読切小説
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立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は腹足綱
その人と出会ったのは9月終わりの少し肌寒い時期だった。
コンビニの夜勤明けの、呆けたような僕の頭の中を一辺に覚醒させる登場だった。

帰り道の途中に銀杏並木の通りがあるのだが、その中でもひと際大きな
文字通りの大イチョウの木に女が一人ぶら下がっていた。
いや別に首を吊っていたわけではなく、幹のように太い枝に
全体重を預けるかのようにうつ伏せに寝ていたのだ。


僕は足を止めると約5m前方斜め上の非日常に見入ってしまった。
早朝の為薄暗いとはいえやはり目立つ。服装は白いブラウスに
ハイウエストの黒いスカートだから会社務め…OLだと思われる。

顔は良く見えないが、見慣れた銀杏の木からぶらさがる
女独特の白い足がはっきりと対象を際立たせていた。

なんというか
何か特別な瞬間にであった気がした僕は携帯を取り出すと素早く全体図を納め二枚写真を撮った。何故そんな事をしたのか聞かれると返答に困るが、若者の性だと言い訳しておく。
そして、周囲に誰もいないのを確認するといそいそとその場を離れようとした。

「おい変態」

木上から澄んだ声が響いた。僕はあからさまにビクついたものの振り返る。


「お前今私の写真とったろ?」

痴漢で捕まるってこういう気持ちナノカナ?そんな事を考えながら僕は目線をそらす。

「撮ったんだろ?」
「・・・」
「あぁッ?」
「はい!?・・・撮りました・・・」


「撮ったんだな?」
「はい・・・」
「じゃあ、ちょっと手伝え。」
「・・・?」
「ちょっと降りるの手伝え。」



「よっせっ・・・と」
女がゆっくりと身を起こしこちらを窺う。正直僕は先程のやり取りで
この女に対し恐怖心をもっていた。どうする自分、いっそ
このまま逃げるか?

「じゃあ、行くぞ」
「へ?」

ドシャァ

女が木の上から落ちて来た。
体全部を投げだすというより、下に引いたマットに着地する要領で足から落ちて来た。
僕は彼女の着地の衝撃をもろに全身で受け地面へと崩落ちる。
「ぅうッ!?」

鈍いうめき声と共に仰向けになった僕の上で女が悪態をつく。
「いったぁあ・・・あんた・・・男でしょ?女一人くらい受け止めなさいよ」
無茶を言う。

腰と尻をしこたま強打し直ぐには立ち上がれない僕とはうって変わり
女はすっと身を起こすと体に着いたゴミでも払い落す様な仕草をした。
彼女なりの”お疲れ様”なのかも知れない。そう思わないと心が折れそうである。

僕はひんやりと冷たい秋のコンクリを背中に感じながら、沸々と湧き上がる怒りにまかせて
勢いよく立ちあがる。続けて眼前の女を睨みつけた。

「お!元気じゃん」

対面した僕を面白そうに見詰め、そう呟く女。
年齢は僕より上の様で30は過ぎている風であったが
茶色い瞳に少し切れ目、形のいい小さな唇には艶があり
キューティクルが視認できそうなウェーブのかかったロングの黒髪
痩せ形の体つきに不釣り合いな、ブラウス越しにもわかる豊満な胸元
きめ細かい雪の様に白い頬には、ほんのりと朱がさしていた。

今まさに僕が不満をぶつけ様としたその不満の元凶たる女は、普通に美人だった。


「どぉした?だんまりか?」
やけに馴れ馴れしく喋りかけ、さらに顔を覗き込んでくる女。
本当なら今頃家についてシャワーでも浴びている頃なのに、人の気も知らないで。

「盗撮の事気にしてんのか?まぁなぁ。こんな良い女中々お目にかかれないだろうからな」
こいつ・・・。というかそもそも、木の上の女撮ったから何だというのだ?
これを盗撮と呼ぶなら普通の風景写真に人が写り込むだけで違法だというのか?
馬鹿馬鹿しい。ここはひとつガツンと言わねば。

「ねぇあんた、ちょっと私にお金貸してよ?」
「!?」

口撃しようとした矢先に先制パンチである。こんな理不尽があっていいものか。
そもそも僕は彼女の手助けをしたんだからお礼こそすれ金銭を要求など以ての外だろう普通。しかし、やっかい事はもう御免である。こちとら夜勤明けなのだ。

「なぁ頼むよ・・・って、おいっ!?」

くるりと踵を返しそそくさとその場を離れようとする僕。
TVでも見たがこういう手合いはまともに相手にしても裏目にしか出ない。
もしかしたら新種の美人局かもしれない。早朝から美人局も無いだろうとは思うが。

