読切小説
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魔女と男01

「ミードだミード。甘いものが足りんのだ店にあるだけ持って来い。早く早く早くミードを!」

 長年使い込まれたくすんだテーブルを樹のジョッキで叩きながら、彼女が蜂蜜酒の追加を催促している。
 小さな手の平が振り下ろされる度、テーブルの上に雑多に並んだ皿が跳ねる。
 俺は踊る皿から中身がこぼれないよう防ぐので手一杯だった。

 日もすっかり傾いた宵の口、彼女の提案で裏路地にひっそりと佇んでいた酒保兼宿に足を踏み入れたのだが、鐘一つと経たずにこの有様だ。
 エルクの炙り肉やドードーを揚げた骨付き肉(チューリップと言うらしい)をつつき、硬い黒パンをシチューに浸して齧っている間は良かった。

 一週間ぶりの人らしい食事に満足したかと思った矢先、彼女は追加注文にさりげなく蜂蜜酒を織り交ぜた。

 俺は正直、余りいい顔をしていなかったと思う。
 彼女もそんな俺の感情の動きを悟った様子で、愛らしい顔をにやりと歪めて笑った。

「不満があるか? 仕方なかろう。このようなしみったれた場末の売春宿に、甘い焼き菓子など望むべくもなし。甘露と言えばミードが定石。
 一舐めもすれば旅の疲れが癒える。ほれ、ぬしも頼めい」

 ころころと鈴が鳴るような声と口の悪い言葉遣いで、俺も酒を頼むように言われた。
 ついでに言えば、握った木のスプーンを指の代わりにあちこちを指すので行儀も悪かった。
 さらに付け加えるなら、彼女の言うしみったれた場末の売春宿を営む主人が嫌そうな顔をした。

 良くない予感はまざまざと感じていたが、彼女の言葉に一理あったのでエールを一杯頼んだ。

 嫌な予感は的中するものだ。
 だが嫌な予感は感じた時点で悪い方向に転がっているものなので、回避のしようがない事も理解していた。

 理解はしていたが、だからと言って傍観するのとはまた別の話だ。
 俺たちは間違いなく当事者なのだから。

「魔女殿」

 俺は軽快なダンスを続ける皿たちが舞台から飛び降りたりしないよう支えながら、小声で呼んだ。

「うん?」

 肩越しに振り返って叫んでいた彼女は、ぐるりと正面に向き直った。

 ミードの様に甘い蜂蜜色の髪。
 先の尖った黒帽子を頭にちょこんと乗せて、ゆったりとした旅装束も黒。
 くりくりとした赤い瞳が印象的だ。

 寝床から抜け出してきた小さな女の子に見えなくもないが、その印象は相手に誤解を与える為だと聞かされている。
 少なくとも、酒保で蜂蜜酒を催促する幼子なので、その誤解を正しく相手に伝えられているかと言われればそうでもない気がする。

 この問題はすでに二一五回は議論に挙げ、

「うるさい」
「細かい事は良いのだ」

 という彼女の言葉によって結論付けられていた。

 どう見ても幼子に見える幼子らしくない彼女は、ジョッキに残った雫をちろちろと桃色の舌で舐めている。
 おかげで端の欠けた皿たちが織り成す乱痴気騒ぎの行方と、ジョッキの中身がぶちまけられる心配がなくなった。

 心配事が二つも減った。
 とても安心だ。

「叫んで催促した所で、蜂蜜酒が走ってきたりはしません」

 道理を持って、叫ぶ意味の無さを彼女に説明する。

「たわけ。蜂蜜酒を運ぶ者は走るであろう」

「なるほど」

 彼女は思慮深い。

「ですが走って運んだ結果こぼれた場合、蜂蜜酒の一部は床が飲んでしまいます」

「む」

 俺を見る赤い目が座っているのは、酔いの為だろうか。

 俺が反論した時は、彼女はいつもこういった表情を浮かべる。
 つまり、いつも通り。

 そう判断して、俺は走らないことで得られる利点を彼女に進言する。

「歩いて持って来られた方が、何かとお得です」

 彼女はじっと俺を見据えた。
 傾けたジョッキから滴る蜂蜜酒のわずかな雫を舌で受けながら。

「すっかり反抗期だな。わしに説教じみた言葉まで吐くようになりおった」

「説教ではありません」

 彼女の言葉を借りるなら、説諭や説得の類だ。
 そして、より正確な言葉を挙げるなら。

「苦言を呈しています」

 俺の言葉に、彼女の顔は苦い物でも口に突っ込まれたような表情になった。

 ジョッキを激しく振る事で、蜂蜜酒の最後の一滴に苦い成分でも生まれたのだろうか。

「全く、誰に似おったのか。愛想なく育ったものよ」

「似たと言うのなら、魔女殿に似たのではないでしょうか」

 誰に似るかといえば、最も接している時間が長い彼女だろう。
 他に思い当たる当ては無い。

 俺の言葉は彼女の機嫌を損ねてしまったようで、ますます顔をしかめた。
 がたんとジョッキの底でテーブルを叩いた。

 皿に直撃しなかったのは僥倖。

「口ばかり達者になりおって。わしが狭量であれば、今頃は魔界送りになっておったやもしれんという自覚はあろうか」

「常々感謝しています。俺は幸運です」

 ありのままを答えたが、彼女はあらぬ場所をやぶ睨みに睨んでふんと鼻を鳴らした。
 彼女の機嫌は直らない。

「大体、自らも酒を口にしておきながらいつまで経っても素面というのが気に食わん。
 男ならほろ酔い加減で浮き足立ち、そこらの娼婦にこなの一つでもかければどうか?」

 ジョッキで別の卓を指し示し、その席に座っていた婦人が顔をしかめた。

 段々、彼女の言動が理不尽になってきている気がする。
 そうは思ったものの、これもいつも通りだったので気に掛ける問題ではないという結論に落ち着いた。

「若干酔っています。ですが興味がありません」
 
 ジョッキに半分ほど残っていたエールを一口含む。
 琥珀色の液体を舌の上で転がし苦味を充分に感じてから、ごくりと咽喉を鳴らして飲み込む。
 運ばれて来た時から変わらず、エールはぬるかった。

 彼女は向かいで頬杖をついて、やはり据わった目で俺を見据えて訊ねる。

「美味いのか? 不味いのか?」

「ぬるいです」

 俺の答えに、瞼を重たげに半ばまで下げていた彼女はため息を吐き出した。

「……育て方を誤ったやもしれんな」

 ぽそりと呟くのが聞こえた。

「すくすくと育ちました」

 行く当てのなかった俺を拾ってくれたのが、彼女だ。
 彼女には深い恩義がある。
 それを片時たりとも忘れた事はなかった。

「思った通りに育たなかったのは、一重に俺の不徳です。魔女殿の責任ではありません」

 彼女の理想足り得なかったのは、俺が素材として不足だったという事。
 彼女になんら落ち度は無かった。

「そういう物の言いようはよせ。酒も飯も不味くなる」

「申し訳ありません」

 睨まれ、俺は頭を下げた。
 付き合いが長い分だけ(長いと感じるのは俺の主観に過ぎないが)、彼女が本気で怒っているかどうかは判るつもりだ。
 怒らせてしまった時には素直に頭を下げる事にしていた。

「男が簡単に頭を下げるな。たわけ」

「はい。申し訳ありません」

 言われた通り、今度は言葉で詫びて頭を下げなかった。
 彼女は顔をしかめて、ジョッキの掴み手に指を引っ掛けてくるくると回していた。

 俺はそれを眺めるともなく眺めていた。

 やがてテーブルに蜂蜜酒が運ばれてくる。
 黄色に赤、黒。
 赤いのは食紅で色をつけたもので、黒は薬草を煮詰めた煮汁を混ぜた薬用酒だ。
 丸盆に乗せたジョッキが次々とテーブルの上に置かれ、空いた皿が下げられていく。

「おお、待たされに待たされたミードの登場か。欲しいものを好きなだけ食らうが究極の喜びならば、耐えに耐えた後に得られる甘露は至高であろうな。
 良い良い。苦しゅうないぞ。さあさ、わしにミードを献上するが良いぞ」

 運ばれてきた蜂蜜酒に、彼女の機嫌が良くなった。
 彼女の機嫌は酒量によって変わると考えても、おおよそ間違いはない。
 深酒をするのは正直言って俺は賛成しかねるが、機嫌の良い彼女の姿を見るのは俺にとっても嬉しい。
 なので一定量を超えないように見守るのが最良の選択。

 ミードを運んできた主人の顔がますます歪んだが、気に掛ける必要はないと判断した。

 気に掛けるべきは、酒保で騒いでいた他の客たちがすっかり姿を消してしまっている事。
 地震が起きる前にラージマウスたちは敏感に感じ取り一斉に逃げ出すと言うが、そのような気分だ。

 俺はちらりと視線を動かす。
 一瞥したのは店の片隅に貼られた、大量の似顔絵の内の二枚。
 ねじくれた笑みを浮かべる帽子を被った悪童と、どう見ても人殺しの目で正面を睨む男の手配書が貼り付けてあった。

 酒保の主人が二枚の人相書きをあろうことか見間違いをしたか、或いは埋もれかけたその手配書を見つけた酔客が主人の耳元で囁いたか。
 どちらにせよ店の者を衛士の詰め所に走らせた可能性を考慮する。
 それならミードをテーブルに並べる主人の手が震えているのも納得がいく。
 麻酔としても使われるやたらと度数の強い薬用ミードばかり目立つのも、衛士が到着するまで酔わせるつもりでいるのなら、宿の主人にとって英断と言えるだろう。
 これを手柄に賞金を幾らかせしめる事が出来れば、路地裏から表通りに堂々と店を構える事が出来ると思い込んでいるのかもしれない。

 俺は遠くから聞こえてくる整然とした足音を耳にしながら、嬉しそうにミードを端から呷っていく彼女の様子を見つめていた。

 いつだったか、山よりも大きなヒュドラを酒に酔わせて酩酊させ、首を切り落として退治したとかいう話を彼女から聞かされたのを思い出した。
 遠い遠い東の果てにある、ジパングとかいう国の話だったか。
 確かそうだ。
 ただしあの時の彼女はしこたま酔っていたので、果たしてそれが事実なのか作り話なのかは定かではなかった。

 何となく、今の状況と似ているな。

 俺は咽喉の渇きをエールで潤す。
 咽喉を伝う液体は、やはりぬるかった。



 足音は金属の軋む音を伴い、徐々にこの宿を取り囲むように近づいてきていた。



xxx  xxx



「わしが酒を楽しんでおる時に素面で押しかけてくるとは。この無粋者ども。竜の尾を踏んだと知るが良い!」

【閉じよ枯れよ綻びよ】【気熱よ】

 三重言語を用いた圧縮詠唱。
 腕に刻んだ刻印から溢れた魔力は、意志に沿って指向性を持った呪いの魔弾と化す。

【怠惰な咀嚼よ】

 魔弾の群れが、門前の広場に殺到してきていた愚か者どもを残さず貫いた。

 幾ら鎧兜に身を包もうが、魔術抵抗に差がある訳ではない。
 いっそ羊皮紙でも巻きつけて置いた方が、軽い分動き易くまだマシであろう。

「はっはっは、たわけどもが。おっとり刀で現れ弓も手にしておらなんだ事を悔いるが良い」

 もんどりうって倒れこみ、陸に打ち上げられた魚のようにのた打ち回るたわけどもを笑い飛ばした。
 まあ彼奴らが幾ら弓矢を射掛けようが、わしの衣には矢止めの護符が縫い付けてある為結果は変わらんが。

 ひとしきり笑い飛ばした後、先行させていた男を呼ぶ。

「MBよ。首尾はどうか?」

 暗闇に紛れて先行し――そのついでに先回りをしようとしていたたわけどもを片付け――、今は街をぐるりと覆う外壁の上にその姿を見つけた。

「今終わりました」

 打てば響くように男は応えた。

 腰に下げた二本のククリ刀を抜き放ち、門扉を巻き上げる滑車のロープを切って捨てたところだ。
 わしの目の前で、閉じていた跳ね橋が傾いで地響きと共に堀を跨いだ。

「ご苦労。
 ではこれにてさらばだ、名も知らぬ街の名も知らぬ人間たちよ。今宵起きた事は自らが招いた災難として語り継ぎ、苦い教訓とするが良い。
 ブラックミードは口に苦し、臓腑に優しと言うであろう」

