連載小説
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旅54 おいでませ魔界牧場!!
「さて……諸君らはこれから忌まわしき魔界の一つ『ロキリア』に、俺様の指揮の下で攻め込んでもらう事になる。弱音を吐く者や俺様の言う事を聞けない奴は即座に見捨てるが、俺様に絶対服従する奴はきっちりと生還させてやる。いいな?」

偉そうにオレ達部隊の人間にそう語りかける隊長のニトロ。
いや……実際隊長なのだからそれなりに偉い事に間違いは無いのだが……こう自分の言う事を少しでも聞かない奴は言葉通りすぐ見捨てるところが皆から嫌われている。
自分が一番な野郎なうえその他の人間は皆自分の駒としか思っちゃいないので好いてるやつはほぼいないだろう……事実オレも嫌いだ。
できれば一生関わり合いたくなかった人物なのだが……今回はそうは言えない。

「ちなみに今回はこのパートナーを魔物化させたという前科持ちの勇者様が俺様の部隊に入って下さるそうだ。しかもなんと囮役をしてくれるそうだ。囮役の奴らよ喜べ、勇者様が居れば生きながらえる確率が増えるぞ」
「な……!?」
「おや?文句があるんですかな前科持ちの勇者様?」
「……いえ、ありません……」

俺はパートナーのセレンを魔物化させてしまった罰で、こいつの部隊に入って囮役として動く事になってしまった。
囮と言えば、本隊が魔界中枢部に攻め入る為に多くの魔物を引き付けておく役割だ……無事に帰って来られる確率はかなり低い。
もちろん全く帰って来られないわけではない……悔しいが、事実こいつの言う通りに動いていれば帰還できる確率も高いという実績があるのだ。
どう考えてもオレを見下しているうえ馬鹿にしてるし、さらには気にいってはいない感じが満載なのでそのまま見捨てられる可能性もあるが……今のオレにはこいつが言う通り文句を言う資格が無く囮を引き受けるしかないのだ。

「さて、この勇者様と他数名が囮として働いてくれている間、俺様達は更に3部隊に分かれて3方から魔界に乗り込む。事前情報ではさほど強力な魔物はいないという情報を得ているが、どうやら数がこの部隊の人数の何倍も居るらしい。相手がワーシープだのマンドラゴラだの雑魚しか居ないからと気を抜く奴はあっという間に手篭めにされるから注意しろ。場合によっては強力な魔物も居る場合があるが……油断して捕えられた奴は容赦なく切り捨てるが文句は無いな?」
『はっ!』
「それと、俺様は第1部隊を率いるが……場合によっては貴様らを盾に使う事もあるだろう。だがそれは貴様らよりも優秀な俺様を生きて帰還させるためだ。その事についても異論は無いよな雑魚共?」
『イエッサー!!』

逆らっても百害あって一利なし……それがわかっているため、全員が理不尽な事を言われようが従うしかない。
まあ……今から向かう魔界、ロキリアに凶悪な種族は居ないと聞く……明緑魔界である事から獣人系や植物系ばかりだと思われるし、獣人系でもワーウルフ程度ならばたいした事は無い。
なのでそう簡単に盾にされる事も無いだろう……まあ囮のオレには関係のない話だが。

「では行くぞ貴様ら!!俺様の後に続け!!」
『はっ!!』
「合図をしたら部隊ごとに別れてもらう!それまでは団体行動を一切乱すな!!」
『イエッサー!!』

そうこうしているうちに、オレ達は侵攻を始めた。
目指すは明緑魔界ロキリア。作戦の成功を祈りながら、オレ達は黙々と行進を始めた。

「……」

そんな中でも、オレは無事かもしれないセレンの事で頭がいっぱいだった。
生きているのであれば今頃一体どこにいて、何をしているのだろうか……元気に毎日を過ごしているのだろうか……
間違ってもオレに会いに来る事は無いようにも祈りながら、オレはどこか重たい足を動かしたのだった……



=======[サマリ視点]=======



「この街を出ればいよいよペンタティアか……」
「はい……いよいよセニックがいる街になります……」

現在13時。
私達はセニックに会いたいセレンちゃんの願いで、巨大な反魔物国家であるペンタティアを目指して旅をしていた。
そして、とうとうその近くにある親魔物領『ロキリア』に辿り着いたのであった。

「どうする?すぐ向かう?」
「う〜ん……そうしたい気持ちもありますが……急ぐ必要も無いと思うのでとりあえずいろいろ準備しながらこの街を観光しようと思います」
「うんうん!折角来たんだからアメリいろいろ観たい!!」
「そういう事です。隣にこの街があったのは知ってましたが、魔界なので憎む事はあっても観光なんてした事無いですからね。魔物になった今なら関係無いですし、この機会に色々と回りたいのです」

早速ペンタティアまで向かうのかと思いきや、どうやらこの街を観光していくつもりらしい。
たしかにこの街は緑豊かで、至るところに広い草原があって凄くのどかな街だ……

「……ん?ここ魔界なの?」
「え?そうなのか?前に行った魔界と違って全然暗くねえじゃん。太陽も頭上できちんと輝いてるしさ」
「明緑魔界と言う人間界と見た目は変わらない魔界です。植物や魔力が高くない獣系が多いとこういった魔界になるようです。特徴としては魔界なのに太陽は輝いてるしあそこに普通の葱が生えてるように魔界の植物でなくても育つ点ですね」
「でも魔界には変わりないよ!アメリ魔界の空気大好き!!」

今まで見てきた魔界は昼でも暗かったので、てっきり全部の魔界がそういうものだと思っていたのだが、どうやらこの緑豊かな太陽の輝くこの街も魔界の一つらしい。
言われてみれば魔界の時と同じような空気な気がする……つまりここも魔界なのであろう。

「まあでも暗黒魔界と比べればその魔力量は少ないからちょっとぐらい滞在してもユウロがインキュバス化する事はないと思いますよ」
「そうか……それじゃあいいや。いろいろ観て回るか」

そうなるとユウロ的にも早く街から出発したほうがいいのではないか……そう思ったが、どうやら空気中の魔力がそこまで濃いわけではないようなのである程度は大丈夫なようだ。
まあたしかに太陽は輝いてるし……魔界って感じはあまりしない。

