読切小説
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とある現代で生きる魔物娘の日常
青年は寝ていた。
気持ち良さそうに寝息を立てて、布団にくるまりながら。
そんな時男に耳に耳障りな音が入る。

「んん・・・。」

男はその音の原因を止めようと布団から手を伸ばし探っていく。
探っていく内に手にその音の原因らしき物に手が触れる。
男はそれがいつも鳴り響く目覚まし時計ということを知り、いつも通りにスイッチを切る。
そして再び寝ようとした時に、男の耳にまた音が入る。しかし、今度は耳障りな音では無かった。

「克己〜!高校に遅れるわよー!」

母親の声だった。その声を聞いた河村克己(かわむらかつき)は再び眠るのをやめ、布団から出る。
一階に降りた克己が目にしたのは、母親が作ったの目玉焼きと味噌汁だった。

「早く食べて、支度しなさい。」

そう言われた克己は食卓に座り、箸を持つ。
食べる前に「いただきます。」と言って、飯を食べる。

「父さんは?」

「もう行ったわよ。」

克己の父は大手の企業に嘱しており、そのため朝、克己よりも早く家を出るのだ。
「ほら、あんたも早く着替えなさい。千尋ちゃんも待ってるわよ。」

「マジかよ。それは早く着替えて行かなくちゃな。」

それ聞いた克己は目玉焼きと味噌汁を平らげ、学生服に着替え、家の玄関まで行く。

「忘れ物はないわね?」

「うん、それは昨日の夜に確認したし、大丈夫だよ。」

「そう。じゃあ、気をつけてね〜。」

「うん、いってきまーす。」

そう言って玄関のドアを開く。そこには同級生であり、恋人であるが松永千尋(まつながちひろ)居た。

「ごめん、待ったか?」

「ううん。全然待ってないよ。」

「そうか。じゃあ行くか。」

「うん。」

そう言って、克己と千尋は寄り添いながら学校まで歩き始める。
さて、文章にすると何気ない二人の学生のカップルが学校まで歩いている風景である。
しかし、千尋には人とは違う点があった。
それは、下半身が蛇であることだった。
そう、彼女は「魔物娘」だったのだ。


なぜ克己が魔物娘と付き合う事になったのかというと、単純な一目惚れなのだ。
克己は親の都合で引越を余儀なくされ、都会から辺鄙な地方へと引越をしてきたのだ。
そこで荷物を下ろしている時に隣から見つめる一匹の魔物娘、それが千尋なのだ。
偶然にも克己はその時千尋と目が合い、その美しさに惚れていった。
その時、千尋も克己に惚れ込んでいった。
二人は互いに意気投合し、現在に至るのである。


