読切小説
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Merry Christmas Dear Winners

 端的に言ってしまえば、私はご主人様と一騎打ちをし、敗れた。
 誰からも邪魔を受けることもなくただひたすらに互いの力を出し切った結果、と言うのは私の願望だったのだろう。
 横槍が入らなかったのは事実ではあるが、実のところ決闘とはとても呼べぬ一方的な蹂躙であり、かつての姿に戻ってもなお歯が立たなかった私が後に聞いた話では、あの時ご主人様は私を殺してしまわないように加減をするのに苦労したそうだ。
 つまり、最初から勝ち目のない戦いであった、ということだ。
 そして戦いに敗れ満身創痍だった私を待ち受けていたのは、ご主人様による求婚という名の調教。
 身も心も蹂躙され、ドラゴンという種族の誇りをかなぐり捨て、ご主人様の所有物になるのを泣いて懇願するまで続いたそれは、私の心をくじくのには十分だった。
 この時点で私は心まで屈服させられたのだ。今思い出すだけでも体の芯が熱くなる。
 あの日の陵辱は、私の本能に深く突き刺さった。この雄こそ私の探していた旦那様――否、ご主人様であると。
 驕り高ぶった私の化けの皮を剥ぎ、マゾヒストという本性をさらけ出す唯一無二の存在であると。
 腰砕けとなり、まともに立つことが出来なくなった私をご主人様は容易く、そして優しく抱き上げ、そのまま家に持ち帰られた。
 家で凌辱の続き、もとい初夜を迎え、ご主人様との同棲生活が始まったのだ。
 そしてこの季節がやってきた。去年までは独身地獄(シングルヘル)を、あるバフォメットと寂しく迎えていたが今年は違う。
 聖人の降誕にかこつけたイベントを、このような爽やかで晴れがましい気分で迎えるのは初めてかもしれない。
 が、ここで問題がある。クリスマスには付き物のプレゼントだ。
 身も心もすべて捧げた私が、ご主人様に何をプレゼントできるのだろうか。
 考えに考え抜いた結果、結論がでた。準備を整え、後はその時が来るのを待つだけだ。

「ただいまー」

 ご主人様が帰ってきたようだ。今日は仕事で遅くなると仰っていたから、準備する時間はたっぷりあった。

「おーい、帰ってきたぞー。……寝てるのか?」

 いつもは玄関で出迎えているから心配されているのだろう。あるいは、出迎えをしなかったおしおきの内容を考えておられるのだろうか。
 いずれにせよ、今私は動こうにも動けない。さらに言えば、返事をすることも、様子を見ることも出来ない。
 寝室のベッドの上で全裸になり、体中をリボンで縛り両手両足を戒め包装している。アイマスクを付け、メモ用紙を唇に挟んでいる。
 それが今の私。この様で昔は地上の王者を名乗っていたと言うのだからとんだお笑い草だ。
 私からご主人様へ送るプレゼントは、私自身。全てを捧げきってもなお、私はご主人様に尽くしたい。
 それに、私がご主人様からのプレゼントとして欲しているものは、こういう手段でしか得られないだろうという思いがあった。

「これは、どういうことかな?」

 寝室に入り、私を見たであろうご主人様は囁く。目が見えなくても、嗜虐的な笑みを浮かべているのが解る。
 その問いかけに私は堪えることが出来ない。未だに咥えているメモ用紙を、まだ離すわけにはいかないからだ。

「……成程な。『コレ』は今すぐにはあげられないが、実は俺もプレゼントを用意してきたんだ」

 ご主人様がメモ用紙を手に取り読み込むと、枕元に置いた。そして、ご主人様は持ってきた荷物を手にする。
 目が見えない分敏感になっているからか、音や気配や空気の流れもよく分かってしまう。

「しかしこのままじゃあげられないな。一旦解くが、いいな?」
「今の私はご主人様へのプレゼントですから、どうぞ『開封』して下さい」
「じゃ、遠慮なく」

 ご主人様は、あえて焦らすようにリボンの結び目に手をかけていく。表面をなぞりながら、蝶結びの端をゆっくりと手繰っていく。
 首、胸元、手首、脇、腰回り、太腿、鼠蹊部、足首と、丁寧にリボンを外していき、最後に目隠しを外す。
 私は一連の動きをご主人様に委ね、縛りから解放される快感に酔っていた。
 リボンが肌と擦れ、抑えられていた血の巡りが元に戻るたびに息が荒くなっていくのが分かる。
 ご主人様と目が合ったとき、なすがままにされていた私はただ脱力して座り込んでいた。口は半開きになっているし、瞼も少しばかり重く感じる。