「それじゃあどこ行ってみる?地図とか案内版があればいいけど……」
「まあ……適当に歩いてみましょうか。何かはあるかもしれませんし」

という事で、早速私達はこの街を観光してみる事にした。
とは言ってもどこに何があるのかわからないので適当に歩いて回る。

「それにしてもこの街はなんていうか……自然が多いよな」
「だよね〜。牧草のいい香りもするもんね」
「街の人達もどこかのんびりしてますね……こういったのどかな場所は好きです」

それにしてもこの街は本当に緑豊かである。
どこを見渡しても辺り一面緑だらけ……普通の野菜や魔界特有の植物だと思うもの、それに小さな林や草原も至るところにある。
民家ももちろんあるが、今までのように密集しているわけではなく、畑や果樹園らしきものの中に何軒か建ってるような感じだ。

「ん〜……こうも天気が良くて草原があるとなんかお昼寝したくなってくるなぁ……」
「サマリってそういうところはワーシープっぽいよな……」
「他はそうでもないのにね」
「そんな事言われても私他のワーシープ見た事無いし……」

そんな感じに皆でおしゃべりしながら緑の中を歩いている時だった。

「この街をゆっくり回るならどこか宿とかも探さないと……」
「おっいたいた。こら、勝手にどこか行っちゃ駄目じゃないか!ほらさっさと牧場に戻るぞ!!」
「……ん?」

のんびりと歩いていた私達だったが……突然遠方から若い男の人が走り寄ってきて……

「ほらもう!勝手に出歩かない!君のお父さんがかなり心配していたぞ!!」
「えっちょっと!!なんですか!?」

何か説教じみた事を喋ってると思ったら、突然私の腕を掴んでどこかに連れて行こうとした。

「やめて下さい!!何ですかいきなり!!」
「ん…………あ。すすすすみません!」

突然の事で驚きつつも抵抗したら怪訝そうな顔でその男の人は振り返って私の顔や胸元を見た後、顔を徐々に真っ青にさせながら腕を離し、その後美しい角度で腰を折り曲げ謝り始めた。

「いったいなに?サマリお姉ちゃんに何か用でもあるの?」
「いえ。ただの人違いならぬワーシープ違いです。うちの牧場にいて現在脱走中のワーシープだと勘違いしました。本当にすみません!!」
「あ、いえ……そういう事なら……」

どうやら私を他のワーシープと間違えたらしい。
突然何なんだと思ったが、そういう事なら仕方が無い。
こうして謝ってもらっているわけだしとやかく言うつもりは無い……アメリちゃんはちょっと怒ってるようだけどね。
しかし……今一つ気になるワードが……

「牧場……ってなんです?」
「ん?ああ……この街一番の牧場さ。大勢のワーシープやホルスタウロスなんかが暮らしてる。もちろん牧場と言っても家畜扱いじゃなくてきちんと大勢の夫婦や家族で生活が成り立っているよ」
「へぇ……魔物の牧場か〜」
「ワーシープやホルスタウロス……家畜系の魔物か……毛やミルクを採っているって事ですね」
「そういう事。皆のびのびと過ごしてやる事はきちんとヤっているから、うちのホルスタウロスミルクは特濃でなくても濃厚で美味しいし、ワーシープウールもふわふわで心地良い眠りに誘ってくれる一級品さ」
「へぇ〜」

牧場という単語に引っ掛かったので詳しく聞いてみたところ、どうやらこの自然豊かな土地を利用したワーシープやホルスタウロス達の牧場という名の集団住宅があるらしい。
たしかに『テント』にあるベッドはワーシープウールを使っているし、ホルスタウロスミルクも何度か買っている……個人販売では無く複数の夫婦が集まりきちんと管理すれば経営も成り立つだろう。

「あと、僕は牧場の作業員だけど、うちは農園なんかもやっている。魔界植物の栽培やアルラウネの蜜の採取なんかを行ってるんだけど……よかったら見学してみるかい?」
「えっいいの!?アメリ行きたい!!」

更には農園なんかもやっているらしい……
ちょっと見てみたいなと思っていたら、なんとあちら側から見学のお誘いが来た。

「ねえねえ行ってみようよ!!」
「そうだな……俺はいいかなと思ってるけど……二人は?」
「ワタシも行ってみたいですね。特に魔界の特産物は興味あります。もう魔物ですから魔物化の心配もありませんし、即売所があれば買って食べたいですね」
「販売もしてるし、少しなら試食もできるよ」
「なら是非行きたいです。サマリは?」

魔界の特産物……前に虜の果実ってものならカリンが持ってたから見た事あるけど、他にはどんなものがあるのか見てみたいし食べてみたい。
でも……それ以上に私は……

「私も行きたいよ。だって初めて自分以外のワーシープに会えるし」
「え……君は他のワーシープを見た事ないのかい?」
「はい。この子……リリムのアメリちゃんに最近ワーシープにしてもらった人間なので。世界中を旅してますが今のところ一度も見た事無いですね」
「そうなのか。じゃあまずはワーシープ達がいる草原まで連れて行こうか」
「ありがとうございます!」

初めて自分以外のワーシープに会える事が楽しみでしかたなかった。
今までいろんな場所を回り、いろんな魔物達とも出会ったけれど……何故だか一度として同族とは出会った事が無かったのだ。
そして今、やっと自分以外のワーシープと出会えるのだ……今までワーシープっぽくないとか変わったワーシープとか言われた事が何度もあるけど、そもそも比較できるワーシープを知らなかったからなんとも言えなかったのだ。

「と……そういえば誰か探してたんじゃないんですか?」
「ああ……まあ自分以外にも大勢の作業員が探しに行ってるし、おそらく街の中のどこかの草原で横になってると思うから大丈夫。一人だけ結構活発な子がいてね……ワーシープ担当責任者の娘さんなんだけどさ……気がついたらよく街中を探検してて、疲れたら適当な草原や日当たりのいい場所で寝てるんだよ」
「へぇ〜……」

そういえば誰かを探していて私と間違えたんじゃなかったかと思いその事を聞いてみたのだが……どうやらさほど問題ではないようだ。
ならばと言う事で、私達は早速牧場まで案内してもらったのであった……



