読切小説
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思いがけないトリック・タイム



 某県某所。
 既に夏の暑さも過去のものとなった時期、此処にはとある物件がある。
 墓所に隣接した土地。
 かつて学童が通っていたと思しき廃れた学び舎。
 既に寂れて久しい、中世と現代の合いの子のような人の息遣いを感じさせない住宅街。
 そこから切り取られたような狭い区画に一つのアパートが存在する。

 かつて不死の領主が恋慕を寄せる異性を手に入れる為、あの手この手ででっち上げた仮初めのアパート。
 既に建物名は無く、一戸建てとして登録し直されたそこは大幅な改築を加えられ最早アパートとしての要素は外観しか無くなっていた。

 「ふふ♪買い物終了ですわ」

 空間が歪んだかと思うと、突如買い物袋を提げた妙齢の女性が現れる。
 黒曜石のように輝く黒髪。抜けるように白い肌。
 ベージュ色の厚手のワンピースに赤いチェックのストールを重ねた糸目の女性。
 彼女の名はミレニア・ヴォルドール。
 戸籍名は仲沢 千代(なかざわ ちよ)として籍を入れている。
 かつての不死の国の領主であり、領主としての最後の仕事を終えて妹夫婦にその役割を譲ってからは周囲の面積に対してあまりにも慎ましやかなこの土地に、今は愛する伴侶と二人だけの小さな城を得て日々を過ごす。
 それが彼女の現状である。
 全身が空間から抜け出ると、背後ではその歪みが消えていった。
 
 「公人さんはお部屋に居るかしら?」

 外観上アパートと言えど中身は普通の少し広い二階建ての一軒家である。
 元管理人室の玄関から居間へ抜け、食材を冷蔵庫に入れる為進む。
 本日彼女の旦那様である仲沢 公人(なかざわ きみひと)は、彼女と二人だけのハロウィンを過ごす為余暇を自宅で過ごしていた。
 普段なら朝から晩まで寝台の上で愛を交わす彼等だが本日はイベントの為自粛しようという運びとなったのだ。
 だが、空間移動を行っている彼女の様子から見るとイベント後の夜の営みも期待しているようである。
 ちなみに公人は彼女が買い物中に家の掃除と雑草の草刈をしていた。
 
 「公人さーん♪お夕飯の材料と、午後のお茶請けにまかいもパイも買ってきましたわー。お茶にしましょうー?」

 奥の書斎を見る。居ない。
 二階に上がり、寝室を見る。居ない。
 公人の自室を見る。居ない。
 まさかと思い自室を見るが、何処にも居ない。
 
 公人とミレニアは基本的に寝室が一緒である。
 唯、夫が趣味のものに干渉されるのに抵抗を示したので夫の自室と妻の自室が分かれているのである。
 無論、どちらにも寝台はある為その場の空気によってはそのままどちらの部屋といわず睦事に雪崩れ込む事もある為、あまり部屋分けする意味は無いのだがそこは夫として譲れないラインらしい。

 あまりの反応の無さに少し不安になる。
 意識を失っていたら?
 何かトラブルに巻き込まれていたら?
 可能性は低いが、どこかの魔物娘に攫われてたら?

 急いで探知系の魔法を展開する。
 何かしらトラブルがあっても自分であれば何とかなるだろう。
 此処には以前結界維持の為【吸収】【増幅】【効果維持】の魔法陣を設置している。
 土地の魔力を集中して扱う事が出来る為、吸収した魔力は現在魔力で動く生活機器の動力源としても活用している。
 その【吸収】に割り込みを掛けて自分の魔力にすれば速やかに魔力の補給を行い空間転移等の大魔法を使う事も容易である。
 最悪病院に直接転移する事も考慮していたが、一階に彼らしき反応が現れた。
 
