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九十九君の日常 (2)
 
 
 
 
 
始まりは姉さんの一言であったと思う。その日、九十九家の全員は、リビングにてTVを鑑賞していた。
そんな中で姉さんは、ふ、と顔を上げて言った。
 
 
「烈火、写真を撮ろう」
 
「解った」
 
 
姉の頼みなので一も二もなく頷き、立ち上がる。
 
 
「いやいや、目的ぐらいは聞いておきなさいよ!」
 
 
が、ステラの体で一瞬にしてソファに引き戻された。確かに目的も聞かずに行動するのはおかしいやもしれぬ。
ステラが、はぁ、とため息を吐く。
 
 
「アンタ、誰かの頼みを条件反射的に引き受ける癖をどうにかしなさいよ」
 
「姉妹の頼みはできるだけ叶えてあげたいんだ」
 
「う」
 
 
ステラが顔を真っ赤にして黙る。何かマズイことでも言ったか、と首を傾げていると、突如お姉ちゃんが飛び込んできた。
 
 
「偉いなぁ、烈火は本当に偉いなぁ!私たちのことをこんなに想ってくれているなんてぇ!」
 
「ぐえぇぇ」
 
 
デュラハンのお姉ちゃんによる力いっぱい抱擁で、酸欠寸前の状態になる。腕をタップするが、お姉ちゃんは気づいてくれない。
 
 
「ああ!ああ!烈火、今すぐお姉ちゃんと結婚しような!」
 
「その前に烈火が死んでしまうわ!」
 
 
お姉ちゃんが俺から引きはがされる。酸素だ、新鮮な酸素だ!
 
 
「何をする、エリカ!私と烈火の間を引き裂くのならば、終いといえど容赦はせんぞ!」
 
「お前の馬鹿力で烈火が苦しんでいたのが解らんのか!絞め落とすところだったんだぞ!?」
 
「な、何!?」
 
 
お姉ちゃんが愕然とした表情でこちらを見る。むむ、ここは強く出ねば同じ事態が繰り返される予感。
 
 
「次からは力を加減してね?」
 
「烈火……!こんな粗忽なお姉ちゃんを許してくれるのか……!よし、結婚しよう!」
 
「しない」
 
 
お姉ちゃんが膝を付く。で、何の話だったっけ?
 
 
「ミスト姉が写真を撮りたい、という話じゃ」
 
 
クルミが答えてくれる。答えてくれるのはいいが、またしても思考が口から漏れ出ていたか。
……まぁ、悪癖の矯正は後々考えよう。今は姉さんの話だ。
 
 
「姉さん。なんで写真を撮りたいの?」
 
「……これだ」
 
 
そう言って姉さんは手の中のスマホを見せてきた。画面にはサキュバス種の女性が、彼氏と思われる男性と腕を組んでピースサインをしている写真が映っていた。
 
 
「誰これ?」
 
「私の友達。最近、彼氏ができたからって私にのろけ写真を送ってくる」
 
 
お、迷惑ゥー!
 
 
「だから、私も愛しの弟とののろけ写真を送り返してやりたい」
 
「へー……」
 
 
彼氏とののろけ写真に、弟とののろけ写真を送り返す、とな?
 
 
「おかしくない?」
 
「おかしくない」
 
 
言い切られたのでおかしくない。
 
 
「それで良いの?」
 
「良いんだよ、きっと」
 
 
ステラが呆れたように言うが、仕方がないのだ。もはや、そういう体になってしまったのだから。
うーん、ホントに?
 
