読切小説
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勘違い男と喋らないマンティコア
雨が降っている。
洞窟の入り口でそう認識した男は、背後から聞こえる唸り声の主をできるだけ刺激しないようゆっくりと振り返った。

「.....ちょっと空模様を確認しただけだよ...別に、どこかに行こうなんて思っちゃいないさ」

優しく、そして静かに男は語りかける。
そうしたところで「彼女」が俺の言い訳を正しく理解してくれているかどうか。
口には出さずに頭で呟いた男は短く息を吐き、苦笑いを浮かべた。
言い訳と苦笑いに応えるかのように、洞窟の闇から鋭い何かが飛んでくる。
男は自身の身体に深く刺さったそれを目にし、顔を歪ませる。
それはトゲだった。
突如猛烈な射精欲求が男の身体を襲う。
最早言葉にならない雄のうめきが食いしばった歯の隙間から漏れだし、男は膝の震えに耐えきれず前のめりに倒れる。
男が洞窟内部の固い地面に倒れ伏す寸前、何者かが男の身体を支える。
少しの刺激でさえ我慢することができないほど火照りきった身体の男は、男を抱き締めるその何者かが与える柔らかい感触に必死に耐えながら顔を上げた。
男が目にしたのは、快楽に歪む男の顔が待ちきれないといった、いやらしい笑みを浮かべるマンティコアの顔だった。





新たな魔王の誕生、それにより魔物が魔物娘へと変化した世界。
ある日男は近所にある森の中を散歩していた。
この辺で生活している魔物娘は伴侶を手に入れた者がほとんどであり、そのことをよく知っている男は、遠くの方に見える切り株に座り肩を寄せ合っているマンティスとその夫と思われる男性の姿を見ては微笑んだ。

「ははは、今日も平和だねぇ」





しばらくして男は迷った。
好奇心に勝てずいつもとは違う道を選んだのが運の尽き、深まる緑が男の不安を煽る。
慣れ親しんだ森だから心配はいらない、と考えた少し前の自分に対しほら見たことかと言いたい男だったが、空に唾を吐くのはおかしな話だと一人納得し、とりあえず道なりに進むことにしたのだった。
しかし現在男がいると思われる場所は馴染みの森ではなくどう見ても山岳地帯、危険な魔物娘に遭遇する確率の高い場所だった。

「参ったな、ちゃんと帰れるかな...ん?」

進んだ道の先で男は妙なものを発見した。

「なんだ...?」

“それ”は大きな網に包まれ、激しく動いていた。
一見する野生動物か何かが罠にかかり、抜け出そうともがいているように見えた。
男は近くの草むらに身を隠し、様子を伺う。
網の中で暴れているそれが何なのか、男は目を凝らす。

「おいおい...嘘だろ」

網の中身を理解し、そして驚愕する。
それは野生動物などではなかった。
一際目を引く禍々しいトゲの生えた尻尾。

「マンティコア...」

今の世においても人を食らうと恐れられている魔物娘。
その性格は過激で凶暴、とにもかくにも良い噂を聞かない魔物娘だった。
正体が分かったところで男に新たな疑問が浮かんだ。

「しかし変だな、魔物娘の中でも知能が高く狡猾でおまけに札付きの意地悪...前にマンティコアについて聞かされた時はおっかないと思ったもんだが、今初めて見る身としてはどうも信じられないな」

見たところその罠は単純な狩猟用の罠であり、男はマンティコアが簡単に引っかかるとは思えなかった。
男が悩む間ももがくマンティコア。

「うーん....はっ、もしや!」

男はマンティコアに近付く。
先程考えたマンティコアは人を食らうといった内容が消え去り、頭の中を一つの可能性が支配していた。
好奇心が男を動かした。
接近者に気付いたマンティコアが睨みながら尻尾のトゲを男に向ける。
心なしかその動作は弱々しい。
それを見た男は確信する。

「君、ひょっとしてどこか怪我してないか?」

無言。
マンティコアは一言も発すること無く男を睨み続ける。

「...なあ、どうなんだ?どこか痛むのか?」

またしても無言。
マンティコアは男の様子を見ているようだった。

「...まさか、言葉が通じない?そんな馬鹿な、人語の伝わらない魔物娘がいるはずが...いや待てよ、実際にマンティコアを見るのはこれが初めてだ...マンティコアはそういう魔物娘で、もしそうだとしたら...」