「で、肝心のプレゼントだが、これなんだ」

 そう言ってご主人様は袋の中からそれを取り出した。黒を基調にした襟やカフスの部分が白い女性用の服と、端に留め金が付いた黒い革製の帯。

「どういうつもり、ですか?」

 本当は、聞かなくても分かっている。そのプレゼントの用途など、見ただけで誰でもわかる。

「見ての通り、プレゼントだ。今日からそれを着て過ごしてもらうぞ?うれしいだろ?」
「……はい。うれしい、です」

 それは従者が着るものであり、首輪は服従の証だった。
 
「じゃぁ、着替えてもらおうか」

 今すぐ、ここで、と暗にいっている。
 着替えを見られるということは、無防備な自分をさらけ出すということ。服を着たままのご主人様よりも私の方が立場が下だということがより明確になる。
 未だ陶酔に浸っていた私は、ふらつく足取りでそれらを受け取ると、袖に腕を通した。
 いつの間に採寸したのか、その服は驚くほど私の体に合っていた。袖や腰の部分に一切のヨレがない。
 更に、翼や尻尾を通すための穴が開いていて、その位置もこれ以上ない理想的な場所にあった。
 ただ、肝心な部分が隠れていない。胸の部分にはそもそも布地がなく、スカートもぎりぎり秘部を隠せているかも怪しいほどの丈だ。
 隙間なく私の体を覆う長袖の布は、露出している胸と下半身を強調するための物だという錯覚すら覚える。
 首輪の金具を通す穴は一つだけだった。それは、この首輪が私のためだけに拵えられたものである、ということを意味している。
 必要以上に擦れないよう柔らかな布で覆われた裏側の感触を味わいながら首にかけていく。
 真ん中に穴が開いたかまぼこ状の金具を首輪の穴に通し、サムターンのように九十度回す。
 首を絞められている感覚よりも、むしろご主人様の独占欲を感じ取れる嬉しさが勝る。
 これら全てのプレゼントが、前々から私のために用意してあったものであるということ。
 数え切れない交わりの中でご主人様が私の体を知り尽くしている事。そのすべてを感じ取れる以上の喜びなどない。
 感極まるのも束の間、ご主人様は金色に鈍く輝く、小さな南京錠を手渡した。

「自分でつけろ」

 錠は外れており、掛け金は丁度首輪の留め金の穴を通るほどの太さだ。この南京錠を自分でつけろということはつまり、そういう事なのだろう。
 掛け金を留め金に通し、更に手綱代わりの鎖の端を掛け金に入れ、その上で錠をかける。
 鍵はご主人様が持っている。私の意志で首輪を外すことはかなわなくなってしまった。
 もうご主人様に逆らうことも、離れることも出来ない。――元からそんな気はないが。

「見てみろよ。今のお前の姿」

 ご主人様は姿見を持ってきて、私の姿を映した。
 そこにはかつての私――己の強さに溺れ、ただ力のみを追い求め、戦いに明け暮れていたドラゴンの姿は無かった。
 娼婦にも劣るような、侍女を装った裸同然の下卑た恰好。
 頬を朱に染め、これから行われる陵辱を期待している雌の顔。
 しとどに濡れ、既にご主人様を受け入れる準備をし、その時を心待ちにしている秘部。
 かつての私であれば、こんな姿にされる屈辱に耐えかねすぐにでも首輪を引きちぎってここから飛び去っていただろう。
 だが今の私にはそれができない。しようとする気も起きない。
 ただの革で出来ている首輪など幾らでも切り裂けるというのに。真鍮製の南京錠など難なく破壊できるというのに、だ。
 この羞恥でさえも今の私には心地よい。ひとえに、ご主人様に与えられたものだから。

「こら、隠すな」

 恥ずかしくて恥部を隠そうとする手さえ、鏡から背けようとした顔すら、ご主人様の一声で動かなくなり、両腕を後ろで組んで私自身の裸体を晒す。
 もはやそこに私の意志はなく、ご主人様からの寵愛を一身に受け入れるだけだ。

「似合ってるぞ。最高だ」

 その言葉だけで、絶頂を迎えてしまいそうになる。
 だが今の私はご主人様に使える従者。勝手は許されない。何とか耐え、許可を待つ。

「で、だ。この紙に書いてあることを言ってもらおうか」

 私が咥えていたメモ用紙とは異なる紙を見せる。その文面は文字にするのもはばかられる、隷属の口上だった。

「ほら、ちゃんと指示通りにしないとご褒美やらないぞ?」

 急かされるように尻を叩かれ、内容を暗記した私は鏡を見ながら言う。
 書かれてある通りの言葉を、書かれてある通りに。

「わ、私、は、ご主人様の忠実な、雌奴隷、です。これから、ご主人様から施しを、頂ます」

 この奴隷宣言は、ご主人様に対してでも、まして他の男共に対してでもない。鏡に映っている私自身に対してのものだ。
 私が私を辱めている。身も心も全てご主人様に捧げきった、元の誇り高き私の残滓までも、ご主人様は調教に利用しようと言うのだ。
 そして、これから施しを頂くということはつまり、これ以上の調教をされるという事。
 私を更にメストカゲへと貶める、ご主人様からの贈り物。

