連載小説
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突撃(笑)
 なんだなんだ、と賊が出てくる。多分見張り役か何かで、外に行って来いと言われたのだろう。かわいそうな奴だ。
 「・・・・・・突撃させろ。」
美弥と葉月に号令を出し、屍を突撃させる。相手は賊のねぐらとしている廃坑の入り口。丁度、美弥と葉月の身長では死角となる。
 「・・・・・・。」
 だから、気が進まないがあの賊の一人には屍の餌になって頂こう。その方が俺たちにとっては利がある。
 
「・・・・・・」
魔力干渉を行い、美弥と葉月の屍の「キヅナ」と呼ばれる操り糸を奪う。
糸とは言っても目には見えない、空想上のものだ。
ただ、それは操っている屍が奪われた時に発動する感知術式の様なものだ。

その感知術式(正確には感知術式ではないがここでは感知術式とする)の強奪のために、俺は今回「オリジナル」を用意した。

札の紋を書くのには時間がかかったが、彼女たちに人殺しの手伝いをさせたと感付かれない様に作ったダミーの「キヅナ」を握らせてある。気付かれる事はない。

気付かれるとしたら・・・・・・そいつは化け物だろう。

「・・・・・・。」
奴の断末魔が聞こえないように、一口で喰らわせる。それはこの「クチ」と呼ばれる怨念と魂の補給器官の能力を増幅させた「オリジナル」でしか無理であろう。

「・・・・・・。」

狐たちの心に傷をつけないように敵を屍に屠らせる能力。
それが俺が此処まで早く実戦に起用された理由であろう。
・・・・・・だから、突然やってきた俺に役を奪われて恨んでいる奴も多い。だから、俺は好意を寄せている狐たちに甘いのかもしれない。
 此処に来て、そのかた好意というものを寄せられた事のない俺だ。甘いのも当然、純粋な嬉しさと喜び、そんな感情から来るものだ。

「・・・・・・。」
そんな好意を寄せてくる狐たちの心を誰が傷つける事が出来ようか。当然、俺には出来ない。
 だから俺はこの屍を作り、人を殺す。捕獲作戦なんて嘘。
 これは優しさとも言えるし、残酷さとも言える。俺には残酷さにしか感じられないのだが。




「・・・・・・。」
頭からバリバリと賊を喰らう屍。そこに上がれば多分、賊の脳漿や脊髄液、内臓、等の蛋白質が転がっているだろう。

 ・・・・・・絶対にコイツを見せる訳にはいかない。

そう思いながら屍を廃坑の奥へと進める。
計14体の死神は、ただただ人を食らうために。

腐る腕や脚を動かし、俺の思いすら知らずに。


        §

「・・・・・・十四体目が・・・・・・死んだ?」
驚いた。
屍はすぐに腐り、朽ち果てるものだが、これは早すぎる。
多分消滅させられたのだろう。

「それが頭ですか?」
「多分。」

今回は屍の「キヅナ」を暗号化していない。もしかしたら賊の頭に捕られたかも知れない

・・・・・・そうすると、奴は他の使えないクズよりも強い配下を得た事となる。

「やばいな。」
そう言って、簡易転移術式の陣を書く。その上に自分の体の一部、(髪の毛や血液など)を置く。

「お前たちは来るなッ!俺は単騎突撃するッ!!」

簡易術式だから、短距離移動しか出来ない。だけどその陣に膨大な魔力を如月から流し、距離を増幅させる。

ここで如月が魔力を注ぐ事をやめれば、多分俺は自分自身が作った屍に食われるだろう。

屍に物理攻撃と呪術は効かない。無論命あるものではないためだ。

それの「キヅナ」を奪われれば、ダミーの「キヅナ」を持つ葉月と美弥が危ない。無論、一度所有権を持った事のある俺もである。
 
 「キヅナ」がダミーで狐に繋がっている事を知れば、奴は多分狐を屍から魔力を逆流させて操り、喰らわせるだろう。そうすれば、屍は狐以上の力を得て、朽ちる事はなくなるだろう。

つまりは、チェスで言うクイーンがニ体製造できる、ということだ。

今回の失態は俺が高をくくったためである。

奴を殺さなければ、二人の命が危ない。

そう思いながら転移術式を展開させた。
12/07/18 17:47更新 / M1911A1
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■作者メッセージ
(笑)をつけない方がよかった気がするけどまあいいや。

さて、如月は転移術式をどうするのか!?

次は如月が裏切り者なのかどうかが分かると思います!?

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