 浴場である。
 どうやら汗を流しているようだった。

 「あら♪グッドタイミングでしたわ」

 無事だったのが分かって気が緩んだのか、自室で着衣と容姿の乱れが無いか確認しゆっくりと下りていく。
 目指すは本丸。浴場である。
 下りながら背中を流そうかなぁ、とか寧ろ一緒に入ろうかなぁ、とかいっその事そのまま押し倒しちゃおうかなぁ、うふふ等と妄想に浸りながらも浴場前に着く。
 無論、一応の断りを入れるのは忘れない。

 「公人さん、ただいま戻りましたわ。汗を流されているのでしたらお手伝い致しますけど、如何かしら?」

 もっと汗が流れるかもしれませんけどね、とは言わない。
 先程は迷ったものの、やはり夫第一なのである。
 判断は夫に任せたい。

 「?公人さん?」

 「ぅ…あぁ…くっ…」

 呻くような声が聞こえる。
 苦しそうな声と思ったがそうでもない。どちらかといえば切羽詰っているようだった。
 何事かと思っていると水に流しきれない精の匂いに気付く。

 ―――自慰をしている。

 その事実に気付いた瞬間、彼女の額に青筋が浮かんだ。
 ナニをしていようと関係ない。
 
 勢いよく扉を開くのは淑女にあるまじき行為であるが、不貞を働く夫には適用されまい。
 怒りのオーラを纏い、しかし満面の笑顔で扉を開いた彼女は夫に対して感情を露わにした。

 「公人さん!あれほど射精は私の膣内でと言っていたのに、何を隠れてしているのですか!!」

 射精管理すんぞゴルァと言外の威圧感を込め、開いた扉の前に立つ彼女の前に居たのは見知らぬ背中。

 夫は確かに若返ったがこんなに逞しい背中はしていない。
 上腕は太く筋肉の鎧で覆われている。
 胸筋も厚く、腰は無駄な筋肉が付かずに細い。
 意外と小顔ではあると感じたのは首の筋肉が発達して異様に太いからだろう。
 音に驚いたのか、ビクッっと縮んで振り返る男。
 その声は彼女の夫より幾分低かった。

 

 誰か→ ホアアァァァ!?Σ(@Д@;;)ムキーン

 
 ミレニア→ (´・д・)

 
 誰か?「ね、姉さん!?これには深い訳が!(低音)」

 
 ミレニア→ (・д・`)≡(´・д・)<キミヒトサンドコ-?

 
 誰か?「草刈をしている時、うっかり【吸収】の魔法陣に触ってしまって…(低音)」


 ミレニア→ (´・д・)<・・・

 
 誰か?「もしかして魔力を吸収したからこんな事になったのかと思って、精を抜いていたんだけど(低音)」


 ミレニア→ (((;゜Д゜)))<マサカ・・・


 公人?「中々戻らなくて…って、姉さん?どうしたんだ?(低音)」


 ミレニア→ ( ;´Д`)イヤァァァァー!

 
 劈くような悲鳴は浴場で反響し、声に魔力が篭っていたのか方向性を持たない力の塊が一糸纏わぬ筋肉塊を吹き飛ばした。
 薄れ行く意識の中、彼が最後に捉えたのは慌てて彼に駆け寄る妻の姿だけだった。





 ハロウィンの起源は古代ケルト人の祭りが元になっているといわれている。
 元々は収穫を祝い、悪霊を追い払う行事とも言われているが現在では単なるお菓子を貰うイベントとして定着してる。
 収穫を祝う、悪霊を追い払うという事はどこの国でも世界でも共通性の高い行いであるようだが、不幸を追い払う行事は中々無いようである。 
 今現在、公人とミレニアは居間で彼女の買ってきたお茶請けを租借しながら事の経緯を話し合っていた。

 「それで、どうしてこうなったんですの?」

 体が頑丈だったのか、壁に貼り付けられた事によるダメージは然して問題ないようだった。
 寧ろ彼女に精神的大ダメージを与えた太眉大男は小さすぎるフォークに四苦八苦しながら答える。
 その際胸板がピクッと動く。

