連載小説
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第四話
はい。そうしているうちに冬が到来し、私はそのまま飯井羽町で年を越すことになりました。
偶に雪も降って、いつもの仕事の他に食堂や市役所の回りの雪かきも手伝いましたよ。
ええ、まあ雪かきの方は重機の様なものはありませんが、力の強い魔物のお陰でそれ程の時間は掛かりませんでしたねぇ。
まあこの季節になると家に籠りきりになる住民も多いので人手は不足気味だそうですが。

季節が変わっても私の仕事はあまり変わらず、偶にネネコや近所の子供たちと雪合戦に参加していたりしたのですが、ある日町長夫妻からお話がありました。
一緒に外国に行ってもらいたいと。
はい、私もそれだけでは今一よくわからなかったのですが、話を聞いていくと魔物達の学会ではなんでも異世界に関する調査が研究の一つに上がっていて、飯井羽町の周辺でも前々から別の世界に繋がっているという噂があったので調査対象になっているようなのです。
そして今回約百年ぶりにその別の世界から、それも人間一人がやってきたものでその情報を受けた研究グループは騒然となり直ぐにその人間を調べたいのでこちらに連れてくるようタマグシさん達に連絡が入っていたそうなのです。
しかしタマグシさんはこちらの世界に迷い込んで来たばかりで混乱している私に悪いと判断してくれていたようで、数か月間その返事を保留にしていたそうなのですがその間その研究グループからしつこく連絡が来ており、私も魔物の世界に来てからそれなりの時間が経ち慣れてきたようなので今回この話を持ち掛けたのだそうです。
その研究グループがある場所はレスカティエと言う名のジパングから遠く離れた場所らしいのですが、タマグシさんは調べると言っても簡単な検査だし、自分達も同行するので海外旅行だと思って安心して欲しいと頼み込んで来ました。
はい、私としてはもちろん不安はありましたよ。なにしろ初めて飯井羽町以外のこの世界の場所に行くことになるし、本当に行われる検査はどんなものなのは分かりませんからね。
しかし、これまでタマグシさん達には本当にお世話になっておりましたしここで頭を下げられたら流石に断る訳にも行かないでしょう。それにこの世界の外国に好奇心がないわけでもありませんでしたから、町長夫妻も同行してくれるなら心細さも薄いだろうと私はその頼みを了承しました。
それを聞いた町長夫妻は安堵した表情を浮かべると、本当に申し訳ございません。検査以外の時間はレスカティエを観光できるようにガイドも手配させますからとおっしゃいました。
まるで本当に観光旅行をするようだと思いながらいえいえ、そこまでされなくとも結構ですよと言いましたがタマグシさんは「いえ、せっかくレスカティエまで行くのに検査だけではあまりいい思い出にはならないでしょう。私たちも同行はしますが他にレスカティエでしなければならないこともありますし、あなたをレスカティエの大学院に一人残して行くのはこの町の市長としては無責任でしょう。」といい、「そうだ、どうせなら『川の箸』の方々も一緒に観光するのはどうですか?仲の良い人達が一緒なら学院の外でも行動しやすいでしょう」となんと自分だけではなく「川の箸」の皆も同行するのを勧めてくれました。
私はそんないきなり「川の箸」の皆に悪いのではと言いましたが、「川の箸」に連絡した所、あっさりと同行の了承を得てしまいました。
諸々の費用は常識外れでない限り、タマグシさんや向こうの研究グループが出してくれるそうなので、滅多にできない海外旅行に行くべく皆食堂を一時休業にして一緒に来てくれることになりました。
ネネコなどは生まれて初めて海外旅行に行くのでとても喜び、大はしゃぎの末に私に飛びついた際に食卓をひっくり返し女将さんに大目玉を食らっていましたよ。