…………



………



……







「ようこそロキリア牧場へ〜」
「おー!ワーシープのお姉ちゃんたちが沢山いる!」

現在14時。
先程の作業員さんの案内で牧場にやってきた私達。

「彼から聞いたよ〜。あなたが元人間のワーシープだね〜」
「は、はい!サマリと言います!!」
「ふふ〜、そんなに硬くならなくてもいいよ〜」

見学の手続きをした後、早速案内された陽だまりの草原……そこには10人以上もの羊型の獣人……ワーシープがのんびりと寝ていたり散歩して居たりしていた。
その中の一人が私の姿を見て近寄ってきた……どうやら先程の男の人の彼女さんらしい。

「ワーシープになってみてどうだった?」
「そうですね……ワーシープになってから寝るのが好きになったし、寝起きはかなり良くなった気がしますね」
「んふふ〜そーだよねぇ♪眠るの気持ちいいもんね〜♪」

最近毛を短くしてないので私も結構もこもこしているが、そんな私よりもずっともこもこ、しかも私よりも肌触りが良い毛を持っているワーシープさん。
首に巻いてあるこの牧場暮らしの証拠である青いリボンや私よりよっぽど豊満である胸や抜群のスタイル……胸もそうだけど毛並みや角の立派さなど全体的に羨ましくなる。
それに相まってぽけ〜としている表情がなんとも美しい……これはある意味ワーシープなりの感覚なのかもしれない。

「サマリちゃんもこっちに来て皆と一緒に寝ようよ〜」
「へ?わわっ!?」

そんな事を思いながら目の前のワーシープさんを見ていたら、腕を掴まれて沢山のワーシープ達が寝ている場所まで連れてかれた。

「ん〜?姉さんその子誰?」
「旅してる子で、たまたまこの街に立ち寄ったんだって〜。ちょっと前まで人間だったらしくって、今日初めて同じワーシープに会えたらしいよ〜」
「へぇ〜。よろしくね〜」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
「そんな緊張しなくて大丈夫だよ〜私達同じワーシープだもの〜♪」

私達が近付いたら、気持ちよさそうに丸まっていたワーシープ達の中の私と同じくらいの年齢っぽい娘が顔だけをむくりとこちらに向けてきた。
寝惚け眼でこちらを見つめ……ニコッと笑って挨拶してくれた。

「この場所が今の季節風が心地よくて日当たりぽかぽかでお昼寝すると気持ちいいんだよ〜」
「へぇ〜……たしかに気持ちよさそうですね……」
「うん。だからお近づきの印に一緒に寝よ〜♪」

そして、にこやかな笑顔で私に抱きついてきて、その場に座らせた。
たしかにここは風がちょっぴり涼しくて、日当たり良好で眠気が……

「ふぁ〜……なんだか眠たくなってきた〜……おやすみサマリちゃん……」
「ふぁ〜……私もふわふわってしてきたぁ……おやすみなさい……」

だんだんと意識がまどろんできたので……私はいい香りが漂う草原の上に他のワーシープ達と同じように丸まり、ぽかぽかした中でそのまま……ゆめの……なか…………へ………………



……………………



………………すぅ……すぅ………………



=======[セレン視点]=======



「あー、サマリお姉ちゃんねちゃったね」
「そうみたいですね……」

私達をここまで案内してくれた男性の彼女だというワーシープに他のワーシープ達が大勢寝ている場所まで連れられていったかと思えば、沢山のワーシープウールに包まれるようにその塊の中に沈んでいったサマリ。
近付いて顔を覗き込んでみると、他のワーシープ達と同じように気持ちよさそうな表情をしながらぐっすり寝ていた。
普段はあまりワーシープっぽくないと思う時もありますが……こうしてみると彼女も立派にワーシープですね。

「はは……皆気持ちよさそうに寝ているようだね。ユウロ君はフリーの娘に襲われる可能性があるからオススメしないけど、君達も彼女達に交ざって一緒にお昼寝してみるかい?」
「ん〜……なやむけどアメリ他の場所も見たいからな〜」
「ワタシは軽くトラウマになってるのでパスしておきます」
「残念。君達みたいな白い小さな子が一緒に寝てると可愛らしいなと思ったんだけどな」

そうは言われても、ワタシは以前サマリに抱きつかれてぐっすりと地べたに寝る破目になった事があるのでそうワーシープの中に埋もれて寝る気は起きない。
それに、サマリの様子を見るからにここで寝たら当分起きられそうもないだろう……ちょっと頬を突いてみても全く反応を示しませんしね。
それと、この人は自分の発言に気を付けたほうがいいと思います……おそらく本当に寝てはいると思いますが、私達の事を可愛らしいと言った瞬間に彼女であるワーシープの耳がピクピクと動き少ししかめっ面になりましたからね。

「まあサマリはここに置いてくか……他のワーシープ達と気持ちよさそうに寝てるし、起こすのも悪いだろうしな」
「それもそうですね……まあユウロが言うならそれが良いかと」

ようやくここでサマリの寝顔をずっとジッと見ていたユウロが口を開きました。
少し微笑みながらサマリの事を見ていたような気はしますが……サマリと違い一定以上の好意を持っているのかイマイチわかり辛いですね。
本当にこの二人はもどかしいです……このままユウロもサマリの横で寝かせればサマリの中の魔物としての本性によって事態も進展するかもしれませんが、それは二人にとっても不本意だろうとは思いますし、それに……

「……あれ?サマリお姉ちゃん寝ながら他のワーシープさんにおっぱい揉まれてる」
「まあ尻尾を弄られたりしてますし……おそらく周りも欲求不満なんでしょう」
「まあ……たしかにこの子達は相手が居ないけど……本当にこのままでいいのかい?」
「まあ下手に手を出したらどうなるかわかりませんし……ふぁぁ……とりあえずあまり関係なく寝ているので気にせず行きましょう」

寝惚けているのか、それとも歓迎されているのか、なんか他のワーシープ達にもみくちゃにされ始めたサマリの近くにユウロを置いていくとサマリ以外に襲われる可能性もあります。
それに、直接触れて無いにせよワーシープ達に囲まれているからか眠気も出てきました……なので、このまま寝ないようにワタシ達はサマリを置いてこの場から移動を始めました。


