連載小説
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ある女子高生の場合
■徳田さん(仮名) 女性 17歳 職業:高校生
 ・初診

『それでは次の患者さんどうぞ』

「し、しつれいします」

『はい、それではおかけになってください』

『今日はどういったお悩みでご受診されました?』

「あ、あの……わざわざこんなクリニックに来てまで言うことじゃないとは思うんですが……」

『ここはメンタルのクリニックです。何でも相談してくださって結構ですよ』

「……じ、実は私、クラスに好きな人がいるんです」

『ええ知ってますよ』

「エッ……ま、まだなにも」

『目を見ればわかります。貴女はクラスに好きな人がいる、けれどその人はクラス中の人気者で私なんかが相手になんてされるわけない、うだうだしている間にあの人がとられちゃう、そんなのはいやだ……だいたいこんなところでしょうか?徳田さん』

「すごい……やっぱり噂は本当だったんだ」

『噂?』

「あ、はい。最近ここら近辺で話題になっているんですよ。腕のいい精神科医のいるクリニックがある、って」

『フフ、それは光栄ですね。医療従事者として、経営者として冥利に尽きるというものです』

「あ、すみませんつい……」

『いえいえいいんです。こうやって患者さんとコミュニケーションをとるのも大事な治療の一環ですからね。
それでは話を戻しましょう。徳田さん、貴女はその人のことが本当に好きなのですね?』

「はい……相談できる相手もいなくてずっと一人で悩んでたんです。付き合えることなら付き合いたい、けれどもしフラれたとしたらきっと立ち直れないのはわかりきってますし、そもそも告白する勇気もないですし……」

『徳田さん。一旦その不安はすべて忘れてしまいましょう』

「ええ……忘れちゃっていいんですか?」

『そう。忘れて一度空っぽになってしまえばいいのです。そしてまっさらな自分を見つめて自問自答して見ましょう』

「…………」

『貴女はなぜその人のことを好きになったのですか?』

「半年前……図書館で探しものをしていたら偶然ぶつかって……ええと、落とした本を拾ってくれたときの姿が妙にカッコよく見えて……」

『一目惚れということですか』

「それともちょっと違くて……なんといいますか、私は昔からボサボサ髪の瓶底メガネで根暗な女子で通ってきたのでですね、えーと、うぅんと」

『生きる世界が違う一種の憧れのようなもの、違いますか?』

「……!そう、そうです。まるで私と真逆の世界で生きてきたようなあの人がとても素敵に見えたんです。でも……」

『でも?』

「怖いんです、私」

「私と違いすぎる彼が憧れであると同時に怖くもあるんです。本当に私なんかが、私風情が話しかけていいものなのか、そう考えると不安で不安でたまらなくって……」

『徳田さん』

「は、はいっ」

『”私なんか”だなんて言っちゃいけませんよ。貴女だってちゃあんとした一人の女性なのですから。自らを卑屈する必要なんてありません』

「で、でも私……」

『徳田さんのお話し、そして話し方と仕草を見聞きしてわかりました。貴女には少し自信が足りなさすぎます』

「自信、ですか」

『ええ。徳田さん、貴女は物事を考えるにあたってまず否定から始まりませんか?○○はできない、私なんかじゃ無理、どうせ○○なんだから……こういう具合に』

「そう言われれば、そう……なのかもしれません」

『彼に告白して成功させるにはまず自分の欠点をよく知り改善していかなければなりません。考えてみてください。例えば徳田さんがとある男性二人に告白されたとして片方が自分に自信があって元気たっぷりの男性、もう一方は自信がなく根暗気味の男性。貴女ならどちらを選びますか?』

「そ、それはもちろん元気のある男性を選びますが……でも私なんかだったら根暗の男性の方があってるんじゃないかって思い…………はっ」

『そう、そこなのです。普通は元気があって頼りになる男性を選ぶはずです。元気があるということは生物学的にも子孫を残せる可能性が高く、女性の本能としてそちらを選ぶ傾向が多いですからね。しかし徳田さんはそれすらも自信がない、自分なんかが……そう思って逆の方を選んでしまった。もう、わかりますね』

