読切小説
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FAKE
 旅の道中で急な雨に降られる事は多い。なので雨具の備えは当然してある。
 だが取り急ぎの用でもなければ、悪天候の中を無理して進む必要はない。
 もしも近くに天候の回復を待つのに適した場所があるなら、そこでやり過ごすのも手だろう。
 そして幸運な事に、街道を歩く俺達のすぐ近くに、そんな場所が存在していた。

 街道を少しそれた林の中に、石造りの小さな屋敷が建っている。
 窓ガラスが割れ、外壁は周囲の自然に侵食されている事から、長い間手入れがされていない、つまり廃屋である事が窺える。
 廃屋と言うが、壁が崩れていたり、穴が開いていたりといった目立つ様な損壊はなく、状態は良い方だと言える。

 きしむ扉を開けて中に足を踏み入れた俺達を迎えたのは、埃のにおいが鼻に付く、荒れた礼拝堂だった。
 この建物は、かつて主神教団が巡礼者の一時の宿として築いた物だ。
 在りし日は信者達によって清潔と荘厳が保たれていたであろうこの場所も、教団がこの地から駆逐されて以降は手入れをする者が不在となり、当時の面影は見受けられない。
 そんな廃屋の中で、この様に保存状態は悪くはない物は、俺達の様な旅人が、今日の様な雨風を凌ぐための避難場所代わりとして使っている。

「ふぅん……これが主神教団の建物」

 それほど珍しくもない建物だが、どうやら隣にいる彼女は違うらしい。雨具を片付けながら、礼拝堂の内部を見渡している。
 この地方……いや、この大陸全体を見渡しても特異な衣装を纏う彼女は、はるばる東のジパングから海を渡ってやってきた刑部狸と言う

魔物の少女で、名前はキサラギと言う。
 彼女を連れて教団関連の施設に立ち入るのは、そう言えば初めてか。
 主神教の力の及ばないジパングに生まれた彼女は、一体どんな気持ちで、この礼拝堂を見渡しているのだろうか。
 表情からは本心を窺う事は出来ないが、何となく、俺の様な無関心ではないと思う。

「なに? さっきからジロジロと……」

 どうやら知らず知らず見つめていたらしい。キサラギの目がジトッとした物となり、かつ普段よりも重い声色となっている。
 こう言う場合、機嫌が悪い方向へと向かっている前兆だ。
 不躾にジロジロと見つめられれば、不機嫌にもなるのも当然か。
 他意はない、視界に入ったからつい、などと言い訳を並べ謝る俺の姿に、言外に呆れたと溜息を付く。

「馬鹿ね。言い訳になってないわよ」

 刑部狸と言うのは、陽気で愛想の良い性格をした種族らしいが、彼女の様な辛辣な性格をしている者もいる様だ。
 もちろん、商売をしている時は愛想よく接客をしているが、俺に対しては今の様に無愛想だったり棘のある物言いをする事が多い。
 かと言って根暗だったり陰険だったりと言う訳ではない。商売の時には明るい顔で接客をするし、商売に対する情熱は本物だと思う。
 個体差と言ってしまえば簡単だが、それで説明出来る程、簡単ではないと思う。

「考え事をするなとは言わないけど、いい加減にしないと、またヒドイ目を見るわよ」

 彼女の言う様に、俺は一度考えに耽ると、さっきの様にボーっとしてしまう事が多い。
 所構わず、歩いている途中でも考えに耽って、それが原因でトラブルになる事も少なくない。
 気が付けば物思いに耽って、周囲の流れから置いていかれたり、うっかりの原因になったりしている。
 つい最近も考え事をしながら街中を歩いていたら、前から来たサキュバスとぶつかって、色々と大変な目にあったばかりだ。
 キサラギのとりなしてくれなかったら、どうなっていた事か。
 誰からも指摘される、矯正しなければならない欠点なのは分かってはいるのだが、どうにも上手くいかない。