 ふむ。
 わしも良い事を言う。

 地面に倒れたまま呻く男たちを尻目に、わしは月夜を肴にブラックミードをやりながらすたすたと城門から街を出た。
 わしの斜め背後には、足音をたてずに歩く男が続いた。



「今日も野宿ですね」

 背後に見えた街の明かりが暗闇に沈んだ頃、男が口を開いた。

「野宿の何が悪い。天を屋根とし大地を床とする。
 ならば見よ。空の続く限り我が家にて、地の果てまでが我が寝所。百夜を彩り千夜を染める。これほどの贅があろうか?
 そも、人は石の洞などに住むべきではない。陽光の偉大さ、月の静謐を遮りなんとする。世界を閉ざせば己が増長を招くだけであろうよ」

 月夜を仰ぎ臨む。
 この世界の半分が手をかざすその向こうにある。
 残りの半分を踏みしめる。
 空は見上げれば幾らでも手に入る。
 大地は歩けば厳然と応える。

 それが答え。
 最も明快にして最良な世界の答えだ。

 わしが語る真理に対して、

「ですが、ベッドは柔らかいです」

 男は素っ気無く答えた。

 ふむ。
 それもまた、一つの真理であるな。

 思わず男の言葉に唸って、さくさくと草を踏んで歩く。
 少し外れた街道では、松明を焚いた衛士や騎士といった人間たちが忙しなく駆け回っている。
 僅か数一〇メートル程度の距離だが、彼奴らにわしらの姿は見えぬ。
 街を出る際に姿隠しの術がかけてある。

 王国の一端とはいえまだまだ地方に過ぎぬこの場所に、わしの術を破れるような高位の魔術師が駐留しておるなどと言うこともなかろう。
 一応、魔術操作の撹乱に地脈を乱しておいたので、今頃右往左往しておるだろう。

 地脈が反れれば、敏感な魔物の行動も変わる。
 これより三日は地脈の変化と修正に追われてわしの捜索どころではなかろうよ。

 わしの楽しみを邪魔するから、このような目に遭うのだ。
 全く。

 思い出すと段々むかむかとしてきた。
 わしは寛大で心の広い魔女なので大概の事は許せるが、酒を飲んでいる所を邪魔されるのだけは少しばかり許せぬ。

 腹いせに馬を急がせる伝令を落馬でもさせてくれようか?

 ……魔力の無駄だな。

 自身の幸運に気付かぬ早馬を見送り、わしはため息をついた。

 この分では近くの町には触れが出回っている事であろう。
 また当分酒はお預けだ。

 収まりの悪い腹立ち紛れに声を上げる。

「第一だ、顔を知られるわしらが王国の息が掛かった街に滞在するという事自体、間違っておったのだ。一体誰だ。人間の街に逗留しようだなどと言い出した者は」

「魔女殿です」

「……そうであったか?」

「はい。たまには酒を入れねば魔力の前に気力が尽きる。いい加減硬い地面で眠るのは飽きた。足が痛い。乾燥肉にビスケットの毎日では干上がってしまう。
 等の理由を挙げられていました」

「そのような昔の事は忘れたなぁ」

「鐘二つほど以前の話かと思いますが」

「ええい、細かい事など良いのだ!」

「理不尽です。判りました」

 判れば良い。
 男の言葉に腕を組んで頷いていると、わしの脳裏に記憶が瞬いた。

「む。思い出したぞ」

「記憶が戻られましたか」

「人を健忘症の如く言うでないわ。
 ぬし、酒場でわしを魔女殿と呼んでおったであろう。あれだ。素性がばれたのは間違いなくぬしの口の軽さ故だ」

「俺にとって魔女殿は魔女殿です」

 じろりと睨み上げても男は平然と答えた。

 融通の利かん奴よのう。
 今時、ゴーレムでさえ即興で創作ダンスの一つや二つ、颯爽と踊って見せると言うに。

「人目を憚る努力はしました。素性の暴露と言う理由なら、魔女殿の名声によるものではないでしょうか」

 男は懐から折り畳んだ羊皮紙を取り出した。

「何だそれは」

「宿で見かけましたので、騒乱のどさくさに紛れて少々」

 押しかけてきおった衛士と田舎騎士どもを相手取って魔術を行使している間に、そんな事をしておったのか。

「手癖ばかり悪くなっておらんか?」

「おかげさまで器用になりました。読み上げます」

 にこりともせずに返すと、男は羊皮紙を広げて読み上げる。

「此の魔女、王国の民に大いなる災厄を振り撒きし邪法を用い、害成す事数多。此の魔女の首を挙げし者、金貨五〇〇〇枚を与える。
 此の魔女、黒き装束にて夜闇に紛れし。酒を好む事万々」

「見せい」

 男はしゃがんで目の前で羊皮紙を広げ、

【火喰い石よ】【満たせ】【集え】

 わしは短い詠唱。
 手をかざした羊皮紙が淡く輝き、わしにも内容が読めた。

 生憎、わしはこの男ほど夜目が利かなかった。

 夜闇に浮かび上がった文字は男が読み上げた内容と寸分違わず、やたらと邪悪な魔女の人相書きが描かれている。

「……むう。突っ込み甲斐のある手配書だの」

「そうですか」

 背後から覗き込んでとぼけた声を出す男に、わしは羊皮紙を手の甲でぴしゃりと叩いて振り仰いだ。

「わしは喧嘩の相手くらい弁えておる。無力な民を相手に魔術を使った覚えなど一度たりとてないわ。
 わしを捕らえ、あわよくば手篭めにしようなどととち狂った田舎貴族を、繰り出してきた私兵団諸共吹っ飛ばしただけだ」

「手配書が回ったのはその線ですね」

「大体、わしの首が金貨五〇〇〇だと? 安過ぎる! 我が人生を費やし得た知識と魔術と秘儀は、金などとは比べようもない。いわば人間全体の財産である。
 王国はいつからこれほどしみったれた事を言い出すようになったのかっ」

「問題はそこなのですか」

「馬鹿を言うな、一番の問題は……なんだこの人相書きは!? 裏路地にうずくまる物乞いにでも描かせたような下手糞な絵で、実像と似ても似つかんではないか!
 わしはもっと可愛い!」

「……」

「何故黙る」

「一般的に、印象によって他人の捉え方が異なると言うことなのでしょう。この絵を描いた者は、魔女殿に恐れを抱いていたのではないでしょうか?
 そうなった理由はあらぬ風評を耳にしていたからでしょう。
 その恐れが握る羽根ペンに震えとなって伝わった結果、これほど邪悪な人相として世に出回り、或いは鋳型として形に残り、今も多くの手配書が生産されているのではないでしょうか。
 そのように愚考します」

「ぬしは答え辛い時、物事の起源から想起するのが癖であるな」

「そうなのですか。癖というものは指摘されないと判り辛いですね」

「わしは可愛いな?」

「……」

「なっ!?」

 自らを指差して背伸びをするわしに、男は顔色一つ動かさずに、ただし充分な沈黙の後に答える。

「……そういう形容を口にする事は、失礼に値するのではないかと」

「ぬしは変なところで慎み深いのう。許す。何に憚る事なくわしの印象を述べよ」

 可愛いと言わなかったその時は。
 判っておろうな?

 頭の中でお仕置き用の呪文をざっと三〇通りは思い浮かべながら、男の言葉を待った。

 じっと見下ろしていた男が口を開く。

「魔女殿は可憐で愛らしいです」

 む。
 受け答えに独自の工夫を凝らしてきたな。

 てっきりただ可愛いと繰り返すのみと思っていたが、この答えは予想外だ。
 わしにとっても、こやつにとっても良い意味で。

「わしは可憐で愛らしいか」

「はい。可憐で愛らしいです」

 可憐で愛らしい。

 舌の上で男が口にした言葉を転がし、ふむと唸る。

「良し。ただし今回は特別である為、普段からそういう言葉を口にするな。良いな?」

 こういった言葉は、ここぞという所で耳にするから心地良く響くのだ。
 汝、朗らかなる性を望むなら日々に慎みあれ、だ。
 
 鼻先に指を突きつけたわしに、男は素直に(それがこやつの一番の美徳であり、愚行である)頷いた。

「はい。この機会を感謝します」

「良い良い。わしの気まぐれだ。わしは元々魔女の中でも最も寛大な魔女であると噂され――
 なんぞこれは」

 ミードをがぶ飲みしながら何気なく羊皮紙をめくった先にあったのは、これまた人相書きが書かれた手配書。
 おぼろげにわしの知る顔と似ておった。

「ああ。どうやら俺も手配書に載っているようです」

 男は背後から覗き込み、のほほんと答えた。

「此の者、邪悪な魔女に仕えし叛徒。二つの蛮刀を振るいて無辜の民の血で染め、大罪を犯す。此の叛徒の首を挙げし者に金貨二〇〇〇枚を与える。
 此の叛徒、魔女の影の如く夜闇を歩く。冷酷非道なる事惨々」

「ククリで切るのは精々、蔦か背の高い草程度なのですが。獣道を使う場合が多いので。
 それに刃物を人に向けると危ないです」

 わしが読み上げた内容に、どこかとぼけたように男は答えた。
 それが事実で、こやつの本音である事をわしは知っていた。

 羊皮紙を握る手が震えた。
 事実無根なこの口上に対して、怒りと悔しさが同時に湧き上がってきた。

 ゆ、許せん!

【赤き舌よ】【腐れよ】【委ね散れ】

 三重詠唱と共に手の平で手配書をぴしゃりと叩く。
 同時に羊皮紙は火精に包まれ、一瞬で灰も残さずして焼け溶けた。

「何が許せんかと言えば、道理にそぐわぬ事が最も許せん! MBを叛徒とはよくも言うた!
 宜しい、ならば戦争ぞ。
 かくなる上は首都まで攻め上ってくれる。
 騎士と言う騎士に絶望の淵を彷徨わせ、魔術師に己が凡才を突きつけ、勇者の耳に嘆きの言葉を響かせ、王が勇者の無能を謗る仕事をしている最中に、滅びの指先を突きつけてくれよう!」

「魔女殿」

 腕まくりをして反転したわしの腕を、男が掴む。

「ええい、離せ! わしはこれからこの世を滅ぼす魔王となるのだ!」

「魔女殿」

「ええい、なんぞ!?」

 怒りに任せて振り返り、火が噴き出しそうな目で睨みつけた。
 やはり男の顔は涼しいもので、何の感情の機微も感じさせなかった。

「あながち間違ってはいません」

 男の言葉に眩暈を覚えた。

「大間違いだド阿呆!」

 悪態をつくわしに、しかし男は首を左右に振った。

「魔女の影の如く夜闇を歩く」

 その言葉に、怒りに煮えくり返っていたわしの頭が少しだけ冷える。

「おおよそ、間違っていません。魔女殿の影に喩えられるのは、俺にとって望外な喜びです」

「……」

 怒りが冷えた。
 残ったのは後味の悪い罰の悪さだ。

「それで良いのか」

 帽子の位置を直すわしに、男は頷いた。

「はい」 

 短いがきっぱりとした答え。

 黒い瞳がじっとわしを見つめ、わしは残った後味の悪さをため息にして吐き出した。 

「……ぬしは相変わらずであるな、MBよ」

 不遜に見下ろしてくる男を前に、私は腕を組んで睨み上げた。

 バフォメットとの契約のおかげで、身長の問題から向かい合うといつもこの構図だ。
 飛行の魔術など造作もないが、そういう手段で見下ろし悦に浸るのはちと違った。
 この男から今後永遠に見下されるのは気に食わんが、それを気にして魔術を用いるなどもっと気に食わん。