「……私は自分で思っていた以上に……ネガティブ思考だったようです」

『まずはその性格を治さなければなりません。たとえ今のまま告白が成功したとしても彼の方が耐えきれなくなって別れを切り出さる可能性も否定できませんから』

「そう、ですね。ですが性格を治すだなんてできるのでしょうか」

『お任せください。当院スタッフはすべてその道のプロです。自信をもって徳田さんを完璧にエスコートして改善させてあげますよ』

「……!!先生っ、私頑張ってみようと思います。頑張って少しはまともな性格になって、ダメモトでもいいから彼に告白してみたいです!」

『よくいえましたね。おめでとうございます、貴女は生まれ変われることが確定しました。あとは我々にすべてお任せください』

「ありがとうございますっ……それでいったい何をすれば……?」

『いえ、今日はまず初診ということで問診と、あと処方箋だけにしておきましょう』

「処方箋……お薬ですか?」

『ハイ、当院特性の漢方になります。精神安定から滋養強壮まで、こちらで患者さん一人一人に適した薬剤を処方いたしますのでご安心ください』

「わかりました」

『徳田さんには特別にホルモンバランスを調節する特別なサプリメントも処方いたします。いざ彼氏ができたとき、実戦のときに魅力的なカラダになっていたいでしょう』

「実戦?………………!!!!えっ、それ、て、エッ!?」

『ふふ♪さて、それでは今日の問診は終わりです。次はまた来週、同じ時間に来てください』

「え、あ、ハイっ、よよよよろしくおねがいします」

『一緒に治していきましょう。では後は看護師さんの指示に従ってください。お疲れさまでした』





 ―1週間後―
 ・2診目

『それでは次の患者さんどうぞ』

「お、お久しぶりです先生」

『お待ちしておりましたよ徳田さん。あれから調子はどうですか?』

「先週先生に言われたことを思い返しつつ一週間送ってきたんですけど……なんだか少し気が楽になったような気がします」

『それはなによりです。着実に良くなりつつある兆候ですよ』

「しかも先生聞いてください。その影響かどうかわからないですが、最近身体の調子もいいんです」

『精神と肉体は一見なんの接点もなさそうに見受けられますが、実は密接にリンクしています。しがたって身体の調子が良くなるのも当然の結果なんですよ。精神が安定すれば肉体もまた健康になるのは自然の摂理です』

「そうなんですか!ずうっと悩まされてきたニキビもぱったり消えちゃいますし、癖っ毛でゴワゴワしてた髪の毛もすべすべするようになってたのでビックリしちゃいましたが……そういうことだったんですね」

『後はそうですね、サプリメントの効果も出ているのではないでしょうか。ホルモンバランスを調節し体をより魔りょ……魅力的にさせる効果が含まれておりますので』

「な、なるほど……け、けど先生」

『はい、なんでしょう』

「こんな素敵サプリメントまで貰っちゃって、先生の診察も受けてしまって、それでこの値段でいいんでしょうか……?あまりにも安すぎて逆に不安になっちゃいます」

『徳田さんはまだ学生ですよね?でしたら金銭の面で不安を感じてはいけませんよ。それに値段についても問題ありません。保険適用された正式な処方ですので』

「そ、そうですか、ならいいんですけど……」

『やはりまだささいな物事に対する不安癖は抜けきっていないようですね』

「ぅ……すみません」

『謝ることはありません。時間をかけてゆっくり治していけばいいのですから』

『ふむ……では特別に軽いマッサージをしてあげましょう』

「マッサージ、ですか?」

『はい。徳田さん、少しの間目を瞑っていただけますか』

「え、あの、もしかして痛みある系だったり……?」

『いえいえ無痛ですよ。ただ少し耳に器具を装着させてもらいます』

「うぇ……なんだかぬめぬめしてる……」

『それでは始めます』

「え、ちょ、なにをするかぐらい教え」


 ずるんっ




「あぇっ―」







「ん、ううん……」

『お目覚めになりましたか徳田さん』

「ん……おはようござ…………ええええっ!?い、いま何時ですっ?」

『16時35分ですね』

「確か私が来院したときはまだ午前中だったような気が」

『マッサージを終えた徳田さんはふと横になるとそのまま寝てしまったのですよ。あまりにも気持ちよさそうな寝顔でしたので起こすのも失礼かと思いまして。他の用事もないようでしたのでそのまま快眠させるようにしておきました』

