読切小説
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愛嬌の人熊猫と黒白の贈り物
※聖夜※
※中立領ロクシ※
※マオン視点※


聞いた聞いた?この街に魔物の一団がやってくるんだって?

えーどうして魔物が来るの?

どうやら親魔物領との友好を広げるために派遣されるそうよ

いいのかしら?

教団が黙っていないんじゃ

ここは一応中立領だからね

人間や魔物、両方に媚を売らないとどちらかの迫害を受けるわよ

病で亡くなった領主夫人のようにね

おい、デカイ木が次々と町に搬入されるぞ

巨大なツリーがいっぱいね

今日は聖夜だったわ

じゃああれは籾の木かしら?

待って、よく見たら竹よ

ツリー並みに長い竹を数十本も束ねて飾り付けされてるのよ

竹ツリーを運んでいるのは誰?

沢山いるわね

全員女性、いや魔物じゃないか

白い髪の毛に黒の獣耳

黒い熊の手足

何より愛嬌のある笑顔の美女たちだ〜

彼女達が着てる服って何なのかしら?

サンタクロースのコスチュームじゃない?

今夜は聖夜だから違和感無いわね

黒と白をベースに胸元を大きく露出させたミニスカを除けばね

横断幕に何か書いてある

『レンシュンマオ・イヴ』

ママーれんしゃうまおって?

「レンシュンマオよ」

あっ、くろいふくをきためがねのおねーちゃんだ

こら、指さしちゃいけません

「人熊猫、人と熊猫が合わさった魔物娘どすえ」

こんどはしろいふくのおねーちゃんだ

「遠い地ではパンダと呼ぶ」

パンだっていうんだ、のうかのおねーちゃん

「イベント開始の時刻よ」
「楽しい宴が始まりますえ」
「芸のお披露目」

おお、スゴいのが始まったぞ

なに?なに?

レンシュンマオっていう女達が棒を華麗に捌いてるんだよ

まるで棒が生きてるかのようだ



――と、町の住民達はレンシュンマオの芸に注目し始める。

あたしも見学をする。

今回の主催者である三人の女性の話を思い出しながら――



※回想※
※領主宅・応接間※



この町の領主にしてあたしのパパが杖を支えにソファーへ腰掛ける。
向かいには三人の女性。
それぞれ、黒いスーツに眼鏡、白服、農業用作業着、統一性は皆無。

『この度友好条約の大使として派遣されましたコンバクと申します』
『同じく白衣(びゃくえ)と申します』
『サイバです』

「早速じゃが、書類の内容についていくつか質問がある」

『どうぞ』

「当日派遣されるレンシュンマオの数は三百匹と聞いたが、これだけの数を何処から用意した?そもそも全員の輸送手段は確保出来ておるのか?」

『霧の大陸出身の玄馬(げんま)一行が仲介役を』
『輸送は奴隷商の夫婦が協力してくれます』
『他に質問は』

「来訪日が聖夜の理由は?」

『スケジュール的にハメを外しても構わないわ』
『聖夜だからこそ、彼女達のおもてなしを体験してみては宜しいかと存じます』
『彼女達は人懐っこい』

「この町は一応中立の形をとっている、教団が何て言うか」

『あくまでイベントの一種ですので』

「…そこまで言うなら承諾をしよう」

パパは承諾のサインをする。

もしママが生きていたら、パパに何て言うのかな…


※回想終了※


果たして魔物は本当に白なのだろうか?


レンシュンマオ達は次々と芸を披露する。

とびきりの笑顔で。

彼女達の笑顔を見ていると例え魔物でも心が安らぐような気がする。

だがそれも全て、見た目で人を欺き、言葉巧みに人を騙し、隙をついて堕落させる算段かもしれない。


かといって、魔物を黒と決めつける教団の考えにも賛同できない。


死霊として甦るのを防ぐためと言ってママを火葬し、更に遺骨の半分を粉々に砕き海に散布した教団の行為は未だに許容出来ない。

それを聞いた主催者の三人は是非とも墓参りしたいとママが眠る墓地の場所を訪ねたけど…



はいやー竹をぐるぐる回すネー

竹馬、竹馬、パカラパカラ

秘儀、竹のうえで逆立ち

こっちは竹で棒術を繰り広げるアルヨ!

すげぇマジカッコいい

魔物って怖いイメージがあったけど

彼女達を見てるとそうじゃないかも〜

でしょ、今の魔物は人間が大好きなの

ねぇねぇ、その芸ってわたしにも出来る?

練習すれば出来るわよ、何なら教えてアゲル

おいしい桃まんを召し上がれ

んー、中身がぷるぷるしてて、美味しいわ

よかったら竹の葉で煎じたお茶をどうぞ

おっ、お茶の苦味がよく合うぞ、桃まんおかわり

竹の葉でまいたおにぎりはいかかですか?