「それでワタシ達はどこへ案内されてるのですか?」
「まずはホルスタウロス達のところに行こうかなと。あ、赤いものは鞄の中にしまっておいてね。それと今なら乳搾り体験も出来るよ」
「ホント!?アメリやりたい!!」
「俺は遠慮させてもらうよ……乳搾りと言ってもホルスタウロスのだし……」
「ワタシは……どうしようかな……」

次はホルスタウロス達のいる牛舎に案内してくれるようです。
たしかに近付くにつれてミルクの香りが漂ってきます……魔物の母乳とはいえ、いい匂いには変わりありません。

「ただの牛の乳搾りでしたら喜んでやるのですがね……」
「はは……まあちょっと厳しいだろうね」

乳搾り体験が出来るという話ですが……普通の牛の乳搾りならともかく、人に近い姿をしたホルスタウロスの乳搾りはなんだか生々しい気がします。
好奇心が湧き出てはいますが……だからと言ってすぐ首を縦に振る決心はつきません。

「さて、実際やるかは置いといて……ここがその牛舎だよ」
「いらっしゃい。あなた方が見学を希望された方々ですね」
「おおーっ!今度はホルスタウロスのお姉ちゃんたちがいっぱいだ〜!!」

どうしようかと悩みつつも歩き続け、ついにホルスタウロス達の住処についたワタシ達。
牛舎だなんて言ってますが、その中はのびのびとできストレスが溜まらないように整備された部屋の集まりみたいです。
まあ壁は無く仕切りだけなのでプライベートは筒抜けですが……奥の方で盛っている男女が丸見えですしね。

「あんっ♪ああんっ♪おまんこもおっぱいもみるくが溢れちゃう〜♪もっと突いてぇ♪もっと搾ってぇ♪」

後ろからガンガンと激しく突かれつつ揉まれた胸から特濃の母乳を吹き出しながら喘ぐホルスタウロス……やはり愛する人からの最高の愛情表現を受けているからか、とても幸せそうな表情をしていますね。

「……」
「ユウロお兄ちゃんおまたがふくらんdむぎゅっ!?」
「わざわざ言わんでよろしい。俺だってあんなもの見せつけられたらそりゃ反応ぐらいはするさ」
「あらあら。彼女さんが嫉妬しちゃいますよ?」
「へ……何の話ですか?」
「あれ?違うのですか?あなたから本当に微かですがワーシープの魔力を感じたのでてっきり……」
「今この牧場のワーシープ達と寝てますがただの旅仲間ですよ」

つい見惚れてしまってました……少し前ならばあのような行為は汚らわしくてすぐにでも浄化しますだなんて言ってそうなものですが、嫌悪感を感じないのはやはりワタシが魔物になったという事なんでしょうかね。

「それでどうします?乳搾りの体験してみますか?手前にいる青い服を着た子達は独り身なので男の方はもちろん女の子達でも喜んで受けますよ。まあさっきも言ったようにあなたは仄かにワーシープの魔力を感じるのでやめておいたほうが良い気はしますけどね」
「アメリやりたい!!」
「俺は最初からやる気はなかったですが……サマリの魔力ってなんだ?一緒にいるとはいえそれはアメリちゃんやセレンもだしな……」

話がいつの間にか進んでいたので盛っている男女から目を離し話を聞く事にします。
奥の方にいる裸や緑色の服を着たホルスタウロスでなければ乳搾りが出来るらしい……

「まあ折角の機会ですし、ワタシもやってみようかな……」
「はい。それでは2名様、乳搾り体験へご案内します♪」

抵抗はありますが、それでもやってみたいという気持ちのほうが上回ってますので、乳搾りをしてみる事にしました。
まあ……別にワタシが搾られるわけではないですからね……セニック以外には触られたくないし……って何を考えてるんでしょうねワタシは。

「それではよろしくお願いします!優しく搾ってね♪」
「はい……」

案内された先にいたのはワタシとそんなに変わらないくらいの年齢に見える若いホルスタウロス。
まあそうは言ってもワタシは小柄なので体格差は結構あります……仕方は無いとはいえ、特に胸は天と地ほどの差がありますね。少しだけ胸に嫉妬するサマリの気持ちがわかる気がします。
しかしながらにこやかに優しく搾ってねだなんて言われても……

「えっと……どんな感じにやればいいのでしょうか?」

「んっ♪すごい上手だねアメリちゃん。はぁぁん♪」
「ぎゅ〜♪いっぱいミルク出てる〜♪気持ちいいお姉ちゃん?」
「うん♪ちょっとおまたが濡れてきちゃうぐらいには気持ちいいよ♪はぁうんっ♪」

「……あんな感じに出来ればいいのですが、女性の胸を揉むどころか牛の乳搾りすらやった事無いしよくわからないので……自分のもぺたんこですし……」
「では丁寧に説明しながらやって行きましょうか。まずはそこの台に乗って、後ろから腕を私の胸の前まで持ってきて下さいね」

ワタシには経験のない事なのでどうすればいいかわからなかった。
何故かアメリは初体験の割には相手の顔を興奮で紅く染めるぐらい上手く搾れているが……おそらくリリムとして全ての魔物の魔力を持つためホルスタウロスの乳搾りも本能でわかっているのか、それとも自分の父親が自分の母親に性交の際の余興の一環としてしているところを見て真似したのか、そんなところだろう。
しかしワタシにはあそこまでやる事はできない……その事を伝えたら、きちんと説明しながらやらせてくれるらしい。
という事で、ワタシは指示通り近くにあった台に乗り、後ろからホルスタウロスの胸に手を伸ばした。

「まずは軽く乳を揉んで下さい。下から持ち上げる感じにやると良い感じですよ」
「ん〜……こんな感じですか?」
「もう少し力を入れてもらっても大丈夫ですよ。中にある母乳を圧迫する感じに……多少であれば鷲掴みにされても問題無いので、難しかったらそうしてもらってもかまいませんよ」