「は、はぁ……ん?あれ、用事がないなんていつ言いましたっけ」

『来院されたときにおっしゃりましたよ』

「あっ、そうで…………そうでしたっけ?まぁ、いっか」

「というかなんだろう、頭がすごいスッキリします」

『マッサージの効果ですね。悩みを少しでも和らげるために特殊なマッサージを処置しましたので、早速効果が表れているのでしょう。ストレス物質を除去して快感に変換するように組み替えました』

「すごい……頭のモヤモヤが晴れたみたいです!きもちいい!今なら何でもできそうな気がします」

『フフ♪そのいきですよ徳田さん。着実にアナタらしさが芽生え始めているようです』

『それでは本日の診察はここまでとさせていただきますね。お薬は3週間分処方しますので、3週間後また来院してください』

「わかりました」

『想い人の彼とうまくいくといいですね』

「はいっ!」




 ―さらに1週間後―
 ・3診目

『それでは次の患者さんどうぞ』

「し、しつれいしま〜す……」

『おや徳田さん?まだ三週間経っていないハズですが』

「それが〜その…………」

「すみません先生ッ!」

『おやおや一体どうしたのでしょう。まずは顔をお上げください』

「うう……ごめんなさい先生、わたし」

『ささ、椅子に座って、落ち着いて深呼吸して。それからゆっくりお話しください』

「すぅー、はー……先生、実は、とても言いにくいんですが……」

『はい。大丈夫ですよ、先生に話してください』

「……実は先週もらったお薬のことについてなんですが、その」

『その?』

「なんだか薬を飲むたびにどんどん変わっていく自分が怖くなって、でも、それよりも楽しくなってきちゃって、その……」

「もう、全部飲んじゃいました……3週間分全部」

『なるほどそういうことですか。徳田さん』

「は、はぃ……」

『いいですか。お薬というのは人間の体に最適に合うよう調合されているものですので、それ以上もそれ以下も服用するのは好ましくないのです。一日2錠と決められているものを、さらなる効果を望むために数を増やすなんてことは、自分から副作用のリスクを高めているだけなんですよ』

「おっしゃる通りです……」

『今回、たまたま副作用の強くない薬を処方していましたから大きな支障をきたすことはありませんでしたが、毎回毎回必ずしもそういう薬が続くということもありませんので』

「…………」

『けれどね徳田さん。先生は安心しましたよ』

「あん、しん……何をですか?」

『先生は今までこういったケースを何回も何十回も体験しています。けれど、患者さん自ら今の徳田さんのように自己申告しに来たケースは指で数えるほどしかありませんから。先生は嬉しいです』

「せんせい……」

『それに、さっき徳田さんは言いましたよね。自分が変わっていくのが怖い、けれどそれ以上に楽しみだ、と。それは紛れもなく徳田さん自身が変わろうと脳髄の奥底から望んでいることに違いありません。はっきりと、着実に、目に見えるカタチで変化し始めているのですよ』