「おらーーーー!逃げんなぁあああ小僧ぉおおおお」
後方からもの凄く乱暴な言葉が響く、まったく顔立ちに反してなんという女だ。

「そぉーいう態度で来るんだな?じゃ、こっちも黙っていないからなぁ
 大声で変な事されたって叫んじゃうぞーーーーーーー?」

もうその言葉が既に大声なのである。故に数十メートルはあろうかという
距離まで離れたのに僕の足はピタリと止まる。振り返った僕が目にしたのは
仁王立ちしながら人指し指で”こっち来い”と促す凄まじい剣幕のOLだった。



「・・・だ、だいたい僕が撮ったって証拠はどこにあるんですか?」
ここまでくれば徹底抗戦である。最終的に携帯のデータを消すなりメモリーカードを抜くなりして
”それでも僕は撮ってない”と貫いてやる。大体盗撮ではないのだから(多分)。

「証拠ならここにある」
「え?」
彼女が開いて見せたのは紛れもなく僕の携帯で、紛れもなく数分前僕が撮った写真だった。

「え・・・!携帯・・・無い!?いつ」
さっき木の上から僕に着地した時か――――――――――――――

「おやおや〜?この二枚目やらしー」
「えぇ!?」
「ふっふ。さぁどおしようかな?いっちゃおっかなぁ〜?”とうさつ”されたって♪」

人通りのないこの閑静な公道で、目に隈をつけた野暮ったい男と
傍目にはOLに見えるの格好の器量のいい女が対峙している。もし誰かが来たら
どう解釈するだろうか?考えて御覧よ自分。

ああ、あの青年はきっと恐喝されているんだ。なんて誰も思っちゃくれないだろう。

世の中は、美>(越えられない壁)>醜である。彼女が黒といえば白でも黒に変わるだろう。
この瞬間僕は完全に主導権を奪われた。どうしようもないくらい最悪の立場である。
多分、僕は泣きそうな顔をしていただろう。

「・・・・泣かれても」
断じて泣いていない。断じて。
そんな僕の心の葛藤などどこ吹く風で女は面倒くせぇなと声にだし、こう繋いだ。
「わかった。金はもういいからあんた家の鍵だしなさい」



ゴキュ…ゴキュ…ゴキュゴキュ…ゴキュキュ…
「っかぁーーッ美味い!」

飲料水ペットボトルをまるで発泡酒のCMの女優ばりに飲み干した女。
容姿が容姿だけに違和感がまるで無いのが無駄に腹立たしい。

都内でも有数の巨大なモデルルームマンション。の隣に立っている僕の住むアパート。
古くも無いし新しくも無い建造物の南側の端っこの部屋に一人暮らしているのだが
前述の通り隣に立つマンションが見事に太陽光を遮るため薄暗いのが難点の
マイルームである。

「つか暗い所に住んでんなーお前、だからジメっとしてんじゃないの?」

「夜勤とかしてるから昼寝るのに都合がいいんですよ。というか僕は
 別にじめっとなんてしてません。」

「自分を偽っていてもいい大人にゃなれねーぞ?」
人んちに押し入っといてお前は”いい大人”なのかよ。と内心で強く思いながらも
いまだ僕の携帯が彼女の手中にあるうちは迂闊な事を口にする事が出来ない。

あの後言われるがままに鍵を出した僕の手からそれを引っ手繰ると
”家どこだ”と携帯をチラつかせながら脅され渋々アパートまで案内する羽目になったのだ。
情けないと自分でも思う。大の男が女一人に良いように操られているのである。
しかし
言い訳をさせてもらえば、もしあの時女から携帯を無理やり奪おうものなら何処からともなく
ヤのつく自由業の方々が僕を囲み社会勉強を強要されるかもしれないと危惧したのだ。
美人局だと思ったのだ。実際そうじゃなかったのだが、どちらにしろ大声を出されればアウトである。

だから、女が僕の部屋の玄関まで来た時に
「青年さ、ホントチョロすぎ・・・もしかして相当ド田舎から出て来たな(笑)」

と言っていたのを聞いて”あぁなんだ僕はただ嘗められてたのか(笑)”と気付いた所なのだ。



「ふぅ〜。よし。おちついた」

結局飲料水のペットボトル3本をラッパ飲みし空にした女は
玄関開けてすぐの居間でテーブルに頬杖をついている。どんな身分だよ。

「あの・・・」
「ん?」
「その金の事なんですが」
「あぁ、もういいわ。もう金いらなくなった。水飲めたから」

「あ!そうですか。はは」
有耶無耶に愛想笑いをする僕。なんだか主従関係が築かれつつある。
え?いやいや。じゃなくて。水飲むため?水を飲むために金銭を要求したのかこの女。
そうだとしたらどこの干ばつ地域の住民だよ。どんだけ喉渇いてたんだよ。
そんな心の突っ込みをしている最中なのに、遮る様な冷淡な声が僕に向けられた。

