連載小説
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(25)おおなめくじ
裏庭の野菜が、またナメクジにやられていた。
季節のせいもあるだろうが、ナメクジはいくら取っても後から後から湧いてくる。
なにかいい方法はないかと、道具屋の主人に聞いたところ、店で働いていたゴブリンが「ナメクジはビールが好き」と教えてくれた。
何でも大きな器にたっぷりとビールを注ぎ、屋外においておけば辺り一帯のナメクジが引き寄せられるらしい。
ただし、皿にほんの少しではビールを飲んで帰ってしまうため、ナメクジどもが溺死するほどの量が必要だという。
ビールの効果はすさまじいらしく、ゴブリンも一度やって一晩で悲鳴を上げるほどのナメクジを集めたらしい。
俺は早速、道具屋の倉庫で埃を被っていたビール樽を買い求めると、家に持ち帰って裏庭に置いた。
これでいいはずだ。
ゴブリンによれば、明日には樽ごと埋めてしまいたくなるほどのナメクジが捕まっているという。
思わず悲鳴を上げたくなる、という彼女の表現に心躍らせながら、男は家に入っていった。


そして翌朝、裏庭にでた男を迎えたのは、空っぽの樽と樽にもたれ掛かる女だった。
「・・・・・・」
「すぅ、すぅ・・・」
樽にもたれ掛かったまま女は寝息をたてており、男の視線に気がつく様子もない。
彼女の肌はじっとりと寝汗か何かで湿り気と艶を帯びており、髪の間からはしなやかな触覚めいたものが延び、その下半身はドレスのスカートのように広がっている。
明らかに人間ではないし、もちろん男の知り合いでもない。
「ああ、と・・・お嬢さん・・・?」
おそらく魔物であろう彼女に声をかけるが、彼女は胸を上下させるばかりで反応がない。
「全く・・・お嬢さん」
そう声をあらげながら樽にもたれ掛かる彼女の肩に手を伸ばした。だが、男の手が触れた瞬間、彼は思わず手を引っ込めた。
「ひゃぃっ!?」
指先に触れたぬるりという感触と、骨格を感じさせないぐんにょりとした肩。予想もしていなかった二つの感触に、彼は声を上げていた。
「な、何だ今の・・・」
指先に粘りつく粘液と残る感触に、男は指と彼女を幾度も見比べた。
何というか、野菜についていたナメクジをとった時のような感触だった。
「もしかして、こいつおおなめくじか・・・?」
伝聞で聞いたことのある、ナメクジの魔物の名を、彼は思いだした。
「ということは、こいつがビールを飲み干したのか」
樽は空で、彼女が眠っている。そして肝心のナメクジ自体は一匹も捕まっていない。
それらの状況から、男はそう結論を導き出した。
どうやら、ビールを一樽分無駄にしたようだ。
「全く・・・お嬢さん、おおなめくじのお嬢さん!」
ある程度覚悟を決め、男はおおなめくじの肩を掴んで揺すった。
すると彼女は、振動に寝息を弱め、薄く目を開いた。
「うにゅ・・・」
「ああ、やっと起きた・・・」
「うにゅ・・・すぅすぅ・・・」
男がほっと胸をなで下ろす間もなく、彼女は再び目を閉ざした。
「寝るな!」
ガクガクとおおなめくじの体を揺するが、妙にグニャグニャと体を震わせるばかりで、起きる気配はない。
そして男が揺するうち、彼女の姿勢が徐々に崩れ、ビール樽を枕に地面に寝そべるような姿勢になった。
「くそ・・・ぐっすり眠りやがって」
諦めとともに手をおおなめくじの肩から離すと、彼の手と彼女の肩の間に粘液の糸が張った。
無色透明で、掴めそうなほどねっとりとしている。
「・・・」
男の胸に、急に不安感が芽生えた。確か、子供の頃母親に『ナメクジで遊ぶと病気になるよ』と脅されたことがあった。
大人になってからは、そんなことが迷信だとわかったが、おおなめくじのような魔物が病気を持っていないとも限らない。
「・・・大丈夫だよな・・・」
男は手を鼻に近づけると、ねっとりと絡みつく粘液の臭いをかいだ。
臭いはしない。いや、微かにある。
「何だ・・・?」