「私が、変わる……ほんとうに……?」

『ええ、本当です。幸か不幸か徳田さんがお薬を短期間に大量摂取した効果で変化の速度が加速度的に増しているようですね。念のために血液検査をしてみましょうか』

「血液検査……あっ、もしかして注射とか」

『高校生なんですからそれぐらいは我慢できますよね?』

「ガ、ガンバリマス」



 ―30分後―



『検査の結果が出ましたよ』

「どうでしょうか先生」

『Glu 90mg/dl
 Hb 10.5g/dl
 AST…… 
 ALT…… なるほど』

「ゴクリ……」

『若干Hb値が低いようですがそれ以外は以上ありませんね。最近生理がありましたか?』

「あ、はい。つい先日に」

『でしたら大丈夫ですね。続いて当院のみが検査を行っております特殊検査になりますが……ふむ』

『徳田さん、このMETaという検査項目なんですが数値をご覧ください』

「ええと、45%と書いてますが一体どんな検査項目なんでしょうか」

『これは徳田さん自身の変化に対する割合です。徳田さんがより理想とする自分像に近づけば近づくほど上昇していく値です』

「は、はぁ……」

『健常者基準値は5%以下となっており、基本的に性格の変わる必要性のない人は生涯5%以下にとどまります。しかし当院の特殊メンタルケアを受けた患者さんはMETa値が上昇する事例が姜著に現れますのでその影響でしょう』

「なるほど、わかりました。ということは私はむしろ正常値に戻すのではなく、もっと上昇させていけばいいということですか?」

『そのとおりです。最高値の100%になった瞬間、徳田さんはこの上ない多幸感に包まれながら変わることでしょう。恐らく80%を超えた辺りから自らの変化を自覚すると思います』

「正常値が5%以下で、今の私は45%……目指すは100%……わかりました先生」

『99%から100%になるには第三者の協力が必要になるのですがそれは時期が近くなりましたら徳田さん自身、誰に教えられることもなく理解しているはずです』

「……なんだかスゴイですね、最近の医療って。METa値……こんな検査項目全然知らなかったです」

『当院並びに当院の同系列医療機関でしか測定していない検査項目ですのでご存じないのが普通ですよ。逆にご存じでしたらこちらが驚いていたところです』

「いやぁでも、医療ってやっぱり素晴らしいなぁ、って思いました。検査データもそうですけど、こうやって患者さんと対応するのも立派な医療ですし」

『ふふ♪医療に興味を持っていただけたのなら医療従事者としてとても嬉しいですね』

「まだ進路のことなんて全然考えてなかったんですけど、これを機会にちょっと考えてみようかなーって思いました」

『学生は恋愛と学業と悩むのが仕事です。今しかできないことを後悔の無いように頑張ってくださいね』

「ハイ!今日はありがとうございました先生。また次来院した時もよろしくお願いします」

『こちらこそ、今度は良い報告を聞けるのを楽しみにお待ちしておりますよ。それでは、お薬の量を少し増やしますので今度こそ3週間後に来院してください』

「エッ、量増えたままで大丈夫なのですか……?」

『一気に量を増やしてしまったせいかい耐性ができたようで、今までの量では効果が薄れてしまいますから。今までは一日3錠だったものを9錠に増やしましたのでこれで徳田さんの焦燥感も和らぐことでしょう』

「なにからなにまですみません。今後は気をつけます」

『悪気があるという自覚があればそれで充分ですよ。それでは診察を終わります』

「ありがとうございました!」



―3週間後―
・4診目


『それでは次の患者さんどうぞ』

「失礼しまぁす」

『徳田さんお久しぶりですね』

「先生こそお久しぶりです」

『一目見ただけで前回とは見違える変化です。いい調子ですよ』

「えへ、ありがとうございます。ワタシ頑張っちゃいました」

『それではおかけになってください』

「んしょ……先生、早く注射してMETa値調べてください!今ワタシがどれくらい変わっているのか知りたいんです」

『焦る気持ちはわかりますが落ち着いてください。時間はたっぷりありますから。まずは最近の学校生活での近況を教えてくださいますか?』

「学校生活ですかぁ?え、へへ、あれからワタシもぅっと自信がついちゃいましてネ。周りの友達もみんな口を揃えて言うんですよ”オマエ変わったよな”とか”徳田さん、オトコでもできた?”って」

