読切小説
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ノワール達の再会
--ズンッ!

一撃の元に相手は沈んでいく
これで5人目だ

つまりここにいた追っ手全員はとりあえず仕留めた事になるだろう

一体何時まで追って来るつもりなんだ?
無駄に人員を浪費してまで、ただの裏切り者を殺したいのだろうか?



そう思いながら、僕はこの場所を後にした



――きっかけは些細と言えば些細な事だ
たまたま元同僚が僕の大切な人の事を罵ったのだ

あいつは魔物に魂を売った、売春婦なのだと

気が付いたら、死ぬ一歩手前まで痛めつけていた
そいつの取り巻きも含め、6人程を痛めつけてたらしい

問題は、そいつが教団のお偉いさんのコネで入った教団の騎士な訳で

更に言うなら、僕も一応そいつと同じ教団の騎士だった訳で

つまり、教団への反逆者として、僕は処刑される事になった

いや、なっていたが正しい

なんせ脱走して、まだ生きているのだから

まぁ、教団に未練が無いため、全く構わなかった

『彼女』がいない場所なんて、僕にはどうでもいい

『彼女』がいない世界なんて、僕には…心底どうでもいい



――元々、僕は孤児だった
親の事などわからないが、僕の所持品からジパングのサムライの子ではないかと言われていた

その孤児院で、『彼女』と出会った
彼女も孤児だったが、まわりの孤児のまとめ役もしていた

また、『彼女』はとても信仰深かった
それこそ、昔の聖書まで読み漁り、神に対する認識を深めようとしていた

――だからこそだろう
『彼女』が、命を掛けてでもあの行いをしていたのは


「つっ…!」
突然痛みが走った
恐らく連日の戦闘で体が疲労しているのに、無理して戦闘したから、どこか痛めたのだろう

全く、忌々しい
まだ、目的地には着いていないんだから、そこまでは体ももってほしい

そこに着いたら、死んだって良いから、もってくれ

そう思いながら、僕の体は傾き始め、倒れていった


―――途中、彼女に似た声が聞こえた気がしたのは、恐らく幻聴だろう

・・・
『ねぇ、やっぱり魔物を殺すのは変よ』
 またその話?
『何度だってするわよ、そりゃあ』
 わかってるけど、あまり大きな声で話さないでよ?
 僕以外が聞いたら…
『わかってるけど、いずれみんなに話さないと。これは絶対必要なことなのよ?』
 でも、魔物が増えすぎたら人類が危ないのも事実なんだろ?
『だからって、隣人を迫害するのは間違ってる。これは聖書にも記載されているわ』
 言おうとしてる事はわかるよ。でも…
『分かり合えるなら、お互い手を取るべきなのよ。片方は手を差し伸べているのに、片方がナイフで襲うのは間違ってるわ』
 だけど…
『それに…』
 ん?
『友達になれたかもしれない人たちを、これ以上殺したくない』 

『私は、私自身に、これ以上嘘をついて、神に背きたくないの』
 君は背いてなんかいないよ。そんな事言ったら僕は…
『あなたはそうさせられているだけだもの。罪なんてないわ』
 …いや、そうじゃn『そろそろ寝るね。明日用事あるから』
 へ?あ、あぁ、おやすみ
『おやすみなさい、ナナイ』
 …おやすみ
・・・

