読切小説
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ワンダーランドの一つの外形
 白い世界に、色が生まれる。

 色はピンク。

 靄めいた夢の世界から、物語は始まる。




「ようこそ、ワンダーランドへ」

 淫靡な声が響き、少年は驚いて辺りを見回す。

「ここは夢の国、

 入り込んでしまったら二度と抜け出すことはできない、

 淫猥で、

 煽情的で、

 直情的な――

 くだらないバケモノたちが跋扈するワンダーランドさ」

 つい先ほど、平和な家のベッドの中で眠りについた少年は目を白黒させる。

「ああ、何も理解できない、といった顔だね――

 好きだなあ、その顔。

 おっと、つい本音が漏れてしまった。

 なに、そのまま私についてきてくれればいいのさ。

 まずはこの世界を、君の気の済むまで案内してあげよう」

 声だけの存在に、どうやってついていけばいいのだろうか。

 少年がそう思った途端に、中空に尻尾が現れた。

 尻尾は揺れる。

 少年を惑わすように、

 誘うように。

「じゃあ、行こうか」

 少年と尻尾は、そしてセカイを歩き始めた。



 尻尾の言ったことは、すぐに理解できた。

 濡れた蛙の女、晴天から雨の降りしきる台地に住む蔦の女、塔に幽閉された美しい王女の幽霊、彼女達は例外なく、強引に少年を犯した。

 尻尾はそのたびに少年の耳元に現れ、囁いた。

 君も、したいんだろう?

 いけない子だね。

 でもいいんだ。

 好きにするがいい。

 なにせここは、そういう世界だからね。



 少年は淫靡な声にあてられて、次第に全てを受け入れるようになっていった。



「ああ、楽しい――楽しいけれど、楽しいけれど、私も――」

 少年が魔物と交わるたびに、尻尾がうねった。




 尖塔の突き出た巨大な城を眼前にして、小高い丘が現れた。

 丘の上には巨大な白いパラソルがあり、白いテーブルの上には紅茶が置かれていて、白い椅子にはこれまた巨大な帽子を被った女性が腰かけていた。

「おや」

 いつの間にか尻尾だけではなく、全身を現していたチェシャ猫が呟いた。

「帽子屋がいる。まずいな、私はアイツと敵対していてね。すまないが、外させてもらうよ」

 少年が止める間もなく、チェシャ猫の姿は掻き消えた。

 帽子屋が彼を見つけ、手招きした。

 少年が近寄っていくと、帽子屋はいきなり少年に口づけした。

 僕の唾液は美味しいかい?

 美味しいです、と少年は答える。

 帽子屋はひざまづいて、少年のズボンを下ろす。

 少年とは思えないほどだ――いただきます。

 帽子屋の口内に、それは飲み込まれる。

 彼女の顔が動く度に、下腹部に快感がこみあげてくる。

 少年は耐えられず、帽子屋の大きな帽子を掴んで、さらに激しく彼女の顔を前後させた。

 帽子屋はくぐもった歓喜の声をあげ、さらに口内で彼をねぶる。


 
 しばらくして、少年は射精した。

 そして、帽子屋は性欲で真っ赤に染まった顔で、少年を押し倒すのだった。



 一日中交わり、少年が丘を降りることを許されたのは、次の日の夕方だった。

「やあ、終わったかい? 疲労困憊のようだけれど、帽子屋はそんなに激しかったのかな」

 少年の前に、チェシャ猫が現れる。

 もう尻尾だけではなく、全身を現している。

 チェシャ猫はなんとなく、もぞもぞしている。

「やあ、他の女と交わるのはいいのだけれどね」

 きょとんとしている少年に、チェシャ猫は苛立つ。

「つまりだね、君は、何か忘れていないかい?」

 忘れていないと思う、と少年は答える。

「ああ――ああ、わかった!」

 ついにチェシャ猫は少年を抱きしめて言った。

「交わろう」

 それから、彼らは昼も夜もなく性交をした。

 様々な体位を試し、様々な性技でチェシャ猫は少年を翻弄した。

 そして、一年間が過ぎ、晴れて二人はハートの女王の前で夫婦となる。

 

 これは、夢の世界に迷い込んだ、ある一人の少年の話。

 けれど、チェシャ猫は一匹ではなく、夢を見る者の数だけ存在する。

 だから次は、このお話を聞いてしまった君の番かもしれない。

 しかしひとまず、今晩はここまでにしておこう。

 またアリスの夢で、君と会えることを祈っているよ。
16/02/17 12:41更新 / 戸枝

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