「おいお前さ、とりあえず風呂入ってこいよ。汗くせぇ」

「あ!はい・・・すいません・・・じゃなくてッ!」
本日二度目の”じゃなくて”を声に出しさすがに抗議する僕。
色々おかしな事がありすぎて何から言っていいか迷ったが

「貴方みたいな非常識な人がいるのに風呂なんて呑気に入れませんよ!大体なんなん…」
「うるせぇ、とっとと行け!」
ドンっと脱衣所の方に足蹴にされる。
僕より少し小柄な女性らしい体躯のしかも見目麗しい外見の人物がそんな行為を
やって除けるのだから精神的に何か来るものがあった。


「はぁー」
結局風呂に入っている僕。情弱の極みである。
冷えた体にお湯の温もりが心地いい。つま先の方にじんとしたモノも感じる。
一晩中木の上に寝ていたのなら、あの女の人はもっと体が冷えている筈だ。
そういえば名前も聞いていない。

僕は顔を勢いよくお湯で擦り風呂を出る。仕切りなおさねば。


「あの・・・」
風呂を上がって手早く着替えた僕は何故かどぎまぎしながら居間に戻る。
だが、そこには先程までいた暴虐不人な女の姿など影も形も無かった。僕の携帯もろともに。

「盗まれた・・・・」
時計を見ればもう朝9時過ぎである。普段なら寝ている時間故か急激に眠気が襲ってきた。
色々と考える事もあるが。いや、ありすぎるが。ここは
「寝よう」
僕は布団に横になるとモノの数秒で眠りに落ちた。


ピンピーン ピンポーン
「山多さーん。砂山で―す」

玄関で誰か呼んでいる。砂山…砂山…あぁアパートの管理人か。
一体どれだけ寝ていたか分からないが、眠い。瞼が上がらない。そのまま
おたおたと玄関まで向かいドアを開ける。眠い目を擦り擦り開けながら挨拶を済ます。

「あぁーごめんね。寝てた?いやね、私明日からグアム旅行に妻と行くからさ
 一応言っとこうと思って。だってさこのアパート住んでるやつで家賃滞納せず払って
 くれるの山多さんくらいだからさ、やっぱ挨拶しとこうと思って。はははは
 え?用はそれだけだよ?うんうん。じゃそういうことだから。あ、去年北海道行った時の
 熊の置物大切にしてるかい?今回もちゃんとお土産かってくるからね〜」

一辺にまくしたてられ、喋るだけ喋って帰って行った管理人。家族で海外旅行だそうで非常に上機嫌である。
うん。僕起こす必要無くね?張り紙でもしてればいいんじゃね?

「・・・」
時計は4時を指している。結構寝ている。
しかし,なんとはなしに僕は布団へと戻ろうとして気づく。
布団に見知らぬ女が寝ている。人間は眠ることで記憶を整理し自分にストレスのある事柄を
まとめて対処しやすくするというが、正直その機能も及ばないほどの心的ダメージを朝に受けた僕としては、対処に困った。


朝とは違う白いワンピース姿に薄桃色のカーディガンを纏っていたその人物が朝のあの理不尽女である事は一目でわかったが、問題はその寝ている位置である。布団の上なのだ。
つまり僕は先程までこの女と超至近距離で寝ていたのでる。
何かあったのか!?いや、そんな記憶は


「おい童貞。考えが駄々漏れだぞ。」

女は目を覚ましていた。

「安心しろよ。お前が考えている様な事はなかった。ただ帰って来た時に
 お前はもう寝てるし、私も眠い。どけと蹴ってもお前がどかなかったんだから
 仕方なくこの私が添い寝してやったんだ。」

「貴女がどうしても布団の上で寝たかったということは伝わりました」
それから僕を蹴ったという事も。というか見ず知らずの男の部屋に上がりこんだ挙句
同じ布団で寝るなど、かつて知ったる他人の家だとしても勝手が過ぎる。警戒心は無いのか?

女はゆっくりと身を起こすと服の皺を整えながらこちらを見上げた。
「それにしてもあんた・・・山多田助って名前なんだね」
「は?・・・・・・・!」
「表札を見てびっくりしたぞ。お前本当に田舎から出て来たんだな
 きっと代々農民の家なんだろうな。な?デンスケ(笑)」

次から次へと予想だにしない先制攻撃である。
「他人にこの名前をいじられたのは中学校以来ですよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・警察呼びます。」
「!?」

瞬間、女の表情が一変し僕に跳びかかってきたかと思うと髪の毛をわし掴みにされた。
「こら・・・てめぇ脈絡なくとんでもねぇ事口にしてんじゃねぇよ?
 そんなに名前いじられるのが嫌だったのか?あぁ?」
僕は無言でその手を思い切り掴むと片方の手で女の体を突き飛ばした。
正直言うとキャパオーバーで僕は切れていた。女性に乱暴するなど最低だと分かっているが