…また、あの夢だ
彼女が、死ぬ前日の、あの夢
あそこでもし止められたら、彼女は生きていただろうか?
いや、どちらにせよ処刑されていただろう
なんせ、彼女は―――

「気がつきましたか?」

ふと、懐かしい、しかし聞こえるはずもない声が聞こえてきた
…そもそも、これも夢だろう
ベットの上で寝ていること自体ありえないし、それに『彼女』の声が―――

「あ、起きられたんですね?よかったぁ」

僕は目を疑った
だって、そこには・・・

「ん?どうかなさいましたか?」

死んだ筈の

「ゲ、ヘナ・・・?」

「へ?」

『彼女』―――ゲヘナが立っていたのだから

「ゲヘナ、ゲヘナなのk―――っ!」

起き上がろうとしたら、体中に激痛が走った
正直かなり痛い

「あぁ!動かないでください!体、傷だらけだったんですよ!?」

ゲヘナに瓜二つの彼女は体を押さえ、僕をベットに寝かせてくれた

「しばらくは安静にしてください。じゃないと、死んじゃいますよ?」

「そこまで体を酷使したつもりはないんだけど…」

「…全身に切り傷作って、疲労困憊なのは、十分酷使してますよ」

…かなりジト目で見られている
この癖もゲヘナそっくりだ

「と・に・か・く!今は安静にしていてくださいね。」

と、彼女は部屋から出て行こうとした

「あ、待って」

はい?と彼女は振り向いてくれた

「…助けてくれたことはありがとう」

「どういたしまして♪」

そういうと、彼女は部屋から出て行った

「あ、言い忘れましたが」

って、もう戻ってきた!

「荷物はこちらで預かってますから、逃げないでくださいね。今食べ物を持ってきますから」

そういうと彼女は、再び部屋から出て行った

荷物―――つまりは僕の武器の事だろう
それ以外なんてなにも持ってきていないのだから

に、しても…ゲヘナに瓜二つだ
それこそ本人と言っても不思議がられないだろうし、生き別れの双子と言われても納得いくレベルだ

だからこそ、僕は警戒しないといけない
もしかしたら、これは教団の罠かも知れないんだから

僕が裏切った根本的な理由は、ゲヘナなのだから

だが、今現状動けないのも事実
どうしようかな…

「お待たせしました〜」

と、彼女はスープとパンを持ってきてくれた

「まだ体動かせませんか?」

「いえ、少しは動かせそうです」

正直、体を動かそうとするとかなり痛むが、仕方ないだろう

「っ!」

だが、体は思った以上にダメージを蓄積しているらしく、パンを取ろうとして失敗してしまった

「まだ全然うごかせないじゃないですか…無理をしないで」


と、彼女がパンを小さく裂いてくれた

「はい、アーン」

…え?