克己と千尋は通学路を行きながらこんな話をしていた。

「今日も暖かいね〜。」

千尋は目を瞑り、暖かい日差しを体全体で受けるように両手を伸ばす。

「ああ、そうだな。そういやお前、冬嫌いだったもんな。」

「そうだよ〜。冬は寒いし、足が凍りついちゃうよ〜。」

「足・・・?足って言うのかそれ?」

「私の中では足なの。」

「なんだそりゃ。」

克己は笑いながら突っ込みを入れる。
「ねぇ、克己?今日の放課後空いてる?」

「ああ、空いてるぞ。」

「じゃあ、ちょっと付き合ってほしい事があるの。」

「了解〜。」

そんな他愛もない話をしながら、高校へと向かって行った。


学校に着いた克己は自分のクラスへと向かっていった。

「よう。おはよう。」

「おはよう、充。」

声の主は、親友である山下充(やましたみつる)だ
彼はこの高校で唯一の友達であった。
「今日も松永さんといちゃいちゃしながら来たのか?」

「いちゃいちゃって何だよ。それにお前だって彼女はいたろ。」

「ああ、今日も二人寄り添って来たぜ〜。」

「何だその自慢。」

克己はそんなことを話ながら鞄に入れた物を机の中に入れていった。

昼休みになった途端に千尋は克己がいるクラスに向かっていた。

「克己〜!いる〜?」

「ああ、いるよ。」

「一緒に屋上でお弁当たべよ〜!」

「分かった!ちょっと待ってろ〜。」

そう言い、克己は自分のバックからお弁当を取り出す。

「ヒュ〜!うらやましいね〜!」

「お前だってそういう相手がいるだろ。」

「そうだな。もうすぐ来るはずだが・・・。」

充がそう言った途端、クラスに大きな声が響く。

「充ー!一緒に食べよー!」

「ああ!すぐ行くよ!じゃあ、また後でな。」

「はいはい、いってらっしゃい。」

充は彼女のワーウルフの西村照美(にしむらてるみ)の方へ向かっていった。

「俺もこんなことしてないで、行かなくちゃな。」

克己はお弁当を持って、屋上へと向かっていった。



「お待たせ、千尋。」

「もぉ〜、遅いよー。」

千尋は頬を膨らませながら言った。

「ごめんごめん、でどこで一緒に食べるんだ?」

「あそこだよ。」

千尋が指を指した先にはレジャーシートがひかれていた。

「あそこか。それじゃ、一緒に行こうか。」

「うん♥」

そう嬉しそうに千尋が言うと、克己の体に蛇の体を絡ませていった。

一緒にお弁当を食べるときはこうしてお姫様だっこをしながらレジャーシートを引いている所まで連れてって貰う事が千尋にとっては何よりも嬉しい事だった。
「こういうのは・・・やっぱりまだ慣れないな。」

「んん?どうして?」

「こんなに美しいお姫様が、こんなに近くにいることがだよ。」

「もう、克己ったら♥」

端から見たらかなりのバカップルぶりだが、この一時が二人にとっては何よりも大好きだった。

「さぁ、着きましたよお姫様。レジャーシートの上に降りてくださいませ。」

「やだ♥克己と一秒も離れたくないの♥」

「ハハハ、わがままなお姫様ですねぇ〜♥」

克己はそう言いつつ、千尋を巻き付かせたままレジャーシートの上に座る。

「今日の弁当は何かな?」

克己は弁当の蓋を開ける。中には美味そうな飯が入ってた。

「うわ〜。おいしそう!」

「そういうお前はどうなんだ?」

「えへへ、見て!腕によりを掛けて作った私の愛妻弁当!」

「愛妻弁当って・・・。俺達はまだ結婚してないだろ。」

「じゃあ、克己は私と結婚しないつもりなの?」

「いや、結婚はするんだけどな。」

「ならいいじゃない♥」

千尋は克己に甘えるように体を傾ける。

「おいおい、弁当が食べられなくなっちゃうじゃあないか。」

「私と弁当どっちが大切なの?」

「そりゃもちろんお前だよ///」

「えへへ〜///」

こんな端から見たら白い目で見られそうな会話も二人にとってはとても幸せ会話だった。
「克己?」

「ん?」

「あ〜ん♥」

千尋はお弁当の具材を箸で持ち、口を開けるようにお願いする。

「あ〜ん。モグモグ・・・。うん、おいしい!」

「良かった〜♥おいしくなかったらどうしようかなって思ってたんだ〜♥」

千尋は心底嬉しそうに体をクネクネさせる。

「はい、お返し。あ〜ん♥」

克己も口を開けるようお願いする。

「あ〜ん♥♥モグモグ・・・。ん〜!おいし〜!」

千尋は嬉しさで笑顔を満開にさせる。

「はい克己。あ〜ん♥」

「あ〜ん♥」

このやり取りはチャイムが鳴るまで続いた。

今日の全ての授業が終わり、克己は帰り支度を始めていた。

「そういや千尋の奴が俺に用があるって言ってたな。早く行かなきゃな。」

帰り支度も終わり、教室を出ようとする。

「よぉ、克己。松永さんから誘われてるのか?」

「ああ、そうだ。お前も西村さんから誘われてるのか?」

「ああ、そうだ。と、こんな時間か。俺も行かなくちゃな。じゃあ、また明日な!」

「ああ、また明日ー。」

そう言って充は教室から急ぎ足で出て行く。

「さぁて、俺も行かなくちゃな。」

自分の荷物を持ち、克己は校門へと向かっていった。

「よぉ、千尋。」

「あ、克己。

校門で克己は待っていた千尋と話していた。
「それで、用ってなんだ?」

「うん、実は・・・。ラミア用のリボンを買いたいと思って・・・。」

ラミア用のリボン。それは今ラミアの中で人気になっているラミアの尻尾の先に付ける用のリボンだ。
とても可愛いと評判があり、ラミアの中では知らない人はいない人気の商品なのだ。
「ああ、あのリボンか。それを俺に選んで貰いたいのか?」