仰向けに倒れた所に馬乗りになり、その細い腕を僕の手で抑えつけた状態であるにも拘らず悲鳴一つ上げない眼下の女に僕は怒りと恐怖の感情を抱きこそすれ謝罪の言葉など見つかるはずもなかった。

「・・・声、出すよ」

女は瞬きせず真っ直ぐに見つめながら短く呟いた。
僕は、はっとし直ぐに彼女の上からどき二、三歩後ろに下がる。
女は仰向けのままで少し乱れたワンピースのすそから太股が見えていた。
こんな時になんだが、部屋には異性独特の艶めかしい匂いが満ちていた。
耐えきれなくなった僕は目を背けるように後ろを向く。自分は、自分は何も悪くない―――――

ゴツッという鈍い音が後頭部を襲った。そして眩暈、横向きに倒れた僕が目にしたのは
赤色のついた銅製の北海道土産だった。



名探偵コ○ンなら確実に死んでいたパターンである。
それにしても凶器が銅でできた熊の置物とは・・・
あの管理人もとんだ土産物をよこしたものだ。などと、くだらない事を十数分は考えている。

見慣れぬスウィートルームの如き浴槽のぬるま湯に
どれだけ自分が浸かっていたのか記憶がないが、皮膚がふやけてしまっている。
まぁ記憶も何も目が覚めたらここにいたのだから仕方がない。
僕は声を出そうにも口をガムテープで覆ってあるため,くぐもった声しか出ない。
ついでにいえば手も足も動かせない。

僕の頭の上30センチ程の所に浴室の窓があるのだがその格子戸に布を通し両手は
丁度万歳の形で縛りつけてあり、足も同じような布で何重にもきつく結んである。
さらに浴槽内の水気を含み、ちょっとやそっとじゃ解けそうにない。

ありていに言うと、後頭部を殴打され気絶した僕は今浴槽に軟禁状態なのだ。全裸で。。
灯りと言う灯りは洗面台付近に置かれた二つの蝋燭だが、アロマキャンドルなのだろうか?
甘い香りが鼻をついた。

ガラガラガラ

不意に浴室の扉が開いた。
そこには僕の部屋で争った時の服装のままにあの女が立っていた。
薄明かりに照らし出され、よりその整った目鼻立ちが強調されていたが
彼女の片手に光る巨大な鋏には及ばなかった。まだ一度も使われてないだろう鋭利な断鋏だ。

「ンーーーーン―――――」
「おぉ!目が覚めたかデンスケ?起きなかったらどぉしようかと冷や冷やしたわー。さてと」

僕の方に近づいてくる女。何故か鋏をこちらに向けたまま。
何をするつもりだ?おいおい、まさか、まさか

「ン”ン”!?ン”ン”ーーーッンーーンーー」
「うっさいなぁ。ガムテ越しにも耳障りだから」

華奢な右手が、刃が、僕の眼前に迫る――――――――



シャキンッ
耳元で金属音が響く。続いて女が何かに手をかけ一気に引きちぎる。
「っぷはぁ!?はぁッ!?・・・・え?あれ・・・?」

何処も切られていない。女の手には破れたガムテープが握られていた。
「いやぁ〜悪いわね。ちょっとあんたの口にガムテ巻き過ぎちゃって手で取れなくってさぁ」

苦笑交じりに鋏を洗面台の流しに置きに行く女。なんだ、鋏はガムテを切る為か。
僕の胸に急に安堵が押し寄せる。女が戻ってきて悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ビビったか?」
「そ、そりゃビビりますよ・・・まさかご、拷問でもされるのかと。はは・・・
 まぁ、そんな訳ないですよね。はは・・・あはは」
「ははははははは」
「はははは」

全身を拘束した相手と笑い合う僕。なにかを忘れている気がする。
勿論忘れている何かは彼女がすぐに思い出させてくれた。

「お前さ自分の立場わかってる?」
「 」
「”拷問でもされるのかと”ねぇ・・・ふふふ。」
「何がおかしいんですか?」
不自然に声が震える。そう僕が忘れてはいけない事、それはこの女が
人の頭を鈍器で殴打した事、体をきつく拘束している事、当たり前のことだが
異常であるという事。

「はは・・・だれかぁああああああああああ!!!!わぁぁああああああああああああ」
恥も外聞もなく僕はあらん限りの声で外への助けを求めた。

「騒いでもいいけど。ここ、防音完璧よ?」
まるで誘拐犯の常套句だ。いや、文字通り誘拐拉致監禁の現行犯か。


「僕に・・僕に何をするつもりですか!?」
「別にぃ。これからちょっとした『交渉』をするだけよ?」
女の蠱惑的な唇がかすかに歪んだ。
「ただ、”拷問”になるか”話し合い”で済むかはデンスケ…、あんた次第だけどね」


