連載小説
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熱情の罪
「初めてなんだから優しくしてくれ、な……?」

 ロズの腕の中で抱かれる彼女の頭はそう言うとにへらと口元を崩し笑った。今までの凛とした表情ではなく、蕩け、だらけた頬は紛れもなく雌の表情をしている。
 女、ではない。雌だ。この顔は蹂躙され、ただ犯し犯されることのみを望んでいる。ロズはそう直感した。

「……魔物相手は多少無理しても大丈夫……なのか?」

「ひどいなロズは。いくら魔物とは言え私は女でもあるんだぞ」
『私のおまんこにロズのぶっといのが……ああ想像するだけで濡れてきちゃう。というか濡れてる』

「……あのな、漏れてるぞ」

 彼女の断面から漏れ出る煙を吸うと、不思議なことに彼女の本音が鮮明に聞こえてくる。
 その旨を伝えると、彼女は多少恥ずかしがる仕草はすれど、隠すことはしなかった。むしろ、それ以上に自らの本音を伝えようと煙を放出させロズの周囲を覆い尽くしている。
 今までの彼女とは打って変わって、非常に強気な行動だ。
 もしかしたらこれが彼女の本来の性格なのかもしれない、とロズは内心期待しながら煙を吸い込んでいた。

「ふふ、ロズになら私の本音、聞かれてもいい……」
『私を抱いて。愛して。離さないで』

 カティアはその出生、生い立ちゆえに自らの存在を包み隠しながら生きていた。もし自分の存在が周りに知られてしまったら、またあの日の続きの様に自らに関わる者全てを奪われてしまうのではないか、と危惧していたのだ。
 自らを隠し、影のように生き、本音を言える相手すらいない孤独。そうすることによってはじめて安心が生まれ眠ることができる。それがどんなに恐ろしいことだろうか。
 そういった毎日を送っていた彼女にとって、ロズという存在はもはや”ただ大事な人”と説明できないほどの立ち位置になっていた。
 側にいるだけで心が落ち着き、身を委ねることができる。それだけで彼女は全てが報われた気がしていた。

「ん……ぁ」

 背中に抱き着いていたカティアの胴体をロズは振りほどくと、今度は位置が逆転しロズがカティアの胴体を押し倒している構図へとなる。
 ロズの心臓は激しく脈打ち、体中を流れる血液は必要最低限生命維持できるよう各臓器に送られ、残りのすべてはロズの股間に一極集中しているようだ。自らの陰茎が製錬鉄の様に熱くなり、硬化しているのが下着の中で実感できる。
 その光景を見たカティアの頭部は押し倒された胴体の側で転がりながら顔と体を火照らせていた。ロズとは真逆に、カティアの心臓はピクリとも動いていない。しかし体中を流れる純粋な不死の魔力が体内を発熱させ、まるで生きている生娘のように身体を興奮させていた。
 今ここにいるのは死にながらにして生きているカティアであるということを証明している。

「……まずいな」

「ん?なにかあったか」

「……いや、お前の身体を押し倒してみたら、こう、なんというか。あらぬことをな」

 彼女の身体は整っていた。末恐ろしいぐらい整いすぎている。
 胸は型崩れしない程度の美乳、肉付きの良い二の腕と太腿はそれだけで精液の製造が捗ってしまうのではないかといえるほど官能じみており、くびれた腰は芸術的なまでの曲線美を描いている。薄地の囚人服から浮き出るわずかな腹筋の凹凸は思わず指でなぞってしまいたいという衝動に駆られてしまうものだ。
 そして巨躯なロズが掴むにはまさに丁度いいサイズである骨盤はこれだけで子を産みやすいというカティアの主張がありありと突きつけられていた。
 彼女はここまで魔性な肉体をしていただろうか。
 ロズは半ば微笑しながら自分の中に問いかける。そして彼は同時に最も彼らしくない思考を自らの内側に抱いていることにも気が付いた。

「……俺の好みを全て正確に押さえてるとは……やはり魔物は恐ろしいものだ」

「私が、ロズのために、ロズだけの女になるために望んだんだ。ロズだけが私を使っていいの」

「……ここまで綺麗に整いすぎてると……逆に、崩したくなってしまう」

「几帳面なロズにしては珍しいことを考えるね。でも……」
『私のお腹を膨らませて、ロズと私の結晶を創りたい。そういう意味では肉体を崩すというのは間違ってないんだよなぁ♥』

「……お前の本音はトコトン……いや、もういいか」

「ロズ♥」
『ロズぅ♥』

 ロズがそう言い終えるかどうかというときだろうか、直後転がっていた彼女の頭部がロズの眼前にふわりと跳んできてロズの視界を遮った。その次の瞬間、ロズの唇に生暖かい感触が触れられることになる。それはカティアも同じことだった。
 互いに目を瞑り、己の欲望のままに舌と唇を動かして相手を貪っている。そのキスは傍から見れればひどく不器用で乱暴なものに見えることだろう。しかし今の二人にはそのようなことなど歯牙にもけぬ思いであった。むしろ互いの歯牙を舐め回し、唾液を交換し、吸い尽くし、この上ない官能を味わっている最中にそのようなことを考えるいとまなどないに等しいのである。

「んちゅ……れろ、ん……ぷぁ」

 普通、キスという行為に声は発せられるものではない。しかし、カティアはロズの唇を貪ることによりこの上ない生気と精気を感じ、昂ぶっているようだ。意図せず発せられる彼女の吐息交じりの声がそれを証明していた。
 ロズの唾液が自らの口腔内に触れるたびに、粘膜を通してオスの香ばしさが伝わってくる。相手の体内で分泌されたものを自分の体内に取り入れるという行為を改めて認識すると、この上ない愛くるしさというか背徳感というか、つまるところ快感を感じざるを得ないのだろう。
 開けきった瞳孔は動くことはないが、それでも彼女の瞳は爛々と輝き色欲に塗れていた。
 そしてロズもまたカティアと同じような状況になっていたのは言うまでもない。
 カティアの様に声は漏らしはしなかったが、その分放出先を失われた性欲は己の下半身に集中しているのがわかる。
 魔物の体液は人間には毒なのだ。その毒を粘膜ごしに直接流し込まれ、同時に絶え間ない愛情をも注がれたようものなら、これに耐えられる人間など存在しない。生欲と、愛欲と、そして性欲を全て受け入れたロズは正直なところ正常な意識を保っていられるのが不思議なくらいなのである。
 真に愛する者の愛情を受けてなお、心を突き動かされないというのか。
 それとも真に愛する者だからこそ、自らの意志をもってして営むというのか。
 真意はロズにしかわからない。

「じゅるぅ……ぷ、はァ……ロズ、顔がカタいよ」
『もしかして私のキスへたくそだったのかな』

「……そうじゃない」

「あ、そうか本音ダダ漏れだったんだ……」
『やっぱり私じゃマンゾクできないの?』

「……違う。その逆だ」

 ロズはそう言うと、来ていた上着を一枚脱ぎはじめ硬い石畳の上に引き始めた。特級サイズの特別製な制服だ、これ一枚でかなりの面積を覆えるだろう。
 制服の上着を丁寧に広げると、ロズはカティアの胴体を抱きかかえその上にゆっくりと乗せた。まだ若干石畳のゴツゴツ感はあれど先ほどに比べれば快適さは天と地の差だろう。
 カティアを寝かせると、ロズはその横になってカティアの胴体、そして頭部と対面する形となる。

「……正直お前とこんな状況になっているのが未だに信じられんのだ。処刑したのに生きてて、お前は殺した相手を好きになってて俺も殺してしまった相手を好きになっててよ」

「たったそれだけのことでしょ?お互い惚れたもん勝ちなんだからお互い惚れられたもん負けなんだよ」

「……なんだその理論は、無茶苦茶だな」

 それを聞くと彼女はふふ、と笑いもう一度ロズへキスをした。
 瞳を潤しながら、熱持った視線を彼へ注ぎ、愛を呟く。

「私たちは無茶苦茶だ。無茶苦茶な状況で出会って、無茶苦茶な関係になって、無茶苦茶な結末に終わった。だからこうやって今もう一度チャンスを与えられているんじゃないかな」