「アーン」

…その表情は、ゲヘナが有無を言わさない時のそれに酷似していた
恥ずかしいが、それを口に入れてもらった

「大きさ、これ位で大丈夫ですか?」

食べながら首を縦に振る
すると、彼女は嬉しそうに微笑んで、パンをまた裂いてくれた

―――やっぱり、同じだ
そう、似ているなんて物ではない
彼女と『彼女』は、全く同じなのだ

「あ、そういえば…」

彼女が突然何かを思い出したようにこちらを向いてきた

「自己紹介がまだでしたね」

「あ、あぁ、そうですね。僕の名前はナナイ」

「私は―――ゲヘナ、と言います。よろしくお願いしますね、ナナイさん」

もはや驚きはしなかった
仕草も、しゃべり方も、すべて同じなのだから、名前も同じでも驚かない

「ゲヘナさんはいつからここに?」

声が若干震えていたが、仕方ない
どうしても確認したい事なのだから

「あー、えーと…いつだったかな?ちょっと思い出せないですね、アハハ」

なぜか目を逸らしている彼女

「いや、よくここら辺には来てるんですが、あった事がないなぁと思いまして。後、この辺にお墓ありませんでした?」

「お墓ですか…あ、ありますよ」

…やはりこの辺で気を失ったのか

「明日、そこへ案内してもらえませんか?」

「へ?」

彼女は不思議そうに答えた
まぁ、この怪我の状態じゃあ、その反応は仕方ない

「だ、ダメに決まってるじゃないですか!?まだ体だって治ってないんですよ!」

当然、この反論も予測済みだった

「無理をしてでも、そこにいかないといけないんです。お願いします」

「…ひとつ、教えてください。なぜですか?」

彼女は真剣な表情でこちらに聞いてきた
嘘は許さない、といった、『彼女』と同じ表情で

「大切な人のお墓なんです。訳あってここを離れないといけないから、最後に「嘘ですね」

彼女が遮った

「本当はそこで、死のうと考えてませんか?」

「っ!?」

な、んで…

「やっぱり図星でしたか」

僕は彼女から目をそらした

「聞かせてください、なんでそんな事を…」

「なら、先に答えてください。あなたは…誰なんですか?」

「!?」

今度は彼女が驚いていた

「前から僕はここによく来るんですよ、お墓参りに。でも、一度たりともこの辺で人を見かけた事はありませんでした」

今度は彼女が目をそらした

「それに、なぜ、『彼女』の名前を使っているんですか?」

恐らく僕はそうとう酷い睨み方をしているのだろう
彼女もかなり怖がっているのがわかったから

「…信じてもらえないかもしれませんが」

彼女が話し始めた

「実は…わからないんです」

「は?」

「私は…私のことがわからないんです」

―――記憶喪失

彼女の話を信じるなら、そういうことらしい

気が付いたら、この森の中にいた
近くに使われていない小屋があったから、そこに住んでいた

そして―――

「ゲヘナって名前も、近くにあったお墓の名前をお借りしていました。私は、私自身のことがわからないから。名前も、両親も、なにもかも…」

とても悲しそうに俯いて、そう語った。

「…ごめんなさい」

「なにがですか?」

彼女は、本当に申し訳なさそうに謝ってきた

「そのお墓の方、ナナイさんの大切な方のお名前なんですよね?…それを勝手に使ってしまって…」

申し訳なさそうを通り越して、泣く寸前だ。

「…別に気にしてないから、大丈夫だよ」

僕は続ける

「きっと、『彼女』もそれをよしとしてくれるよ。重度のお人好しだったからね」

「ご、めんなさ、ぃ…あり…」

最後まで言い切れず、彼女は泣き始めた
軽くなら体が起こせるので、彼女に胸を貸すことができたのは、ある意味幸運で、不幸だった

ゲヘナと、同じ香りがしたから


・・・

「で、なんでナナイさんは死のうとしてるんですか?」

泣き止んだ頃、彼女が聞いてきた

「…そう、ですね。話さないといけませんね。貴方にも話してもらったのだから」

そういうと、なぜか彼女は軽くむくれていた

「どうかしました?」

「…さっきと話し方が違う」

…どうやら、丁寧な口調がお気に召さないようだ

「…初対面でこんな口調もどうかと思うけどね。こっちのほうがいいの?」

「うん!なんか、そっちの方が落ち着きますしね」


こんな所まで、『彼女』そっくりだと、これからの話が余計話しずらいな…
―――だけど

僕は、意を決して話し始めた

「まず、僕は『元』教団の騎士だ」

彼女は驚かない

「教団に、ある禁忌を犯した女性がいたんだ。」

そう、『彼女』は、禁忌を犯した

「魔物を、助けたんだ」

・・・