そのまま彼女の胸を揉み始めるワタシ。
重量感があって柔らかなそれを言われたように捏ね繰り回す……事実そうですが、後ろから女性の胸を揉む変態になっているような錯覚を感じます。

「ん……いい感じになってきましたので、2本の指で乳首を摘んで下さい」
「えっと……こうですか?」
「んっ……もう少しだけ強く、押し広げるようにすれば……んんっ!」

しばらく揉み続けてるうちに少し汗ばんできました……そう感じていたら乳首を指で挟めと言われたので、ワタシは親指と人差し指を使い硬く勃っている乳首を軽く摘んだ。
もう少し強く押し広げるようにと言われたので、思い切って強く摘んでみたら……くぐもった喘ぎ声と共に彼女の乳首から白い液体……母乳が噴き出し、胸元にセットしてあった小瓶の底を白く染め上げました。

「んっ、んっ、そ、そんな感じに、ぎゅっぎゅって小瓶がいっぱいになるまで続けて下さい」
「おお……結構出ますね……それに甘い匂いも強くなってきました」
「ひゅぅ……私達ホルスタウロスは、乳牛の魔物ですからぁ♪」

両乳房にリズム良く刺激を与え続ける……びしゃっ、びしゃっと音を立てながら小瓶に甘い母乳が注がれていきます。
また胸を揉まれて気持ちが良いのか、それとも母乳が出てる事自体が気持ちいいのか、興奮した様子で目をトロンとさせているホルスタウロス……なんだか妙な気分です。

「きゅ、きゅっと……こんなものですかね」
「はぁ……はい、よく出来ました〜♪」

しばらくの間楽しく乳搾りを続けているうちに小瓶が母乳で満たされたので、ワタシはそのタイミングで乳房から手を離した。
すっかり上気した様子のホルスタウロス……そんなところに母乳を飛ばした記憶は無いですが、心なしか太股の毛が濡れてる感じがします。

「搾りたてのミルク、飲んでみませんか?」
「飲んでみます。では一口……」

母乳でいっぱいになった小瓶を渡され、今すぐ飲んでみないかと言われた。
折角なので口をつけてみると……

「……凄く濃厚で美味しいです!」
「でしょ〜♪そこいらの牛乳よりは美味しい自信がありますよ!」

口の中に広がる濃厚な甘み……舌触りはまろやかだ……それでいて甘過ぎる事無く、喉越しはサッパリしていて飲みやすい。
それに、出したばかりで人肌並みの暖かさだからか、なんだかホッとする。

「あまくておいしー!!」
「そんなに美味いのか?」
「ユウロも一口飲んでみますか?」
「ああぜひ……んっ!前飲んだものよりも深い味がする!めっちゃ美味い!!」

ワタシは持っていた小瓶をユウロに渡し一口飲ませてみた。
飲んだ瞬間、やはり美味しいと言ったユウロ……反魔物領ですらホルスタウロスのミルクが人気なのも納得の美味しさですから仕方ありません。

「サマリお姉ちゃんにものませてあげたいな〜」
「でしたらそのホルミルクに保存魔術を掛けてお持ち帰りしますか?」
「あ、魔女のお姉ちゃん。うんおねがい!」

たしかに搾りたてをサマリにも飲ませてあげたい……そう思っていたら、スタッフだと思しき魔女が駆け寄ってきて、保存魔術を掛けてくれました。
それに小瓶の蓋も被せ簡単にこぼれないようにしてくれて……これなら搾りたての鮮度のまま後でサマリにも飲ませられます。

「ちなみにここのミルクは直売所にも売っていますから是非ご購入下さい。搾りたてよりは鮮度も落ちますが、それでも美味しい事には変わりありませんから」
「それは最後に考えるか……じゃあ次行ってみるか!」

小瓶を鞄の中に入れて、次の場所に向かう事にしました。

「やぁん♪おっぱいミルクがあふれちゃうぅ♪」
「あふ……ふああっ♪んんっ♪」
「……」

牛舎を出る時にふと見てみると、やはり興奮が冷めないようで、先程乳搾りをさせてくれた二方が自慰に耽ってました。
あわてて視線を前に向けて、ワタシ達は牛舎を後にしました。


「次は農園の方に移動するけど、そっちの案内は他の人になるからね」
「そうなのですか?」
「僕は牧場担当だからね。農園担当の人のほうが農園は詳しいから交代さ。それにそろそろ彼女のもとに行ってあげないと不機嫌になっちゃうしね」
「そうですか。あ、ついでにサマリの様子も見ておいて下さい」

牧草の上でぽけ〜っとしているワーシープやホルスタウロス、それと農園の方から来たらしいマンドラゴラや何故かいるオークやワーウルフ達を遠目に見つつ、農園のほうの門までゆっくり歩くワタシ達。

「はいどーも。ここから先は私が案内しますね!」

門に辿り着くと、そこにはここの作業服を身に着けたハニービーが待ってました。

「途中でアルラウネ達の横を通りつつ、魔界の特産物畑へ行きますよ!」
「魔界の特産物……ねぶりの果実ってある?」
「ありますよ。しかも今丁度実っているので、よろしければ食べてみますか?」
「えっいいの!?アメリあれ大好き!!」

ここで案内役が先程の男性からこのハニービーへと変わり、私達は農園のほうへ足を踏み入れました。
しばらくお話しながら歩いていますと、何やらホルスタウロスミルクとは違った甘い匂いが漂ってきました。

「右手に見えるのがアルラウネ達の花畑です。男性としっぽりしている人が現在極上の蜜を生成中ですよ」
「しっぽりって……まあアルラウネの蜜って言うぐらいですし、そんなところだと思ってましたけど……」
「それと、作られた蜜を私達ハニービーが集めてたりもしてます。甘くて美味しくて栄養たっぷりといいとこ尽くしですからね」
「うわ……なんかアルラウネとハニービーが全身蜜まみれでやらしい事してんな……」

日光が程良く当たる一角で、大勢のアルラウネ達が気持ちよさそうに日光浴をしていました。
ただ日光浴してるだけの人もいますが、中には男性と事情中であったり、男性じゃなくハニービー達と事情中だったりする人もいますね。
男性とはともかく、女性同士でする気持ちはよくわかりません……と言いたいところですが、先程の乳搾りも楽しかったですし、あれと同じような感覚で蜜搾りでもしているのでしょう。
まあ……搾られてる側は迷惑そうだったり嬉しそうだったりと一様ではなさそうですがね。

