグルはちょっぴり罪悪感を感じていた。
しばらくして遠くの方から聞こえてきた悲鳴を聞きながら・・・



そして翌日、
「ん〜、すっきり!!」
朝日が差し込む寝室で伸びをしながらベッドから起き上がるセリア。
「う〜ん・・・」
対して一晩中精を絞られたグラゥは力なく起き上がった。
「大丈夫?」
「ち・・・ちょっと激しすぎかと・・・」
「ごめん。
私ね、卵ができると無性に他の女性を襲いたくなったのよ。
でも無秩序にローパーを増やすわけにもいかないし、ずっと我慢してたらなんか食欲も無くなっちゃって・・・
お医者さんに行ったら、いずれ自然に卵がでたら体調も元に戻るから大丈夫って言われたけど、欲求不満はどうしようも無かったの。
だからちょっとやりすぎちゃった・・・」
「まぁ、セリアさんが元気になって良かった。
元は僕の早とちりから始まったことですし、セリアさんが元気でないと僕も元気が出ませんしね。」
「嬉しいこと言ってくれるわね。」
セリアはそう言い、笑ってベッドから立ち上がった。
「さて、朝ごはんでも作りますか!
久しぶりに今日は少し豪華にいってみましょう!」
「あっ、僕も手伝います!」
グラゥも慌てて起き上がり、二人は幸せそうに寄り添って寝室を後にした。

11/06/16 23:28更新 / ビッグ・リッグス

■作者メッセージ
久しぶりの投稿です。
魔物娘達も女性である以上、体重を気にするんでしょうか?
皆さんはどう思います?

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33