はい、そうしてレスカティエへ出発の日となり旅支度を終えた私たちは指定された町のはずれの野原に来ていました。町長夫妻は既に到着していて私たちを待っていましたね。
タマグシさんは私の側までいくと、なにやらお札の様な物を渡してきました私はこれはなんですかと質問しますと、貴方の身体に魔力が入り過ぎないようにする護符ですと言われました。
ええ、その時一体何のことなのか今一よくわからなかったのですが、魔物化の話はもうしましたよね、はい、魔物化と言うのは一般的に人間の体内に魔力が溜まった結果なるそうなのですが、飯井羽町ではある理由からタマグシさんが結界を張っており、人間の体内に魔力が溜まって魔物にならないようなフィルターの様な役割をしているそうなのです。
なにせ魔物の住む土地は「魔界」と呼ばれ、魔物の魔力に溢れた土地なのでそこにいるだけで人間は魔物になってしまうそうなのです。
はい?魔物は人間を魔物化させるのに抵抗は無さそうなのになんでそんな面倒そうなことをしているのだと?はい、私の場合は元の世界に帰る気のある客人なので本人の意思でない魔物化は流石に失礼だろうと町の外に出る際に護符を渡してくれたのですが、もちろん結界はそれ以前に張られていたので違いますよねぇ?
ええ、その場ではその結界を張っている理由は説明されませんでした。
そして護符を渡したタマグシさんは先の様な説明と町の外にいる間護符を肌身離さず持っていることとレスカティエの中心部、それも城の方へは近づかないことを注意すると、そろそろ来る頃だとおっしゃいました。
私は何が来るのかと聞こうとすると、その場に大きな猪の様な動物が、二階建てのバスの様な巨大な牛車らしい物をかなりの速さで引いてきました。
はあ、バスなのか牛車なのかどっちだと?そうですね、木製の大型バスに屋形船のような二階と牛車のような巨大な車輪が付いたものを想像してくれれば、そんなようなものでしょうかね。
私たちが牛車の中に乗り込むと、その猪は一声鳴いて出発しました。タマグシさんが牛車の中で説明してくれたのですが、この巨大牛車を引いている生き物は魔界に住む魔界豚という動物で長距離バスの様にジパング地方を巡回する移動手段になっているそうです。

牛車の中は少し小さな家くらいの広さで大きめのテーブルや椅子が並べてあり、その側には売店が設置されていて、店員らしい飯井羽町でも何度か見かけたような狸の魔物が座っていました。それと外から見た通り二階もあるようで、階段の辺りに掲示された案内を見ると二階は寝台車の様になっていていくつかの寝室があるようでした。
はい。まあ、そういうことにももちろん使用はされているのでしょうな。
窓の外を見るとかなりの速さで舗装もされていない場所を走っているにもかかわらず、不思議と揺れていない車内で私たちは売店で頼んだ茶を飲みながらこれから行くレスカティエについて話しました。