男が何か呟き声を聞きながら、マンティコアは呆れた顔で尻尾を地につけた。

「...よし、マ、マンティコア!俺は敵じゃないからな!...あ、伝わらないか...とにかく!まずはその網をなんとかしよう!」

両手を上げ近付く男を、マンティコアの赤い目が見つめ続けた。





「やっぱり怪我してたんだな...これでよし」

網から解放されたマンティコアの傷を処置し終えた男は、使用した道具を鞄の中にしまい込んだ。

「...見たところ剣で切られたような傷だったけど、君...何かやらかしたのか?」

男の言葉にマンティコアはつまらなそうに顔を背ける。

「...まあ、大方反魔物派か教団の人間辺りに襲われたんだろう...災難だったな」

男が犬か猫を撫でるかのようにマンティコアへと手を近付ける。
尻尾が軽く振られ、男の手が払われる。
「うお、危ないな...まあ勝手に触ろうとした俺が悪いな...すまない、許しておくれ」

マンティコアは相変わらず無言だったが、急にその場で立ち上がる。
身体を寝かせていたので分からなかったが、自身の背丈より頭一つ分大きいマンティコアの長身に男は後ずさる。

「....あ!家に帰るのか? だったら俺もついていく、怪我人一人で歩かせる訳にはいかないからな」

男は医者でもなんでもなかったが、目の前のマンティコアが怪我をしていることを知っているため、見過ごすことはできなかった。
マンティコアはもとよりそのつもりだとでも言うように、男の背中を尻尾のトゲでつつきながら歩き始めた。

「だから危ないって!」





「良いお住まいだな」

男はそんなことを呟く。
マンティコアは当然反応しない。
マンティコアの住処と思われる洞窟の前に二人は立っていた。

「しかしまあ、何事もなく到着できて良かった...では、さらば」

そう言って男は振り返る。
そして尻餅をついた。
目の前に突きつけられたトゲに驚いたからだ。
マンティコアはトゲだらけの尻尾を男に向け、洞窟に入るよう促す。

「いや、帰るから...その物騒なものを下げてくれよ」

男が右に避ければ右に、左に避ければ左にと尻尾の狙いは男から少しも外れなかった。
ここで男は思い出す。
マンティコアは人を食らう魔物娘であることを。
少しずつ顔が恐怖で染まりつつある男の様子を、マンティコアは心底楽しそうな表情で眺める。

「...なるほど」

しかし、自身の後方を見て表情を明るくする男にマンティコアは困惑の表情を示し、自らも後ろを向いた。
後方の空では既に日が沈みかけ、夜の到来を予告していた。
再び前を向いたマンティコアは男が自ら洞窟に入ろうとしているのを目撃し、首を傾げた。

「そういうことだったのか、マンティコア」

男が喋り出す。

「このまま帰すと俺は確実に夜道を歩くことになる...だから一晩泊まっていけと、そうだろ?」

名推理と言わんばかりの誇らしげな顔でそう言い放つ男と、反対に頭が痛いと意思表示するかのように頭を抑えるマンティコア。
そんなマンティコアを見た男は慌ててマンティコアに近寄る。

「どうした!?今度は頭が痛むのか?」

なんでもない、お前の言う通りだ、さあ早く入れ。
マンティコアはまるでそう言っているかのように男の身体を反転させ、両手で男の背中を押し洞窟の入り口へと近付いていく。

「おっとっと...お邪魔しまーす」





マンティコアに誘われその住処に入ったすぐ後、男はマンティコアのトゲの餌食になった。
突然の出来事に困惑し膝をつく男は、笑みを浮かべ近付いてくるマンティコアを一瞥すると、自身の未来を想像して死を覚悟した。
しかし、待っていたのは暴力的なまでの快楽をひたすら身体に覚え込まされる日々。
幾度となくトゲを身体に突き刺され、尻尾で限界まで精を搾り取られる。
一度そうなってしまえば男自らの手でもその尻尾を使い事を行ってしまう始末。
それも毎日、そんな生活が一ヶ月を過ぎようとしていた。
その日も激しく搾り取られ疲れ果てた男は、マンティコアに抱き枕のようにされ眠りについていた。
男はいつものように夢を見ていた。
男がこの夢を見るようになったのはこの生活が始まってすぐのこと。
内容は毎度変わらず、輪郭のぼやけた女性が男に語りかけてくるという内容だった。
男は口を開くことができず、ただその女性の言葉に耳を傾ける。
愛してる、大好き、絶対に離さない。
そんな言葉がいつも耳に届く。
男はとても困惑していた。
自分がこれ程まで女性から愛の言葉を囁かれたことがあっただろうかと。
いつあの性的な意味で凶暴なマンティコアに全てを食らい尽くされてしまうかも分からない日々、そんな日々を過ごす男が自分の精神を支えるために見せた仮初めの夢。
男はそう結論を出していた。