 「庭の草刈をしている時だったんだが、うっかり防音用の魔法陣に触れちゃって(低音)」
 
 パイを切り分け租借した後、更に続ける。
 更に胸板がピクッと動く。

 「魔力溜まりに吸精してしまったんだけど、まさか魔法陣から吸えるなんて思ってもみなくて、気付いたらこうなってた(低音)」

 頭痛が止まないのか、軽く頭を押さえながらその後を続けるミレニア。

 「…それで、何とか戻ろうと魔力を吐き出す為に自慰をしていた訳ですか?」

 風呂場の精液溜まりは水で流されていた。
 他の魔物娘なら勿体無いと感じるだろうが、既に伴侶を得ている魔物娘にとって夫以外の精液など無用の長物である。
 一目で夫と分からない位変貌した筋肉大王への措置としてはまだ温情がある方であろう。
 
 「風呂場なら水で流してしまえば分からないと思って、つい(低音)」
 
 胸板がピクピクピクッと蠢いては収まってを繰り返す。
 自らの変貌より、妻の体内以外で射精した事が後ろめたいのか暑苦しく小さくなる巨人。
 その様子にため息をつき、ミレニアは席を立った。

 「…本来公人さんは普通のインキュバスと違って私達と同じ『吸精』が行えます。私てっきり増精にだけ使われていると思ったのですが、思わぬ副作用でしたわね」

 言いながら座っている公人の後ろに立つミレニア。
 最早本人と話しているのか胸板と話しているのか分からなくなってきた為、というのも動いた理由の一つではある。
 両肩に手を置き、豊満な胸を押し付け彼が振り返らないように言い含める。

 「動かないで下さいまし…、その体が魔力の過剰摂取によるものなら、貴方の試された通り魔力を抜けば戻るかもしれませんわ。私ならそれが試せます」

 この時彼は振り向いておけば良かった。
 優しい口調とは裏腹に、彼女の額には青筋が浮かんでいる。
 
 笑い顔で怒っているのだ。
 
 普段の彼なら一目散に空気だけで感じ取って逃げるのだが、生憎体が強化された事により生物種としての危機回避能力が落ちてしまっているようだった。
 つまり、顔を見ないと彼には妻が怒っているのか身を案じているのかさっぱり分からなかった。
 両手から吸い上げる感覚を彼女は紡ぐ。

 「少々、荒療治ですわ、よ!」

 「ひゃああああああぁぁぁぁっ!!!(低音)♥♥♥♥」

 ワイトの特技である『吸精』。
 触れた部分から対象の精を吸収し、その際対象に多大な快楽を与えるワイトのお家芸である。
 
 「ほぉら…、交互に吸ってあげますわ。気持ちいいでしょう?」

 「あ、お、おおおぉぉぉぉ……!(低音)♥♥♥」

 あまりの快楽に全身から力が抜ける公人。
 断続的な刺激が快楽への耐性を与える事無く、荒波のように翻弄していく。
 既に身動きが取れない彼に、尚もミレニアは続ける。

 「先程『うっかり』と申していましたけど、本当に『うっかり』でしたの…?違いますわよね?」

 「うあ、ああぁぁぁ…♥ご、めん。嘘、ついてまし…た!♥♥♥」

 既に体躯は半分程の大きさになり、異様に鍛えられた巨人からそこそこ鍛えられた成人男性にまで戻っている。
 だが、快楽に合わせて射精をしていたのかズボンは既に濡れきりフローリングには生臭い液体の池が出来始めていた。