はい、レスカティエという国は、元々は主神教の教団が中心となっていた国家だそうで、教団の戦力の中でもかなりの勢力を持っていた所だったそうです。なんでも勇者と言うですね、普通の人間よりも戦闘力のある戦士を何百人と抱えていたそうです。はあ、その勇者はどれくらいの戦力ですと?ええ、私も結局あちらの世界の勇者を見ていないので具体的にはどのようなものだったのかは余り分からないのですが、なんでも一般的な勇者なら普通の人間では手も足もでない魔物と互角以上に戦い迂闊に手が出せなかったそうですから、戦力的な立ち位置では兵士と言うより戦車のような「兵器」とも言うべき扱いだったかもしれませんねぇ。
それで、そんな勇者を大量に抱える国な物ですから魔物側にとっては相当な脅威だったらしいのですが、魔物側の幹部である魔王の娘の一人によってあっさりと陥落してしまったのだそうです。
ええ、もちろん我々の世界とあちらの常識は違う所もありますし、レスカティエの広さはこちらの国と比較してどの程度かもよく分かっていないのですが少なくとも首都の周辺は一日足らずで白旗を上げることになったそうです。
これはなぜかと言いますと、侵攻を指揮した魔王の娘はレスカティエの住民たちを一気に魔物へ変える手段を取ったそうなのです。
まあ、これは効果的でしょう。わたしは軍事だのそういうことには素人ですが単純に考えれば感染力の高い細菌やウイルスをばら撒くもので、しかも敵を無力化させるだけでなく、味方にさえしてしまう訳ですからね、更に魔王の娘は都に居た勇者たちを優先的に魔物化させていた様で、魔物側となった勇者たちはより多数の人間を魔物化させていったそうでレスカティエは爆発的に魔物が増加していったらしいのです。
はあ、そんなにあっさりと陥落させられるのならもっと早い段階でレスカティエを陥落させていたのではと?はい、まあ自分もあちらの世界の歴史は深く調べてはいないですし、レスカティエが一体いつから興ったのかなどは分かりませんが、流石に一国を占領するという大事は緻密な計画も念入りな調査も必要でしょうし、それに聞いた話なのですがその中心人物の魔王の娘の行動スパンはとても長いらしくどうも一度大仕事を終えると数十年は動くことがないそうなのでそれもあるのでしょうねぇ。
それに、侵攻が行われた頃のレスカティエは内部に多大な問題を抱えていたようで、なんでも社会の格差が酷く、かなりの重税があって貧民街も少なくなかったそうです。主戦力であった勇者たちもまあ我々の世界で分かりやすく言えばブラック企業のオーバーワークと言いますか、さっき兵器と例えましたが一人の人間として扱ってもらえない状態で国に対して不満を持つものが大半だったそうなのです。
ええ、そんな有様だったのなら猶更外部からの侵攻に対して弱くなっていたでしょうし、たとえ魔物側の侵攻が無くても遅かれ早かれ国の内部から崩壊するかいずれにしてもただではすまないことになっていたでしょうねぇ。
まあそうして占領されその魔王の娘の一人が統治を行っているのが今のレスカティエなのだそうです。
まあ、私はその時点ではどうも物騒そうなところだと思いました。元々ジパング地方の外の魔物は気性が荒い者も多く、更に色々な問題を抱えていた国家を占領統治している状態ですからね。トラブルの多そうな場所というイメージがしましたね。

そんな話をしていて自分はそういえばレスカティエまでどんな交通手段で行くのですか?船で行くのでしょうかと質問しました。タマグシさんの夫の町長秘書は「いえ、大使館に行けば後は時間は掛かりませんよ」と答えました。
それはどういうことなのかと質問しようとすると、アナウンスなのか『まもなく、レスカティエ大使館前、レスカティエ大使館前』という声が車内に響きました。



巨大牛車を降りると、目の前には立派な洋館が立っていました。はい、飯井羽町でも大きな建物だった市役所よりも大きく、豪華な外観をしていましたね。私たちの直ぐ正面には門があり、その門のデザイン自体はまあ普通だったのですが奇妙なことに門の上の片側にだけ彫刻が置いてあり、その彫刻は今まさに男性に覆い被さって性交に入ろうとしている魔物の姿で、そんなものを玄関に置いていくセンスにはこの世界に慣れてきた私も久々に面食らいました。そして敷地内の建物の手前には大きな赤い眼とコウモリの翼がついた黒い十字といった画の旗が掲げられており、恐らくはあれがレスカティエの国旗でつまりここがレスカティエの大使館ということなのでしょう。それに自分達がいる正面の門より内側の敷地は心なしか、このジパング地方とはまた変わった不思議な雰囲気の空気が漂っているようでした。
自分はここでビザやパスポートの類でも受け取るのだろうかと考えていると、いきなり門に付いていた彫刻が動き出し、私たちの前に降り立ちました。私や川の箸の一家が驚いている中で町長夫妻はその彫刻となにやら私たちの身分証明に関する会話をしていて、話が終わると彫刻はまた門の自身がいた位置に戻ると先ほどと同じように身動き一つしなくなりました。どうやらこの彫刻も魔物で、警備員の様な役目をしているようです。
はい、そして私たちが館の玄関の目の前に来ると扉が開き中には黒い角と翼と尻尾を生やした青い肌の魔物が、その魔物を幾分か小さくしたような少女を二人連れて立っていました。

