読切小説
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まっすぐファントムちゃん!
「う...うーん...?」

瞼を開けたら、僕こと「志野淵 辰雄」の眼前に、一面真っ白な景色が飛び込んできた。
周りを見渡せども、白、白、ただ全面の白。部屋全体が発光しているような奇妙な部屋だった。僅かな部屋の角の陰りが見えなければ白い空間に浮かんでいると錯覚するほどだった。

夢か?夜遅くまで起きていたしうつつを抜かして寝ぼけ三昧なのか?
目に映る全てのものを疑いつつ頬をつねれども目が覚める様子はなく、どうやら疑いようもない現実のようだった。
しかし、無機質な白に囲まれたこの現実離れし過ぎている異常事態に、戸惑うばかりで声すら発する事も出来ず、唯々ぼーぜんとする他に無かった。

待て、落ち着け。
確か昨日も、朝少し寝坊気味に目が覚め、急ぎ足で大学に行き、彼女と一緒に授業を受け、帰宅し母の温かいご飯を食べ、夜遅くまで彼女と通話しながらベッドに横たわり眠りについた。いつもの日常を謳歌していたはずだ。
そうなれば目が覚めたら真っ先に見えてくるべきなのは自分の部屋の天井か、同じく横たわる僕の携帯なのであって、こんな素っ頓狂な部屋である訳がない。
なんで、どうして、とずっと答えの出ない疑念に耽っていると、



「ううーん...」

すぐ脇からかすかな声が聞こえてきた。聞き間違うはずがない、学校で一緒に授業を受けた僕の先輩であり彼女である「幽岸 麗美」さんの声だ!
彼女もここに?何故?まずなんだここ?なにがあってこうなった?とにかく彼女に声をかけて状況を整理しないと!

「先輩!?先輩もこんなとこに!?」
「ふぁぁ〜...あ、タッくんがいる。...ん〜?う、うわぁぁぁ、な、なんだここ〜〜〜?」

そう言うと芝居がかったような動きで口元を手で覆い、驚いている様子を見せた。
どこか間の抜けたような先輩の様子は普段とそう変わらない調子であった為、こんな状況ながらにほんの少し安心感が芽生えてきた。
スラリとしたモデル体型で、まるで雪のようにか細く白い腕。あどけない少女のようでありながらどこか艶やかさを含む顔立ちと絹糸のようなショートボブの髪が、フードの中からちらついて見える。
白き肢体を覆い隠すように黒いシックなロングスカートとフード付きのおしゃれな黒いパーカー、つまるところ普段の出掛での服を着こなしている。これまた妙だ。


「と、とにかく落ち着いて状況を整理してみましょう、先輩、ここに来るまでに何かありました?」
「そうだねぇ、私は寝てたらいつの間にかここに...といった感じだな」
「そうですか...僕も完全に同じで、寝ていたらふとここにという感じなんです」

先輩も全く同じ状況なのか...と思いたいが、どうもこんな状況下なのに先輩は腕を組み不敵な笑みを浮かべている。

「...先輩、先ほどからやけに落ち着いてません?」
「え、そ、そ、そんなことないだろう!?うわー大変だなー、どうなるんだろうなー」
「それに、僕は寝た後そのままのパジャマだというのに、先輩はバッチリ余所行きの格好でここにいますね」
「え、あ、い、いやぁ私の家アメリカーンだから、こう、外行きのままとか、そんな感じの寝間着でも、お、おかしくないのさー!」
「うーん...何か受け答えもふわふわしてやしませんか?」
「え!?ふ、ふわふわ!?ままままさかばれた!?地に頑張って足つけてるように見せかけてるのに!」
「...何よくわからないこと言ってるんですか」
「あ、この反応!多分ばれてないようだな!よっしゃ!」


パニックになりながらも言葉のキャッチボール、いや、ドッヂボールを交わしてると、不意に部屋の端にあった無機質なスピーカーからノイズが混じったブーミーな声が聞こえてきた。


『‐‐‐ザザッあーあー、諸君、そこの幸せカップルお二人さん。愛を育む白の部屋へようこそ。私が、この部屋の支配者であーる』

 何やら女性が無理して低い声を出しているような、そんな印象に捉えられる声色で語りかけてきた。
というよりか...どこかで聞いたことあるような?