ジャグジーが勢い良く回されシャワーの水が降り注いでいる。
女は鼻歌交じりに服を着たままをそれを浴びていた。

その間にも僕はずっと助けを求め続けた。が、人間思ったより声を張る
機会がないもので、叫びだして数分もしないうちに僕の声は枯れた。

「気が済んだ?」

静かに蛇口が閉められ女がこちらを向く。全身水浸しで、
桃色のカーディガンも白いワンピースもぴっちりと肌に張り付いていた。
僕の見立て通り相当に肉感的なラインが浮き彫りになっている。

女が浴槽に近づいて来たかと思うと、不意にそのまま顔を近づけ口付けした。

「ん・・・」
「ッ!?」

吸いつくように唇に唇を重ねて来たのだ。僕の脳内はパニックを起こしながらも
女の少し冷たく柔らかい感触に、肉体は完全に硬直した。長い長いキスである。

長い黒髪から水滴が雫となって浴槽の水面に落ち、女が口を離した。
唾液が糸を引いて消えた。

「・・・はぁん?・・・あぁ勃ってる・・」
「!?」

入浴剤も入っていない透き通ったただのぬるま湯なので女からは僕の局部は丸見えである。
恥ずかしさで隠したいところだが手足を縛られている身なので湯船の中で
身をくねらせるのが精いっぱいだった。

「おーおー敏感。こりゃ交渉のしがいがありそうじゃないか♪」

立ち上がった女が自身のふとももに張り付いたワンピースの裾に手をかける。そして大胆にも
両手で捲りあげた。なんとなく張り付き方で察していたのだが、彼女は下着を履いていない。

だから察していたとはいえ僕は面食らった。
「なな!?な何がしたいんだあんたッ」
「ん?だから交渉よ。交渉。ま、『性』交渉って奴だな」
「はぁ・・・ぁああ?」
「それから、『拷問』の意味もおいおい解ってくるからさ」

そんな上機嫌の彼女の前口上が終わると同時に予想だにしない変化が起きた。


先程までシャワーの水を浴びていた為、体中が濡れているのは当然だろうが
やけに女の体は水が滴っている。

露わになった局部を見ない様にはしているが、女の足からいやに水滴の音が聞こえる。
僕は背けた顔をじんわりと女の方に向け瞼を開く。

ピチョ ピチョ ピチョピチョ  グチョグチュ

「なんなんだ・・・なんだよコレ・・・!?あなた一体」

端的に言うと女の足は溶けていた。シャワーの水気とは違う女自身の体から分
泌されているだろう粘液が下半身全体を覆いかつて二本だった足は今は一つの
白黄色のヌルヌルの化物の様相を呈していた。

上半身はワンピースを着た人間の女性だが、腰から下の変色して
とても皮膚とは呼べそうにない軟体上の丸みを帯びた塊―――まるで

「まるで蛞蝓――だろう?」

女は的確に自身の姿を表現した。そう、この下半身は蛞蝓のそれである。
そもそも”表現”なのか?そうじゃない。この女は宛ら
自らの正体でも告白したかのような口ぶりだった。

「・・・は・・・」
呂律が回らない。脳が思考しない。どう考えても非現実的すぎる。そもそも朝から
現実離れしていたが、この事態はベクトルが違うだろう?

「っち、さすがに萎えちまったかぁ」

女は湯船の中で縮こまった僕のモノを残念そうに見ながらぼやき、続けて
嗜虐的な笑みを口に湛えてこう囁いた。
「まぁこれはこれで楽しみがいがあるからいいんだけどねぇ…」

搾取する側の愉悦。本能が僕に告げていた、ここから逃げろと。全身に鳥肌が立ち
今すぐ逃げ出したい、しかし体が微動だにしないのだ。恐らく拘束されていなくても
僕の肉体は動けなかっただろう。


ピチョ

女が湯船に入って来た。足というものが存在しない彼女は文字通りぬるりと浸入する。
僕の体に女の巨大な軟体が触れる。肌に吸いつき、水の中でもわかる滑り気を帯びている。

並々に満たされていた水面から沢山の水が溢れる。
女は浴槽の淵に両手を置き、僕の上に跨る形で座っている。
ずっしりとした生き物独特の重みとべったりと張り付くひんやりとした粘膜が
僕の皮膚を刺激し、いつの間にか僕のモノは起立し始めていた。

「ッ・・・くぅ」
「気持ちいいのか?ただ私が乗ってるだけでこんなに悶えるとはな。ふふ」

女は僕の表情を楽しむように下半身を上下に揺らし、竿にその肉体を擦りつけた。
「っうぁ!?」
「おっと、気を付けないとな・・・挿れてもいないうちから最初の搾り汁を出されちゃ勿体ない」

肉体をおぞましい生き物に嬲られているにもかかわらず性的興奮を覚えさせられた事に戦慄する。
浴槽の中で眉根を寄せながら男の分身を嬲る蛞蝓の化物。尋常な光景では無いというのに。