鼻孔をくすぐった微かな香りの正体を探るべく、男はふんふんと鼻を鳴らした。
鼻から吸い込む空気に、微妙に匂いがついている。裏庭の匂いやビール樽のビールの残り香ではない。あまり嗅いだことのない匂いだ。
「・・・・・・?」
病気になるか不安になって匂いを嗅いだはずなのに、いつの間にか匂いの正体を探っていることにも気がつかず、男は粘液の匂いをかぎ続けた。
なんだろう。微かに・・・甘い香り?鼻とは違う甘い香りだ。
だが、男にわかるのはそこまでだった。
「うーん・・・」
男はうめくと、粘液にまみれた指先同士を触れさせ、くにゅくにゅと擦った。
粘液は男の指をつるつると滑らせ、何とも言えないくすぐったさをもたらす。
だが、それだけでは匂いの正体は分からない。
「・・・・・・」
男は指を開き、粘液の糸を張ると、じっとそれを見ていた。
そして、何気ない様子で粘液にまみれた指を口に含んだ。
先ほどまで、病気になるかもという不安を抱いていた男の姿はそこにはなかった。
「んーん・・・ん・・・?」
口の中で粘液まみれの指をなめ、たっぷりと味わう。粘液にほとんど味はないが、香りと同じように微かな何かが舌に残った。
やがて、粘液の味がしなくなると次の指を口に含む。そして、全部の指をしゃぶったら、今度は手のひらの粘液をなめる。
「どうやら、害はないらしいな・・・」
男が手に着いていた粘液をすべて舐めとったころ、彼はようやく粘液に対してある結論を導き出した。
微かな甘みや甘い香りはある。だが、話に聞くアルラウネやハニービーの蜜のような中毒性はないようだ。
男は名残惜しげに指の股を舐めていたが、ふと思い出したように視線を地面に向けた。
そこには、おおなめくじが先ほどと変わらぬ様子で寝転がっており、胸を上下させていた。
胸元から足の先まで、粘液にまみれたドレスのような表皮に身を包んでおり、日の光によっててらてらと艶を帯びている。
男の視線は、自然と彼女の胸部の膨らみに釘付けになった。
決して大きい部類に入るものではないが、ドレスめいた表皮と粘液により、妙に悩ましい曲線を描いているように見える。
そして呼吸による上下によって微かに揺れ、まるで男を誘っているかのようだった。
「いや、これ誘ってるだろ・・・」
この魔物はビールを一樽飲み干したのだ。ビール代として、それぐらいの権利はある。
男は脳裏でそう結論づけると、おおなめくじの側にかがみ込み、上下する胸に手を伸ばした。
「すぅ・・・すぅ・・・」
粘液に覆われた乳房が手に触れ、ぬちゃりとした感覚が伝わる。
今度は怖気のようなものは一切感じず、男はそのまま乳房に指をはわせた。
ぬちゃりと指と粘液が音を立て、柔らかな、下手すれば人間の乳房などよりも柔らかな軟体が指に押し当てられた。
「おぉ・・・」
「ん・・・すぅ、すぅ・・・」
男が思わず柔らかさに感嘆すると、おおなめくじは小さく声を漏らした。
だが、彼女はそのまま寝息を紡ぎ始めた。
どうやら構うことはないようだ。
彼女の寝息を拡大解釈し、男は彼女の乳房をもんだ。
手の中で、おおなめくじの膨らみが粘土、いや泥のようになめらかに、柔らかく形を変える。
人間の女にすれば、痛みで悲鳴を上げそうな力を込めても、おおなめくじの乳房は柔軟に形を変え、粘液でにゅるにゅると指の間から逃れた。
「はぁ、はぁ・・・」
体温を帯び、心地よく手の中で形を変える乳房の感触に、男は徐々に呼吸を荒くした。
そして、乳房だけでは物足りないというかのように、男の手がほかの部分に伸びる。
「んん・・・」
寝息の合間におおなめくじはうめき声を挟む。
しかし男は構うことなく、彼女の乳房を揉みながら、わき腹を擦り、スカート越しに下腹部に触れた。
彼女のわき腹は粘液と表皮ごしにコリコリとしたあばらの感触を指先に伝えたが、どうやら軟骨のようなものらしく、ある程度力を加えるとぐにゃりと曲がった。
そしてスカート上の表皮越しに、人間でいうところの両足の付け根のあたりに触れるが、そこには足のようなものはなかった。
