読切小説
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小さな恋のお話
あるところにファントムの女の子と幼馴染の男の子がいました。
男の子は物語を書くのが好きでいろんなお話を書きます。
女の子はそんな男の子が書く物語が大好きで、毎日のように男の子の書いた物語に登場するキャラクターになりきって男の子と一緒に遊んでいました。
それは王子様とお姫様だったり、一緒に冒険する仲間だったり、時には悪い怪人と正義の味方だったりします。

女の子は男の子に聞きます。
「このお話の続きはないの?」と。
男の子は困ってしまいます、だって続きなんて考えてなかったのですから。
「だったらボクが続きを考えてあげる」
そう言って女の子は男の子と一緒にいろんな物語の続きを考えていきます。
それは王子様とお姫様が一緒に冒険したり、一緒に冒険していた仲間が恋仲になって幸せに暮らすお話だったり、悪い怪人が改心して正義の味方と町の人を助けるお話だったりしました。




女の子は気づいてしまいます、自分の考えた続きは必ず男の子が演じるキャラクターと自分が演じるキャラクターが結ばれていることに。
その時女の子は自分の気持ちが分かってしまいました。
「ボクは彼が好きなんだ」
男の子に聞かれないように小さくつぶやきます。もしもこの気持ちを伝えてしまったら今と同じように遊べないかもしれないと思ったからです。

時は流れて男の子も女の子も成長しました。
それでも昔と同じように一緒に遊んでいました。女の子はずっと自分の気持ちを隠して男の子の友達を演じたまま。
そんなある日、男の子は新しい物語を書いたノートを女の子に渡しました。それは物語としてはとても短い物で、男の子が幼馴染の女の子と一緒に遊ぶだけの小さな物語です。
「流石にこれは短すぎやしないかい?」
女の子は男に問いかけます。
「どーせ、続き書くんだろ」
男の子は女の子にペンを渡しながら答えます。

それもそうかと思いながら女の子はペンを受け取ると、ノートには書いた後に消された跡がある事に気づきます。
どんな内容だったのか気になった女の子はペンで消された文字を浮かび上がらせます。
そこには物語の続きがしっかりと書いてありました。物語の男の子は幼馴染の密かに女の子に恋をしてた事、そしていつの日か想いを伝えてハッピーエンドの恋物語でした。
「……ちゃんと続き書いてあるじゃん」
女の子は男の子に文句を言います。
「なっなんでそんなことするかな!?都合のいい話過ぎたから消したんだよ!!」
男の子は焦りながら恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまいます。
「ボクは良い物語だと思うよ。それに付け足すなら物語の女の子は主人公の男の子と同じ気持ちだったと思うし」
女の子は気づいています、この物語のモチーフが自分達である事。そしてこの物語の続きを書く意味の事。
「そうですかい」
男の子は顔を背けながら言います。
「じゃあ続きを演じようか」
そう言って女の子は男の子にキスをしました。

二人の物語はこれから先も続いていくのでしょう。
めでたし、めでたし。
20/11/01 10:00更新 / アンノウン

■作者メッセージ
「お疲れさん」
娘が寝付いたのを確認してボクは彼の渡してくれたココアを受け取った。
「まさかボクたちの馴れ初めを語り聞かせる日が来るとは思ってもみなかったよ」
「また続きに書かなきゃな『女の子はママになって自分たちの書いた物語を娘に語り聞かせます』って」
あの物語から随分と続きを二人で書いてきたなと少し思う。
「そうだね、もうすぐこの子も生まれるし。もっと賑やかな物語を紡いでいこうね、パパ」
大きくなったお腹を優しくなでる。
まだまだ物語の続きを書いていこう。

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