読切小説
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本物の宝とその番人


「見つけた。」

かつて炎と氷の精霊が争ったとされるウィングルア北西部の氷原、そこをツルハシで掘っている人物が居る。

規則正しいツルハシの音がやみ、青白い凍りついた地面とは違う白い大理石の石畳。それを見たとき彼の顔は疲労から歓喜へと変わった。

「これが「黄金宮」。噂どおりか・・・もらおう。」

死者の氷原とも呼ばれる場所に立つ彼はようやく見つけられたことに一息つき、自分の掘った穴のふちに腰掛ける。

彼はヴィンター・クライセアード。シェングラス軍の入隊試験に落ちて盗掘などを行いその日の生計を立てている。

彼は軍といっても内勤を希望しており、特に武官を志すつもりもなかった。彼も成績よく入隊は確実だと思われたとき、最終試験が告げられた。

「目の前の魔物を斬れ。」、その最終試験を見て彼はやめてしまおうと考えた。単に無用な命を奪いたくなかっただけだが、軍人として不適格と言われ落選した。

それどころか最終試験でやめたという噂が広まり「奴はナーウィシア派だ」とか何とかで迫害に会いやむなくナーウィシア領内に逃げたのが実情だ。

彼は意を決すると、術式を埋め込んだ赤い石を設置しその場から離れる。すると地面を揺らすほどの爆発が起こり、大理石の天井に穴が開いた。

「さて。今日ももらうとしよう。」

これが4度目でありヴィンターは手馴れた様子でロープを杭に固定し、そのまま飛び降りる。すると衝撃でネックレスが零れ落ちるが、彼はそれを取る。

「っと・・・こいつは最後の宝を得るための鍵だったな。なくしたら大変だ。」

彼はそれを首に掛ける。チェーンはしっかりと術式を掛けられているため分離することはない。ここの地図ともども手に入れた物だ。

ナーウィシアの領内である老人を助けたときにもらった物で、彼いわく「この世界で本当の宝が何かわかる」と言っていた。

「あの老人の言っていた宝、本当にあるのかな・・・?」

どういうものか見てみたい。ヴィンターはツルハシを片手に持ち遺跡内部を歩いていく。

薄暗いため、途中の燭台に術を仕掛け、炎をともしながら進む。どうやら最上階らしく墓は地図によると地下部分にあるという。

「さてと、地下通路へは・・・しかし何だこれ。コントでもやるつもりか?」

地図を見てヴィンターは階段を下りていく。この手の遺跡には魔物が多く徘徊している。のだがこの遺跡は未発見のためかそんな様子はない。

ウィングルアでは無用なダンジョンなどを作ることはない。迷宮を作ってしまえばどこからか軍が出てきて接収して、軍事基地として使ってしまう。

それが前線どころか、ちょっと離れた場所にも「奇襲を警戒する」とか「補給ラインを確保する」という名目で接収してしまうのだ。

ナーウィシアでもその辺の事情は変わらずジャイアントアントはウィングルアでは雇われの工兵としてしか仕事がない。

だからこそ前線から離れた場所にある遺跡などに住み着いているのだが、そんな様子はなく平然とヴィンターは歩いていく。

「さて、まずは何が?」

木切れを取り出し、ヴィンターが通路に投げ込むと防衛システムが感知したらしく両側の壁が迫ってくる。

「閉じろ。」

棘まみれになった壁がゆっくりと迫ってくる。長い通路すべての壁が同時に動き、ゆっくりと閉ざされていくがヴィンターはまったく動じない。

むしろこれからが本番だ。壁が開き始めたのを見て木切れを投げ込むが再度閉じる様子はない。ヴィンターはうなずくとそのまま通路を突っ切っていく。

「追いつけるなら、追いついてみろ!」

わずかに開いた隙間を潜り抜け、走れるだけのスペースが出来ると一気に駆け出しヴィンターは精一杯走っていく。

閉じる速度よりもわずかに遅く、時間は1.5倍程度稼げる。50mほどの通路をヴィンターが駆け抜け、それよりわずかに遅れ壁が閉じる。

「単純な機械に、殺せるわけないな。」

振り向くと、ヴィンターはそのまま先を急ぐ。こんなわなに時間を掛けている暇などないのだから。

 

「・・・思ったほど少ないな。」

迫る壁の後、無数の罠を潜り抜けた割りに語り継ぐほどの財宝はなくヴィンターはため息をつく。

知識書や歴史書の原本はそれなりの値段で売れる。そして装飾品も純金に宝石をはめ込んだ高価なものが多い。武器もあったのでとりあえず軍用としても使える名工の装飾が施された槍をツルハシの変わりに持つ。