「ちなみに原液のまま蜜を掬って舐めても良いですが……原液のままですと強力な媚薬ですからあなた達にはあまりお勧めは出来ませんね。リリムなら大丈夫かもしれませんが、人間男性や性経験のないエンジェルが口にした場合この先の見学が困難になる可能性もありますからね」
「ん〜たしかにアメリもおうちでのんだ時はうすめてた。甘くて美味しいんだよね〜」
「そうですか……少し気になってたのですが、それなら仕方ありません……」
「一応直売所には媚薬の効果を極限まで薄めた甘い蜜も売ってますので、そちらをお買い求めください!御安く売ってますよ!」

響き渡る喘ぎ声を背に、ワタシ達はねっとりとした甘い香りが漂う中をまた進み始めた。
先程の説明では魔界の特産品を育てている場所へ案内すると言ってましたが、一体どんなものがあるのでしょうか?

「そういえばアメリちゃん、さっきねぶりの果実がどうとか言ってたけど……それってなんだ?」
「ん〜、甘くておいしい果物だよ!」
「虜の果実……とは違うのですよね?」
「うん。とりこの果実は人間界でいう桃みたいな形だけど、ねぶりの果実はバナナみたいなものだよ!」
「……なんか嫌な予感がしたのは俺だけか?」
「ちなみに他にも各種まかいもや陶酔の果実など色々とありますよ。しかも土地はノームが管理していますし、水源もウンディーネが管理しているので栄養はきちんと行き渡ってますのでどれも一級品ですよ!」
「へぇ〜!!」

色々ある時いて目を輝かせているアメリ……まあ彼女は実際にそれらを食べた事もあるのでしょう。
聞いた事のないものが多いのであまりイメージは出来ませんが、どれも虜の果実と同じような効果があるとするとちょっと手を出しづらい気はします。

「さて、魔界の特産物ゾーンに到着しました!まずはおなじみの虜の果実のエリアですね。お一ついかがですか?」
「食べたい!!」
「残りの御二方もどうぞ!もっと欲しくなるとは思いますが、一つでやめておけば魔物になる事もないですし、おいしいので是非どうぞ!」
「それなら……でも一つで止められるものですか?」
「……はいどうぞ!」
「「……」」

そして辿り着いた果樹園みたいな場所。
そこで手渡されたのは、人間界でも見た事のあるピンク色の魔界の果物、虜の果実でした。
こんな感じですのであまり口に含みたくないのですが……それでも食べた事のない美味しそうな匂いを放つ果実に抵抗できず、一口齧ってみました。

「……ん〜!甘くて美味しいです!」
「はむはむ。おいし〜!」

一口齧る度に口の中に広がる果汁の甘味……意識しないでももう一口、更にもう一口と口に運んでしまいます。
夢中に齧っているうちにいつの間にか手に握っていた虜の果実は無くなっていました。その名の通り虜になってしまうのもうなずけます。

「こりゃあ美味いし、何個も食べたくなるのもわかるわ……」
「虜の果実も直売所で売ってます……ってさっきからこんな事言ってるとなんだか販売目的みたいに聞こえてきますね」
「あ、そのつもりだと思ってました」
「いえいえ、ただ単にもっとほしければ売ってますって教えてるだけですよ」

もう一個欲しくなる気持ちを抑えながら、次の作物の生息場所まで向かったのでした。

「はい、お待ちかねのねぶりの果実ですよ!」
「わーい♪」

次はアメリが大好きと言ったねぶりの果実ですが……

「……たしかにバナナみたいだけど……俺は絶対いらねえ」
「美味しいですよ?まあ男性の方は苦手な人も多いみたいですけどね」
「それにしてもこれは……生々しいというか……」

たしかに形状はバナナみたいですが、赤黒くてぶよぶよしてますし……形状と色からアレを想像してしまいます。

「はむっ、ん……れる……」
「……なあアメリちゃん、なんでそんな舐めしゃぶりながら食べてるんだい?」
「ちゅぷ……だってこれこうやって食べるものだよ?お口でくわえてこうやってしゃぶってしげき与えて、中の白くてドロドロとしたあまーいものをふき出させるんだよ!」
「……お、おう……」

というかアメリが説明する食べ方から考えても、どう考えたってアレを連想させる食べ物ですね。
流石と言うか、やはり魔界の食べ物ですね……一つ一つがどこか卑猥です。

「んちゅぅ……セレンお姉ちゃんも食べようよ!これもおいしいよ?」
「うえ!?ちょ、ちょっと気が引けますが……じ、じゃあ一つ貰います……」

それでもなんとなく食べてみたいと思いましたし、アメリに誘われたので食べてみる事にしました。

「れる、ちゅぅ〜♪」
「こ、こんな感じかな……ん、れる……」

薄い皮を剥いてから先端を軽く咥え、舌先で軽く舐めてみる。
滲みだしてきた透明な液体もほんの少し甘味を感じるが、その奥にある果肉はもっと甘いのかと思うと夢中でしゃぶりつきたくなってきます。

「ぢゅ〜……んんっ♪白いの出てきた〜♪んぐ、ごくんっ!」
「れるる、んふぅ……」

アメリのほうは食べ慣れてる事もあり上手く出来たようで、喉を鳴らしながら美味しそうに飲み始めました。
でもワタシは初めてな事もあり上手く出来ません……透明な汁は滲んでますがなかなか果肉は溢れ出てきません。

「んぐっ……んぶっ!?」

舐め続けていたところで、焦りもあったうえ、急に少しだけ果肉が先端から飛び出してきて、それに驚いておもわずねぶりの果実を噛んでしまいました。
その結果、衝撃に耐えられなかったのかねぶりの果実が弾け飛びました。

