読切小説
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僕アルプになっちゃったよー
『 僕こと永本悠は恥の多い人生を送ってきました……
 ……誰の言葉だったっけ。平安時代の詩人? サムライ? 文豪? まあいいか。誰の言葉だろうとこれから自殺する僕には関係のない話だ。
 始まりは6年前、僕が10歳だった頃に遡る。思えばあの時がターニングポイントだったのだろう。
 あの日、僕はたまたまふたりでふざけあっていたお姉さん達を見た。本人達にとってはなんともないおふざけだったのだろうが、その時僕は生まれてはじめておちんちんを勃たせた。
 その日の夜ネットで調べて、それが勃起というのは分かったけれど、いったい何に興奮したのかは分かっていなかった。いや、分かっていなかったんじゃなくて、認めたくなかったのかも知れない。

 ……真面目な口調を書くのに疲れたからかいつまんで説明するけど、後はみんなが聞いた噂の通り。
 僕は女の子みたいな顔の癖して男のいない空間で女の子同士絡み合っているのが好きな変態さんです。
 今日自殺する理由も、賢者モードみたいな罪悪感というよりはむしろ個人的な理由で、百合好きな女の子みたいな見た目の男っていう矛盾を半分くらい百合的な意味で好きだった子に論理的に突きつけられたからかな。
 下らない理由だと思うよね。本当に下らない理由かもしれないね……
 でもね、僕は死ぬほど悩んでいたんだよ。女の子みたいな外見の男で百合が好きっていう矛盾に。どうしようもなく……どうでもいいかもしれないそんな矛盾……』
 そこまで書いたところで鉛筆を置き、封筒にいれて玄関に置いておいた。発つ鳥跡を濁さず。これでいくらせっかちな親友、神月君でもなにも知らず飛び込んできて首吊り死体を見るというトラウマを残すことはないだろう……。
 ……親友、神月君……
 ……後悔はしないって決めたつもりなんだけど……一応、彼にはメールで連絡しておこうかな。「今から自殺する」って……
 送信して1分も経たないうちに返事が返ってきた。でも僕は見ない……どうせ僕の気持ちを無視して止めにかかるだろうし。
 これが僕の選択だから。いくら神月君でも……止めて欲しくない。

 ……さて、と……紐でわっかを作って……それで、椅子にのって首を通して椅子を倒せばそれでおしまい。
 ……さよなら、僕の人生。さよなら、僕の大切な親友、神月君……
 今から僕は……
「……ぐっ……」
 ……思ったよりも苦しい。首を絞められているハズなのに、辛うじて息が出来る……
 ……ああ、そうか……
 僕は酸欠になりかけている脳で気付いた。
 紐でわっかは作ったけれど器用なことに締まらない形のわっかを作っていた。なんとも間抜けな話だ。楽になるために自殺するつもりだったのに、よりにもよって苦しい死に方をするなんて……
 直後、息苦しさが緩和されたと思ったら今度はフローリングに倒れ込んだ。
 一瞬、神月君が助けに来てくれたのかと思ったけれど、彼の家から僕のマンションまでは20分以上かかるから違うだろうと判断して、後ろを振り向いた。
「何をしているのかしら、少年君?」
 そこにはとても美しい悪魔がいた。命の恩人に対して悪魔などとは何事かと思うが、彼女の姿を……装いと頭の角から、彼女こそが伝説上の存在だと信じていた悪魔なのだろうと思った。
「「いのちをだいじに」よ、少年君。何があったのかは分からないけれど……その前に誰かに相談するのも一つの手よ。」
「…………相談、するだけしてみますよ。解決なんて……出来っこないでしょうけど……」
 促されるままに、女性に対していくつかの悩んでいた事を吐き出した。ところどころ相槌を打ち、自殺するに至ったという事を伝えると、やはりというか女性はこう言った。
「そんな下らない理由で人生を捨てるなんて……」
「……それでも、僕にとっては下らない理由なんかじゃ」
「簡単なことじゃない、少年君が少女ちゃんになれば万事解決なのよ」
「…………はぁ?」
 言っていることが分からない。悪魔と人間で、こんなに思考の差があるとは思わなかった。性転換したとて、さほど問題は解決しない……どころか、別の問題まで増えるのだ。なのに彼女は何をいって……
「私が魔法……みたいなので少年君を少女ちゃんに生まれ変わらせてあげる。」
「……出来るんですか? そんなこと」
「ええ、少年君がアルプっていう魔物娘になればね。」
「アルプ……? よくわかりませんけど、お願いします。なんでもしますから。」
「ふーん。それじゃあ……魔法をかけるから……目をつぶって。3、2、1……」