それでもヴィンターは満足していなかった。罠の割りに宝飾品が少ない。質はいいのだが多さはそこら辺の大臣などとなんら変わらない。

このファラオはかなり聡明で、古王国全盛期の王なのだから普通に装飾品が多くてもいいはずなのだが・・・ヴィンターはさらに奥へと進んでいく。

「ご対面、だな。」

扉には装飾や文字が施されている。豪勢な装飾の施された扉に施された鍵をこじ開けヴィンターが扉を開ける。

「居なかったら居なかったでさびしいけどな。こういう番人は。」

知っていたような口ぶりでヴィンターは槍を構えなおす。目の前に居るのは古王国風の衣装を身にまとった、獣の手足と尾を持つ魔物・・・スフィンクスだ。

たいてい古王国の墓にはスフィンクスが守護獣として配置されている。扉を開けた瞬間に稼動するようプログラムされた術で封印している。

「・・・ご主人様?貴方は?」

「そうだといったら?」

問いかけによる会話が主流。これも大方予想通りだとヴィンターが思っているといきなりスフィンクスが飛び掛ってくる。

とっさに槍を構えたが軍人でもないヴィンターには上手く扱えず、あっさりとスフィンクスに奪い取られ、そのまま押し倒される。

「やっと会えたぁ!ご主人様・・・お待ちしてました・・・!」

「ちょっと待て・・・!?」

何故こうもあっさりとだまされたのかわからないが、飛び掛られヴィンターはその原因をなんとなく理解できていた。

どうも目が見えていないらしい。人の気配、そしてこのペンダントに何が宿っているか知らないがこのペンダントに反応しているだけらしい。

「そ、その・・・今日もいい?して・・・」

「ん・・・?あ、あぁ。」

封印されたときの時間からとめられている。ならいっそ自分が主人の真似をしてみるかと思いヴィンターはぎゅっと彼女を抱きしめる。

そっと彼女がズボンを脱がせ、彼自身を見ると鳴らしもしないで挿入させる。すでに見たときからぬれていたためか、するりと入っていく。

「熱いな・・・っ・・・!」

「ご主人様、もう離れないで・・・!あっ・・あぁぁ・・・」

歓喜とも取れる声を上げながら、彼女は喜びとともにヴィンターを受け入れ何度も腰を動かしていく。

無人の遺跡に、肉をぶつけ合う激しい音が響きそれは快楽に混じったあえぎ声も含み、無音の遺跡を埋め尽くしていく。

「あっ・・ぐ・・・い、いいなっ・・・!」

「ご主人様、ご主人さまぁっ!!」

ほぼ同時に絶頂を向かえ、熱い液体が彼女の内部へと注ぎ込まれる。2人は体力的に限界だったためか、そのまま眠りに落ちてしまう。

 

 

「・・・む。」

先にヴィンターが目覚める。少々体力を消耗してしまったが起き上がれることを確認し、彼女を起こさないよう慎重に抜け出す。

それから衣服を整え、荷物を背負うと棺の周囲に描かれた壁画と文字を凝視する。ここに、彼女の言う「ご主人様」の生い立ちが書かれているはずだ。

「・・・何だ?」

ヴィンターは盗掘をやる前に一通り古代文字の解読はマスターしている。時々罠の説明書みたいなものが壁画として描かれていることもあるのだ。

それを回避する上で役立つ。だから文字を学んだがこんなことで役立つとは思わなかったらしい。

「聡明な王、フェルム。彼は・・・いや、ここはどうでもいいな。」

幼少期の記録など読んでも仕方ない。大体この番人はフェルムとやらと関係を持っていたのだ、何か妻や愛人の記録くらいあるはずだ。

壁画の文章などを見ていくと婚礼をイメージしたよう苗があり、彼はそこの文章から呼んでいく。

「政略結婚を跳ね除け、王自ら選んだ娘と結婚する。異民族で進んだ我が国の様子に戸惑い何事かをすぐ近くの人物に聞く奔放な人物だったが、呪術に優れ身のこなしが軽かった・・・」

そんなタイプだろうなとヴィンターは読み進め、彼女とフェルムと名乗る王の甘い生活の部分を流し読みしていく。仲はかなり良かったようだ。

「だが、異民族の姫を快く思わない弟エトワール、姫を誘い出し目を切り裂く。姫は光を失い・・・」

この弟とやらが危険な人物だとヴィンターは理解する。常人がそんな真似をするはずはない。

「王はそのまま深い悲しみに陥り、政務を滞らせる。エトワール、政務を推し進め実力を得る。だが王も姫の光を奪った犯人を捜し・・・」

数多くの旅をした様子が描かれている。彼女はそのたびに邸宅に待ち続けじっと帰りを待っていたようだ。

「情報を集め、王は犯人を突き止める。弟であるエトワールとの戦いの前も、王は姫を待たせた。大丈夫とたずねる姫に、王は「必ず帰る」と言う。我等も生前の王を見たのはこれが最後だった。」