 そういう事だ。

「おかげさまで。魔女殿も」

 男は真顔で抜け抜けと言った。
 
 冗談混じりに口にしたのであれば、笑顔と共に顔面に魔弾の三つ四つはくれてやるところだが、この男の場合本気で言っておる分性質が悪い。
 怒ればよいのか笑えばよいのか叱れば良いのか、判らんではないか。

「――まあ良い」

 だから、今日も甘く見逃す事にした。

 ぷいと男から視線を逸らして月夜を見上げ、ジョッキのブラックミードを一呷りに飲み干した。
 蜜酒の心地良い甘さに、薬草独特の後を引く苦味が舌に残った。

「明日はわしの趣味に付き合ってもらうからの。今の内に英気を養っておくが良い」

「はい」

 歩き出したわしの後に、音もなく付き従う。
 わしは世界に住まう者の在り方を知らねばならぬ。
 その為にここに在る。

 さあMBよ。
 明日もまた新たな世界を知ろうではないか。



 わしは言葉にせず、頭上に瞬く月夜に目を細めた。



「ところで酒が切れた。お代わりはないか?」

「ここに」

「用意がいいのう。いつの間に揃えたのだ?」

「宿に踏み込んだ第一陣が罪状を読み上げ、その最中に魔女殿が魔法で吹き飛ばした際に」

「むう、ブラックミードだけか? いい加減舌の苦味を消したいのだが」

「テーブルにあった分は、水筒に詰められるだけ詰めました」

「良くそんな暇があったのう」

「第二陣が裏口を突き破って突入してきた所を、大魔法で厨房ごとまとめて吹き飛ばされたおかげで」

「さよか。呷り酒だけではちと口が寂しいの」

「つまみに卵の燻製にチーズ、チューリップも幾つか」

「良し良し。代金は置いてきたであろうな?」

「はい」

「魔女ともあろう者が無銭飲食、器物破損で追われるなど末代までの恥であるからな」

「食事代は前払いで済ませていましたので、蜂蜜酒の追加代と宿の改装に必要になると思われる額を」

「宜しい」

「はい」

「……時にMBよ。人を殺めてはおらんな?」

「締め落としました。死者を出すより、負傷者に留めた方が追撃は受け難いです」

「わしの教育の賜物だな。良くやった」

「ありがとうございます。魔女殿は人を殺めませんでしたか?」

「ふん。殺めてなどおらんわ。少しばかり呪っただけだ」

「呪いですか」

「そうだ。七代に渡って続く種枯れの呪いだ。明日から金輪際、女を抱く悦びもその意欲すら湧くまい。子種も息子も役立たずとなれば、魔物に襲われる事もあるまいよ。
 やれやれ、魔女だというにまた功徳を施してしまったわ」

「種が枯れる呪いを掛けられたのなら、七代続くというのは矛盾が生じませんか?」

「冗談だ」

「冗談ですか。功徳と言うくだりも冗談ですか?」

「何を言っておる。そのくだりは正真正銘の事実であろうが。わしに呪われた者どもは、今頃泣いて喜んでおる事だろうよ」

「そうですか。判りました」

「うむ、判れ。
 む、程良い岩場があるな。あそこで飲み直すとしよう」

「はい」

「今の我らは名も知らぬ草を敷き、苔生した岩を枕に、空に瞬く星々を仰いで眠るのだ。中々良い趣向ではないか」

「いつも通りですね」

「いつも通りだな。その真理を突かれるとわしの心が折れそうだ」

「申し訳ありません」

「冗談だ」

「冗談でしたか」

「冗談でしたとも」

「はい。今の言葉遣いが冗談であるという事も理解しました」

「うむ。冗談講義はこのくらいにして、さあ、飲もう」

「魔女殿。ジョッキを捨てられては注げません」

「道具に頼るな。ぬしの口は喋る為だけについておるのか? 口直しをさせておくれ」

「はい」

「――んっ」



 男から口移しに飲むミードの味は甘露であった。



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 朝露の残る夜明けと共に、魔女殿は行動を開始した。

「今回は単純な相手を想定しておる。接触に策を弄する必要もない。ぬしが見つけなくともただおるだけで相手の方が見つけるであろうよ。
 何せぬしの精力は特別であるからの。極上の馳走を前に魔物は放って置けるはずがない。むしろ必要以上に呼び寄せようが、そこはわしに任せておけ」

「魔女殿」

「何だ?」

「何故俺は簀巻きなのですか?」

「釣りの餌が口答えするでない」

「今回は釣り餌ですか。判りました」

「判れば良い。では朝露の残るうちに始めよう。日が登っても小川に近いここならば最適であろう」

「釣果をご期待下さい」

「餌が餌だけに入れ食いであるがな。……この場合は入れられ食いか?」

「摘み食われ、もしくは貪り食われが適当かと」

「……。
 細かい事はどうでも宜しい」

「はい」 

「ではわしは身を隠しておるが、いつものようにしっかりとやるのだぞ」

「最善を尽くします」

「うむ。尽くせ」

 川辺に簀巻きにされて寝転がったまま、魔女殿の小さな背中を見送った。

 さあ、今回も餌役を頑張るとしよう。



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 食ベモノ。

 食ベモノノニオイ、スル。

 良イニオイ。

 移動スル。

 身体ノバス。

 身体チヂメル。

 移動スル。

 イイニオイ近ヅク。

 身体フルエル。

 トテモトテモイイニオイ。

 食ベモノ捕マエル。

 身体ノバス。

 ノバシタ身体、手ニスル。

 ノバシタ身体、おんなニスル。

 身体、おんなニスル。

 おんな、ナル。

 オイシイ食ベモノ出ル。

 知ッテル。

 ダカラ、おんなナル。



 食ベモノ、捕マエタ。



 ?

 食ベモノ見ル。

 変。

 食ベモノ、捕マッテル。 

 捕マエル前、タベモノ捕マッテル。  

「初めまして」

 食ベモノ喋ル。

 ことば。

 少シ判ル。 

 知ラナイことば。

「ハジメマシテ」

 ことば真似スル。

 食ベモノことば使ウ、知ッテル。

 ケド知ラナイことば、使ウ。

 食ベモノ捕マエヨウトスル。

 食ベモノ違ウことば使ウ。

「すらいむダ。すらいむガ出タ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ」

 食ベモノガ使ウことば、使ウ。

 捕マエヨウトスル時、使ウことば。

 コノ食ベモノ逃ゲナイ。

 黒イふたつノ目、見ル。

 見ルダケ。

 変。

 考エル。

 身体、中ノかくガフルエル。

 ドウシテ?



 食ベモノ逃ゲナイ。
 ラクチン。
 満プク。



 考エタ。

 捕マエタ食ベモノ、食ベル。

 おんなデ、食ベル。

「イタダキマス」

「頂かれる」

 イタダカレル。

 マタひとつ、知ラナイことば覚エタ。



xxx  xxx



 茂みがざわつく音を耳にしても、焦りや緊張はなかった。
 釣り餌である以上、食いつかれるのを待つだけだ。

 風もなくがさりと草が大きく揺れて、物音から一拍遅れて彼女は姿を見せた。

 スライム。
 伸縮自在の液状型の身体を持つ、世界各地に広く分布する魔物。
 亜種も含め一般に広く浸透した種族。

 基本的な知識を反芻しながら、近寄ってくるスライムを観察する。
 体色は青みの強い半透明。
 人で言うなら四つん這いの格好で、肘や膝から先は不定形のまま地面を舐めるようにして近づいてくる。
 表情に乏しく、人の女性を模した顔を見ただけでは感情の有無を確認する事は出来なかった。

 近づいてくる個体を彼女と判断したものの、それが正しいのか定かではない。
 そもそも性別を持つ意味はあるのだろうか?

 首をひねって考えて、まんざら無意味に女性の格好をしているのではないのだという事に気がつく。
 人間の男を獲物とするのなら、誘惑する意味で擬態する事に意味がある。

 心を惑わすと言うのなら、水色に流麗にたゆたう髪は美しい。
 水を滴らせるように常に潤った姿は、落ち着いてみれば充分美しいと形容出来る。
 増殖と食欲という最低限の方向性に、美くしさという機能を兼ね備えた種。

 それがスライム。

 自らの考えに納得していると、スライムはすでに俺の目の前まで来ていた。
 縄で縛られた俺の足首をその不定形な身体で覆い、見る間に姿を変えて腕と手に擬態する。
 形を持たない粘体が、細部まで忠実に人体を再現していく様子は幻想的でもあった。

 掴まれた足首から、彼女の感触が伝わってくる。
 ぬるぬるとした肌触り。
 当然のように体温はなく、ひんやりと冷たい。
 液状でありながら、触られた感触は思った以上にしっかりとしている。
 半固体、半液状で、柔らかい水風船を思わせた。
 
 彼女の身体の一部がじわじわとしみる様に地面を覆い、俺の身体の下で絨毯のように広がっていた。
 案外転がり心地は悪くない。
 むしろ良い。
 地面と比べるなら雲泥の差で、しっとりしている点を除けば、下手な安宿のベッドよりも寝心地がいいかもしれない。
 意外な発見だ。
 世の中には、まだまだ俺の知らない事が沢山あるという事が実感出来た。

 俺の身体をほぼ覆い、足元から伝うように這い上がって来た彼女は、目が合うとぴたりと動きを止めた。

 冷たい精緻な輪郭に、心なしか感情が宿ったような。
 瞼を見開いて、驚いたような表情を浮かべているような。
 何か考え込んでいるようにも、見ようによっては困っているようにも見える。

 気がした。

「初めまして」

 時間が止まったような一拍の間を使い、俺は挨拶をした。

 挨拶は大切だ。
 魔女殿もそう言っている。

 挨拶なら、おはようの方が良かっただろうか?
 彼女とは初対面だから、まずは初めましての方が正しい。

 自分の行動に納得していると、

「ハジメマシテ」

 彼女も挨拶を返してきた。

 少し発音にたどたどしさはあるものの、言葉としてはっきり聞き取れた。

 言語を使う事は知っていたが、これほどはっきりと言葉を喋るとは知らなかった。

 増殖と食欲のみと判断していたが、それはどうやら思い上がりのようだ。
 ならば、女性への擬態もスライム種が編み出した知恵の結晶なのかもしれない。
 自分の抱いていた印象に修正を加えた。

 異種族とのコミュニケーションは驚かされる事が多い。
 いつだったかそれを魔女殿に伝えると、それが人生というものだとからからと笑っていた。

 なるほど。
 彼女は俺の人生の一欠けらか。

 じっと見下ろしてくる彼女を見つめる。
 滴る身体に青い瞳。
 微妙に色の濃度が違うので、顔の輪郭も身体の線もはっきりと見て取れる。
 彼女が閉じていた口を開く。

「すらいむダ。すらいむガ出タ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ」

 彼女の言葉は要領を得なかった。

 知っている単語を並べたのだろうか。
 だとすれば、学習しているという事か。
 言葉を覚えているのだとしたら、興味深い。
 知識を蓄えていけば、やがて彼女も高い知恵を持つようになるのだろうか。
 それとも知識を蓄える総量が決まっていて、一定上は超えないのだろうか。

 青い瞳を覗き込む。
 濃い青の瞳は透き通り、日差しを浴びてきらきらと輝いて見えた。 

 互いに目を見つめあったまま、ほんの数秒間の長い静寂を過ごした。

 先に動いたのは彼女の方だった。

「イタダキマス」

 流麗な肢体をふるりと小さく震わせると、ゆっくりと俺に覆いかぶさってくる。
 文字通り手も足も出ない俺はその様子を見つめるだけだ。

「頂かれる」

 さあ。
 釣り餌として最善を尽くそう。



 彼女の行動は、やはりどこか知性を感じさせた。

 俺の服を一枚ずつ脱がしていく。
 ただ女性を擬態しているだけではなく、人間の性交そのものを模しているのかもしれない。
 どこからそういう知識を得ているのだろう。
 彼女らの本能としてあらかじめ刻まれている事なのだろうか。

 服の脱がし方一つにしても中々面白い。
 人のように指を使って結び目を解くのかと思っていたが、不定形なまま結び目を覆うだけでいとも容易く解いてしまう。
 もともと不定形なのだから、僅かな隙間に身体の一部を潜り込ませているのだろう。
 少し緩んだところで結び目を解してやれば、呆気なく解ける。
 自分の特性を理解していないと出来ない行動だ。