「私は先に奥で休んでるわ。考え事は早めに終わらせてね。ドゥーエ」

 最後に俺の名を言い残し、彼女は礼拝堂の先にある宿泊施設へと向かった。
 言ってる傍からやらかし、二度ある事は三度あるを実践してしまった。今さら気に病む事もないけど。
 気を取り直して外の様子を窺いに出る。
 空は見渡す限り雨雲に覆われていて、一時間や二時間では天候が回復しそうにはない。雨が止んだら、その頃には夜の帳が落ちているだろう。
 今日の月は三日月だから、視界も良くない。この辺の地図は持っているし、街道周辺の情報も頭に入っている。
 比較的治安の良い場所だが、それでも危険が存在しないわけではない。不測の事態に直面する可能性もある。

 自分一人の時ならともかく、今はキサラギを連れている。彼女は魔物とは言え行商人でしかないし、それに女性だ。
 無理をさせる訳にはいかないし、護衛対象を危険な目に合わせるなど本末転倒だ。
 身を守る術は心得ているが、キサラギを守る片手間にトラブルを処理しきる程の技量はない。

 何で俺なんかを護衛に選んだんだろうか。
 からっきしと言う訳でもないが、とびきり腕が立つと言う訳でもない、それが俺。つまり二流の冒険者だ。
 キサラギとの出会いは三ヶ月前。港町の酒場で飲んでいる俺の前に現れ、それなりの資金で契約を迫ってきた時だ。
 あの時、酒場では腕利きと呼べる連中が大勢いた。そんな中でキサラギは俺を選び、ヘマをやらかし面倒を起こし続ける俺を、今なお雇い続けている。
 理由は分からないが、俺としてはありがたい。
 彼女との旅は、久しぶりに充実を与えてくれているからだ。  

 謎ばかりだな、と独り言呟いた所で、またあれこれ考えてしまった事に気付く。

 今日はここでキャンプする事をキサラギに告げよう。
 荒れてはいるが、野宿と比べれば雲泥の差だ。彼女も不服はないだろう。
 この事を知らせるべく、彼女が休んでいる部屋を探しに奥へと向かった。


 ・ ・ ・


 礼拝堂の奥の居住区には、巡礼者が寝泊りする為の部屋とベッドが多く用意されている。
 キサラギが居たのは、居住区の最も奥にある部屋だ。
 巡礼者が雑魚寝する他の部屋とは違い、そこは簡素なベッドが一つと、最低限の生活用品が置かれた個室になっている。
 恐らく、この施設を統括する人物に宛がわれた個室だろう。
 
 キサラギは、荷物を床に下ろし、ベッドの上で横向きになって小さく寝息を立てていた。
 とても穏やかで落ち着いた表情を浮かべていた。こういう顔も出来るのかと、妙な感心をしてしまう。
 俺が知る彼女の表情と言えば、
 商売時の快活な顔や、合間に見せる狡猾な表情とも、それ以外の時の無愛想な表情とも違う。

 だが同時に疑問に思う。常に不測の事態に備えて眠る彼女が、足袋を脱ぎ、服の装飾を全て外し、さらには帯を緩めて眠っている。

 “人に隙を見せるって事は、弱みを与える事になる。そのせいで自分が傷付く事が何よりも嫌いだ”

 いつだったか、珍しく酒の入った時に呟いたキサラギの言葉が思い浮かぶ。
 俺の知る、彼女の数少ない本心の言葉だ。
 そう言い切ってしまうくらい彼女は警戒心が強い。事実、酔っていた時も気を緩めている様子はなかった。
 不測の事態に備えて動きやすい格好で眠る彼女が、あり得ないほどに無防備で無警戒な格好をしている。
 俺はキサラギの過去を一切知らない。だから彼女がここまで警戒心を抱く理由も分からない。

 そんな彼女が隙を晒している。この建物の中にいるのはキサラギを除けば俺一人。
 俺が害になる様な存在ではないと見ているのか、隙だの何だのを考える余裕もないくらいに疲れ果てていたのか。

 分からない。
 ただ、この思わぬ事態は絶好の機会だと考えてしまう。
 眠っているのなら、先ほどの様に見つめて怒られる事はない。
 だからついつい、いけない事だと分かっていながらも、頭からつま先までじっくりと見つめてしまう。