『実に素晴らしいですね。徳田さんはそう言われてどう思いましたか』

「もう嬉しくって楽しくって!今までの根暗で読書ばっかりしてたワタシが嘘みたいに変わって自分自身で一番驚いているんです。視力も良くなって瓶底メガネも付けずに済むようになりましたし、シミソバカスはかんっぜんに消えて化粧水する必要もないほどすべすべべたべたの肌になりましたし!」

『ふむ、ふむふむ……べたべたの肌、なるほど。少し触らせてもらってよろしいですか』

「先生ならいくらでも構わないですよ」

『では失礼します』

「ど、どうでしょうか?最近やたら代謝が良くなったのか常に汗が出るようになっちゃったんですよね。しっとりというかべったりというか……ぬめぬめっていうか」

『なるほどわかりました。例の片想い中の男性とはそれからどうでしょうか?』

「佐竹クンのことですね♪聞いてください先生!」

『その反応ぶり、どうやら話したくてしょうがなかったみたいですね』

「えへえへ、この前図書館で佐竹クンをさりげなーく待っててですね、彼は毎週水曜日の午後4時に必ず本を返却しに来るんです。だからワタシはいつものように本を読みながら、下半身を濡らしつつ待っててですね、そして彼が来て、本を返却して次に借りる本を探している最中にさりげなーく、さりげなーくですよ?入口のドアを閉めてカギかけちゃいまして、二人きりになっちゃいまして……♪」

『続けてください』

「二人きりになっちゃったところで勇気を振り絞って聞いてみたんです。”佐竹クンはどんなジャンルの本が好きなんですか”って。そしたら佐竹クンはいきなり話しかけられてビックリしちゃったのかちょっと飛び退いてですね、でも私だとわかった瞬間、警戒が緩んだ気がしたんですよ」

『徳田さんだからこそ警戒を解いた、そういうことでよろしいですか?』

「そうですそうに違いありません。だって佐竹クン言ったんですもん”いやぁ実を言うと好きなジャンルなんてあまりなくて。夕方の図書館の雰囲気が好きなだけなんだ”って。私の目を見ながら」

「そこから先はどのくらい時間がたったのかもわかりませんでした。一瞬なのか、数分なのか、はたまた数時間なのか。互いに目を目を見つめあって、耳に聞こえるのは自分の鼓動がバクバク動いている音だけで……徐々に視界に映る佐竹クンの顔の面積が増していって……」

「ワタシからなのか佐竹クンからなのかわかりません。気が付けばお互い唇が合わさってて……あーっあーっ!思い出すだけで熱いです!!うぇひひ……」

『いいですね、実に青春しています。そのキスの状態をお話しできますか?』

「うぇっ!?そ、そこまで……」

『カウンセリングですから。それほど強烈な出来事を忘れただなんてことはありませんよね。いえ、忘れるはずがありません。脳は強烈な記憶を忘れてしまわないように自動的に長期記憶に保存する機能がありますから、徳田さんの脳が正常であるならば覚えていないわけがないのです。さあお話しください』

「はっ、ハズカシイ……これもカウンセリングに大切なものなんですか」

『勿論です。喋れますか?』

「え、ええと、ワタシから……だったような、佐竹クンから……だったかは覚えてないんですが気が付けば唇が合わさっ」

『覚えてないわけがありませんよね?』

「うぐっ……ワタシから、だったような……」

『…………』

「はじめは唇と唇が軽く、合わさる程度のキスで」

『…………』

「え、ええとバードキスって言うんでしたっけあれ、そう、それです。バードキスを何度か繰り替えているうちにどんどん熱くなってきて』

『…………まだ恥じらいが残っているようですね』

「うぅ、すみません」

『……ふぅ、どうやら聞くよりも直接視た方が早いようですね。徳田さん、少し目をつぶってくださいますか』

「えっ、視る?それってどういう」

『いずれわかります。さあ目を……』

「え、せんせ、なにを――」

 