 「知らない能力をいきなり行使する程、公人さんは大胆さんじゃないですものねー?お姉ちゃん、公人さんが会社の人に頼まれて時々吸精してるの知ってるんですからねー?」

 「なん、でしって…♥」

 余談だが、彼は今も同じ会社で事務職に就いている。
 彼が伴侶を得た事とインキュバス化した事、それに本来ワイトしか使えない筈の『吸精』が使える事は社内でも周知の事実となっていた。
 休憩時間を有効活用する為に前戯を飛ばしたい同僚から頼まれたり、単純に吸精を味わいたい者の頼みを断りきれずちょくちょく使用している。
 情報の供給源は彼の上司であるアヌビスからである。
 以前彼に連絡をした際ミレニアが応対して知り合い、今では如何にお互いの伴侶を気持ちよくさせるかの情報交換をする位の中となっていた。
 
 「はい、フィニッシュ」

 「あひゃああああぁぁぁぁぁっ!!!!♥♥♥♥」

 最後に一際大きく吸精するミレニア。
 吸い上げた魔力が原因だろう。何時の間にか白金色の髪に真紅の瞳と本来の魔物娘の姿に戻っていた。
 何処ぞの掃除機のように変わらない強力な吸引力は、彼に残されていた濃密な過剰魔力を残さず吸い尽くす。
 結果、失神寸前で彼の体が元のサイズまで戻り、全身から力が抜けたのか椅子をずり落ちる。
 
 「うーん…矢張りいくらかは増精に回されてしまったようですわね。勿体ないですわ…」

 既に快楽で息も絶え絶えな公人の下半身は精液の噴出で濡れていた。
 剛直が苦しそうに屹立しようとしているが、濡れた衣類が邪魔をして思うように行かないようである。
 その様子に、スイッチが入ったのか淫蕩な笑顔を浮かべるミレニア。
 
 「ふふ、耐え切った良い子にはご褒美ですわ♥」

 彼をゆっくりと椅子から動かし横たえる。
 固いフローリングの上ではあるが、もう彼女の方が我慢できそうに無かった。
 『彼には気持ち良くなって貰う事で穴埋させて貰おう』
 そのような魂胆で公人に跨ると着々と下半身のベルトを外しズボンのチャックを開ける。
 近づいただけで脳裏を焼く雄の匂いだったのだが、解放される事でより濃密な臭気が彼女に直撃した。

 「あぁ…堪りませんわ♥」

 精液で濡れる事も厭わず、優しく公人の男性器を取りだすミレニア。
 触れた部分が更に快楽を与えたのか、新たに増産された精子が勢いよく噴出した。

 「まだまだ暴れん坊ですわね♥」

 微笑ましくそれを見ると、陰茎を擦り上げ固さを確保し亀頭から一気に口内に頬張った。
 
 「ん♥じゅ♥っぷん♥♥」

 一気に喉の奥まで頬張り、吸い上げながら引き抜く。
 直前でまた口内に挿入し舌で弄びながら吸う。
 竿も同時に擦り精を搾り出そうとしている。
 アンデッドの低体温に似合わぬ情熱的な奉仕に、公人は意識が正常に戻っていないにも関わらず腰を動かす。
 
 「じゅ、ぞぞぞぞずうぅぅぅぅ♥♥♥」

 限界が近い事を悟ったのか、更に亀頭を集中的に攻めるミレニア。
 濁流といって差し支えない量の白濁が彼女の口内で暴れまわる。
 溢すまいと嚥下するも、絶対的に口内の許容量を超えているのか口端から漏れる精液。

 こくっ、こくっ、こくっ

 いくら嚥下しても止まらないと思われた勢いは、数十秒ほどで収まった。
 口を離し、けぷっと小さくおくびが出たところで彼女は口元に手を当てる。

 「あら、はしたないですわ」

 射精を終えて若干硬度が落ちた陰茎を労わるように口付け精液を吸い取っていく。
 亀頭から残った精液を吸出し、陰茎に付着した白濁に吸い付き、萎縮した睾丸に残った残滓を舐め取る。
 綺麗にし終えた陰茎に満足するとまた少し擦り、硬度を戻そうとする。

