連載小説
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彼氏いない歴=年齢+25年をなめんな!
デルエラによって転生の裏事情(笑)を聞かされてからさらに10年、レイチェルはすっかり美しいリリムになっていた。母親譲りの絹のような光沢をもつ白い髪は腰まで届くようになり、反対に妖しい光を持つ赤い瞳はくりくりと大きく可愛らしいまま、少女らしい顔つきを保っている。
体つきもリリムらしい大人な体つきになり、図鑑の説明通りに誘惑魔法なしでも男を落とすことも容易であろう見た目になっていた。

しかし今のレイチェルは変化の術を使ってリリムらしいものすべてを隠していた。というのも。
「よーし、15年ぶりに帰るわよ。待ってなさいカルドフィア!」
前世での故郷であるカルドフィアを目指し、馬車に揺られていたのであった。

デルエラから「好きに生きなさい。」との言葉をもらってからというもの、レイチェルはある思いを抱くようになっていた。それが「魔物の目線でカルドフィアの人々の生活を見てみたい」というものであった。
そのためにレイチェルはそれまでさぼりがちだった戦闘訓練や勉強を積極的に受け、今ではバフォメットやドラゴンといった戦闘力の高い魔物相手でも軽く捻り潰せるまでに成長を遂げたのであった。

「いやー、初めは勇者とか教会の司教とかその辺に勝てれば万々歳だと思ってたけど、気が付いたらものすごい強くなっちゃってたんだよなー。城のみんなもリリムの中でも強い方だって言ったし、デルエラ姉さんが言ってた通り私って強いリリムだったんだなあ。」

しみじみとレイチェルが呟いたとき、馬の嘶きとともに馬車が急停車した。危うく転げ落ちそうになりつつも何とか馬車の縁を掴んでその場に踏みとどまり、慌てて振り返る。
「ちょっと何!?人の独白中に急停車されたら舌噛むじゃない!」
「お、その声は若い女だな。ちょうどいい。おいお前ら!荷台に乗ってる女もつれていくぞ!」
馬車を操っていた男とは明らかに違う野太い声が響き、何が、と思ったときには馬車は山賊に取り囲まれていた。

山賊の誰もが手入れされていないひげ面の向こうからレイチェルを値踏みするように眺め、卑しい笑みを浮かべる。
「こいつはいい値で売れそうだ。あんまり傷物にするもんじゃねえな。」
「しかしお頭、一発くらいなら大丈夫なんじゃないですかね?こいつ見てたらすげえムラムラするんですよ。」

品のない笑い声の中、レイチェルは顔を顰めた。
こいつらに捕まるほど弱くはないし、そんなつもりも毛頭ない。しかし下手に暴れれば自分が魔物であることがばれてしまうかもしれない。この場にいるのが山賊だけなら気にしないのだが、面倒なことに完全に怯えて失禁でもしそうな勢いとはいえ馬車を操っていたおじさんもいるのでなるべく正体を出すのは避けたい。
いかにも村娘な感じの格好で来てしまったので派手に立ち回っても怪しまれる。ここはおじさんを魔法で眠らせてしまおうか、それとも適当に武器になりそうなものを振り回していたら偶然全滅させた体で行くか。

考えていると、突然山賊の一人がその場に倒れた。残りの山賊たちが倒れた仲間の方を見る。
「なんだてめえは!」
吠える山賊の視線の先、倒れた山賊の後ろには剣を構えた青年が立っていた。

翡翠色の双眸はひたと山賊たちを捉え、茶色の髪が風に揺れる。それを見た盗賊たちがたじろいだ。首領の男が仲間に向けて声を張り上げる。
「これくらいのことで怯えんじゃねえ!貴様…最近このあたりに出るという勇者か?」
「それが「神速のルベルク」と呼ばれているのなら俺のことだろうな。」
ルベルクというらしい青年は、山賊の威圧に対しても冷静に言葉を返す。

「そうか…だがな!」
首領が手を挙げると山賊のうち二人がレイチェルと御者の男の首に剣を突きつけた。
「こっちには人質がいるんだ!ちょっとでも変な真似をしてみろ、こいつらの首が飛ぶぞ!」
「ひいいぃぃ!お助けえええええ!」
御者の情けない悲鳴をバックに、首領がにやりと笑う。
「さあ、こいつらを殺したくなければその武器をしまってここから立ち去るんだ。早くしろ!」