 ぐちゅ
 ぬるぅっ




「ア、がっ……エッ!?な、なにこれ……!」

『大丈夫、痛くはありませんよ。先生に見せてください、佐竹クンと何をしたのか、そのとき徳田さんは何を思ったのか』

「み、耳ィ……?みみ、おかし、い……あっ♪♪」


 ぐじゅぎゅじゅぎゅうぐじゅ


『ふむ、ふむふむ、視えてきましたよ。徳田さん、あの日の放課後が思い出せますか?』

「エ、う、ぐぐ……きすをして、お互い熱くなって……ハズカしくなって」

『そうですね、お互い顔を真っ赤にして、徳田さんは汗だくになってしまって。ああ、肌がぬるぬるしていますね。恐らく脂汗ではなく粘液でしょう』

「ねん、えき……?なんで、皮膚から……あ、んんっ♪♪アタマ、あ゛ぁッ!」

 ゴリゴリゴリッ
 ぐちゅ、ぐちゅ、ちく……

『そうして……オヤ?ちょっと待ってください。徳田さん、本当にキスをしたのですか?互いに見つめあって、しばらくしたらお互い視線を離してしまいました。んん、徳田さんが顔を真っ赤にしながら走り去ってしまったようですね。これはいったい?』

「そ、うです。恥ずかしくなっちゃって、て……逃げちゃいまし、た」

『……徳田さん、嘘はいけませんよ嘘は。貴女は変わりたいのではありませんでしたか?愛しの殿方を目の前にして逃避なんてことをしたら今までの貴方と何も変わらないじゃありませんか』

「それはそう、ですけど……恥ずかしものは恥ずかし、です……」

『これはいけません、いけませんね。先生が少し施術してあげましょう』

「せ、じゅつ?せんせい、なにを、するつもり」


 ギュイイイイン!
 ゾリゾリゾリッ

「あ、が、ア゛ア゛うぅゥ!!!こ、コワレ、る!せん、せ、やめっんんん゛ん゛ん゛!!!!

『貴女はキスをして、熱くなる、熱くなる。身体も、心も、胃袋も、子宮も熱くなる。彼の子種汁が欲しくてほしくてタマラナクなってしまった。そうでしょう?逃げたなんて記憶は嘘っぱちです。そんな偽りの記憶は忘れてしまいなさい』


 ぐちゅぐちゅぐちゅ!! 
 

「やめッ!ア゛ぁーッ!!あ、うぐ……逃げた、嘘……ホント……んうああぁ!」

『貴女は欲しくなって、彼にベルトに手を掛ける……カチャ、カチャ、金具を外して、見えてきたのは三角テントを張った彼のパンツ。テントの先端は我慢汁で湿ってて、徳田さんはゴクリと唾を呑む……なんて美味しそうなチンポだ、むせ返るような汗臭い雄のチンポだ。この先端から私を白く汚してくれる子種汁が発射されると想像するだけでイってしまいそうなほど逞しい肉の棒だろうか。食べたい食べたい食べたい飲みたい飲みたい!そう貴女は思った、そして実行した。違いますか?』

「ちが、そんなことして、なっ」


 ぐじゅっ!
 ずるずるずるずるっ!!


「んはああっっ!!もう、ヤメ、ワタシはそんな、コト……」

『そんなことしました。思い出してごらんなさい。徳田さん自身の記憶は徳田さんが一番理解していることでしょうから』

「そんなコト…………あれ、ワタシ……」

『逃げましたか?徳田さんは愛しの殿方を目の前にして逃げるような女性でしたか?』

「逃げ、いや、違う、のかな……?ワタシは佐竹クンのが欲しくなって……?あれ、そうだっけ……」

『目の前に剛直したペニスを徳田さんは咥えました。そうでしょう?』

「そう、だったような、気がするような……」

『そしてネットで下調べした知識を総動員して、男性のペニスでどこを刺激すれば一番快感を感じてもらうことができるか、貴女は一心不乱に愛撫しました。その度に彼の苦悶する表情にとても優越感を感じて、愛情を感じて、嬉しくなって、貴女はもっと刺激するのです。したのです。そうすれば子種汁が貰えると知っているのだから』