『彼女』―――ゲヘナは教団で処刑されようとしていた魔物たちを全員解放して、親魔物領国家へ連れて行こうとしていた

勿論、その計画は他の教団の連中に漏れていた

ゲヘナは、自分が囮になり、捕らえられた魔物を全員逃がしたのだ


捕まったゲヘナを待っていたのは、異端審問会だった

今回の罪をなぜ犯したのか聞かれ、ゲヘナはこう答えた


ゲヘナの持論はこうだった

『魔物は、人間と同じ感情も、愛情ももってる。つまり話し合えば手を取り合えるのよ』


『それを、魔物が人間を食べるなんて嘘をばら撒くのは、教団の罪よ』

『魔物しか生まれないのだって、もしかしたら手を取り合っていけば解決するかもしれないじゃない』

『だから、お互い手を取り合う必要があるのよ』


―――お偉い様方には、『彼女』の考えは不快だったらしい


翌日、彼女は絞首刑にされ、殺された

・・・


「僕が教団にいたのは、『彼女』がいたからだった」

彼女はなにも言わない

「彼女がいなくなって、世界が極端に味気なく感じた」

僕は続ける

「最近、彼女のことを悪く言う同僚がいてね、気がついたら…殺しそうになってた。それからはこの森に入って…今に至る、のかな?」

僕は話を終わらせた

「…死ねば、『ゲヘナさん』に会えると、思うんですか」

彼女はかなり感情を殺して、でも怒りを抑えきれない風に聞いてきた

彼女の言うこともわかる
実際、会えないと思っているのだから

「…会える会えないじゃないんだ。僕にとって、もう生きる理由がなくなってしまったんだ」

だから、苦しみながら死のう

でも、願わくば―――

「死ぬ前に、彼女に謝りたかったんだ。守れなくてごめん、って」

無意味だとわかっていた
それでも、僕はそれをしてから出ないと死ねなかったんだ

「…そんなの、勝手ですよ!」

彼女が怒りだした

「そんな、悲しい理由で死んじゃだめですよ!『ゲヘナさん』だって望んでません!」

「…君に、何がわかるんだよ!」

「死にたがりに人のことなんてわかりません!でも!」

彼女は抱きついてきて、こういった

「死んじゃったら、何もできないのは知ってますよ」

僕には、その温もりが、懐かしいような、それでいて諦めていた、なんて言えばいいのかわからない、不思議な感覚に陥っていた

「死んじゃったら、私も、悲しいです。」

僕は恐らく、間の抜けた顔をしていただろう

「だって、寂しいじゃないですか…恋人になれるかもしれない人が、死んじゃうんですよ」

「あ、ぁあ…」

気がついたら、僕は泣いていた

「私を『ゲヘナさん』の代わりと思ってくれても構いません。―――ナナイさんが、生きてくれるなら、それで」

「あぁああぁぁぁぁぁあああぁぁああああ!」

僕は彼女に抱きしめられながら泣いた
恐らく、子供でも泣かない位、泣いたんだ

「う、うぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううう!」

「よしよし」

彼女は、そんな僕の頭を撫でてくれた

その癖も、全部、『彼女』と同じだった

・・・

あれから、大体2週間位たった

僕は相変わらず彼女―――ゲヘナの小屋で一緒に住んでいる

ゲヘナいわく、体が疲労しすぎていて体がオーバーヒート一歩手前みたいな物らしい

なので、僕はベットでよこになるか、彼女の家事の手伝いをする以外は、基本的に何もできなかった

まぁ、教団にいた頃は常に色んな所へ行って魔物を退治させられていたので、体がそれに慣れていたのだが


それを言ったら呆れ顔&ジト目のコンボで、ゲヘナは言ってきた

「もう教団の騎士じゃないんだから、少しは休みましょう。じゃないと、本当に死んじゃいますよ?」

お陰で、日課だった素振りもできない

―――ちなみにその事を講義したら、先週から軽くならやっていいと言われ、軽く素振りはできているが


ただ、幾つか気になることがある

まず、妙にスキンシップが激しいという事
具体的には、体をくっつけたがる、腕を絡ませる、他多数のことがある

次に、天気が悪い夜には自室に篭りっきりになる
まるで僕と会いたくないみたいに、篭りっきりだ

最後に、その状態だと、少し、声が子供っぽくなっていることだ
正直、別人かと疑うくらいに声質が違う


それ以外は、基本的に一緒の部屋で寝ることが多い

…ちなみに、流石に一緒のベットでは寝ていない
確かに魅力的だが、まだ会って2週間だ


まぁ、この生活を続けて死のうという考えは薄れているのは事実だ。


でも、『彼女』を守れなかった自分が、果たして、生きていいのだろうか?

