読切小説
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夢に等しく
星のまたたく夜空に、雨のように流れる星々の中、ひときわ大きい青い流星が長く長く尻尾を伸ばして
協会の屋根の上にいる子供達に手を降っている時に。

その子達は(といっても三人だけですけど) 大人達にナイショで流れ星を見にきていました

まだ暖かいベッドから音をたてないように、静かにこっそり這い出して
クマさんの形をしたスリッパを履いてそろそろと。

自分の部屋を開ける時、木製の扉が軋んだのでその音に気づかれないかとドキドキしながら…そうして両親の寝室の前を抜き足差し足忍び足で通り過ぎ…
(両親達は起きていたのですが足音には気づきませんでした、他の事に夢中だったので。)
玄関の扉を開けて外の息が白くなる寒さに小さな身体を震わせながら協会に歩き出しました。

因みにこの時、慌てん坊の女の子がうっかりパジャマ姿のままでした
もっとも、三人とも大人達の「よるにであるいてはいけない」約束を破るという悪い事をしている、という事や1人で外を出歩くという事がボロボロにすりきれた本に書いてあった英雄や勇者達の冒険のように思えてドキドキしていたのです。

そうして協会の前で集まった子供達は互いの可笑しな所…変な寝癖だとか可愛いパジャマ姿だとか、魔物怖さに鍋を被ってたりとか…をひとしきり指摘しながら笑いあい…その声に協会で待っていた神父様が扉を開けて3人を温和な笑顔で出迎えたのでした。

協会はこの村に神父様がくる時に村人の皆さんが頑張って用意したものでした。
それはとても豪華で大理石で形作られ所々に金の縁取りがあり、天井にはエンジェル…つまりは天使達と良い子の味方!強くて優しい主神様!(少なくともこの三人にはそう教えられています)を称える絵が描かれ、色とりどりのガラス窓…もとい、ステンドグラスと金の十字架が奥に飾られて…

という事はまったくもってなく(残念な事に!)良く言って素朴な、悪く言えばボロの協会でした。
壁は石作りで中には粗末な横に長いベンチ、そして木の十字架。
神父様は遠い所からたった1人ではるばる来て、少しがっかりしましたが
村人達が大変な農作業の合間をぬって一生懸命作ったと聞いて、胸の中に暖かさがこみ上げると共に「この善良な人々を邪悪なる魔物と魔王から守り、主神の教えを伝えねば!」と、その決意を新たにしたのでした…おしまい。


さて、子供達はその神父様に屋根にあがらせてもらい、用意してくれた牛さんのお乳から取った暖かいミルクを振る舞われ、ブランケットに一緒にくるまりながら星空を見上げていました。

本当なら神父様が止めるべきなのですが、子供達が大人達の来ていない時に協会の中でヒソヒソと話しているのを聞いてしまい。
きっと三人の意思に根負けして認めてしまったのでしょう、実際こんなへんぴな村にいるのもあれよあれよという間に周りの人々に流されたせいですし。

三人の子供達は文字通り、目を輝かせて星空を見て…その中でも一際大きい流星にそれぞれお願いをしました。

鍋を被ったロイと言う男の子は「とてもつよいユウシャになりたい!」と

パジャマ姿のフリアと言う女の子は「かわいいお嫁さんになりたいな。」と

そして寝癖のついたザールと言う男の子は「世界中を見たい」と…

それぞれお願いしました。

そして夜も白けて遠くの山から黄金の太陽が登り協会と三人の子供達、そして村中を照らしました。
その時にロイとフリアの2人がまぶしさに目をそらしましたが、ザールだけが金色に輝く太陽に心奪われていました…そしてその光の中に、何か空を飛ぶ物も目にしていました。

もっと良く見ようと目をこらしてみましたがその時には既に消えており、ザールはきっと大きな鳥が空を飛んでたんだと思う事にしました。

その空飛ぶものは良く見ればきっと人の姿に見えたでしょう、でもザールはロイとフリアの2人に大きな鳥の事を夢中で話していて…結局3人ともその鳥の話にに夢中になっていました。