 改めて見る彼女の体は、本当に華奢だ。
 底の高い下駄で誤魔化しているが、キサラギの背は、俺よりも頭一つ小さい。
 それでいて全体的に細身な体付きをしているから、背格好だけなら、童女と間違えられるかもしれない。
 だからと言って、発育不順と言う訳でもない。出る所は出ているし、引っ込む所はちゃんと引っ込んでいる。
 つまり均整の取れた、しなやかなで非常に美しい、十分に魅力的な体をしている。
 中でも目が行ってしまうのは、丈の短い着物のから伸びる太ももだ。
 とてもしなやかなで、張りのある艶やかな太ももは、うっかりしていると、ついつい目が言ってしまう場所だ。
 彼女自身も魅力を自覚しているから、こうやって見せ付けているな格好をしているのだろうか。

 はたして、その太もものさわり心地はいかがな物なのだろうか。
 随分とよこしまな事を考えてしまうのは、俺がスケベなのもあるが、やはりこれ程までに魅力的な物を前にしては、多分仕方ない事だろう。
 見る限りよく眠っている、少しぐらい触ってもバレないかもしれない。
 いや。触れてしまえばさすがに起きる。例え起きなくても、そんな卑怯な真似は後味が悪くなるだけだ。

 邪念を振り払う為に、キサラギから遠ざける為に視線を外し深呼吸をする。
 刺激的な光景で、すぐに忘れるのは難しいと思うが、出来るだけ早く忘れよう。
 それと彼女の前で思い出さない様にしよう。ばれてしまうと後が怖い。

「うぅ……ん」

 キサラギが小さなうめき声を上げる。
 起きてしまったかと慌ててキサラギの方を見るが起きた様子はなく、ただ寝返りをうっただけだ。
 だけなのだが、問題はその姿勢だ。

 寝返りによって横向きから仰向けへと寝相が変わった事で、彼女は股をこちらに向ける格好となってしまった。
 短い着物の丈は崩れ、寝相も足を開く体勢になってしまったせいで、隠れていた純白のショーツが丸見えとなってしまった。
 つまり、彼女は秘部をこちらへと見せ付けてしまっている。

 あまりにも衝撃的な光景で、意識が一瞬飛んでしまいそうになった。
 そして一瞬の内に、キサラギの眠るベッドへと一歩一歩距離を詰めていた。まるで吸い寄せられるかの様に足が動いてしまっていた。
 気づいた時には、彼女の体に手が届く距離まで近づいていた。

 慌てて距離を離そうとするが、足が固まったかの様に動かない。
 足だけじゃない、体中が動かない、指先一本動かす事も出来ない。
 欲望が脳裏でささやき、背を押してくる様に錯覚してしまう。このまま手を出せと、頭の中で欲望が声をかけてくる。
 一方で、理性が警鐘を鳴らす。こんな一時の欲望に身を任せていけないと。
 そうだ、女の寝込みを襲うなんてただの強姦魔だ。俺はそこまで落ちぶれていない。
 だけど、この魅力的な肉体に触れる機会なんて、今を逃せば二度と訪れないかもしれない。

 理性と欲望が頭の中で凌ぎあい、暴れまわり、脳みそをグラグラと揺らす。存在しない筈の頭痛を感じてしまう。
 頭が熱い。心臓もバクバクと早く鳴る。呼吸が荒くなって、喉がカラカラに渇く。
 神経が極限まで張り詰めているのか、建物の屋根を叩く雨の音がやけに大きく聞こえる。
 今までにないくらい興奮が、落ち着く余裕を与えてくれない。
 
 欲望が理性に勝りつつあるが分かる。その証拠に、充血した股間の逸物が硬くなり、ズボンを痛いぐらいに押し上げて大きくなっていく。
 それに突き動かされる様に、右手が彼女の太ももへと伸びていく。止めようとしても止まらない、まるで自分の手じゃないかの様だ。
 止まらない手は、彼女の体温を指先で感じられる程の距離にまで近づく。

 そうだ、触れるだけだ。ほんのちょっと触れて感触を確かめてそれでお終い。
 悪いのはキサラギだ、キサラギがこんな無防備な姿を見せるから……。

“ドゥーエは、そんな事しないよね”