――ジパングの皆さま、初めまして。私がジパング地方レスカティエ大使館の大使を務めるデーモン『レーベ・リズカッセ』です。
そう自己紹介した女性――レーベ大使はまず、私たちを館内の豪華な応接室へと案内してくれました。ええ、まあそもそも建物の様式が違うので比べるのもおかしい話ですが、私があちらの世界に来たばかりの時に案内された市役所の応接室よりも広く豪華な内装で床には綺麗な柄の絨毯がしかれ、壁には私たちの世界では見たことのない不思議な色合いの絵画や透き通るように白い髪、翼、尻尾、肌を持ち赤い瞳を輝かせる魔物の肖像画が飾ってありしましたね。ソファはこれまたふかふかとしていたのですが私は流石に落ち着きませんでしたよ。町長夫妻は慣れているのか平然としていましたが川の箸の三人は私と同じようにこんな部屋へは入ったことがないのか緊張している様子でした。
レーベ大使は後ろにいた青肌の少女に人数分のお茶を用意させると、「申し訳ないのですがポータルの準備にもう少しだけ時間がかかるのでここでお待ちになってください」と言いました。私はそのポータルという言葉の意味が分からなかったので質問してみますと、そのポータルというのは魔法によって繋がった地点を一瞬で移動できる手段のことで、はい、所謂私たちの世界のSF作品に登場するような転送装置のようなものでしょう。レスカティエの大使館には本国へ繋がるポータルが設置してあり、どうやら私たちはそれを使ってレスカティエへ行くそうです。
そして他にも大使の種族「デーモン」やその部下の種族「デビル」は飯井羽町でも見かけた事が無くジパング地方に殆どと言っていいほどいないこと、ジパング地方は人も魔物も保守的なので最近やっとこの大使館を建てる許可が降りた事などの話をしました。
ええ、なんでもレスカティエを統治している魔物達は「過激派」と呼ばれる勢力でもあり人間を積極的に魔物にすることをモットーとしており、デーモンやデビルは代表的な過激派の種族であるのだそうです。そしてジパング地方の魔物は元々人間と共存しているようなものなのでどうにもその思想が合わないらしく、そういった魔物の国家との外交は慎重的かつ警戒気味なのだとか。
はい、まあ我々の世界でも外国の文化が受け付けないというのはよくある話ですからねえ、こっちにも今までの文化があるだろうし、あまり強引に進められれば反発もするでしょう。
しかし、あの魔物たちの場合は、根っこの部分は同じなのだと個人的に思ってはいるのですがねえ。

そんなこんなで会話をしているうちに準備が終わったようで、私たちはポータルのある部屋へと案内されました。部屋の中はシンプルで、中央の床には俗に言う魔法陣のような、複雑な図形が描かれ、その図形を囲むように柱が数本立っているほかは特になにもありませんでした。そして私たちが大使の案内で図形の内側へと足を入れると大使が図形に触れ何事かを呟きました。すると、なんと図形が光りだしたと思うとまるで立体映像のように描かれていた図形の一部が私たちの前に浮かび上がり更に目の前の景色がぐるぐると回転し始めました。そんな中私はこの体験に酔ってしまったのか気持ち悪くなってきてしまいましたねえ。



気が付くと、図形は元の様に床に単なる線として横たわっていて私たちの目の前の景色は先ほど案内された部屋と同じようでした。その時本当に自分は外国に着いたのか疑問に思いましたが、私たちが部屋の外へ出ると大使館ではない建物の廊下に出ました。大使の説明によると、ここは各国のレスカティエ大使館に繋がるポータルが集められた、我々の世界の駅のような場所でジパング地方の他にも「魔王が直接統治する王魔界」、「竜の楽園ドラコニア」、「精霊と自然の国ポローヴェ」、といった場所へ通じるポータルが設置してあるそうです。どの場所もあまり詳しくは調べていないのですが、王魔界は魔王の居城があり、飯井羽町やレスカティエのように魔物たちの住む土地「魔界」の中で最大の広さを持つ所、ドラコニアはその名の通り竜の女王が統治するドラゴンたちの国、ポローヴェは精霊と呼ばれる自然現象が擬人化し更に魔物となった存在の研究が盛んな国、と聞きました。
大使は出入り口のあるホールまで案内してくれると「それでは、改めてようこそ、レスカティエへ。お帰りもこちらからになりますのでどうかそれまでこの国を楽しんで行ってください。」と言ってうやうやしくお辞儀をしました。

