「匂いだけじゃなく煙も甘いな」
彼女から貰った煙草を吸いながらぼやく。
ワンダーランド、彼女の故郷の銘柄の紙巻きタバコだ。
普通はいくら匂いが甘くても味は普通のタバコなのだがこれは味までしっかりと甘い。

「んー、おはよー」

ぐーっと背伸びをした後、彼女は俺の背中に寄りかかってくる。

「おはよう、タバコ一本貰ってるぞ」
「いいよーボクもお腹すいた」

タバコの煙を主食とする彼女からしたら朝ごはんの匂いにつられて起きたような感覚なのだろう。
そう言われて俺は机の上に置いてあるタバコの箱に手を伸ばして中から一本取りだすと彼女に咥えさせた。

「火を貸してもらうねー」

背中に寄りかかっている彼女は俺の肩から顔を出して、俺の吸っているタバコの火種に自分の咥えているタバコを押し当てて火をつける。
対面でのシガーキスよりも必然的に顔が近くなる。

「ふぅーありがと、やっぱりこうやって吸う方が美味しいね」
「……変わんねぇだろ」
「そんなことないよ。薄っすらキミの味がする」

そう言われて昨日のことを思い出してしまう。シてる最中もキスをねだって「キミの味がする」と言われてたのだ。

「確かめてみる？」
「何をっ‼」

俺が答える前に彼女は吸いかけのタバコを俺に吸わせた。
タバコの甘さに混じる別の甘さ。
確かに彼女の味がするのかもしれない。

「どう？ボクの味がするでしょ？」

ニヘヘと笑う彼女に少し悪戯してやろうという気持ちが沸いた。

「確かめさせてくれ」

さっきの相合煙管のお返しだ。
そう言って俺は不意打ち気味に彼女の唇を自分の唇で塞いだ。
タバコとは別の甘さ、やっぱり彼女の味がした。

「……キミって結構大胆だよね」
「お前がいちいち可愛いのが悪い」

いつの間にか彼女のやわらかい芋虫のような下半身が俺に抱き着くように巻き付いていた。

「あーあ、ボクから誘おうと思ってたのに」
「いや、誘ってただろ」
「えっ？」
「シガーキスに相合煙管して、『ボクの味がするでしょ？』なんて言われて誘って無いなんて言わせないからな」
「……違うんだ、ボクはコミュニケーションの一環みたいに思ってて。それに寝起きであんまり頭が働いて無かったというか」

珍しく顔を赤くして言い訳をしているのを見ると、どうやら本気で誘っている自覚はなかったらしい。

「無自覚に誘うなよ、それとこれから俺以外にそういう事するなよ？普通に勘違いさせかねないから」
「しないよ‼ ボクだってキミだからやっただけだもん」
「へぇ、じゃあ俺は特別って事ね」
「当たり前だろ？ボクはキミが大好きなんだから♥」

甘い煙に包まれながら俺は彼女を押し倒した。