しかしそんな脅しをよそにルベルクは引くどころか一歩踏み出す。その動きに山賊が反応する前に彼の姿は消えていた。
「な…なんだ!?どこに行きやがった!」
首領が声をあげ、あたりを見回すのとその後ろから何かが倒れる重い音が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
「な…!?」
その音に振り返った首領の目は驚愕に見開かれる。
ルベルクはいつの間にか山賊の一団の反対側に移動して彼らに背を向けており、抱えて救出した二人の人質を地面に下ろしているところだった。
剣を突きつけていた山賊たちは二人ともその場に倒れ伏していて、その傍らには折れた剣が転がっていた。
「あの一瞬で何を…!?」
うろたえる山賊に振り返ったルベルクが剣を向ける。
「「神速のルベルク」の名を知っているのだろう?だったら何をやったかくらいはわかるはずだ。」
「く…撤退だ!逃げるぞ!」
不利を悟った山賊たちは一斉に馬に乗って逃げだす。その背に向けて、再びルベルクが剣を構えた。
「無駄なことを…。」
「ま、待って!」
その手を掴んで止めたのはレイチェルだった。必死に首を振る。
「ダメですこれ以上は!その、えっと…深追いするといろいろ危ないんで!」
「離してください!ここで全滅させなければまた被害が出てしまう!」
「それに関しては手打ってる…だ、誰かがそうしてる予感がするんで大丈夫です!」
あまりにも必死なレイチェルの様子にルベルクは首を傾げながらも、しぶしぶといった様子で剣を下ろした。

それを見届けたレイチェルはほっとしながら倒れている山賊を見る。
「えっと、この人たち…。」
「峰打ちです。このあたりの兵士に連絡はしましたが、その前に目を覚まさないとも限らないので早くここから離れた方がいい。それはそうと、お二人ともけがはありませんでしたか?」
先ほどまでとは打って変わって優しい笑顔になったルベルクに、レイチェルはおずおずと、御者は涙を流しながら返事をした。
「あ、はい。大丈夫です。」
「ああ!助けていただいてありがとうございます勇者様!」
「礼には及びませんよ。人のためになることをするのが勇者ですから。」
にこやかに剣を収めてから、困った笑顔をレイチェルに向ける。
「それはそうと…もう飛び出して行ったりしないので手を離しても大丈夫ですよ。」
「あっ!すすすすすいません!いろいろありすぎてつい掴んだままに…。」
顔を真っ赤にして飛びすさったレイチェルに御者の男が笑い声をかける。
「ははは、勇者様は人気がありますな!さて、助けていただいたお礼に…。」
「いえ、本当にいいんです。それよりも早くここから離れましょう。山賊も心配ですし、あまりゆっくりしていると次の街に行くまでに日が暮れてしまう。」

お礼はあくまで固辞し、次の街までレイチェルたちが無事たどり着いたのを見届けると、ルベルクは去っていった。その背中を見送りながらレイチェルは一人つぶやくのだった。
「かっこいいなあ…好きになっちゃったかも。」




