「お願いします、俺を家に帰してください」

地に膝をつけ頭を下げつつ男がマンティコアに懇願する。
そんな男を腕を組みながら見下ろす。
今まで勝手に洞窟から出ようとして見つかり、例の如く襲われていた男は、例え言葉が分からずとも必死に意思を伝えればきっと大丈夫だと考えた。
この一ヶ月間、マンティコアは男の分身を激しく責めてはいたが、男を雑に扱うような真似はしなかった。
初めは遊んでいるのかただ餌としか見られていないのかと思っていた男も、やがてはそのことに気付いた。
だからこそ男はかけたのだ。
この言葉の通じないマンティコアの良心に全身全霊をかけて己の帰りたいという意思を訴えるということに。
男が頭を下げてから暫く、二人の間に沈黙が流れた。
どれだけの時間が過ぎたのか。
僅か数秒の出来事ではあったが、男にとっては永遠とも思える瞬間だった。
そして、マンティコアが動いた。
その場にしゃがみ込み、男の顎を掴み正面を向かせる。
男はマンティコアの顔を見た。
美女と呼ぶに相応しい端正な顔立ち、その顔が優しげな微笑をたたえていた。
男は確信した。
自分の思いは確かにこのマンティコアに届いたのだと。

「いやだね♪」

「...え?今...」

男は辺りを見渡す。
今の言葉の主を探すために。
だがどれだけ辺りに目を向けても、男とマンティコア以外のの姿を確認することはできなかった。

「...まさか...喋れたのか...?」

「フフ...アタシがいつ喋れないなんて言ったよ...なあ?」

マンティコアはそう言い男を立たせると、そのまま男を抱き締める。

「いや、離してくれよ」

「残念、それは適切な言葉じゃないな」

「えぇ...なら質問いいか?」

「んー...よし、許可しようじゃないか」

「...なんであの時一言も話さなかったんだよ?」

「あの時?ああ...アタシとアンタが初めて出会った記念日のことか」

「...まあ、記念日といったらそうかもしれないが...そうだよ、その時だよ」

「そんなもんあれだ...アンタが何故か一人で早合点してるからな、アタシは良い女だからそれに合わせてあげただけだ」

「くそ、実際良い女だから何も言えねえ」

「...まあそういうことだ...それにしても、アタシの尻尾で犯されているアンタの表情といったら...フフ、堪らなかったなぁ」

「それはお互い様だろ、俺が尻尾で事に及んでいる時の表情もなかなかのものだったけど?」

「...そんなにか?」

「ああ、半分以上はだらしなく緩んだその痴女顔が俺の絶頂を促した」

「はあ?...ち、痴女顔だと?」

「そう...やっぱり普段は綺麗な顔が下品に歪むとこう...くるものがあるな」

「...随分饒舌になったもんだな、アンタ」

「久しぶりの会話だから、いつも以上におしゃべりになっちまってるんだな...ところで、話を戻そう...どうして俺は帰っては駄目なんだ?」

「魔物娘が自分の夫である男を手放す訳がない...当たり前のことだろ?」

「お、夫?俺がか?」

「他に誰がいんだよ、アンタだよアンタ...アンタがアタシの旦那様だ」

「いや訳が分からねぇよ...はっ、まさか...」

「もう何しようが遅い遅い、アタシとアンタは夫婦になったんだよ、つまりもう...」

「人を食らうと恐れられている筈の自分を罠から助けて、あまつさえ怪我の治療を行ったからか?」

「逃げら....」

「だから住処に誘い込んで徹底的に犯し尽くして身も心も自分のものにしようとした...とかか?」

「.........」

「...な訳ねぇよな、だとしたらちょろいとしか言いようがないもんな...俺としたことがすっかり自惚れちまった」

「.......」

「だとしたらなんだ?まったく分からん...」

「.....か...」

「ん?」

「文句あっかぁっ!」

突如としてマンティコアが男を押し倒し、馬乗りになった。

「っ!...おいおい、いきなり何を...」

「うるさい!なんでアンタはそう変なところで鋭いんだよ!?ああそうだよ、アンタの言うとおりさ!あの日不意討ちで教団だかのよく分かんねぇ騎士連中に切りつけられてな!多勢に無勢で分が悪いからってなんとか逃げ出したんだよ!」

(やっぱり予想以上に修羅場だったみたいだな...)

