読切小説
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りんね
「死んで良かったわ」

「……そう。」

僕の仲間が唐突に突飛な発言をした。

「ブラックジョーク。」

「ブラック過ぎない?」

僕は元勇者である。
別に元っていうのは魔物に襲われて堕落したとか、怪我を負って戦地を退いたとか、そういうことでは決してない。

いやまぁ規模を大きくして見ると、堕落し、戦地を退いたのだが、ありていに言えば国が完全に魔物を受け入れたのだ。

元々自国は中立の国だった。
反魔物国から支援を要請されたら魔物も切っていたし、かくいう僕も切ったことがある。

あぁ、自分の身可愛さで一応釈明はしておくけれど、殺してはない。
中立らしく、あくまで無力化が目的だったので峰打ち、又は完全に治癒出来るだろうくらいしか傷は付けていない。

侵攻のための攻撃ではなく、防衛のための攻撃だ。
撃退できればよかったので、捕獲をしても釈放してる。

で、最近国のクーデターというかで、魔物も生き物だとか、健気に生きてるとか、可愛いとか、そんな声が上がり続けたんだよね。

結果、国は中立から受け入れに完全にシフト、勇者業も廃業になったわけ。

今は親衛隊。
……という建前の何でも屋である。

「なんで今まで死ななかったのかってくらいなのよね、これ、ほんとに。」

で、さっきっから明朗に僕に死んだことを自慢してきてるコイツが、元魔法使いである。

勇者業だったから、仲間がある程度居たのさ、ゲーム風に言えばパーティの一員だったのね。この魔法使いも。

で、同じく廃業。

そこから急にとんでもないんだけれど、友好状態になって何を言い出すかと思えば、開口一番。

「死ぬわ」

だったわけ。

そりゃおいおい、ってなるよね。
そんなに魔物が嫌いかってね。

でもそうじゃなかったみたい。

「元から魔物は人間の上位互換だと思ってたのよ、私はこの国から出るつもりはないけれど。ないからこれまで出来ずにいたけれど、此処が友好状態になった今、私を留める枷は無いわ。」

なんて言いながら自分の腹にナイフをあてがって、地面に書かれた魔法陣の上で戦国さながら、腹切りをしたのね。

止めたよ、そりゃ、相手が何言ってるかてんでわかんねーんだもん。

止めたけれど、そこは魔法使い。
魔法陣の周囲に結界まで張って、完全に妨害出来なくなってたね。

なんでそんな状態で僕が呼ばれたかって、後から聞いたら

「失敗してもしも死んだ時のため」

とかぬかしやがった。
ほんとにびっくりだし、びくびくだよ。

「ブラックジョーク」

とも付け加えてたけどね。

あぁうん、つらつらと言ってても仕方ないね。
結果を端的に言わないと。

結果をいえば、彼女は魔物になったのである。

リッチ。

金持ちの事ではない。

魔法使いや賢者、学者とか限られた人間がアンデット化した時になる魔物の種族。

それは絶大な魔力を備えていて、それ目当ての自殺だった。

「これ、私は死んだのかしら。それとも、死に続けているのかしら。」

「難しい事言わないでよ。」

「まぁどちらでもいいのだけれど、死に続けているとしたら阿鼻地獄も真っ青ね。」

「死に続けてたとして、痛みはないんだから真っ青にはならないんじゃない?」

「嫌ね、真っ青になるのは張り合ったからじゃなくて。」

「え?」

「私のブラックジョークのせいよ。」

白けてる自覚あったんだ。
知らなかった。

そんなこんなが成り行きと、経緯である。
どうでもいいけど経緯、ってけいいとも読めるよね。
理系はけいい、文系はいきさつ、って瞬時に読みそう。

僕はいきさつ派。

「私はけいい派ね。」

「言わなくてもわかるよ。」

「何よ、いきさつって。前回のあらすじ、とかの方が可愛らしくていいじゃない。」

「若干意味が違うよ。」

「ジョークよ。」

冗談が好きなのである。
おやじのオヤジギャグと同じ。

「それはブラックじゃないんだね。」

「皮肉とか死ネタが入らなきゃブラックにはならないと思うわ。」

「ホワイトジョークは?」

「ブラックでないジョークという意味しか思い浮かばないからホワイトジョークはないわね、ブラックジョークと、ジョークだけ。」

「ふーん。」

聞くだけ聞いて興味無い。
僕も結構やな奴である。
知ったことか、相手もどうでもいい話してるんだからお相子さ。

「あ、いや、あったわ、ホワイトジョーク。」


急に立ち上がり、得意気な顔をする彼女。
死んだからだろうか、それともアンデット特有なのか、あまりその姿には質量がないように見える。
フワッと、ちゃんと歩いているのに足音を立たせずに指をくるくる回しながら話し始めた。