「はぁ…はぁ…はぁッはぁ」
「おーい?大丈夫かよ。もう息切れか?」
「…はぁ・・はぁ・・・?」
「マジで息も絶え絶えって奴か。ったく。本番はこれからだぜ?
 ほぅら、ちゃんと見ときな・・・」

女は少し体の位置をずらしたかと思うと、ちょうど女の部位があるであろう
箇所を見せつけるように浮かせた。すると、つるんとした表皮に亀裂が入り大きく広がった。

多量の液が漏れ出したらしく湯船の中でもその粘度を感じ取ることが出来る。
「!?」

液体とは違う、何か生物のようなモノが僕の太股に触れた。


「ちょ・・・っと!おい暴れんなよ」
「うわぁ!?うぁああ」

僕の肌に触れたモノ。
それは女の局部の穴からうねりながら出て来た複数の触手群であった。
本当に、本当に今更だがこの女は人間じゃなく化物なのだ。何より僕は
やっとこの女の目的に気付いたのだ。そりゃ暴れるだろう。

「ん・・・しょっと。はい、捕まえたぁ」

一生懸命に体を動かしても手足の布はびくともせず抵抗むなしく
僕のモノは女の触手にすぐに絡みつかれた。
「うっ・・・くぅあぁあ」
「へっへっへ〜。たまんねぇだろう?」
幾重もの触手が僕のものに巻きつきその粘度で軽やかに愛撫を加えてきた。
僕の全身に恐怖心とは違う鳥肌が立ち頭の芯を痺れさせる。
はっきりいえば陰茎は隆起していた。

「丁度いい塩梅になったな…さぁこれから”交渉”の時間だよ」
「・・・?・・っくぅ・・・交渉だと・・・」
「そ♪何、ただ私のお願いにお前が”うん”と頷くだけのだけの簡単な話し合いさ」

僕のモノをとらえている触手の動きが変わったかと思うと局部に張り付いてきた。
そして徐々に徐々にその触手の伸びている先、女の膣穴に引っ張り出したのだ。
さながら、獲物を自らの巣穴に引きづり入れんとするように。

女は目線を僕に合わすと言葉も無く見つめてきた
”今の自分の立場を理解しているか?”と再度問われている事を直感した。

数秒の沈黙の後、女が口を開いた。僕は息を整え生唾を飲み込む。
「お前は・・・いいか?お前はこれから私の要求は全て飲むと誓え。」
「・・っ・・・は?」


何を言っている?この女、いや化物は何を言っている?
このあまりにも大雑把で、あまりにも僕に不利な要求が”お願い”だとでも言うのか?
おかしいだろう。どう考えても恐喝だ。

そもそも思い返してみれば僕はこの女に何かしただろうか。
・写真を無断で撮った
・押し倒した
・馬乗りになった

否、それだって不可抗力だ。正当防衛的なアレだ。
少なくとも確実にこんな仕打ちを受ける責任など全く無い。
何故かこれまでなすがままだった僕の心に火がつくのを感じた。だから力強く僕は言い返す

「っふざけるな!!!そんな約束だれがするもんか!!」

女はこれまで甚振られ放題だった僕がそんな事を云うのが
意外だったようであからさまに嫌悪感を顔に出した。
「・・・ふーん」
女の表情が冷たいものになっていく。
「これでも結構私なりに譲歩してやったんだけどなぁ。いやなの?」
「い、嫌だ」
「・・・・拷問そんなに受けたいんだな?」

にっこりと優しく女は微笑んだ。

ニチュ ニュクチュチュ クチョ

僕の竿に巻き付いた触手が緩慢な動作で奥に飲み込みだした。
そして見る間に局部は触手群の中に埋もれたかと思うと―――――



「ああぁあーーッ!?」
亀頭が触手とは違うプ二プ二した感覚のものに付着し、一気に吸い込まれたのだ。
恐らく其処こそが彼女の膣穴本体なのだろうが、下半身を蛞蝓と表現したのが
あまりにも的確であった事を実感する。数十数百の蛞蝓状の何かが女の膣で僕のモノをねぶっている。

そんな感覚なのだ。ミミズ天井ならぬナメクジ天井。
湯船の中で小刻みに痙攣する僕に跨った女は嘲笑しながら眺めている。

「”ああぁあ”か?あははは。女みたいな悲鳴だしちゃって気持ちいいのか?
 気持ちよすぎて声が出ちゃうのか?ほら、ほら。出っ張りに吸いつくと腰がぴくぴく動いて…・・・・・・え?」

トピュ ズピュ
僕はあっけなく異形の女の中に漏らした。
「う・・・ち・・ちくしょう・・・はぁ、はぁ・・・くッ」

ブルッと射精後の余韻で体が反応する。だが、何かおかしい事に気づく。
さっきまで逞しく怒張していた僕のモノは出したばかりという事もあり収縮しているはずだが
いまだ女の膣中に咥え込まれたままである。