まだ答えは出ない

・・・

「じゃあ、マキ割してくるよ」

ゲヘナに告げる
流石に直りかけなんだから、彼女に力仕事をさせるのはしたくない

「気をつけてね、ナナイ」

ゲヘナが料理をしながら、言ってくれる

近頃は「ナナイさん」ではなく、『彼女』みたいに「ナナイ」と呼んでくれる

正直、かなり嬉しい
この生活がいつまでも続けばと思う

―――しかし、そろそろ離れないとまずい

恐らく教団の騎士が派遣されてくる頃合だろう

だからこそ、そろそろここから離れないといけない

ゲヘナにも、それを伝えないと

・・・

「明日、お墓にいくよ」

ご飯の最中、ゲヘナに伝えた

「へ?…あ、あぁ、そうよね。怪我も治ったんだしね」


「お墓参りをしたら、ここをさるよ」

「え?」

ゲヘナは目が点になっている
当然だろう

「な、なにをいって「言っただろう。僕は教団に追われている。だからここにいるとゲヘナに迷惑がかかる」

ゲヘナは押し黙る。

「僕といると、間違いなく危険にさらされる。君をこれ以上巻き込みたくないんだ」

だから、さる
そう伝えた

「…だ」

「ん?」

「絶対にいやだ!離れたくない!」

ゲヘナが涙を浮かべながら叫んできた

「ゲヘナ、気持ちはわk「だって、やっとまた会えたんだよ!なんでまた離れなきゃいけないの!」

え?

「い、いま、なんて」

「もう離れたくない!もう、二度と会えなくなるなんていやだよ!ナナイ!」

ゲヘナが泣き叫んで言う
けど、その内容は

「ゲヘナ、君は」

「!?」

ゲヘナは窓の外をみたら飛び出していった

「ゲヘナ!」

僕は荷物を持って、彼女を追いかけた

・・・

追いかけていった先は、『彼女』の墓の前だった

「こないで!」

また、あの別人みたいな声だ
だが僕は近づいていった

「ゲヘナ、さっきのはどういうことなの?僕は君と昔あったことあるのかい?答えてくれよ!」

僕は、叫んだと思う
『彼女』とだぶつきながらも、『彼女』といる時の感覚を思い出させてくれながらも

僕は―――ゲヘナに惹かれてたんだ

「…会ってるよ。だって、『一緒』に育ったじゃない」

え?