必ず帰る、その約束が彼女にどれだけ大きな影響を与えたかはわかる。いまだに待ち続けていることからもわかるし、フェルムの存在がどれだけ大きいかもはっきりと感じられる。

「王は弟の姦計にはまり、戦死。1万の私兵に囲まれながらその半数を殺す壮絶な死であった。我々は対応に追われている隙に反乱軍が接近。反乱軍が迫りやむを得ず姫を封印。殺したということにして降伏するしかなかった。」

事情を知らせないまま封印し、そのまま守護獣にした。昔の倫理観はちょっと残酷だがこれほどかとヴィンターは反吐が出そうになりながらも読む。

「王の死体は首も取られず、完全な状態で保存した。姫が婚約に送ったネックレスは討ち取られた証として反乱兵に奪われてしまう。墓すらも作れず、やむなく邸宅を墓として改造。埋めておき地図を厳重に保管する・・・」

つまりこの墓はもともとが邸宅だったのだろう。そして王に付き従った忠臣がこの墓を極秘裏に作ったらしい。

最後の方にきて、ヴィンターは部下たちの最後の願いを見つける。

「我等は王の名誉や自分の命だけしか見なかった罪人だ。だから我等の願いは見逃されて当然かもしれないがこの墓に入るものに願う。どうか姫を幸せにしてもらいたい。権力争いも何もない未来で、せめて余生を静かに暮らさせて欲しい。」

そこまで読んで、ヴィンターは考え直す。わざわざ殺さず、強引だが封印してこの邸宅にずっととどめておいた理由、それは引き離したくないと願ったからだ。

部下は2人に離れて欲しくない。そしてせめて生き残った姫の生涯だけでも幸せになって欲しいと思っていたに違いない。それを侵入者に託したのは何故か。

おそらく、隣の大陸で力ある魔物が罠を仕掛け自分の婿にふさわしい人物を選定する風習と同じようなことをしたのだろう。罠を突破できる、知恵も冴えて勇気もある人物に託すためにわざとこのように邸宅を改造した・・・

「本当の宝、か。」

あの老人に言われたことをヴィンターは理解できた。物でもなんでもない、部下が自分を罪人と卑下し、そうしてまでも守りたい物が宝というだけだ。

「起きろ。」

壁画の起こし方どおり、彼は頬にキスをする。彼女はゆっくりとした動作で起き上がると早速彼に尋ねる。

「ご主人様、無事?」

「ああ。少し旅の途中で記憶を飛ばされたが何とかここだけは思い出せた。ここにいることだけは。君が待っていることもだ。」

もっともらしいことを言って、彼はあの壁画を描いたであろう部下の願いをかなえようとしてみる。嘘では難しいだろうが、それでも放置することも出来ない。

「あ・・・」

「すまない、名前も忘れてしまった・・・名前は?」

「リュメイ。お帰り、ご主人様。」

「ああ。ただいま。」

ぎゅっとヴィンターがリュメイを抱きしめる。肌触りは暖かくいいにおいもする。顔つきも可愛いため拒む理由はない。

「それで、私は何をすれば?」

「ずっと俺を護衛して欲しいな。いいか?」

「勿論。」

うなずいて見せ、リュメイはそのままヴィンターの後ろについていく。

 

 

「今、どこにいるの?」

「外だ。」

「あの家に戻らないの?」

「ああ。旅をしたい気分だ。」

こんな調子でいつもリュメイが質問してきてるが、ヴィンターはいつも笑って答えている。結構予想外の質問をしてくる。無論リュメイは人の姿に偽装している。

それゆえに答えるのも面白く、思いもしなかったアイディアが出てくるときもある。遺跡などを盗掘するときも時々助けられたこともある。

「ね、次はどんな町?」

「それなりに小さいけどな、結構おいしいものがあるらしいぞ?」

時々しつこくも感じるが、いないより数段楽しくなったとヴィンターは思う。そして本当の宝の意味もわかってきた気がした。

こうして近くにいれば、もう離れたくはない。そしてどんな金をつぎ込んでも渡すことは出来ないだろう。

 

「ね、最後に質問・・・愛してる?」

「当然さ。」

 

fin.





09/10/19 23:43更新 / スフィルナ

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