 疑問は尽きない。
 観察し、行動の理由を考えている内に服が全て脱がされていた。
 素早い挙動とは言えなかったが、その分じっくりと一枚ずつ服を脱がしていく姿からは丁寧さを感じた。

 服を脱がす為に、身体を縛る縄も解かれていた。
 かといって逃がすつもりはないのか、俺の太腿や脛に脚を絡めるようにして拘束したままだ。
 勿論逃げるつもりはないが、無理に振りほどくつもりもない。
 彼女のしたい様にさせておく事にした。

 仰向けになった俺の上で、彼女は俺の身体に手を這わせる。
 ひんやりとした心地良い冷気を肌に感じる。
 胸から腹にかけて撫でていくに従い、五本の指を備えた手の形が不定形に崩れる。
 大きな舌で舐められているようだった。

 手が離れると、見事なまでの統一感を持って元の手の形に収まる。
 そのまま指先を口元に寄せて、人差し指に吸いついた。

「美味シイ」

 小さく呟いた。
 俺の汗や老廃物を摂取したらしい。

 口に味覚が集中しているのか、それともそういった行動をどこかで覚えただけなのか。
 その仕草を目にして、案外愛嬌があると思ったのは事実だ。

 彼女はゆっくりと身体を押し付けてきた。
 今度は口を直接身体に押し付けてくる。
 しっとりとしていて冷たく、くすぐったい。

 胸元を丁寧に何度も口付けし、舌を出して身体を舐めていく。
 腋を舐められるのには、若干の我慢が必要だった。

 彼女は愛撫する仕草を真似て、俺の汗を舐め取っていく。
 腕が自由になっていたので、お返しの意味もこめて彼女を愛撫する事にした。

 試しに身体に触れてみると、ぽよんと柔らかい弾力があった。

 皮膜を張ったように弾む感触が、指に心地良い。
 しっとりと潤った身体は一定の衝撃が加わると弾むようで、圧力に対しては抵抗は薄く簡単にずぶずぶと沈んでいく。
 彼女の肩に、俺の手首までが沈んでしまった。

 彼女の体内に緩やかな胎流を感じる。
 身体の構造は一律ではないようだ。
 表面は薄い膜に覆わているのか。
 乾燥から身を守る為なのだろう。
 それ故に、彼女の身体に硬軟の微妙な差があった。

 腋から腕を伝い、指の股を一つ一つ丁寧に舐めていた彼女は、どこか不思議そうに沈み込んだ俺の右手を見ていた。

 すぐに胎流に変化が生まれる。
 薄皮越しに感じていた流れが、手に向かって集まってくる。
 小さな無数の手に握られているような感触。
 彼女の中の胎流は自在に変化させる事が出来るようだ。

 彼女の肩からゆっくりと右手を引き抜くと、ぽっかりと手の形に開いた穴はすぐに元通りになっていった。

 愛撫をするつもりだったが、果たして彼女に性感帯は存在するのだろうか。
 生まれた疑問を解くべく、右手を胸元へ。
 彼女はしゃぶっていた俺の指を口から離すと、ゆっくりと倒れ込んでくる。

 そのまま口付けした。
 味はしなかった。

 口付けと言うよりも、吸われている。
 赤ん坊が口に触れたものを吸うように(そういうものだという事を、知識で知っている)、唇をちゅうちゅうと吸われる。
 俺の体温が少し移ったのか、彼女の口は少しぬるいくらいになっていた。

 揉み解す指の動きに合わせて、柔軟に形を変えていく彼女の乳房の様子を見つめながら、舌を出して彼女の口を誘導する。
 俺の汗を舐め取るその食性から、唾液を吸おうとしているのではないかと推測した。
 
 舌が口に触れると、そのまま吸い付いてくる。
 舌と一緒に唾液が吸い上げられているのを感じる。
 彼女の半透明の口の中に、吸い出された俺の舌がちらちらと視界に映る。
 吸引力は人を超える程のものではなく、緩やかな胎流を感じながら彼女の口の中で舌を動かす。
 手よりも敏感に、彼女の複雑な胎流の違いを感じる事が出来た。

 その間も性感帯を探して、彼女の身体を愛撫する。
 胸、脇腹、背中、腰。
 柔らかい感触を指と手の平で楽しんでいると、彼女も同じように俺の身体を手で舐める。

 抱き合ったままでいた為か、少しずつ彼女の身体が熱を持ち始めていた。

 人肌程度に温まった手で、彼女はすっかり勃起していた俺のペニスを包んだ。
 胎流を使いながら、手を上下に動かして手扱きを始める。
 ペニスを包んだ手は形を変えて、すっぽりと覆う膜の様だ。
 皮膜越しに、胎流の差が強弱となりペニスを刺激する。
 俺の背中の下で、近くを流れる川面のように彼女の一部がさざめいていた。 

 細く長く伸びた彼女の舌が、俺の舌に絡まり唾液を舐め取りながら口から離れた。

「気持チイイ?」
 
 俺のペニスを扱きながら、彼女のたどたどしい質問。

「ああ。気持ちいい」

 俺は素直に感じているままを答えて、彼女の髪を撫でた。

 指に絡んだ髪はそれ自体が彼女の一部である為か、触れると自ら絡みついてくる。
 指の間を流れていく彼女の髪の感触を味わいながら、表情に乏しい彼女の頬を撫でた。

「スゥ」

 愛撫している間、愛撫されている間、ずっと考えていた名前を呼んでみる。

「すぅ」

 彼女は俺の言葉を反復した。

 俺の言葉を真似ているだけだろうか。
 小首を傾げて反応を窺う。

 彼女も俺と同じ仕草で首を傾げた。

 彼女らに個体としての概念があるのかどうか。
 まずはそこからだ。

 俺は一から伝える事にした。

「名前」

「ナマエ」

 手扱きを続けながら、彼女はやはり俺の言葉を繰り返した。

「MB」

 自らを指差す。

「えむびい」

 彼女も空いた手で俺を指差した。

「スゥ」

 自分に向けていた指を彼女に向ける。

「すぅ」

 彼女もそれを真似をした。

 後はその繰り返しだ。
 言葉を覚え始めたばかりの幼子にするように、根気強く繰り返す。
 忍耐力には自信があった。

 何回か、何一〇回か。
 言葉と仕草を繰り返した後、その行動から指差しだけを抜く。

「名前」

 俺の言葉に、彼女が指差して答える。

「エムビー」

 はっきりと俺を指差し、発音も当初と比べてしっかりとしていた。

 頷いて見せると、彼女は次に自らを指差した。

「スゥ」

 彼女は小さく頷いた。

「スゥ。スゥ。スゥ」

 頷きながら、何度もその名前を繰り返した。

 俺の趣味は、彼女ら魔物に名前や愛称をつける事だ。
 魔女殿の趣味で、魔物たちの群れに放り込まれたりこうしておびき寄せて交わる機会が多い(俺の人生の大半はそういった経験ばかりだ)ので、自然とそうなった。

 名前は重要だ。
 彼女らを名前で呼ぶ事で、ただの性交にも熱が入る。
 特別な感情を抱いて、肌を重ねる事が出来る。
 種の保存としてだけではなく、快楽を分かち合うセックスになる。
 快楽が共有出来るなら、種の違いなど些細なものだ。

 俺は人間と比べて今一つ感情が鈍いので、そうするようにしていた。

 セックスをする相手の名前を呼んで興奮を覚えるのは、人間として当然の感情なのだと魔女殿から教わった。

「……スゥ」

 彼女はため息を吐き出すように呟くと、無表情な顔に表情を作った。

 くすぐったそうにはにかむ、小さな笑顔。

 俺はその笑顔を崩してしまわないよう、スゥの頬にそっと手の甲を当てた。

 そこで達した。

 彼女の手の中で射精する。
 水色のスゥの一部が俺の精液で白く染まる。
 射精はしばらく続き、その間もスゥは俺のペニスをゆるゆると扱いて射精を促す。
 身震いと共に精液が勢い良く飛び出し、射精が終わる。
 俺はため息を洩らした。

 スゥはペニスを包んでいた手を離すと、白濁に濡れた手を当たり前のように口元へ。
 受け止めた精液を躊躇う事無く舐め取った。

 人の身体を形作る事によって、人と同じく用途や性能にそれぞれ差があるのかもしれない。
 体液の吸収率は、皮膜に覆われた手より口の方が良いのだろう。
 実際に、飲み込んだ精液は彼女の咽喉を下って胸元の辺りでしばらく留まっていたかと思うと、徐々に分解されて彼女の体内に混じり合って消えていった。

 手の精液を残さず丁寧に舐め取った後、彼女は姿勢を変えて俺の股間へと顔を寄せる。
 精液が残る俺のペニスを咥えた。

 尿道に残っていた精液を、ちゅうちゅうと吸い上げていく。
 俺はその様子を見つめながら、スゥの髪を撫でていた。



xxx  xxx



 スゥ。

 ふしぎナことば。

 スゥ。

 食ベモノガ言ッタことば。

 スゥ。

 ナマエ。

 食ベモノヲ見ル。

 食ベモノ。

 エムビー。

 エムビーガ見ル。

 スゥ。

 スゥ、エムビー見ル。

 エムビー。

 エムビー、スゥ見ル。 

 スゥ。

 エムビー。

 身体ノ中ノかく、フルエル。

 フルエテ、形少シ変ワル。

 食ベモノガトテモ形変エルばしょ。

 顔。

 スゥ、少シダケ変ワル。

 顔。

 エムビー、少シモ顔変ワラナイ。 

 今マデノ食ベモノヨリ、少シ変。

 変。

 エムビーハ変。

 スゥ、エムビー見ル。

 見テルト、美味シイモノ出タ。

 白イ美味シイノ、タクサン出タ。

 美味シイノ食ベル。

 トテモ美味シイ。

 エムビーノ美味シイノ、食ベモノノ中デ一番美味シイ。

 トテモトテモ美味シイ。

 モット欲シイ。

 おちんちん舐メル。

 手ヨリ気持チイイ。

 タクサン美味シイノ出ル。

 スゥ、知ッテル。

 タクサン食ベル。

 タクサン気持チイイ。

 エムビー、手触レル。

 髪撫デル。

 触レテル。



 かく、トテモフルエタ。  



xxx  xxx



 フェラチオするスゥに変化が生じていた。

 スゥの口から、明らかに熱が感じ取れるようになっていた。

 表面と口の中とで粘度が違っているのは、口づけの時に知っていた。 
 恐らく、彼女の体内の感触だろう。
 唾液の粘性を増したような感触。

 雁首から溝、裏筋。
 棹には舌が絡んだまま、上下に絞るように扱いている。
 うねる舌の動きと女性の愛液のようにとろとろの口が絡んで、俺のペニスを刺激していた。

 野外で裸のまま交わり身体が冷めたか、スゥの口の中があまりにも気持ちがいい為か、背筋にぞくぞくと寒気が走った。

 スゥの髪を撫でていた俺は、上体を持ち上げて座る格好になる。
 身体を起こした俺を、スゥはちらりと見上げてきた。

「逃ゲル?」

 そんな事を訊ねてくる。

 脚に絡みついて地面に貼り付けている力が少し強くなり、きゅっと締め付けられてきた。

「逃げない」

 その選択肢は存在しない。
 身体を起こした方が、彼女の愛撫がし易いと判断しただけだ。

「良カッタ」

 スゥの表面が波立つように微細に振動して、はにかんだ。
 締め付けていた脚の拘束が緩み、再び丁寧なフェラチオを始めた。

 俺はスゥが浮かべた笑顔を記憶に留め、髪を撫でる。
 髪が応える様に絡み、手を滑らせながら背へと動かしていく。
 背中を、腰を、丸く膨らんだ尻を。
 その谷間の奥へと。

