読切小説
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暑い日の中で
ある暑い日のことだった。買い物のため出かける青年がいた。外は不快な暑さだったが、かぶっている帽子のおかげで何とか我慢できた。
「暑い…。」
声は彼のものではなかった。少女の声だった。彼が見回すと、道端に変わった格好の少女が、うずくまっているのを見つけた。よく見てみると変わっているのは格好だけではなかった。人間のものとは思えない肌や瞳、これが噂の魔物娘かと青年は一人納得した。相手が魔物娘とはいえ、そのまま通り過ぎる気にもなれず声を掛けた。
「迷子かい?」
「違うわ、人を待っているのよ。」
本当に待っている相手がいるのか、迷子と思われたくなくてただ強がってるだけか、彼には判断できなかった。魔物娘をどう扱えば良いのかも知らなった。しかし、声を掛けた以上何もしないで去るのもばつが悪い。
「これ、使いなよ。」
「?」
彼は自分がかぶっていた帽子を彼女に渡した。最初は戸惑って、帽子をまじまじ見ていた彼女だったが、少しすると帽子をかぶって彼に笑みを向けた。
「ありがとう。お兄さん。」
「どういたしまして、安物だし返さなくて良いよ。待ってる人と無事に会えると良いね。」
そういうと彼は再び買い物のために店へ向かった。彼が去っていった後、彼女は可愛らしい顔に似つかわしくない妖絶な笑みを浮かべた。
「待っていたのよ…あなたみたいな人。」

「都合が悪い時に壊れるなんて…。」
青年は酷い夜を過ごしていた。部屋のエアコン壊れたために、彼は扇風機と全開にした窓、飲み物で暑さを凌いでいた。これでは何もする気がしないので、彼は寝る準備を始めた。すると、
「こんばんは、お兄さん。」
声と同時に昼間の少女が、開けていた窓から現れた。彼は驚きつつも自分が持つ魔物娘の知識を思い出していた。魔物娘は積極的に夫を探し、夫婦になることを望むものだと。
「親切なお兄さん、私の…私のお婿さんになってください。」
彼も女性に興味が無い訳では無い。綺麗な女性と夫婦になりたいという思いもある。しかし…
「ごめん。好意は嬉しいけど、俺どっちかっていうと綺麗な大人の女性が好みだから、その気持ちに応えらない。」
彼の好みは綺麗な大人の女性だった。彼女は少女相応の体形に、綺麗というより可愛いといった方が良い顔立ちで、青年の好みから外れていた。女性に好意を向けられるのは嬉しいが、自分の好みではないことを隠して、夫婦になっても長続きしないだろうし、何より不誠実だと考え、彼は断ることにした。
「…ウフフフ。」
彼女が悲しそうな顔をすると思っていた彼は面食らった。彼女は怪しい笑みを浮かべたのだ。彼を尻目に少女は、部屋にあった飲み物をゴクゴクと全部飲み干してしまった。
何をしているのだろうと、彼が不思議そうにしていると、
「はぁ…んんっ。」
彼女が生々しい吐息を漏らすと同時に、短かった彼女の手足と胴体がぐんぐんと伸び、腰のくびれのように細くなるべき所はきゅっと細くなり、太もものように肉が付くべき所はムチムチと太くなっていった。小さかったお尻は、ムチムチになった太ももと合わせるように大きくなっていき魅力的な下半身となった。少女らしい小さな胸も、最初は少しずつ膨らんでいき、その膨らみは時間が経つにつれ、広く大きくなっていき、最後には「プルンッ」と音が聞こえてきそうな丸みのある大きな胸になった。可愛かった顔は、青年が好みとする綺麗大人の女性の顔に成長した。あっという間に大人の姿になった彼女は自信満々に言った。
「これが私の本当の姿。どうかしら、あなた好みの綺麗な大人の女性だと思うけど。」
彼女、フロウケルプについて知識がある者にとっては驚くことではない。フロウケルプは大人でも、体の水分が少なくなると少女のように縮むという特徴があった。
「一回断っちゃったけど、俺で良いの?」
どこから見ても、自分好みの大人の女性となった彼女に再び告白され、おろおろしながら彼は言った。
「そんなこと気にするなんて…、マジメなのね。ますます好きになったわ。」
そこまで言うと、彼女は彼を押し倒した。彼も黙ってそれを受け入れた。

暑い暑い夜の中、また一組の人間と魔物娘の夫婦が誕生した。
21/01/23 23:19更新 / のーま

■作者メッセージ
フロウケルプは、水分で体形が変わる設定が良いと思ったので、その設定を小説に活かそうと思いました。

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