それどころか襞が蠢きだし僕の局部を包んだ蛞蝓天井が活動を再開したのだ。
「まだよ…まだ…あんたの尿道口に残ってるでしょ…ぜ〜んぶ、ここに頂戴…」

女を見てゾッとした。本当に御馳走を食べている最中だと言わんばかりに瞳を閉じ
涎を垂らしながら、僕のモノの鈴口から吸い出された精液を下腹部で味わっていた。
「んぅ…あぁあん…堪んないわぁ…これ…はぁあ」

連続して加えられる常軌を逸した刺激に元気を取り戻してきた僕のモノだが、
粘々と絡みつく人外の器官にあっという間に二度目の迸りを放っていた。

「ああ♪…ふぁ…ふふ。腰が震えっぱなし…だな…」

二度目とは思えない量を女の膣に注ぎ込んだにも関わらず、浴槽の中に白濁色のモノが
交る様子は無く、蛞蝓の下半身が一滴残らず飲み干した事が窺える。


僕は先程の様な続けざまの愛撫を恐れたが
予想に反し女の触手は竿を膣中から引き抜いた。
湯船越しにもひと際濃そうな粘液が陰茎を覆っているのが見て取れ、
温かな女の中から出た直後の為、ぬるま湯に過敏に反応する。

そうして、一息つきかけた僕に女がその整った顔を近づける。
「じゃあ、もう一回聞くぞ?お前は――」

この質問をする猶予を与えたのか。
「こ・・・断る・・・いやだ」
「・・・・ああ、そうなの」
「ふッ!?あぁあ!?」

すぐさま女の膣は僕の竿に絡みつくと奥に飲み込み吸引に取りかかった。女の膣の数百の襞が一気に脈動し陰茎の裏筋も亀頭もカリも全て圧迫するように吸いついてくる。

「はぁ…はぁ!?…くぅ…ああくぅうう」
「ふっふ、いーぃ顔するじゃないか…出したくないけど我慢できないんだろ
 でも、こうやって揉みしだいたら…結構…効くよなぁ?」

女が耳元で囁いた瞬間だった。あっさりと無様に僕のモノは精を吐き出していた。
僕は項垂れ肩で息をする。ずっと拘束されたままの手足も気だるく疲れている。
全身が脱力しつつある獲物を彼女は見逃さず右手で僕の顎をクイッと持ち上げる。

「はい、あんたの答えを聞こうか?」
「…い……だ」
「んん?」
「…・・……いや、だ」
「あ、そ」

その言葉を皮切りに三度女の膣に飲み込まれていく僕のモノ。
ひと際強い圧迫感がくるかと予期して歯を食いしばっていたが、ヌルヌルの軟体が局部に巻きつき緩急をつけて膣内がうねり出したのだ。僕は背筋がぞくぞくして思わず腰が浮いた。
「はぁ!?ちょッ…あぁああッ」

腰を浮かせた拍子に女が自らの下腹部を深く沈めて来た。そしてこれまでの形状より
一層細い襞が僕の亀頭に吸いつき、あろうことか鈴口の中に浸入しては出、浸入しては出を繰り返し始めたのだ。

これまでの、局部の表面を舐められるならまだしも、尿道口自体に入り込み凄まじい快感を伴いながら先走り汁を舐め取っていく異形の襞々は僕の中の決意を完全に鈍らせてしまっていた。

「はぁはぁ・・・はぁ・・はぁ・・・わかっ・・・た・・・だから・・・もう」
「や・・・・・・ろよ」
「はぁ?聞こえないなぁ」
「やめ・・ろ・・よ」
「きぃこえなーい」
「・・・頼・・・む」
「パぁードゥぅン?」

女は明らかに愉しんでいた。心から悦んで”拷問”を繰り返していた。
「なん・・・でも言う事に・・・従います・・・くぅッ!?」
言い終わると同時に僕は5度目の精を放っていた。
女はどくどくと脈打つ僕の迸りを下の口で飲み込み
どろりと体外へ引き抜くとその余韻に浸るように恍惚とした表情で僕を見下ろした。

「ふぅ・・・。お前、今の精子はひと際味が濃くて美味かったぞ?ま、それはともかく交渉成立だな。よかったじゃないか、あんたにも悪い話じゃないんだ」
悪い話も何もその内容は伏せられたままなのに、女はお構いなしと言わんばかりに自らの
着たままだったワンピースとカーディガンを脱ぎ出した。
こんな水に濡れた服は脱ぎにくいだろうに。

「よっと」
にゅるん、と効果音を付けてもいいくらいあっさりと女の服は脱げた。良く考えてみれば体中から粘液が分泌されているのだから脱皮の要領で簡単なのかもしれない。というか

「あらあら〜?目に見えて大きくなったぞ。そんなに興奮してるのか?」

艶めかしい光沢を纏った白い肌と、たわわに実りうっすらと血管の浮いた二つの乳房は僕の理性を粉砕するのに十分な一品だった。上半身だけなら本当に完璧な女性なのだこの化物は。