「……随分と楽観的だな」

「楽観的なのは大事なことだよ。私はこうやって義賊時代を乗り越えてきたんだからね。だからこれからも、さ」

「……俺には絶対に出来ない考えだ。だが、それもまた……」

 ロズはカティアを見つめて、その無茶苦茶な言葉を深くかみしめていた。
 目の前の、囚人服を着た首なしのこの女を守らなければならない。俺が、この手で幸せにしてあげねばならない。過去の悲しみを忘れるぐらい幸せで埋め尽くして挙げねばならない、と。
 信念めいた決意を胸に抱き、そして前を向くことを決めたのであった。

「……そろそろ、俺もお前も。進まなきゃならないみたいだな」

「そうだね。私たちは反省して、反省して、反省しまくって、そしてようやく許してもらえたんだ。だからこうやって私は生き返ることができたんだし。だからさ……」






『もういいんじゃないかな。前に進もうよ』






「前に、か……そうだな。そうなん、だよな」

 前を進むため。
 その言葉にロズの視界が少しだけ鮮明になった気がした。あの日から続く、長い暗闇の世界が少しだけ明るくなったような、そんな気がしたのだ。
 妹を、家族を、この手で殺したあの日から、ロズの人生は先の見えぬ暗闇に包まれていた。きっとこのまま、彼は死ぬまで己を咎めながら生き続けていくつもりだったのだろう。どうすれば家族を救うことができたのだろうか、どうすれば家族を殺さない方法を見つけられたのだろうか、答えなどあるはずもない問題に永遠と苦しまされ人生を終える、そうなっていたに違いない。
 しかしロズは、カティアの心から聞こえる本音の声を聴き、己を縛り付けていた過去の鎖が解けつつあるのだ。彼は初めて、報われた気がしていた。
 カティアもまたロズを纏っていた陰鬱な気配が少し和らいだのを察して、満足げな顔をしている。

『ねえ……もういいでしょ。ガマンできない』

「悪かったな。魔物のお前にとっちゃこれくらいの数分でも相当辛いだろ」

「ふ、ふふっ……なんだか新鮮だ」

「なにがだ」

「死刑執行人のロズが死刑囚の私に対して”悪かったな”だなんて、想像もできなかった」

「ふん、勝手に笑ってろ。なんならこのまま、どっちから先に手を出すか我慢勝負してやってもいいんだぞ。俺はまだ一応保てる理性はあるからな」

「え、やだ、やめ、もうだめなんだ、これ以上我慢すると頭がおかしくなってしま」
『え、やだ、やめ、もうだめなんだ、これ以上我慢すると頭がおかしくなってしま』

 彼女の懇願する姿を面白おかしく眺めるロズ。

「我慢勝負とかそんなのどうでもいい」
『むしろ襲いかかってきてほしいケダモノみたいに私を犯してほしい』

「だからはやく……」

 そう言うや否や、カティアはロズのインナーを脱がそうと、彼の上半身に手を掛ける。

「あっ……すご、腹筋♥」

 薄手のシャツのようなものを臍の方からたくし上げ腋のところまで上げたころだろうか、色に塗れたカティアの歓喜する声が聞こえる。
 彼女の眼前にはロズの鍛え上げられた腹筋が見事なまでの凹凸を形成しており、思わず吐息が漏れてしまったようだ。うっとりとそれを眺めるカティアの眼差しは、まるで失われた少女の時期を取り戻さんとすべく全力で今の状況を堪能しているようであった。

「すご……ふへ、さ、触っちゃうからな」

 ツツー……と指で凹凸をなぞり、自らの指先にその形状を記憶させる彼女。その仕草は大人の女性というよりは少女のものに近いようにも感じられる。それも、年相応に恋する乙女の性欲、という極めて純情かつタチの悪いものだ。それが魔物化しようものならもはや人間の男にはどうあがいても手に負えることはないのは明白であった。
 ロズは自らの腹筋の上で踊る指の感触がまるでくすぐられれているような感覚のようで、時々ピクピクと痙攣させている。
 恐らくカティアはロズかそうなっているのを知っているのだろう。知っているからこそ、己の恋心と嗜虐心が昂ぶりなおさら触り続けていた。

『ロズ、頭をここに持ってきて』

「ン……ああ」

 そう言われロズは側に転がっているカティアの頭部を自らの腹筋の上に乗せた。腹の上に女性の生首が置かれているという構図はなかなかに強烈であるが、彼女がアンデッドであると理解すれば何の問題もない。

「ん……ロズの体温が腹を伝わって私の頬に感じる……心臓の鼓動も少し聞こえる」

「そりゃ、まあそうだろ。というか俺から言わせてみれば、生首だけになってるのにどうしてお前の頭は普通に熱持っているのか、ってことの方が謎なんだが」

「それは……魔物だからさ」

「随分とご都合主義なものだな」

「魔物なんて大概そうだろう?」

「……否定はできん」

 しばし会話を交わした後、腹筋の上の彼女は頬ずりをして自らのフェロモンをロズに擦り付けているようである。まるで愛玩動物のマーキングであるかのように、自らの印をつけ、自らが使い、そして使われることを望んでいるカティア。その姿に以前の凛とした姿の面影は感じさせない。

「ん、れろぉ……」

 ちろ、ちろ、とロズの腹筋に生ぬるい感触が伝わる。
 カティアは腹筋と腹筋の溝をなぞるように自らの舌を伸ばし、ぬらぬらと光沢した唾液を含ませながら舐め始めていた。頬を真っ赤に染めて、枝垂れかかる髪の毛が舌に纏われるのを気にもかけず、己の体液をロズに擦り込んでいる。熱もった吐息と鼻息が皮膚に付着した唾液を乾かし、揮発させひんやりと感じることもある。
 彼女はただロズの腹を舐めているだけだ。しかし、その姿は、それだけでとてつもない魔性を孕んでおり、ロズの下半身の隆起をより助長させることとなった。

「ちゅ、んぷ……どうだロズ」

「正直驚いている。まさかお前がここまで淫乱な女だったとはな」

「ぷぁ……淫乱じゃないぞ、私はただ愛しているだけさ」
『御明察、今まで処女だった分本気で犯してもらわらないと気が済まない』

「そこまで言われちゃあ、俺も男としてやることはやらんといけん」

「とか言って最初からのその気だったくせに♥」

「一言多いんだよ、お前は」

 ロズはそう言うと、腋までたくし上げられたシャツを完全に脱ぎ上半身裸体の姿となった。
 その姿を見たカティアは歓喜の声こそ上げなかったが、瞳は完全に発情モードに切り替わっていた。改めてロズの身体を目の当たりにすると体中のいたるところに傷跡が形成されており、それらは死刑囚と揉めた際に出来たモノであると推測できるだろう。
 そして次に、ロズは腹筋の上にあるカティアの頭部を一旦床に置くとカティアの胴体を触り、着ている囚人服を掴んだ。

「い、いいよロズ私が脱ぐから」
『アアっ、やっと私のカラダがロズに見せれる!脱がして脱がして♥』

「今のお前じゃ本音と建前は全く意味ないな……」

 服の上からでもわかるカティアの身体。それだけで己の内側に黒い欲望がムラムラと溜まってくるのが嫌というほど実感できるものだ。
 犯したい、と。
 孕ませたい、と。
 それはカティアとて同じことだった。むしろ魔物であるカティアの方がその欲望は強いのだろう。
 濁り凝り固まった、人間と魔物の共通する欲望である性欲。今まさにこの二人は、互いの欲望を互いで発散しようとしているのだ。

「ぁ……」

 するり、するり、と彼女の上着を脱がし始めるロズ。
 囚人服は上下の薄い布一枚だけで形成されており、下着などは何もつけていない。ゆえにこの服を脱がせば、すぐそこには二つの脂肪の塊が目の前に見えることだろう。その光景を想像し、ついゴクリと唾を呑んでしまう。
 まず初めに見えたのは、絹のように滑らかな白い腰と臍だった。
 指で触れてみると、わずかにつまめる程度の柔らかさと内側にある筋肉締まった筋肉の感触が指を伝わる。臍付近をつまんでみると、まるでその感触はジパング名産の「モチ」のように肌に吸い付くようで非常に中毒性の高い触り心地であった。思わず甘噛みしてしまいたい気を抑えつつ、ロズはその感触を堪能している。
 これは魔物となった彼女の本領ではなく、多くある魅力のたった一つに過ぎないのだろう。人間男性であるロズを虜にするにはいとも容易いことなのである。