それで、大使と別れて建物の外にでると、私が今まで見てきたジパング地方のものとはまた変わった街並みが目の前に広がっていました。はい、所謂建物やらなにやらは、15世紀から17世紀のヨーロッパのものに近い感じだったのですが、これまた沢山の人や魔物がいて、ここだけでも飯井羽町よりもかなり賑やかそうでした。そうして私や川の箸の一家が初めて見るこの世界の都会の一端に感嘆していると、ブロロロ…といった音がしたかと思うとなんと少し大型の、リムジンのような自動車がこちらに走ってきて止まりました。はいはい、私も驚きましたよ。今までこの世界の文化は魔法などがあるとはいえ基本的に産業革命などが起こる前くらいなので、見かけた機械の類など時計くらいのものでしたからね。まあ自動車のデザインはリムジンのようなとは言いましたが、それはあくまでシルエットの話で我々の世界とはまた大分違ったものでしたね。
私が抱いた印象は他の人も似たようなものだったようで、町長夫妻や川の箸の一家も程度の差はあれど驚いていたようでした。そして自動車の中からサキュバスが降りてきました。ええ、サキュバスという魔物は魔王の種族ということもあって、この世界ではもっともポピュラーな魔物で飯井羽町でも結構な数が定住しているようです。さて、話を戻しますがそのサキュバスははきはきしたよく通る声で「ジパング地方飯井羽町町長タマグシさま御一行ですね!初めまして!今回の案内を務めさせて頂きますミシェル=ミシェルです!」と言いました。
タマグシさんは「初めまして、貴女が手配したガイドさんでしょうか?ガイドの前に大学院からの迎えが来ると思ったのですが」と尋ねました。ミシェルと名乗ったサキュバスは「はい!レスカティエ大学院から皆さまの送迎に参りました!まずは大学院へ皆さまを案内させて頂いた後、自由時間での市街地のガイドをさせて頂きまーす!」と随分と高揚した様子で答えました。
次に川の箸の旦那さんが「その、あんたが乗ってきたその馬が付いていない馬車みたいな乗り物は何なんだい?」と疑問を口にしました。ミシェルさんは「いい質問ですね!これぞ我が大学院の研究チームが先史文明の古代遺跡から発掘した資料を元に魔法工学科が開発した魔力で動く駆動4輪車でーす!今回の各所への移動及び観光はこれで皆さまを送迎させて頂きます!」と先ほどと同じように不必要に感じるくらいの気分の高さで答えました。タマグシさんは初めて見る自動車に流石に警戒していたのか、「すみません、貴女がたの自信は分かりますが、私も町長として町民の安全を考えなければならない立場ですし、今回は特に念に念を押して安全を確認したいのですが、本当にその乗り物は危険ではないのですか?」と質問しました。ミシェルさんは「大丈夫ですよ!大学院の敷地外に出すのは今回が初めてですけれども何十何百と試運転を行って欠陥を直していきましたし、理事長からも今回の送迎に使用することにちゃんと許可を貰っております!あらゆる魔物国家でこれと同じような車が走り回る未来も直ぐそこですよ!どうかご安心ください!」と言い、私も「私の故郷でもこれと似たような乗り物が一般的に使われています。こちらでもガイドさんの言う通り偉い人の許可は取っているし、何回ものテストを重ねているなら大丈夫でしょう。」と説得をしました。最終的にタマグシさんも折れ、私たちはその自動車に乗り込むことになりました。

