読切小説
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幸せのウタ
春に草花が芽吹き

夏に草木が茂り

秋に葉が色づき

そして冬に全てが眠る

日課の夜の散歩道で

澄んだ綺麗な歌声に

流れる時の美しさを詠い

浜辺に佇む彼女を見つけ

とても綺麗な歌だねと

近づいて言う僕を見て

驚きながらも彼女は微笑む

あなたは私が怖くないのと

彼女の問いに首を傾げて

君のどこを怖がればいいと

微笑み彼女の隣に座る

彼女の足は分かれてなくて

大きな尾ひれで波を掻く

人魚と呼ばれる魔物でも

その美しさは誰もが惹かれる

君はどうしてここで歌うの

月を眺めて僕は問う

ここは魔物を疎む土地

魔物の彼女の危険は多い

それでも彼女はここで歌う

ここに運命を感じたからと

彼女は答えて海へと帰る

またねと言って海へと帰る

次ぐ夜に再び浜辺に来れば

彼女は再び浜辺で佇む

僕を見つけて微笑み歌う

毎夜毎夜に月夜に歌う

歌い終われば海へと帰り

月が登れば浜辺で歌う

歌う言葉はいつも異なり

詠う言葉は違わない

春に草花が芽吹き

夏に草木が茂り

秋に葉が色づき

そして冬に全てが眠る

一年を回す時の歌

どこか寂しい永久の歌

僕は毎夜に浜辺に向かう

彼女の隣で歌を聴く

彼女の隣に座り続ける

時に共に歌歌い

時に合わせて音色を奏で

時に共に海を泳ぎ

時に見つけた飾りを贈り

そうして月日が流れて行き

ある時彼女の歌が途切れる

春に草花が芽吹き

夏に草木が茂り

秋に葉が色づき

そして冬に……

そうして歌がうつむき途切れる

どうしてやめてしまったのと

僕は彼女に問いかける

冬には全てが眠るから

あなたはここの人だから

あなたもきっと眠るから

冬など来ないで欲しいのだと

彼女の顔に雫が落ちる

雫を拭って僕は言う

それでも時は止まらない

時は僕たちを待ってくれない

冬は必ずやってくる

それでも僕は眠らない

君の隣で歌を聴く

君の隣に居続ける

君の隣で歌を歌う

春に草花が芽吹き

夏に草木が茂り

秋に葉が色づき

そして冬に……

冬に……命を託す

再び彼女に雫が零れる

今度は雫を拭わない

拭わず彼女を胸に抱く

彼女を胸に抱きながら

僕と彼女は歌を歌う

春に草花が芽吹き

夏に草木が茂り

秋に葉が色づき

そして冬に命を託す

そうして僕は街を出る

彼女と共に旅をする

海岸線を辿りながら

海の仲間に出会いながら

海辺の街を楽しみながら

海の僧侶と出会ったら

愛を囁き式を挙げ

僕らは海で旅をする

世界を回って歌歌う

春に草花が芽吹き

夏に草木が茂り

秋に葉が色づき

そして冬に命を託す

君の隣で歌を歌う

君の隣で歌を聴く

僕たちは永遠に歌う

二人の永遠を詠う

僕たちの幸福を詠う

その胸に託した命を抱いて

新たな命を紡いでく
13/10/17 23:32更新 / 星村 空理

■作者メッセージ
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら光栄です。
そしてお久しぶりの投稿です。
今回はおそらく邪道と言われてしまいそうですが詩的表現の物語を紡いでみました。
簡単にまとめれば反魔物領の男とマーメイドの恋物語ですね。
歌声に誘われて、恋をして、そして幸せな日々を過ごす……
たったこれだけの話ですが、そんな素朴さを出してみるのもいいのではないかと奇抜な作品を幾つか書く中で思い至ってこんなものができました。
ともかく、楽しんでいただけたら幸いです。楽しめなければ……申し訳ありませんとしか言えないです。
では、今回はここで。
感想をくださると嬉しいです。
星村でした。

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