「ロズぅ、くすぐったい、って」

 床に転がっていたカティアの頭部はロズの肩の上に上り、ロズと共に自らの服が脱がされる光景を眺めていた。頭と体は別々であっても、体が感じる感覚はそのまま感覚として生前と何ら変わらず伝わっているようである。
 というよりもむしろ、自分の身体が他者に脱がされるのを他者の視点で見ることができるということに若干の興奮を覚えているようでもあった。

「……よし、一気に脱がすぞ。両手を上げてくれ」

 ロズは囚人服をたくし上げ、その手は乳房の下まで来たようである。
 胸のふくらみは脱がすという行為を阻害し、裸体になるのを一歩手前で凌いでいる状態だ。

「……いいよ、脱がして」
『私のカラダ、ちゃんと見てね』

 彼女の本音を聞き、了承したロズはぐっ、と力を入れて再び囚人服を掴んだ。
 元よりくしゃくしゃだった服はさらにシワが寄り、もはやボロ雑巾と言っても差し控えのないものだろう。そんなことに一切気に留めぬ両者は、互いに脱がし、脱がされるということを確信する。
 そしてカティアが両手をピンと伸ばしたのを確認すると、ロズは一気に服を上へと上げた。

プルンッ!

 直後見えたモノは、ロズはそれが何なのか理解するのに数秒を有した。
 胸が――
 彼女の乳房が、脂肪球が、乳首が、たわわが、女性の象徴が――
 そこにはあった。

「……お、おおお」

 どう表現していいのかわからない。
 人間、圧倒的なものを目の前にすると言葉がでなくなるというが、まさに今のロズはその状態に陥っていたのだろう。
 カティアの乳房は、ロズの想像していたものよりも格段に美しく、格段に整っており、格段にエロチックだったのだから。
 玉のような艶やかさは男性の本能を刺激し、つい口にして舐め回してしまいたくなる衝動を呼び起こしてしまう。隆起した乳首は薄っすらとした桃色を有しており、女性としてのエロさと少女の可愛さらしさを両立させた恐るべき主張をしている。
 そしてなによりもその形の美しさだろう。見事なまでのおわん型のバストは武骨なロズの両手で押さえてもややはみ出るくらいという、巨大すぎもせず、かといって小さすぎもしない、ロズが最も好みとする大きさのものであった。ロズが囚人服の上から想像していた大きさよりも大きく、綺麗で、滑らかで、完璧すぎたのだ。
 このような胸を目の当たりにして、饒舌に感想を語れという方が無理難題というべきである。

「そんなにジロジロ見られたら、その、恥ずかしい……」
『ハズかしいけどもっと見てほしいな。私をくまなく見つめて。ロズだけのものなんだから』

「…………」

「ん、いいよ……」

 うまく感想を表現できないロズは、有無を言わずその手を伸ばし、乳房を手に取る。
 直後、ロズの手を襲うのは圧倒的なまでの弾力性とカティアの母性、そしてエロスだ。こんなものがこの世にあっていいものだろうか、ロズは内心そう思っていた。
 ふにふにと形を変えぷるぷると震える胸の艶めかしさはロズの劣情を催すには十分すぎるものだろう。先端に起つ乳首だけが形を変えずそこにあり、さながら疑似餌であるかのように思わず食らいついてしまいかねない誘惑がある。

「カティアッ……」

「ふぁ……ぁ、ロズ、いきなりはっ……んんっ」

 食らいついてしまいかねないというのは誤りである。
 衝動が理性を超え、ロズは無意識のうちに彼女の乳房を口にしていたのだ。母乳をせがむ赤子のように、それが当たり前であるかのように、何の意図も悪意もなく己が欲のままに貪りついていた。

『いいっ!ロズ、もっと舐めてっ』

 彼女の本音が頭の中に語り掛けてくる。
 口の中に広がる素肌のしょっぱさと、それとは別に感じられる魔性の甘味。それら二つが混ざり合い、刺激的な媚薬としてロズの味覚を彩っている。人間のそれとは姿かたちこそ似ていれど、まったく違うものだとロズは痛感していた。
 口の中にあるコリコリと隆起した乳首の存在感はすさまじいもので、一度舌に触れようものならビリビリとした電撃のような刺激がロズとカティアの両者に伝わるのだ。カティアは乳首から感じられる刺激をそのまま感じ、ロズは乳首から溢れ出る高濃度の魔力を直に浴び全身の細胞が燃え滾るかのように活動する。両者とも感じ方は異なれど、共有する感覚は同じものであった。
 その感覚がまたやみつきになり、乳房を舐めては乳首を舐め、そしてまた乳房を舐め、揉み、舐め、決して同じ場所を刺激し続けないロズの攻めにカティアはそれだけで下半身が湿りはじめる。

「ちくび、ぁ……はぁ♥きもち……やだぁ」

 時折乳首を甘噛みしてあげると、吐息交じりの声のなかに突発的な嬌声が混ざるのがそそるのかロズは悪戯に攻め立てる。
 カティア自身は嫌とは言いつつも、本音はその逆、もっとしてもらいたいと言っているようである。もはや本音など聞かずとも彼女の表情で読み取れそうなものだ。
 汗でしっとりと湿った乳房をロズは唾液で舐りまわす。唾液の光沢が乳房の丘をぬらぬらと照らし、むせ返るような淫靡さを醸し出していた。

「ハァ……カティア、ひどいぞその顔」

「へぁ……?あ、あはは……だって気持ちいいんだ、仕方ないじゃないかぁ」

 頬を染め、上目づかいでロズを見つめるカティアの破壊力といったらなかった。あの凛としていた彼女が、若干の照れを感じさせつつも、色欲に任せ期待している表情など想像するなどできるわけがない。それが今、目の前にある。いるのだ。
 とても恐ろしくあり、愛らしくある。そして最も重要なのは信頼しているからこそ見れる表情であるということだ。そうでなければ彼女のこの顔は決して見れるものではなく、信頼し信頼されたロズだからこそ見れたものなのである。
 カティアにとってロズとは、自らの過去を話した相手であり、自らを殺した相手であり、自らが初めて愛した異性の男性ということになる。特別なのは明らかだった。

「んふふ♥おかえしだっ」

「!!ぅ、ぐ、あっ……」

 ロズがカティアの乳房、乳首を舐め、一旦その手を休めた途端、今度はカティアが攻勢へと移った。
 フワリと浮いた首は大きく口を開けると、ロズの胸板、もとい乳首めがけて素早く飛びついたのである。生暖かい彼女の吐息を乳首の周囲から感じるロズ。だがその直後、粘液を多量に含んだ舌が自らの胸に当てられている感触に襲われた。
 魔物の体液は、たとえ唾液であったとしても強烈な媚薬となる。あろうことかロズは左胸、それも心臓に一番近い部分から擦り込まれ、自らの拍動がみるみるうちに激しくなるのを感じていた。

「どぉーだロズ、わたひだって、やればできるんだぞぉ」

「おま、なんっ……」

 痛くもなく痒くもない、絶妙な感触で己の胸を愛撫されるロズ。その感覚は決して上手と言えるものではなかったが、それ以上に彼女の必死さ、健気さといったものが快感に変換されロズを支配するのであった。
 そうしてロズが彼女の愛撫に呆気にとられていると、いつの間にか彼女の胴体部に押し倒されていることに気が付く。気配すら感じさせない妙技であった。それは義賊時代に鍛えた彼女の卓越した体術のなせるものであると同時に、魔物と化し本能として身についた床技でもある。

「ねぇロズ……ココ、すごいね……」

「それはまぁ、男というものはそういうものだ」

「ここに、ロズのおちんちんが……ちんぽが♥」
『フゥーっフゥーッ、もうダメだ我慢ならない脱がす脱がしてやる』

 彼女がロズの下半身に形成されたテントを見るや否や、そのような本音がロズの頭に流れてくる。
 それを聞いたロズはいつもならば執行人命令だとかで言いくるめて抵抗するのだろう。しかし、今、ロズは本音を聞いたのにもかかわらず、あえて彼女のさせたいがままにするようにした。
 一切の抵抗もせず、仰向けに倒れたままになっていたのだ。
 眼前に見える彼女の頭部と胴体を視て、たわわに枝垂れる二房の脂肪球を眺め、股間をより力強く勃起させていた。
 もはや下着を突き破らんとする勢いである。暴力的なまでの長物がもうすぐで解放させられようとしている。