 急に、酒場でのキサラギの言葉と、悲しそうな彼女の顔が、脳裏に浮かんだ。
 その言葉を思い出した時、手がピタリと止まった、止める事が出来た。
 頭の中で暴れていた物が、すっと薄れていくのが分かる。同時に、体中の熱が引いていくのも。

 そうだ。
 こんな隙に付け入るなんて事、彼女がこの世で一番嫌う行為だ。それを知っている俺が、やってはいけない事だ。
 例え今バレなくても、自分の中に罪悪感が残っていたなら、いずれは彼女にバレてしまう。
 彼女は俺を軽蔑する、ひょっとすると俺を殺すかもしれない。
 こんな事で彼女との旅が終わってしまうのも嫌だ。こんな形で終わらせたくない。

 欲望も一緒に吐き出すように溜息を付く。

 何て馬鹿野郎なんだ俺は。

「ほんと……馬鹿ね」

 ……改めて言われると、それも他人に言われるとキツイな。
 諫言は耳に痛しとは言い得て妙だ。

 ……いや待て、誰に言われた? この抑揚のない、それでいて重い声は誰の物だ?
 分かりきってる。ここ半年の間、ずっと聞いている声だ。

 恐る恐る、その声がする方を向く。

「最後の最後で思いとどまったのは、臆病だからか、それとも……」

 上体を起こし、呆れた目付きでこちらを見つめるキサラギ。
 その目はジトッとしていて、声も重い物と言う、不機嫌の前兆の状態。
 いや、完全に不機嫌だろう。彼女の様子から、俺が何をしようとしたのか全て知っているのは明白だ。
 背筋が寒くなる。血の気と引いていき、脱力してその場にへたり込んでしまう。
 終わりだ。彼女が最も忌み嫌う行いをしようとした俺は軽蔑された。次は罵倒の言葉が飛んでくるだろう。
 それは旅の終わりを告げるものだ。そう、俺達の旅はここで終わるのだ。俺が馬鹿なばかりに。

「いやちょっと……そんな死にそうな顔しないでほしいんだけど」

 罵倒が飛んでくると思ったが、自分を心配する言葉だったのは予想外だった。
 ベッドから降りたキサラギは、俺と視線を合わせる様に両膝を硬い地面の上につける。

「悪かったって本当に思ってるよ。試す様な真似してごめん」

 試すとはどう言う事か。恐らく間抜け面をしている俺の質問に、彼女は申し訳なさそうな表情で、言葉を選びながら理由を語り始める。

「今までのは寝たふりだったんだ。あなたがどんな反応するかって試すためのね。
 何度謝っても足りないのは分かってるし、本当に悪かったって思ってる。後悔もしてる。でもね、不謹慎だけど、嬉しかった……憶えててくれたから、手を止めたんだよね?」

 憶えていてくれた。それはきっと、俺を冷静にさせてくれた、あの時の言葉の事だ。
 その言葉で合点がいった。キサラギは自分が隙を見せた時、俺がどうするかを試したのだ。
 そして彼女の様子からして、俺は合格か、あるいは及第点をもらえたらしい。

「本当に良かった。あなたは私が見込んだ通り……ううん、違う。信じた通りの人だった。あの日、あなたを見つけた時に感じた物は間違いじゃなかった。
 わがままだけど、もし良かったら、この事を許してほしい」

 驚きはしたけど、怒りは不思議となかった。事態の急変に困惑している事と、説明し終えた時の彼女の苦笑いが気になったからだと思う。
 それと疑問に思っている事も原因だと思う。どうしてこんな様な事をしたのかと言う疑問が。

「理由は……ごめん、言えない。だから、不愉快なら私との契約は切っても構わないよ。自分を騙す女との旅は嫌でしょ?」

 そう言ってキサラギが浮かべた笑みは、自嘲と呼べる物だった。
 確かに俺は騙された。その理由を教えてくれないのは卑怯だと思う。
 でも不愉快じゃない。騙されてこんな事を言うのはおかしいけど、本心だ。

