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アフィリエイト記事を馬鹿正直に信じた結果〜サキュバス√〜
◆突然ですが、アナタは淫魔・サキュバスという存在を知っているでしょうか?夜な夜な男の枕元に立ち、淫夢を見せ精液を盗む低級の悪魔とされています。他にも、女を孕ませ悪魔を産ませるインキュバスと対になっていたり、本当の姿は醜い老婆だとされています。今回は、そんなサキュバスの目撃情報や呼び出し方について詳しく調べてみました。

〜中略〜

◆目撃情報や呼び出し方について調べてみましたが、分かりませんでした。いかがでしたか?今回はサキュバスについて調べ(((バン!!!!!!!


「クソがぁっっっ!!!!!!!」

…ホームページを眺めていた男は、怒りのあまり拳をデスクに叩きつけた。その後腕を投げ出し、萎びたように突っ伏した。その衝撃で机に置かれたパチモノの髑髏が床に落ち、カランと軽い音を立てる。机とPCの他に最低限の生活家電が置かれたワンルームは、出し忘れた生活ゴミと、怪しげな黒魔術の本と、それを実践したであろうラクガキや残骸が散乱している。
彼の名前はヤマオカ ケイスケ。サキュバスに会う為に、こんな哀れな事を数年は続けている。

控えめにいって彼はモテないどころか嫌われている。しかしそれ以上に彼は人間が嫌いだった。アニメやゲームの世界で織りなす美しい友情やドラマチックな恋に比べ、現実はあまりに腐っている。四六時中ネットに没頭していた彼は、そこでこの世の人間は愚かで馬鹿な人間ばかりだと「悟り」を得たのだ。
…しかし、人は自分の愚かさを自覚して初めて前に進む事ができる。プライドが高いこの男はそれを頑なに拒み続けた。自分の無力さを突きつけるものは、俺には必要ないものだと全て切り捨てきた。滑り止めで入った私大を中退し、親の仕送りだけで暮らすようになってからも彼は現実など顧みない。今もこうして築50年のアパートの一部屋で、黒魔術の研究に没頭している。

サキュバス。
人ではない女。
彼がこの幻想に取り憑かれたのは、ニートの彼が珍しく外に出た日の事だった。

…あり得ないものを見た。
角と翼の生えた女が、空を飛んでいたのだ。ゲームのやりすぎを疑ったが、彼はたしかに人ではない女を見た。遠くからたった数秒だけだったが、彼の網膜には、その人ならざる美貌が焼きついて離れなくなった。


…その日、彼は世界に希望を見出した。

彼はネットの人脈を駆使したり、それらしい本を借りてみたり、ネットで調べ物をしたりした。しかし成果は芳しくなかった。そもそもこの男は、自分の無知を認めるよう事は決してないので、調べ物などした事がなかった。どうすれば欲しい情報にありつけるかなど見当もつかなかったのである。彼に出来るのは、「サキュバス」「淫魔」「悪魔」と言った単語をPCに入力し、それらしいページを片っ端から開く事くらいだ。そして、何の情報もないアフィリエイト記事を次々踏んではキレる、を繰り返しているのだ。当然、申し訳程度に書かれた情報の信憑性など言うまでもない。しかし、そんなものに縋りたくなるほど彼は追い詰められていた。
僅かにいた友人にも本格的に愛想を尽かされ、親にはいいかげん働けと泣かれ、彼の拠り所はもうそれしか無かったのだ。…やっぱり見間違いじゃないかと何度も思ったが、もう引き返せなかった。認めてしまえば、希望のない生活に逆戻りする事になる。そんなの死ぬ方がマシだった。

…顔を上げ、PC画面と睨めっこを再開する。
ゲームや漫画のキャラ、アフィリエイトサイトと思われる候補は飛ばしながら、彼は検索画面を下へ下へと降りてゆく。

「……ん?なんだよこれ?」

今まで見た事ないURLだった。見出しは『本当にサキュバスと出会う方法』。如何にも胡散臭い、アフィリエイト記事のようだ。そのままスクロールしてしまおうかと悩んだが、少し興味が湧いた。試しに、そのURLをクリックした。
…展開されたのは、アフィリエイト記事にありがちなフォントと、それらしい雰囲気のフリー素材が貼られた、よくある作りのサイトだ。