「...この声色、どこか先輩の声に近いような?」
「ギクゥ!?  や、やだなぁタッくんそんなわけないじゃなーい、おほほほほ」


何故か唐突に冷や汗を大量に流している先輩をよそに、淡々とスピーカーからは言葉が流れてくる。

『この部屋から脱出したいかね?それならば、壁に浮き出てくる3つのお題をこなしていくことが出来たならば、この部屋から解放してあげようじゃないか』
「お題?いったい僕達に何をやらせよ
『そうはいっても不安だろう。何しろ愛しい彼女...フフフ❤と共にこのような部屋で訳の分からない状況下に置かれているのだからな。混乱するのも無理はない。
しかし安心したまえ、君達に危害を加えるつもりはない』

質問に対し全く無関心、遮るように向こうの言葉が続いていく。どうやら意思の疎通は不可能のようだ。
恐らく録音音声か、またはこちらの声が届いていないかだろう。

『お題の内容はわた...彼女さんとの絆を確かめるものであり、その...えっと...あ、あ、愛を深めて!ら、ラブラブかどうかを測るためのものだ!キャー❤言っちゃった言っちゃった❤』

「......一応聞きますけどこれ本当に先輩じゃないんですよね?」
「そそそそんなわけないでしょぉ!?」


普段白粉を塗ったかのように白い顔を真っ赤にしながら猛抗議された。うーん、あの黄色い声はかなーり先輩の声色に近かったんだけどなぁ。

『んー、コホン。えー、まぁそんなわけで、君達にはお題をこなしていってもらおう。そうすれば、この部屋から出してあげようじゃないか。では、アデュー!ザザッ‐‐‐プツン』


妙にノリノリな謎の声はそれっきり聞こえなくなり、どうにも緊張できない僕と、依然として顔を赤らめてる2人が顔を見合わせてぽつんと立っていた。


「って言われたけど...どうします?」
「い、いやー、ここから出れるっていうならちょっと頑張ってみようではないか、ね?」

先ほどから先輩は妙にそわそわしながら声の主に従うよう促してくる。


「先輩がそういうのなら協力しますけど...こんな部屋に閉じ込めて妙なゲームをさせようっていうんですし、相当悪趣味な感じですよ?」
「あ、悪趣味とは何だ!   ...あ、えと、か、開催者も何かこう意匠を凝らしてこういう風にしてくれたかもじゃないか!」
「なんで微妙にこの部屋の元凶に肩入れしてるんですか...」
「そ、そんなことはないぞ。ほ、ほら、一緒に頑張ってみようではないか。ウフフ❤」


焦っているのか、どうも浮ついている先輩は僕の手を取り、握る様にして活を入れてくれた。
白い小さな手が、まるで蜘蛛の糸が絡みつくように僕の手を包み込んでくれる。
そういえば僕が先輩と知り合ったときもこんな感じだったな。





‐‐‐‐‐‐‐‐‐

難しい講義だった。板書は目まぐるしく移り変わり問題は応用を交えスルスルとステップアップしていく。意味合いを理解しようと目で追っていたら写しを書きそびれる。意味を後回しに書き写せば問題に置いて行かれる。

そんな学問の機関銃が暴れているような時間の中、ふと隣の席の女性が完全についていけてなく、黄色い瞳を右往左往させて明らかに困惑している様子でだった。手前に板書した基礎の部分でさえ真っ白な有様なので、応用を含めた現状などわかるわけがない。
変わった肌色をしている人だな、と少しだけ思ったが人種的な問題もあるかもしれないし軽々しく考えてはいけないと思えてそれ以上気にしないようにした。

そして僕の1ページ書き終わったレジュメをこそっと見せて
「前の部分のこことここ。これだけ写せば今の問題は解けると思うから」
と小声で進言した。パァッと明るくなった顔はとても可愛らしく眩しかった。




結局僕も講義に中々ついていけず、教鞭が終わった後でも残りひたすら板書を写していた僕に、件の彼女は突然立ち上がり僕の方へと向き直り、

「お、おぉ!麗しきプリンスよ!ひ、一目見し時より我が炎は滾り胸の熱が冷めやらぬ!燃え上がりし我が、あ、あ、愛!に答えてたもう!」


と訳の分からない謳い文句を口ずさみながら跪き、僕の手を握ったのが最初の出会いだった。
黄色い眼(本人曰くカラコン)を真っ直ぐに見据えられ、頬を染めながら真正面に愛のポエムをぶっつけてくる、騎士と姫の求婚がひっくり返った劇のようだった。
最初こそ女性に免疫がなかった僕だ。握られた瞬間に僕も顔が真っ赤になり前後不覚に陥ったりもして、慌てて断り文句を言って逃げ出してしまった。


だがそれ以降、来る日も来る日も言葉を紡ぎストレートに寄ってきて聞いてて恥ずかしくなるようなポエムを詠われ続けるものだから、流石に免疫...というか抵抗力が生まれてくる。