「はい、変わった〜」
「…………今、のは……?」
 一瞬体の中に温かいなにかが流れ込んでくる感覚がしたと思ったら、いつのまにか彼女の手が僕の胸に……推定Aカップの胸に当てられていた。
「これで少年君はただのアルプに……推定Aカップ、スリーサイズの格付けは、私達サキュバス基準では高めのBランク」
「なんですかその地味な酷評は……たまげましたよ……」
 そう言って、そっと股間に触れてみた。
「あっ……」
 触り慣れないところ……元々無かったのだから当然だが……を触ったからか、ほんのちょっと摘まんだだけでなにかが出そうになった。
 アーイキソ。
「……あ、そういえば……自殺するって、親友にメール送っちゃったの思い出しました」
「賢者モードね……とんだ淫乱ビッチね」
「イグゥッ……(無言の潮吹き)……すみません。なんか罵られて興奮してしまいました。それはさておき……どう説明して誤魔化せば」

「ユウ! 俺だ! 返事してくれ! ユウ!」

「……ちょっとの間でいいので隠れていてくれませんか?」
 一度に説明するのが面倒だからお姉さんに隠れていてもらい、その間に僕が説明することにした。
 さて、と……神月君なら分かってくれると信じて……
「ユウ! ……お前……生きていたのか! ユウぅぅぅ!」
 整った顔立ちながらアニオタゲーオタミリオタと少し残念な親友に、アルプに生まれ変わって初めての言葉は……
「みてよ神月くん。ぼく、あるぷになっちゃったよー」(棒読み)
 無言の手刀で頭を小突かれた。

 自殺未遂からの経緯を説明すると、神月君は額を押さえて「まるで意味がわからんぞ」といいたげな表情をした。
「……経緯は分かった、分かったんだけど……意味がわかんねえ」
「糞映画のネタの返礼にクソアニメのネタで返す辺り、神月君は中々分かってるねぇ。好きだよ……そういうの」
「やかましい」
 また手刀で小突かれた。手刀が好きだねぇ……よっぽど手刀がお気に入りなのかな?
 ちなみに、実は糞映画と良作アニメの合わせ技だったのだが、バレたら手刀では済まないだろう。
「にしても……なんでお前は女の子になりたかったんだ?」
「女の子と百合百合したかった……っていうのが半分弱。残り半分は調整中」
「調整中にするような要素無いだろ」
「調整中ったら調整中!」
 ……きっと百合と薔薇は紙一重なのだろう。だって僕は……

「……フフッ、雨降って地固まるといったところかしら」
 サキュバスは外からユウたちの様子を見て、こっそりと呟いた。
「ウフフ、男の娘攻めイケメン受けなんて……薄い本と私の胸が熱くなるわ……」
 ユウの無意識の願いに気付いていたサキュバスが興奮しながら呟いた。
15/06/22 21:37更新 / ウマノホネ

■作者メッセージ
久方ぶりにダークなシリアスを書きました。ここでは初めてのシリアスですが。
甘々やギャグばかり書いているとたまにシリアスが書きたくなる。和久名にも覚えがある。

ちなみに主人公の名前は和久名が某所でCの名義で書いていた小説の流用です。あちらは正反対の変態ですが。

男の娘――。これに思いを馳せる瞬間、私たちは必然的に一つの疑問にぶち当たります。そう、「男の娘とは何か?」という命題です。
有史以来、人類は名前を付けることにより、森羅万象から事物を切り取り、理解し、共有してきました。
しかしながら、こと男の娘においては、見た目や税額において、男の娘を男の娘たらしめる明確な基準が存在せず、近年では女装男子などと混同され、存在が不定のまま扱われています。
これは遊戯王だけでなく、カードゲーム界隈、ひいては日本経済を揺るがしかねない問題です。もはや、男の娘は「属性」ではなく「概念」なのです。
我々がかなたんやすりぃきゅん、ゅぅゃを見て、「この男の子はとてもかわいいですね。」という感想を抱いたとき、その直感に反して、理性はこう考えます。
「この見た目と声ではショタではないのか」「おちん(略)がついているだけの女の子の可能性もあるのではないか」「ただの男の子であってほしかった」等々…男の娘を見る度に、彼を萌え対象として捉える本能と、概念として捉えようとする理性が葛藤を起こし、人々は過度に疲弊してしまうのです。
明治維新が巻き起こした国際化は、萌えという新たな文化・娯楽を生み出しました。しかし、その陰に、「男の娘」という魅力的な罠が潜んでいることを我々は忘れてはならないでしょう。
スパッツ大好き猫さん(2015)『本能と和解する方法』p33-U8,集英社

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