こっちは竹の葉味の飴玉ヨー


人懐っこい彼女達の接客と美味しそうな郷土料理に、懐疑的だった住民達も少しずつ打ち解けてゆく。


いいじゃないか〜
マダよ〜マダマダ♪
そんなエロい格好してるんだ〜俺とシたいんだろ〜?
アトで〜アトアト♪


中には泥酔し、レンシュンマオの一頭にしつこく付きまとう男も。

じー

そんな中、女の子が竹ツリーをじっと見つめていた。

お嬢ちゃん

あっ、パンだ〜

竹ツリーに興味あるの?

うん、とってもおいしそう

どう、良かったら舐めてみる?

なめていいの?

これはね、農家のお姉さんが育ててくれた竹よ?

のうかのおねーちゃんが?

自信作と言ってたわ、こうやってペロ、ペロ、ほらやってみて

ペロ、ペロ

そう上手、上手

ママ〜これあまくておいしいよ〜

ホント?ペロリ…あら、甘くて美味しいわ〜ペロペロ

それを皮切りに竹が住民達に配られる。当然あたしにも配られるが捨てるのも勿体ないので持ち帰ることにした。


※領主宅・応接間※


「ただいま、パパ」
「お帰り、マオン」
「コンバクさん達も戻っていたのね」
「ああ、町の様子を見ているよ」

パパはソファーから立ち上がり、あたしの下へ歩いてゆく。

「どうじゃ、住民達の様子は?」
「今のところトラブルは起きてないみたい。ってパパ、杖を忘れたまま歩いてるわよ!」
「あっ、そうじゃった」
「もう、只でさえ足腰が弱いのよ」
「今日は妙に足腰の調子が良くてのう」
「だからと言って調子にのるのはよくないよ。はい、これを杖代わりにして」
「その竹をか?」
「出来るわよ。こうやってほら」
「おっ、何だかレンシュンマオみたいだな」
「町の住民達はもっと器用に竹を操っていたわ」


「大分魔力が溜まったわね」
「儀式の準備は万端どすえ」
「精と愛の果実が熟す瞬間」


三人がそう口を開くと

ピカッ

「うぉっまぶしっ」

三人の姿が変化していた。
頭部は二本の角、下半身は黒い馬の魔物に。

「君達は魔物だったのか」

「私達はバイコーンです」
「魔界を広げる急進派どす」
「仕上げ」

サイバは空に目掛けて魔力塊を投げた。

魔力塊が空中で弾けると


うわーキレイなゆきだ〜

白と黒の雪だ

キレイ…

何だか身体が熱いわぁ…

あっ、腕から黒い毛が…


「何が起こったの?」

「この町は魔界化したわ」
「虜の果実入りの点心やサイバ特製魔界竹を口にした女達は、皆レンシュンマオになったどすえ」
「魔物化です」

「魔物化!?そんなことしたら町はパニックに――」

パンだ〜

てがフカフカであたたかーい

「子供達がはしゃいでる?」

胸が重い、けど嬉しい♪

棒という棒が美味しそう

「大人達は自分の身体にうっとりしてる」

「教団の話では魔界化した町の女性は皆、淫乱なサキュバスになると聞いておったが」

「レンシュンマオが一箇所に集結したため、空気中にはレンシュンマオの魔力が充満しています」
「この状態で魔物化するとサキュバスではなくレンシュンマオになりますんよ」
「男性はレンシュンマオ好きなインキュバスに」