口を閉じて講義を受けている際は、白く透き通るような肌がまるで触れれば消えてしまいそうな儚げとした雰囲気だというのに。

喋り出すと、独特の世界を繰り広げるというか...その、平たく言えば中二病を拗らせた感じ
こそばゆい言葉をひたすらに垂れ流す『残念』な先輩だった。
2週間もすると、大学内で四六時中ついてくるようになったので流石に根負けし付き合う事になったのだが、付き合ってても結局先輩のポエムを一身に受けるばかりでなかなか恋人らしいことはできていない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




そんなポエム漬けの日々が3日程続いたと思ったら、こんな部屋に放り込まれる事態に遭遇したのだ。何の因果なのか、先輩と共に。


「とにかく頑張ってみますか。他に出口みたいなものも何もなさそうですし」
「お、やる気になってくれたかい!フフフ、私たち二人の絆の力で立ちはだかる障害など軽々と突破してやろうではないか!」
「先輩さっきからやたらとノリノリですね。どうも緊迫感が出てこな...あ、文字が出てきましたね。」

それでも、部屋の主が言う「お題」の内容によってはどのような目に遭わされるかわかったものではない。浮足立たせ恐る恐る壁の文字を読んでいく。





‐‐mission 1 恋人と熱いハグを5分程行え!!‐‐




それは崩した筆記体のような洒落た書体で、珍妙な事が書かれていた


「......はい?」
「し、しし、仕方ないなぁ!これをしなきゃ出れないというなら仕方がない!そ、そうだろうタッくん!」
「は、はぁ...こんなので...また条件がずいぶんぬるいですね」
「ぬ、ぬるい!?私があれだけアプローチしても全然なびかなかったのに!?」
「今までのあれそういう意図だったんですか?ひたすら痛いポエムを朗読しにきたりしてただけだと思ってましたよ」
「わたしの、あ、あ、愛の詩を、痛いポエムだとぉ!?ゆ、ゆるさーん!抱きつきの刑だー!」

すごくプリプリと怒った様子のまま、僕を覆いかぶさんとするように手を広げ突撃してきた。
このまま受けることも、ハグが条件なのでやぶさかではないが、先輩のペースでいきなりというのもどこか癪だ。
軽く横にステップし、先輩の襲い来る体をひらりといなした。

「ふぎゃん!?」
完全に受け止めてくれると全体重をかけていたのか、先輩はそのまま前のめりの姿勢で白い床に倒れこむ事になった。これはちょっと申し訳ない。

「先輩すいません、ちょっとした悪戯心で...」
「うぐぐ...ひどいぞぉタッくん...」

黄色い瞳を潤わせ涙目になりながら上半身だけ起き上がらせ、こちらをキッとにらみつけてくる。小動物の威嚇にも見えてどこか愛おしく見えた。

「すいません、まさかそんな勢い良くすっ転ぶとは...ぷっ...くくっ...」
「笑うなぁ!も、もう怒ったからなー!」
「ふふ、すいません先輩。僕からの抱擁でお許しくださいな」


そう言って僕は彼女の手を取り立ち上がらせ、

「えっ?わっわわっ」

彼女の消え入りそうな体に腕を回し、

「わぁぁぁ!?」

そのまま抱き寄せて体を密着させた。

「ひゃわああああああ!?///」


仄かなリンスの香りと肌触りのいい生地が僕を包み込む。
華奢な体だと思っていたが、パーカー越しに触る彼女は思った以上にしなやかで細身であった。
だぼついた服故に気付かなかったが出るところはしっかり出ており、密着させた時に胸の反発するような心地よい感触が押し寄せてきた。
僕自身も先輩で女性の免疫が出来たといっても、直接女性の体に触れる機会は無かった為、布越しのおっぱいに当てられすごくドギマギしてしまう。先輩もどうやら同じ様子らしく、僕の背に回した腕がせわしなくパタパタ動いていた。

「わ、ちょ、あわわわわわわ」
「先輩...えと、その、結構胸、おっきかったんですね」
「へっ!?え、や、あの、急にそんな...///」
「先輩の慌てっぷりも見ていると癒されます...可愛いですよ」
「うきゅぅ...///」

顔は見れなかったが声のトーンと動きから真っ赤になってるとわかる。
現状、多分僕も相当顔が赤くなってるだろう。恥ずかしさと女体の神秘を受けカッカと体が燃えるように火照っていて顔から火が出そうだった。
その後お互いに気恥ずかしいのか何も言葉を交わすことなくひたすらハグし続けた。時折先輩は僕の肩に顔をうずめながらうーうー何か言ってたみたいだけど。


