読切小説
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猫と縁側
蝉が鳴くにはまだまだ早いが、肌にまとわりつくじっとりとした暑さが鬱陶しいこの頃。暑さを忘れたい俺は、汗を掻き掻き、氷水で満たしたタライを縁側に運ぶ。
こんなことで汗を掻いていては本末転倒だが、涼むためには仕方が無い。
「よっこらしょ」と、タライを縁側の下に置いて顔を上げると、最近になって我が家に通い始めた猫がさも暑苦しいものを見るような目つきでこちらを見て一鳴き。

「うにゃん」

その一鳴きでこの時期いつものように催促される物を取りに台所へ向かう。

「たしか西瓜もまだ余っていたっけかな・・・」

目的の物と西瓜を一切れ、それに麦茶。
どやされるのは勘弁願いたいので、お盆に乗っけて足早に縁側に向かう。
縁側には、人には無い猫耳やら二本の尻尾やらを生やした女性が座っている。

「やあやあ、今日も遊びに来たニャ」

水を『ぱしゃり』と蹴りながら、俺に話しかけてくる彼女はネコマタのタマさん。
安直なネーミングセンスではあるが、嫌がる素振りを見せないあたり彼女も気に入っているのでこう呼ばせてもらっている。

「ささ、速くいつものを渡すニャ」
「急かされなくて渡すよ。あと、そこは俺の場所だから」

表情はしぶしぶといった様子だがタライから足を出さない彼女に、いつものこと冷やしカリカリを差し出す。
なんでも、「ひんやりとした口当たりとカリカリとした軽い食感が堪らニャい!」らしいが、人の俺にはいまいちよく分からない。
よく分からないが、カリカリサクサクと軽快な音をたてながら幸せそうにしている彼女を眺めるのは良いものだ。
そう思いながら片足だけでもとタライに足を突っ込み、俺は西瓜を食べ進む。

「ん、なかなか甘くて美味い」
「その西瓜は甘いのかニャ?私もほしいニャ」
「そうくると思ってたさ。はいどーぞ」

西瓜を渡して、少しぬるくなってきた麦茶を一気に飲み干す。
手持ちぶたさを感じて、何の気なしに彼女を眺めると、この時期からはあると便利な素敵アイテムを見付けた。

「タマさんや、その帯に挿している団扇を貸してはくれんかね?」
「これかニャ?」
「そう。その肉球マークが描いてあるのを俺に貸してくれ」
「私も使おうと思ってたしニャー。どうしようかニャー」
「そこを頼む!」

顔の前に手を合わせてお願いのポーズ。

「西瓜もご馳走になったし、君の頼みだから特別に貸してあげるニャ!」
「あざっす!」

まったく仕方が無いニャーと呟きながらも、どこか楽しそうな彼女から団扇を受け取る。
パタパタと自分と彼女を煽ぎながら、時折やって来てはどこかへ飛び去って行く燕をぼんやりと観察する。

「そろそろお暇するニャ」
「なんだ、もう帰るのか・・・」
「水に浸かってても、暑いものは暑いからニャ〜。まあ、今夜また遊びにくるニャ」
「そうかい。じゃ、団扇は今夜返すな」

空いた皿とコップをお盆に戻して立ち上がると、一匹の猫が生垣の隙間から外へ出たところだった。

「今夜も暑くなりそうだ・・・」
14/06/25 18:30更新 / リキッド・ナーゾ

■作者メッセージ
そういえばネコマタは団扇持ってたなーという思いつきと、猫と縁側で戯れたいという願望から生まれた作品です。
拙い文章ですが、読んで少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。

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