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★貴方は、サキュバスをご存知ですか?サキュバスとは、角と翼、尻尾が生えた女性型の魔物です。空想上の存在だと思われているサキュバスですが、今回は、そんなサキュバスとの出会い方をご紹介します。

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…いきなり胡散臭い始まり方だ。しかし、なんだか他のサイトと違う気がする。あくまでも情報サイトのコピペみたいな内容の他記事と違って、書いてある内容が随分具体的だ。それに「出会い方をご紹介します」なんて言い方は他のサイトなんかではしていない。微かな期待を胸にページをスクロールする。


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★ますはじめに、このサイト以外のあらゆる記事は間違っているので、この記事以外は信じないで下さい。サキュバスは人が大好きで、愛に溢れた種族です。

【貴方が私の言う事を信じ、私の言う通りにするなら、そのまま下にスクロールして下さい。】

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…いきなり衝撃の文言が出てきた。他記事が間違ってると明言するアフィリエイトサイトなんか初めて見たし、サキュバスを「種族」と言い切っている。この記事を書いている奴は何者なんだろうか…
どのみち今はこのサイトの言う事を信じるしかない。他に手掛かりは見つからないし、このサイトは謎に説得力がある。信じてみる事にした俺はページのスクロールを再開した。


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★この文を見ているアナタは、私の言う事を信じてくれたという事ですね。
それでは、サキュバスとの出会い方を説明します!

1.アピールしよう!
サキュバスは愛に溢れているので、見た目に関係なくほぼ全ての男性が恋愛対象となります。しかし裏を返せば、アナタは大勢の男性の中の一人でしかないという事です。
そこで、貴方がどれくらいサキュバスが好きかアピールしてみましょう!サキュバスの為に痩せてカッコよくなるのもいいし、サキュバスへの愛を叫ぶのも良いかも知れません。貴方がサキュバスの為に努力する姿は、彼女達にとって魅力的に映るはずです!貴方の努力を、彼女達は必ず見ています。

2.人の多い場所に行こう!
サキュバスは人間のフリをして過ごしているので、人が多い場所にはサキュバスが居る事があります。学校や繁華街、お店だけでなく、アパートやマンションにもいるかもしれません。これは、サキュバス側も理想の男性を見つける為に、人の多い場所に潜んでいる事があるからです。

3.アタックしよう!
サキュバスへのアピールが通じた場合、彼女達から話しかけてくるか、アナタが彼女達と出会うように仕向けてくる場合が多いです。しかし、彼女達はすぐに正体を見せません。彼女達は人に隠れて暮らしているので、存在が露見する事を恐れているからです。
そこで、「この人サキュバスかな?」と思ったら、貴方から彼女に積極的に距離を詰めて仲を深めましょう!彼女達は一途な上に自分への好意が大好きなので、あっと言う間に深い仲になれます!彼女達は皆とても美人なので、人間の姿をしていても気付きやすいと思います。ただし、彼女達に断られた場合は身を引きましょう。他に好きな人が居る場合、一途な彼女達は決して貴方に恋する事はありません。


◆いかがでしたか?今回は、サキュバスとの出会い方についてまとめてみました。ここまで読んでくれた貴方に、素敵な出会いがある事を祈っています。

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…記事を全て読み終えたが、あまりの荒唐無稽さに頭を抱える。サキュバスが人間のふりをして暮らす?一途で愛情深い??まるでエロ同人を砂糖漬けにしたような内容だ。ここまで馬鹿げていると怒る気も失せる。
しかし…今の自分は、これを嘘だと切り捨てる事ができない。むしろここに書いてある事を片っ端から試したい気分だった。恥もプライドも、今となってはどうでもよい物に感じた。
…とりあえず、明日から少し外に出る事から始めようか。


…………

そこから一年、彼はまるで別人のようだった。朝早く起きてランニングと筋トレをし、河川敷でサキュバスへの愛を叫ぶ毎日を繰り返した彼は、これまでにないほど充実した日々を送っていた。
運動で活動的になった彼は自発的に部屋を掃除し、石鹸で顔を洗い、ボサボサの髪を整え、髭を剃るようになった。生活習慣が改善され朝起きれるようになったのでバイトを始め、滞納気味だった家賃も返済した。他人を見下したり、物事を斜に構える癖を辞めるように心掛けたので、バイト先で無難な人間関係が築けた。自分がしてきた事を昔の友人達に謝罪し、数人だがよりを戻す事ができた。