「もういいでしょロズ……もう、ダメなの」

「……ああ」

 それだけ言うとカティアは目をよりいっそうギラリと輝かせ、ロズのベルトに手を掛けた。
 カチャリ、カチャリ、と金具を外し、ベルトを緩め、ときほどき、そうしてスルリと引っこ抜く。そうしてできた下衣と素肌の境目に指を挟め、カティアはゆっくりと脱がし始めたのであった。
 ロズの鍛え上げられた筋骨隆々な大腿筋が凹凸を形成しそこに存在している。同時に、中心部に目を見やると陰毛も見え始めてきて、カティアの興奮はさらにヒートアップするのだ。あとすこし、あとすこし脱がせばアレが見える、と。

「一気に、脱がす♥」

 太腿の中間あたりまで脱がしたところで、カティアは下衣を脱がすのに若干の抵抗が加わっていることに気が付いた。それは下衣を脱がす方向とは真逆にそびえ立つ、ロズの陰茎がストッパーとなっているのは明白であった。
 下衣の繊維を押しのけ一本の棒状のものが衣服ごしにわかる。今、魔物と化したカティアにとって男性器が何を意味するかなんてことはロズも、カティア自身でさえもはっきりと理解しているつもりだ。だというのに衣服ごしですらめまいがするほどの魅了、魅惑、精のニオイがカティアに襲いかかる。魔物がこれらに耐えることなどほぼ不可能である。まして愛しき相手のものとなればなおさらだ。
 これ以上、耐えられることなんてできやしなかった。


 ボロンッ!


「わあぁっ……♥♥」

 そこから先はほぼ勢いだった。技量や魔法などほとんど使っていない。
 カティアがロズの下衣を下着ごと一気に脱がすと、ソレは現れた。それは、それは、あまりにも巨大な肉の塔。青筋を立て、ドクドクと脈打つやや黒みがかった肌色の棒が彼女の目の前に顕現したのである。
 ロズ自身相当の巨躯であるから、股間もそれ相応の大きさなのだろうとは思っていたが今ここにある巨根はカティアの予想をゆうに超えていた。あまりの大きさに言葉を失うカティア。
 先ほどロズがカティアの乳房を見たとき言葉を失ったように、カティアも同じような状況になっているのであった。
 だがそれはカティアだけではなかったようである。

「なっ……俺のモノ、なのかこれは」

「ロズのちんぽ、おっき……すごい」
『逞しくて黒光りしてて、うわぁ♥』

「いや待て、こんなサイズだった記憶はない。明らかに大きすぎる」

「でもロズの股間から生えてるんだからロズのモノに間違いないでしょ?」

「そうだが、いやしかし……」

「私は大きい方が好きだよ」
『こんなの挿るのかな?内臓まで犯されちゃう♥すき♥♥』

 彼女の強烈な本音が流れてくる。その度にロズの理性は少しずつ削り取られ、もはや残されている理性はわずかとなりつつあった。
 いくら魔物とは言えこのような巨大なモノを処女である彼女に突き挿して良いのだろうかという理性と、膣の奥深くまでぶっ挿して子宮を精液で満たしてやりたい、孕ませてやりたいという雄の欲望がせめぎあっている。

「ロズ、まさか私に気を使っているわけじゃないよね」

「む、そんなわけは」

「嘘。自分でも驚くくらい立たせて挿れたくないわけないでしょ」

「…………」

 図星だった。
 カティアもまたロズの心の内は多少は理解できるようである。
 といってもロズのようにカティアの本音が完全にお見通しになるものではなく、なんとなく、魔物としての直感だ。
 更に付け加えるとすれば、わずかな期間ではあるものの、ロズと会話し心を通わせたカティア自身が察することのできた彼女だからこその直感でもある。

『私は、いいよ。もう死んで、生き返ってフッ切れちゃった。ロズ、私を抱いて』
「そして愛して」

 嘘偽りのない彼女の欲求。愛の言葉。
 それらはロズの凍てついた心を溶かし、あの日から止まってしまった彼の時間を進め始める。

 スルリ―

 カティアは囚人服の下衣を脱ぎ始める。
 下着はつけていないので囚人服の下はすぐに素肌だ。彼女の股間、恥部に密着していた生地が素肌を離れると、ぬちゃ、という音を立てて愛液を滴らせているのが見えた。恥部周辺はまるで寝小便をしてしまったかの如く湿っており、生暖かい粘液で糸が引いている。
 もう彼女はロズを迎え入れる準備は十分整っていた。
 お互い生まれたままの姿になり、向かい合っている。
 薄暗く寒くて冷たい独房のはずなのに、今この瞬間は熱く熱く、熱情に満たされむせ返るほどの湿気に包まれた空間と化していた。

「いいんだな、カティア」

「いいよ、来て……」

 再度ロズはカティアに覆いかぶさる姿勢になると、彼女は両足を広げ自らの恥部が丸見えとなる姿勢となった。信頼しきっているからこそ見せるその姿勢の官能さ、エロチックさ、この世のどんな言葉で形容しても言い表せるものではない。閉じられた二枚貝を両指で押し広げ、ヒクつかせている状況、それをしている彼女の顔、そしてはち切れんばかりに勃起し汁を垂らすペニス。
 そのどれもが肉と欲の権化と化していた。
 ドクン、ドクン。
 脈打つ心臓、脈打つペニス。
 互いの興奮は最高潮に達し、まさに今、性交が始まろうとしていた。

「出るときは言って……絶対に離さないんだから」

「元より、お前の中に出すつもりだ」

「ふふ♥期待してる」
『着床確定、からの妊娠コースだからよろしくね♥♥♥』

「たった一回や二回そこらで妊娠はしないだろう魔物は」

「じゃあ妊娠が発覚するまで何度でも中で出しちゃえば問題なし」

「……これが魔物の価値観か」

 半ば呆れつつも、ロズはそれすらも愛おしいと思えた。彼女はもう人間ではない。人外の者、それも生きながらにして死んでいるアンデッドになった。呼吸はしているかもしれないが別にしなくても活動し続けられる。刃物で刺されたって倒れることはない。人間とは完全に異なる存在になったのだ。
 ……だがそれがどうした。彼女は彼女だ。たとえ死んでいても生きていても人間でも魔物でも、カティアという存在はなにものにも変えられぬカティアという存在なのだ。それ以上でもそれ以下でもなく、カティアそのものなのである。
 その愛に種や生き死になんて関係なかった。

「痛かったら、言え」

「ん……やさしく、して」

 あれほど好き放題言っていた彼女が突然しおらしくなるものだから、ロズはおもわずどぎまぎした……というわけにはならなかった。むしろその逆、思いきり滅茶苦茶に犯してやろうという嗜虐心が沸き立つ。
 沸き立つだけで、実際にそうすると決めたわけではない。いくら魔物であっても彼女は処女であることには変わりないのだ。初めての相手に乱暴してしまうなどロズの本心がそう望んでなかった。

「ねえロズ」

「なんだ」

 お互い目を合わせるとカティアは呟く。

「私、本当はロズに会ったことを後悔してた。必ず殺されるのがわかっているのにロズを愛してしまったことがとても辛かった」

「そうか」

「でも今はそうじゃない。ロズに殺されて、死んでもロズは愛してくれた。いや、愛してくれている。それってとても素敵なことなんじゃないかって……私はもしかしたらロズに会うために義賊をやっていたんじゃないかなって思えてさ」

「……それは結果論だろう」

「それでもいい。結果論だろうとなんだろうと、私はロズという人を愛し、愛されている。それだけで……本当に…………はは、ごめん、いざ挿れるってときにこんなこと言って」

「…………」

 やや涙ぐむ彼女を見て、ロズは軽いため息を一つする。
 しかし、このため息は呆れからくるものではない。半分はロズの癖であり、もう半分はロズ自身形容しがたい感情に満たされ言葉に詰まった時に出るものであった。