そんなこんなでお互いに抱擁を重ねているとふとスピーカーから

『こんぐらっちゅれーしょーん!ピロピロピロローーン』

とえらく明るいトーンの声と間抜けなベルの音が鳴り響いた。バラエティ番組かここは。

「ふぅ...ひとまずこれで良かったんですかね」
「きゅぅ......」
「...先輩?もしもし、せんぱーい?」

どうやら気恥ずかしさのあまり失神寸前にまでいってるらしい。顔が真っ赤になり焦点の定まらない目とだらしなく開いた口が幸せな感情を物語っている。
このままじゃお題達成も何もあったものじゃないので、悪いけれども起こさせてもらおう。

「ほら、起きてください先輩」

軽いソフトタッチで先輩の頬を叩き意識を現実に引き戻す。ここが現実染みた場所かどうかはさておき。

「...ふひゃっ!?こ、ここは天国!?はたまた不死者の国!?」
「まだ死んでないですよ先輩」
「え、もう死んで...あ、ああそうだね!死んでないよおほほほー」

何やら物騒な言葉も出てきたが、とにかく起きてくれてよかった。

「こんな調子じゃお題の達成なんて厳しいんじゃないですか?」
「な、なにおうー!?さっきのはちょっと...その、息苦しかっただけで、決してタッくんの胸板に当てられて気をやったわけじゃないんだからなー!」
「先輩、わりと真面目な話、僕たちがここから出れるかどうかの瀬戸際なんです。気を確かに持ってしっかりと望みましょう」
「いや、それは...うぅ...そ、そうだな」


先輩も何か物申す事があった様子だがそれ以上言うことなく口を噤んでしまった。
しばらくしない内にまた次なるお題が右手側の壁に浮かび上がってきた。




‐‐mission 2 恋人とあつぅいキスを5分間行え!!‐‐


これまた見事な筆記体で、更に過激な事が書かれていた。

「えっ...き、キス...!?」
「え、そ、そんないきなりハードル高いよお!?///」
「そ、そうは言っても...出るためにやるしかない、ですよ」
「うぅ...だけど心の準備がぁ...」

僕としても、静かにしていれば美人な先輩にキスできるというのなら内心穏やかではなかった。何せ5分、そうなれば小鳥のようなキスではなく、間違いなくディープになるのも明らかだ。
先輩もお題を見て以降、うつむきながらずっと自身の人差し指の先を合わせてまごついている。相当動揺しているのだろう。
ここは僕が男らしく先輩...いや、彼女をリードしてあげなければ。

「ほら先輩、ここでじっとしてても出られませんよ。それじゃあ、行きますね」


そうして彼女の手を取り

「ひゃっ」

グイイと体を寄せて

「うわぁぁわわゎぁぁ待っ...」

そのまま押し当てるようにキスをした。

「んごもぉぅぅぅぅ!!!?///」


遠慮しなかった。初っ端からフルスロットルで僕のキスお見舞いしてあげた。
彼女が「ま」と発言した直後の開いた口だったので、そのまま舌を侵入させる事は容易かった。

「ん、んむ、んむうう」
「んーー!んーーー!」

そうは言ってもこの前まで彼女いない歴が生まれるまでの軌跡と同意義だった自分だ。キスの上手い具合もわからずとりあえず彼女の舌の先端と触りあうくらいだった。
一方彼女は相当照れくさいのか、顔を真っ赤にしてギュッと目をつむりながら空いた手で僕の背中をペチペチと叩き、ギブアップの意を示している。
そうは言ってもこの部屋からの脱出条件だ、簡単に放すわけにはいかない。それに下世話な話、うろたえてる彼女も可愛かったしキスも凄く心地よい。率直にいうと凄く煽情的でもっともっと続けたい。そんな思いから更に彼女の舌に絡ませようと強引に侵入した。

「んむむむむむ」
「んふぅぅぅぅ!!?」

拙いながら、昔に読んだティーン雑誌のキステクニックの項目を思い出しながらゆっくりと彼女の口の中を蹂躙していく。彼女も観念したのか恐る恐る舌を絡ませるような動きをしてきた。

「んむふ、ぬむむむ」
「ん...んー...んう!?////」

2分程経った頃合いだろうか、突然彼女が体をくねらせ膝から崩れ落ちそうになった。
慌てて唇を離すまいと片腕で体を抱きかかえ、もう片腕で彼女の頭を押さえキスは継続させた。

「んふー...」
「...んんっ❤」

...む?異様に...軽い?