はい、車の内部は大体が我々の世界と一緒でしたが、これまた魔法を使っているのか外から見たよりも少し空間が広いように感じました。天井も少々高くその分窓が大きくなっていて観光にはおあつらえ向きのサイズでしたねえ。後は、運転席の方にも窓が付いていてそこからはこの車の運転手なのか緑色の髪で獣の様な大きめの耳が頭についた子供程の背丈の魔物が運転席に座っていました。はあ、よくそんな体格の者が車を運転できたと?いえ、そもそも運転席が彼女のサイズに合わせた大きさのようで我々のような成人が運転するには窮屈そうでしたね。ミシェルさんの紹介によると、彼女の名前はゾーヤでグレムリンと言う種族のようです。
なんでもこの世界でも今の文明の前には複数の文明が栄えては滅んでいた様で、そうした未知の文明の遺跡では時折人のものでも魔物のものでもない技術に基づく機械が発掘させることがあるそうです。グレムリンはそうした機械に強い魔物で、先ほどのミシェルさんの説明のようにこの自動車も遺跡にあった機械の残骸などから彼女たちが再現したものであるようのなのです。
はい?その自動車の乗り心地はどうだったと?はい、私たちはその自動車でレスカティエの大学院に向かったのですが、窓の外を見るとこれまた凄いスピードで走っていた様でものの数分で目的地に到着しました。車内は飯井羽町から大使館に行く際に乗った牛車のように余り揺れてなかったのですが、今回はタマグシさんが何か術を掛けていた様で、車から降りた時にミシェルさん達に次は今回の半分以下のスピードで運転をしてほしいと忠をしていました。



さて、私たちはレスカティエの大学院に着いたのですが、この大学院もかなり立派な外観の建物で元々は教団の国だった頃のレスカティエの貴族の住居を改装したものらしいのです。学院の中に入った私は受付で確認手続きなどを受けたあと、いよいよ検査を受けるため一旦川の箸の一家には別の場所で時間を潰してもらうことにして、町長夫妻と共に学院内の医務室へ向かうこととなりました。
ええ、まあやはり緊張はしましたね。病院の人間ドックに行くようなものでしたが向こうの世界ではどんな風に検査するをするのかいまいち想像がつきませんでしたからね。知人である町長夫妻が付き添っていなければ、更に不安だったことでしょう。

そうして医務室についた私たちが扉を開けると、今回の検査の担当医らしき人物が椅子に座っていました。はあ、らしき人物ということはその人は担当医ではなかったと?いいえ、その人、いや魔物はちゃんとこの大学院に勤める医者でしたよ。しかし、その、最初彼女を見た時はとてもそうとは思えなかったのですからね。ええ、その魔物の格好でしたが、まず白衣――まあ暗い色合いでどちらかというとグレーだったのですが一応白衣としておきましょう――をかなり着崩すかたちで羽織っていたのですが、その下には――何も来ていませんでした。
ええ、はい。君も戸惑うのも無理はないでしょう。私も戸惑いましたから。しかしこれは冗談でも比喩表現でもないのですよ。彼女は“上に白衣を羽織った他は全裸”でした。はい、はい、そも、向こう世界の魔物というものは露出の多い衣装をするものは珍しくなく、かなりきわどい格好で我々の世界では職務質問されかねない程のものも多かったのです。ですが、彼女のように最低限隠すべき場所さえ碌に隠せていない格好をしたものを見たのは初めてでしたねえ。しかも恐ろしかったのは私以外、少なくとも町長夫妻や学院内の方々はアンデッドらしい血の気の失せた肢体を惜しげもなく晒すその格好に言及することなくまるで普通に彼女に接していたことでした。恐らく私があちらの世界で一番のカルチャーギャップを感じた出来事でした。
そして、私が混乱している中その医師は開口一番「やあやあ、君がはるばる異世界から来てくれた人間だね。では早速精液を提供して頂こうか。」と言いました。正直、この時は一刻も早く飯井羽町へ帰りたくなりましたよ。

17/10/27 22:54更新 / MADNAG
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■作者メッセージ
たいぶ遅れてすみませんでした。次回も遅くなりそうです。
後、今回のレスカティエの描写は大分作者の想像が入っているのであしからず。

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