「何度も言わせるな。俺はもうお前を置いて行かないし置いて行かれるのも嫌だ。真っ平ごめんだ。だからお前はこれからも俺について来い。俺が死ぬまで、俺が死んだ後も、俺と共に過ごせ。これがお前に通達する最後の執行人命令だ」

「ふ、ふふ……ロズってたまにロマンチックなこと言うよね」

「あ?ったく……調子狂うなお前は……」

「私はそういうところも含めてロズ、愛してる。そして感謝している。私を孤独から救ってくれて……」

 すうっ、とひとつ大きな息を吸い込みカティアは微笑んでいた。
 そうして大切な相手に、心からの言葉を伝える。





「ありがとう」
『ありがとう』




「……っ」

 なんてことはない感謝の言葉。そして笑み。
 その笑みを見て、ロズは一瞬、カティアの姿と同時に亡き妹の姿も重なって視えた。
 妹が。命を殺め自分を恨んでいるであろうと思い込んでいたロズに対して感謝し、笑っているように感じたのだ。
 もう一度瞬きするとやはり見えるのはカティアそのものに違いはない。恐らくただの幻覚、幻聴のようなものだろう。
 だがロズは、ようやく長い長い贖罪から解放されたような、許されたような気がしたのだ。





 ―ありがとう。もういいんだよロズ兄―





 そんな声が聞こえた気がした――

「ロズ?」

「いや…………うん、なんでもない。ただの空耳だ」

 亡き妹の幻影が晴れた今、目の前に見えるのはカティアそのもの。自らつけた罪の意識である枷を自らの力で取り外したロズ。もう彼を縛り付けるものはなにもない。気兼ねなく、気負いなく、カティアとのひと時を堪能することができるのである。
 そう考えると目の前のカティアが急に愛おしく思えてきて、心から抱きたいという欲がこみ上げてくる。

「挿れるぞ……」

「ん……♥」

 お互い、視線は股間の接合部に集中している。ロズは自身の一物を持つとその先端をカティアの膣口部に当てがい、なじませている。亀頭から染み出る我慢汁と膣から湧き出る愛液をぬらぬらと混ぜ合わせ、慣れさせつつも焦らしているように見えた。
 カティアは処女ではあるが魔物であり、また魔物であるが処女でもある。
 その気になれば彼女は完全にセックスのペースを持っていくだろう。そうに違いないとロズは確信していた。だからそれまではせめて、経験者として彼女をリードし男女が交わるとはどういうことなのかを体験させるため、こうして先導して行っているのだ。
 お節介というべきか几帳面というべきか、まさしくロズの性格をそのまま表している。

「ん……ふぅっ……はぁ」
『あぁ、亀頭がクリに触れるたびに気持ちいい……挿れてほしいけどそっちもいい……』

「注文の多い本音だ」

「やっとロズに我儘言えるんだもの、そりゃあね」

 頬を赤く染めながらにっ、と笑う彼女。
 その顔を見てロズは確信し、腰を前へ深めるのであった。


 つぷ――


「はぁ、う……はいって、る……はいってってるぅ♥♥」

 ゆっくりと。ゆっっっくりと。
 ロズのペニスがカティアの内へ挿ってゆく。貴重な骨董品を扱うよりもさらに丁寧に、慎重に身体を動かしている。
 カティアは視線を結合部から天井へと移し、ただひたすらに己の性器から感じられる快感に身を委ねていた。口を震わせ、瞳孔を開き、呼吸が不規則になる。今まで感じたこともない感覚の濁流が全身を押し流し、彼女はその流れに身を溺らせる。

「……っ亀頭は全部入ったぞ」

 ロズもまた未知なる快感に身を流されまいとかろうじての所で踏ん張っていた。
 彼はこれが初めてではない、過去に何度か経験はあるはずだ。しかし、そんな経験が完全に無意味であるほど、彼女の肉体は未知数、異次元の領域であった。
 亀頭を膣に入れ込んだだけで、その先端から脳髄の深層までを覆いかねない性感の大瀑布が彼の感覚、感情といったものをもみくちゃにかき回す。
 恐らく彼女は無意識なのであろう。無意識のうちに彼女は膣壁を自在にうねらせ、来たるロズのペニスを抱擁し愛撫していたのだ。人ならざる魔性の肉体に人であるロズが平気でいられるわけがないのは当たり前のことだった。

「ロズっ、どこまで、いれた……の」

「ま、まだ亀頭だけだ」

「視たいっ、けど、視たらダメ、イっちゃう♥ロズが入ってるって、意識すると、あっ♥♥」

「…………ッッ」

 甘い吐息を漏らし、悶え悶えに語る彼女の姿の愛くるしさといったら、狂おしい淫らであった。胸の谷間に溜まる水滴は雫となって腋へと落ちてゆき、気化した汗は淫靡な気となって二人を取り囲む。
 さほど女性経験に富んでいたロズではないが、そのロズでさえ挿入した瞬間に名器であると断言できるほどの極上の快楽を与えるカティア。魔物とはかくも恐ろしきものだと思う反面、堕落の象徴とうたわれる所以はここにあるのかと思った瞬間だった。

「ふぅ……もうすこし、いけるか」

「うん……もっと、キて……」

 そう聞いたロズはさらに腰を奥へと進める。
 亀頭が完全に埋まり、カリが膣壁のヒダを押しのけ、ずぶり、と侵入すると不規則に蠢くカティアの内部が痛烈な洗礼をロズに負わせ始める。
 まるでペニス全体ががちりと拘束され二度と離すまいかと締め付ける膣、でありながら圧迫感は感じず、むしろこの上なく快感であった。亀頭の先端からカリ首、竿、裏筋まで余すところなく撫で揉まれる未知なる感触。まだ半分も挿れていないのにも関わらずペニス全体が愛撫させられているかのような錯覚を覚えるほどだ。

「う、ふぅ……これは、すごい、な」

「ふぁぁぁあ、ロズっ、ろずぅ、おっきい♥ロズのが私のナカに……」

 顔全体と声色を蕩けさせ彼女は両手を広げるとロズの首の後ろ側を抱きかかえるようにして自らの胸に引き寄せた。
 近づく顔、吐息。乳房と胸筋が接触し互いの汗が混ざり合う。
 互いの顔が近づくと、二人は有無を言わず唇を合わせ貪りあう。唾液を交換し、舌と舌を絡ませ、唇と唇の間に粘液の架け橋が出来ては消える。
 その光景は性と欲に塗れていながらも、確かに存在する愛を証明していた。

「んむ、ちゅぱ……んん、ぷぁ♥♥もっと……もっと私を愛して、犯して、嬲って」

 凛とした面影はすでになかった。
 ここにいるのは普通に恋をして、普通に愛されたいと願う、ただ普通の女性だ。たとえ首が取れていようと愛されたいと思う感情は皆平等なのだ。彼女はようやく一人の女性になることができたのである。
 だからロズは彼女を精一杯愛する。それは彼女が愛されたいと願うだけではなく、ロズもまた心からカティアを愛しているのだから。
 嘘偽りのない彼の本心からの行為であった。

「カティア、お前……締めつけが……」

「もう離さない……離れたくないの」

「俺はここにいる、お前と共に」

「ん……♥」

 更にロズは腰を前へと突き出す。
 ずぶ、ずぶり……膣がペニスの形を覚え馴染むようになるようにとロズは配慮しながら突き進めていた。実のところロズの理性はもうまともに働いてはいない。今の彼を突き動かしているは、彼の純然たる誠意と信念の他ならないのだ。
 そうして奥へと入れ込むロズであったが、やがてあるところで違和感を感じるようになる。
 行く手を阻むかのように立ちふさがる違和感。わかる者にだけわかるその正体をロズは知っていた。