 「ひゃっ!?…もう、公人さん。起きていらっしゃるならそう言って下さいな♥」

 ミレニアの形の良い尻を撫で回し、漸く意識を回復できた公人がミレニアに呼び掛ける。

 「今日は、ハロウィンなん、だから…こういうの無しって、言わなかった?」

 流石に消費した体力までは戻らないので話すのも億劫そうではある。
 尻を撫で回させながら後ろを振り向き、ミレニアは答えた。

 「私、どんな貴方でも愛せますが勝手に自慰をした事は許せそうにありませんの。だ・か・ら、お仕置き兼旦那様を戻す治療行為ですわ♥」

 悪びれもせずそう答える。
 更に、挑発的に尻を振ってその先を求めてくる。
 
 「私、貴方を戻す為に頑張りましたわ。頑張って戻った貴方には私から差し上げましたし、私にも頂けません?♥」

 「はぁ、負けたよ。でも夕飯の支度があるから一回だけだよ?」

 ミレニアの下から這い出て、彼女をうつ伏せにさせる公人。
 黒いタイツを剥ぎ取りその下の赤いショーツを脱がせると既に受け入れる準備が整っていた。
 腰を更に突き出させ、後背位で後ろから強く挿入する。
 公人の陰茎は深くミレニアの膣内を抉っていった。

 「っくっ!相変わらず凄いね、姉さんの膣!」

 気を抜くとあっさりと暴発しそうな襞の攻め。
 粘液に濡れた突起が奥へ奥へと誘導し、釣り針の返しのように獲物を逃がそうとしない。
 最奥に到達すると、固い肉の感触が亀頭に当たる。
 子宮口に当たったらしい。
 その瞬間、ミレニアが小刻みに震えた。

 ―――達したらしい。

 大量の潮を吹いて彼女は弛緩した。
 にも関わらず、陰茎がまだ抜けないのは最奥に子種を欲しがる魔物娘の本能故か。

 「公、人さん♥子供、欲しいです!お願、い♥」

 言われるまでも無い、と言わんばかりにそれまで以上に激しく腰を振る公人。
 交尾する、というより打ち付ける、という表現が的確と思える位の強さで抽挿を繰り返す。
 猥らな水音は肉同士がぶつかる激しい音と重なり、空気が帯びた湿度を高めるように音の間隔を短くしていく。
 
 ごぷっという音がした。
 およそ精液の射出音とは思えない音だが、音を裏切らぬ大量の精がミレニアの子宮口から更に奥に叩きつけられる。
 入りきらぬ精子は潤滑油となって、未だ剛直を保つ逸物と膣内の間から漏れた。

 お互い荒い息をし、火照る身体にしばしの休憩を挟もうとした時ミレニアに電流が走る。
 発生源は彼女の菊座。
 そこに公人は指を入れて掻き回していた。
 その行いに反射的に膣を締め、更に陰茎に密着した膣。
 それを見越したように公人の腰が動き、容赦なくミレニアを削り取っていく。

 「公、人さん、さっき♥一回、って♥」

 「どうせミレニア、一回じゃ満足、しないだろ?だったらちょっと多目に、ね」

 指の本数を増やし、更に大きく腸内を弄ぶ。
 未知の感覚に全く対応できず、ミレニアはされるがままだった。

 「公人、さん、お尻、好きでしたの?♥」

 「ミレニアの、だからかな。ミレニアと初めてセックスした時、もしかしたらって思ったけど、当りだったみたい」

 既に背筋から昇る、普段の倍近い快楽に何とか慣れようとしつつミレニアは問うた。
 腸内から今挿入している陰茎を擦るように動かすと、彼女に残されていた余裕は呆気なく瓦解した。