代わりに、表皮の下でぐるぐると蠢く何かが男の手のひらに感じられた。彼女の内蔵の動きだ。
確か、魔物の肉体は男に快楽を与えるようできていると聞いた。きっと、この内蔵の蠢きも、その一つなのだ。
「はぁはぁはぁ・・・」
男はおおなめくじの体をまさぐりながら徐々に興奮していった。
彼のズボンの下では、すでに肉棒が痛いほどに屹立しており、欲望のはけ口を求めていた。
このまま粘液まみれの手で扱こうか、それとも彼女の柔らかな体に擦りつけようか。いや、この柔軟な胸の間に挟み込もうか。
いくつもの方法が男の脳裏に浮かぶが、やがて一つの考えが彼の頭の中に生じた。
そうだ、この内蔵のうごめきを、直に感じ取ろう。
男は乳房を揉んでいた手を引きはがし、スカート状の表皮の裾に触れた。
そして、スカートをまくりあげるように、おおなめくじの表皮をめくっていく。
彼女のスカートの内側に足はなく、代わりに肉が詰まっていた。ナメクジのように、粘液で張り付き、にゅるにゅると波打つことで体を動かすのだろう。
男は表皮をめくり、折り重なる肉をかき分け、奥へ奥へとまさぐっていった。
すると日の光の下、男の目の前にスカートの一番奥が露わになった。
そこは、折り重なる肉の中心に穿たれた穴で、彼女の呼吸にあわせてすぼまり、緩みを繰り返していた。
「はぁ、はぁ・・・!」
男は片手でスカートを支えたまま、ズボンの内側から屹立を取り出した。
そして、のしかかるようにして、彼女の窄まりに肉棒をつき入れた。
「うぉ・・・!」
男の屹立に絡みつく無数の感触に、彼はたちどころに限界を迎えた。
腰がふるえ、知らず知らずのうちに高まっていた彼の欲望がはじける。
白濁が窄まりの内側に溢れだし、じんわりと熱をおおなめくじに伝えた。
「すぅすぅ・・・んん・・・うにゅ・・・?」
原の内側の温もりに、穏やかに寝息をたてていたおおなめくじが目を開いた。
「うにゅ、ごはん・・・」
おおなめくじは寝ぼけ眼のままそう言うと、何をどうしたのかのしかかる男を横倒しにし、つながったまま男に馬乗りになった。
たくしあげていた彼女のスカートが、男の股間を中心に、胸から膝までを覆い尽くす。
「え?」
「ごはん・・・」
おおなめくじの言葉とともに、彼女のスカートの内側が蠢いた。
スカートの縁から中心へ、内側の肉が波打ち、襞を幾重にも作り出す。
そして肉棒を咥える穴も、締め付けてはゆるめを繰り返した。
「うぉ・・・!」
胸と膝のあたりから、スカートの下にあるものすべてを引き寄せ、肉穴で啜り取ろうとするかのようなおおなめくじの動きに、彼は声を漏らした。
そして、一度の射精では収まりのつかなかった屹立が、再び大きく脈動した。
「で、出る・・・!」
「ん、ふぅ・・・!」
男の絶頂と同時に、おおなめくじの内側で白濁が弾け、彼女が鼻にかかった色っぽい声を初めて漏らした。
同時に、スカートの内側の肉も大きく波打ち、男の体液をすべて吸い取ろうとするかのように肉穴がすいつく。
粘液にまみれた衣服が、おおなめくじの動きによって彼の肌を擦り、男の絶頂を引き延ばしていく。
「あ、ああ・・・!」
そしてたっぷり射精してから、彼は全身を脱力させた。
限界が訪れたのだ。だが・・・
「ごはん、ごはん」
おおなめくじは、楽しげにそう繰り返し、体を揺すった。
彼女のスカートの下で、男は肉棒を固くしながら考えた。
塩を用意しておけばよかった。
と。
12/08/28 17:33更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
「包丁の錆は、塩で擦っておとすんじゃ」
「塩で!」
「そしておおあめくじにも塩をかけて退治するんじゃ」
「塩で!」
「じゃが人間を塩漬けにするとどうなるかのう。おおなめくじのように子供にはならんじゃろうから、はよ白状せい」
「ぎゃあ!」

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