「カティア、少し痛むぞ」

「いいよ、ロズだから大丈夫……突き破って、もっと奥にちょうだい♥」

 彼女の同意を得てロズはその違和感……処女膜を破くことにした。
 膜とはいってもその実態は繊維のようなものであり、膣を狭めているようなもの、と言った方が良いだろう。しかしそれを突き破る際には痛みを伴い、出血の可能性もある。
 初性交において最も気をつけなければならない場面であり、その差異によって今後性交に対してどのような印象を持つか決めかねない事でもあるので繊細に、慎重にしなければならない行為なのだ。
 そしてロズは意を決して、その腰をさらに奥へと進めた。
 違和感を打破し、その奥にある未知なる快楽のために、彼女のために。ロズはやや勢いをつけて突破する。

「――ッぁ!!」

「大丈夫かカティ……ッぐ」

 処女膜を突き破ったロズ。
 接合部を見ると、わずかながらの血液が垂れ流れており、事は終わったと証明している。カティアは今ここで初めて処女でなくなったのだ。
 彼女の顔は苦悶に染まり声にならない叫びをあげる。出血しているということは当然痛いのだ。無理もないことである。
 彼女は抱きかかえていた両手をロズの背中に回し、ぐっとしがみつくように爪を立てるとロズの背中からも血が滲み始めた。
 決して彼女はロズを傷つけたいのではない。しかし、今まで体験したこともないような痛みを堪えるには、目の前のロズにしがみつくことしかできなかった。彼女は自らの爪がロズの背中を傷つけていることは知らず、ほぼ全力でロズにしがみついている。
 そしてロズだけがその爪が自らの背中に突き刺さっている事実を知っている。
 だがあえてそのことはカティアには告げずロズはただひたすらに受け入れていた。
 カティアの痛みに比べればこんなもの痒さでしかない、と。

「フゥー……フゥー、うぅぅぅ……痛い、いたいぃ……けど」

「けど、どうした」

「ロズだから……耐えられる、ガマン、できる」

 苦悶する彼女だが、その顔は同時に悦にも満ちていた。
 痛みに苦悶する表情はその痛みを物語っている。だが同時に彼女は嬉しいのだ。自らの初めてを愛する者に、心の底から愛する者に捧げられたという達成感、幸福感はこの世の何物にも例えることが出来ず、女性が生涯に一度だけ体験できるかどうかもわからない幸せだ。その幸せは魔物となった今、倍以上の幸福となって彼女に降り注いでいる。
 幸福が痛みを塗りつぶすのにはそう時間がかからなかった。

「大丈夫だ。俺はまだ動かん、慣れるまでしがみついてろ」

「うん……」

 その痛みが和らぐときまでロズはペニスをカティアに挿れたまま、少しも動くことなくじっとしていた。そうすることが今できる一番最善の行為だということをロズは知っていたからだ。
 血液に狼狽えることなく、荒く息の上がった彼女をしっかりと受け止める彼の躰はとても頼もしく見えた。

「だいぶ……慣れてきたみたい」

「我慢しなくていいんだぞ」

「ううん、だって……ロズだって辛そうだから」

 彼女の言葉もまた事実であった。
 そもそも魔物の膣に挿入して、一切腰を振らずそのままの姿勢をキープし続けるなどほぼ拷問に近い行為である。魔性の快楽が待ちわびているというのにそれをしないという行為がいかに強固で揺るぎない決意、精神力なことか。
 それだけロズは彼女を事を愛しているのだ。欲よりも愛を選んだ彼なりの意志ということになる。
 だが意志をいくら強く持っていたとしても、体は否応なしに反応してしまうのが悲しき性というもの。分泌される愛液を膣粘膜から直接経皮され曝され続ける彼のペニスはもはや彼の意志すらも反旗してしまいそうなほど膨張し、彼女の内部を押し広げていく。
 睾丸からは多量の精子が製造され、はち切れんばかりに肥大していた。

「俺のことは気にするな」

「ダメだよ……ほら、こんなに膨れて、すごい溜まってそう……♥」

 ドクンドクンと脈打つ陰嚢を見て彼女は甘い吐息を漏らす。
 すると彼女はおもむろに両足を動かし、今度はロズの両足を抱きしめるようにホールドしがっちりと固定し始めた。両手両足共に彼女に抱き着かれ、いよいよもってロズは彼女から離れられないことを悟る。
 もともと離れるつもりはなかったのだが、いざこうやって拘束されてみるとそれはそれで興奮するものである。ロズは内心そう思っていた。

「ロズ、もう、いいよ……もう痛くないから。いれて……」

「ふぅ……それじゃあ、もう止めないからな……もう止められそうにない」

「うん♥止めないで、最後までシて、いっぱい、欲しい……」
『もう離れない。ずっと一緒なんだから』

 赤く染まった結合部を見つつ、カティアの表情も確認しながらペニスをさらに奥へと入れるロズ。
 勃起は治まるどころかより強度を増し、血管が浮かび上がっている。そんな股間の暴君を彼女のナカへと再度押し込み、やがて肉眼で見れる自らのペニスが徐々に少なくなってくるのが確認できる。
 2/3ほどはもう入っているだろうか。あれほど巨大だったものの半分以上がもう彼女の体内に入っていると思うと人体の神秘を感じるとともに、妙なエロスを感じさせロズもまた達成感を覚えた。

「あっ♥うぅふぅ……オナカ、おもたい♥♥ふぅぅぅ」

「っあ、くぅ……ふ、ぐ……」

 気を抜けば暴発してしまいそうだった。
 今やロズのペニスへ捧げられる愛撫は撫でるような仕草から、早く搾り取ろうと蠕動するような挙動で竿をしごき、亀頭は徹底的にヒダで擦られているものになり代わっていた。ピストンをしていないのにこの快感、人間相手ではどうあがいても得られるものではなかった。
 これにピストン運動が加わるとどうなってしまうのか、想像するだけで恐ろしくもあり好奇心を駆られるというものである。

「カティア、もう……」

「いいよ、わかってる……一気に挿したいんでしょ」

「ああ、もう、おかしくなりそうだ」

「私のことを気遣ってくれてありがとうロズ。でももう、ガ、マンしないで」

「……じゃあ、いくぞ」

 すうぅ、と一呼吸。
 そうしてロズはぐっと腰に力を入れ、まだ挿っていないのこりの部分を入れ込んだ。


 ずんっ……!


「は、あぅ、あぁ!!♥」

 カティアの視界にバチバチと星が舞い散る。
 腹部に感じる膨満感は少し息苦しく感じつつも、ロズのペニスだと思えばなんら辛いことではない。
 自らの臓器ではない外部のモノが私のナカを蹂躙している、犯している。内臓が圧迫され端へと追いやられている。けれど……キモチイイ。
 唾液を垂らし眼を血走らせながら彼女はそう思っていた。

「はいっ、たぞ……あ、ああっ」

 ロズもまた力強く保っていた腰を震わせ、迫り来る快楽に心身ともに犯されていた。
 接合部を見ると今まで空いていた隙間の空間は完全に埋まっている。あれほど大きく勃起していた自分の一物が全てカティアの中に埋まってしまっていると思うと、背筋がゾクゾクするような征服感が生まれてきた。
 俺のモノが今、カティアのナカにすべて入っている。俺がカティアを犯している。
 もっと、キモチイイのが欲しい。

「欲しいなら……ほら、突いて♥挿れるだけがセックスじゃないでしょ……」

 ロズの本心はいつの間にか声に出ていたようでカティアはそれに答えるように、自らの腰をぐいぐいねじらせる。不規則に蠕動する膣ヒダはロズを煽り、もっと、もっと頂戴と体で訴えているようだった。
 その訴えにロズは頷くと、一度最奥まで挿入したペニスを今度はゆっくりと引き抜き始める。

「あ、ぐぅ……!これ、は、やば……」

「ふぁぁぁぁ♥♥わたひ、も、おかし、く……」

 一度入れたモノを抜く。それだけの行為なのに、今まで行ってきた行為とはベクトルの異なる快感が二人を襲い、嬌声のデュエットが地下牢を響かせる。
 ペニスの先端付近は今までずっと膣内に入りっぱなしだったせいか若干白くふやけているようだ。しかしそれでもなお剛直する力強さは失う気配はなく、むしろ入れる前よりも太く、硬く感じさせた。

 じゅぷ……
 ずっ、じゅぷ、ずっ……

 そして亀頭だけが内部の埋まっている状態まで引き抜くと、ロズは再度ペニスを潜り込ませる。初めのころのゆっくりではなく、今度は少し早く。
 そしてまた奥までたどり着くと、引き抜き、差し入れ、引き抜き……速度は徐々に早くなりつつあった。

「あっ♥んぅっ、ふぅ♥♥イイっ、ロズぅ♥んああぁ!」

 ほとばしる汗、汁、液。
 交わされるは声。言葉ではなくただの声だけが二人の間で交わっていた。まともな言葉をしゃべっている余裕などないのだろう。
 下半身から来る快感は体全体を支配し、今では皮膚を軽くなぞられただけでも快感に感じてしまうほど敏感になっている。

「はっ、カティ、ア……カティ!」

「ロズっ、ろず、ろずぅ、ロズッ♥♥」
『もうナニも考えられない。最高だ。最高すぎてもう……』 

 名前を呼び合う、それすらも快感であり互いの愛を実感する。
 
 じゅっぷ!ずぶっ!
 ぱちゅ!じゅっ!!