 
「それでいいと思うぞ」
 
「そうだ、烈火はそれでいい」
 
「兄者のそういうところが大好きじゃ!」
 
「お兄様はそれでよろしいかと」
 
「……まぁ、私もうれしいけど、さ」
 
 
姉妹全員から許可出たので、問題ないという事で。
 
 
「……烈火、写真を撮ろう?」
 
「いいよ」
 
 
スマホを掲げながら、姉さんが俺のと腕を組む。姉さんの柔らかい感触に少しドキドキ。
 
 
「……キスとかする?」
 
「流石にちょっと」
 
「むぅ」
 
 
不満そうな顔の姉さんにOKを出しそうになるが、そうすると際限がなくなりそうなので我慢することにする。
 
 
「……その内で良い、か」
 
 
ええー……。
 
 
「じゃあ、二人の手でハートを作ろう?」
 
「良いよ」
 
 
俺の左手と姉さんに右手でハートを作る。姉さんの手には水かきがついているのだが、巧い事ハート型になっているのは器用というか……。
 
 
パシャリ。
 
 
姉さんは満足そうに俺から離れ、例の友達に写真を送信した。
 
 
「じゃぁ、次は私たちの番ですね」
 
「え?」
 
 
いつの間にか横にいた夜霧がスマホを掲げている。
 
 
「肩に手をまわしていただけますか?」
 
 
諾々と従ってしまう俺の体。
 
 
パシャリ。
 
 
「一生の宝にさせていただきます」
 
 
ひょい、と音もなく離れる夜霧。そして今度は姉様が横に来た。
 
 
「そうだな……私は頭を抱え込む感じで頼む」
 
 
姉様の頭を胸に抱え込む。ふわり、とシャンプーとは違う、いい匂いが鼻をくすぐった。
 
 
パシャリ。
 
 
上機嫌な様子で姉様が立ち上がる。で、横にはクルミの姿が。
 
 
「ワシは頭をナデナデしてほしいのじゃ!」
 
 
ナデナデからの、パシャリ。
 
 
「サバトコミュニティに投稿じゃ!」
 
「次は私だ!」
 
 
お姉ちゃんが俺の頭を抱え込む。おっぱいが当たってドキドキする。
 
 
パシャリ。
 
 
「ふふふ……ふふふふ……!」
 
 
お姉ちゃん。その笑い方はすっげぇ怖いです。
 
 
「最後は私よ」
 
「ステラもか?」
 
「……何よ、私だけ仲間外れにするつもり?」
 
「そういうつもりじゃなくて。こういうのに乗ってくるのはちょっと意外というか」
 
 
メデューサ種であるステラは少し素直ではないところがある。こういう姉妹の戯れの中でも、一歩引いたところにいるのが珍しくないのだ。
 
 
「……何よ、悪い?」
 
「悪くないよ」
 
 
ちょっと拗ねたようなステラに、俺は何でか笑ってしまった。こういう素直なステラもかわいいなぁ!
 
 
「かわぁ……っ!?」
 
 
悪癖発動。ステラが顔を真っ赤に染めて、フルフルと体を震わせ始めた。あー、やらかしたぁ!
 
 
「く、緊急での対応……!」
 
 
爆発寸前のステラの手からスマホを奪取。素早くカメラアプリを起動して、撮影!
 
 
「烈火の……バカァーッ!!」
 
 
ブワッ!という風と共に、ステラがリビングから走り去る。
 
 
「……烈火。その癖はどうにかした方がよいぞ」
 
「本当にね……」
 

姉様の指摘に、俺は改めて自分のうかつさを呪うのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
夜。諸々の用事を済まして、ベッドの中に潜り込む。
 
 
「ん?」
 
 
枕の下に違和感。ひょい、と枕をどけてみる。
 
 
「……写真?」
 
 
その写真には見覚えがあった。昼間にステラと一緒に撮った写真だ。
写真の裏を見てみる。そこにはあっかんべー、と舌を出したステラのイラストと、ありがとう、の一文。
 
 
「……寝るかぁ」
 
 
俺は写真を枕の下に戻し、瞼を閉じる。こういうのも悪くないと思う。
 
 
 
 
 
その夜、俺がどんな夢を見たか、そして翌日のステラの暴走っぷりは秘密にしておくことにしようと思う。
 
 
 
 
 
18/10/16 16:38更新 / うりぼー
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■作者メッセージ
どっこい生きてたので初投稿です。

冗談はさておき、久しぶりの九十九君です。大方の人から忘れられていたことでしょうが、完結させたいという気持ちはあるので恥ずかしながら帰ってまいりました。

今回は久しぶりという事で、自分の中の九十九君を思い出すための日常回。
あらゆることを忘れていたのですが、どうにかこうにか形に。見直しは何度もしたのですが、違和感はぬぐえぬまま。頑張ろう。

不安定な投稿速度ではありますが、九十九君とその姉妹たちをこれからもよろしくお願いします。

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