「…で、さらいもせず大人しく見送った上に初恋に動揺しすぎてここまで逃げ帰って来たと。」
カルドフィアに隣接する中立国家ファイガ。その国境の町の家の中ではあのレイチェル転生に加担したデビル、マレスタが腕を組んで不機嫌そうな顔をしていた。
その前には椅子に座って小さくなっているレイチェルがいる。
「…はい、その通りでございます。」
「まったく、すぐ来てくれって連絡があったと思ったら…。あんたねえ、それでもリリムなの?臆病と言われているナイトメアやドッペルゲンガーですら惚れたら即・行・動よ?いくら相手が手練れの勇者だとしても、熟練のドラゴンでさえ人差し指一本で倒すあんたじゃ楽勝でしょうよ。」
「だだだだってそんなことして嫌われたら…。」
「なんのためにその整った顔とダイナマイトボディと魅了魔法があると思ってんのよ。ちょっとおっぱい出して誘えばEDだろうが同性愛者だろうが一発であんたのものになるってのに。」
縮こまるレイチェルとヒートアップするマレスタの前にホットミルクの入ったマグが置かれた。
二人が顔をあげるとお盆を持ったユニコーンが笑顔でマレスタを見つめている。
「まあまあ、マレスタさん。レイチェルさんは人間と似た考えをするってデルエラ様も言ってたそうじゃないですか。いきなりは無理ですよ。」
「よく言ったフェミル!」
勢いづいて立ち上がったレイチェルに、机に足をかけて椅子に座っていたサラマンダーが声をかける。
「けどよお、なるべく早く行動を起こすってのは私も賛成だぜ。そんなに強くていい男ならほかの魔物も黙っちゃいねーだろうしな。」
「うう、ナターシャ…。」
レイチェルが言葉に詰まったところでフェミルに遅れて入って来たホルスタウロスがのんびりと声をかける。
「今は反魔物国家で旅をしているらしいからいくらか安全だけど〜親魔物国家や中立国に来たとたんに襲われたりして〜。」
「マーサまで…。」
再びしょぼくれたレイチェルの肩をマレスタが優しくたたく。
「とにかく、今から行って来て告白してきなさい。」
「む、無理!そんないきなりとか無理!」
「お前、ホントにリリムらしくねーな…。」
「うっさい!彼氏いない歴=年齢+25年をなめんな!」
「それ誇ることじゃないわ〜。」
「誇ってない!むしろ黒歴史!」
四方から言われまくって吠えるレイチェルにフェミルが笑いかける。
「まあここで言い合いしても解決するわけじゃありませんし、まずはできることからしませんか?例えばその方をもっと知るためにお友達になるとか。」
「そ、そうそれだよ!まずは近づくだけ近づいてみよう!」
名案とばかりに表情を明るくするレイチェルにマレスタが首を振る。
「やれやれ…とは言えあんまり悠長にはしていられないし、あんたヘタレだからどうなるか分かったもんじゃないわ。しょうがないから私も手伝ってあげる。」
それを皮切りにナターシャとマーサも身を乗り出した。
「確かにレイチェル一人ってのも心配だなあ。それに私もその勇者ってのを一目見たくなったよ!」
「私にもできることがあったら手伝うわよ〜。」

「み、みんなあ…!ありがとう!」
思わず目を潤ませたレイチェルにナターシャが肩を組む。
「気にすんなって。私ら友達だろ?」
「さて、そうと決まればさっそく作戦練らなきゃね。」
マレスタの声を合図に、勇者への接触作戦会議がスタートしたのであった。

























少し時間を戻してその日の夕方、敗走した山賊たちはアジトに向かって馬を走らせていた。
「くそっ、あの勇者め…今度会ったらただじゃおかねえ!」
馬上で吠えたその瞬間、空から急降下してきた何者かに首領の男は馬から突き落とされた。
「お、お頭あ!」
慌てて振り返った山賊たちが見たのは、首領の男にまたがるベルゼブブの姿だった。
ベルゼブブは男の抵抗をものともせず、両手を押さえつけながら目を細めて舌なめずりをする。
「うーん、このワイルドな見た目と匂い…まさしく私のタイプだわ!レイチェルからよさそうな男がいるってテレパシーを受けて急行してみたけど、大当たりね!」

「くそっ、魔物め!お頭から離れろ!」
山賊の一人がベルゼブブに剣を振り下ろす。が、素早く間に入ったギルタブリルのナイフに防がれ、甲高い金属音を発しただけで終わった。
「な…!?」
「おやおや、この大人数に気づかないとはあんたらもまだまだだねえ。」
ベルゼブブの言葉に気づいて見回したころには、魔物たちが山賊をぐるりと取り囲んでいた。狼狽する山賊たちをしり目にベルゼブブが笑顔で魔物たちに声をかける。
「第一の目的は達成したから残りの男は好きに取りなさい。取る物とったら転送魔法でさっさとずらかるわよ!」
その言葉を合図に未婚の魔物たちが歓声を上げてなだれ込んだ。

女の歓声と男の悲鳴を背にベルゼブブが呆然とする首領の男に微笑んだ。
「犯罪者専門の盗賊団、「シーフクイーン」へようこそ。旦那様♪」




「それにしても成功したかなあ?無事気に入るといいんだけど。」
「どうしたんですか?レイチェルさん。」
「ううん、こっちの話。」
14/08/31 23:04更新 / 飛燕
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■作者メッセージ
ついに気になる人が現れました。
この恋は実るのでしょうか…?

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