 膣に当たる場所も、造詣は精巧だ。
 貝を思わせる二枚の秘唇が僅かに盛り上がり、触れるだけでそれと判る。
 スゥの秘所も口同様粘度が違う。
 膨らみの隙間にそっと中指を潜らせてみると、つぷりと指が飲み込まれた。

 口と同じか、それよりも少し熱い。
 中はとろとろと濡れていて、少し水っぽい。
 中指でスゥの体内を探っていると、挨拶でもするように胎流が訪れる。

 吸い込む力、押し出す力。
 様々な方位から指が引かれ、押されているのが判る。
 意識的に行っているのか、無意識に行っているのかは定かではない。
 スゥの様子を見てみるが、ペニスを口に含んで頭を上下させる動きに変化は見られない。
 秘所も体内も、彼女の性感帯ではないのだろうか。

 根元から亀頭まで吸い上げながらゆっくりと上下させているスゥの頭から、腰に視線を動かす。
 そこに目に付くものが浮かんでいた。

 青い身体とは明らかに異なる部位。
 体内に球体が収められている。

 瞳よりも深い青色をした球体は、金属と言うよりも生物的な肉質を持っているように見受けられる。
 スゥの体内で時々思い出したように振動し、回転していた。

 あれが動く事で胎流を生み出しているのだろうか。
 それとも熱を発しているのか。
 どちらにせよ、スゥの重要な器官である事には違いなさそうだ。

「うっ」

 物思いに浸っているうちに、射精感が限界を超えていた。
 スゥの口の中で射精する。
 思わずスゥの膣を激しく掴んでしまいそうになり、それを堪えるのに苦労した。

 何も感じていないように見えるからと言って、乱暴に扱うような真似をしてはいけない。
 魔女殿から閨の作法として、そのように学んでいた。

 スゥは俺のペニスを根元まで飲み込んで、体内で射精を受け止めている。
 勢い良く吹き出た精液が胎流に導かれ流されながら、分解・吸収されていく。
 俺はその様子を頭上から見つめていた。

 射精を終えてしばらくしてから、スゥが俺の股間から離れる。
 彼女が離れるとペニスに精液は一滴も残っておらず、そよ風が当たって気持ちが良かった。

「ウッ」

 顔を上げた彼女は、俺が射精の時に発した呻き声を真似た。

「スゥの口の中は気持ちがいいな」

 俺は彼女の頭を撫でた。

「気持チイイ」

 スゥはまたはにかんだ。
 彼女の表面に小波が生まれる際、体内にある球体が振動しているのを確認した。

「エムビー、気持チイイ。美味シイ。タクサン」

 スゥは拙いながらも言葉を繋げてコミュニケーションを取ろうとしてくる。

「ああ。そうか。美味しいか」

 俺はなるべくスゥが用いる言葉を使って答えた。

「タクサン食ベル。モット欲シイ」

「そうか。スゥは沢山食べるんだな」

 彼女は俺の身体を伝いながら、上体を反らす格好になると、見せ付けて誘うように自ら秘所を広げた。

「おんなデ食ベル。スゥ、おちんちん食ベル。エムビー食ベサセテ」

 広げられた秘所から、とろりと液体がこぼれて伝っている。
 ペニスまで伝ってきた温かな液体は、ゆるゆるとうねって絡みつく。

「ああ。スゥの女で食べられる。こういう事をどう言うか知っている?」

 スゥは小首を傾げて俺を見た。
 
 正直に言って、言葉が通じているのかどうかは判らない。
 ただ俺の言葉や仕草を繰り返し、かつて捕食した誰かから学んだ事を、意味も解さぬまま真似ているだけなのかもしれない。

「セックスという」

 だが俺はそれを伝える。

「今から俺は、スゥとセックスをする」

 魔女殿から教えて貰った事を、彼女にも教えてあげよう。

「せっくす?」

「そう。セックス」

 それはとても大切な事なのだと教えて貰ったから。

 スゥはしばらく考え込むようにじっと俺を見つめた。
 俺も彼女をじっと見つめた。

 視界の隅で、球体が振動した。

「せっくすスル」

 彼女はあどけなく笑って、ゆっくりと腰を沈めた。
 緩やかな刺激を受けていて勃起していた俺のペニスが、スゥの膣を割って胎内に潜り込んでいった。



 座位で繋がった。

 彼女の体内はすでに熱く発熱している。
 俺は背に腕を回し、彼女は俺の首から肩にかけて広がった腕で包み、腰をゆっくりと前後させる。
 粘度の薄まったとろとろの液体が俺の股間に滴り、押し付けられる腰が密着するたび湿った水音を立てている。

 相変わらずスゥの表情は乏しく、セックスによる性感を感じている様子はない。
 性感が得られるほど感覚器が発達していないのか、そもそも存在していないのか。

 そう断じるには、まだ少しばかり早い。

 スゥの弾む腰の動きに合わせて、俺も腰を使う。
 8の字を描いて熱くとろけたスゥの体内を掻き混ぜる。
 くちょぐちゅと卑猥な音が耳にまで届いた。

 スゥの表情も動きも目立った変化はない。
 一定の速度で腰を振り、ただ俺の動作を真似て根元まで押し込んだ後に腰をくねらせるようになった。

 スゥの体内は極上だった。
 指では感じ切れなかった細かな胎流の差は、口と比べてもさらに複雑になっていた。

 とろとろと柔らかいのは入り口だけで、奥に挿入すると途端に感触が変わる。
 みっちりと詰まった圧迫感でペニスを強く握り絞られる。
 挿入中は常に胎流がペニスを包み、亀頭、尿道口、棹に裏筋を圧迫し、くすぐる。
 引く際にはたっぷりと雁裏に引っかかるように絡んでくる。
 
 彼女の動きが緩やかでなければ、挿入から今まで何度達していたか知れない。

 スゥはじとりと汗ばんだ俺の身体を、広げた腕で愛撫しながら、何度も顔や髪に口付けをしている。
 汗を舐め取ってくれているようで、俺の黒髪を一房口に含んではつるりと舌を滑らせていた。

 唾液に汗、精液と、スゥは俺の身体から水分を悉く吸収しているが、思いの他渇きは覚えなかった。
 彼女自身が多くの水分を含んでいて、肌を重ねている間俺にも供給されているのかもしれない。

 体液の循環に近い水分吸収。
 その方がただ体液を絞り尽くしてしまうよりも、効率が良いのかもしれない。 

 少なくとも、そうであった方が長い時間繋がっていられる。

 喘ぐでもなく、日の光を浴びて小川の音色を聞きながら行うセックス。
 スゥとのセックスは、思っていた以上に静かで穏やかだった。

 すっかり姿を見せた太陽を見上げ、目を細めていた矢先に達した。

 彼女の体内で射精する。
 腰が引きつり、身体が痙攣する。
 スゥを抱き締める腕につい力が入ってしまい、力強く抱き締めてしまった。

 彼女の身体がぐにゃりと変形して、腕の中からこぼれた。

「スゥ」

 思わず彼女の名前を呼んでいた。

「エムビー」

 彼女は俺の耳元で名を呼び返した。

 首をひねると、そこには彼女の顔があった。
 胸から上だけで、不思議そうに俺を見つめている。

 視線を戻す。
 スゥの胸から下は未だに射精の続く俺の上に跨っていて、腰を緩やかにくねらせて精液を絞り上げている。

 もう一度、肩の上で俺を見つめるスゥの顔を見た。

「驚いた」

 スゥが本来、不定形のスライム種であるという事をいつの間にか忘れてしまっていた。

「オドロイタ」

 スゥはふるりと震えて、にこりとはにかんだ。

 彼女は俺の身体を伝って脇から回り込むと、再び胸から下と結合して元の形を取り戻した。
 ただ元に戻ったわけではなく、身体の位置を前後逆にして今度は背面座位の姿勢になっている。

 俺の腕の中に戻り胸元にもたれてくると、腰を左右に動かしつつ俺を見上げてくる。

「オドロイタ?」

「驚いた」

 セックス中の体勢変化は、不定形な彼女らにとって真骨頂だ。
 もっと自由自在に、大胆な動きをつけても構わないのかもしれない。

「スゥ。動いてみてもいいか?」

 だから訊ねてみた。

「イイヨ」

 彼女は小さく頷いてあっさりと快諾した。

「エムビー動ク。美味シイノ、タクサン出ル?」

 かと思ったらそんな条件を付け加えてきた。
 ぐりぐりとお尻を俺の下腹に押し付けて、反応を窺いながらじっと見上げてくる。

 俺は彼女の頭を撫でた。

「ああ、沢山出る」

 ただでさえ彼女の体内は信じられないくらい気持ちがいい。
 姿勢を変える事でまた違った興奮が得られ、射精してしまう事だろう。
 実際、俺のペニスはスゥの体内で絞られて再び勃起し始めていた。

「トテモ美味シイ」

 彼女は、あの独特のさざなみの後にはにかんだ。


 
 飽く事無くスゥと交わる。
 俺は膝立ちになり、スゥは地面に広げた青い絨毯の上で四つん這いになった。

 腰の動きに合わせて、スゥの身体がリズミカルにたわむ。
 腰を打ち付ける尻がたわわに弾み、バウンドする。
 後背位の姿勢になり、主導権が移ってからはリズムをこちらで掴めるようになった。

 元々彼女は主導権を取るつもりも無かったようだ。
 俺はただするがままに任せて、スゥは彼女のやり方で交わっただけ。

 ゆるゆるとした穏やかに絡むセックスから、緩急をつけたセックスへ。
 
 スゥの身体は、一定の衝撃に対して弾力を持って弾む。
 なので突き出された尻を引き寄せる際には、ちょっとした工夫が必要になった。

 腿や腰を掴んでいたのでは、スゥの身体が圧力に歪んで手がすっぽ抜けてしまう。
 なので腿に回した手で軽く叩く。
 衝撃に対して後ろに弾んだ所で、腰を突き出す。
 引き寄せると言うより、スパンキングをしているような心地だ。

「痛くないか?」

 少し心配になって訊ねると、

「イタイ?」

 肩越しに振り返ったスゥは不思議そうに首を傾げた。

 皮膚の役目を果たしている表面に、そこまでの感覚機能は持ち合わせていないのか。
 そもそも痛覚がないのだろうか。

 部分的に繋がっているとはいえ上半身と下半身で分かれて別々の行動をし、数秒とせずに元通りになる彼女に対して、痛覚の有無など。
 考えるまでもない可能性なのだろう

「いい。判った」

 振り向いてじっと見つめていたスゥの髪を撫でる。
 片手でも、スゥの身体を前後に弾ませるには充分間に合った。

「……イイ」

 彼女は囁くように呟いた。

 髪を撫でると笑みがこぼれる。
 ここが性感帯なのか、髪を撫でるという行為自体に何がしかの感情が生まれるのか、それに類する記憶があるのか。
 彼女が笑う姿を見る為に、俺は良くスゥの髪を撫でた。

 スゥはうっとりとした笑みを口元に浮かべ、俺は手に絡む流麗な髪と戯れながら、視線を弾んでいる腰へ向けた。

 あの球体。
 今の位置はちょうどお腹の辺りだろうか。
 緩やかな回転と振動を続けている。

 こうしてスゥを背後から貫いているものの、流石に自身のペニスで突き上げるには届かない。
 肉質からして、思ったよりも脆いかもしれない。
 いきなり激しく接触をして、彼女の器官を潰してしまうような真似はしたくなかった。