「あーあ。やっちゃったねセレンお姉ちゃん」
「まあ初めての方はこうなっちゃう事が多いですね」
「……」

顔や身体中に白い果肉が飛び散り、ベトベトになってしまいました。

「……なんだかちょっぴりエロいな……」
「言わないでください……魔物になった事を受け入れる事は出来ましたが、そういう事には抵抗があるので……」

あまり想像したくありませんが、今のワタシは事後のようになっているのではないでしょうか……

「で、味自体はどうだった?」
「あ……でもたしかに甘くて美味しかったかも……」

ほとんどが身体に掛かった感じですが、確かに口の中に残る果肉の味は美味しかったです。

「お兄ちゃんも口あけて」
「ん?こ、こうか?」
「はい。ぴゅー」
「んぐ!?な、なにする……あ、美味い」

ユウロがアメリに食べさせてもらってる間に、ワタシはこうなる事を予想できていたらしいハニービーさんからタオルを受け取って白い果肉を拭きとりました。

「さて、次は陶酔の果実の予定でしたが……お酒は飲めますか?」
「アメリのめない」
「ワタシも飲めません」
「俺は飲めない事はないですが苦手ですね……」
「じゃあここは見るだけにしましょうか。このように人間界での葡萄のようなもので、房の下に行くほど魔力の濃度は濃くなって深い味になります。魔界で人気のワインとして売られている事が多いですよ」

次は葡萄のような果物を見せられました。葡萄と違い一番下の果実がハート型になっているのが特徴的ですね。
どうやらお酒の原料とかに使われてるようです……セニックは飲んでましたが、ワタシにはとても飲めたものではないので食べるのは断りました。

「それでは次はこちらですね。こちらでは様々な睦びの野菜、通称まかいもを育てています」
「なんかじゃがいもみたいだけど……畑ごとで違いがあるな」
「はい!このように育てる際の環境や育てた者の種族の違いで大きく異なる特徴が出る野菜です。この野菜は魔力による魔物化などが起こらないので安心して食べられますよ!」

そして案内された先にあったのは……小さかったり大きかったり、また様々な色や形状をした芋畑でした。

「たとえばこのまかいも。このまま一口齧ってみて下さい」
「どれどれ……おっ!なんか蒸したさつまいもみたいに甘い!」
「つぎにこちらのまかいもを食べてみて下さい」
「なんか透明だな……ん!?今度のは水羊羹みたいな舌触りだ。水分も豊富だ」
「はい。このように味に大きな違いがでるのですよ。100人が育てたら100通りの味になるのです」
「へぇ〜。これは面白いな」

ざっと見ただけでも10種類はありますが、それらどれもが違う味だというのです。
とりあえずそのままでも食べられるものをいくつか貰いましたが、サツマイモのようなものからほくほくと煮たじゃがいものようなものまでありました。

「アメリこの透明なのが好き!」
「俺は塩辛い味のやつだな」
「ふふ、お気に入りがあったようですね!」

まかいもを頬張りながら、ワタシ達は魔界ハーブ園や果物の加工工場など様々な施設を見学したのでした……



…………



………



……







「今日は楽しかったですか?」
「はいっ!魔界にもいろいろと特産品があるんですね!」
「どれもこれも見た事無いものばかりで面白かったです!」
「アメリは久々にいっぱい食べれて幸せだったー♪」

もう日が暮れる直前になった頃、ワタシ達は牧場内の宿泊施設でくつろいでいました。
全ての案内が終わった後、どこに泊まろうかと話をしたら、観光客用の宿泊施設まで存在していると言うのでそこに泊まる事にしたのです。
一応その事を係の人を使って伝えたので、目を覚ましたらサマリもここに来る事にはなっています。

「夕飯はこの牧場でとれる様々な物を使った料理のバイキングですので、21時までには1階の大広間まで来て下さいね。宿泊費に含まれてるのでこないと損ですよ?」
「わかりました。もう一人の連れが帰ってきたら向かいます」

食べ歩いていたようなものなので凄く空腹と言うわけではありません。
それでもサマリを待つうちにお腹も空いてくる事でしょう……そう思いながら、歩きつかれた身体を休めようとベッドに沈みました。

「しかし魔界の食べ物ってとろける甘さを持つものが多いですね」
「そうだね。でもおいしいでしょ?」
「たしかに。今まで人を魔物にする悪魔の食べ物だと嫌悪してきましたが、これは魔物になってまでも夢中になってしまうのも肯けます」

とは言っても、このベッドはもちろんワーシープウールを使用していますので気を抜くと眠ってしまいそうになります。なので力を抜きつつもアメリ達との会話をし続けます。

「それにしてもサマリの奴遅いなぁ……」
「でも係の人曰くここのワーシープ達は夕方には目を覚まして各自の部屋に帰ると言ってましたし、サマリもそのタイミングで起きると思いますけどね」
「心配なら様子見てくれば?」
「ん〜……まあちょっくら見てくるか……」

話題は結局寝たままでこの時まで合流する事のなかったサマリの事になりました。
それだけ気持ち良く眠れたのでしょう……農園のほうの見学が出来なかった事を悔しがるかもしれませんが、一応手元にはいくつかサマリの為に残しておいたものがありますし、もっと欲しければ下の直売所で売っているものを買えばいいですからね。

「いってらっしゃ〜い……ん〜……ユウロお兄ちゃんの方もサマリお姉ちゃんの事気にしてるっぽいんだけどなぁ……」
「実際のところどうなんでしょうね?サマリのほうはほぼ確定だと思いますが」
「やっぱりセレンお姉ちゃんもそう思うよね?」

そんなサマリの帰りが遅いからと一人様子を見に部屋から出て行ったユウロ。
そこまで気に掛けるのはサマリに好意を持っているからだと思いますが……サマリと違い中々表面に出ないので本当にわかり辛いですね。
自分と違い近くにいるのですからさっさと想いを伝えればいいものの……と言いたかったのですが、どうやらなにか複雑な事情があるみたいなので気軽には言えませんね。
魔物は欲に忠実なはずです。それは魔物化した元人間も変わりないはず……なのに、自身の恋に気付いていない、いや、気付かないようしているのですから相当な何かがあるのでしょう。

「どちらも動くきっかけが作れないのは面倒ですね……ワタシ達はただ見守る事しか出来ません」
「だよね〜……まあ、それならそれでアメリはいいけど……」

ですから、ワタシ達外野にはどうしようもないので黙って見守り続けるしかないのです。
それにワタシは他人より自分の事も心配しないといけませんし、そこまで面倒を見る余裕なんてないですからね。