 
 ――ぷちっ




「…………」

「そう……かも、いや、そう、だ……ワタシは」

『貴女は』

「ワタシは」

「『彼の、佐竹クンのチンポをしゃぶって、舐め回して、吸い尽くして、しごきまくって、彼を、佐竹クンを気持ちよくさせたかったんだ。です。彼の、佐竹クンの気持ちよく苦しむ顔を見るたびにワタシの、貴女の嗜虐心がムラムラ燃えてきて、亀頭からタマタマからお尻の穴まで全部気持ちよくさせて、射精させたかった。だからさせた。ギュウギュウにチンポを絞って、弄って、嬲って、玩んで、ドロドロに溶かしつくしてあげると、彼は、佐竹クンはあっけなく決壊しちゃったんだ。私は、貴女はこれを一滴たりとも無駄にしてなるものかと思って、彼のチンポを咽頭の奥まで突っ込んだんだ。です。ダイレクトに体内にそそがれる子種汁の美味しさって言ったら、なかった。目の前がバチバチして、空を飛んでしまうみたいに全部はじけ飛んだ。そこから先は、勢いに乗ってセックスに移行したかったんだけど、確か警備員のオジサンが徘徊してきたものだから急いで二人とも帰ったんだった。そうだ、そうだ。ワタシは、貴女は恥ずかしくなって逃げたんじゃなくて、彼の、佐竹クンをフェラしてごっくんしたんだった。どうして忘れていたんだろうか。でしょうか。あんなにも気持ちよかったものを!なぜ!!』」








「あっ」








『施術成功、ですね』


 ずるずるずるる……
 ぬぽんっ


「せんせい、ワタシどうして忘れていたんでしょうか。どうして恥ずかしくて逃げただなんて思っていたんでしょうか」

『急激な情報多寡により脳の記憶をつかさどる部位、海馬の一部が機能していなかったようです。先生の施術によりちゃんとした機能に戻しましたのでもうご安心ください』

『高校生というただでさえ多感な時期に、愛しの殿方の子種汁を飲むという一大イベントをこなしてしまったわけですから致し方ありませんね』

「そうだったんですか。先生、ありがとうございます。おかげで全部わかっちゃいましたワタシ」

『それはなによりです♪徳田さんはどうなりたいのですか』

「ワタシは佐竹クンと一緒に溺れてゆきたいです。深く深く、誰の目にも留まることのないふかぁい場所でつながっていたい……」

『でもそれでは人間のカラダでは実現することはできない、違いますか?』

「そう、です。っせんせい、ワタシはどうすればいいのでしょうか。せっかく性格が変わって新しい人生を歩んでいけると思ったのに、このままじゃ……」

『いいえ、徳田さん。なにも心配する必要はありませんよ。METa値が100%になれば全てが理解できますから。徳田さんが何をしたいのかだけじゃありません、この世界の真実を、宇宙の理を、多元世界の大いなる神の存在さえも、トラペゾヘドロンの意志のままに銀の鍵をもって開くことが可能になることでしょう』

「嗚呼、なんて素敵なんでしょうか。ワタシ、先生に会えて良かったです。先生に出会わなかったら愛の真意を知らないまま人生を終えてしまうところでした」

『悩める者あれば救いの手を差し伸べる。それが精神医学です。二十歳になる前に愛の真意を知ることができるなんて、徳田さんはとても運がいいのですよ』

「やっぱり精神医学ってスゴイですね!先生、ワタシ決めました。先生のもとでもっとたくさん学びたいです!ここで働かせてください!」

『あら、あらまあまあ。徳田さん、若気の至りで勢いに乗るのも悪くありませんが、もう一度よく考えてからにしましょうね。それでも考えが変わらなかったら、先生やスタッフ一同歓迎いたしますよ』