 なので観察を続ける。
 スゥの挙動、仕草、表情、身体の変化。
 それらをつぶさに注意深く観察しながら、反応を窺った。

「スゥ。出るぞ」

 込み上げてきた射精感を、スゥに告げる。

「出ル。美味シイノ」

 スゥがさざなみ、眼差しに期待めいた感情が込められた。
 気がした。

 四度目の射精。

 腰を激しく打ち付けていたスゥの尻に、ゆっくりと押し付ける。
 深く突き入れ、スゥの身体はそれに伴い俺の腰の形に柔軟に歪んでいった。

 魔女殿に調整された俺の身体は、常人と比べて大量の精液を保有している。
 早い話が絶倫である。
 らしい。

 俺自身、常人と精液量を比較した事がないので余り実感はないのだが。

 とにかく、そういった理由で今回も俺のペニスからは大量の精液が吐き出される。
 スゥの甘い体内で、俺の白い精液が踊っている様子が見て取れた。

 俺はゆっくりと強く腰を突き出しながら、スゥの奥へ奥へと射精を続ける。
 白い飛沫の一部が、分解・吸収されていく前に球体まで届いた。

 一拍遅れて、変化が訪れた。

「ア」

 ぽつりと洩れたのスゥの声。

 その直後、球体を中心にスゥの身体が激しく波立った。

「アア、ア、アァァァ――」

 今までの行為で初めて耳にする、スゥの甘い声音。
 自らの一部である青い絨毯に伏せて、目を見開いたまま恋うように切なく響く。

 体内の感触にも変化があった。
 今まで深度によって規則性を持った変化があった彼女の体内が、一律の変化によって統一される。
 吸っている。
 俺の精液を、ペニスを、身体を。

 ずると膝が滑って引き寄せられるのを感じながら、吸い上げられるままに射精を続けた。

 その変化は射精し終わってもしばらく続き、沸き立つように波打っていたスゥの身体が元の落ち着きを取り戻して行く。
 すっかり歪んでしまっていた彼女の身体から腰を離すと、ゆるゆると元の形へと戻って行く。
 目まぐるしく姿を変えた先程と異なり、ひどく緩慢な動きだ。

 振り返ったスゥの表情は、陶酔したような、困惑したような複雑な表情だった。
 スゥの顔が小刻みに痙攣し、さざなんでいる。
 ぽかんと開いたままになった口から、体液がとろりとこぼれた。

「――今ノ、ナニ?」

 訊ねるスゥに、俺は背後から覆いかぶさる。
 言葉と共にこぽりと気泡が洩れていた彼女の口を吸って、舌で中を調べる。

 熱い。
 彼女の口も、膣の奥に感じた下腹部の熱を持っている。
 明らかに俺の体温よりも幾らか上だ。

 ぼんやりと眠たげに瞼を下げた目で、スゥは思い出したように俺の唾液を吸った。
 舌が俺の口の中にも入り込んでくる。
 歯、歯茎、上顎、ほぞ。
 舌の裏側にその根元。
 スゥの熱い舌が、俺の口の中を丹念に貪欲に探った。

 互いに互いの口の中を充分に犯し合ってから、俺は唇を離した。

「気持ち良かったのか?」

 名残惜しそうに舌を引っ込めたスゥに、俺は訊ね返した。

「キモチ、ヨカッタ?」

 まだとろんと濡れた瞳のまま、スゥは小首を傾げた。

 質問の仕方が悪かった。
 俺は改めて訊ね返す。

「もっと欲しい? それとも欲しくない?」

 これならどうか。

 スゥはぼんやりとした目のまま俺を見つめてくる。
 戸惑っているのか、苦痛を伴う事だったのか。
 小刻みに波立つスゥの様子をじっと見守り、答えを待った。

「モット欲シイ」

 スゥは答えた。

「スゥ、せっくすスル。エムビー、モット欲シイ」

 たぷりと絨毯の上でうつ伏せにへたり込んだかと思うと、全身が大きく波打ちそのまま仰向けになった。
 裏が表になった。
 脚を開き、秘唇の膨らみまで自らの指で開いた。
 深く澄んだ青い球体の位置が、腰の少し下程度まで下がってきていた。

 スゥの膝下が身体に絡むものの、すでに拘束と言うほどの締め付けはない。
 広がりながら、細まりながら俺の身体を這うスゥの足先。
 一部は俺のペニスに絡み、毛せん状にまで細くなり尿道をくすぐって勃起を促している。
 刺激を受けて、俺のペニスは問題なく屹立した。

 甘い期待に僅かな不安も混じった多彩な表情を浮かべるスゥに、俺は髪を撫でた。

「ああ。スゥ。もっとセックスしよう」

 俺の言葉が伝わったのか。
 スゥは喜びと安堵が入り混じった、あどけなくも妖艶な表情を浮かべた。

 俺はそんなスゥの表情を記憶に留めた。



xxx  xxx



「スゥ。出るぞ」

 エムビー、言ッタ。

「出ル。美味シイノ」

 スゥ、言ッタ。

 エムビー、トテモイイ食ベモノ。

 トテモトテモ美味シイ。

 タクサンタクサン出ル。

 スゥ、満プクナル。

 トテモ嬉シイ。

 せっくす好キ。

 エムビー、タクサン出タ。

 スゥ、中デタクサン出タ。

 かく、熱イモノ触レタ。



 かくガトテモフルエタ。



 ?

 しこうガミダレテ考エラレナイ。

 形ガユガム。

 ?

 ミダレル。

 ことばモレル。

 ?

 何ヲ喋ッテルカ、スゥ判ラナイ。

 カラダゾワゾワスル。

 かく、フルエテシビレル。

 ?

 スゥ、トテモオドロイタ。

 ナニ起コッタ。

 判ラナイ。

「――今ノ、ナニ?」

 スゥ、訊イタ。

 エムビー、口吸ッタ。

 スゥモ吸ッタ。

 エムビー、口冷タカッタ。

 フシギ。

 今マデ、エムビー熱カッタ。

 フシギ。

 ダカラ、タクサン吸ッタ。

 美味シカッタ。

「気持ち良かったのか?」

 エムビー、言ッタ。

「キモチ、ヨカッタ?」

 スゥ、判ラナイ。

 キモチイイ、美味シイノ出ル。

 美味シイノ出ル、エムビー。

 スゥ、美味シカッタ?

 変。

 スゥ、食ベル。

 エムビー、食ベルモノ。

 食ベルモノ、スゥ食ベナイ。

 エムビー、スゥ食ベル?

 考エル。

「もっと欲しい? それとも欲しくない?」

 エムビー、言ッタ。

 考エル。

 考エル。

 スゥ、考エタ。



 かく、フルエタ。



「モット欲シイ」

 スゥ、言ッタ。

「スゥ、せっくすスル。エムビー、モット欲シイ」

 おちんちん欲シイ。

 せっくすシタイ。

 モットモット欲シイ。

 スゥ、ことばニガテ。

 ムズカシイ。

 エムビー、伝ワル?

 エムビー、顔変ワラナイ。

 伝ワラナイ?

 スゥ、不安。



 手、スゥ触レタ。  



「ああ。スゥ。もっとセックスしよう」

 アア。

 アア。

 伝ワル。

 伝ワッタ。

 エムビー、せっくすスル。

 スゥ、モットせっくす。

 かく、フルエタ。

 フルエテ伝ワッタ。

 スゥ、知ッテル。

 コレ知ッテル。

 コレ、満プクオナジ。



 ウ レ シ イ



xxx  xxx



 スゥの変化は劇的だった。

「アア、アアッ、アッ」

 甘い嬌声を洩らし、絨毯の上で悶える。
 腰だけでなく上体もくねらせ、小さな痙攣を繰り返しながらいやいやするようにかぶりを振る。
 スゥが身体にひねりを加える度、豊かな乳房が振られてたわわに弾んでいた。 

 弾力を保っていた身体の一部は見る影もなく崩れ、腰を打ち付けた際に小さなしぶきになって散る。

「アゥ、ウウンッ、ァンッ」

 甘い声音を上げてのたうつ様子に当初の淡々とした面影はなく、官能に浸る姿そっくりだ。
 スライム種である彼女の、恐らくは唯一の性感帯を刺激するだけでそうなった。

 体内にある球体器官。
 それをずぶりとスゥの身体に沈めた手で軽く撫でる。
 その度に痴態も露わに乱れ、輪郭の形まで乱れる。

 スゥの体内にあった球体は、俺が思っていたよりも硬くてしっかりと中身も詰まっているようだ。
 撫でてはいるものの、厳密には直接触れている訳ではない。
 スゥの薄い皮膜一枚を隔てて刺激しているだけだ。

 性感に溺れ身体の線を崩してしまっても、スゥの皮膜は破れたりはしなかった。
 粘り強く伸びて、より液体に近い体液がこぼれ出さないように柔軟にスゥを守っていた。

「ハァ、ウウンッ、アアア、アアアアッ」

 スゥに気持ちが良いかどうかなど訊ねなかった。

 その質問に答えられる余裕があるようにはとても見えない。
 この球体器官を守る為か、今まで皮膜越しに触れられる機会がなかったのか、唄うように叫び酩酊したように陶酔している。
 スゥが得ているであろう感覚が性感なのか痛みなのか、すぐに判断は下さない。

 球体器官に触れる刺激を感じているという事だけは、記憶に留めた。

 スゥの体内で、球体器官の動きも活発化していた。
 触れると弾けるように振動し、俺の手から逃れようと回転する。
 なので、そっと優しく扱う。

 スゥの中で暴れる球体器官を、風船を扱うように慎重に右手の指先に乗せる。
 振動してゆらりと揺らいだ先で、左手の指の腹を使って撫でる。
 ゆらりゆらりと胎流する球体器官を、両手の指で優しく弾ませた。

 スゥが痙攣とさざなみを繰り返す。
 うつ伏せに仰向けに、目まぐるしく体勢を入れ替えながら悲鳴にも似た上擦った声を張り上げる。
 それでも俺の腰から離れない。
 形を失った身体の一部をしっかりと絡ませ張り付きながら、俺のピストンを受け止めている。
 体内の胎流もより激しさを増していた。

「スゥ」

 彼女の名を呼ぶ。
 彼女をこう呼ぶようになってから、まだ半日と経っていない。
 彼女自身、それが個体名と認識しているのかどうか定かでないが、それでも彼女の口からこの名が出てくると確かな感情がこみ上げてくる。

 これが、喜びというものなのだろうか。

「スゥ」

 自らの呼び掛けをきっかけにして、意識を自身の感情の動きから、俺と繋がっている女性に移した。

「ハァ、アアッ。ア? アアアッ」

 髪を振り乱す最中、その動きが一瞬だけ止まる。
 濡れた瞳の奥に知性を思わせる僅かな輝きを目にした。
 気がした。

「スゥ。俺のものになってくれ」

 俺は再び悶えだしたスゥに呼びかけた。

 ゆるりと弾ける球体器官を少しずつ下へ誘導しながら、柔らかい軟体を腰で突き上げながら、じっとスゥの乱れる姿を見つめた。

「ハウ、ウウ、ウウウッ、ゥン」

 僅かに、スゥの首が縦に振られた。

「ありがとう」

 俺は心からの感謝を言葉にして伝えた。

 この言葉が伝わってくれたのなら、それは二度の喜びだろう。

 動かぬ自らの感情を一瞥して、俺は射精した。
 五度目の射精。
 射精量が減るどころか今までよりも多い気がするのは、彼女の同意が得られた為か。
 判らない。
 判らないままに、大量の精液を球体器官に浴びせた。

「ァヒッ――」

 ぶるんと一度、繋がったスゥの身体がひときわ大きく波打った。

「――ヒァアアアアアァァァッ!」

 悲鳴とも嬌声ともつかない激しい声。
 ぶるぶると痙攣しながら、スゥが空を仰いで甲高く絶叫する。
 痙攣は俺のペニスにも伝わり、ぎゅうぎゅうと扱きたてる。
 射精が止まらない。
 白い精液が澄んだ深い青を容赦なく汚し、スゥはさらに痙攣した。

 陰嚢がぱんぱんに張っているのが判る。
 睾丸が痛い程だ。
 一滴の精液も残さずスゥの中で吐き出したい。
 彼女を汚したい。
 そんな暴力的な欲望に駆られ、腰を突き上げたい欲求を堪えた。

 違う。
 俺は彼女を壊したい訳ではない。

 欲望に抗い、最後の一突きを堪えて、歯を食いしばって痛みの伴う射精に耐えた。

「――――ァッ」

 背中を反らして震えていたスゥの身体が、くたりと青の絨毯に横たわった。
 下半身は溶け落ちたようにすでに形を失い、球体器官がたゆたう上半身だけ何とか輪郭を保っているという状態だ。