 自分の中に浮かび上がった想いを、そのまま素直に伝えた。
 キサラギは面を食らった表情をしたかと思うと、俺の首に手を回し抱きついてきた。
 自体の急転で意識が飛ぶのは何度目だろう。頭がそろそろ疲れてくる。
 キサラギの顔は俺の顔の真横にあるから、表情を窺う事は出来ないが、彼女の両肩……いや、体が小さく震えているのに気付く。

「……」

 とてもか細いな声、耳元でも聞き逃してしまいそうになる程に小さい声だったが、彼女は確かに“ありがとう”と言った。
 声が震えていたから、もしかしたら泣いていたのかもしれない。俺は何も言わず、キサラギの頭をやさしく撫でると、彼女は俺を抱きしめる手にさらに力を入れて応えてくれた。
 力が入りすぎて少し痛いが、こうやって受け止めてやる事が、今の彼女の望みだと考えたから、黙って全てを受け入れる。

 抱擁を続ける事数分。この状態に慣れ、困惑続きで使い物にならなかった頭が、ようやく冷静になってくると、今の状況がとても恥ずかしい事だと気付く。
 何せ半裸のキサラギを抱きしめている。つまり彼女の体温とやわらかな体を全身で味わっている。加えて甘く良いにおいを堪能している。
 再び心臓が大きく高鳴り、血液が体中を激しく駆け巡っていく。
 特に股間に血と熱が大きく集まり、みっともない位に硬くなって、密着しているキサラギの体に押し付ける様に膨張していく。
 出来れば気付いて欲しくないが、それは無理な注文だろう。
 股間の逸物を押し当てられているキサラギの体が小さく震える。最初は怒りに震えていると思ったが、小さく漏れ始めた声が愉快に震えている事から、それは違う事が分かった。

「もう……馬鹿ね」

 彼女は笑っていた。それは面白おかしさからくる笑いだ。彼女の笑う原因が自分なのは明白だから、こっちは情けなさで泣きそうになる。
 体を起こし、改めて俺と向き合う彼女の顔は、やはり笑っていた。とてもやさしい笑顔で。

「ううん、私のせいだね……いいよ」

 短いながら、その言葉の意味を、はっきりと理解した。
 反射的にこのまま押し倒したくなったが、キサラギの体を抱え上げてベッドの上へと運ぶ。
 清潔なベッドではないが、それでも固い床よりは雲泥の差だ。
 抱え上げられた時は何が起こったのか分からないと言った表情だったが、自分がベッドの上に寝かされた事を理解すると、再び笑顔を向けてくれた。

 キサラギの体に覆いかぶさると、彼女の唇に自分のを重ねる。
 彼女の小さな唇はとてもやわらかくてあたたかく、俺は感触を堪能する様に啄ばむ。

 次に自分の舌を彼女の口の中へと侵入させると、突然の行為にキサラギは一瞬大きく目を開いて驚きの表情を浮かべるが、すぐに自分の舌を歓迎する様に重ね交わせてきた。
 舌を絡めながら、俺はキサラギの口の中に唾液を送り込み、彼女もそれを受け入れ、二人の舌でぐちゅぐちゅと言う水音を立てて攪拌させる。
 キサラギは混ざり合った唾液を、水で喉を潤すかの様に音を立てて嚥下する。
 唇を離す時に重力に引かれ、キサラギの口周りに落ちた唾液を、彼女は舌で舐め取る。
 その仕草と恍惚に惚けた目付きの組み合わせはとても淫靡で、股間の熱と硬さがさらに増すのが分かった。
 名残惜しげな視線を振り切り、帯の緩んだ着物を肌蹴させ、彼女の小ぶりな胸を露出させる。
 大きさこそ控えめだが、その形はとても良く、美乳と言う形容が相応しい、
 思わずむしゃぶり付きたくなるのを堪え、触れるか触れないかの加減で、彼女の左胸に自分の右手の指を先端を這わせる。
 柔肌の上を指が触れる度にビクリと体を震わせ、必死に声を押し殺そうとするが、それでもかわいらしい声が漏れてしまうのを堪えられないでいる。
 指の動きを止めて、今度は手のひらを軽く添える様にして胸の上に置く。
 ほんの少ししか力を入れていないと言うのに、彼女の胸は腕が沈み込む程にやわらかく、あたたかさが包み込んでくる。
 今度はこね回す様に動かし、その弾力を堪能する。