「え?」

「今から面白い話をします。」

「……うん」

やな予感。

「頭、体、耳、足、ぜーんぶ白い犬がいました。猫でもいいわ。うさぎでも。」

「それで?」

「その動物は、勿論。」

「……尾も白い。」

「ホワイトジョーク。」

「……物理的だね。」

内容ではなく、出てくる色の話で勝負してきやがった。
いやこれも内容なんだけれど、そうじゃない。

「この世にホワイトな話なんかないのよ。」

「それはブラックジョーク。」

そうね、と頷いて一口紅茶をすする彼女。

「死に続けている私が言うのも場違いかもしれないけれど、結構輪廻転生なんて話、好きなのよ。」

「へぇ、もっと原理に基づいたものしか信じてないと思ってた。」

長くなりそうな話の雰囲気を感じ取り、始まる前に僕も紅茶を注ぎにキッチンへと向かう。

「素敵じゃない、転生とか。記憶そのままならさらに良いのだけれど。」

「例えば?」

「生まれ変わる度に違う土地、違う家柄、違う性別、違う声、何もかも違う状態で始まるの。5回でも、10回でも、何度でも人生を楽しめるわ。」

「なるほどねぇ。」

「もっとも人じゃないのだけれど。魔物生ね。」

「人でいいんじゃない?僕は君を人だと思ってるよ。」

「……そ、思うのはタダだよね。」

冷たい口調でそう言い放つ。
まぁ進んで魔物になったのだから人間扱いされずとも全く気分を害さないだろうけれど、それでも僕は人間扱いしてしまうし、人間だと思ってしまう。

案外受け止められてないのかもしれない。
現実に理解が追いついて居ない。

紅茶を入れ終わり、カップを持ち、彼女の方へ戻ろうと振り向いた瞬間、持ったばかりのカップを落とした。

落とさざる負えなかった。

「……ありがとう。」

彼女に、抱きつかれた。

「急に何……」

まったく気が付かなかった。
元とはいえ勇者失格である。
落としたカップの処理を考えていると、彼女が口を開いた。

「……別の場所、別の家柄、別の声なんて言っけれど、別だと嫌なものが一つだけあったわ。」

抱きついた状態、耳元でぼそぼそと囁かれるように言われるのでなんだかこそばゆい

「……何?」

「……別の土地、別の声、別の家柄、別の種族、なんでもいいけれど、でも、私は、同じ人を、好きになりたい。」

「……」

淡々とそれを僕に伝え、1度だけ強く抱きしめると、彼女はスッと離れていく。

放心状態の僕を振り向いて見やり、こう付け加えた。

「今のは、ジョークじゃないわよ。」

彼女のくだらない話につきあうのも、案外いいかもしれない。
そう思ってしまった瞬間である。

「まぁ私に釣り合う寿命が必要だけれどね、インキュバスになると寿命伸びるらしいじゃない。」

雰囲気ぶちこわしだ。

ため息を付いてから、とりあえずは話をそらす。

「床の割れ物、片付けるよ。」

「そんなの魔法で1発じゃない。」

「共同作業。」

かがんで欠片を回収し始めた僕の側に寄ってきて、魔法を使わず彼女も拾い始める。

「……悪くないわ。」

そう言って微笑んでいた横顔は、死んでいるとは思えないほどに綺麗なものだった。
16/08/03 04:05更新 / みゅぅんさん

■作者メッセージ
色々ありましたが元気です。ログインがやっぱりできませんけど。

前シリーズに関してはとりあえず打ち切ります。
暇があれば再開しますが、どうしてだろうなぁ。
\真面目にやってきたからよ/

ーーー
追記
タグ直しました。言い訳させてください。リッチとワイトは登録番号が隣同士です。以上です。

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