「すげぇくたびれたけどなんとか住処の山まで戻ってきた訳だよ!まあそこまでは良かったさ...だけどな!?へとへとんなって歩いてたらな?どっかのアホが仕掛けやがった罠にかかっちまったんだよ!アタシが何したってんだよ!ああ思い出したら腹が立ってきた!今夜は寝かせねぇから覚悟しておけよ!?」

(とんでもねぇとばっちりだ...)

「はあ、はあ...落ち着きゃいいもんをアタシは焦ったジタバタしてな、怪我もあったから余計に焦ってますます抜け出せなくなっちまってよ...そしたらな...アンタが来たんだ」

(俺が通りかかる前にそんなことがあったのか)

「最初は罠を仕掛けた張本人かと思ったよ、もしくは魔物であるアタシをぶっ殺して手柄にしようとしてる奴かとな」

「殺すなんて物騒な...それに俺にはそんな度胸なんてとてもとても...」

「どの口を言うんだこの二枚舌め...実際、アタシの尻尾を見ても構わず近付いてきただろうが」

「...まあ怖くなかったと言われたら嘘になる、だがそれよりは怪我の方に関心がいってたからな」

「アンタ、知ってたんだろ?アタシ達マンティコアは人肉を貪り食らう魔物だって」

「ああ、まあ今はそれも嘘だって分かったけどな」

「そうさ...そんな情報をわざと訂正せずに流してアタシ達と出会った男が、怯える顔から快楽に悶える顔に変わるのを楽しみにしてるんだ...マンティコアの性ってやつだ」

「さそりの性みたいなあれか」

「だから正直、殺されるかと思った...人を食らう化け物が弱って、しかも身動きが取れなくなっている...まともな奴なら化け物の首の一つでも落とすのが礼儀ってもんだ」

「いやな礼儀だな...」

「だがアンタはそれをしなかった、そしてあろうことかアタシを助けた」

「別に当たり前のことだろ?困ってる奴がいるなら人間も動物も魔物娘も関係ない、そうだろう?」

「アタシ達は違う、魔物娘でも人肉を貪るって噂されるマンティコアだ...だからな?そんな私を...貴方は助けた」

「そうだな、俺は確かに君を助けた...だがそれは...待てよ、私...?貴方...?」

「...嬉しかった」

「...何?」

「同じ種族である以上、マンティコアは皆同じ目で見られる...パパとママのもとから離れて一人立ちして、今の山に住み着いた...そしたら、いつの間にか人食いマンティコアの住む山だとか言われて...」

男の胸に水滴が落ちる。
マンティコアは泣いていた。
先程までの態度とは一変して、マンティコアは弱々しい口調で言葉を紡ぎ続ける。

「ずっと一人ぼっちだった...勇気を出して話しかけてみたら、この化け物めって...怖い顔で追いかけられたり...あの時もそうだった...」

「あの時?...不意討ちを受けたんじゃなかったのか?」

「ううん、違う...私から話しかけたの...」

「...なるほど、そうだったのか」

「騙したりしてごめんなさい、でも...貴方の優しさが嬉しくて、貴方のことが心の底から大好きになっちゃって、どうしても離れたくなくて...」

「だからって喋れないふりなんてしなくても...」

「最初はね?すぐに種明かしをするつもりだった...でも...」

「でも?」

「言葉が無いから、貴方は私から目を離さず一生懸命に私のことを理解しようとしてくれた...言葉が無いからこそ、貴方は貴方の全てで私に接してくれた...それが、その時間が...堪らなく愛おしかった」