「これが何か、分かるか?」

 高価そうな箱に入っていたのは、銀色に光る金属製の輪が三つ。一つは残る同じ大きさの二つよりも一回り小さい。
 手に取らずとも空気で伝わってくる。これらは魔界銀製だ。それも純度が高く良質な。

「今からこのピアスをお前に付ける。いいな?」

 胸と秘所がむき出しの服を着せられた雌奴隷への施しとして与えられる三つのピアス。付ける場所は考えるまでもない。
 この魔界銀製のピアスは着けている限り絶えず私の性感を刺激し続けるだろう。
 更にこのピアスには返しがついていて、一度つけてしまえば返しそのものを切らなければ外すことはできない。
 これで私は年中発情期。不思議の国にいる忌むべきあのジャバウォックと同等の存在となってしまったわけだ。今の私にとっては、その屈辱ですら心地よく思えてしまう。

「じゃぁ、いくぞ」
「ん――!くぅ……!」

 狙いを定めたピアッサーが貫く。このピアッサーも魔界銀製であり、痛みはない。
 そして開けられた穴にピアスが通っていく。
 本来赤子を育むべき場所にこんなものを刺してしまえばまともに育てられなくなるというのに。
 興奮してしまうのはピアスの所為だけではなかった。
 もう片方にも同様の処理をされ、二つの輪が私の乳房の中心を飾る。
 そして、針は最も性感が集中している陰核へ向けられる。

「あ――、ガッ――!」

 穿たれた瞬間、声にもならない快楽で悶える。目の前が真っ白になり、体を弓ぞりにしても逃げ場がない。
 しばらくの間のたうち回り、ようやくピアスが嵌められたころには、私の体はどうしようもない火照りに晒されていた。
 もうこれで私は完全にご主人様の所有物と成り果てる。
 ここにいるのは世界の覇者たるドラゴンなどではなく、ご主人様だけに仕える忠実な雌奴隷のメストカゲ。

「そろそろこれが欲しいんじゃないか?」

 いつの間にか服を脱いでいたご主人様は、私の目の前に固くそそり立つ肉棒を突き出す。
 最初に私を犯した時よりも更に大きさも硬さも太さも増したそれに釘付けとなった私は、返事を待たずに舐めようとする。
 しかし、近づけた顔を押さえつけられ、舌を伸ばしても届かなかった。

「待て、だ。まずはおねだりだろ?」

 その言葉が終わるや否や、私はベッドに寝転がり、陰唇を広げる。

「我慢できない淫乱なメストカゲに、罰を、どうかっ……!」
「罰じゃないな。ご褒美、だ!」
「――ふあぁぁぁぁ!!」

 前戯も無しにいきなりの挿入。すでに準備は出来ており、慣らす必要はなかったからだ。
 全身を駆け巡る性感は、その一突きで私を絶頂に追いやった。体は痙攣し、いうことを聞かない。
 ご主人様は自身を私の膣内に入れたまま、私を抱き上げて姿見の前に立つ。
 そして体位を変え、鏡を前にした私は、ご主人様に後ろから突かれる。いわゆる立ちバックだ。

「あ゛っ……、ぉぉ……」

 既に足腰に力は入らず、自重を支えることもままならない。
 嬌声とも呻きともとれぬ声をあげながら、ご主人様の動きに惨めな反応をするだけしかできなかった。

「なんとも情けないな?」

 ご主人様が私の耳を舐めながら、鏡越しの私に言う。
 だらしなく舌をつきだし涎を垂れ流して、ご主人様に体を預ける哀れなメストカゲ。それが今の私の姿だった。

「そろそろっ、出すぞ!」
「はひぃ、なか、なかにいっぱいください!」
「ぐ、おぉぉ!!」

 その瞬間ご主人様の精が、私の体の奥に放たれるのが解った。
 火傷してしまいそうなほどに熱を持ったそれらが叩き込まれ、子宮に注ぎ込まれる。
 その度に私の体は歓喜し、ただ震えて射精が終わるまで全て受け入れていた。
 まだインキュバスになっていないにも関わらず、長い長い射精を終えたご主人様は、精液を膣壁に刷り込むように腰を前後し始めた。

「今晩は寝かせないからな?」

 私とご主人様のクリスマスは、まだ終わりそうにない。



 事実、このまぐわいは聖夜が終わり、年が明けてからも留まることが無かった。





 それからしばらくして、もう一つのクリスマスプレゼントが――





 ―終―
15/12/25 19:16更新 / 宗 靈

■作者メッセージ

皆様どうも、お久しぶりです。およそ一年ぶりですね。
相変わらずの遅筆っぷりと描写の淡白っぷりで申し訳ございません。
クリスマス返上で書ききったのでお許しください。
ワタクシは今年も独身地獄でした。来年こそは爆発しろと言われる立場になりたいです。

P.S.
シングルヘルの人とか思われてたらどうしよう……。

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