「……はぁっ」

 ペニスの刺激が途絶え、同時に空気の塊を吐き出した。
 途中から止めていた呼吸を再開する。
 心臓が激しく動悸している。

 血に送り込まれる空気の量が一気に増えたためか、くらくらと眩暈がした。

 すっかり切れ切れになってしまった呼吸をゆっくり整えながら、横たわるスゥに視線を向ける。

 ぼんやりと蕩けた眼差しを中空に向けて、今も時々思い出したように痙攣している。
 球体器官は振動も回転もせず、一定のリズムで膨張と収縮を繰り返していた。
 大量の精液を吐き出した射精は、彼女の体内から抜け出しても続いていたようで、胸元を白く汚していた。

 俺は初めて見せるスゥの球体器官の動きを見つめて、何気なく手を自らの胸に伸ばした。
 皮膚と血と骨と肉の奥で、俺の心臓が鼓動している。
 脈打つ俺の心臓と、スゥの球体器官、二つの動きは同調していた。
 気がした。
 
 俺の心臓が落ち着きを取り戻し、深呼吸を一つ。
 まだ横たわったままのスゥの隣に寝そべる。

 地面に広がった彼女の身体は暖かく、心地良かった。

「――ッ」

 髪を撫でていると、小さく咳き込んでスゥが意識を取り戻した。
 真っ青な瞳が動いて俺を見つめる。
 俺は髪を撫でながら見つめ返す。

 表面を波立たせていた痙攣はすっかり収まり、スゥはまどろむような曖昧な表情のまま、輪郭のぼやけた指で胸元の精液を掬い取った。
 迷わず口元へ運ぶ。

「美味シイ」

 俺の精液を舐め取って、スゥは緩い笑みを浮かべた。

「そうか」

 俺は髪を撫でながら頷いて見せた。

 スゥが腕を伸ばしてくる。
 拒む理由がなかったので受け入れる。
 寝転んだまま互いに抱擁する。
 髪を撫で続けていると、スゥはくすぐったそうに胸に額を押し付けてきた。

「せっくす、スキ」

 腕の中でスゥが囁いた。

「うん」

 俺は抱き締めながら答えた。

「スゥ、満プク」

「良かった」

 風がそよぐ音が聞こえる。
 鳥の鳴き声が風に乗って耳に届く。

 小川の流れる音が聞こえる。
 小魚が水面を跳ねて波立たせる音を聞いた。

 心地良い疲労感と倦怠感が身体に残っていた。

 腕の中でもぞりと動いて、スゥが俺を見上げてきた。

「エムビー、好キ」

 初めて見せてくれた、あのはにかみ笑顔。
 スゥはあの時の笑みを浮かべていた。

「ああ。俺もスゥが好きだ」

 彼女を抱き締めて、直後に魔法陣が展開した。

 俺の血と肉と骨に直接刻み込まれた魔術痕。
 魔女殿直筆の魔法陣は、展開から発動まで秒すら掛けずに履行された。

 がさりと草を踏む音。
 地面を覆っていた心地の良い青い絨毯はもうない。
 剥き出しの地肌の上で身体を起こして、吹き付けてくる風に目を細めた。

「契約完了」

 本日の成果。
 種族:スライム種。半液状型個体。
 遭遇位置:平原。
 個体数:一。
 契約名:スゥ。

 以上。



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 男は簀巻きにして転がした時と同じ表情で、わしの元まで戻ってきた。

「ただいま戻りました」

「うむ、お帰り」

 昨夜の残りの燻製卵を齧りながら、岩の上で胡坐をかいて無愛想な男を迎えた。
 太陽はすでに頭上に登り、日差しは強く平原を照り付けている。
 雨の気配はなく、清々しいまでにからっと晴れていた。

「早かったな。もう少し迷うかと思ったがな」

 見上げてくる男をにやにやと笑いながら、燻製卵をもりもりと平らげる。 

「魔女殿は時々意地悪です」

 男の表情と口調は相変わらずだったが、こやつに意地悪だと言わしめた事にそれなりの満足を覚えた。

 わざわざ見つけにくいように姿隠しの護符を展開させたままにしておいたのだ。

「魔術の素養はなくとも、地脈の流れを感じ取る事は出来る。これも修行の内だ」

 からからと笑い、羊の腸をなめして縫い合わせた水筒から直接ミードを呷る。
 心地良い甘さが舌に後引いて残った。

「第一、親切な魔女など存在するものか。魔女とは総じて意地悪なものだ」

「寛大ではなかったのですか?」

「魔女の中で最も寛大で、最も意地悪なのがわしだ。愉快な事に、この二つは矛盾せぬ」

 わしの言葉に男は顎を撫でながらしばらく考え、

「なるほど」

 こくんと頷いた。

「ですが愉快ではないと思います」

 む。
 こやつめ。

「相変わらず一言多いのう」

「ありがとうございます」

「別に褒めてはおらん」

 だからと言って怒っても叱ってもおらんがの。
 
「そうですか」

 よって、この男の答えで正しい。
 ミードで咽喉を潤し、わしは足を解いてぶらぶらとぶらつかせた。

「ほれ、封じの護符だ。落としたりするでないぞ?」

「はい」

 わしが投げ渡した護符を受け取り、懐の奥へと収める。
 身につけた服の上から、護符を収めた懐を二度叩いた。

 あれでこやつの精の匂いを嗅ぎつけ、寄って来る魔物の鼻を眩ませる。
 わしがここから魔術で気を逸らしてやらねば、今頃は大釣果と言った所か。
 ざっと感知しただけでも、スライム五三、レッドスライム一六、他種族多数。
 面倒くさくなってスライム系以外数えるのをやめた。
 それくらい、こやつは魔物の雌を引きつけてしまう体質だ。

 精液もそれに見合って特上。
 おまけに連射まで利くと言う高性能。
 こやつの濃縮された精の気をまともに浴びれば、魔王の影響でサキュバス化していないあの高慢ちきなエルフと言えど、接触・即発情・自慰遊戯の三段論でけりがつく。

 ……む。
 その後押し倒されるも入れれば四段論か?

 まあ、些細な事は宜しい。

 とにかく、こやつは魔女であるわしの目から見ても全くもって厄介な体質の持ち主なのだ。
 運が良いのか悪いのか。

「はぁ」

 ため息をついたわしに、男はじっと見上げてくる。

「何か?」

 何か、ではない。
 誰の為に頭を悩ましておると思っておる。

 運はともかく、間が悪いのは確かのようだ。

 山羊の角に穴を空けた飲み口からミードを一口吸い、舌を出した。

「あの街のミードは粗悪だ。蜜に混ぜ物をして薄めておる。わしの口には合わん」

「ではエールを飲まれてはどうですか?」

「たわけ。あんな温くて苦い物など飲めたものか。あれで金を取ろうなどと、せめて氷室でキンキンに冷やしてから出すのが筋と言うものだ。
 それに、わしは甘いものが好きなのだ」

 ミードがなければエールを飲めなど、わしに向かって礼拝堂で神を讃えよと言っているようなものだ。
 よって、ミードがなければ美味いミードを探せば良いのである。

 眉をしかめて代替品などを舐めるよりも、よっぽど真っ当である。

「次の街か村では、まず第一にミードを優先するぞ。ハニービーの巣に近い場所に向かうのだ。
 間違いなく住人はミードの密造で私腹を肥やし、裏山に密造酒施設を設けておる。奪った所で領主に申し出も出来ずに泣き寝入りだ。根こそぎさらうぞ!
 いや待て。アルラウネの群生地を探すという手もあるな」

「それは、脅威が傍にあるという事では?」

「わしと共にありながら、たかだかハニービーやアルラウネを恐れてどうする」

「いえ、俺ではなく。近隣の村や街が」

「真のミード職人の朝は早く、死すら厭わぬのだ!
 わしはミードの為なら労を惜しまんぞ? 火竜の牙の奥にあろうと、ミードの甕があらば手を突っ込むぞ」

「やめて下さい。火竜の吐息で中身は蒸発しています」

「気のない返事だのう。半分は冗談だ」

「俺の存在意義に関わります。半分は本気なのですか?」

「さて、どうかな?」

 にやにやと笑って男を見下ろす。
 男はじっとわしを見上げてくる。

 うむ、この構図は中々良い。

「前言を訂正します。魔女殿は思いの他、頻繁に意地悪です」 

「その認識で、およそ違いはない」

 表情も声音もいつも通りで、心なし赤らんだ男の耳元を眺めて、わしは悦に浸った。

 こういったやり取りが心地良く、ミードの薄さも胸にすく。
 久しく忘れていた。
 会話を楽しむという心地良さなど。
 目的地も終着点も無い旅を、のんびりと当て所なく楽しむ事など。

「して」

 空になった水筒を投げつけ、わしは男の顔を覗き込んだ。

「成果はあったか?」

 男は水筒を避けもせずにぺしと顔で受け止め、右目でわしを見つめ返した。

「見届けたままに」

 じっと右目を凝視する。
 その目玉の裏側。
 あやつの眼を通して見た光景を、わしの目に写し取っていく。

 川辺で過ごした午睡にも似た淡い景色が、わしの記憶にも留められた。

「……ふむ。中々良いスライムを引いたようだな」

 引き選んだ運とこやつの手並みを含め、及第点と言ったところか。

 しかしまあ。
 スライムと契約するまでに五度も射精してなんとする。
 大盤振る舞いではないか。
 最後の方は知性の一端を覗かせ始めておるぞ。
 育てに育てハイスライムにでも進化させるつもりか?

 それはそれで面白そうだのう。

 二度瞬きをして、目に込めた魔力を断つ。

「名は、スゥと」

 男は顔に乗せた空の水筒を背負い袋に収め、平手で胸を叩いた。

「ふむ、スゥ。スゥか」

 契約の証を舌に転がし、しばし間を置いてから眼下の男を見る。

「参考までに訊く。もしも契約相手がハーピーであったら、どのように名づけた?」

「ピイ」

「……ケンタウロスならば?」

「ケンタ」

「ワーラビットであった場合はどうか!?」

「ワラ」

 いかん。
 眩暈どころか頭痛がしてきた。

「知性の低い魔物ならいざ知らず、今わしが挙げた者は皆人間並みかそれを越える智慧を有しておるのだぞ!
 その名で契約すれば間違いなくぐれるぞ!?」

「……?」

「首をひねる前に頭をひねらんか、このド阿呆!」

 お。
 今わし上手い事を言ったな。

 ほんの少し、頭痛が薄れた。

 本っ当に、ほんの少しだがな!

