フェリエ王立総合高等戦術学院の生徒たち
全てが終ったあと、自室から外に出ると寮の近くに荷馬車がたくさん止まっているのが見えた。入学する生徒の荷物を積んでいるのだろう。幌に書かれた紋章は、クェイン公家、それに南方の平地を治めるキリアス伯爵家、西方のカイエ子爵、そして運送業者のマークの描かれた貸し馬車まである。
学校とは人種のるつぼとでも言ったらいいのだろうか。フェリエの女王は平民階級にも等しく教育を与えた。その結果がこれだ。古くは勉強は貴族階級の特権であり、贅沢のうちのひとつだったが、いまはもうそんなものは贅沢ではなくなった。
勉強のありがたみを失ったと言えばそれまでなんだけど。
荷馬車に乗った御者はゴーレムやゴブリンと言った魔物たちで、彼女たちは幌の中にある大きな戦斧や防具を次々と運んでいく。特にカイエ子爵の武具は異様に大きく、見る者を圧倒した。
ただ、そのように巨大で重厚な武具に対し、とても軽装な武具しか持っていないものもいる。その人物は、槍の様な武器だけを持っていたが、その武器の全長は槍よりも少し短く、刃の部分は槍よりも長い。
見たことのない武器だった。だから目を惹いた。
だから、槍を持った彼女と目が合った。
その彼女は僕を見つけると、手を振る代わりに尻尾を振って挨拶をする。
「ジパングの方ですか?」
「いや違うけど」
そう尋ねてきた女性は稲荷のキサラギと名乗った。二月に生まれたらしい。
「だけど、なんで僕をジパング人だと思ったの」
そう言うと、彼女は金色の瞳で僕の顔を見つめた。
「黒髪なんてジパング人にしかない特徴ですからね」
彼女は金色の毛並みを湛えた六本の尾を揺らして微笑んだ。
そういえばそうなのか、と思って頭を掻く。
「あなたも転入生の方なんですか?」
「まぁそうだけど」
「じゃあ一緒のクラスになるかもしれないですね」
ミュリナの説明にもあったが、王族と公爵の爵位を持つものは自分の任意で受ける授業を変えることができる。僕の持つ爵位は騎士勲位だが一応王族の一員でもある。
「一緒になろうと思えば一緒になれるぞ。こう見えても王族だからな」
エルメリア姉さんが何というかは知らないけど。
自信をもってそう言うと、彼女の顔がぱぁっと笑顔になった。
「じゃあ、これからよろしくお願いしますね」
そしてその笑顔のまま僕の手を握って、キュッと力を込める。両手でキサラギさんは僕の手を握り、むにむにと揉みほぐす。
握手にしては少し不思議な感じだけど、彼女の喜びが伝わってくるみたいだった。その証拠に尻尾がぶんぶん振れてるし、耳もピコピコ動いている。
「お友達ができてうれしいです」
そういう彼女は、僕に微笑みかけ、その頬を赤く染めた。
それを見て、僕とキサラギは、とてもいい出会いをしたんじゃないかと思った。それもそれも、恋に落ちるような具合のもの。
ただ、キサラギの手には物騒な長巻というものがあって、この雰囲気を丁度よく壊してくれている。
たとえるならば、極上のコーヒーに砂糖ではなく、はちみつを入れてしまったような違和感。
それは僕が腰に差したカタナにも言えた。
だけど僕はそんなものたちを無視して言う。
「よろしくね、キサラギ」
学校とは人種のるつぼとでも言ったらいいのだろうか。フェリエの女王は平民階級にも等しく教育を与えた。その結果がこれだ。古くは勉強は貴族階級の特権であり、贅沢のうちのひとつだったが、いまはもうそんなものは贅沢ではなくなった。
勉強のありがたみを失ったと言えばそれまでなんだけど。
荷馬車に乗った御者はゴーレムやゴブリンと言った魔物たちで、彼女たちは幌の中にある大きな戦斧や防具を次々と運んでいく。特にカイエ子爵の武具は異様に大きく、見る者を圧倒した。
ただ、そのように巨大で重厚な武具に対し、とても軽装な武具しか持っていないものもいる。その人物は、槍の様な武器だけを持っていたが、その武器の全長は槍よりも少し短く、刃の部分は槍よりも長い。
見たことのない武器だった。だから目を惹いた。
だから、槍を持った彼女と目が合った。
その彼女は僕を見つけると、手を振る代わりに尻尾を振って挨拶をする。
「ジパングの方ですか?」
「いや違うけど」
そう尋ねてきた女性は稲荷のキサラギと名乗った。二月に生まれたらしい。
「だけど、なんで僕をジパング人だと思ったの」
そう言うと、彼女は金色の瞳で僕の顔を見つめた。
「黒髪なんてジパング人にしかない特徴ですからね」
彼女は金色の毛並みを湛えた六本の尾を揺らして微笑んだ。
そういえばそうなのか、と思って頭を掻く。
「あなたも転入生の方なんですか?」
「まぁそうだけど」
「じゃあ一緒のクラスになるかもしれないですね」
ミュリナの説明にもあったが、王族と公爵の爵位を持つものは自分の任意で受ける授業を変えることができる。僕の持つ爵位は騎士勲位だが一応王族の一員でもある。
「一緒になろうと思えば一緒になれるぞ。こう見えても王族だからな」
エルメリア姉さんが何というかは知らないけど。
自信をもってそう言うと、彼女の顔がぱぁっと笑顔になった。
「じゃあ、これからよろしくお願いしますね」
そしてその笑顔のまま僕の手を握って、キュッと力を込める。両手でキサラギさんは僕の手を握り、むにむにと揉みほぐす。
握手にしては少し不思議な感じだけど、彼女の喜びが伝わってくるみたいだった。その証拠に尻尾がぶんぶん振れてるし、耳もピコピコ動いている。
「お友達ができてうれしいです」
そういう彼女は、僕に微笑みかけ、その頬を赤く染めた。
それを見て、僕とキサラギは、とてもいい出会いをしたんじゃないかと思った。それもそれも、恋に落ちるような具合のもの。
ただ、キサラギの手には物騒な長巻というものがあって、この雰囲気を丁度よく壊してくれている。
たとえるならば、極上のコーヒーに砂糖ではなく、はちみつを入れてしまったような違和感。
それは僕が腰に差したカタナにも言えた。
だけど僕はそんなものたちを無視して言う。
「よろしくね、キサラギ」
17/01/02 23:57更新 / (処女廚)
戻る
次へ