そこから変化が訪れた。先ほどからうろたえてばかりでなされるがままであった彼女が、突如僕の顔を両手で押さえ貪るように僕の口に舌を押し込んできた。

「ふぐっ!?」
「んふふー...んちゅ、じゅる、んじゅるるぅ」

それはまさに本当のディープキスであった。これに比べたら僕のキスなど児戯でしかなかった、そんな印象さえ浮かぶ程に深く、甘く、熱い接吻を矢継ぎ早に行っていく。

まるで口の中が犯されるように舌が駆け巡り

「れろぉ...はむっ...」

まるで唾液を奪い尽くすように舌に絡みつき

「じゅる...んっんっんんんん〜」

どこまでも貪欲に攻めて、嬲って、翻弄して...


いつの間にか攻守は完全に逆転していた。
事情を聴こうにもまだお題の合格判定は出ていない。もう何分だったかわからなくなる程とろけるような口づけを残り時間中一方的に受け続けることになった。




意識も呆けてしまっていて、永遠にも思えた時間もやがて過ぎ...

『こーんぐらっちゅれーーしょーーーん!ドンドンドンパフパフパフーー』


...お題達成!?ひとまず引き離して何が起こったのか確かめないと!

「んぷはぁ!せ、先輩!?」

慌てて距離を取り、彼女に質問を投げかけようと...

「んはぁ...タッくぅん...もっとぉ...」


あ、あれ...様子がおかしい...?
顔は依然として赤いけれども、恥ずかしさから来るものではなく、どこか熱のある、艶っぽい紅潮の仕方だった。
それに、先程から騒いでいた少女のような彼女は何処へやら。目を細めにやけながら舌なめずりをする、妖艶でいやらしい顔付きをしていた。
腕を自身の胸元に運びたわわに実った果実を持ち上げアダルトな雰囲気を全面に押し出しゆっくりとこちらに近寄ってくる。


「お、落ち着きましょう先輩!お題はもう達成されたし次のが来るまで迂闊に動かないようにしないと!」
「お題ぃ...?大丈夫だ...きっと次のお題なら当てれる自信あるよぉ...?」


そういうと彼女は急に揺らめくような動作で僕に近づき...

「さァ...一緒に夢を見ましょうか...?」

ゆっくりと僕の肩を押して仰向けに押し倒され、抑え込まれてしまった。


もう僕の心臓も破裂しそうだった。今まで以上にドキドキしていても尚、彼女から目が離せない。
非常に緩慢とした彼女の動作だ、逃げる事も追い払う事も、今押しのける事だって容易いだろう。
だが、期待してしまった。願ってしまった。待ち望んでしまった。


これから起こりうる「夢見心地」の時間を。


故に動けなかった。故に正常な判断力は失われた。
僕も彼女に当てられたのか、体が疼いて仕方がない、彼女を求めたくてたまらない。

「せ、先輩...」
「タッくんも興奮してるんだな❤それならもう、遠慮はいらないだろう...❤」


彼女は徐に僕の膨らんだ男性器を覗き込むように顔を俯かせ、そのまま自らの腰を僕の下腹部辺りまで運んだ。
足元まで覆い隠すようなロングスカートを少しだけたくし上げ、秘部を覆い隠していた薄いブルーの布が取り払われた。男の夢であり神秘であった女性器が陰りの中で艶めき湿っていて、彼女が受け入れる体勢を整えた事の証左であった。

「うふっ❤もうすぐこれが私の中に入っちゃうのねぇ...❤」

ひどく煽情的な言葉を発しながら、出っ張った僕のテント越しに秘部を擦り付けてくる。


僕も彼女を味わいたくてたまらない、未知の快楽に溺れ狂ってみたいと本能が訴えかける。

だが、ふと思い立った。

現状、次なるお題が出ていないし、間違ったことをすると何をされるのかがわからない。
何せ壁から文字を浮かび上がらせたりしているんだ、何か仕込まれているという可能性も捨てきれない。
この白い部屋で甘い事をしてるとはいえ、異常事態である事には変わらないのだ。
その懸念が僕にとっての最後の理性のブレーキとなった。

思い悩んでいるうちに、彼女は僕のゴムが伸びてだらしのないパジャマとパンツをスルスルと脱がし、僕の劣情で直立した男性器を露出させる。それだけに留まらずしきりに触ったり擦ったりして肉棒の様子を楽しんでいる。


「先輩!落ち着きましょう!僕だって...その、すごくしたい!けど、この部屋のお題が出るまで何されるか...」
「はぁ...❤匂いも、カタチも、ス・テ・キ❤」
「せんぱぁぁぁい!」

