連載小説
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1章:魔物少女の事情
「ゲフッ……ゲハッ……」
バテた。
ミレアはやっぱり速すぎる。
「あいつ、どこ行った……?」
辺りを見渡すが、誰も……。

テテテテテッ

「……ん?」
なんか変な音が……。
「おにぃーちゃーん!」
「……へ……?」
ミレアがこちらに向かって走ってきた。
「遅いよー」
そのまま突っ込んでくる。
……え?

ゲシッ

「ウゴッ!?」
ミレアの頭が俺の腹にめり込んだ。
速度を反映した激痛に悶絶する。
というかミレアの頭は大丈夫か……?
「……ミレ……ア……」
「なーにー?」
……………。
元気そうで何よりです。
「頼むから……ゆっくり歩いてくれ……」
「えー……まぁいっか!ミレア、ゆっくり歩きまーす」
そんな宣言と共にミレアはゆっくりと右足を踏み出した。
そして、こちらをじっと見る。
次いで、左足。
またこちらをじぃーっと見る。
さらに右足。
またまたこちらを……。
「……ミレア」
「どうしたの?お兄ちゃん」
「3歩進むのに30秒もかけてくれて誠に申し訳ないが極端すぎる」
そこまで俺の足は遅くない。
というかあれか。
こちらを見ているのは俺がちゃんとついて来ているか確めているのか?
「うーん、じゃあね〜」
ガシッ
いきなり手を掴まれた。
「はいっ」
「……はい?」
「こうすれば迷わないでしょ?」
誇らしげなミレア。
なかなか可愛らしい。
確かにこれなら互いにはぐれることはないだろう。
「……そうだな」
俺はミレアに微笑んだ。

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

獣道のような、人が通りそうにない道をしばらく歩いて行くと。
「……着いたよー」
「おお」
本当に町に着いた。
この町はクラシナと呼ばれる小さな町で、鶏卵を特産品にして交易している。
その鶏卵を求めてはるばるやってきた商人が森に迷い込み、魔物に拐われる、と噂されるが、実際に行方不明になった者はいるかどうか分からないらしい。
ともあれ、様々な地域を渡り歩いてきた商人を欺く迷いの森だというのは確かだ。
ミレアの案内は正直、全く期待してなかったのだが、方角は正しいようなので黙っていた。
……さて。
まずはこれからミレアをどうするかを考えなくてはならない。
森の道を熟知していることから、この町に住んでいることは間違い無さそうだが……。
とりあえず、さっきと同じ質問を繰り返そう。
「ミレア」
「?」
「家まで一人で帰れるか?」
「無いんだよ?」
「……………」
「だからね、ミレアの家は無いから帰れないんだよ?」
「……本当に、本当か」
「うん……」
……もしかしてミレアは火事か何かで親も家もなくしてしまったのだろうか……?
俺がミレアの返答を考察し、悲観的な推測に顔をしかめていると。
「……お兄ちゃん……」
ミレアが不安げにこちらを見つめてきた。
「……何だ?」
その顔を見たとき、俺の思考は別のベクトルに向けられた。
先程からの笑顔から一変した表情に、俺はどこか既視感を感じたのだ。
遥か昔、似たような表情をする誰かが……。
……駄目だ、思い出せない。
気のせい、なのだろうか。
「実はね、ミレア……」
俺が記憶を掘り起こそうとしている中、ミレアは言った。

「ミレアのこと全部、忘れちゃったの」

「……は?」
俺の思考は停止した。
「全部忘れちゃったってお前……そんなこと……」
俺は取り繕うように言葉を発した。
否定するように。
誤魔化すように。
しかし。

「ミレア、自分のことが何も分かんないんだ……」

覆らなかった。
……………。
どうやらミレアは、記憶喪失らしい。
俺は自らの不運を嘆こうかとも思ったが。
「……怖いよ……ミレア、怖い……」
目の前の少女の俯いた姿を見て。
空元気が尽きてしまった少女の、必死に涙を堪える姿を見て。
黙って空を仰いだ。
青く澄みきった空は、少女を呑み込んでしまいそうだった。
……しょうがない。
俺はため息をひとつついた。
そして、ミレアの頭に右手を載せる。

「探すぞ」

「……え……?」

「お前の記憶」

瞬間、悲しげな顔はほころんだ。
やはりミレアには、笑顔が似合う。
俺はミレアの手をしっかりと握り、歩き出した。

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

俺はまず、町の人々にミレアのことを聞いて回った。
『この子のこと、何か知りませんか?』
人を探すために似顔絵を見せているのならともかく、張本人を指して質問する俺達は訝しがられたが、大抵の人は答えてくれた。
誰もが、『見たこともない』、と。


日が暮れてきた。
「お前、この町に住んでいたわけじゃなさそうだな……」
「そうだね……」
ミレアは多少落胆しているようだが、さっきのような不安に押し潰されそうな様子ではない。
ミレアは一人だということが最も怖かったのだろう。
誰も味方がいない。
誰も自分を知らないだろう。
自分自身でさえも。
「……ミレア」
「?」
「そろそろ休むか」
「……うん」
……俺が出来るのは一緒になってミレアの記憶を探すことだけだ。
記憶喪失の不安をすぐに無くすことは出来ない。
けれど。
俺に出来ることがあるのだから、ミレアを助けることができるのだから。
俺は精一杯努めよう。
11/07/03 14:47更新 / パラッド
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■作者メッセージ
すいません短すぎて……。

このように少しずつ出していこうと思うので、これからもよろしくお願いします。

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