連載小説
[TOP][目次]
その2
私が執務室にいると、慌ただしい足音が聞こえた。
「報告します!!!」
執務室のドアが荒々しく開き、へし折れた剣を持った警備兵が叫んだ。
「何事だ!?」
尋常ではない雰囲気が感じ取れる。
「敵襲です!!!」
「何者だ?数は?」
「不明!数は・・・1人です!!!」
「!!!まさか!」
報告書の男か?丁度いい、ここで捕らえてくれる。
「状況を報告しながら案内しろ。」
「はっ。現在城門にてティール様、フレイヤ様が警備兵を率いて交戦中であります。
 しかし・・・押されております。」
「何!?あの2人がいて押されているのか・・・」
報告を受けながら城門にたどり着いた私の目に映ったもの・・・それは・・・
「ティール!フレイヤ!!」
そこには全身をローブに包んだ長身の男がいた。
その周りにはティールとフレイヤを含む警備兵達が倒れている。
「こんなものか?魔界の魔王軍ってのも案外大したことないな・・・」
「くっ・・・」
よかった、皆息はあるようだ。
「貴様が噂の超人とやらか?」
「そう呼ばれているらしいな・・・」
ローブの男はため息をつきながらこちらを向いた。
「フン。突然押しかけてきてそれか。不躾な人間め。」
「聞きたいことがあるだけなんだ。こいつらにもそう言ったんだがな。」
倒れている連中をあごでしゃくりながら頭をかいている。緊張感のない奴め。
「大人しく縛につけば教えてやらぬでもない。」
「そりゃお断りだね。単なる尋ね人なんだけどなぁ。」
「ほう。冥土の土産になるかもしれぬ。言ってみろ。」
「お、あんたは話が通じそうだな。う〜ん・・・情報があやふやで悪いんだが黒竜を探している。」
「黒竜だと?」
「以前ミズガルズ砦を守護していた黒竜を探している。残念ながら名前は知らん。」
「フン。知らぬでもないな・・・」
「!!!ここにきてようやくヒットか!さて、教えてもらおうか。」
「言ったろう?縛につけば教えてやらぬでもない、と。」
「なら腕づくで聞くしかなさそうだな・・・」
「人間風情がやれるものならな・・・」

男は背中に背負っていた長剣を抜いた。
あの剣・・・どこかで・・・東国にある刀という武器か・・・
「まぁオレの信条で命は取らないでやるよ。峰打ちって奴だな。」
「ほう・・・人間ごときが調子に乗るなよ?」
「じゃあ・・・行くぜ!」
男が地面を蹴り、目にも止まらぬ速度で突進してきた。
!疾い!!!躱すのがやっとだと?
そのまま男は刀を振り、私を打つ。
「くっ・・・」
なんという馬鹿力だ・・・峰打ちでこの威力とは・・・
吹き飛んだ私は男に炎を吹きかける。
直撃!死にはしないだろうが、しばらくは動けないだろう・・・
「そんなもんか?」
炎が引き起こした粉塵の向こうにはローブのまま傷ひとつない男が立っている。
「オレもローブもトクベツセイって奴なんでね。本気で来いよ・・・でないと・・・」
再び男が剣を構える。
「臨むところだ!」
懐かしい感覚に体が震えた。この男・・・あの思い出の人間に匹敵するほど強い・・・
楽しい。久々に楽しい。我を忘れて戦闘にのめり込んでいった・・・


一合、二合と斬り結んでも決着はつかない。
強者に相対した時の興奮と同時にふと違和感を感じた。
なんだ・・・何か懐かしい・・・?
匂い?・・・!この匂いは・・・・!
そんな・・・馬鹿な!まさかこいつは・・・!あの男・・・
戦闘中だというのに思わず体が動かなくなる。
そんな私の様子を見て男も手を止めた。
「・・・?どうした?」
心臓の音が煩い。顔が熱い。下腹部も熱い。
体の疼きはどんどん強くなっていく。
「調子が悪いんなら出なおしてくるぜ?弱っている相手をいたぶる趣味はないんでな。」
また来る、と言い残して男は踵を返し、去っていった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・


「怪我人、収容しました。」
「ご苦労。ダークプリーストの回復魔法も活用して治療せよ。」
「はっ。」
執務室の椅子に深く腰掛けた私はため息をつく。
少し冷静になってきた。一度今日の出来事を整理しよう。
あの男だ・・・私がミズガルズ砦で竜の姿であった頃にしのぎを削ったあの男。
ミズガルズ砦の黒竜を探していると言ったな・・・私を探しているのか?
なぜ?恐らくあの時の決着をつけるためか?
同じ思いでいたことに少しだけ嬉しくなる。
しかし・・・私はこの姿となったことをあの男に知られるわけにはいかない。
知ればあの男は落胆することだろう。
なんとか・・・知られない方法はないものか・・・
あろうことに私は黒竜を知っていると言ってしまった。
あの男はまた来ると言った。
くっ・・・結局決着をつけるしかないのか・・・
もしくはあの男を謀るか・・・いや、それも私の誇りが許さない。
何より折角決着をつける機会が再びやってきたのだ。
今は・・・このまま・・・
「・・・様?ヨルムンガンド様!」
「はっ!?ウリルか・・・」
目の前にはゾンビメイドのウリルがいつもの通りやけに露出の多いメイド服に身を包み、
無表情で首を傾げてこちらを見ている。
「ノックしてもお返事がないので入らせて頂きました。
 お手紙が届いております。」
「うむ・・・」
「・・・いかがされました?ご様子が・・・」
「いや、何でもない・・・治療が終わり次第、皆の者を会議室に集めよ。
 本日の敵襲について話がある。」
「・・・承知致しました・・・では失礼します。」