ダメだ、聞く耳も意識も持っちゃいない。本能としてはこのまま繋がってしまいたくもある。
だが、ダメだ。漫画でもなんでも、クローズドものと言えば大抵意に介さない行動をした奴には制裁が下る。ひたすらに犯したくなる煩悩を必死に抑え、上体を起き上がらせ今にも騎乗位で入れてきそうな彼女を押し留めた。

「どうしたのぉ?はやくぅ❤こうび❤こうび❤こうびするのぉ❤」
「落ち着いてください!おだ...」

ふと壁の方に首だけ曲げて確認すると、また見事な筆記体で書かれていた。
僕の理性の枷をいとも容易く取り外す、最も求めていた言葉が。




‐‐mission 3 恋人と燃え上がるような性交を行え!!(何回でも可)‐‐



押し留める力が弱まり、一瞬の気を許した途端。


「はぁぁぁぁぁぁぁ深いぃぃぃぃぃぃぃィィ❤」


僕の肉竿はあっけなく彼女の膣内へと潜り込んでしまった。

「やぁぅ...これ...いいのぉ...❤」

力なくだらりとした体を僕の肩に乗せた手を支えとして、目元も緩み口もだらしなく開いて惚け切ったような表情で僕を覗き込んでくる。愛おしくて愛おしくてたまらないといった顔だった。

「ほぉらぁ...固まってないでぇ❤タッくんもうごいてぇ...❤」
「うぐっ...」

彼女はゆっくりと腰を前後に動かしお互いの性器をより強く密着させてきた。



一方、僕は初めての性交でパニックとなり、グルグルと思考がまとまらない頭を整理する事に手いっぱいで現状を楽しむ余裕はなかった。

  僕が? 彼女と? シてしまっている?  犯されてる?  
何故?    あれ?  なんで我慢してたんだっけ? なんで律していたんだっけ?
 僕は? 彼女も?  シたい? 先輩も入れられたい?  彼女が求めてる?
お題?    お題は? 閉じ込められて?  でもやれって書かれて?


「だぁーめ❤深く考えないで❤お題もいいって言ってくれてるんだし...ネ❤」

頭を両手で掴まれ、赤子をなだめるように僕に囁きかけた。




そうか...じゃあ...

我慢しなくて...いいのか





そこから先は、よく覚えていない。


「んひゃぁ!?タッくぅん!?急にガッツきすぎぃ❤」
「先輩、先輩、先輩...麗美!麗美!」
「ひゃあぁぁぁぁ❤にゃにこれぇ❤奥まで、奥までコンコンしちゃってるよぉぉぉ!!❤」
「麗美のが...キュウキュウ締め付けてきて...エロすぎる...!!!」
「タッくんのがっ❤太いからっ❤おまんこもっ❤喜んじゃってるのぉぉぉ❤」

獣のように、獣欲のままに。
組み伏せられている姿勢だろうが腰を浮かせて容赦なく肉棒を叩き込んでやる。
もっと、もっと、もっともっともっと!!!

「ねっ❤ねっ❤気持ちいい?私の膣内っ❤キモチッ❤いいっ?❤」
「当たり前だろ...気持ちよすぎて...もうやばい!」
「あはぁ❤よかったァ❤私もそろそろ❤来ちゃう❤キちゃう❤」

もう抑えられない。射精したい、膣内にぶちまけたい、彼女を白く染め上げたい。
もっと早く、強く、ねじ込んで、奥で、全部、吐き出したい!!

無意識に腰を掴み更に奥へ奥へと抽送を強めた。

「まって❤ふかすぎてっ❤これっ❤ダメッ❤おかしくなる❤おかしくなっちゃうううう❤」
「もうだめだ...止まらない...出すよ...!麗美...!」
「うんっ❤ナカにっ❤ぜんぶっ❤ぜんぶぅ❤キて❤キて❤キてぇぇ!!❤」

「くっ...うあぁぁぁぁ......」
「やぁぁぁあああキちゃうううううううううう❤❤❤」

ビュルルゥビュッビュドビュルルルルルビュグッビュグッビュルルゥゥゥ!!