「んっ……はぁっ、きゃんっ♥」

 充血し、硬くなった薄桃色の乳首をキュッと摘むと、いよいよ堪えきれずに嬌声をあげた。
 どうやら性感帯らしい。そうと分かると右手と口を使い、ゆっくりと乳首の周辺を念入りに攻め立てる方針に変える。

「ひぅ♥ なんでっ、そこばっかりぃ……んっ♥ ひぅ♥」

 弱い所を執拗に攻められ、押し寄せる快感になすがまま。
 出来る事は快感に反応して体をでたらめに震わせる事と、目じりに小さな水滴を浮かべて弱々しい抗議の声を上げるだけ。
 その内、まともに言葉も出せなくなる程に息遣いも荒く激しい物となる。
 限界も近いみたいだ。攻めのペースを一気に上げ、トドメだと硬くなった乳首を甘がみする。

「〜〜〜♥」

 キサラギは声にならない声をあげ、ガクガクと震える体を弓なりにしならせる。それが収まっても、時々体をピクリと震わせている。

「なんで……なんでこんなに上手なの……」

 快感で震える体を落ち着かせるために大きく呼吸している。
 何でと聞かれても、出来るからだとしか言い様がない。

「鈍くさいくせして女たらしとか卑怯だ……」

 何で怒られているんだろう。別に女たらしではないし、鈍くさいと言われると傷付くんだが。
 確かに、セックスだけは得意と言うのも、かっこ悪い気がする。
 とは言え、彼女はそんなかっこ悪い男に翻弄されている。何を言っても強がりにもならない。

「やぁ♥ いきなりなにっ?!」

 今度は胸よりさらに下、キサラギの秘部へと狙いを定める。
 先ほどまでの愛撫で、彼女のショーツのクロッチは、性器の上に張り付いて、その形を浮かび上がらせる程に濡れている。
 クロッチの部分に右手指を当てると、そこからなぞる様に指を何度も上下させ秘裂を攻め立てる。
 その際に速さや押し当てる力の加減や、可愛らしい小さなふくらみへの刺激も行う。

「ひぐぅ♥」

 そして左手で魅惑の太ももをさするのも忘れない。
 摩擦の少ない感触は、想像していたよりもなめらかで、日がな一日中こうしていたいとか、一日中顔を埋めてたいとかの、ろくでもない事を考えてしまう程の心地よさだ。
 時折手に触れる狸の毛もやわらかく、これで寝具を作れば、ワーシープの毛で出来た寝具と同じくらいの安眠を得られそうだ。

 執拗な愛撫の甲斐あって、クロッチの染みはさらに濃くなり、一撫でする毎に重い水音が聞こえ、押し込めば愛液が零れてしまいそうだ。
 右手を離し、今度は下着越しの性器に舌を這わす。。
 彼女の愛液は香ばしく、舐め取ると、しびれそうにな程の甘さが舌に伝わる。
 舐めて、すすって、そして時折、秘所の入り口を広げる様に舌を押し付けたりして、この素晴らしい性器を堪能する。

「いゃ、やだやだぁ♥」

 口では拒んでいるが、その割に抵抗はまったくない。意外と淫乱……キサラギは魔物だから当然か。
 普段との落差の激しさと、俺達の立場が逆転してる現実に、存在しないと思っていた嗜虐心が煽られ大きくなるのが分かる。

「あぁっもぅ♥ いっひゃ……ふえ?」

 イキそう担ったところを見計らって攻め手を休める。
 お預けを食らったキサラギの声と表情が意外と間抜けだった。思わず口角が釣りあがってしまう。何だろう、ダークエルフの気持ちが少し分かる。

