読切小説
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炬燵と同居人
白い息をもう何度吐き出しただろうか、家まであと10分ほどの距離が遠すぎて仕方ない。


大学の休講掲示板を見てない自分のせいとはいえ、寝坊して急いで家を出たのがすっかり無駄足になってしまった。


おまけに本日は1限以外に授業がないので通ってきた通学路をそのまま戻るという羽目になってしまった。年が明けたばかりで家から出るのは避けたかったのに悔しくてたまらない。


しょうもないなぁとは理解しているが、しょうもないからこそいら立ちが収まらなかったりするものだ。


ポケットのスマホが鳴り響く。差出人は同居人からだった。


コンビニでコーンポタージュを買って来いというさらにしようもない内容だっ
た。


スマホを乱暴にポケットに放り込むと足が自然と駆け足になっていく。

あいつ、帰ったらどうしてくれようか―――




ようやく見慣れた白いアパートが見えてくると、体が芯まで冷え切っているせいでさらに足が早まる。少しでも早く部屋に入りたい一心だった。


道々で考えていたドアの向こうへの文句を思い出しながら

ゆっくりとドアを開ける。




「…あ、お疲れさまだねー、うふふ」

ドアの向こうでは奥の炬燵に胸までもぐりこんで寝転がっている女性がニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを見上げていた。茶髪のサイドテールが床にだらりと垂れている。

あい変わらずのだらけっぷりに大量の文句もどこか流れ去っていってしまった。


「…起きてすぐ奇っ怪に暴れまわる俺はどうだったヒカリ?」

「パーフェクトだ○ォルター、動画とればよかったねー」

「誰がウォ○ターだ、…お前授業ないの知ってたのになんで言わなかった…」

「聞かれなかったから☆」

「横ピースうぜぇ…ほれコンポタ」

「おー、テンキュー」


ヒカリは缶を受け取るとさらに炬燵に首まで潜ってくすくすと笑う。なんていい性格をしているのだろうか。

俺はゆっくりと炬燵布団の端をそっと掴む。なんでも情報をシェアするようになった世間だし、ここはひとつ俺の身と心の寒さもシェアしてもらおう。


「おら!くらえ突風!」

「あ!いや…ちょっ…風が入って寒い!」
布団をバタバタさせて風を送り込む。わざわざ遭わなくていい目に遭わされたのだからその分丁寧にお返しさせていただく。

「ちょっと寒いからほんとにやめて…ゎ…熱が逃げるからやめて!」


―――なんだ?一瞬だけ妙な反応をしたな?

普段のリアクションとは感じが違い、少し気になった。炬燵に何かあるのだろうか?