「んひぅやゎああああああああああ❤射精たああああああああ❤」
「あッ......ガァァ......」



頭の中に白い電流が流れる。目の前がパチパチと光り虚空に身を投げたような浮遊感に包まれる。
下腹部から襲い来る快楽の波。それを受け止めきる事が出来ずのけ反り全身を軽く痙攣させる。




僕が理性を取り戻したのはそれから数分後だった。
眼前に広がるは繋がったままでぐったりとのけ反り項垂れている彼女の姿。幸せの絶頂期と言わんばかりに惚けた顔で焦点の合わない瞳で天井をぽーっと見ている。
口からは荒い息が絶えず出入りしており、普段収まっている舌も力が抜けてだらりと横頬に届かせんと伸びている。恐らく気をやられているのだろう。

激しすぎて意識も飛び飛びで、僕自身も未だ彼女と性交したという実感がいまいち湧いてこなかった。今も繋がりっぱなしになっていて、彼女の秘部からドロリと僕の欲望の塊が流れ落ちている感触がある事が事実として物語っているが。


...そうだ、お題!これで達成条件は満たしただろう!
多幸感に包まれた全身をえいやと鞭打ち、壁のほうに目をやった。


『ザザッ...えー、一回だけー?つまんなーい。まだいけるでしょー?』

突如成功のベルを鳴らすはずのスピーカーから別の女性の声が聞こえてきた。
いきなりの文句にムッとしながら、それでも語り掛けてくるということは意思の疎通は可能かもしれない。そう思い問いかけてみる。

「そうは言っても、達成は達成だ。これで僕らは出られるんだろ?それにその声、今までのとは違う人みたいだな」
『あ、私?私は彼女の補佐みたいなものかな。ある意味元凶かもしれないけど❤』

どういう事だ?と疑問を口に出す前に向こうから答えが返ってきた。

『私はお題を出したり成功判定出したりするジャッジマン、いやジャッジウーマン?をやってたの。この部屋を用意したのは私じゃなく、そこで幸せそーにしている麗美ちゃんよ。』


えっ...?どゆこと?


『疑うならロングスカートをめくって見て御覧なさいよ。きっと面白いものが見れるわ♪』


何のことかわからなかった。今めくったところで彼女と繋がった部分が見えるだけだろう、と言いたいが手掛かりとなるかもしれない進言だ。それに自身のエッチした後の性器というのも興味がある。
僕は迷わずスカートに手を掛けバッと思い切り広げた。

「...はぅ❤...え!?ちょ!やっ...だめええええええ!!」

はたと目が覚めた彼女が勢いよくスカートを抑え込もうとしたが、一刻程遅かった。


そこには艶めかしくテラテラと光る僕らの結合部と...
膝から下が尖がった黒い稲妻のような...脚が何とも形容しがたい妙な形状をしていた。

「せ、先輩...脚が...?」
「うぅぅ...見たなぁ...」
『そゆこと♪麗美ちゃんは人間ではなく、「ファントム」っていう魔物娘なのさー♪』


魔物娘?都市伝説的には聞いたことあったけど、まさかそんな、そんな荒唐無稽な。
...とは言ってられないな、現にありえないような情景を目の当たりにしているのだから。


『そう、そして彼女達には、ある種の幻影のようなものを見せる力があってね。
この部屋だって所謂彼女の空想の世界なわけですよ。どんな舞台で彼氏さんを活躍させるのって聞いたら、
「この肌が特異な私を見ても受け入れてくれたのだから、ありのままのタッくんが活躍する話にする!」って最近の物語的なのを頑張って取り入れたみたいなのよー♪中々楽しそうだから協力しちゃった♪』


なんだよそれ、先輩、すっごい健気じゃないか。
方法は多少強引だけれど、もっと簡単に幻惑のまま僕を獲得することだって出来ただろうに、あくまでも直球勝負で来る。そんなスタンスにかなりときめいてしまった。


『それにしてもあんたもニブちんねぇ、黄色い瞳に白い肌ってフツー何か気付くわよ?』
「う、や、まぁ体質的に何かあったのかなって気に留めなかったから...」


しどろもどろと受け答えしている内に、唐突に彼女が涙声を響かせた。

「うう...グスッ...そうです、人間でなくなっちゃったんです...これがバレたら...
タッくんに愛してくれなくなるんじゃないかって...怖くて...ぶぅぇぇぇぇぇん!」

目から大粒の涙を流し苦悩の顔を浮かべている。人間ではない、これで僕から嫌われた。もう愛を向けてもらえないのではないか。そんな窮愁の思いが見て取れた。


愛してくれるも何も、一方的なポエムの襲来だったから何とも言えない...と前の僕ならそう言ってただろう。
が、今は違う。ハグやキス、性交を通じてというのも下卑た話だが、それでも今は彼女がどうしようもなく愛おしく、守ってあげたいと心から思っていた。

依然として繋がりっぱなしで寝そべっている上体を起こしそっと彼女を抱きしめた。


「ぷぇっ...?」
「人間か人間じゃないか...なんて些細な問題だよ。先輩だから。幽岸さんだから。僕は愛したんだ」
「ぅえ...ぐずっ...だっぐううううぅぅぅぅん!!」