「そう言われるとなあ....でもよ、こうして普通に話すのだって悪くないだろ?」

「うん...こうして、やっと貴方とお話ができてる...私、今とっても幸せだよ」

「そっか...まあ、ならよかった...のかな?」

「...帰っちゃ駄目」

「....」

「お願い、私とずっと一緒にいて!」

マンティコアは涙ながらに懇願した。
男は暫く考え、やがて口を開いた。

「じゃあさ...」





「...まったく、どこ行ったのやら」

一人の男が小屋の前で腰掛けそう呟く。
男の友人が行方を眩ましてからこの一ヶ月間、職場に顔を出さなくなった友人を心配し、男はこうして時々友人宅にやって来ていた。

「今日も帰って来る気配は無しか...これはいよいよ...ん?」

出るとこに出るしか、そう言いかけた男が前方に顔を向けると、見知った顔の男がこちらに向かって歩いて来ていた。

「!?...セルモ!」

男は今しがた帰宅した友人の名前を呼びながら駆け出した。
程なくして男は友人との距離を詰める。

「おお、ビスか...久しぶりだな」

「久しぶりだなって...はあ...お前、この一ヶ月いったい何処をほっつき歩いていたんだ?」

「いやそういう訳じゃ...あ、それよりもだ...お前に紹介したい人がいるんだ」

「なんだと...どこにいるんだ?その紹介したい人というのは」

「あー...まあ俺の嫁さんなんだけどな、おーい!こっちこっち!」

「よ、嫁さん...?お前、この一ヶ月嫁探しをしていたとでも言うつもりか?」

「えぇ?まあ...軟禁されてた、だな....ああ!誤解するなよ?合意の上での軟禁みたいなもんだからよ」

「軟禁!?合意があろうが無かろうが、とてもまともでは....もしや魔物娘か?」

「正解!紹介するよ、俺の嫁さんのミナリサだ」

ビスはいつの間にか近くに来ていたその人物に目を向けた。

「...マンティコアか」

「は、はい!マンティコアのミナリサです!この度セルモさんの奥さんになりました!夫婦共々どうぞよろしくお願いします!」

「あ、ああ...私はビスだ、此方こそどうぞよろしく」

深々とお辞儀をするミナリサに習い同じようにビスも頭を下げる。
やがて二人は顔を上げ、セルモはビスに話しかけた。

「意外だな...お前のことだから、そいつはマンティコアだ、危険だから離れろ!とか言うもんだとばかり...」

「お生憎様、お前には話してなかったが私の知り合いの夫婦も奥さんがマンティコアでな、マンティコアがどんな魔物娘なのかは初めから知っていた訳だ」

「あ~、だから驚かなかった訳か」

「そうだ、まあ第一印象ではあるが...ミナリサさんのようなしっかり者の奥さんならお前も安心だな?」

「た、確かにまあ...あ、でもな?最初はこうじゃなくてな?口調も乱暴だったんだぜ?まあ、ずっと化け物呼ばわりされてたせいなんだけどな」

セルモの発言を受けて、ビスは二人の顔を交互に見た。

「なるほど...お前と彼女なら、良い夫婦になれると思う筈だ、ああ...きっとな」

そう言われセルモは頭をかき、ミナリサは顔を赤らめた。

「だろ?まあいろいろあったけどなあ...特に凄かったのがあれだ、ここに戻ってくる前にな?尻尾じゃなくて普通にしたらな?いや凄いのなんのって...」

「そういう話はしなくていい...まったく...」

「俺が眠ってる間ずっと大好きとか愛してるとか言ってたらしくてな?」

「そ、その話はもういいじゃないですか!」

顔を真っ赤にしたミナリサがセルモの口を手で塞ぎ、そのままセルモの家へと連れていく。

「...まあ、お互い程々にな」

微笑みながらそう言い残すと、ビスはその場から立ち去った。

真っ赤な顔をしたミナリサに口を塞がれていたセルモが、ふと立ち止まる。

「?...どうしました?」

「......」

「えーと...何か言ってください...ね?」

「......」

「あの、その...急に手を出してしまったことは謝ります、でもセルモさんが悪いんですよ?恥ずかしいからあれを言うのはやめてって言ったのに...」

「......」

「...なんで何も言ってくれないんですかぁ...」

次第に涙目になっていくミナリサを見るに見かね、自身の口を塞ぐミナリサの手を優しく外した。

「はあ、はあ...喋りたくても喋れない時もあるんだな...」

「ああ!ごめんなさい、すっかり忘れてました!」

「...やっぱりミナリサって、あんまりマンティコアっぽくないよな」

「む!...どういう意味ですか!」

「いやいや、別に大したことじゃないさ」

「...そうやってすぐ誤魔化す...いいですよーだ、その分夜は私がしっかりと主導権を握らせてもらいますから」

「またあの顔が見れるのか、やったな」

「!?...もう!」

「そう怒るなよ...なあミナリサ」

「...なんですか?」

「...好きだ」

「っ!?急にそんな...あう...」

「この一ヶ月...いろいろあったけどさ、どうかこれからも末永くよろしくな、ミナリサ」

「...はい!私も大好きです、セルモさん!よろしくお願いします!」

二人は手を取り合った。
お互いの気持ちを確かめるように。

18/09/17 20:59更新 / 窓ワック

■作者メッセージ
ご視聴ありがとうございました。

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