「見るな……」

 ぐっしょりと濡れて重くなったショーツをゆっくりと下ろし、その下に保護されていた恥部を白日に晒す。
 髪の毛と同じ色の、薄い陰毛に覆われ濡れそぼった秘裂に指を当て、肉壁を広げ隠された秘所と対面する。
 思わず息を呑む、それくらいに素敵な光景だった。
 クリトリスは、つまむと破裂するんじゃないかと思うくらいに充血して膨らんでいる。
 性器はとても綺麗なピンク色をしていて、形もとても綺麗だ。それが愛液まみれになってる姿は本当に扇情的だ。
 俺に恥ずかしい部分を凝視されているキサラギは、顔を真っ赤にしていて、声も今に泣きそうだ。
 
 これからどうやってしまおうか。さっきの続きをするか、それとも素直に挿入してしまうか。
 愛撫はしっかりと行ったし、こちらの我慢も限界に近い。

「ふふっ……また考えてる」

 言葉こそ呆れてはいるが、その声色はとてもやさしい。
 目を細めて笑うその表情は、まるで子供をやさしく叱る大人の様な、慈愛に満ちたものだった。

「ねぇ、次はどうするの♥」

 やさしい声のままで、事実上のおねだりだ。
 言葉では応えず、ゆっくりとキサラギの上に覆いかぶさると、痛いくらいに張り詰めた股間の逸物を取り出す。
 キサラギはそれに感嘆の息をもらし、同時に期待を込めた視線で見つめてくる。
 彼女の期待に応えるべく、逸物を彼女の秘所へとあてがうと、性器の周りに付着している愛液を自分の物に塗りたくってから、ゆっくりと挿入していく。

「ふっ……あぁ♥」

 キサラギの膣の中は熱く、そしてやわらかい。
 魔物の膣だからなのか、それとも彼女だからなのか、どちらかは分からない。
 まるで別に意思を持つ生物の様に食らい付き、そして決して離さないと言わんばかりに、隙間なく絡み付いてくる。
 この逸物全体に絡みつく肉壁の気持ちよさは、それだけで射精してしまいそうになる。
 とは言え本当にそうするのは情けないし、彼女の膣の中を一秒でも長く堪能したいので、何とか射精を堪える。
 呼吸を整えて落ち着けた所で、逸物の根本から亀頭の先まで満遍なく味わう為に腰を動かす。
 最初はゆっくりとした動きで、段々とペースを上げて行き、逸物を肉壁の中で激しく行き来させる。
 入れただけで気持ちがいいのだから、動かせばその比ではない快楽が襲ってくるのは当然だ。
 本当に気持ちいい。腰が砕けて動けなくなってしまいそうなくらいだ。

「いいよぉ♥ ドゥーエ、ドゥーエ♥ もっとしてぇ♥ ひぅ♥」

 気持ちが良いのはキサラギも同様で、先ほどの愛撫の時以上に快楽を感じているのが表情や声色で分かる。
 既に何度か絶頂しているはずだ。
 お互いに快楽をむさぼり様に体を重ね続ける部屋の中には、水音と肉のぶつかり合う淫らな音、俺達の荒い息と声が響く。 
 キサラギの顔からは普段の無愛想が消え失せ、容赦なく襲い掛かってくる快楽に惚けてとろけきっている。
 甘い声で俺の名を呼び、俺の事を見つめてくる事がとても嬉しい。
 それだけで結合部分から感じる快楽を凌駕するくらいに嬉しい。

「あんっ♥ ドゥーエのくちびるあったかい♥」

 唇を押し当てると、離れない様に俺の首の後に手を回し、再び唇と舌を交じり合わせる。
 肺の中に彼女のにおいが充満し、脳がとろけそうな程の快感が走る。
 限界はそこまで来ている。腰の動きを一際激しくし、一気に限界まで駆け抜ける。
 そして痺れる様な感覚が股間から脳へと電流の様に駆けて行き、大量の精液が彼女の子宮めがけて放たれた。
 キサラギは、少しでも奥に精液を送り込ませようと、俺の腰を両足で挟み、自分の体に押し付ける。
 密着した体勢のまま、自分でも異常だとはっきり分かる程の勢いと量の射精を行い、キサラギの子宮を満たしていく。

「ドゥーエ……」

 射精直後の脱力感に身を任せ、繋がったままキサラギの体に身を委ねる。
 そんな俺を何も言わず向かい入れ、やさしい手付きで頭を撫でてくれる。
 とても安心する。彼女のやさしさに身を委ねる、それはセックス以上に癖になりそうだった。