すっげぇかわいい

俺の棒で遊んでくれ〜

「男達までも魅了されてレンシュンマオと、まさか彼女達は最初から町の住民を陥れるために」

「いえ、彼女達に悪気はありません」
「男と遊び遊ばれたいだけなんどす」
「私達はそれを有効活用しただけ」

確かにサンタコスのまま男性と遊び遊ばれる彼女達に悪意は感じられ無かった。

魔物化した女性達も雪降る中、夫や意中の男性と宴を開く。

「皆、幸せそうだな」
「パパ」
「妻はいつも夢を見ていた。人と魔物はいつかわかりあえる日がくると…」


「妻は町を訪れる魔物達を歓迎しなさいと私や住民達に言っていた。教団からは冷ややかな目で見られていたがな…」


「そんな妻の夢がようやく叶ったのだ」

パパの目に一筋の涙。

「それは嬉し涙?」

サイバが問いかける。

「いや、妻と共にこの景色が見れないことが悔やまれる」

「心配要りません」
「奥方も見ておりますえ」

コンバクと白衣が扉の方を向きながら言う。

ガチャ、ギィィ…

「あなた…」

部屋に入ってきたのは白と黒の魔物。レンシュンマオと思ったが身体の部分が骨で出来ており、各部分に黒の毛皮が混じっている。

「あ、ああ」

パパも気づいたのだろう。

多少外見は違えど間違いなくママだった。

「会いたかった…」

「黙っていてすみません。奥様の骨をスケルトンとして蘇生させました」
「バカな、骨は殆ど残って無かった筈なのに?」

「足りない部分は動物の骨で補っておりますんよ」
「獣耳と尻尾付き」

「そうか、一瞬判らなかっただろ?相当老いぼれたからな」
「大丈夫…契りを結べば…若い頃に戻れる…」

ママはパパにキスを交わす。
昔のママでは考えられない、熱く官能的なキスを。

「プハッ、じゃが教団の連中が何て言うか」
「大丈夫…きっと…大丈夫…」
「そうだな。三人ともありがとう、私にとって最高のプレゼントだ」

「お礼はまだ早いわよ、レッスンはまだまだ続くわ」
「早速交わりの儀式を行ったらどうでっしゃろ?」
「セクース」

ママは衣服をパサリと床に落とす。下着は着けておらず、美しい肢体にパパは釘付け。

「綺麗だよ」
「嬉しい…」

ママはソファーの上でパパの服を優しく脱がせ、硬直した棒を自身の女陰にあてがい、根本まで挿入し――


「どうぞ」


割って入るように、サイバがシャンパンをあたしに差し出す。

「陶酔の果実で作ったシャンパンよ」
「下の部分のみを使ってる高級品どすえ」
「飲めば生まれ変わる」

「……」
「何も食べてないよね?」
「バレバレか…それを飲めばあたしも魔物になるのね」
「レンシュンマオです」
「いいよ。ただし条件があるわ」
「条件?」
「あたしも連れていって」
「えっ?」
「貴女達は過激派でしょ、貴女達の活動を手伝わせて」
「親の面倒は?」
「大丈夫、ママがパパを支えてくれるわ」
「好きな人は?」
「意中の男性もいない。だから夫探しを兼ねて、魔物が人間を愛してるかをこの目で見てみたい」

「アタシ達はバイコーンよ」
「ハーレムを薦めてますさかい、夫には自分だけを見てとは言えまへんよ?」
「それでもいいの?」

「構わない、それも引っくるめて確かめたいの」

「わかりました」
「魔物化したら即部下として働いて貰います〜」
「では改めて」

あたしはサイバからグラスを受け取り飲み干す。

ついもう一杯飲みたいと思う程甘く、身体が火照ってきた。

手に持ってる竹の葉が美味しそう…♥

あたしは意識をぼんやりしながら、住民達の魔物に対しての考えにようやく白黒ついたと思った。


※大通り※


「せいやー!」

「プレゼントよ〜」
「心からの贈り物どすえ〜」
「ほいほい」

白と黒のサンタ服に着替えたあたしは町中にプレゼントを配る。

「にしても、トナカイの角を付けたバイコーンとはね」

「セイヤードの風習よ」
「黒いトナカイどすえ」
「どんどん投げて」

あたしは熊の手でプレゼントを鷲掴みにし

「せいやー!」

と掛け声をあげながら投擲する。

「せいやー!」

人間の手とは違うのに、自分の手のように動かせる。これも魔物娘の本能なのかな?


ありがとーパンだおねーちゃん


レンシュンマオの少女が満面の笑みでプレゼントを拾う。


すげー勇者なりきりセットだ


インキュバスの少年がプレゼントの中身に喜んでいる。

何だかママが夢見ていた景色が解った気がする。

「せいやー!」

あたしは人や魔物関係なく、皆にプレゼントを配る。

人懐っこい魔物娘、レンシュンマオとして。


※おわり※
14/12/24 21:54更新 / ドリルモール

■作者メッセージ
ドリルモールです。

皆様が次々と聖夜話を投稿するなか、何とか間に合いました。

今回の話が現在連載中の話に何らかの形で繋がると思いますので楽しみに待っていてください。

ここまで読んでくださいまして本当にありがとうございます。


キャラクター紹介、今回は語り手のマオンちゃんです。





キャラクター紹介
【名前】マオン
【性別】女
【年齢】24
【種族】人間→レンシュンマオ
【容姿】図鑑のレンシュンマオ+金髪+半袖の服+ミニスカート
【一人称】あたし
【口調・口癖】せいやー!
【能力・特技】棒術(初歩的な芸程度),力仕事
【概要】
 中立寄りの町ロクシの領主の一人娘。
 母を病で亡くして以来、父のことを心配して嫁ぐことなく家に留まることに。
 急進派バイコーン三人組の開催したイベントをきっかけにレンシュンマオ化。
 母親がスケルトンとして甦ったことに安心して、故郷を離れバイコーン三人組の上司である急進派リリム三姉妹の部下として魔界を広げる活動に参加することになる。

【補足事項】
 バイコーン三人組からハーレムのノウハウを勉強中。

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