「うん・・・///。」

「でも俺の感性は当てにならないぞ〜。ダサくてもいいのか?」

「そんなの関係無いよ。克己の選んだリボンが良いんだよ。」

「そうか。じゃあ買いに行きますか。」

「うん!」

克己と千尋は二人寄り添いながら、売ってる店へ行った。


「ここかぁ・・・。」

そこはラミア用のリボン専門店「ウラル」。
外見は高級店みたいな感じであり、品格を漂わせている。

「さぁ、克己!早く入ろうよ!」

見とれている克己を早く入らせようと千尋は克己の手を引く。

「ちょっと待ってくれよ。」

千尋がこんなにワクワクしているのには理由があった。
ラミア種用のリボンはラミア達にとっては最高の贈り物であり、好きな人が選んでくれるリボンならば生涯大切にする物であるからだ。

「早く入ろうよぉー。」

千尋は子供のように甘えてくる。

「わかったわかった。じゃあ、入ろうか。」

克己と千尋は店内に入る。

「「うわぁ・・・。」」

中はシンプルだがとても綺麗な内装であり、様々なラミア用のリボンがガラスケース内に置かれている。

「いらっしゃいませ。」

そして何よりも驚いたのが店内で働いているラミアのお姉さん方だ。
気品があり、見た者を虜にさせてしまう美しさであった。

「きれいだ・・・。」

克己はうっかりその事を口に出してしまう。

「む・・・。」

そんな事を聞いた千尋は克己の腕を少しつねる。

「イテ・・・。ああ、千尋ごめん・・・。」
「む−。」

千尋は頬を膨らませながらジト目でこっちを睨んできた。

「ふふふ、仲がよろしいことで。」

そんな二人のやり取りを見たラミアの店員が微笑む。

「と、失礼しました。お客様、今日はどんな用でこちらに?」

「あ、ええと・・・今日はリボンを買いに来ました。」

「そうですか。ではこちらへどうぞ。」

店員はガラスケースの近くへと二人を向かわせる。

「では、どのようなリボンの色がよろしいですか?」

「さぁ、克己!選んで!」

「え、いきなり俺に押しつけるのかよ!?」

「だって私じゃ決めかねないし・・・、前にも言ったけど、克己に選んで欲しいの!」

「分かった・・・。どんな色がいいかな・・・?」

克己はカウンター内の様々な色のリボンに目を向ける。

「(赤も良いし・・・、青も良い・・・、それにあの色も似合いそうだなぁ・・・。)」

千尋に合うリボンの色を選ぶために克己は十数分は悩んだ。
「ねぇ?どの色が良いか決めた。」

千尋は克己の顔を覗き込む。

「良し!決めた。あそこのリボンを下さい。」

克己が指を指した先には青色のリボンがあった。

「かしこまりました。少し、お待ち下さい。」

そう言って、ガラスケース内から青のリボンを取り出し、包装をしていく。

その手さばきは見事なもので、あっという間に包装が完成した。

「お待たせしました、お客様。お会計はこちらになります。」

店員が差し出した領収書を見る。

「4000円!?こんなに掛かるのか・・・。」

「あ、克己は払わなくて良いよ!私の方が誘ったんだからさ!」

千尋はバッグから財布を取り出そうとするが、克己がその動きを止める。

「克己・・・?」

「いや、そこは譲れない。女の子に払って貰うなんて、男が廃る。」

「克己・・・♥」

克己は千尋はお互いを見つめ合う

「お客様、もうよろしいでしょうか?」

店員は微笑みながら二人に話しかける。
「「あ・・・、すみません。」」

二人は息の合った謝り方をし、三人は互いに笑い合った。


克己と千尋は家に帰る間、こんな話をしていた。

「ねぇ、克己。克己は何で青色が良いと思ったの?」

「んー。お前は青色が似合うかと思ってさ。

「え−、そんな簡単な理由なのー?他には無いの?」

「他にはって・・・。お前、昔から青色好きだろ?」

「あー、覚えてくれたんだー!」

千尋は嬉しそうな声色で声を上げる

「当たり前だろ?お前の事を忘れたりするわけないだろうが。」

「ふふふ・・・。嬉しい!」

千尋はそう言って克己の体に巻きつき、お姫様だっこをするようせがむ。

「おい、千尋!」

「いいじゃない。あんたもまんざらじゃないんでしょ?」

「ハハ、そうだな。」

互いに笑い合う。その尻尾には青色のリボンが着いていた。

13/11/09 00:13更新 / こりき

■作者メッセージ



初めまして、korikiと申します。
魔物娘の魅力に惹きつけられクロビネガを見ていたのですが、自分もSSを書きたいと思い、SSを書いた所存であります。
しかし、SSというのは難しいですね。
見ている側だったので、書き手側になってみるとその苦労が身に染みて分かります。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。

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