勘ぐっているとヒカリの腕が俺の手から布団をはたき落とした。

「もう、やめてってば…普段から授業サボっているからでしょー、今日の授業あと一回欠席するとアウトっていってたし、試験とかやばくないの?」

「う、まぁ…うん」

「これは教育だよ、私からの愛の教育。生活リズムをー直すのだー!」

まくしたてるようにヒカリのうざったい小言が始まった。
正論なので反発できず目を逸らしてしまう。

正直同じ大学生とはいえ冬の大半を炬燵むりで過ごしている奴に言われたくないな。

それに仕方ないだろう、冬場の布団は魔物なのだ。抜け出すためにどれだけ根気がいると思っているのか。普段から炬燵むりなんだからわかるはず。


ふと目線を逸らした先の布団の端をみると炬燵の反対から淡褐色の爬虫類の尻尾の先端がはみ出している。


―――あぁ、炬燵の中にも魔物がいるなぁ…


もちろん俺は爬虫類など買っていないし、そもそもこのアパートはペット禁止である。


彼女はラミアといわれる腰から下が大きな蛇のそれとなっている魔物の一族で、大きな尻尾も紛れもなく彼女のものである。

昔は魔物と人は戦争や宗教など争いがたえなかったそうだが、共存関係となった今では大学の方で魔物を留学生として受け入れていてもはや珍しくもないものとなっている。

ラミアは寒さに弱いせいか、冬の間は大体炬燵や暖房をつけたままほとんど離れず光熱費で頭が痛くなるのはご愛嬌。



そんな彼女の尻尾をじっとみていると、こちらの視線に気が付いたようで尻尾を引っ込めてしまう。うん、やはり何か隠しているな。


「あ…そういえばさーこの間までスノボに行ってたでしょ?そのときなんだけねー」


どうやら話を逸らして炬燵から俺の視線を外そうとしているようだ。ますますあやしい。

あえて乗ってやって油断させておくか。俺はそのままヒカリの話を聞くことにした。

あとラミアなのにスノボとかいくなよ。

――――――――


「…それでねー、リフトに乗っている間あまりに寒すぎて降り口につくころには凍えて死ぬかと思ったよー」
「わらえねぇよ」
彼女の死因がスキー場のリフトとか嫌すぎる。

この通りの後先考えずに面白そうなことを試したがる性格なので毎回心配である。

ちなみにそのあと友達がレスキューを呼んで助けてくれたらしい、今度礼を言っておかないといけない。

あれから30分ほど話していたが、ヒカリはすっかり警戒をといてしまい油断しきっていた。

だが、お腹から下は炬燵からまったく出ていない。隠し物は尻尾の方にあるとみた。

―――よし、そろそろだな。

俺はちょっと疲れた感じを装っておもむろにつぶやいた。

「ちょっとお茶とってくるわ」

「あ、私のもお願いー」


ヒカリに気づかれないように何気なく立ち上がり


一気に炬燵を後ろに引っ張り上げた。






「うおりゃ何隠してんだぁ!」
「うわ!や、待って…」

ガタンッ!ドコドコドコ…!




が、考えていた以上の勢いで引っ張ったせいで派手な音を立てながら倒れてしまった。物もいくつか落ちてしまったようだが作戦は成功したようだ。

そのまま素早く後転して立ち上がってテンパっているヒカリを見下ろしたが―――パッと見た感じではいつもと変わらないようだった。

「…あ」

―――だが


「尻尾が…2本?」


人間でいう太ももの辺りから尻尾が二つに分かれているのだ。
そのうち片方は少し白っぽい。


「う…うわぁぁ/////」

ヒカリはなぜか顔を真っ赤にして顔をくしゃくしゃにしている。正直こんな反応を見るのは初めてだ。

よく見ると、白っぽい方はしわが寄っていて中身がなく空っぽのビニール袋のようだ。もう一つのほうは妙にテカテカと光っていて新品のバッグのようだ。


新品?


つまり、これは…―――


「…脱皮?」


「いうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!/////」


――――――――――――――――――


「つまり、脱皮の時期が思ったより早く来て丁度おれが勘違いで出かけたから済ませてしまおうとしたら予想以上に早く帰ってきてしまって慌てて隠した、と」

「…ぐす」

すっかり機嫌を損ねてしまったようだ。

散々泣き叫んだあとヒカリは炬燵の中にもぐりこんでしまい出てこなくなってしまった。はみ出した尻尾がカリカリと弱弱しくフローリングの床を掻いている。

ていうか体を無理に全部しまうから炬燵が膨れ上がって少し浮いているじゃないか。安ものとはいえ買ったばかりなので壊れないか心配だ。

「そんなに見られたくないのかよ」

無言で尻尾が上下に揺れる。相当ショックを受けているのだろう。


「あー…その、できれば理由をお聞きしたいですヒカリさんお願いします」


炬燵のそばに座ってへりくだって質問をする。ヒカリは機嫌を損ねると長いので早めにケリをつけておかないと後々面倒くさいのだ。決して悲鳴を上げている炬燵のためではない、決して。

少しは落ち着いてきたのか、問いかけから数テンポ遅れてヒカリの頭が炬燵から出てくる。


「…別に、これって理由は…ないんだけどね、ラミアが脱皮するのってなんか…その、排泄っていうか…生理っていうか…トイレと近いものだから…なんか恥ずかしいの!」

ヒカリのこういう素直に恥ずかしがる様子も新鮮でちょっと楽しいと思ったのは秘密だ。


「まぁ、なるほど…一理あるかな」

確かに古い皮を老廃物とみれば理解できるな、俺もトイレ中にいきなり便座覗かれたら嫌だ。ていうかトイレの個室に誰かといるってだけでいい気分しない。一部のマニアックな趣味な人は除くが。




「そうでしょー…それを無理やり見るなんて…とんだ変態さんだよ全くもー!」

「ま…まぁ、悪かったよ…ていうかそれならトイレですればよかったじゃん」


「こんなに早く帰ってくるとは思わなかったのー!すぐに終わらせようと思って」

「いや、ならそう言ってくれればよかったのに…」

「それはイヤ!」


め、面倒くせぇ…!

しかし、どうやらこちらの分が大きいようだ。文句が長引くと後が困るのでとっとと非を認めてしまうか…



「とにかく生理みたいなもんだからなるべく隠して済ませたかったの!PCの中のラミアとの体位研究のページとか作ってたの同じくらい恥ずかしいの!」



………

……






「オイマテナンデシッテイル」



フォルダはすべてロックをかけている、履歴も消したはずなのに…!


