連載小説
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第三章【剣編】
 決闘当日――
 私とシロは、大会の会場前に立っていた。

「……ねぇ、本当にやるの?」
「なんだ、緊張するのか」
「だってぇ…」

 体を委縮させるシロの手の平に人差し指を置き、小さな円を描く。

「昔、私に剣を教えてくれた人が使っていたおまじないだ。こうすると、緊張していても、ちゃんと体が動いたらしい」
「……じゃあ、あなたにもやってあげるわ」
「ああ」

 今度は、シロが私の手を取り、同じように円を描く。
 ほっそりとした白い指が柔らかい部分を撫でる。
 円の描かれた手を握り、もう片方を剣に携えた。

「それじゃあ、あとでまた、ここで会おう。勝っても負けても、笑ってな」
「ええ。……それじゃ」

 お互いに背中を向け、各々の立ち場所に立つ。
 青年はすでに剣を片手に立っており、私を見て微笑する。

「ようやく来たな。てっきり怖くなって逃げ出したかと思ったぜ」
「まさか。敵前逃亡は騎士の恥、と教わっているからな」
「上等だな。じゃあ、向こうの司会者が『スタート』と言ったら、こっちも始めようか」

 青年が麺作り会場の方を仰ぎ、私も横目で確認する。
 そこでようやく、私達の周りにも、多くの人だかりが出来ていることに気が付いた。

「俺が集めておいたのさ。ここは騎士の養成学校も多数ある街でな。この俺の見事な剣捌きを見せつけてやろうと思ってな。ハッハッハ!」
「そうか。ならば、私も本気を出そうか」
「無駄だ、貴様は俺に負け、見習い達に醜態を晒すんだよ!」

 青年が言い終わると同時に、大会の司会者がスタートの合図を出す。
 一歩早く私が駆け出し、互いに距離を縮めていく。
 と、そこで向こうからなにやら叩く音がし、意識がそちらに向く。
 なんだ、アレは。シロのいる位置から白い煙が昇っている。

「余所見厳禁!」

 大きく振りかぶる青年の剣を、あえて立ち止まることで空振りさせつつ、シロのほうを確認する。
 白い煙のせいか、シロのいる場所はなにも見えない。
 とりあえず、ケンタウロスのほうは慎重かつ素早く、作業を進めている。

「このっ、このっ、何故当たらないぃ!」

 遠目でよく見えないのが痛い。
 よく目を凝らして見ると、すでに生地を包み放置していた。
 おっ、ようやくシロのほうも煙が晴れて――

「いい加減に決闘しろー!」
「はっ」

 青年の叫び声と目の前に突き出された刃、謎の爆発音で我に返る。
 そうだった、今はのんびり眺めている場合ではない。
 だが、よく見れば青年はすでに息も上がり、剣を振る速度も遅い。

「どうした、気分でも悪いのか」
「んなわけ……ぜぃ、ないだろ、ぜぃ……」
「そうか、では――」

 私は剣を持ち帰ると、青年へ向かって駆け出し、剣を突き出すフリをして回り込み、足払いを掛けて転倒、青年を剣を打ち払って首元にその剣を突き立てた。

「〜〜っ!」
「これで勝負はついたろう。私は向こうを見に行くぞ」

 自分の剣を鞘に戻すなり、さっさと会場のほうへ走り出す。
 観客に混じって前のほうまで行くと、ケンタウロスのほうはもう生地を伸ばすとこまでいっていた。
 一方シロは――


 ッパァン! バチィン!!


 小麦粉なのか地なのかわからない白い顔を鬼の形相にし、生地を自慢の尾で叩きつけていた。
13/12/22 12:21更新 / らーそ
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■作者メッセージ
 麺作りって、案外時間がかかるものなんですね。作り方見て大丈夫かと今更ビビってます
 団長が包丁の代わりに剣を使って麺を切る姿を夢で見て、軽く魘されましたわ

 第三章【剣編】は、シロよりもケンタウロスのほうを多めに書いてみました。流石に細かいとこは無理ですけどね(距離的に
 こっちは見ても見なくても、さほど【○産麺作り編】に影響はないので、番外編のような感じで見てもらえると幸いです
 青年の小物臭ならよくわかりますけどね、誰得だと

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