「や、イ、いくっ、やめっ……んんぅ!!♥♥」

 待ちに待ったピストンが始まると彼女は今まで待ちわびたものが一気に押し寄せたせいか、いともたやすく絶頂してしまう。愛液が噴出し、ロズを拘束する足はさらに力強く、そして痙攣していた。
 卑猥な水の音がセックスの激しさを示唆している。
 加速するロズの腰は自らのペニスとカティアの性感を同時に刺激し一突きするごとに互いのくぐもった声が鳴り響く。
 ロズは快感を感じるたびに精液が溜まり、肥大した睾丸が蠢いているのを実感していた。
 カティアもまたひと突き、またひと突きされるたびに愛液を飛ばし、ロズの身体全体に擦り付けていた。
 魔力の宿った愛液を浴びるとよりいっそう性欲が沸いて彼女を責める。そうするとさらに彼女は首の断面から煙を放出しロズに吸わせる。
 こうなるとロズとカティアによるセックス半永久機関の出来上がりである。
 もう互いを止めるものなどなにもない。たとえ外部の妨害があったとしても決してやめることはないだろう。それほど二人は熱中していた。

「はぁふっ、んむっ……ふっ」

「やぁぁ♥それ、だめぇっ♥イ、いく、いっちゃ……ああぁ!!♥♥」
『それ、イイ♥もっとして、吸って♥』

 ロズは腰をピストンさせながらカティアの胸を揉みしだき、吸う。
 隆起した乳首を舌で転がし、乳房全体を荒々しくこねくり回し、その形状を変幻自裁に変化させていた。
 カティアは声を震わせ、もう何度目なるか覚えてないほどの絶頂を繰り返す。
 粘り気のある粘液とは別の愛液を尿のように勢いよく放出させ、接合部全体、ロズの身体さえも濡らし魔力を浸透させるのだ。

「カティ……もう、そろそろ、うくっ……」

「あんっ♥いぃ、よっ♥♥ぜんぶ、出し、あぁんッ♥」

 もっとこの時間を堪能していたい。
 そう思っていたロズであったが流石に彼も限界が近づいていた。
 普通の人間の男性なら破裂してしまいかねない量の精子、精液を睾丸と前立腺は蓄え射精の時まで保有していたのだ。ロズがそれでも我慢できていたのは他人よりも少しばかり大きな体であるのと、免罪斧に選ばれた者であるために肉体がわずかながら魔に染まりつつあったためである。
 出したい。思い切り出してカティアのナカを全て俺のもので白く染めてしまいたい。今まで堪えてきた欲望がふつふつと沸いてくると、肉体はそれに呼応するかのように射精の準備を始める。

「ナカに、ちょうだい♥あっ、んんっ!!ロズの、ぜん、ぶっ♥ほしいの♥♥」

「ハァ、ハァ……はぁ、ぁう、ぐっ……」

 陰嚢がペニスの根元にせり上がり、いよいよもって射精の時は近い。
 カティアは両足を今までで一番強くしがみつかせ、彼の精液を一滴たりとも逃すまいと奥へ奥へと押し付ける。
 膣壁の愛撫もまたロズのペニスを強烈に絞めあげ、いつでも射精可能と言わんばかりに蠕動していた。
 ロズとカティアは視界に霞がかかったようになり、もう互いの姿しか見えない。もう、射精して、それを受け入れることしか考えられない。
 ロズの腰が更に早くなる。

 ぱちゅん!ばちん!
 ばちん!!

「カ、ティ……出るっ、出すぞ!!」

「んぅ、ぅぅぁ!奥に……いちばん奥に、シて……こども、欲しいのっ♥」

「うっ、ぐっ……出る!!!!」

 びゅくっ♥
 びゅるっっ♥
 どぷっ、どぷっ♥
 びゅっ!!!♥♥

 射精。
 それは射精というにはあまりにも規格外であった。
 出口を狭められたホースのように、勢いよく射出される精液は噴火するかの如くカティアのナカにぶちまけられる。
 一瞬のうちにカティアの膣内は精液で満たされると、彼女は無意識のうちに子宮口を開き、精液を奥へ奥へと流入させた。より確実に精を吸収するために。より可能性の高い受精、着床をせんとするために魔物としての本能が彼女の身体をそうさせているのである。

「ぅあ、ぐ、お、おおおぉぉぉぉっ……止ま、止まらなっ」

 不随意的に射精され続ける精液は10秒……20秒……30秒と経過しても未だ止まる気配がなかった。その間一切勢いが衰えることはなく、堰を切った貯水槽のようにどくどくと彼女の中へと注ぎ込まれている。

「ふぁあぁぁ♥♥♥アツい!!ロズのせいえきっ、たく、さん♥きてるっ!」

 自らの胎内に自分の体温とは別の暖かいモノが流れ込むのを感じ、下腹部が満たされるのを感じる。
 頭の中すらも真っ白に染まり、半ば放心状態である彼女であるが、それでもなお両足の拘束は解きほぐそうとはしなかった。
 ロズの、愛する人の、初めての精液。これから先、彼女は幾度となくロズの精液を味わうのだろう。しかし始めての精液の味はこれが最後なのだ。最初の味であり最後の味でもあるこの精液を彼女は体全体を震え半痙攣させながら堪能していた。


 びゅ……びゅくっ…………
 びゅる……びゅゅ……
 

「ふぅっ……ふぅー……はぁ…………やっと、おさまっ、た……」

 射精の開始から2分が経過しようとしたところでようやくその勢いは終息へ向かったようである。射精時の筋肉の駆動は等間隔だったものが徐々に合間を開けるようになり、やがて最後にひときわ粘度の高い精嚢液を吐き出すと長い長い射精が終わった。
 たった一度の射精。それも自分が一年の間に出すであろう精液をゆうに超える量を出し終え、さすがのロズも疲労の色が表れているようだ。肩を上下させ、荒い呼吸を整えている。

「アァ……とまった……しゃせー、終わっちゃった、ね……ロズ♥」

 自らの胎内にたっぷりと溜まった精液により少し膨らんだ腹をさすりながら、にこりと笑う。彼女はあれだけの量を本当に一滴たりとも溢すことなく、自らの内部に受け入れ、その全てを吸収していた。美味しいから溢したくない、という気持ちはあるだろうがそれよりも彼女は、ロズが私のために出してくれた精液を無駄にしたくなかったのだ。
 100のモノを渡されたのなら99で満足してはいけない。100全てをありがたく頂戴しなければいけない、と。それが愛する者のだとすれば尚更である。

「……カティア。そんな顔も」

「そんな顔もできたのか。そう言いたいんでしょ?ふふっ♥」

 慈愛に満ちた母のような微笑みだった。
 お腹をさする彼女を見て、ロズはまたしてもペニスが膨らみ始める。睾丸が精子の製造を始める。
 このまま二回戦目に突入するのも悪くはないとは思いつつも、さすがに今この状況でもう一度セックスをし始めるのは雰囲気がよろしくないとも思っていた。

「んっ♥あ、はぁぁ……」

 カティアの膣からペニスをズルリと引き抜いたロズであったが、その穴から精液が溢れ出ることはなかった。
 愛液と精液が混ざり合った粘液を身に纏わせながら、未だに勃起し脈打つペニス。それを見た彼女はすかさずペニスに頭を飛ばし、ロズの出した精液を余すところなく舐め回す。