女が体をこちらに傾けて来た。角度が変わると同時に胸の双丘もたわんで揺れる。
「ほら、舌だしな・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・・・はぁ」
僕は言われるがままに舌を出しすぐそこの乳房の突起に吸いつく。

「ん…」

女が僅かにビクンッとなったが構わず嘗め続ける。
薄桃色の乳頭を丹念にねぶり乳房にも舌を這わす。
僕の局部は嫌という程浴びているだろう彼女の粘つく体液をここで初めて口にした。そして
ほんのりとした甘味があった事に驚きつつも酔うよう求めてしまう味であると気付く。

「っ…おい…そ…そんなに嘗めて…もし私の体液が毒だったらどうするんだ?」
女がそんな質問をしてきた。気のせいか頬が赤く色づいている。
「…毒…なんですか」
「ばか…本気にするな……多少催淫効果が有る程度だ…ち…おま…」

彼女が話している最中だったが僕は構わず片方の乳房に吸い付く。柔らかく甘い双丘が
目の前で震えた。女が見るからに感じているのだ。

「こら…やめ…ろ…ッあぁ…この…・ふぅ・・ん」

身をよじる女の体に懸命にしゃぶりつく。せめて、せめて男として一矢報いたい。
だが、僕のタ―ンはここまでだった。

「ちゅ…ぷは!?…なんだこれ」
下腹部にじん、とした温もりがあったかと思うと僕のモノがかつてない逞しさで身を起こしたのだ。はち切れんばかりの太さになった自らの局部に困惑する僕をしり目に、息を整えている彼女

その間にも、僕の竿は湯船の中でぴくぴくと震え半透明な汁を漏らしている。
やがて、調子をもどした女がそれを観察しながら喋り出す。
「だから…言ったろうが…私の体液は一種の神経毒の様なものだ。今あんたの精力は通常の倍以上だ。さらに感度も比例して上昇している………………さて」

数秒前のささやかな僕の反逆に対する彼女の答えが表情にあらわれていた。

「覚悟はいいか小僧…?」



キャンドルの灯も消えた浴室は窓から入る月の光のみで怪しく照らし出されていた。

チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ チャプ 

断続的な水音と女の笑い声と、僕の荒い息遣い。僕にしがみつくように両手を回した女は
月光に生えるほの白い素肌の肢体を艶やかにくねらせながら精を啜り取っている。

「ふふっ……まだまだ離さないからな」
僕の陰茎を包む蛞蝓の性器が這い回り、先端からあふれ出た汁を舐め取っていく。

「おっとそういえば…先っちょが弱かったっけか」
そう言うや否や、女の膣の奥へ奥へ飲み込まれていく局部。そして
また細い襞々が鈴口をくすぐり出す。

「う〜ん…?苦しそうにしてどうしたんだ…あぁ?」

限界だった。
尋常でない先走り汁を垂らしながら僕のモノは女の愛撫に耐えかねて射精した。
水の中からゴポッという音がしたかと思うと女の秘部から白濁色のものが漏れ浴槽内に広がった。
「はぁああん…ふふふふ」
満ち足りた相貌の女の顔を見上げながら僕は意識を失った。




どうやら、朝らしい。

見知らぬ天井ならぬ、見知った天井。
僕はあの日光の当たらぬアパートの自分の部屋に寝ていた。
節々が痛む、とりわけ下半身が重い。というか局部がひりひりする。何より、起き上がれない。

半端ない疲労感と共に昨日の出来事を振り返る。股間がじんわりと固くなる。
たぶん現実の出来事なのだろう。あまりに記憶がリアルだ。

昼過ぎまでそうして布団の上で大の字に成ったまま動かずにいて色々考えたお陰で冷静になれた。まずは今日は夜勤だ。どぉしよう?携帯もなくしたし貞操もなくした(笑)。

本当にどうしよう…?
あの化物を警察にでも公表すべきだろうか,一体誰が信じるというのか。
僕はやっとこさ身を起こした。

するとすぐ横のちゃぶ台の上には僕の携帯と一枚の紙切れ。

   色々悪かった。ケータイは返す
 
紙面にはそんな文句が女性特有の丸文字でしたためてあった。
何気なく紙をくしゃくしゃに丸める。
少し寂しい気がするのは僕が真性のドMだからだろうか?そうじゃない事を祈りたい。
「ん?」

丸めた紙屑に何か文字が見えた。広げて見てみると謝罪の文句の書かれた表紙の裏にもメッセージがあった。

   PS:鍵は貰っとく。腹が減ったら来るから宜しく


上京して引っ越しを考えたのはこれが初めてである。
そういう出会いだった。
11/10/24 10:00更新 / ピトフーイ

■作者メッセージ
後日談をいつか書きたいです

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