 「あ♥あ♥あ♥ああ♥♥♥」

 徐々に昂まる様子に、公人も己の限界が近い事を伝える。

 「ミレ、ニア!俺、もう限界…!」

 「いっしょに♥いっしょにイってえっ!!!♥♥♥」

 白い世界に火花が散る。
 同時に達した公人は己の体重を掛けて子宮口を開き直接精液を叩きつけた。
 ミレニアはそれを恍惚とした表情で受け、折り重なってくる愛しい伴侶の重さを受け止めていた。





 情交の後を掃除し、お互いシャワーで汗を流してから夕飯の支度をする。
 掃除は公人が、夕飯の支度はミレニアが行っていた。
 ミレニアはしきりに一緒に入ろうと誘っていたが、そうすると完全に他の作業が滞ってしまう為公人はやんわりと辞退した。
 女性は何かと準備が長いだろうし、先に清掃や準備をしておけばミレニアも作業がし易いだろうという配慮である。
 作業の効率化を狙っての提案だったが、ミレニアには不満だったのか少し膨れ面をして拗ねていた。
 こういう時の扱いは慣れているのか、正面から優しく抱き締め耳元で囁く。

 「お楽しみは後に取っておきたいから。終わったら、ね?」

 優しく諭すような、ややアニメっぽい声で語り掛けるのがコツらしい。
 抱き寄せた際に手の平は彼女の臀部に添えられており柔らかい感触を堪能していた。
 声と約束と自分を求められている行動にすっかり気を良くしたミレニアはくねくねと悶えながら浴場へ消えていった。
 今は彼女は彼の期待を裏切る事無く自分が先に湯浴みし、長い髪は魔法で乾かし愛しい旦那様の湯上りに合わせて夕食の準備を進めている。
 
 「お、凄い豪勢だな」

 湯上りの公人が居間に帰ってくる。
 30分ほど入っていたのだが、何か手伝える事があるのではと濡れ髪もそこそこに現れた。
 
 「あらアナタ、おかえりなさい、準備はもう殆ど出来ていますわ」

 白米を主食に何らかのキノコのソースの掛かった魔界豚のソテーをメインにパンプキンサラダ、南瓜のコロッケ、南瓜のそぼろあんかけに南瓜の入った味噌汁と見事に南瓜尽くしである。

 「ミレニアって領主だったんだよね…、何でこんな料理出来るの?」

 「あら、私だってアナタに会うまではした事ありませんわ。城内の料理長に基本を教えて頂いて、こちらに来た時に本を見て覚えたのです」

 文字も異なる異世界で独学。
 それもこれも当時まだ見ぬ彼の為である。
 不意に公人は目頭が熱くなった。

 「…うん。俺、本当にミレニア姉さんを妻に出来て良かったって思う。ありがとう、ミレニア」

 その言葉に慈母のように微笑みながら、ミレニアは答える。
 
 「何ですか急に…。でも、お褒めに預かり光栄ですわ、旦那様。さ、席について下さいまし。冷めてしまいますわ」

 言われるがまま席に着く公人。

 ミレニアは既に並べられた料理の他にワインを準備してきた。

 「それは?見たこと無いラベルだけどなんだい?」

 グラスを並べつつコルクを抜く彼女に聞く。
 日本語以外の言語しか記載の無いそれは公人の見知ったものと比較しても合致するものがなかった。

 「えぇ、家族から送られた物ですわ。わざわざ届けてくれたんですの。そのソテーのソースにも使いましたわ」

 開けた瞬間から芳醇な果実の香りを醸し出すワイン。
 和食のような料理に合うのかと一瞬疑問に思ったが、勧められるまま口をつけると甘味と酸味のバランスが良く心地よい位の苦味が癖になりそうだった。

