読切小説
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ある男子生徒の一日
朝。
窓から差し込む光で目が覚める。今日は何の夢も見ず熟睡できた。
部屋に張った魔除けの御札のおかげだ。

「おっはよー!」
着替えていたら幼馴染がドアを開けて入ってきた。
毎回やるとかコイツ絶対狙ってるだろ。

さっさと着替えて食事を済ませる。朝食はパン一枚。
「そんなんじゃもたないって。ほら、家から持ってきた果物とか食べてよ」
幼馴染がハート型をした果実を差し出す。
そんな怪しげな物食えるか。

登校中。
ニャーンと鳴いて野良ネコが近づいてくる。
うぜえ。こっちくんな。
足元にすり寄るネコを足で退ける。
「あー、かわいそー」
後ろから付いてくる幼馴染の抗議の声。
キサマには尻尾が二本あるのが見えんのか。アレはネコマタだ。

HR前の教室。
前の席の奴と暇つぶしの話をする。
「そーいや聞いたか? B組の奴が不登校になったんだってさ」
そんなの珍しくもないだろう。
「それが不登校の理由が“彼女が離してくれないから”だってさ!
 どっかで聞いたような都市伝説だよなあ!」
その都市伝説は自分も知っている。隙間女のことだろう。
……たぶんスキュラだな。狭い場所にも入りこむらしいし、男を離さないから。

担任が来てHR開始。
「えー、今日は転校生を紹介する。入りなさい」
教室中の男子がザワッとする。
「初めまして。よろしくお願いします」
テレビによく出るアイドルそっくりの姿。
ほんとそっくりだよな、むしろ本人じゃねーの。あちこちで交わされる会話。
ドッペルゲンガーか。一体誰に惹かれてやってきたのやら。

美術の授業中。
立体物を作るのは苦手だが、なんとか粘土をそれっぽい形にできた。
「うわ、すげー! これもう売り物になるんじゃねーの!?」
ななめ前の奴が粘土で見事な女性像を作っていた。周りの奴がやたら騒いでいる。
(きゃー! やっぱり私のダーリンて、すごーい!)
そいつの周囲をモデルになったらしいリャナンシーが飛びまわっている。
はいはい、好きなだけイチャついてくれ。

昼休み。
弁当は用意していないので学食へ行く。前の席の奴も一緒だ。
「お、今日から新メニュー追加だってよ。随分安いし試してみよっかなー?
 おまえはどうする?」
自分は止めておく。
「ふーん。お前って甘いもの苦手だったけか?」
ミルクと蜂蜜をたっぷり使ったホットケーキ。さらにフルーツ付き。
フルーツが朝幼馴染が持ってきたものと同じなんで嫌な予感がした。
ちゃんとした牛乳と蜂蜜を使ってるのか?

教室へ帰る途中。
開かずの間の前でこそこそしている一年を見かけた。
針金で鍵穴をいじくりまわしている。気になるから開けてみようってのか?
…そこはつぼまじんとミミックの集合住宅だ。
その部屋に入った人間がやたら行方不明になるから封鎖されたんだよ。

放課後。
図書委員の仕事があるので、図書室へ行く。
月に一度の本の整理をしていたら、歴史の書架で場違いに古臭い本を発見。
…開いたらインプでも召喚されそうな気がするので、あまり使用されない百科事典の棚へ移動しておこう。

委員の仕事も終わり靴を履いて校庭へ出る。
すると園芸部の会話が耳に入った。
「なあ、この草なんていうんだ? 植物図鑑に載ってなかったんだけど」
「俺も知らんな。しかし安くていい土が手に入ったと思ったら、こんな草ばっかり生えてくるとはなあ…」
目を向けると自分も見たことの無い妖しげな植物が伸びていた。
…高くてもちゃんとしたメーカーのを買えよ。

下校中。
「ねー、おにーちゃん。わたしと遊んでよー」
うちの制服を着た男子生徒が、近くの小学校の児童に手を引っ張られている。
ロリコンの気があるのか、ちょっとだけだよと言って付いていく。
おい、そいつは魔女だ。見かけどおりの歳じゃないぞ。
…まあ、性犯罪者予備軍が一人居なくなったと考えれば悪くもないか。

帰宅。
自分の部屋に入ったら、魔除けの御札が真っ黒になっていた。
…真昼間からアタックを続けて破ったのか。諦めの悪いゴーストだ。
神社へ行ってまた御札を貰ってこないと。

海沿いの神社へ散歩しつつ向かう。
どこかから歌声が聞こえてくる。セイレーンのレッスン中か?
耳障りだからカラオケボックスでやれよ、まったく。

神社へ到着。
事務所へ向かい巫女さんに会う。
「え? もう御札ダメになったんですか?」
すみません。どうも諦めが悪い奴らしいです。
「そこまで想われているなら、話ぐらい聞いてあげても良いと思うんですけどねえ…」
自分が好きなのは人間です。
「そうですかぁ。まあ頼まれたなら仕方ありません。はい、新しい御札です」
巫女さんから新品の魔除け札を貰う。
どうもありがとうございますと頭を下げ――ちょっと、耳と尻尾出てますよ!

御札をもらい家へ帰る道。
白い物が空から降ってくる。雪…の季節ではない。
となるとケサランパサランか。変にハイになる前に急いで帰ろう。
体も温まってるし走る。

再び家に到着。あれ? 電気がついてる?
「おかえりー。晩ごはん作っといたよ」
エプロン着けた幼馴染。合鍵まで渡されてるからって食事まで作るというのはどうなんだ。
「はい、今日はカレーだよ。変な物は入ってないから安心してね」
あいにくと自分は疑り深いんだ。強い味に紛れ込ませて何か混ぜているんじゃないか?
「本当に何もないってば。あなたのお義父さんとお義母さんに任されてる私を少しは信じてよ」
お義父さんお義母さん言うな。とっとと自分の家へ戻れサキュバスが。

風呂に入り就寝準備。
御札を貼り直して今日も快眠…と思っていたら外から音が聞こえた。
カーテンから覗くと庭に誰かいる。女の上半身に馬の下半身。
…ナイトメアの夢にもこの御札は効くんだろうか?
11/11/02 18:40更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
突発的に書きました。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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