読切小説
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ティターニア


〜〜〜〜〜〜

ある妖精の国に一人の戦士が迷い込みました
その戦士は元々教団の戦士で、魔界化した国を滅ぼすために派遣されていた戦士の一人でした

今日も教団の遠征の為、別の魔界に向かっている所でした

そんな中、仲間とはぐれてしまい、道をさ迷っていました
幾たびもさ迷い、ひらけた場所に出た時、彼は今自分が居る場所が分かりました
そこは、幸せが溢れているという妖精の国
そんな妖精の国をみて、彼は心を奪われました

見渡す限り優しく、笑みが耐えないその国は、彼が欲していた理想郷でした

それでも、ここは魔界と同じ空気がします
ここが魔界と変わらないなら、ここも…
彼は任務をこなす為に歩を進めました

そんな風に歩を進めていると、前から声がします

子ども達の明るい、楽しそうな声
そして、その声と一緒に聞こえてくる優しい女性の声

その声がこちらに近付いてきていました

「あら?人間さん?」

やさしい女性の声の正体は、ティターニア

妖精の国の女王です

「人間さんこんにちは」

ニコニコしながら、戦士に挨拶をするティターニア
つられて近くにいたフェアリーやピクシーも挨拶をしてきます

ですが、戦士は挨拶を返しません
いや、返せないが正しいのでしょう

そのティターニアの美しさに目を奪われながら、この国を滅ぼすのが正しいのか考えていました

「?…こんにちはー!」

ティターニアはそんな彼の状況など考慮せず、もう一度挨拶をします

「あ、あぁ…すまない」

「クスッ…人間さん、それは謝る時に使う挨拶だよ?」

華の様に笑う―――そんな言葉が似合いそうな柔らかい笑み
そんな笑みを浮かべながらティターニアは彼に言います

「そう、だな…こんにちは」

「はい、こんにちは」

片方は居心地が悪そうに、片方はニコニコと
そんな出会いが、この物語の始まりだったのです

・・・

「人間さん人間さん、お腹空いてない?」

「いや…大丈夫だ」

ティターニアに連れられ、女王の間まで連れてこられた戦士
ですが、彼はここに来るまでに様々なモノを見てきました

それは淫らに遊ぶ妖精と人間―――

それは、淫魔に唆された人間の末路と教えられている戦士にとって、浄化と言う名の虐殺をしなければならない対象でした

しかし、その表情のなんと幸せそうな事か

彼の故郷では、皆が暗く、俯いているような状態です
―――なぜ、この国では皆が明るく幸せそうなのか、彼は不思議でした

「人間さん人間さん!貴方は何をしたい?」

ティターニアは彼にそう聞きながら大好きなお菓子を頬張ります
その姿をみて、彼は益々混乱しました

―――女王と言うからには、もっと堂々として、威厳を見せびらかすのではないのか?

少なくとも、お菓子を頬張り、幸せそうにしている彼女からはそんな威厳は感じ取れません

「ん?食べたい?」

「いや、良い…すまない」

その言葉を聴いて、なぜかティターニアは頬を膨らませ始めました
そして、彼女は言います

「なんで謝ってばっかりなの!?人間さん悪い事してないでしょ!」

「あ、いや…すまない」

「むぅー!そのすまない禁止!」

そう、ここに来るまでに実は何回も彼は「すまない」と言っていたのですが、ティターニアには「何も悪い事をしていないのに謝っている」様に見えてしまったのです
何も悪い事をしていないのに謝る、そんな事が彼女にとっては嫌な事でした

「人間さんは何も悪い事してないんだよ?だからしたいことを一緒にしよう?ね?」

そう言いながら彼の手を取るティターニア

―――そのあたたかさは、彼が昔親から貰った愛情のそれと変わりませんでした

だからこそ、彼は…

「…すまない、俺には…そんな資格はない」

俯きながら、そう答えたのです

・・・

彼の故郷は大変貧しく、お金を稼ぐには戦士になるか身体を売るか、それしかありませんでした
彼もそうやって戦士になりお金を稼ぎ、両親に楽をさせてやりたいと思っていました