ヒカリは形勢逆転とばかりに炬燵むりのまま目いっぱいのどや顔で答える。


「ふふふ…なぜって顔をしているねー?甘い、甘いのよ。
私があなたのPCが『156821(ヒカリハニー)』っていうセンスのないパスワードでほぼ統一されていることくらいお見通しよー?」


「そこまでばれているのかよ…くそ、死にてぇ…」


脱皮のくだりとかもうどうでもよくなるほどの羞恥プレイだった。当の本人にセンスないと言われてさらに傷つく。ほっといてくれ。


「初めての時やけにスムーズだったのが納得できたよー、どう見ても経験豊富にはみえなかったから」


ヒカリがニヤニヤと笑みを浮かべてうなずいている。
どうやら仕返しのつもりらしい。

「…ラミアとするってよくわからなかったからしょうがねえだろ…」


手持ちの参考資料じゃ役立たないし。ラミアとのハウツー(性的な意味で)とか売ってないだろうか。


「松葉くずしや立ち松葉をこうしたらできそうとか超真面目なコメントもかいてあって面白かったよブフゥ!」


「いやちがうんだって…!ちょっと興味がわいただけで…若気の至りなんだって!」


ヒカリがここぞとばかりに追い打ちを続けてくる。男の下関係の情報をバラされるほど恥ずかしいものはない。男の羞恥プレイとか誰得だよ。

「でも、この腰に巻き付けば抱き上げいけるのでは?って…さすがに無理だと思うよー?私わりと重いし」


「…わかったから、もうやめてくれ」


それ付き合い始めたころに書いたやつだから…、童貞臭いって自覚してるから…


「やーだ、まだ聞きたいことたくさんあるの」


それから俺はしばらくの間、ヒカリに㊙対ラミア48手研究ノートの中身の質問攻めを受け続けたのであった…






「うふふ…私の気持ちが少しは分かったかなー?」


多量接種された羞恥心の前にプライドなんてものは微塵もなかった。俺の心のLPはとっくに0です。


なんかもうどうでもいいや、チーズ蒸しパンになりたい。


「…もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

そう投げやりに吐き捨てた瞬間だった。


なにか、ぞわりと寒気がした。


「…そう、好きにしていいのねぇ?」


「…え?」


今まで肩までしか出ていなかったヒカリの顔の雰囲気がガラリと変わり突如として蠱惑的な笑みが浮かび上がった。

と同時に炬燵がうねうねと動き出した。なんかホラー映画みたいで怖い。


…嫌な予感がする。


「…実は、さっき言ってなかったんだけど…ラミアって脱皮したてだと体が火照ってるんだよねぇ…」


ヒカリがそう言い切るや否や、俺は考えるより先にとっさに立ち上がり玄関に走ろうとした。


が、1歩目を踏み出そうとした瞬間にはもう炬燵から伸びたヒカリの尻尾が伸びて俺の両足を掴んでいた。

そのまま一気に引き倒され、ズルズルと炬燵に引きずり込まれていく。


「ぎゃあああああ!!ひき○さんんんん!!」


「せっかくだし、この体位研究、実践で試しててみようよぉ♥」


「くそ!これが狙いでさっきの話題だしたな!」

「うふふ…♥」


「いやああ犯されるうう!!」


ヒカリが目がハート状態でおいでおいでと手招きをする。


必死でもがいたがすでに足首が炬燵の中に入ってしまっていた。


もはや逃げられそうもない。



「ほらほらー諦めろー♥」

「くっ…こういう時ばかりラミアっぽくなりやがって…!」

「全部脱皮のせいよー♥」

膝上までひきずりこまれヒカリの手が俺の腕の下に滑り込んでくる。

中がよく見えない炬燵はまるで捕食する植物のようだ。


「今日は時間たっぷりあるから…研究しててよかったねぇ♥いっぱい楽しめるよ」

とうとう胸元まで埋まってしまった。いつの間にかヒカリの尻尾が体中に巻き付いていた。


ついでに炬燵の足はすでにメキメキと音を立てながら壊れ始めている。

あぁ…炬燵、また買わないと…


そんなしょうもないことをかんがえた後から夜までの間はよく覚えていない。


ただ、炬燵だけは絶対に弁償させようと俺はかすかに心に決めたのであった。








14/04/17 01:09更新 / とげまる

■作者メッセージ
はじめまして、人生初のSSです

エロもいいけどラミアさんと炬燵で一緒にいちゃいちゃしたい!と思ってかいたのですが…どうしてこうなった

SSって難しいですね…

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