 判ったのか判っていないのか。

 男はわしの言葉に首を右に左に傾けた後、真っ直ぐに伸ばした。

「熟考します」

「海よりも深く天を貫く程な」

「善処します」

「次までに少なくとも一種一五〇通りの名は考えておけ」

「努力します」

「とりあえず念願の契約魔物を得たのだ。少しは嬉しそうに笑って見せよ」

「わーい」

「……それは嬉しいのか?」

「努力しています」

 男の表情はどう見てもいつも通りで、努力など欠片も見えなかった。

 嬉しい時や喜ぶ時に、努力などする必要があるか。
 たわけ。

 ぶり返してきた頭痛に、額を押さえた。

「良い良い。まあとにかく色々と、良い。
 わしの趣味はまだまだ尽きぬ。風が吹くまま川が流れるまま、ぶらりぶらりと気儘な旅だ。次こそ美味いミードを出す街か村か集落か、この際魔物の巣でも構わん。次を目指すぞ。
 ただし街道からは外れてな」

「いつも通りですね」

「そうだ。だが違う。もう少し近う寄れ」

「はい」

 手招くままに寄って来た男に背を向けるように言い、背中を向けたところで飛びついた。

「何事ですか?」

 ぎょっと身体を硬くした男の背をよじ登り、肩に跨る。

 おお、思いの他高いではないか。
 思いつきの割には中々良い景色だ。

「足が痛い。故に負ぶって歩け」

 ぺしぺしと目の前にある頭を叩くわしに、

「理不尽です。判りました」

 男はひょいと担ぎ直して位置を定めると歩き出した。

 わしは揚々と景色を眺め、男は黙々と歩く。
 わしが話しかけなければ男は口を開かない。
 わしが言葉を掛ければ男は何がしかを答える。

 全く。
 旅の道連れには最適であるな。

 のしのしと歩く男の肩の上で、軽く揺られながらわしは笑った。



「所でMBよ」

「はい魔女殿」

「契約の顛末を記録し、書物にまとめて売り出せば売れると思わんか?
 題して、正しい魔物との交わり方。男専用」

「書籍化ですか。どうかと思います」

「いや、しかし売るとなると題がお上品過ぎるか。もう少し衝撃が欲しい所だ。つい手に取りたくなるような――
 魔物の雌をコマす百の方法! どうか!?」

「それは後九九回契約しろという事ですか? 単純計算で後四九五回射精する事になりますね」

「若いのだからそれくらい余裕であろう。ぬしの歳など、まだわしの十分の一以下ではないか」

「魔女殿の身長は俺の二分の一ですね」

「今ある頭の位置はぬしの三割増しであるぞ。わしが気にしておる事をさらっと抜かすな」

「申し訳ありません。高い高いしましょうか?」

「よせ。神に祈りたくなる」

「宗派替えは問題ですね。やめておきます」

「……それにだな、なんだかんだと言うて最も売れる書物は春画であるぞ?
 有史以前より連綿と飽くなき探求が成され、今も一貫と続けられているのはエロだ」

「コマすに続いてエロですか。そういう言葉遣いは出来ればやめて頂きたいです」

「エロスの探求は種を超えた至宝文化である」

「至宝文化ですか。そう言われると何やら凄そうな印象を受けますね」

「魔王も代替わりした事であるし、わしはここらで魔物と人間が交わるジャンルが確立されても良いと思うのだ。
 これまで傍流に過ぎなんだサキュバスの系譜に連なる魔王が誕生し、その影響は魔界のみならず世界全てを巡った。
 魔王は閉塞の道を歩むこの世界に、多様をもたらすつもりなのではないかと思う」

「閉塞と多様ですか」

「うむ。人間を見よ。先代魔王を討った勇者の血筋からなる王国の台頭によって、多くの文化が喪われた。
 強大な一国主義によって中央集権が成され、辺境に行けば行くほど貧困に逼塞しておる。
 同じ農民にしても、地域による収益差があり過ぎる。

 何故か?
 地元の特産が生かされておらんからだ。
 そもそも王国の作物を、土地も気候異なる各地で統一し広げようなど暴挙の極み。

 木々の伐採に植樹で応じる姿勢は評価するが、植えるは加工に易い種ばかりで、森に棲む者の事を考えておらん。
 王国近辺の森は木の実一つ生らぬ。魔物どころか動物すら姿を消した死の森だ。

 王国より派遣されてきた地方領主はその地特有の気風に疎い政を行い、王国騎士団の駐留によって反乱どころか意見陳情もままならぬ。
 民の願いは明日の自由よりも今日の麦。遠方のドラゴンよりも裏山のゴブリンだ。

 どれだけ王国が無法を法に定めようと、楯突く事は出来ぬ。王国の否定は勇者の否定に他ならぬからな。
 人間ではこの権威に逆らえぬ。

 魔王不在のたった百数年で、人間の隆盛は甚だしい。
 されどその隆盛の影で、どれほど多くの声なき声を闇に葬ってきた事か。
 動植物、魔物のみならず、同じ人間であろうとだ」

「人間の隆盛は悪ですか?」

「それだけ、とは言わん。
 言語の一本化は各地の垣根を低くした。魔物にもその恩恵はある。
 スライムとて、用いる言語は今日喋られる王国語に他ならん。

 言語は学問においても顕著であるぞ。
 読み書き算術の普及で、民の無学による悪徳領主の搾取は減り、田舎の村でも王国の洗練された詩が謳い上げられる。

 魔術の体系化によって、建前とは言え望めば魔術を志す事が出来る。
 下位魔術の普及は民の生活に密接化し、多くの労働時間が省かれ民に余裕をもたらした。

 教会の一律保護によって地方独自の神教は多くが迫害されたが、同時に迷信的行為は減り、今まで助かる事の出来なかった命を助ける事が出来るようになった。
 街、村の人口比率に即した施料院建設と、癒士の予備配置は天晴れだ。

 貨幣の統一によって、異なる貨幣を目方に載せて取り引きをする等と、馬鹿げた真似も行われなくなった。
 かつて根強かった物々交換式から貨幣経済が定着し、馬借の普及によって物流・情報の流通を早め、それは文化の共有がより易くなったという事。

 同じ言葉を話し、同じ金を稼ぎ、同じ詩を吟じ、同じ神を仰ぎ、同じ文化に育った者ならば、血塗られた文化差別と民族間抗争を緩やかに抑制出来る。
 百数年に渡る平和の謳歌を成す為の政、法整備、神教の普及は決して伊達ではないのだ」

「そうですか。何やら判らなくなってきました」

「つまり物事には善しと悪しの両側面があるという事だ。
 片方の側面のみを見て声高に叫ぶのは、愚か者か詐欺師だ」

「なるほど。用心します」

「うむ。ぬしはどうも騙され易いからの。心して智慧を磨くのだぞ。
 間違ってもスライムに言いくるめられたりはするな」

「まさか」

「本当か? 怪しいものだ。契約したスライムを随分と可愛がっていたようだが?」

「スゥは愛嬌があります。物覚えも早いです。魅力的です」

「猫馬鹿犬馬鹿ならぬ、スライム馬鹿か。先が思いやられるの」

「スゥと鐘三つはセックスしていたおかげで、肌がつるつるになりました」

「む。どれ。
 ……なんぞこれは。永遠の若さを保つわしより、すべすべお肌ではないか。
 いくらスライム効果とはいえ、流石のわしもこの事実に眩暈を覚えざるを得ない」

「申し訳ありません。魔女殿のぷにぷに感には負けます」

「たわけ。当たり前だ。それすら負ければわしの女が廃るどころか、ゾンビの成り損ないの如く腐り落ちるではないか。
 ぬしはたまに言動が容赦ないな!」

「おかげさまで。魔女殿の訓えの賜物かと」

「皮肉か? 皮肉なのか? 皮肉を言うのはこの口か?
 生意気な。こうしてくれる!」

「もうひわへありまへん。いはいれふ」

「痛いのは生きている証拠だ。良かったではないか。
 ――咽喉が渇いた。ミードを献上せよ」

「はい。最後の備蓄です。味わってお飲み下さい」

「もう少し濃厚なら良いのだがの。こう薄いと咽喉越しくらいしか楽しみがな……ふぅ。

 という事で、世は多様化の時代を迎えようとしておる。
 これからの時代は種に囚われず、垣根を越えた異種族異文化コミュニケーションの時代だ」

「話の戻し方に強引さが感じられます」

「コミュニケーションの部分は性交と置き変えても構わん。いっそ乱交――いや、大乱交か?」

「どうしてそう卑猥な方向へ持って行こうとされるのですか」

「その方が大衆受けするからだ。
 いつの世も、人間は他人のセックス風景を覗いてみたいという煩悩を抱えるものよ。
 ちなみにサキュバスは他人のセックスに加わって乱交とする」

「俺にそういう煩悩が無いのは、人間の枠から外れているからですか?」

「なんにでも例外はおる。ぬしは紛れもなく人間だ。
 まあ、ちと……半分ほど? 足を踏み出してはおるが。まだまだ充分に人間だよ」

「そうですか。半分なら安心です」

「うむ。安心せよ。
 その例外に対して石投げ追うのではなく――げふうっ――片目を閉じて許容するが多様の本質よ」

「げっぷをやめて下さいとは言いませんが、憚る努力はして下さい」

「生きておるのだから仕方なかろう。
 存外売れるやもしれんではないか。新たなジャンルの先駆者となれば、その後はボロいぞ? 専門分野の確立は宗教にも似たりだ。
 わしとて、印税だけの左団扇生活に憧れんでもない」

「そこまで財政が逼迫しているのですか? いずれにせよ宴会代で消えるのではないでしょうか」

「金は溜め込んでからパーっと派手に使う物だ。どう足掻いた所で、墓場まで持って行けやせん。
 金は天下の周り物。宵越しの金を持つは魔女の恥だ」

「最後は魔女殿だけに当てはまる言葉かと思います」

「当然だ。わしが考えた言葉であるからな」

「納得です」

「とにかくだ。
 ぬしは契約の顛末をまとめて書き記せ。感じたまま、あるがままを赤裸々且つ淫靡に綴るのだ。
 良いな? これは命令だ」

「理不尽です。判りました」

「ぬしとて得られたものはあったろう。あのスライムにしてもだ。
 記憶は薄れる。どうあっても歪む。故に文字として残すのだ。
 異なる種との垣根を越えた瞬間、目にしたもの。広がる光景。美しきものも醜きものも。あるがままにだ。
 ぬしの言葉で記して残せ」

「……良く、理解出来ません」

「良い良い。いつか判る日が来れば良い。判らぬままに生を閉じようとも、わしは責めん。
 足掻き続けるのだ。地に足をつけて這って生きる。それで良い」

「はい」

「そ・れ・に・だ。
 もし世に出て万人の目に触れるようなことになって見よ。絶対に真似をし出す者が現れるぞ?
 人知を超えた快楽を妄想するだけでは満足出来ず、己が分も弁えずに興味本位で魔物の元へほいほいと寄っていくのだ。
 返り討ちに遭い快楽の坩堝で果てるのが順当だ。注意一秒、一生射精だ。これほど愉しみな事はそうあるまい。
 いっひっひっひっひっ」

「魔女殿は意地悪です。悪趣味だと思います」

「何を今更。すでに意地悪だと言ったし、魔女が悪趣味なのはすべからく運命の定めよ」

「運命なら仕方ないですね」

「時には諦めも肝心。されど全てが無駄となる訳ではない。一の成功には一〇〇の失敗が付き物だ。
 いつか誰かが道半ばに倒れた先駆者の意志を継ぎ、超えられなかった壁を乗り越え道を作る。
 如何なる事も決して無意味ではない。
 それが世界が望む真理だ」

「そうですか。俺もその真理は好きになれそうです」

「うむ。世界を好む為にも、さあ。MBよ」

「はい、魔女殿」



「明日も、新たな世界を知ろうではないか」


09/10/27 02:07更新 / 紺菜

■作者メッセージ
〜お・ま・け〜



「今回契約したスライム種のスゥです」

「スゥ」

「魔物娘SS第一回がスライムと言うのはある意味王道だな。勇者とて城を出て二歩でご挨拶だ。
 こんにちは! 死ね! である」

「物騒な世の中ですね」

「ブッソウ」

「それが世の掟だ。勇者の本分と魔物の本分は相容れぬ。そうでなければならぬのだ。諦めよ」

「思い通りにいかないのが世の中なんて、割り切りたくないから」

「……?」←長文が理解出来ない。

「しかしまあ。後半わしが喋り過ぎた為か、魔物娘とフルネッチョだわーいという趣旨がブレたやもしれんな」

「五度射精しました。睾丸が痛いです」

「美味シカッタ。満プク」

「今の内に伏線を張っておけば次に繋げられると言うものよ。恐れに耐えながら好き勝手に設定や世界感をいじっくたりもしたしな。追い込めば追い込むほど実力を発揮するが真理。
 超神水の連続に耐え抜くか死かの二択である」

「生きるも地獄、死ぬも地獄ですね」

「ジゴク」

「天国より地獄の方が楽しめるぞ? 魔女的に。性的にもな。
 ……。
 うむう。しかし、これは……」

「魔女殿。スゥの胸が何か?」

「ナニカ?」

「……(スカスカ)」

「……」

「……」

「お、おっぱいでは負けようが、愛らしさでは負けんのだからな!?」

「魔女殿」

「オッパイプルンプルーン」

「!? 手も使わず自由自在に動かすとは! 当てつけか? 当てつけだな。当てつけなのだな!?
 ……う、うわぁん!! バフォメットとの契約切ってやるうううぅっ!」

「……魔女殿」

「プルンプルーン」



 山なしオチなし意味なし。
 そんな話を書きたくてもオチを求める関西人の性。

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