…どれも、昔の彼にはできなかった事だ。彼はサキュバスに出会いたい一心で自分と向き合い、前に進もうともがき続けた。それはかつて、彼自身が馬鹿にしてきた人間像そのものだったが、彼は満足していた。サキュバスには出逢えなかったが、あのサイトは彼が現実に立ち向かうきっかけをくれたのだ。

「俺はサキュバスが好きだ〜!!!」

…今日も彼は河川敷に向かって愛を叫ぶ。自分が変わるきっかけをくれた、感謝の気持ちを込めて。この世界の何処かにいるであろう、あの日見た彼女に届くように。

その姿を少し遠くから、翼と角の生えた黒い影が見つめていた。


…………

あれから数ヶ月。今日も彼は、ジョギングをして河川敷に向かう。そこで筋トレをしてから、サキュバスへの愛を叫ぶのだ。
…かつてはニートで社会不適合だった彼の面影は無い。今は親からの仕送りの額を減らし、バイトを掛け持ちして暮らしている。

「よっケイスケ、今日もやってるようだな」
「おはようございます、大家さん」
「おい、大家は止めろってワタシいったよな?ちゃんとアラタって名前で呼んでくれよ。」

そういえば少し前に、アパートの大家が変わったのだ。彼女は「兵藤 新(ひょうどうあらた)」さん。知り合って日は浅いが、生活費がカツカツの時は家賃を立て替えてくれたり、時々ご飯をご馳走になったりと、よくお世話になっている。
何より彼女は、目の醒めるような美人だ。眉だけ描いた化粧、簡素なヘアゴムで後ろで括った黒い長髪、スポーツブランドのラフなジャージ上下にクロックスという格好にも関わらず、その簡素さが却って彼女のルックスがとんでもない事を教えてくれる。すらりと高い身長に8頭身の身体、髪は艶やかできめ細かく、勝ち気な笑顔はどこか妖艶で妖しい。そして…ダボダボのジャージの上からでも分かる大きなバスト。何でこんな人が、自分のようなしょうもない人間に親切にしてくれるのか分からない。或いは、自分は前世で蜘蛛でも助けたのだろうか。

「そういえばケイスケ、お前がいつも河原に向かって叫んでるアレ、一体なんなんだ?」
「ああ…まあ、話すと少し長くなるのですが…」

自分はアラタさんに、昔の出来事を話した。

「…じゃあお前は、偶然見かけたサキュバスと、そのサイトをきっかけに変わったのか。」
「はい。結局、サキュバスには出逢えずじまいでしたが…感謝してる事には変わりありません。あのサキュバスは、僕の恩人なんです。」
「恩人…ねぇ」

彼女は暫く、何かを考えているようでした。
そして、

「ケイスケさ、午後時間あるか?少し相談があるんだが」
「大丈夫ですよ。今日はシフト休みですから。」
「なら良かった。じゃ、後で私の部屋まで来てくれ。」

アラタさんはそう言って別れた。
…この時点で自分はまだ気づいていなかった。サキュバスとは出逢えなかった訳ではなく。
…ごく最近まで、自分の前に現れなかっただけだったのだと。


…………

午後になって、アラタさんの家を訪ねた。

「まってたよケイスケ。さ、早く上がりな。」

彼女は笑顔で迎えてくれたが、不意に本能が警鐘を発した。このまま彼女の部屋に入るのは危ない。入ったら最後、取り返しのつかない事になる。そんな予感がした。

「…大丈夫だよ、君が嫌な事は何もしないから。」

そんな様子を察したのか、アラタさんは優しい笑顔でそう言った。笑っていたが、少し悲しげだった。
…彼女に続いて、僕も靴を脱ぎ、部屋に上がる。

「…ケイスケ。さっきの話だが…もし、あの日見たサキュバスに今会えるとしたら、君はどうする?」
「えっ…?」
「そのサキュバスを、多分私は知っている。しかし、君に会わせるべきか分からない。」
「それは…どうしてですか?」
「君もそのサイトとやらを見たなら、サキュバスの性質は知っているはずだ。もしも君がそいつと出逢えば、君はまずそのサキュバスのモノになる…知っているか?サキュバスは、一生に一度の夫を求めて、人の世界に潜伏しているんだ。」
「一生に…一度…」
「そうだ。サキュバスの夫になれば、君は二度と解放される事はない。人間を辞める事になるというオマケ付きでな。」
「人間を…辞める!?」
「…ああ。サキュバスの与える快楽は人間には耐えられない。だから夫となる人間を、サキュバスは魔力を注いで魔物に変えるんだ。」
「そう…なんですか。」