…そして朝におうちに帰ったのでそれぞれの両親にこっぴどくしかられてしまいましたとさ。

「あーあ…やってられないよ、何もあんなに怒らなくったっていいじゃないか!」

「しかたないよ、怒られる事をしてたんだし」
「だからって水汲み50回だなんてさ!お前は素直すぎるんだよ!あと寝癖!」
「イタタタ!髪を引っ張らないでよぉ」
「水付けて治せよ!…ったく、あー重い重い!やってらんねー」
「…持とうか?」
「ありがとうザール、心の友よ…あと全部頼んだ」
「うん… え?」
言い終えるやいなやロイはそこにあった干し草の山に寝転がりました
「えーと…僕だけであと全部?」
「なるべく早く終わらせろよ」
「…えー」

「またザールだけに全部やらせる気?」
という声が干し草の裏から聞こえ、ロイは飛び起きました
「お、脅かすなよフリア!」
「あ、こんにちはフリア」
クスクスと笑いながら白いワンピースを着たフリアが干し草の裏から出て来ました
「こんにちはザール、ロイの分までやらなくていいわよ?自分でやらなきゃ意味無いし。」
「でも疲れてるみたいだし…」
「そーそー、大体お前はどうしたんだよ、髪に干し草付けてさ。」
フリアの金色の髪には干し草が少々付いています
「私?私は終わらせたからいいのよ…うん、それに貴方は干し草のオバケになってるし」
その事にザールが吹き出し、フリアがつられて笑い、ロイが癇癪を起こして笑うなと言い…ロイとザールの競争になり、フリアがそれを煽る…そして最後にはみんなで呆れて笑いあって…暑い季節と寒い季節を5回ずつ繰り返して。



つまり…それが魔物娘達がこの村にくるまでの…丁度5年前の事でした。


村には今、焼け落ちた家達と協会がありました
井戸は使えないように石で蓋をされています、村に住んでいた人々の死体は魔物として復活しない様に焼いた灰を大きな穴に全ていれて土をかけました

…頭が潰れていたり、背中を切り裂かれていたりした【知り合い】を見たくなかったと言う事もあります。

焼け落ちた木ぎれを組み合わせてひもで縛って十字架が村の中央に一本だけ刺さっていました。
その時は疲れ果てていて村人全員(1人を除いて)の十字架を建てる余裕は無かったのです。

自分のした事に、答えの出ない自問自答を繰り返しながら、まだ感覚の残る疲れた身体を引きずってその男は村を出て行きましたすなわち…

始めて魔物娘を した時の噴き出す血の暖かさと最後の優しさ、驚愕と放心した所を抑えられ無理やり犯された時の恐怖と神や両親に助けを呼ぶ自分の声肉を打ち付ける水の音、知らない快楽と魔物に犯される背徳感に絶頂を感じた時の下半身の暖かさと弾力のある胸の柔らかさそしてアイを囁く濡れた唇と口の中に入る舌の感触、そしてその魔物の首を折った時の音と感触、嬌声の聞こえる村に走る自分の荒れた息と地を蹴る足音、村に充満する精液の匂いと女達の艶やかな声、魔物に犯されていた所を助けた兄の嘆きの悲鳴とこちらを見る血走った眼、魔物と化した母の自分の価値と神父に勇者として売られたという事実、魔物を犯し快楽を得ていたていた神父の独白と自殺、魔物に変えられた魔物達とそれを守ろうとする村人達の断末魔、肉を裂き骨を砕き血を被り…

聞きたく無いアイの告白をしながら桃色の羽を広げて迫るフリア

魔物娘達を()した事を責め、魔物娘達をアイしているからと守ろうとするロイ

勇者を持ち帰ろうとする黒の甲冑に豊満な身体を包むデュラハンと持っている大剣の輝き

火を付けた家の軋む音、肉の焼ける匂い、自分の身体についた匂い。
アイの匂い、愛された匂い、血の匂い

自分の18年の記憶、友と両親をこの手にかけた感覚、勇者としての使命、

その全てを引きずって男は村を出て行きました。

魔王を倒すために。
13/08/22 03:47更新 / キネシス

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