 「凄いな、コレ。これだけでも充分美味しいよ」

 素直な感想を告げる。評論家のような表現が出来ないが、彼なりの賛辞が口をつく。

 「良かった、お口に合って何よりですわ」

 彼女のも香りを楽しんだ上で口をつけている。
 普段病的に白い肌に微かに朱が差す姿は妙な色気を醸し出させる。

 「それはそうと公人さん?少しお願いがありますの」

 食事を一旦止めて聞く公人。

 「『吸精』は暫くの間お控え下さいな。出来れば会社も体調不良を理由に休んで頂きたいのですが、公人さんはお嫌ですわよね?」

 「それはそうだよ。折角本当の意味で会社の一員になれた気がするのに。ズル休みをするのは流石に嫌だね」

 頷くミレニアは更に続けた。

 「公人さんは突然変異のインキュバスです。魔力や精をどの程度吸収すればあのような事態になるのか想像つきません。一度専門の病院で検査入院をして欲しい位ですわ」

 「それは…そうだけど。でもそんな切羽詰ってるものなの?」

 可能性としては、と前置きして続けるミレニア。

 「私が昔掛けたお呪いは公人さんの中で動き続けたのはご存知ですわね?」

 過去彼女が掛けた魔物避け。
 それは彼を二十年近く他の魔物から遠ざけていた。

 「私もそこまで長続きさせる気はありませんでした。でも、現実私の術式は動き続けた。何故かお分かりになります?」

 『術式が何故永続しないのか』というとそれが『動き続けるもの』だからという意見がある。
 動き続ける限り綻びは生じ破綻する。
 それを避ける為に定期的なメンテナンスが必要になるのだ、と。
 術式は単純であれば構築も簡単なものなので壊れ難くメンテナンスも容易だ。
 だが、逆に様々な効果を持たせたり複数の処理をするよう構築すると、途端に脆くメンテナンスも段階の手順を踏まないと難しい。
 その他にも単純に高い効果を維持し続ける術式もメンテナンス無しではあまり長続きはしないものである。
 公人に掛かっていた術式は比較的単純なものだったが高い効果を維持し続けるタイプであった。
 これはミレニア自身の想定していた期間内でのみ有効に機能するよう調整されており、何十年も動くようなタイプではない。

 「まだ予測の範疇内でありますのではっきりとは言えませんが、術式がより安定化を保つ為貴方の身体自体を浸食してしまっている可能性があります」

 これには流石に驚いたのか、自分の体をペタペタと不安げに触る公人。

 「インキュバス化した時に術式ももしかしたら変わったのかもしれません。魔力に侵食されれば、男性の場合飛躍的な体力と精力の増大が一般的です」

 他、魔物娘や自身の欲求に合わせた外見の変化が挙がる。

 「貴方の場合魔力や精を吸収し過ぎると身体能力が過剰に跳ね上がるようです。…ですが、都度体が大きく変化するとその分負担が掛かるんです。インキュバスでも耐えられないかもしれない」

 心配する彼女に気圧されたのか、黙って聞く公人。
 ミレニアは真剣な顔で続ける。

 「お願いです。貴方の変化が貴方の命を縮めてしまうのか分からない以上、使用しないで下さい」

 それは拘束力を持たぬ筈のお願いである。
 従わせる圧力ではない。
 有無を言わせぬ強制力でもない。
 ある一つの可能性の、最悪の結末を述べた上でのお願いである。

 何の縛りもない分、それは何より彼に深く刻まれた。

 「…分かった。状況によると思うけど、日常生活ではまず使わない。少なくとも安全性が分かるまでは禁止する」

 その言葉に場の緊張感が一気に薄らいだ。
 普段通りの柔和な笑顔を浮かべたミレニアは片手を軽く上げると指をパチンと鳴らす。
 途端、やや冷めていた料理がまた温かさを取り戻した。