彼女も答えるように僕の体に腕を回し抱き合った。
幸せだ...最初こそ僕が気恥ずかしさでつっけんどんとした態度をしてしまったから、彼女に寂しい思いをさせてしまった。
これからは共に詩を綴り詠いあ...いや流石にそれまではちょっとアレかな。ともかく、愛し合っていこう。



と思った矢先に彼女が自らの腰を再び肉棒に擦り付け、次なる快楽を享受しようとしている。

「ずずっ...タッくん...愛して...くれるのよね...?❤」
「いや、それもまぁやぶさかでもないけど...全てのお題は終わったんだし、まずは出る事から優先した方が...」
『ふふー、忘れたの?この部屋の構築主は麗美ちゃんだし、お題の成功判定はダークメイジたるワ・タ・シ❤まだ2人が納得してないんだもの、却下よ却下』
「そ、そんなぁ!」
「私だから...愛してくれるのよね?もう、遠慮はいらないのね❤」

そう言うと彼女は、パーカーのジッパーを下げ、Vネックの白いTシャツを自らめくりあげた。
青白い肌に主張しすぎない無地の青いブラ、そんな乳房の最後の砦をあっさりと外した。控えめなブラでは覆い隠せない推定Fカップのわがままボディ。僕の生涯ではAVの中でしか見たことが無かった、美しきおっぱいが今まさに僕の目の前に顕現した。

「ふふふ...❤ターッくぅーん❤」
「あガぁぁぁぁ......ブクブク」



彼女が胸を上下に弾ませながらピストン運動を再開し...目の前の刺激が強すぎる光景と襲い来る快楽の波に耐え切れず...僕の意識はそこで途切れた。











僕が目を覚ますと、そこには暗くなった僕の部屋の天井が見えた。
夢...だったのかな。恐ろしくリアルだし明確に覚えてもいる。
だが、あれが夢ではないとわかったのは、起き上がった時にあったパジャマの違和感であった。

大分丁寧に拭き取られたであろう痕跡は見えるものの、それでも様々な汁が染みついていて中々に重い。そして幾度も男性としての使い方をされた僕の陰部が強く、強くあの出来事が事実として起こっていたことだと主張している。

明日...どんな顔をして会えばいいんだか...


「ごめんよタッくん、あの時は強引にしてしまい...」
「ううううわああああああ!!?先輩!!?」

耳元で、夜中故に考慮してくれたのかウィスパーボイスで謝罪の言葉を述べてきた。
しかしあまりに唐突だったのでそんな思いやりをかき消すように情けなく大声を上げてしまった。

「せ、せ、せ、先輩、なんで!?どうやって!?」
「ふふふ、ファントムって言わば幽霊だから色々なものを透かせて移動できるのさ」
「な、なるほど。ばれてからもう遠慮無しってことですね」
「そういうこと。タッくんが早くも気絶しちゃったから、色々と現実で説明したくてね」


彼女は高校3年時に無二の親友と登校時、自分の不注意で交通事故に巻き込まれてしまった。
そして親友が何が何でも幽岸さんを助けようと医学、交霊術、呪術、神学と藁にも縋る気持ちで様々なものを学んだらしい。その過程で太古の力である魔力を取り込みダークメイジとなった。その魔力を応用しネクロマンスを用いて彼女をこの世に再び舞い降りさせたとか。

「なるほど、そんな身の上だったんですね」
「ふふふー。勿論、この話をしたのもただただ境遇を知ってもらいたかったわけではないよ?」
「...と、いいますと?」
「この魔力っていうのが厄介でねぇ、要は魔物娘となっちゃうわけなんだけどさ」

魔物娘といえばぼんやりとだが、男を襲うエッチな女の妖怪という認識がある。

「私の親友も魔物娘と同意義の存在となって辛そうなんだぁ...他に事情を知る人もいないし...タッくん、慰めてあげて❤」
「やっほー、生の志野淵君とごたいめーん♪やだ、間近で見ると中々にイケメンじゃない!」
「でしょでしょー❤一緒に楽しんじゃおー❤」
「ちょまってぇ!!?というかここ僕の家!隣の部屋では両親が...」


「「待たなーい♪❤」」






志野淵家 辰雄の部屋から毎夜甘い声が響き渡る事になったが、それはまた別のお話...❤
18/05/27 20:42更新 / もにもとに

■作者メッセージ
エッチシーンが全然エロくない!!!!
語彙力が死んでて表現できない!!!!
先輩方勉強させていただきます!!!!

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