しかし、その稼ぎ方をしているうちに、彼は自分の手が血に汚れていくのがわかりました


いや、はじめから分かっていたはずでした
わかっていたのに、目をそらして、そらし続けて―――

そのうち、それが当たり前だと思ってしまっていたのです

「俺は…沢山のひと達を殺めてきた」

ポツリ、ポツリと彼はティターニアに告げます

「そんな俺が…ここにいちゃいけないんだ…」

かすれる様に、なんとか出した言葉
その言葉はティターニアに届いていました

「すまない…」

そう言ってこの場を去ろうとした、その時でした

「きゃああああ!!」

悲鳴を上げながら妖精たちがこちらに向かってきます

向こうをみると―――

そこには、教団の勇者がいました
彼は妖精たちが魔物化していることを理由に、妖精たちを襲っているようでした

彼のやっている事は、本来自分もしなければならない事
そう頭では理解していますが―――

「…めろ…やめろおぉぉぉぉ!」

彼は、勇者に向かって、剣を振るう事を決めました


妖精を、いや魔物を倒そうとしていた勇者は驚きます
自分と同じ教団の戦士が、自分に剣を向けている事実に、魔物を守ろうとするその姿勢に


「なんで邪魔をする?俺達は魔物を討伐するためにいるんだぞ?」

戦士に向けたれた視線は冷ややかな物でした
当然です、自分の同じ任務に従じている筈なのに、敵に味方しているのですから

「…こんなに…」

ですが―――

「こんなに幸せそうな国(ばしょ)を…」

戦士ももう自分を偽る事が―――

「襲う事が!正義であってはいけないだろぉ!」

出来ませんでした



心の奥底では、ずっと悩んでいました
自分がしている事が正しいのか?間違っていないか?
ずっと自問自答し続けていました

そして、戦士は…ようやく答えを出せました

だからこそ、彼は剣を抜きました
だからこそ、彼は決して勝てない相手に立ち向かう事にしました

だからこそ、妖精の国(このくに)の為に殉じても良いと、決心できました


「だめえぇぇぇぇぇ!」


その時、後ろから聞こえたのは―――戦士と話していたティターニアの声
彼女の泣きながらの、叫び声でした

・・・

ところで、ティターニアにはある力があります
妖精の国でしか使えませんが、それでもとても強力な力です

妖精の国を愛し、護りたい純粋な想いからなのでしょうか

相手の悪意や敵意を消し去る、護る事に関して言えば本当に強力な力です


ティターニアは他の妖精たちを自分のいる女王の間まで連れて行った後、戦士の事が心配で彼の元に向かいました

そこには、戦っている勇者と戦士の二人がいました

ティターニアは悲しくなりました
彼女にとって、誰かが誰かを傷つけるのは、本当に辛い事です
そして、さっき話していた戦士は―――人間さんは、戦いたくないのに、戦う事しか出来なかった悲しい人
なのに、また剣を振るわなきゃいけないのが、彼女にはとても辛く、悲しいものに見えたのです

だから、精一杯止めようとします
精一杯気持ちをこめて
精一杯大きな声で

精一杯の、愛をこめて

・・・

戦士はその声を聞いて、その想いを心で受けて動きがとまりました

それは勇者も同じようです
もう、敵意などは感じませんでした


ティターニアが戦士に走って近寄ります

「だめだよ人間さん!もうだめ!」

近寄って、勢いが殺しきれずぶつかって、そのまま彼に訴えます

「もうそんな風にしちゃだめだよ!苦しいのもういらないんだよ!」

ぽかぽか、そんな音が聞こえそうなほど華奢な腕での抗議
ティターニアは、泣いていました

戦士は、そんな彼女を抱き寄せて―――

「…すまない、そして…ありがとう」

〜〜〜〜〜〜

「―――こうして、戦士は妖精の女王と結ばれ、家族も移住して、勇者も他の妖精と幸せに暮らしました、とさ」

そこには、青年とも中年とも言えない、その中間くらいの男性と少年がいた

「それで!その後の戦士ってどうなったの!?」

少年は目を輝かせながら、男性に聞く

「さぁなぁ…まだ幸せに暮らしてるか、妖精の女王とどっか散歩でもしてるんじゃないのか?」

「えぇ〜!続きはないの〜!?」

少年は男性にねだるように聞く
困ったようにしているが、男性は言う

「そうは言ってもな…」

と、ふと後ろから声がした

「人間さん、買い物おわったよ」

「お、そうか」

そういって、男性は立ち上がる

「…そうだ坊主一つだけ教えてやる」

立ち上がり、少年に振り返り、男性は続ける

「あの話な、まだ終わってないんだ」

―――だから、続きはまだ話せない、すまない

その言葉と一緒に、男性ともう一つの声は消えました
少年は呆然としていましたが、気付いて笑みを浮かべ興奮しました

―――そう、まだ終わらない物語に触れたその事に、興奮を覚えたのです





15/10/09 19:00更新 / ネームレス

■作者メッセージ
ティターニアさんに甘えたい

お久しぶりです、ネームレスです
ティターニアさんのお姉さん属性に惹かれ、書いてみました

骨組みは出来ていたのに、中々まとまらず大変でしたが、書き終わってすっきりしました


これを書き始めたときはまだ暑かったはずなのにすっかり寒くなりました
みなさんもお身体にはお気をつけてください

それでは今回はこの辺で

ここまで読んで頂き、ありがとうございました

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