「ん、ぷぁ……れろ、にゅぷ、ハァ……ごちそう、さま」

「そりゃ、どういたしまして、なのか?」

 最後に亀頭の先端にチュッ、と軽いキスをする。するとペニスは徐々に力をなくし、勃起する前の状態へと戻りつつあった。
 ロズは自らの一物が収まるのを見て、カティアとの初セックスが終わったのだと認識した。
 カティアもまた頷いていたので同じ認識で正しいのだろう。

「ふぅ……どう、だった」

「ダメ、全然ダメ」

「なんだと?」

「ダメ……ダメダメ♥最高以外の言葉が出てこないんだから」
『気持ち良すぎて、幸せすぎて頭がどうにかなりそうだった。責任とってよね。とって』

「……相変わらず面倒くさい奴だなお前は」

「ねぇ、ロズ」

「あん」

「私を女にしてくれてありがとう。私を愛してくれて……」

「そういうのは感謝するもんじゃない。自慢してナンボだ。お前が愛されているということを自慢して惚気てだな、他人から憧られることこそが――」

『ロズ、好き。』

「――――ったく調子狂うな。ホラ、来い」

「ん♥」

 頭をワシワシとかき、ロズはカティアの隣に横になると、手を広げて彼女を抱きしめた。
 決してこの手を離さぬように力強く、けれど傷つけないように優しく。
 二人は共に抱きかかえられながら、暗い地下の真ん中で眠りに落ちた……





























「で、これからどうするかなんだが」

 二人が眠りに落ちてから約10時間後、現在時刻午後20:00。
 初セックスであったカティアと魔物相手初セックスであるロズは二人とも疲労がピークに達し、のんきなことに爆睡していたようだ。日は暮れ、気が付けばこんな時間になっていた。
 ロズは先ほど着ていた制服に着替えている。もっとも、二人の愛し合った場所に敷いてある上着はそのまま放置しているのだが。
 カティアの衣服は用意されていないのでとりあえず予備にあった替えの囚人服を着ているようだ。先ほど来ていたものは汗やら汁やらでドロドロになっていたので着れたものではなかった。
 二人は共に椅子に座り神妙な顔つきで話し合っている。

「このままなにもしなければお前は再び処刑されるだろう」

「もう死んでいるのにまた処刑されるのか……たとえ死なないとはいえそれは嫌だな」

「……いや、相手がアンデッドならアンデッド用の処刑もある。アンデッドなら死ぬというよりも浄化される、と言った方が良いだろうがな。聖職者なりを呼んで処理されるってのがオチだ」

「ぅぐ……」

「ここはそういう国だ。たとえ人間だろうと魔物だろうと、罪を犯したものは絶対的法において裁かれる」

 ロズは淡々と語る。彼の語ることはおおよそ間違っていないのだろう。

「平和で平穏な国ってのはいいとこなんだが、どうにも融通の利かない堅苦しさがある」

「……元義賊の私じゃ絶対に無理な国だよ」

「だろうな」

 ロズは両足を広げ、その上に両肘を載せ前のめりになって考え事をしている。
 カティアはそれを黙って見つめているだけであった。何も考えていないわけではない。ロズを信じているのだ。

「俺も、このままだと処刑されるだろうな」

「えっ……」

「死刑囚を魔物、それもアンデッドに変えたとなれば、いわば死刑執行拒否みたいなものだ。死刑執行の拒否はそれだけで大罪に値する。俺も罪人扱いは免れないだろう」

「そ、そんな、それだけは絶対に嫌だ。せっかくロズと一緒になれたというのに、そんな仕打ちはあんまりじゃないか……」

 自らの指を絡ませ、数回深呼吸するロズ。
 先ほどの嬌声響き渡る地下室とは打って変わって、重苦しい雰囲気が辺り一面を覆っている。
 だがロズはその重圧を吹き飛ばすかのように身を乗り上げると、カティアにこう告げた。

「カティア。お前はどうしたい」

「私……私は…………」

 彼女は少し考え、そして答える。

「私はロズと一緒にいれればいい。ロズが殺されるのなら私も一緒に殺される。ロズが生きるのなら私も一緒に生きる。最期の時までロズと一緒にいられればそれでいい」

「……全部ロズに委ねるようでごめん。でも、私はそうありたいんだ」

 彼女の瞳はまっすぐと、凛として、揺るぎない決意を秘めていた。
 確かにロズに委ねているのは否定できない。しかし殺されるのなら共に殺されようと言えるその精神は並々ならぬものであり、軽はずみに言えるものではないのは明らかである。
 それもひとえに、彼女はロズを信じ、愛しているからだった。彼女にとってロズはかけがえのない特別な存在なのだから。

「そうか。それじゃ……」

 カティアの決意を聞いて、ロズもまた決意を固める。
 彼と彼女の人生を決める一世一代の大博打に賭けることにしたのだ。

「逃げるぞ」

「えっ……あ、ちょ、ええ!?」
 
 ロズはカティアの腕を掴むと、彼女に取り付けられていた全ての拘束具を取り外した。
 ゴトリ、ゴトリと落ちる鎖、錠。
 久々の四肢の自由を取り戻したカティアであったが、それを堪能する間もなくロズに腕を引っ張られながら彼の後ろをついて行く。
 ロズは死刑執行室の扉を開けると、幾度となく通った地下路を速足で歩き進める。
 錆水とネズミの糞尿が散乱した不衛生な場所。ここを通るのがこれで最後になるか、はたまたもう一度通る羽目になるかは彼らの今後の運命によって左右されるのだ。

「ちょ、ロズっ!逃げるって、どういうこと?」

「どうもこうも、そのままだ。このままおとなしくしてたら俺とお前は間違いなく処刑される。そんなの願い下げだ。俺はまだ死にたくない。お前と一緒に、生きていたい」

「そ、それは嬉しいけれども、アテは?どこにいくかアテはあるの?」

「元々俺は家族殺しの天涯孤独だ。そんなものあるわけないだろ。ましてやお前だって、あるのか?」

「……ない。隠れ家はいくつかあるけど、そこだって簡単にアシがつく」

 にい、とロズは口角を上げ、不敵に笑う。
 珍しくロズが悪だくみしている顔だ。今の今まで真面目で几帳面だったロズでは見ることのできなかった顔だ。
 今このような極限状態に陥りながらも笑えるのは、憑き物が晴れたかのような清々しさがあるためであった。

「アテもない逃避行だ。いいや、脱獄だ。捕まったら終わり、逃げきれたら俺らの勝ち。そういうのは得意だろう?カティア」

「ま、まあな。今までもそういう場面に何度もあってきたし……」

「決まりだな。幸いなことに今は夜、大雨も降っている。逃げるにはうってつけの時間だ」

「……ふふっ、なんだかロズ、いきいきしてる。そんなロズ初めて見た」

「悪いか」

「いいや。むしろそういうロズの方が私は好きだ」

「俺もロズがそんな顔するなんて知らなかったぜ」

「おいおい随分とまぁ好き勝手言ってくれ――――――



 突然歩みを止めるロズ、それに少し遅れてカティアも遅れて足を止めた。
 ロズはカティアの眼前に立ち片手を横に伸ばしこれ以上前へ行かせないよう静止する。
 それは何故か?

 ……目の前にいるからだ。
 最初の関門にして最後の関門である者がそこに立ち尽くしているからだ。
 地下通路の物陰からぬらりと影のように現れたその者は、両腕を組み、煙草をふかし、陰鬱な気を纏わせている。
 できるならば出会いたくなかった。穏便に過ごすならこいつに出会わない事こそが一番の近道だったのに。

「……やはりそう上手くはいかないか」

 そう呟き、ロズはカティアを後ろへ追いやり、その者と対峙する。
 今まで幾度となく顔を合わせてきた。どれほど言葉を交わしてきただろうか。悪態をついただろうか。
 
 その者は煙草をひときわ大きく吸うと、煙を大量に吐き出す。まだ吸える部分を残しているのに煙草を足で踏みつぶすと、彼は口を開いた。





「お前に問う。ロズ執行官、そこで何をしている?」




 同僚が、そこにいた。
17/02/28 14:18更新 / ゆず胡椒
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33