それは知らなかった。もし自分が彼女と出逢えば、人間を辞める事になる。彼女と同じ、魔物になるそうだ。

…それでも。

「…彼女に、逢いたいです。」
「……いいのか?後戻りは二度と出来ないぞ。」
「はい。というより、本来はそれ目的で頑張ってましたから。」

些細な事だ、人間を辞めるくらい。
そもそも、得体の知れない化け物ならまだしも、彼女と同じ存在になるならなんの問題もない。

「そうか、わかった。」

彼女はふう…と息を吐くと、

「いや脅かしてすまなかった。実は、そのサキュバスというのは私なんだ。」

あっけらかんと、衝撃の事実を伝えた。

「ああ〜…なるほど。」
「な、何だその反応は。言っておくがドッキリとかではないぞ。」
「いえ、むしろ納得したというか…言われてみれば…みたいな?」

でも驚くというより、なんだかいろいろと納得してしまった。彼女がこんなボロアパートの大家になったのも、僕の世話を焼いてくれたのも、その人外じみた美貌も。
…あのサイトの一文を思い出す。
『貴方の努力を、彼女達は必ず見ています』

「…ずっと僕を見守っていてくれたんですね、アラタさん。」
「なんだか調子狂うなオマエ。元の姿を見せる前に、納得していいのかよ。」
「えっ、見せてくれるんですか?」
「そういう流れのはずだったのに、オマエが妙に理解が早いから見せそびれたんだよ。ホラ、よく見てろ。」

…そう言って彼女は服を脱ぎ始めた。腕をクロスさせ、見せつけるようにゆっくりと。
…下には何も着ておらず、ジャージを脱ぎ去ると彼女の素肌が全て僕の前に晒された。
彼女が何か呪文を唱えると、腰のあたりから翼が這い出してきた。頭部から角が生え、最後に尻尾が出てきた。

「これで全部だ。感想はあるか?」
「…すごく綺麗で…エロいです…」

長年網膜に焼き付いていた彼女の裸体を目の前に、ただ惚けるしかできなかった。しかしそれで充分だったらしく、彼女は恐ろしく淫らな笑みを浮かべた。
…それは今まで見た事のない笑み、恐らく自分の夫だけに見せる表情なのだろう。

「…本当はな、ずっと怖かったんだ。正体を明かしたら、オマエに拒絶されるんじゃないかって…再三警告したのに、オマエは逃げなかった。安心しろ…後戻りは出来ないが、この快楽を知った後に戻りたいなんて思えないくらい、滅茶苦茶に犯してあげるからさ……♡」

…僕はもう、彼女の夫になるしかないのだ。こんな顔をされたらもう、彼女からの快楽を待ちわびる事しか出来ない。

…こうして僕は、彼女のものになった。


後日、あの記事に感想をつけようとしたけれど、既に読めなくなっており、代わりにこんな一文が表示されていた。

「◆お幸せに♡」
23/07/26 04:59更新 / 飢餓

■作者メッセージ
はじめまして、きがと申します
小説初挑戦でしたが如何でしたでしょうか?他作者様の作品を読んでるうちに自分でも妄想がポンポン浮かびます、「いっそ形にしてしまえ!」という事で、元から練ってたネタのサキュバス版を思いついたので、突貫工事で一日で仕上げてみました
後半の申し訳程度のエロ要素は、文章力的に無理で泣く泣く中途半端な描写になってしまいました
僕の脳内では、あの後二人は1週間くらいぶっ続けでヤッてる事になってますが、その辺出力出来ないのが悔やまれる…
ともあれ、とりあえず一本形に出来たので満足です

お見苦しいとこはあると思いますが、どうぞ宜しくお願い致します

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