あの男・・・トールと言ったか。
トールと戦えるのは恐らく私だけであろう。
捕らえるのならば、相応の戦力を揃えなくてはならない・・・
しかし私の闘争本能はあの男との一対一の戦いを望んでいる。
迷ってはならない。私は今や一地方を預かる領主なのだ・・・
頭を振りながら、思考の海に沈んでいると、ノックの音が聞こえた。
「ヨルムンガンド様。全員を会議室に集めました。」
「ご苦労。」
会議室へ向かおう・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・以上、あの男は我々だけで確実に仕留められるとは限らない。
 ここは援軍の要請の上、奴を待ち受けるべきだと考えているが皆の意見を聞きたい。」
「・・・」「・・・」「・・・」
皆黙っている。これでいい。援軍を呼び、あの男を捕らえることが私の役目。
一対一を楽しむのは・・・もう終わったのだ・・・
「・・・私は反対です。」
リザードマンのティールが発言した。
「ほう。理由も述べてみよ。」
「現在、奇襲攻撃を一度受けた程度。それにたった1人に援軍を呼んでは我々の名折れです。
 今一度あの男と戦う機会を頂きたいと思います。」
「私もティールに賛成ですね。」
今度はフレイヤまでもか。
「なぜそう思う?」
「ティールの言ったことに加えて・・・あれだけの男・・・みすみす他の連中に渡すのは惜しい。
 そう思ったのです。」
そうか。ティールも言わなかったが、恐らくフレイヤと同じことを考えているな・・・
「・・・私も・・・」「私も!」
皆が次々に賛成していく。
より強いオスを求めるのが魔物娘の本能とはいえ・・・
「・・・そんなにいいか?あの男が・・・」
「ヨルムンガンド様、わかってないわぁ〜」
即フレイヤから茶々が入った。
「あの強さ・・・是非我が夫としたい・・・♥」
とティール。
「ローブからチラッと顔見えたけどかなりいい男だったわぁ・・・♥」
とフレイヤ。
「・・・あの方は襲ってくる魔物娘を撃退しても・・・自分から襲いかかったり殺したりはしないそうです・・・
 ・・・優しそうな方・・・♥」
ウリル、お前もか。
「・・・仕方ない。意見を聞き入れよう。あの男なら諸君を殺すこともなかろう・・・」
「ヨルムンガンド様はあの方を何とも思わないの?」
「私は人間ごときに欲情などしたことはない。」
「あら。不思議だわぁ・・・」
「なぜかはわからんがな。人間の男を見ても何とも思わない。
 さて、話は終わりだ。次回奴がきたらこの砦総出であたるが、援軍要請は行わない。
 怪我人はそれまでに怪我を治しておくように。以上だ。」
私は会議室を後にした。
しかし・・・今日は戦闘中だというのに体が動かなくなってしまった。
あれは一体何だったのだ?次回以降起こらないとよいが・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・


ヨルムンガンドが去った会議室にて。
「ヨルムンガンド様が興味ないなら競争率下がるわぁ〜。」
「ヨルムンガンド様が欲しがったら我々では太刀打ちできないからな・・・」
「・・・でも・・・どうして領主様は男性に興味がないのでしょう・・・?」
「どうしてでしょうねぇ?」
「男に興味がない魔物・・・非常に珍しい方だ。」
「私も興味ないですよ〜?ダーリンがいますから♥」
「ええい、幸せ者には聞いていない!」
「心に決めた人がいるのなら、そりゃ他の人には興味ないでしょうねぇ♥」
「えへへ〜♥」
「ともかく、次こそ奴を捕らえて夫としてやる。・・・その前に怪我を治さなくてはな・・・」
「そうねぇ・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・


「とうとう手がかりを見つけたか・・・」
思わず笑みが浮かんでしまった。黒竜。戦うことを初めて楽しいと感じた我が好敵手。
「こんなことなら名前聞いておけばよかった・・・」
思わず苦笑してしまう。
レスカティエに来てから驚きの連続だ。
魔物は人間を性的に食うだけで、殺すことはしないし・・・
魔界だけあって景色は少し不気味だが飯はうまいし、街の活気もある。
何より美人揃いだ・・・思わずにやけてしまう。
しかし・・・今日訪ねた古城の主は飛び抜けていた。
種族はなんだろうか。
黒々と艶やかな長髪。
髪と同じく黒い瞳の大きな目。
涼しげな目元に、筋の通った鼻。小さな口と顎。
まさしく絶世の美女だった。
ほっそりとした肩にくびれた腰。
そのくせ胸と尻だけは豊満だった。
髪や瞳と同じく漆黒の鱗に覆われた尾と手足。
思わず傷つけるのをためらってしまった・・・
「おっと、いかんいかん。」
そう。あの領主を倒さなければ黒竜の情報は聞き出せない。
思いっきり好みの美女と戦うのは気が引けるが・・・
「さて、とりあえず宿を探すか!」
男は街の雑踏へと消えていった・・・

12/05/04 05:25更新 / もょもと
戻る 次へ

■作者メッセージ
その2です。
エロありタグなのに描写が未だございません。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33