「もう、隠せない、よね」

そういって現れたのは…

「これが、私の正体、だよ」

黒ずくめの、小さい、少女だった

・・・

「気がついたらこの姿で倒れてた」

私は、彼に告げる

「最初は、グールとかに甦生してもらったと思ってた。でも、生前の私と全然違った」

私が

「今の私は、ドッペルゲンガーって魔物なの」

魔物に変わったことを



―――元々、彼を助けたときから、元の姿に戻ったときにとても嬉しかった
彼は私のことを理想の女性と思ってくれていた

つまり、私達は相思相愛だったのだ

だが、彼になんて説明すればいいのかわからなかった

自分が魔物になったことも、これが偽りの姿であることも

なんて言えばいいのか、わからなかった

だから、嘘をついた

記憶喪失だと、初対面だと

本当なら、彼と一緒に寝たかった

でも―――

彼が見てるのは、『かつての私』なのだから

・・・

僕は、目を、耳を疑った

「つまり…」

「うん、私はゲヘナ。貴方と共に育った、禁忌を犯した女だよ」

目の前の小さい彼女は、悲しそうに目を伏せながらそう言った。

「騙したくはなかったけど、こうする以外、方法がわからなかったんだ」

自虐っぽく、彼女は言う

「それに、ナナイが言うことは正しいよね。こんなよくわからない女といたら、逃げそびれちゃうよね…だから「本当に、ゲヘナなんだな?」

怒気を含んで、彼女に聞く
コクン、と彼女は頷いた

僕は彼女に近づいていった
彼女は逃げない
恐らく、逃げても無駄だと諦めたのだろう

「「…」」

お互い、言葉はない

お互いが触れられる距離まできて、僕は―――

ゲヘナを抱きしめた

「ッ!?」

「本当に、君なんだな、ゲヘナ」

かつての彼女は、僕と同じ身長くらいあったが、今は僕のあごの所に頭がきている位だ

「私、魔物になっちゃったんだよ?」

ゲヘナは言う

「背もちっちゃいし、黒くて、地味なんだよ?」


でも、君は―――

「君は、『ゲヘナ』なんだろ?」

抱きしめられた状態で、彼女は頷く

「なら、なにも問題はないよ。僕が愛しているのは、『かつてのゲヘナ』でもなければ、変身したゲヘナでもない。君自体、ゲヘナって存在が大事なんだから」

僕の胸の中で、彼女は声を殺して泣いていた
昔から変わらない癖だ


「みつけたぞ、裏切り者」


後ろから、声が聞こえてきた
振り向かなくてもわかる

教団の騎士どもだ

「貴様がここにあの娼婦を埋めたのは聞いてたからな、ここにくればあえると思ってたぜ」

どこかで聞いたことのある声だが、どうでもいい

「おまえが抱いてるの、魔物だろ?ついでに処分してやるよ」

そういって、剣を抜く気配がした

「ゲヘナ、目を閉じてて」

ゲヘナに伝えた

「ナナイ…」

「大丈夫、すぐ片付けるから」

そういって、僕は、彼女から離れると、―――愛刀を抜き放ち、彼らに切りかかった


―――僕がジパングの人間と思われたのは、孤児院に拾われたとき、この刀を持っていたからだ
この刀を使って、今まで罪のない人たちを、何人も切ってきた


けど、ようやく、『大切な物』を守るために、使うことができる!

・・・

ズン!

いつぞやみたいに、最後の一人を切り倒した
いや、峰討ちだから、全員生きているが、しばらくは意識を取り戻さないだろう

その間に、月も見えるようになってきた

「ゲヘナ、もう目を開けてもいいよ」

ゲヘナに伝えるために振り向いた

そこには―――

「ナナイ、終わったの?」
黒ずくめの小さい少女が、―――いや、生まれ変わったゲヘナがいた

「あれ!?何で私!?」

目を開けて、視線の高さが変わってないことに驚いたゲヘナが慌て始めた


「ゲヘナ、落ち着いて。取りに行かないといけない道具とかって、あの小屋にある?」

僕は彼女を落ち着かることにした

「いや、ないよ」

「なら、このまま親魔物領に向かおう。こいつらは伸びてるだけだから」

彼女はオドオドしながら聞いてきた

「ナナイ、前の姿に戻れないよぉ…どうしよう…」

そんなこと、僕は気にしないのだが、彼女は気にするのだろう

「とりあえず、親魔物領にいけばなにかわかるかもしれない。いこう」

声に出さなかったが、僕は心の中で言った

「見た目云々より、僕は君が好きなだけだから、本当の君がみれて嬉しいけどね」

「ナ、ナナイ…///」

ん?どうかしたのだろうか?

「声にでてるよ///」


…独り言を口に出す癖を、直さないとと思った瞬間であった


〜〜〜

ある地方で、不思議な噂が流れた

黒ずくめの小さい少女と、黒髪の剣士のような青年が、教団の教えについて、間違いがあると触れ回っているという物だ

しかも、その少女の話はとても古い聖書の中身や、最新の聖書の中身もすべて交えて話をしていることから、かなりの信憑性があったとのことだ


教団は、その二人を賞金首にしたが、彼らの行方さえ、掴めなかったそうだ

〜〜〜

「さて、今日もがんばって、みんなに真実を言わないと!」

「ゲヘナ、気張りすぎないでね」

彼らは、今日も幸福に暮らしている




11/08/17 03:18更新 / ネームレス

■作者メッセージ
はじめまして、ネームレスと申します

以前からこのサイトのSSを読ませていただいてましたが、ドッペルたんが出た記念に、処女作を書かせて頂きました

図鑑を読んでドッペルたん見たときから、このストーリーがなぜか頭から離れませんでした

「これちがくね?」とか思われた方、ご了承ください

見づらいとことかあるかもしれませんが、読んでくださった方々には、感謝いたします

では、また書きましたら、よろしくお願いします

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