「ねぇドゥーエ……」

 再び俺の名を呼ぶ声は、先ほどと違って妖艶の混じったものだった。
 顔を上げると、そこにあったのはセックスの最中よりも淫靡で怪しい笑みを浮かべるキサラギの顔だった。

「足りないよ♥ もっとしよ……♥」

 そう言えば魔物って淫乱だった。これで足りないと言うのも凄いな。
 でも、キサラギと繋がっていられるのなら、何度でも出来る。妙な確信があった。
 俺達はもう一度唇を重ね、再び腰を動かした。


★・・・○


 鼻に伝わってくる良いにおいが、眠っていた脳と腹を刺激する。
 まだ少し重い目蓋を開いて辺りを見渡し、においの元を探すと、それはすぐそばにあった。

「おはよう。朝ごはん出来てるよ」

 部屋に置かれた机の上に乗せられた土鍋。
 キサラギの私物の一つで、においの元だ。
 土鍋の周りに食器を並べる彼女の姿を見ても、寝起きの頭では何をしているのか理解するのに時間が掛かる。
 何十秒かして思考がはっきりしてくると、同時に眠る前出来事が徐々に思い浮かんでくる。

 あの後、俺とキサラギは何時間も体を重ね続けた。先に限界が訪れたのは俺の方で、意識が薄れ始めた所で記憶が途切れている。
 彼女の朝ごはんと言うセリフと、窓から差し込む陽光から考えるに、今は朝で、先に起きたキサラギは、朝食を用意している訳か。

「……冷めない内に食べなさい」

 あれこれ考えすぎる俺に、いつもの様に呆れの言葉をかける。
 だがいつものジトっとした目付きではなく、苦笑いと言った感じの表情を浮かべている。
 いつの間にか脱いでいた服を着直し、ベッドから降りてキサラギと共に食卓代わりの机を囲む。
 そう言えばキサラギの手料理を食べるのは初めてだ。

「美味しいかな?」

 とても美味しい。
 考えるよりも先に口から出た俺の感想に、キサラギは、よかったと言って微笑んでくれた。
 美味しい朝ごはんと、時折向けられるキサラギのやさしい視線を感じながらの朝食は、今までの人生の中でも、指折りに幸せな時間だと断言できる。

 同時に、全部夢なんじゃないかとも思う。
 キサラギと体を重ね、二人っきりで食卓を囲む。まるで夫婦か恋人の様な状況。
 昨日まではあり得ないし、考えられない状況だからだ。

 彼女は、この状況に付いてどう思っているのだろう。俺と同じなのか、それとも違うのか。
 聞いてみたいが、否定されるかもしれないと考えると勇気が出ない。
 昨日のセックスは、彼女の試練に合格した、ただのご褒美にしか思ってないかもしれない。
 結局、彼女の口から俺に対する愛情を表す言葉は結局聞けなかった。

 でも、今はそれでいいのかもしれない。
 この貴重な瞬間を、何も考えずに享受しよう。

 ゆったりとした、楽しい食事の時間が終わると。名残惜しさを食器と共に片付け、俺達は旅支度を整える。
 建物を出ると、昨日の雨が嘘みたいに思える程に澄み渡った、綺麗な青空が出迎えてくれる。

「いこ……ドゥーエ」

 先に歩き出したキサラギが、こちらを振り向いて小さく笑う。
 これからも旅は続く。いつか、彼女の心を知る機会はきっと訪れるはずだ。

 昨日よりもキサラギを近くに感じながら、俺達は共に歩き出した。
13/08/18 18:17更新 / ゴミ貴族

■作者メッセージ
ワールドガイド2の押し絵の刑部狸ちゃんが睡姦したくなっちゃうくらい可愛かったので文に起こしてみました。
最初は手を出して“傷物にされた慰謝料は体で”と言う話で書き始めましたが、いつの間にかこうなりました。

こんな性格した刑部狸は刑部狸じゃないとの意見もありそうですが、これも一つの可能性なのだと思ってご容赦を。

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