「さてと、ワタシも少し様子を見てきますが、アメリはどうする?」
「アメリはここで待ってる。入れちがいとか起こっても困ると思うし」
「わかりました。まあなるべく早く戻ってくるから待ってなさい」

まあそれとは関係なしに、ユウロが出て行ってからも結構時間が経ったのに帰って来ないので、ワタシも様子を見に行く事にしました。



「さてと、もしかしたらまだ最初の草原にいるのかな……っと」

泊まる部屋を出て下に降り、宿泊施設から出てすぐの事でした。

「……おいサマリ、さっきから何してるんだ?」
「ん……気にしないで……」

普通に近くまで着ていたようで、施設のすぐ近く、物陰に隠れる場所で二人っきりでいるサマリとユウロを発見しました。
何しているのかと声を掛けようかとも思いましたが、何やら様子がおかしいのでワタシはこっそりと隠れて二人の様子を見る事にしました。

「あのね……実は他のワーシープさん達と寝てた時なんだけどさ……」
「ん?どうかしたのか?」

やけにユウロに近付いているサマリ……というか、あれはまさにユウロに抱きついてますね。
ユウロに囁くように何かを呟いているようです……離れているため聞き取りにくいですが、なんとか何を言っているのかぐらいはわかります。

「うん……ちょっと目を覚ましたらさ……最初に案内してくれた人が来たんだ……」
「あ〜そういえば農園の方に移る時に彼女に会いに行くって言ってたな」
「それでさ……その人を見つけた彼女さんがね、やんわりとした笑顔を浮かべながらその人に近付いて行ったんだ……」

まだ寝ぼけているのか、半分夢見心地で喋るサマリ……表情は暗いし下を向いてるのでよく見えません。

「そしてね、ゆっくりと抱きついてね……こんな感じに身体を擦りつけてたんだ」
「……ああ、なんか若干眠気が襲ってくるな。ワーシープだからか?」
「たぶんね……」

ゆさゆさと身体をユウロに擦りつけるサマリ……心なしか胸を強く押し付け、もじもじとしているようにも見えますが……

「それでね、男の人もそのうち眠たそうになってね、その場に横になり始めたんだ……そしたらワーシープさんが……」
「……服でも脱がせ始めたんか?」
「うん、そうだよ。そのままゆっくりとね、男の人のおちんちんを自分の中に挿れちゃった……」

少しだけ顔をあげたサマリ……その表情は眠たそうに半目開きに……

……いや違う、あれは……発情している?

「こんな感じでぐりぐり〜ってしてね、ふわふわ〜ってしながら気持ちよさそうだったんだ〜……」
「……」

ほんのり顔を赤らめ、うっとりとした表情を浮かべているサマリ……どうやら男性と交わるワーシープの淫気に充てられたようで、魔物としての本能が目覚めているようでした。
そこに想い人であるユウロが現れたわけですから、先程自分の目で見たワーシープなりの襲いかたを実践しているようです。
もしやようやくこのままゴールインするのかなと思ってジッと見ていたのですが、ここで発したユウロの言葉でその場の空気が変わりました。


「それでお前はそのまま俺を襲うつもりなのか?」
「……」


その言葉を言われたサマリは、ボーっとしていた表情をハッとさせ、急いで身体から離れました。

「……ごめんユウロ……私なんかおかしくなってた……」
「……気にすんな。わかってくれたらそれで良いよ。話からすれば事故みたいなもんだしな」

先程までの興奮や雰囲気はどこへやら……すっかり意識をハッキリと保ったサマリはその表情を申し訳ないものへ変えてしまいました。
ユウロは気にするなと言ってます……でも、そうさせたのはユウロ自身だと思うのですが。

「本当にゴメン……危うくユウロの気持ちを裏切るところだったよ……」
「だから気にしてねえっての。ほら、サマリ用のお土産もあるし、それに夕飯もバイキングらしいからさっさと部屋に戻って食べに行くぞ」
「……うん……」

二人がこちらに向かってきたので、隠れて聞いていた事がばれないように速やかにその場から離れ部屋に戻るワタシ。

「……そういう事ですか……」

何故サマリが自身の恋心に気付かないようにしているのか……なんとなくわかった気がします。
ユウロの事を想うあまり、どうやらユウロが誰かと恋仲になる事を拒んでいる事を優先させすぎているようです。
そのため自分も拒まれていると思い、自身の恋心を必死に抑え込んでいるみたいです。
本能を完全に理性で押し込む……しかもそれを自分が意識しないままで……相当強い想いをユウロに抱いているからこそ起こってしまった事故みたいなものです。
そりゃあ恋や性に疎くなりもします……その相手が強く拒んでいるのですから、無意識のうちに意識しないようにしているのですから。

「これは……やはり手を差し伸べるべきでしょうかね……」

このまま見守り続けていても埒が明かない気がしてきました……おそらくサマリは自分の気持ちを押し込め続けるので下手すれば一生気付かない可能性もありますし、逆に抑えきれずに溢れだしてしまって今みたいに不本意で襲ってしまう可能性だってあります。
どちらにせよあまりよろしくない状況です……ワタシ自身がセニックと決着がついたらワタシからサマリに何か言ってあげないといけませんね。



そう、ワタシ自身も、セニックと決着を付けないといけません……





その時は着実と迫ってきており……もう、すぐそこまで着ていたのでした。
13/07/28 21:58更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
今回は特に何も無いお話……と思いきや次回やそれ以降へと続くネタを至る所に散りばめてあります。
一見するとサマリが他のワーシープに会ったからといって特に何かが変わったわけではありませんが、無意味だったわけではないと言っておきます。

といいますか今回はぶっちゃけ魔界自然紀行ネタでしたw
元々前半の牧場シーンは旅1更新当初からやる予定でしたが、後半の農園のシーンは紀行を読んで思いついたものです。
そろそろ発売から1年ですがようやく書く事が出来ました。

次回はいよいよセレンとセニックが邂逅します。二人が出した答えとは、そしてサマリ達の身に起こった事とは……の予定。

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