 「ご理解頂けて何よりですわ。では、これからは楽しいお話をしましょう?」

 「そうだね。取り合えず少し長めに有給でも貰って、一緒に旅行とかどう?ミレニアの故郷も見てみたいし」

 食事を再開しながら今後を夢想する。
 
 「構いませんが…、それならしっかりと検査頂いた方が宜しくありません?」

 「いや、ミレニアの故郷なら似たような症例とかも見つかるんじゃないかなーって思って。魔法や魔術絡みの医療は、まだこちらは手探りの状態が多いみたいだしね」

 ゲートが開いて数年経過したが、魔力や魔法絡みの症例に対する診療レベルは遅々として進んでいない。
 元々魔物娘やインキュバスが病気や怪我に強いから、というものもあり如何に魔法関連の技術提供があろうが臨床を行える絶対数が少ないのだ。
 加えて、こちらの世界で魔力の影響を受けたのか新たな症例も報告されており魔法医療は中々思うような成果を挙げられていない。

 「それに籍を入れてる事をきちんとご家族に報告しないとね。何時までも手紙だけで遣り取りは、やっぱりいけないよ」

 ミレニアは本来領主であるが、今は妹夫妻が引き継いでいる。
 本来長子が引き継ぐ筈の仕事を末に押し付けてきてしまった負い目があるのだろう。
 彼女は手紙で遣り取りはするものの、直接会うのは避けるようにしていた。
 
 「行くタイミングはそっちに合わせるからさ、お願い!」

 俺の為にも、と両手を合わせて拝むように頼む公人。
 こうまで頼まれては、流石に断りようがない。
 観念したように溜息をつくと、ミレニアは了承した。

 「分かりましたわ…、手紙にもそろそろ顔くらい見せなさいとお母様からありましたし。公人さんの都合の良い時にでも参りましょう?」

 公人の顔が明るくなる。
 異世界でミレニアの故郷なのだ。
 忘れていた少年の冒険心が蘇ってくる。
 色んなところを回りたいし、彼女の見ていたところやどんな幼少時代だったのか是非家族からも聞いてみたい。
 これからの事に夢を馳せ温かい食事を堪能する。

 「と・こ・ろ・で」

 「ん?何、ミレニア」

 何故か期待した視線を送る彼女に、内心ただならぬものを感じ応える公人。

 「お食事、お気に召して頂けましたかしら?」

 「え?あぁ勿論。最高だよ」

 「それは良かったですわ♥何せ色々と元気になるものを沢山入れましたから♪」

 「え゛」

 視界があやふやになる。
 最初はアルコールのせいと思っていたが、どうにも腹の底から沸き立つ欲望と頭を裏返すように染める情欲が公人を支配しつつあった。
 
 「夜は長いですわ…♥公人さんがまた異常を起こさないよう、しっかりと『吸って』差し上げますわね♥」

 ワインの効果かすっかり出来上がってしまっている妻を見て、公人は

 「…お手柔らかにお願いします」

 観念するしかなかった。
 彼らの夜は始まったばかりである。
 これからも彼等は、多くの時間を刻んでいく。
 
 永遠に、朽ちる事無く。

 
 
13/11/03 01:00更新 / 十目一八

■作者メッセージ
お久しぶりです。十目で御座います。
当方、ゴーストを次回作に据えると申しました。
が、遅々として進んでおりません。
やはり自分の嫌いな種類の人間を主役に据えるのは、まだ当方には無理だったのでしょうか。

それはさておき、今回は残暑のスピンオフとなります。
公人のネタを腐らせるのは勿体無い気がして再登場して頂きました。
ネタキャラとしてであれば今後も何度か登場させたいと考えております。
当然、あまりフリーダム過ぎると困るので今回釘は刺しましたが。

今作はハロウィンに間に合わなかった悔しさをぶつけた作品となりました。
投稿は過ぎておりますが、劇中はハロウィンです。
ハロウィン要素がほぼありませんが、カボチャ有りますのでお許し頂ければ幸いです。

誰得ですが、近況報告として。
ゴーストは今月末までには形に出来ると思います。
二話まで作成完了していますので、後二話分書けばゴールです(白目)。
書き溜めが無いと先に進めない臆病者ですが、今後とも生暖かく見守って頂けると幸いです。

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