「……わかりました。でもワタシ本気ですから。いつか先生みたいになっていろんな人の悩みを解決してあげたいです」

『オヤ、彼、佐竹サンと一緒に深いところで繋がっていたいんじゃなかったのですか?』

「アッ……えへへ、やっぱりもうちょっと考えてみます……」

『時間はたっぷりありますから、よくよく考えて決断してくださいね』

「はいっ!あ、それで先生、一応METa値を測定してほしいんですけど、大丈夫ですか」

『それなら先ほど施術中に測定しましたのでもう結果が出ておりますよ。今日のMETa値は85%ですね。いい調子です』

「やった!あと15%だ!!……ケド思ったよりも自覚ないなぁ」

『皮膚がぬるぬるするのも、彼を愛してやまないのも数値が上昇している証です。何も問題ありませんよ』

「なるほど……わかりました!次はいつ来院すればいいですか」

『明日からは毎日来院してきてください』

「まっ、毎日ですか?」

『はい。これからは毎日軽いお話とMETa値の測定だけにしましょう。お薬ももう終了です』

「あのお薬もう飲めなくなっちゃうんですか……」

『恐らく数日は酷く渇望するかと思われますが、そこを耐えて初めて幸福が訪れるのです。辛抱の時ですよ。我慢して我慢して、最後の最後の得られる彼のエキスを味わってみたいと思いませんか?』

「ぅ……ゴクリ……」

『そういうことです。あともうひと踏ん張り、頑張りましょう』

『お話と測定だけですので、学校帰りにでも軽く寄っていただけるだけで結構です』

「いえ、もう学校行きません。先生の後ろで勝手に医療を学んでますから!大丈夫です!!」

『あら、まあ徳田さん、気が早いのですね。まぁバイトという形ならばいいでしょう。それではMETa値を100%にするスケジュールもこちらで組んでおきます』

「お願いします」

『……もってあと2週間ほどで徳田さんは変われるでしょう』

「楽しみです!」









―13日後―


『徳田さん、いよいよ明日ですよ』

「はい先生♪もう準備は万端です」

『いい返事です。もはや初診のころの徳田さんとは完全に別人のようですね。いい結果です』

「先生、今日のMETa値はいくつでしたか?」

『今日は……97%ですね。ほぼ限りなく変化直前ですよ。おめでとうございます』

「先生の診察のおかげです。本当にありがとうございました。すごいです……今、キモチはとっても落ち着いているのに、明日が待ちきれなくて心臓がドクドク脈打ってます。身体がとっても熱いです」

『身も心も、限りなく最高のコンディションです。もう恐れるものは何もありません。あとは徳田さんが己のしたいことをなすがままに行えば万事うまく進むでしょう』

「あはっ、あはは、先生、ワタシもう明日が楽しみで愉しみで待ちきれないです。どんなことをしてあげようか、どんなことで気持ちよくなろうか、考えるだけでアソコがキュンキュンしてきます♪たっくさん愛して、愛しあって、ドロドロに混ざり合って一つになりたいです」

『徳田さんならできますよ。そのために今まで頑張ってきたのですから。その髪の毛は相手の真意を捕食するためにあります。その粘液は相手の素肌に己の愛を染み込ませるためにあります。その瞳は全てを覗きこむためにあります。でも、徳田さんのそれはまだすべて不十分』

「はい、それはワタシ自信が一番理解しています。きっと100%にならないと、ちゃんとしたチカラを使えない、そうですよね」

『そこまでわかっているならばもう先生から教えることは何もありません。今日は明日に控えて早めにお休みになるといいでしょう。恐らく今日が、徳田さん1人で寝る”最後の夜”になるでしょうから』

「これからはずうっと2人で……いや3人、4人、もっともっと増えていくんですよね。たくさん増やしたいです」

『いい笑顔ですね。先生は貴女のような患者さんを診察できて幸せです。ありがとうございました』

「そ、そんな先生、頭を下げないでくださいっ」

『ふふ、それではまた明日』
16/06/21 07:26更新 / ゆず胡椒
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